著者
藤尾 耕三 眞井 佳子 石井 真澄 桃谷 直美 藤井 正司 椎木 和子 高須 伸治
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.359-365, 2014 (Released:2014-06-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

血液透析患者では, 栄養障害が予後を悪化させるため, 栄養状態を評価して積極的に治療介入することが勧められている. Mini nutritional assessment short form (MNA-SF) による栄養障害スクリーニングの有用性を検討するために, 65歳以上の維持血液透析患者82人をMNA-SF, malnutrition-inflammation score (MIS), geriatric nutritional risk index (GNRI) で評価し, 2年後までの全死亡を前向きに調査した. MNA-SFのスコアはMISやGNRIと有意に相関し (ρ=−0.660, p<0.001, ρ=0.482, p<0.001), MNA-SF, MIS, GNRIにより, それぞれ55%, 59%, 35%が栄養リスク群に抽出された. 2年間で14人が死亡し, 栄養リスク群の相対危険度はそれぞれ10.7, 2.6, 4.6であり, MNA-SFとGNRIの栄養リスク群が有意 (p=0.002, p=0.004) に死亡と関連した. Receiver operating characteristic解析では, MNA-SFのスコア, MIS, GNRIのいずれも有意に死亡と関連したが, MNA-SFのarea under the curveが最大 (0.829, 95% confidence interval 0.723-0.935) であった. ロジスティック解析で, MNA-SFは食事量 (p=0.048) と神経・精神的問題 (p=0.005) が, MISは食事量 (p=0.033) と身体機能 (p=0.035) が有意に死亡と関連した. 高齢者向けに開発され, ベッドサイドで実施できるMNA-SFは, 高齢血液透析患者において, 予後と関連した栄養障害スクリーニング法であると考えられた.
著者
佐々木 修 釘宮 敏定 田所 正人 田浦 幸一 新里 健 草場 照代 松隈 玄一郎 船越 衛一 河野 茂 原田 孝司 宮崎 正信 宮原 嘉之 大園 恵幸 錦戸 雅春 松屋 福蔵 齊藤 泰 高木 正剛
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.37-43, 1998
被引用文献数
1

近年, 透析患者の増加に伴い, 動脈硬化性疾患の合併は大きな問題となっている. 腹部大動脈瘤 (abdominal aortic aneurysm, AAA) や閉塞性動脈硬化症 (arteriosclerosis obliterans, ASO) は, その治療として外科手術を要することがあり, 透析患者の生命予後, quality of lifeの観点からも重要な疾患である. 今回我々は, 当院における透析患者のAAA4例およびASO3例の血行再建術症例の臨床的検討を行った.<br>AAAの症例は年齢45-61歳で, 全例高血圧を伴い, 透析導入後6か月-6年であった. 2症例が腹痛ないし背部痛を訴えたが, 2症例は腹部腫瘤触知が発見の契機であった. 4例ともinfrarenal typeで, 3例にY graft, 1例にstraight graft置換を施行し, 全例とも予後は良好である.<br>3例のASOは年齢51-67歳で, 2例で高血圧を伴い, 発症は透析導入後5年4か月-19年3か月とAAAに比し長期間の症例が多かった. いずれの症例も, 下肢痛・間歇性跛行・足趾壊死などの症状, 所見を認めた. 2例は左側のiliac~popliteal arteryの閉塞で, 自己大伏在静脈によるfemoro-popliteal bypass術を施行, 他の1例は右側のcommon~external iliac arteryの閉塞で, femoro-femoral cross over bypass術を2回施行した. 術後1例は予後良好であるが, 2例はASO以外の死因で死亡した.<br>近年, 手術手技の向上および周術期の透析管理の進歩により, 透析患者に対し安全に手術が施行し得るようになってきたが, ASOの症例は, 必ずしも予後が良好でない場合もあり, 治療法選択, 手術時期に対するさらなる検討が必要と思われた.
著者
鎌野 千佐子 大沢 弘和 橋本 和政 坂田 紗弥子 山本 美生 吉田 秀光 齋藤 サビーネ 京子 木嶋 祥一郎 柏木 哲也 飯野 靖彦 片山 泰朗
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.8, pp.573-580, 2009-08-28 (Released:2009-10-06)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

血液透析(hemodialysis;HD)で血液がダイアライザーと接触すると補体,凝固・線溶系,血小板,白血球,サイトカインなどの活性化がおこる.このため血小板や白血球はHD開始直後に低値を示し,HD終了後にほぼ前値へ回復するとされている.われわれは,当院入院中の維持HD患者でダイアライザーが原因と考えられる血小板数の低下を認めた2症例を経験した.いずれの症例も,発症時にFPX®(polysulfone membrane;PS膜)を使用していた.血小板数はHD終了ごとに減少していたためダイアライザーを変更すると,HD後に血小板が減少することはなくなり,血小板数は回復した.経過および検査結果よりdisseminated intravascular coagulation(DIC)は否定した.1症例目は抗凝固剤heparinの投与は一切なく,2症例目ではheparinを中止することなくダイアライザーの変更のみで血小板数が回復したことからheparin induced thrombocytopenia(HIT)は否定した.薬剤歴および骨髄所見から薬剤性骨髄抑制も否定的であった.患者の状態が安定したところで,インフォームドコンセント(informed consent;IC)を得て再度FPX®を使用したところ,HD後に血小板数は著明に低下した.Heparinの投与量に関してはactivation coagulating time(ACT)を用いて評価を行った.FPX®は,生体適合性が比較的高いと考えられている.しかし,2症例ともFPX®使用開始後に血小板減少を認めており,血小板数はHD後に減少する傾向がみられ,ダイアライザーの変更のみで血小板数が前値へ回復した.またFPX®を再使用した際HD後の血小板数が半減した.このため血小板数の減少にはFPX®の関与が示唆された.
著者
江口 圭 池辺 宗三人 金野 好恵 山田 祐史 金子 岩和 峰島 三千男 秋葉 隆
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.9, pp.769-774, 2007-09-28 (Released:2008-11-07)
参考文献数
10
被引用文献数
5 7

透析効率の飛躍的な向上の背景には, 高性能透析器やHDFフィルタなどのデバイスの開発ならびにその性能を引き出すための治療モード, 治療条件の考案をあげることができる. しかし, 個々の患者に対する適正な溶質除去を考えた場合, その対象となる患者体内環境の影響も重要な因子の一つと考えられる. 限られた透析時間の中で行われる除水操作は, しばしば血圧低下や筋痙攣をもたらし, 末梢循環不全の状態を作り出すことになる. 今回われわれは, 間歇的な補液を繰り返すことによって, 一時的に末梢循環を改善し, (1) 血液分配の是正, (2) 体液の撹拌, (3) 溶質の洗い出し効果促進による除去効率の向上を目的とした新しいHDF療法 (間歇補液HDF : intermittent infusion hemodiafiltration, I-HDF) を考案した. 通常のボトルタイプHDFは置換補充液を静脈側血液回路部から連続注入するが, I-HDFでは間歇的な補液操作 (3~4回/hr, 一回400~600mLの急速補液) を行い, 患者の循環血液量を約5%の範囲で振幅させた. 対象は維持透析患者7例にI-HDFと従来のHDFをクロスオーバーで施行し, 各溶質のクリアスペースを比較した. この際, 置換補充液は各セッションで同量とした. 結果はクリアスペースが増加する群と不変な群の2群に分れた. 皮膚表面の微小循環を評価できるレーザー血流計により, 間歇補液後の末梢循環の改善が得られた4例を再評価すると, クリアスペースにおいてI-HDFの方が高値を示し, 特にクレアチニン, 尿酸, β2-MGで有意な差が認められた. この4例はいずれも安定した維持透析患者であったが, 間歇補液の効果が認められなかった3例は, (1) 高齢者 (74歳), (2) 閉塞性動脈硬化症合併, (3) 僧帽弁閉鎖不全合併の症例であった. ゆえに種々の患者背景が間歇補液の効果に相違をもたらすものと考察した. 今後, 従来からの外部デバイスに依存した溶質除去の手法に加えて, 患者の末梢循環を視野に入れた治療法を考案する必要がある.
著者
峰島 三千男 江口 圭 宍戸 寛治 高橋 進 久保 司 川口 洋 蔀 幸三 柴垣 圭吾 須賀 喜一 長尾 尋智 高田 幹彦 田岡 正宏 佐藤 隆
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.351-360, 2015 (Released:2015-06-30)
参考文献数
7
被引用文献数
1

透析中の末梢循環障害是正や急激な血圧低下防止を目的に間歇補充型血液透析濾過 (intermittent infusion hemodiafiltration : I-HDF) が考案された. 今回われわれは逆濾過透析液を用いたI-HDFの臨床効果を前希釈法On-line HDF (以下Pre-HDF) と比較するため, 前向き多施設共同臨床研究を実施した. 文書にて同意が得られた患者を同一施設内で2群に割付けし, 並行群間比較を行った. その際, ① 年齢 (±5歳), ② 基礎体重 (±5kg), ③ 糖尿病の有無をマッチングさせ, 36例 (18ペア) を対象とし臨床症状, QOL, 溶質除去などの観点から検証した. その結果, 臨床症状, QOLにおいて両群に有意差は認められなかった. 血液透析からの変更後, I-HDF群, Pre-HDF群とも治療が継続するにつれて収縮期血圧減少率の低下, 処置発生率低下傾向がみられた. また, I-HDFはPre-HDFに比べ中・大分子溶質の除去には劣るもののアルブミン漏出量の少ない溶質除去特性が確認された.
著者
柴田 昌典 太田 匡宣 青木 隆成 多和田 英夫 谷口 信吉
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.589-594, 2007-07-28 (Released:2008-11-07)
参考文献数
18

維持透析患者100名 (慢性腎炎55名, 糖尿病性腎症45名) と対照患者137名の皮膚の色調をコニカミノルタ社製の分光測色計CR-400®で定量的に測定した. 透析患者では有意に皮膚の明度が低く (p<0.01), この低下と年齢とは相関がなかったが, 維持透析の継続期間の長さとは有意の相関がみられた (p<0.01). 糖尿病性腎症による患者にくらべ, 慢性腎炎の患者の皮膚の明度は有意に低かった (p=0.0005). 維持透析患者にみられる皮膚の色素沈着が糖尿病性腎症患者では軽度である理由は不明であるが, インスリンがMSH代謝へ及ぼす影響の可能性につき述べた.
著者
永野 伸郎 安藤 哲郎 筒井 貴朗 溜井 紀子 伊藤 恭子 下村 洋之助 小川 哲也 安藤 義孝
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.519-533, 2013-06-28 (Released:2013-07-09)
参考文献数
90
被引用文献数
1

二次性副甲状腺機能亢進症(2HPT)の発症機序は,“腎機能が低下すると副甲状腺ホルモン(PTH)分泌が亢進し,尿中リン(P)排泄が増加することで高P血症の発症が回避されるものの,代謝性骨疾患の対価を支払う”とするtrade-off仮説で説明される.慢性腎不全ラットへのP吸着剤投与は,副甲状腺機能を低下させるとともに,骨の劣化も改善するため,改めてPの蓄積が2HPTの発症と病態の根幹をなすことが理解できる.また,透析患者へのシナカルセト塩酸塩(シナカルセト)投与により,PTH低下に付随して骨からのP動員が低下するため,血中Pは低下する.一方,保存期慢性腎臓病患者へのシナカルセト投与は,PTHの尿中P排泄促進作用を解除するため,血中Pを上昇させるとともに,著明な低カルシウム(Ca)血症をもたらす.すなわち,PTHは血中P上昇およびCa低下に抑制的に働いていることが確認できる.さらには,腎不全ラットへのfibroblast growth factor-23(FGF23)に対する中和抗体投与により,血中P,Ca,1,25(OH)2 vitamin D3[1,25(OH)2D3]の上昇ならびにPTH低下が認められる.すなわち,FGF23はPTHとともに尿中P排泄を促進させることで,腎不全末期まで血中Pを正常域に維持すると同時に,1,25(OH)2D3産生低下を介して,PTH分泌に対し促進的に作用していると考えられる.一方,腎不全ラットへFGF23中和抗体を長期投与した場合,骨組織改善が認められるものの,血管石灰化が促進し死亡数が増加する.したがって,腎機能低下時に上昇するFGF23は,代謝性骨疾患の対価を支払い,血管石灰化を抑制しているものと考えられる.これらに加えて,副甲状腺におけるCa受容体,1,25(OH)2D3受容体,FGF23受容体の発現低下や腎でのα-klotho発現低下も2HPTの発症・進展に寄与していると推定される.
著者
熊谷 悦子 古町 和弘 宮田 智孔 佐中 孜
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.225-231, 2016 (Released:2016-03-28)
参考文献数
28

【目的】 腎不全用必須アミノ酸製剤内服のアミノグラムと栄養指標の改善効果を検討. 【対象】 透析歴1年以上で, 3.0g/dL≦血清アルブミン<3.8g/dL, 摂取熱量25kcal/kg/day以上の34例. 肝機能障害, CRP≧2.0mg/dL, 透析前HCO3− 16mEq/L以下, HbA1c 6.5%以上, BMI 18未満は除外. 【方法】 投与前, 投与後1, 2, 3か月後の血液検査, 投与前と投与3か月後にアミノ酸分析を施行. 【結果】 非必須アミノ酸 (NEAA) は有意に低下, EAA/NEAAは有意に上昇. 分岐鎖アミノ酸/総アミノ酸は有意に上昇. 腎不全用必須アミノ酸製剤は有意に低下, 必須アミノ酸と非必須アミノ酸の比, アミノ酸総量に占める分岐鎖アミノ酸は有意に上昇した. 血清アルブミン<3.5g/dLの群でアルブミン値の上昇傾向がみられた. 【結論】 EAAの内服は透析患者のアミノグラムと栄養状態の改善に寄与する可能性が示唆された.
著者
三瀬 直文 清水 英樹 西 隆博 興野 寛幸 正木 一伸 西尾 恭介 出川 寿一 多川 斉 杉本 徳一郎
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.65-70, 2004-01-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
31
被引用文献数
3

セリン蛋白分解酵素阻害薬であるメシル酸ナファモスタット (NM) は, 出血性病変または出血傾向を有する血液透析患老の抗凝固薬として多用されている. われわれは, 1999年から2002年の間に経験したNMに対する重篤なアレルギー症状を呈した11例と, 過去の報告例を検討して, NMアレルギーの特徴を分析した.症例は65±6歳 (55歳-76歳) の男性6例, 女性5例, 透析期間は8±6年 (0年-23年) であった. 透析導入の原疾患, 透析膜にも一定の傾向はなかった. 他方, 全例にNMの投与歴があり, さらに10例 (91%) に他の薬剤に対するアレルギー歴が認められた. アレルギー症状は, ショックが4例, 発熱が4例 (1例は喘息様症状を伴う), 全身皮疹が3例であった. ショックは透析開始後15分以内に発現したが, 発熱の出現時間は透析中から透析終了6時間後までと一定しなかった. 全例とも, NMの中止にて症状が消失した. いずれも他の抗凝固薬を投与した血液透析時には, 過敏症状を示さなかった. 臨床検査値では, 好酸球増多が測定された8例中6例で認められたが, 血清抗NM抗体測定検査は3例中2例で陰性であった.過去のNMに対するアレルギー報告例においても, 透析期間, 透析導入の原疾患, 透析膜にも一定の傾向は認めていない. また, ほとんどの症例が再投与時にアレルギー反応を発現しており, 初回投与例はまれであった.NMに対するアレルギー反応は, 過去に投与歴のあるものが多く, 薬剤に感作された症例が再投与時に過敏症状を呈すると考えられる. アレルギー反応の発症を確実に予期する方法はなく, 抗凝固薬としてNMを投与する場合, 特に再投与時は, たゆまぬ注意が求められる.
著者
菅沼 信也 阿部 達弥 西澤 喬光 正木 一郎
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.607-615, 2018 (Released:2018-10-30)
参考文献数
20

【目的】当院では代謝性アシドーシス補正効果の高いクエン酸含有無酢酸透析液を用いているが, 一部の患者でアシドーシス補正が十分でない. そこで, 血清重炭酸濃度上昇作用を有するリン吸着薬クエン酸第二鉄製剤 (FC) の影響を後ろ向きに調査した. 【対象と方法】当院通院外来維持透析患者で既存薬からFCに変更または追加した72名を対象に, FC投与開始前, 投与3か月後のCKD-MBD, 貧血指標と週中日の透析前血清重炭酸濃度を比較した. 【結果】透析前重炭酸濃度は, 全例ではFC投与後変化はなかったが, 22mEq/L未満の患者30例では有意に上昇した. FC投与に伴いFC由来の鉄が吸収され, TSAT 20%未満かつ血清フェリチン値100ng/mL未満の絶対的鉄欠乏の患者が著減し, ESA投与量が有意に減少した. 【結語】FCはリン吸着および鉄補充に伴う貧血改善作用に加え代謝性アシドーシス補正作用を有し, 特に異所性石灰化等のリスクとなる代謝性アシドーシス患者において有用なリン吸着薬になり得る.
著者
今井 圓裕
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.9, pp.763-768, 2007-09-28 (Released:2008-11-07)
参考文献数
27

1990年代の末に骨髄由来幹細胞がlinage (細胞の系列) を超えてさまざまな臓器に分化すること, および障害を受けた臓器の再生にこれらの骨髄幹細胞が応用可能である可能性を示す報告が出され, その可能性についての探索研究が多くの分野で開始された. 腎臓の再生に関する研究は, 動物の急性腎炎モデルや急性腎不全モデルを使用して, 主に骨髄幹細胞, 腎臓幹細胞, 胎児由来幹細胞 (ES細胞) を使って行われてきた. 骨髄幹細胞は造血幹細胞, 間葉系幹細胞, 内皮前駆細胞の3種類の細胞系からなり, 骨髄細胞全体として投与するか, それぞれの細胞を単離培養して急性期病変に対する治療効果が検討されてきた. 2000年ごろには, これらの幹細胞が, 腎臓固有の細胞である尿細管細胞や糸球体のメサンギウム細胞, 内皮細胞, さらには糸球体のポドサイトにまで分化転換 (transdifferentiation) するのではないかといわれたが, 実際に細胞の系列を超えて細胞が分化転換したかどうかは明確にされていない場合が多い. 最近の報告では, 幹細胞を急性期病変に対して投与すると, 組織修復が早くなり, 腎機能も改善するが, 幹細胞が尿細管細胞などに分化転換することは少ないのではないかと考えられている. また, 間葉系幹細胞を培養した上清を急性腎不全ラットに投与することで修復が促進されたことから, 幹細胞は直接には障害組織に影響を与えず, むしろ幹細胞が分泌する因子により, 組織修復が促進するのではないかとも考えられる. 腎臓内の成体幹細胞は近位尿細管S3部位, ボーマン嚢, 乳頭部などでの存在が報告されており, 組織修復にどのように関与するかについての研究が期待される. ES細胞は腎臓に投与すると奇形腫を形成するため, 現在のところ使用は困難である. 今後, 幹細胞から分泌される液性因子の同定とその作用目標である腎幹細胞の同定と機能解析が待たれる.
著者
田中 方士 渡辺 隆 宮内 義浩 伊良部 徳次 村上 信乃
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.105-107, 1994-02-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
8

慢性腎不全で内シャントによる血液透析を受けている356例571手術につき, そのシャント閉塞の危険因子につき検討を行った. 検討した因子は, 手術時年齢, 性別, 原疾患, Ht値である.全体での5年開存率は68%, 10年では57%であった. 性別, Ht値は, シャント開存に関係なかったが, 原疾患 (糖尿病), 手術時年齢はシャント開存に影響を与えた.
著者
本城 保菜美 竹口 文博 加藤 美帆 林野 翔 長島 敦子 櫻井 進 渡邊 カンナ 宮岡 良卓 長岡 由女 菅野 義彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.409-413, 2018 (Released:2018-06-28)
参考文献数
9

症例は61歳女性. 2型糖尿病およびそれに伴う慢性腎臓病のため通院していたが, 7か月前の最終外来以降, 治療を自己中断していた. 労作時呼吸困難, 食欲低下が出現し, 緊急入院時にはHb 6.0g/dLと高度貧血を伴う末期腎不全の状態だった. 本人のみ宗教上の理由により輸血を拒否していたが, 夫を含めて話し合いをした結果, 相対的無輸血治療に同意したため緊急透析導入した. 貧血に対して赤血球造血刺激因子 (ESA) 製剤であるダルベエポチンαの増量, 鉄補充療法を中心とした治療で管理可能であった. 血液透析患者の導入期にはESA抵抗性因子が多数存在するが, 緊急を要しない貧血であれば適切な治療により無輸血で管理可能であることが示唆された.
著者
宮崎 真理子 山本 多恵 渡邊 順子 藤倉 恵美 吉田 舞 秋保 真穂 良知 弘務 福士 太郎
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.62-64, 2018

<p>東北大学病院の血液浄化療法部は病院の中央特殊診療部門に属し, 腎臓学, 透析医学, 泌尿器科学をサブスペシャリティとする医師が, 全診療科の血液浄化療法に横断的に関わっている. 診療科の入院患者を対象に透析装置12台, 持続血液濾過透析10台の規模で, 直接の担当医ではないため, 緊急呼び出しは少ない. 結果的に女性医師が育児中も継続可能な環境を提供できる. しかし, 臓器別診療科が高度医療を実践する中で, 血液浄化療法のプロフェッショナルとして認知されるためには, 集中治療医学, 急性血液浄化, アフェレシスなどの領域の知識をもち, 各科の難治性疾患病態, 治療内容を理解し, 適切なタイミングで最適の血液浄化療法はいかなるものかを判断するなど, 常に研鑽が必要である. 「直面する現実の制約を理解する職場」 である必要はあるが, 「女性が働きやすい職場」 で満足することなく, ダイバーシティーを推進する先進的組織を目指す取り組みを考える.</p>
著者
辻 義弘 吉岡 健太郎 河野 麻実子 鈴木 尚紀 田尻 伸弘 人見 泰正 加藤 かおり 吉田 俊子 水野 (松本) 由子
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.7, pp.413-422, 2015 (Released:2015-07-30)
参考文献数
22
被引用文献数
1

腸溶性カプセル化ビフィズス菌製剤 (以下, カプセル化ビフィズス菌製剤) を透析患者に服用させ, 便秘症状の改善とそれに伴うQOL, および血液検査結果の変化について検討した. 透析患者24名を対象とし, カプセル化ビフィズス菌製剤を1日1包8週間服用させた. 便秘の尺度評価には日本語版便秘評価尺度を用い, QOLの変化にはThe Patient Assessment of Constipation Quality of Life Questionnaire (PAC-QOL) を用いた. カプセル化ビフィズス菌製剤摂取前と比較して, 21名 (87.5%) に便秘症状の改善とQOLの向上が認められた. また, 早期に便秘が改善した群では血清リン値が有意に低下した. カプセル化ビフィズス菌製剤摂取の効果が早発性に出現する透析患者では, 便秘症状の改善に伴うQOLの向上, および血清リン値の低下に有用であることが示唆された.
著者
木村 真依子 川口 武彦 首村 守俊 熊倉 慧 岡田 絵里 上原 正樹 岡島 真理 山川 貴史 西村 元伸 石川 哲 今澤 俊之
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.641-646, 2017 (Released:2017-10-28)
参考文献数
29
被引用文献数
1

71歳男性. 透析歴2年. 発熱, 前胸部痛を主訴とし, 酸素化低下と胸部単純X線で左肺野の浸潤影を認め, 肺炎の診断で緊急入院となった. 細菌性肺炎を疑い, セフトリアキソンの投与を開始したが, 第4病日, 炎症反応の上昇, 浸潤影の拡大を認めた. 非定型肺炎の合併を疑い, シプロフロキサシン (CPFX) を追加した. 第5病日, 無尿のため血清を代用した尿中レジオネラ抗原検出試薬による検査 (抗原検査) を行ったところ, 陽性であった. 導尿にて少量の尿が採取され, 尿中抗原陽性も確認した. レジオネラ肺炎と診断し, CPFXからレボフロキサシンへの変更にて軽快, 治癒し, 血清の抗原検査で陰性化を認めた. 透析患者は, レジオネラ肺炎の診断に用いられる尿の採取が困難であることが多い. 無尿の透析患者においては, レジオネラ肺炎の診断に, 血清を代用した抗原検査が有用である可能性が示された.