著者
林 正敏 山路 公紀
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.311-316, 2014 (Released:2015-04-28)
参考文献数
6
被引用文献数
2 4

筆者らは2010年6月に長野県富士見町で冬鳥であるジョウビタキPhoenicurus auroreusの繁殖を確認した.この事例が偶発的なものか否かを確認するために,同地域で経年調査を実施した.その結果,ジョウビタキは富士見町で4年間繁殖を継続し,茅野市および塩尻市で2013年に4つがいが繁殖していた.したがって,ジョウビタキは八ヶ岳周辺で継続的に繁殖していると判断され,今後,繁殖地域の拡大が予想される.見つかった全ての巣はリゾート地ないし別荘地の定住者が居る建物の人工物の中に造られていた.
著者
内田 博
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.78-87, 2011 (Released:2011-05-28)
参考文献数
24
被引用文献数
2 5

埼玉県の標高約90mの丘陵と台地から成る地域の林でホトトギスの繁殖生態調査を行った.調査地ではホトトギスはウグイスだけに托卵を行っていた.宿主のウグイスの産卵は4月中旬から始まったが,ホトトギスは5月下旬に渡来して,6月初旬から托卵を始めた.ウグイスの全繁殖期を通した被托卵率は24%であったが,ホトトギスが托卵を始めた6月以降だけに限ると46%の高率になった.一方,ホトトギスの繁殖成功率は3%と低かった.調査地では高い捕食圧があり,ホトトギスの繁殖成功率の低さは,ウグイスの寄生卵の受け入れの拒否の結果ではなく,捕食に大きく影響を受けていた.ホトトギスの卵は赤色無斑で宿主のウグイスの卵に非常に良く似ているため,色彩では見分けられなかったが,卵サイズは宿主卵より大きかった.ホトトギス卵の孵化までの日数は平均で14日であり,宿主のウグイス卵より1から2日早く孵化した.ホトトギスの托卵行動は2例記録でき,托卵にかかった時間は18秒と19秒であった.宿主卵の捕食行動も記録できた.調査地ではウグイスの巣の卵が産卵期や抱卵期に1から数個減少することがあり,このような現象はホトトギスの捕食によるものと考えられた.ウグイスの巣からホトトギス卵だけが排除されることはなかった.巣が放棄される割合は托卵された巣で19%,されなかった巣で22%であった.ホトトギスは卵擬態の軍拡競争では,ウグイスに勝利していると考えられた.
著者
三上 修
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.1-18, 2019-04-23 (Released:2019-05-14)
参考文献数
151
被引用文献数
3

スズメ,ツバメをはじめとして,さまざまな鳥類が人工構造物に営巣をしている.これまで,この現象は,何か奇異な現象として捉えられることが多かった.しかし,都市の拡大とともに人工構造物の数は増加しており,都市において,鳥類が人工構造物に営巣することは,すでに日常的な景色となっている.そこで本稿では,日本において,どの種がどのような人工構造物を使って営巣しているかをまとめ,その上で,鳥が人工構造物に営巣していることを,どのような視点でとらえることができるか検討をした.鳥が人工構造物に営巣することは,ヒトと鳥との相互作用として捉えることができ,特に,ヒトの文化がどのように鳥類に影響を与えているか,と考えることができる.また,現代の都市の鳥類多様性は,人工構造物にかなりの部分,依拠している可能性も考えられる.鳥類が人工構造物を営巣することで,停電などヒトとの軋轢も生む.鳥類が人工構造物に営巣することで,ヒト,鳥類,それぞれにとって生じる利点と不利点を明らかにしつつ,それに対して人々がどのような価値観をもつのか,どのように対応していくべきなのか,総合的に考えていく必要がある.
著者
玉田 克巳
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.93-97, 2004 (Released:2007-09-28)
参考文献数
25
被引用文献数
8 7

Sexual differences of Carrion Corvus corone orientalis and Jungle crows C. macrorhynchos japonensis were examined. Crows were captured by 'multi-trap' during April 1989 to June 1990 in Ikeda, eastern Hokkaido. Body mass, bill length, natural wing length, tail length, and tarsus length of carcasses were all measured. They were aged by tongue-markings and dissected in order to examine their reproductive organs. They were classified into two age-classes (adults and juveniles). Males were larger than females in all measurements for adults and juveniles of both species. Discriminant function analysis was carried out. The probability of correct discrimination of sexes for Carrion Crows was 87% for adults and 80% for juveniles. For Jungle Crows it was 91% for adults and 92% for juveniles. The sexes of both adult and juvenile Jungle Crows could be determined by discriminant function analysis.
著者
内田 博
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.111-122, 2017 (Released:2017-11-16)
参考文献数
26

コサギは1970年代には埼玉県の東松山市周辺の地域では普通にいた種であったが,最近になり急激に個体数が減少した.減少は1990年の中頃から始まり,2004年には稀になるほど個体数は減少し,2015年現在も回復していない.そこで,他のサギ類の個体数,餌動物であるエビ類や魚類の生息数,コサギの捕食者と考えられるオオタカの繁殖個体数を調べた.調査地のサギ類はコサギが激減したが,大型種であるダイサギ,アオサギは個体数が増加していた.しかし,エビ類や魚類は生息していて,餌動物の枯渇によるものではなかった.一方1970年代にはいなかった鳥類の捕食者であるオオタカは1980年代から急激に増加した.オオタカはサギを捕食することがあり,ダイサギの捕食もする.コサギは冬期には単独で広い水田や,谷津環境の湿地で採食するので,オオタカによる捕食で,犠牲になったコサギの被食痕も見られた.これらのことから,コサギの減少要因としてオオタカによる越冬個体の捕食が考えられたが,同時期に起こった,餌動物が競合するカワウの増加の影響や,オオクチバスなどによる小型魚の食害などの影響の可能性もあり,これらの要因がどのように関連しているのかも明確にする必要がある.
著者
井上 遠 松本 麻依 吉田 丈人 鷲谷 いづみ
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.19-28, 2019-04-23 (Released:2019-05-14)
参考文献数
35
被引用文献数
2

本研究では,二次林を含めた森林面積が島の約80%を占める奄美大島において,準絶滅危惧種に指定されているリュウキュウコノハズクの巣立ちビナのルートセンサスを,繁殖期(2017年6月27日–7月25日)に行なった.奄美大島のほぼ全域の合計58地点において98羽の巣立ちビナが確認され,うち13地点では複数回巣立ちビナが確認された.巣立ちビナ確認地点(53地点)と,確認地点と同頻度になるように各センサスルート上に無作為に設定した未確認地点(54地点)について,森林植生タイプ別の面積(常緑広葉樹林,常緑広葉樹二次林,常緑針葉樹林,落葉広葉樹二次林),開放地面積,林縁長,市街地までの距離,標高を説明変数として,一般化線形混合モデルを作成した.その結果,巣立ちビナの確認/未確認に対して常緑広葉樹林面積が正の効果を及ぼしていることが示された.今では限られた面積でしか存在しない成熟した亜熱帯常緑広葉樹林は,樹洞を有する大径木が多く存在し,本種の重要な営巣場所や繁殖場所となっている可能性が示唆された.
著者
鎌田 直樹 山田 利菜 杉田 昭栄
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.191-199, 2011 (Released:2011-10-26)
参考文献数
22
被引用文献数
2 2

We investigated whether there are significant differences in neck muscle mass, maximum peck force, pressure and maximum pull force between Jungle Crows Corvus macrorhynchos and Carrion Crows C. corone. The maximum peck force and pressure were measured using pressure sensitive film. The maximum pull force was measured with spring balances. For male Jungle Crows, neck muscle mass, maximum peck force, pressure and maximum pull force were 8.27 g, 26.8 N, 80.4 MPa and 9.54 N; for females they were 6.82 g, 22.3 N, 69.7 MPa and 8.25 N. Those values for male Carrion Crows were 6.69 g, 22.3 N, 59.7 MPa and 4.07 N;, whereas for females they were 4.50 g, 15.1 N, 53.2 MPa and 2.71 N. Furthermore, neck muscle mass, maximum peck force and maximum pull force were positively correlated with body mass in both species. There were no significant differences in the ratio between the cervical levator mass and the cervical depressor mass, and the maximum peck force exerted by one unit of the cervical depressor mass between Jungle and Carrion Crows. However, the maximum pull force exerted by one unit of the cervical lavator and depressor mass of Jungle Crows was significantly larger than that of Carrion Crows.
著者
松本 貞輔
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.41-42, 1988-09-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
1
被引用文献数
1

An anomalous chick of the Green Pheasant Phasianus c. versicolor with a body and 4 legs was found on 20 May 1985 in the mountain in Kameoka City, Kyoto Pref. It was caught alive as the female pheasant flushed, but died shortly in captivity.
著者
三上 かつら 三上 修
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.227-236, 2015 (Released:2015-12-13)
参考文献数
37
被引用文献数
1

都市の生物多様性に対する関心は高まってきており,都市化を測る生き物として,鳥類はしばしば注目される.鳥類が都市の中のある場所において,どこをどのように使っているかという情報は,都市における生物多様性の創出や維持管理のために役立つだろう.都市には多様な環境が含まれており,特に小鳥類にとっては,数m離れた場所は,別の環境を意味することがあると考えられる.しかしながら,都市環境でそういった小さいスケールで特定の鳥類の環境利用を調べた研究例はほとんどない.そこで本研究では,岩手県内の住宅地において,冬期のスズメを対象に,住宅地にどのくらいいて,どのような場所を利用しているのかを調査した.特にスズメがなぜその環境を選んだか,に関わる要因として,季節性と営巣場所に着目した.群れの観察は2012年10月から2013年4月にかけて,営巣場所の探索は2012年と2013年の繁殖期に行った.厳冬期には,スズメの個体数が減り,群れは大きくなった.これはシーズンの進行がスズメの行動に影響することを示している.冬期のスズメの群れは,大部分が古巣または新巣から半径40 m以内でみられた.これは古巣をねぐらとして利用していることと,古巣の近くにまた翌年の巣をつくることが多いことから,スズメが営巣場所周辺に強い執着を持っているものと考えられる.また,餌がとれそうな未舗装の場所をよく利用していた.ただし,地形や構造物など他の要因もかかわっている可能性があり,採餌場所の選択については今後,検証が必要だと思われる.営巣場所への執着が強いことは間違いないと考えられるため,衛生や管理上の目的で,スズメが高頻度に利用する場所をコントロールしたいとき,巣箱の設置が有効である可能性がある.
著者
玉田 克巳 池田 徹也
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.349-355, 2019-10-25 (Released:2019-11-13)
参考文献数
20

北海道においてスズメPasser montanusを対象とした鳥類標識調査を実施して,8か月以上経ってから成鳥3羽を再捕獲した.嘴基部の色は,1羽が黒色で,2羽が黄色であった.野外観察の結果から,6月から7月までの間,幼鳥の嘴基部の色は黄色であったが,成鳥は黒色であった.9月から12月は,ほとんどすべて個体が黄色になり,1–2月には黒色の個体の割合が増加し,3–5月にはすべて黒色であった.このことから嘴基部の色は,季節変化することが考えられた.オスの計測値は,体重,自然翼長,尾長で有意に大きかった.自然翼長は67.7 mmを境界値として性判定ができ,誤判別率は90%であった.
著者
藤巻 裕蔵
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.281-284, 2000-03-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
14
被引用文献数
2 1

北海道各地の森林5地域(苫小牧,富良野,旭川,新得,上士幌)で,7年聞または4~20年間隔でエゾライチョウの生息状況を調査した,生息数(調査路の長さに対する出現個体数で示す)は1960年代後半と1970年代前半から1990年代初めにかけて減少し,1990年代になっても減少傾向は続いているか,または低密度のままである.このほか,エゾライチョウの出現頻度は,苫小牧のウトナイ湖周辺のハンノキ林では1980年代から1990年代にかけ,江別の野幌森林公園では1970年代から1980年代にかけて減少した.北海道では1973年以来森林で大面積の皆伐•造林は行なわれておらず,エゾライチョウの生息に不適なカラマツ人工林の面積はほどんど変化していない.また北海道大学苫小牧演習林,新得山,野幌森林公園のような鳥獣保護区でも生息数または出現頻度が減少している.これらのことから,森林施業や狩猟が生息数減少の主要な原因とは考えられない.1960年代末から北海道におけるウシの飼育頭数が増加し,それに伴って農耕地で主に畜産廃棄物に依存して生活するキツネが1970年代前半から増加し,森林内でもキツネの生息数が多くなってきた.また,狩猟と有害鳥獣駆除によりシカの捕獲数は1980年代の10,000頭から1990年代後半の50,000頭に増加した.捕獲されたシカは,良質の肉や角のある頭部をとられたあと,捕獲場所に放置され,それが冬の間キツネの食物となり,キツネの増加に拍車をかけている.この時期はエゾライチョウが減少した時期と一致しており,キツネの増加がエゾライチョウ減少の主な原因となっている可能性が強い.
著者
江口 和洋
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-22, 2005 (Released:2007-09-28)
参考文献数
132
被引用文献数
2 1

長期個体群動態研究の拡大と遺伝学的血縁解析手法の導入により,鳥類の協同繁殖の研究はこの30年間ほどで大きく発展し,多くの研究成果が発表されている.現在,協同繁殖が知られている鳥類は350種(全鳥類の3.9%)を超える.協同繁殖の起源と維持に関わる生態的要因と系統の問題,様式の多様性,手伝い行動の利益の問題を中心に最近の研究成果を紹介し,これからの研究を展望した.協同繁殖種は特定の分類群に特によく出現する.種間比較研究は,生活史は協同繁殖が出現する素因となり,生態的要因はそのような分類群内での協同繁殖の出現を促進することを示唆する.一方,系統学的研究は,協同繁殖は祖先的であり,系統学的歴史が協同繁殖の起源や維持を説明する確かな手段であると示唆している.協同繁殖種の配偶様式,群れ内メンバー間の血縁関係,ヘルパーの手伝い行動などのあり方は,従来考えられていたよりも多様であることが明らかになりつつある.群れメンバーはそれぞれ異なる利益を得ていると考えられている.非血縁ヘルパーが以前考えられていたよりも多く,非繁殖ヘルパーは普遍的ではない.ヘルパーの手伝い行動は群れ内で一様ではない.ヘルパーの存在,手伝い行動そのものが繁殖成功の向上に結びつかない例も少なくない.これらの事実は,手伝い行動における直接的利益の重要性を示唆している.ヘルパーが繁殖し,直接的利益を得ていることも稀ではない.これからの研究に不可欠なものは,長期間の個体群動態研究と遺伝学的手法を用いた性判定や血縁判定である.国外の協同繁殖種と近縁な非協同繁殖種の研究も重要である.
著者
福田 道雄
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.91-95, 2020-04-23 (Released:2020-05-16)
参考文献数
32

日本では,現在非常に多数のペンギンが飼育されている.このような状態になった理由を解明するため,ペンギンの渡来史を調べた.『禽譜』によれば,ペンギンの全身と部分の皮が,江戸時代の享保年間(1716–1736)と1821年に渡来し,どちらの種もキングペンギンAptenodytes patagonicusであった.筆者は,貴志孫太夫が転写したと考えられる『鳥獣図』に描かれたフンボルトペンギンSpheniscus humboldtiの図を見つけた.そして,その原図で写生されたフンボルトペンギン標本の渡来時期は,貴志忠美が没した1857年以前と推定できた.
著者
吉野 智生 浅川 満彦
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.193-196, 2022-10-24 (Released:2022-10-31)
参考文献数
22

2010年9月,北海道岩見沢市にて,アカエリヒレアシシギ Phalaropus lobatus が集団で死亡しているのが見つけられた.栄養状態は良好で,剖検所見から何らかの衝突事故であることが示唆された.
著者
清水 義雄 中村 雅彦
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.17-30,64, 2000-07-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
26

鳥類の混群形成の意義には,相利共生,片利共生,寄生の3種類がある.カモ類の採餌混群では,随伴種は中核種の採餌行動により利用可能となった餌を採餌することで採餌効率を上げ,中核種は随伴種による明確な悪影響を受けないことから,混群形成の機能的な意義は片利共生とされてきた.渉禽類やスズメ目鳥類の混群では,混群サイズの増加にともない餌をめぐる競争や攻撃頻度が増大するため,随伴種のみならず中核種も採餌効率が下がること,人為給餌による餌量の増加は混群形成を抑制することがわかっている.しかしカモ類では,実験的に餌量を操作し,餌量の違いが混群形成の様式,混群サイズ,種間順位,各構成種の採餌行動に与える影響を明らかにした研究はない.そこで本研究は,非繁殖期に混群を形成するコハクチョウ,ホシハジロ,オナガガモに人為給餌を施し,人為給餌前後の混群形成の様式,採食行動,社会行動を比較することにより,餌量が混群形成の機能的意義に与える影響を明らかにすることを目的とした.調査は1996年10月15日から12月28日まで長野県南安曇郡豊科町の犀川貯水池で行なった.貯水池の一部に実験区を設定し,約30kgのイネの種子やもみがらを1日3回与え,餌量を操作した.群れは,単独,同種群,コハクチョウとホシハジロの2種混群,コハクチョウとオナガガモの2種混群,ホシハジロとオナガガモの2種混群,3種混群の6つのタイプに分け,人為給餌前後で各群れタイプの個体数を記録した.人為給餌前後の追従関係,混群タイプの構成割合,採餌割合,攻撃頻度を比較するため,コハクチョウ25個体,ホシハジロ22個体,オナガガモ21個体を一個体当たり8~13分間連続してビデオカメラで録画し,行動を分析した.各種の採餌テクニックや採餌頻度は,群れタイプで異なることが予想されたので,各群れタイプに属するコハクチョウ109個体,ホシハジロ91個体,オナガガモ79個体を一個体につき約5分間ビデオ録画し,人為給餌前後で採餌テクニックと採餌頻度を分析した.採餌混群は,人為給餌前後とも,コハクチョウが首入れ採餌をする前に水中を脚で頻繁にかき回すときに形成された.脚のかき回しにより水底に沈むイネやぬかがわき上がり,ホシハジロはコハクチョウの直下に潜水採餌,オナガガモはわき上がった餌を両種の周囲で採餌した.各種の追従行動から,3種混群の中核種はコハクチョウ,追従種がホシハジロとオナガガモであり,オナガガモはコハクチョウに追従するホシハジロに追従することがわかった.追従頻度は人為給餌後に増加し,その結果3種混群の混群形成率が増加し,群れサイズは約2倍に上昇した.この時,構成種の76%がホシハジロだった.採餌割合は,人為給餌後の3種混群時に3種とも増加した.人為給餌前のコハクチョウの首入れ採餌頻度は3種混群時が最も高く,ホシハジロも3種混群時及びコハクチョウとの混群時に潜水時間を短縮することで潜水採餌の頻度を高めた.オナガガモは3種混群時のみ,ついばみ採餌,首入れ採餌,こしとり採餌の3種類の採餌テクニックを併用し,こしとり採餌では移動距離を短くすることにより採餌頻度を高めた.人為給餌前は3種とも3種混群において採餌頻度を高めているため,採餌混群の機能的意義は相利共生といえる.人為給餌後の3種混群では,コハクチョウだけが採餌頻度を下げ,ホシハジロに対する攻撃頻度を増加させた.これに対しホシハジロとオナガガモは人為給餌前と同様に採餌頻度を高めていた.したがって人為給餌後の採餌混群の機能的意義は,宿主がコハクチョウ,寄主がホシハジロ,オナガガモの寄生関係といえる.3種混群のコハクチョウにとって,ホシハジロの適度な個体数は,自らの採餌頻度を高めるのに有効だが,人為給餌による過度の群れサイズの増加はコハクチョウの採餌行動の混乱,攻撃頻度の増加をもたらし,採餌頻度は減少する.このことから,随伴種であるホシハジロの個体数が採餌混群の適応的意義を決定する主因と考えた.人為給餌の餌は3分以内に水中に沈み,沈んだ餌はコハクチョウが脚でかき回すことではじめてホシハジロ,オナガガモが利用可能となる.それゆえ,カモ類の混群では,与えた餌の絶対量ではなく,中核種により開発され随伴種が利用可能になった餌量が混群形成に影響を与えると考えた.
著者
飯田 知彦
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.125-127, 1999-02-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
2
被引用文献数
12 13

クマタカは日本の森林生態系の頂点に位置する動物である.従来,クマタカが出現した時のニホンザルの反応などから,クマタカによるニホンザルの捕食が考えられ,また,確認例もあった.今回,クマタカによるニホンザルの捕食と思われる事例を確認できたので報告する.死亡直後のニホンザルの死体の横から,クマタカの成鳥が飛び立ち,その後数日間にわたりクマタカがその場所に現れ,ニホンザルは白骨になった.死亡直後の状況から,ニホンザルは子連れの雌と考えられたが,骨格を採取し京都大学霊長類研究所に鑑定してもらったところ,7歳程度の雌の成獣と判明し,現場の状況と一致した.また,採取した骨格には,クマタカの爪で付けられたと思われる,通常はみられない複数の細い傷があった.これらを含め,以下の5つの点から,そのニホンザルを捕食したのは,クマタカの可能性がきわめて高いと判断される,(1)現場は,車が入ることのできる道はなく,交通事故死のニホンザルの可能性はなく,また,有害鳥獣の駆除も行なわれていないので,その可能性もない.(2)死体の状況から,栄養状態は良好であったので,衰弱死等の可能性はない.(3)また,現場に多数のニホンザルの毛が残されていたこと,また,子ザルの状況から,ニホンザルはその場で突然死亡したと考えられる.(4)死亡直後のニホンザルに出血がほとんど見られなかった点は,猛禽類に襲われた時の特徴と一致する.(5)鑑定結果の,頭骨に残された傷は,猛禽類の爪で付けられたものと思われ,また,ニホンザルに致命傷を与えたと考えられる.採取した骨格から,捕食されたニホンザルは比較的大型の雌の成獣で,体重は約9.4kgと推定された,以上のことから,クマタカは,ニホンザルを捕食しており,捕食可能な動物の大きさは,約10kg程度まで可能なことになる.

2 0 0 0 OA 書評

出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.78-81, 2021-04-23 (Released:2021-05-14)