著者
畑中 唯史
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.7, pp.431-436, 2016 (Released:2018-07-30)
参考文献数
8

睡眠障害は脳血管疾患,鬱病,全死亡に対するリスクの1つとされ,臨床的重要性が非常に高い。そればかりでなく,寝不足による生産性の低下が大きな経済損失をももたらすとの報告もある。海外と比べ,日本人は平均睡眠時間が顕著に短いばかりでなく,睡眠障害を抱える人の多数の存在が明らかになっているが,現在のところ,その対処が遅れている。筆者らは,日本人が古くから主食とし,安全・安心に摂取できる米に着目して,米由来タンパク消化物の機能性解明に取り組んでいる。その一環として,睡眠障害改善と関連があるセロトニン-N-アセチルトランスフェレース活性に着目した解析を行った。この結果,米由来タンパク消化物がこれを活性化することを明らかにし,予想される機構を提示した上,睡眠障害改善につながる可能性を示した。
著者
山下 勝
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.88, no.8, pp.599-604, 1993-08-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
23

近世, 江戸時代になっても人々の甘味に対する嗜好は, まだあこがれに近いものがあった。蜜淋は, 人々のそんな思いをほろ酔いとともにかなえてくれる至福の飲料であったに違いない。蜜淋の歴史はそのまま現在の清酒製造技術である, アル添の工程に至る, 長い試行錯誤の歴史と重なってくる。甘味酒の系譜に造詣の深い筆者に蜜淋を中心として, それらの製法の確立までの過程を興味深く推論していただいた。
著者
田谷 正仁
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.8, pp.507-511, 2010 (Released:2016-01-25)
参考文献数
10

二酸化チタンの光励起により発生する活性酸素種は,種々の有機化合物を酸化分解し無機化することから,セルフクーリング機能のある環境浄化材料としての利用が期待されている。このような二酸化チタンの反応機構は,有機物の集合体ともいえる微生物やウイルスの滅菌や殺菌にも有効である。二酸化チタンによる有機物処理は,高い有機物含有環境には不向きで,低濃度で有機物(あるいは細胞)を含む系において効果を発揮する。この場合,標的とする反応物(細胞)を二酸化チタン粒子近くに引き寄せるような工夫が重要となる。ここでは,このような観点からの二酸化チタン複合材料の調製とその利用について,筆者らの取組みの一端を解説いただいた。
著者
宮川 博士 木田 建次
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.7, pp.491-498, 2012 (Released:2017-12-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本格焼酎製造に一般的に使用されている「差しもと」の安全で安定したユニークな方法の紹介。微生物の乾燥や冷凍耐性のキー物質であるトレハロースが酵母の活性に影響し,一次醪製造工程で撹拌又は通気によって酵母菌体のトレハロース濃度を高めることで活性を高レベルに維持できる。ただし,製造規模が大きくなると細菌汚染の可能性が高くなるので微生物管理には注意を要する。
著者
山田 潤 松田 秀喜
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.11, pp.866-873, 2009 (Released:2016-02-15)
参考文献数
26
被引用文献数
1 3

かつお節は古来より使用されてきた日本の伝統的な調味料である。培乾した荒節にカビ付けした枯節は発酵食品といえる。かつお節のDPPHラジカル消去活性は,100℃,30分間の抽出時に最も強い値を示し,鰹だしの抗酸化活性成分として,クレアチニンとフェノール系の2-methoxy-4-methyl-phenol,4-ethyl-2-methoxy-phenolを同定し,さらに鰹だしにより加熱調理時のイワシの酸化が抑制されることを明らかにしたので解説していただいた。鰹だしは醤油加工品であるめんつゆやだし入り味噌などに使用されており,これらの製品においても抗酸化作用が期待される。
著者
橋田 規子
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.112, no.1, pp.2-8, 2017 (Released:2019-02-15)
参考文献数
4

瓶の生産量が年々減少している。その原因の一つに若者のお酒離れがある。本稿は若者が好み,コンビニエンスストアなどで手に取ってもらうような,酒瓶のデザインの研究である。酒瓶商品としては,瓶以外にもラベルという大きなデザイン要素があるが,著者は,瓶の需要を高めることを目的とし,瓶形状に限定して研究を行われている。是非参考にしていただきたい。
著者
編集部
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.93, no.5, pp.351-380, 1998-05-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
262
被引用文献数
1

1997年度の味噌・食酢の研究業績をみると, 研究の目的と投じられたエネルギーが味噌, 食酢で明らかに異なることがわかる。味噌については, 一般的な説明研究が多く行われてはきたが低調気味であることを否定できない。一方, 食酢については, 新たな開発ならびに研究が数多く行われている。いずれも醸造食品として機能性などに関心がもたれ検討されていることが注目されるが, このような点で味噌・食酢産業のさらなる発展の糸口が得られることを期待したい。
著者
谷本 昌太 松本 英之 藤井 一嘉 大土井 律之 山根 雄一 若林 三郎
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.4, pp.312-319, 2009 (Released:2016-01-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

1. カプロン酸高生成酵母と発酵力の高い酵母の混合醸造を行い,もろみにおける両酵母菌数および諸成分の経日変化を比較した。2. 広島吟醸酵母は,KA-4と比べてもろみ中での酵母菌数が少なかった。全酵母菌数に対する広島吟醸酵母の菌数の比率は,もろみ初期から減少し,もろみ中期に約10-60%に減少した。3. 広島吟醸酵母の添加比率が増すにつれてもろみ中のアルコール濃度および酸度が低くなり,ボーメの切れは緩慢となった。4. もろみ中の香気成分については,広島吟醸酵母の添加比率が増すことにより,もろみ期間を通じてカプロン酸エチルおよびカプロン酸は高く,酢酸エチル,酢酸イソアミルは低くなった。一方,有機酸については,リンゴ酸およびコハク酸が低下した。5. 広島吟醸酵母とKA-4を混合醸造することで,もろみの発酵力を改善するとともに,酒質を変化させることが可能であった。また,もろみ中のカプロン酸エチル濃度の違いは,広島吟醸酵母の酵母菌数に応じて生成されたカプロン酸が広島吟醸酵母およびKA-4によりエステル化を受けているためと推察された。尚,本研究の一部は,平成16年度日本醸造学会大会において発表した。
著者
峰時 俊貴
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.1, pp.11-20, 2014 (Released:2018-02-16)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

清酒醸造の副産物である酒粕には,血圧降下作用が確認されているアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有するペプチドやアルコール性肝機能障害,うつ病などの疾病への効果が認められているS-アデノシルメチオニン(SAM)など多くの機能性成分が含まれており,様々な生理機能を有することが報告されている。また,酒粕は栄養価が高く,食物繊維やビタミン類,アミノ酸を多く含む天然の食品素材,調味料としての特長を有しているが,品質保持が難しい食品素材である。今回,レジスタルプロテインをはじめとする酒粕の機能性について,さらに酒粕の利点を強化し,ハンドリングの良い品質重視の新しい酒粕調味料の開発について解説していただいた。
著者
野村 佳司 内藤 貴文 小野 晃 三上 重明 高橋 利郎 木曽 邦明
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.289-294, 2004-04-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
4

Recently, sake has come to be frequently sold in transparent refrigerators fluorescently lighted. In such cases, the sake is sometimes colored highly. This seems due to the effect of fluorescent light. We researched the effects of fluorescent light sake coloring. As for the relations between sake coloring and the six types of fluorescent lights, a three band fluorescent light (natural white) colored sake most highly, second was a fluorescent light (natural white), and a high color rendering fluorescent light coated with UV absorption film (natural white) colored sake least. We researched the effects of four color-films on sake coloring. A red film was most effective for preventing sake coloring. A blue film was least effective in preventing sake coloring. As a result of a multivariate analysis, light with a wavelength under 450 nm produced an effect on sake coloring.
著者
小林 徹
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.95, no.10, pp.740-744, 2000-10-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
23

酒を飲んだとき人体には様々な影響が出てくるが, これはアルコールの効果による。アルコールによる神経伝達系への関与はその作用の標的となる膜タンパク質が調べられているが, 最近筆者らによって脳内に広く分布するGIRKチャネルがエタノ-ルの新たな作用部位であることが見いだされた。本稿においてそのメカニズムと意義について解説していただいた。
著者
辻 謙次
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.86, no.7, pp.481-486, 1991-07-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
17

洋酒の代表であるウィスキーは蒸留酒であるが, あのすばらしい香味の発現は熟成過程を経過することにより得られる。特に樫樽との関係は切っても切れない関係にあり, 品質を左右する大きな鍵を握っていると言っても過言ではない。そこで, ウィスキーの熟成等の研究を通じて, 最高級のウィスキー造りに情熱を燃やしておられる筆者に, 樫樽貯蔵中における熟成のメカニズムについて解説していただいた。
著者
宇都宮 仁
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.101, no.10, pp.730-739, 2006-10-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
14
被引用文献数
9 13

清酒の香味に関する評価用語はこれまでにも幾度か見直し・整理されてきたが, 今回, 筆者らを中心とするグループの並々ならぬ尽力により, 本格的な評価用語の体系化と訓練のための標準見本が完成した。ビール, ワインやウイスキー等では, 早くから香味特性の見本が完成しており, 清酒でもそれが待望されていたが, ようやく出来上がったことで, 今後の若手清酒技術者の育成や清酒の評価等がより効率的, かつ効果的に行われるものと期待される。
著者
稲橋 正明 吉田 清
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.87, no.12, pp.858-863, 1992-12-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
17

最近, 各地の研究機関やメーカーで優良酵母の開発が盛んに行われているが, 新規な酵母であることを主張するためにはメルクマールが必要である。本稿はオリゴ糖の発酸性の違いから各種の協会酵母をそれぞれある程度特定できることを解説していただいたものである。オリゴ糖の多い清酒を醸造する上で参考になることが多い。
著者
国税庁
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.12, pp.790-800, 2016 (Released:2018-08-15)
被引用文献数
1

近年国内の日本酒需要は少子高齢化の影響等もあり,減少傾向にあります。一方,2015年の日本酒の輸出金額は約140億円(対前年比121.8%)と,4年連続で過去最高を記録しました。 このような背景の下,国税庁では,日本酒業界がより活性化するためのヒントを蔵元の皆様からお伺いするために日本酒座談会を第52回(独)酒類総合研究所講演会に併せて開催しました。
著者
殿内 暁夫 森山 裕理子 青山 嘉宏 土岐 春歌
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.7, pp.437-444, 2016 (Released:2018-07-30)
参考文献数
6
被引用文献数
1

著者らは,白神山地由来の微生物資源の産業利用を通じた地域貢献を目的として,酵母Saccharomyces cerevisiaeの分離を進めている。十分に検討された分離・同定スキームにより,これまでに多数の菌株を得ている。加えて,本稿には自然環境から酵母を分離する際に有用な示唆に富んだ内容も含んでいる。また,産学官の研究会を組織し,広報・普及活動を行っており,一部については商品開発もなされている。解決すべき課題もあるというが今後の展開が期待される。
著者
秋山 裕一
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.85, no.10, pp.731-735, 1990-10-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
28

日本の酒造りは中国大陸から伝来したとされている。両者とも, デンプンの糖化にカビを利用するという共通点はある。しかし, 日本では蒸した粒のままの米に黄麹菌を, 中国では生のままの粉にした麦にリゾープス菌を生やして麹を造るという点で大きき異なる。歴史的にみても, 古代日本で中国式麹が造られたという報告はないという。永年, 酒造りの研究に携わってこられた著者が,「生米麹と石臼」からこの謎がとけるのではないかと指摘されている。二千年のロマンに思いを寄せて-読されたい。