著者
尾仲 達史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.3, pp.170-173, 2005 (Released:2005-11-01)
参考文献数
24
被引用文献数
2 4

キャノンとセリエにより医学の世界にストレスという言葉が持ちこまれた.キャノンは,ストレス刺激に対応した多様な反応が生体におきることとこの反応に交感神経系-副腎髄質ホルモン分泌が必須であることを示した.セリエは,刺激によらず非特異的な反応が生体におきることとこの反応に視床下部-下垂体前葉ACTH-副腎皮質ホルモンが必須であることを示した.近年になり,「ストレス」が多くの疾患の少なくとも増悪因子となることが様々な疫学的な調査により示されるようになった.さらに,ストレス刺激によりある程度共通した神経系が活性化されることが明らかになりつつある.このストレス時に活性化される神経系の代表が,延髄ノルアドレナリン/PrRPニューロン系である.この延髄ノルアドレナリン/PrRPニューロン系は恐怖刺激,痛み刺激による反応に重要であることが示されている.一方,新奇環境曝露によるストレス反応,あるいは,モルヒネ禁断のような刺激は,延髄ノルアドレナリンニューロンに依存しないことも示されている.今後,どのストレス神経系を活性化させるかによりストレスの分類分けが行われていくと思われる.
著者
菊水 健史 茂木 一孝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.149, no.2, pp.66-71, 2017 (Released:2017-02-01)
参考文献数
30

動物,特にヒトを含む哺乳類における子の発達で最も特徴的な点は,発生初期を母親の胎内で過ごし,出生後においても哺乳行動を中心とした母子間のつながりが強いことである.この期間に子が母親から受ける様々な刺激は,身体発達に多大なる影響を与え,個体の内分泌系や行動様式に長期的な変化を引き起こす.ゆえに,哺乳類の発達期の社会環境は,個体の獲得するエピジェネティックな変化の解明において,最も重要な要素だといえる.このような発達期の社会的要素の一つとして,離乳が挙げられる.これまで離乳の早期化が,仔マウスの成長後の不安行動の増加,情動反応を変化させること,また早期に離乳された雌マウスでは,自分が母親になった際にも通常に離乳された雌マウスに比べ,排泄を促すためや母乳を飲むよう促すための仔をなめる行動の時間が短くなることが明らかとなった.そこで本稿では,早期離乳による情動行動の変化に加え,その神経機能の変化に関し,特に前頭葉に注目した最近の知見を紹介する.C57BL/6マウスを用い,生後15日で親から離乳する早期離乳を施し,成長後に高架式十字迷路試験による不安行動評価,恐怖条件付け試験による恐怖記憶の消去抵抗性評価を行った.そして,前頭葉における脳由来神経栄養因子(BDNF)タンパク質発現測定,各プロモーター由来BDNF mRNA発現量測定を行い,その背景となる分子メカニズム同定を試みた.その結果,恐怖条件付けを受けた早期離乳マウスでは消去学習過程における消去の抵抗性が増加し,前頭葉のBDNF III mRNA及びBDNFタンパク質が低下した.さらに,これらの間には負の相関もみられたことから,早期離乳による恐怖記憶の消去抵抗性には,前頭葉におけるBDNF III mRNAの発現低下を介したBDNF作用の減弱が関わっていることが予想された.これらの知見は,幼少期の早期の母子分離が永続的な前頭葉のBDNFを介した機能不全を導くことを示唆し,早期離乳マウスがヒトにおける前頭葉の機能不全のモデルとなる可能性を示した.
著者
舛屋 圭一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.148, no.6, pp.322-328, 2016 (Released:2016-12-01)
参考文献数
15
被引用文献数
3

現在,臨床現場で使用されている薬剤は主に低分子と抗体医薬品であり,ペプチド医薬品(古典的ペプチド医薬品)はインスリンやリュープロレリンなど極めて限られた数の薬剤しか使用されていない.その理由は,主に古典的ペプチド医薬品には弱点が多く,創薬研究のツールとしては有用なものの,創薬研究開発の最前線では敬遠されてきた歴史がある.しかし,昨今の低分子医薬品創製の行き詰まり感と抗体医薬品におけるターゲット枯渇や経済合理性の問題を背景に,中分子医薬品として特殊環状ペプチドが脚光を浴び始めている.その主な理由は,①ペプチド一つ一つを化学合成しなくても生物学的評価を行えるシステム(in vitro selection)が確立された,②非天然型のアミノ酸を組み込んだ〝特殊ペプチド〟が容易に調製でき,低分子・抗体医薬品の長所を併せ持たせることが可能となった,からである.本稿では,特殊環状ペプチドがどのように創薬研究開発全体に貢献できるかを論じる.
著者
大原 常晴 廣内 雅明 岡 美智子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.1, pp.34-41, 2014 (Released:2014-07-10)
参考文献数
30

レグテクト®錠333 mg(有効成分:アカンプロサートカルシウム)は,「アルコール依存症患者における断酒維持の補助」の効能・効果,「通常,成人にはアカンプロサートカルシウムとして666 mg を1 日3 回食後に経口投与する.」を用法・用量として2013 年3月に承認された.アカンプロサートカルシウムは,ラットのアルコール(エタノール)自発摂取ならびにエタノール離脱効果を抑制した.さらに,エタノールへの条件づけ場所嗜好性(CPP)を獲得したマウスに対し,本薬はエタノールCPP の発現を用量依存的に抑制した.また,エタノールの持続曝露によりグルタミン酸作動性神経活動が亢進したラット大脳皮質初代培養神経細胞では,グルタミン酸刺激による細胞障害が増悪した.本薬はこの作用を顕著に抑制し,エタノール依存で生じた過剰なグルタミン酸作動性神経活動を低下させることでエタノールへの渇望を抑え,自発摂取やCPP 発現の抑制につながると考えられた.一方,国内第Ⅲ相臨床試験ではアルコール依存症患者を対象にプラセボを対照としたランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施した.アルコール依存症の治療目標は断酒であり,主要評価項目である治験薬投与期間中の完全断酒率は本剤群47.2%(77/163 例)およびプラセボ群36.0%(59/164 例)であり,本剤群が有意に高かった(P=0.0388,χ2 検定).本剤群のプラセボ群に対する完全断酒率の差(95%信頼区間)は11.3%(0.6~21.9%)であった.投与期間中の有害事象発現率は本剤群77.9%(127/163 例)およびプラセボ群68.3%(112/164 例)であり,本剤群の方が高かった(P=0.0498,χ2 検定).死亡およびその他の重篤な有害事象は,すべて治験薬との因果関係は否定された.因果関係が否定できない有害事象(副作用)発現率は本剤群17.2%(28/163 例)およびプラセボ群13.4%(22/164 例)であり,両群間に有意な差は認められなかった(P=0.3444,χ2 検定).投与期間中に認められた有害事象および副作用はほとんどが軽度または中等度であった.最も発現率が高かった副作用は下痢であり,本剤群12.9%(21/163 例)およびプラセボ群4.9%(8/164 例)であった.下痢は無処置または整腸剤等の投与で回復可能であり,本剤に重大な安全性所見は認められなかった.さらに,本剤による薬物依存性は認められなかった.以上より,アルコール依存症の断酒治療において心理社会的治療に加えて本剤を使用することで断酒維持効果が高まり,一人でも多くの患者がアルコール依存症からの回復につながることが望まれる.
著者
橋本 聡子 本間 さと 本間 研一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.6, pp.400-403, 2007 (Released:2007-06-14)
参考文献数
12
被引用文献数
1 4

睡眠に関する悩みを持つ人の割合は,日本においても増加の一途である.体内時計は,自然な睡眠を駆動しており,体温やホルモン分泌と同様,サーカディアンリズムを示す.このリズムの中枢時計は視交叉上核にあり,24時間/1日に同調するためには光が最も重要な因子であることが知られている.睡眠覚醒リズムに関連した振動体仮説には,2振動体仮説と2プロセス仮説が上げられ,同調機序が異なる.近年,哺乳類において,サーカディアンリズムに関する時計遺伝子の研究が進んでおり,ヒトにおいても睡眠相前進症候群にこの関与が示唆されている.
著者
杉本 忠則
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.6, pp.287-293, 2014 (Released:2014-12-10)
参考文献数
16

Wavelet 解析は比較的新しい解析手法であり,時間周波数解析ができる.これまで,時間周波数解析の手法としてはFourier 解析が知られていたが,解析結果に時間情報が含まれないことより研究者にとって満足できる解析結果とはならないことが多かった.一方,wavelet 解析では,解析結果に時間情報が含まれるため,特定の時点での周波数情報を知ることができる.それゆえ,現在wavelet 解析は幅広い分野で利用されている.しかし,薬理学で紹介される機会が少なかったため,詳しくない研究者も多いと思われる.本論文では,wavelet 解析の簡単な理論説明を行い,いくつかの簡単な時間連続データにおけるFourier 解析とwavelet 解析との解析結果の比較を行うことにより,wavelet 解析を理解して頂くことにした.また,実際の薬理データ(ラットの脳波)に対し,Fourier 解析とwavelet 解析とを実施した.Fourier 解析ではデータを分割解析することにより途中で起きるパターン変化が検出できたが,その分割が最適かどうかの疑問が残った.一方,wavelet 解析ではデータ分割することなく解析でき,より細かな変化も検出可能な解析結果が得られた.その中には研究者が求めたい情報が含まれていることより,wavelet 解析が生体の状態を解明する上での強力な手段となりうることが示された.このようにwavelet解析はFourier解析に比べ優れた解析手法である.しかし,Fourier 解析が不要と言うわけではない.解析対象となるデータの性質や着目点によってはwavelet解析よりもFourier解析の方が適切な場合もあるので,解析目的によりwavelet 解析とFourier 解析とを適切に使い分けて欲しい.
著者
小川 真実 森貞 亜紀子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.120, no.6, pp.398-408, 2002 (Released:2003-01-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

リバビリン(レベトール®)はC型慢性肝炎の治療にインターフェロンα-2b(IFNα-2b)と併用して使用される抗ウイルス薬である.本薬は主にRNAウイルスに対して幅広い抗ウイルス作用を示すことが報告されており,C型肝炎ウイルス(HCV)の代替ウイルスとしてウシウイルス性下痢症ウイルスを用いた感染細胞系において,IFNα-2bと併用することにより増強作用が認められた.本薬の作用機序として,宿主のイノシン一リン酸脱水素酵素の阻害作用,RNAウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)の阻害作用等が報告されていた.最近,リバビリンがHCVと同じRNAウイルスであるポリオウイルスのRdRpによりRNAに取り込まれ,新生RNAの鋳型となり,突然変異を誘導することが明らかにされた.更に,リバビリンにより誘導される突然変異のわずかな増加により,ウイルスの感染能が激減することが証明された.このRNAウイルスに対する変異原としての作用は本薬の新規機序であり,本薬は新しいクラスの抗ウイルス薬として分類されるものと考えられる.
著者
金子 恵美 和田 智之 南川 洋子 井上 優
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.4, pp.177-182, 2012 (Released:2012-10-10)
参考文献数
34
被引用文献数
3 4

アイファガン®点眼液0.1%(AIPHAGAN®)は,アドレナリンα2受容体作動薬であるブリモニジン酒石酸塩を主成分とした新規の緑内障・高眼圧症治療薬である.その眼圧下降効果は,房水産生の抑制およびぶどう膜強膜流出路を介した房水流出の促進という2つの機序に基づくと考えられている.このことからアイファガン®点眼液0.1%は,房水産生を抑制するアドレナリンβ受容体遮断薬(β遮断薬)や房水流出を促進するプロスタグランジン関連薬(PG関連薬)等との併用効果も期待できる.第III相臨床試験では,原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症患者でPG関連薬の併用におけるさらなる眼圧下降効果が,また52週間の長期投与試験でも安定した眼圧下降効果が示されている.承認時までに実施した臨床試験における副作用は,総症例444例中122例(27.5%)であった.主な副作用は結膜炎(アレルギー性結膜炎を含む)38例(8.6%),点状角膜炎30例(6.8%),眼瞼炎(アレルギー性眼瞼炎を含む)20例(4.5%)および結膜充血17例(3.8%)であった.なお,本剤では点眼剤の保存剤として本邦で初めて亜塩素酸ナトリウムを使用している.
著者
山田 久陽 池田 明子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.2, pp.73-77, 2009 (Released:2009-02-13)
参考文献数
30
被引用文献数
1 3

男性型脱毛症(Androgenetic alopecia, AGA)は,遺伝的背景および男性ホルモンによって主に男性に生ずる病態で,頭頂部や前頭部の毛髪が細く短くなり,外観上,薄毛と認識されるようになる.AGAは生死に関わる疾患ではないが,薄毛に悩むヒトは多く,AGA治療薬の開発に注目が集まっている.AGA治療薬開発のターゲットとしては,STAT3,BMP,WNTおよびSHHなど毛周期の休止期から成長期への移行,すなわち発毛促進作用に関係する分子と,男性ホルモン受容体およびTGF-βなど,短縮した成長期を本来の長さに戻し,太い毛を育てる作用に関係する分子が考えられる.治療効果を有する化合物は,in vitroの系で毛乳頭,毛包上皮あるいはそれらの共存培養系,毛包の器官培養によりスクリーニング可能である.in vivoではマウスで休止期から成長期への誘導あるいは成長期の延長が評価でき,ヒトに酷似したAGAの病態を発症するベニガオザルを用いた評価も行われる.
著者
石井 直人 脇田 久嗣 宮崎 和城 高瀬 保孝 浅野 修 草野 一富 白戸 学
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.4, pp.154-159, 2014 (Released:2014-10-10)
参考文献数
16

日本皮膚科学会によるとアトピー性皮膚炎(AD)の定義は「増悪と寛解を繰り返す,痒みを伴う湿疹を主病変とする慢性に経過する疾患」とされており,今なお患者数が増大する傾向にある.AD では重度な痒みを伴うことが特徴であり,既存薬では十分な痒み抑制作用が得られているとは言えず,痒みのコントロールが治療の課題の一つと考えられている.そこで改めてAD 病態を振り返り,治療薬開発の現状を纏めた.その中でphosphodiesterase 4(PDE4)阻害薬に注目し,E6005 を題材としてPDE4 阻害薬のAD 適応を目指した取り組みを紹介する.E6005 は無細胞 PDE 活性測定系において選択的なPDE4 阻害作用を示し,ヒト末梢血リンパ球・単球からのサイトカイン産生を抑制したことから,PDE4 阻害に基づくE6005 の抗炎症作用を確認できた.ハプテン誘発接触皮膚炎型マウスモデルにおいて,E6005 を連続塗布すると有意な皮膚炎抑制効果が得られ,かつ皮疹部におけるサイトカイン・接着分子の発現抑制効果が認められた.さらにAD マウスモデルであるNC/Nga マウスに E6005 を連続塗布するとAD 様皮膚炎抑制効果が得られたほか,単回塗布による即時的な掻破行動抑制効果も認められた.PDE4 阻害作用に基づく嘔吐誘発に関してキシラジン・ケタミン麻酔覚醒モデルを用いて検討したところ,E6005 は第一世代PDE4 阻害薬シロミラストと比較して嘔吐誘発性が低いことが分かり,治療濃度域の広さが認められた.E6005 は血液中で速やかに代謝され,中枢神経系への分布が非常に少ないこ とから嘔吐誘発性の低下に繋がった可能性がある.これらの結果より,E6005 は全身的暴露を最小限に抑えた局所投与型薬剤として,抗炎症作用のみならず痒み抑制作用を併せ持つアトピー性皮膚炎治療薬として期待される.
著者
斉藤 貴志 西道 隆臣
出版者
(公社)日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.5, pp.250-252, 2014 (Released:2014-11-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1
著者
相原 一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.4, pp.129-133, 2010 (Released:2010-04-13)
参考文献数
32

緑内障は特徴的な視神経乳頭障害とそれに伴う視野障害を有する慢性進行性視神経症であり,緑内障性視神経症と捉えられ,その原因は多因子性である.その中で眼圧が最大の危険因子であり,また唯一の治療方法が眼圧下降治療である.眼圧下降治療薬は大きく,房水産生抑制と房水流出促進をターゲットとする薬剤に分かれている.房水産生抑制薬は交感神経β遮断薬,α2刺激薬,および非選択性交感神経刺激薬,また,炭酸脱水酵素阻害薬が存在する.房水流出促進薬としては主としてプロスタグランジン(PG)関連薬があり,その他にはα1遮断薬,副交感神経刺激薬が存在する.PG関連薬は世界的に5種類存在するがそのうちプロスト系と呼ばれる4種類が強力な眼圧下降効果を持ち,1日1回点眼であること,副作用が局所であること,β遮断薬と異なり昼夜の日内変動に関係なく一定の眼圧下降効果を有すること,高いアドヒアランスが期待できることから,第一選択薬となっている.また,点眼薬という特殊な剤型と眼表面からの特殊な眼内薬物移行,ならびに特に緑内障に特徴的な長期にわたる点眼治療を必要とする点から,緑内障治療薬は主剤の特徴のみならず,製剤そのもの,また基剤の防腐剤などの添加剤の眼表面への影響に留意して開発,処方が行われている.また今後上市予定の合剤,将来的には眼圧下降以外の緑内障治療手段として注目されている神経保護薬の開発も待たれる.
著者
生方 公子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.5, pp.287-289, 2013 (Released:2013-05-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2
著者
荒木 栄一 近藤 龍也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.3, pp.120-124, 2005 (Released:2005-04-26)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

インスリンは生体において代謝調節を司る代表的なホルモンである.肝臓や筋肉などインスリンの主要な標的臓器において,インスリンシグナルは分子レベルで解明されつつある.一方,中枢におけるインスリン作用に関しては不明な点が多い.食欲を制御する視床下部において,インスリン,レプチンはともに食欲を抑制する.両ホルモンの刺激によって,視床下部においてPIP3が誘導される細胞群が存在し,このような細胞ではインスリン受容体の基質であるIRS-2も発現している.神経細胞特異的にインスリン受容体を欠損したマウスの視床下部では,インスリンによるPIP3の誘導が著明に減弱していたが,レプチン刺激ではPIP3の誘導は正常に認められた.2型糖尿病では食欲の亢進が認められる事が多く,これは中枢におけるインスリン抵抗性が関与する可能性がある.このような中枢におけるインスリン抵抗性に対して,レプチンの有効性が示唆される.
著者
川畑 篤史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.121, no.6, pp.411-420, 2003 (Released:2003-05-29)
参考文献数
85
被引用文献数
3 7

Protease-activated receptor(PAR)は特定のプロテアーゼによって特異的に活性化される三量体Gタンパクと共役した7回膜貫通型受容体である.現在までにクローニングされている4つのPARファミリーメンバーのうち,トリプシン,トリプターゼ,血液凝固第VIIa,Xa因子などによって活性化されるPAR-2(protease-activated receptor-2)は生体内に広く分布し,種々の機能の制御に関与している.消化器系では,PAR-2は胃粘膜保護,平滑筋運動制御,唾液腺および膵外分泌,腸におけるイオン輸送などに関与している.循環器系では,PAR-2は血管内皮に存在し,その活性化によりNOあるいは血管内皮由来過分極因子を介する弛緩反応を誘起し,血圧を低下させる.呼吸器系では,PAR-2は抗炎症的な面と炎症促進的な面を併せ持つようである.神経系では,PAR-2は特にカプサイシン感受性一次知覚神経に存在し痛みの情報伝達に関与している.このようにPAR-2は生体内において非常に多様な機能を有しており,創薬研究のための標的分子として注目されている.
著者
上野 太郎 粂 和彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.6, pp.408-412, 2007 (Released:2007-06-14)
参考文献数
18

睡眠は動物界において広く観察される生理現象であり,睡眠覚醒制御は概日周期の出力系として最も重要なものの一つである.従来,睡眠が体内時計に制御されていること,および体内時計の遺伝子は哺乳類と昆虫間で保存されていることが示されていた.ショウジョウバエは1日のうち,約70%の時間をじっと動かない状態で過ごす.また,この静止状態は行動学上,哺乳類の睡眠に特徴的な様々な側面を併せもつことより,ショウジョウバエに睡眠類似行動が存在するということが示されている.ショウジョウバエはその生物学的特徴により,遺伝学的解析に広く用いられており,ショウジョウバエにおける睡眠類似行動の発見は,睡眠の分子生物学を推進する要因となった.ショウジョウバエを用いた睡眠の遺伝学的解析により,睡眠時間を規定する遺伝子が同定され,また睡眠を調節する脳内構造についても研究が進んでいる.本稿では,ショウジョウバエを用いた睡眠の分子生物学的研究について概観する.
著者
浜田 知久馬 赤澤 理緒 西沢 友恵
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.6, pp.306-310, 2009 (Released:2009-06-12)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

浜田等は薬効・薬理試験でよく用いられる統計手法の現状分析を行なうため,日米欧の代表的な薬理学雑誌について,1996年公表された論文について使用されている統計手法の文献調査を行い,統計手法の不適切な使用・記載の典型例を指摘した.この調査から,10年が経過したので,最近の薬効・薬理試験の統計解析法の動向を調べるため,Journal of Pharmacological Sciencesについて再度,文献調査を行い,1996年の調査結果と比較して,この10年間の統計解析法の変遷について評価した.また,統計手法の記述内容の適切性を評価した.このジャーナルのHPでPDFファイル化されている電子ジャーナルから,統計解析(Statistical Analysis)の節に記載されている統計解析の手法を抽出し,集計した.調査対象の論文数は(1996年1月~12月,134報),(2002年1月~12月,148報),(2007年1月~12月,133報)となった.結果は次のようになった.1)Student t test(t検定)の使用の割合が減少し,ANOVA(分散分析)の使用の割合が増加した.2)多重比較法では,Dunnett法が減りTukey法,Bonferroni法が増加した.3)Scheffe法,Newman-Keuls法,Fisher(P)LSD法,Duncan法の不適切な多重比較法も依然として用いられていた.4)検定の両側・片側の区別,ソフトウエアについては記載されていない場合が多かった.本論文では,以上の結果から,薬理学雑誌の統計の質を高め,適正化するための方法について考察し,提言を行う.
著者
高安 義行 塚本 哲治
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.5, pp.303-309, 2016 (Released:2016-05-13)
参考文献数
8

バイオ後続品(バイオシミラー)は,品質,安全性および有効性について,先行バイオ医薬品との比較から得られた「同等性/同質性」を示すデータ等に基づき開発される.国内では既に7剤のバイオ後続品が販売されており,バイオ後続品の開発や承認申請に関する企業側の経験も蓄積されてきている.高額な先行バイオ医薬品に比べ,薬価が低く設定されるバイオ後続品は,高騰する国民医療費の抑制策として,また,患者の医療費負担軽減策として大いに期待されており,今後,大型バイオ医薬品の特許が次々と満了することも相まって,この分野の開発競争は激化するものと予想される.一方,医療の現場におけるバイオ後続品の認知度は依然として低く,十分にその価値が発揮されるためには,国の政策に加え,開発・販売する企業がバイオ後続品に関する正しい情報を発信し,医療機関や患者と共有してくことが重要である.
著者
中林 哲夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.4, pp.185-190, 2015 (Released:2015-12-10)
参考文献数
26

精神神経領域の医薬品開発は,国際的にも活発である.これまでのうつ病治療薬の開発は,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)等が中心であり,これらは今日の標準治療薬に位置づけられている.現在,数多くのうつ病治療薬が使用可能となっているが,うつ病治療の臨床的課題(unmet medical needs)は,複数の抗うつ薬による治療を試みても十分な効果が得られない患者が一定数存在することである.このため,近年のうつ病治療薬の臨床開発では,既存治療薬で効果不十分な患者を対象とした第2選択薬の開発が増加し,そして新規性の高い作用機序を有する化合物の開発が行われている.現在,臨床開発の段階にある化合物には,アミノ酸関連,神経ペプチド類関連の作用機序を有するものがあり,うつ病のモノアミン仮説を超える化合物が開発対象となっている.精神神経領域の医薬品開発を目的とした臨床試験の基本デザインはプラセボ対照比較試験であるが,臨床試験の成功割合は高くはなく,プラセボに対する優越性を示すことも容易ではない.近年は,臨床試験におけるプラセボ反応性が増加傾向にあり,その要因についても検討が進められている.これらの有効性評価に影響を及ぼす要因を特定し,より適切な臨床評価方法を検討していくことは重要であり,精神神経領域におけるレギュラトリーサイエンスの課題と考える.