著者
江田 真毅
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.289-306, 2019-10-25 (Released:2019-11-13)
参考文献数
151

日本において動物考古学は,遺跡から出土する動物遺体を資料として人類の過去を研究する考古学の一分野である.一方,動物遺体の分析からは,動物の過去の生態も復元できる.日本でも遺跡から出土した哺乳類の骨からその分布や大きさの時代的変化を復元する考古動物学的研究の例がいくつかある.しかし,小論で「考古鳥類学」的研究と呼ぶ遺跡から出土する鳥骨に着目して,動物側の視点からその過去の様相を調べる研究はほとんどなかった.日本には600種を超える鳥類が分布しており,その生態は多様である.歴史的な環境の変化に対する各種の応答も様々であったと考えられるため,哺乳類とは異なる生態変化の様相を検出できる可能性がある.遺跡から出土した骨を同定し,さらに骨の形態やDNA,組織,安定同位体比などを調べることで,分布や形態,集団構造,遺伝的多様性,食性など当時の鳥類の生態を復元できる.筆者らがこれまで取り組んできたアホウドリPhoebastria albatrusの研究では,この種がかつては日本海北部やオホーツク海南部にも分布していたことが分かった.また約1,000年前のアホウドリには体サイズと食性の異なる2つの集団があり,さらに2つの集団の子孫は現在鳥島と尖閣諸島に生息していることも明らかになった.これらの知見は,実際には2種からなる可能性があるこの危急種の保全の方向性を決定づける重要なものである.今後,次世代シーケンサーによるゲノムの比較や,コラーゲンタンパク分析が遺跡出土の鳥骨に応用されることで,考古鳥類学の発展が期待される.これまで鳥類の研究は主に進化的時間スケールと生態的時間スケールで進められてきた.考古鳥類学的研究から得られる情報は,これらの時間スケールの間を埋めるものであり,日本においても今後さらなる研究の発展が期待される.
著者
青塚 圭一
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.41-55, 2018 (Released:2018-05-11)
参考文献数
112

過去30年間における多くの鳥類化石の発見によって,鳥類はジュラ紀後期には出現し,白亜紀には世界全域に放散していたことが明らかになった.鳥類は飛翔能力の向上に伴い,尾端骨の形成,竜骨突起のある胸骨の発達,高度な翼の発達,そして歯の消失など,その骨格を変化させてきた.また,近年の研究により性戦略や成長形態など様々な生態的な発達があったことも明らかになってきている.中生代に無飛翔性の鳥類の多様性が乏しいことや新鳥類が大量絶滅事件(K-Pg境界)を生き延びた理由は未だ不明であるが,これらは環境面や生理面での制限による可能性がある.本稿では飛翔能力,内温性,そして消化器官の発達が鳥類の繁栄に影響を与えたものであると結論付ける.生理的な特徴は化石として残りにくいものであるが,新たな化石の発見や軟組織を復元するような研究が進むことで,絶滅した鳥類の詳しい生態が明らかになることを期待する.
著者
高木 憲太郎 時田 賢一 平岡 恵美子 内田 聖 堤 朗 土方 直哉 植田 睦之 樋口 広芳
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.317-322, 2014 (Released:2015-04-28)
参考文献数
17
被引用文献数
4

ミヤマガラスは西日本では九州から東へ越冬地を広げた一方で,東日本では北から南へ越冬地を広げた冬鳥である.我々は東日本に渡来するミヤマガラスの渡りの経路と繁殖地を明らかにすることを目的として,秋田県大潟村八郎潟干拓地において20羽のミヤマガラスを捕獲し,太陽電池式の衛星追跡用送信機(PTT)を装着して追跡を行なった. 八郎潟で越冬していたミヤマガラスは,越冬中も10 km以上離れた男鹿半島や能代平野を行き来しながら過ごしていることが分かった.日本から海に向けて飛び立った地域は,道南の渡島半島(奥尻島を含む)が最も多く,このほか青森県の津軽半島や積丹半島から飛び立つものがいた.渡りの時期は,成鳥は4月5日までに日本を離れているが,若鳥は4月8日以降で,若鳥の方が遅かった.追跡を行なったミヤマガラスのうち11羽は日本海を越えてロシアの沿海地方に渡るまで追跡することができた.そのうち5羽は中国黒竜江省の三江平原周辺に到達し,3羽はロシアのブラゴヴェシチェンスクの東部に到達した.この結果から,東日本に渡来するミヤマガラスの繁殖地がこれらの地域であることが推定された.
著者
中村 浩志
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.93-114, 2007-11-01 (Released:2007-11-17)
参考文献数
62
被引用文献数
8 22

このモノグラフは,日本に生息するライチョウLagopus mutus japonicusに関するこれまでの研究からわかっていることを整理し,今後の課題について検討を加えることを目的としたものである.日本に生息するライチョウの数は,20年以上前に実施された調査から3,000羽ほどであることを示し,分布の中心から外れた孤立山塊から絶滅が起きていることを示唆した.日本の高山帯には,ハイマツが広く存在するのが特徴であり,ライチョウの生息に重要であることを示唆した.ライチョウの食性に関する知見を整理し,今後は各山岳による餌内容の違い,また食性の量的な把握が必要たされることを指摘した.高山における年間を通しての生活の実態について,これまでの知見を整理し,まためた.春先の4月から秋の終わりの11月にかけてのライチョウの体重変化を示し,ライチョウの高山での生活との関連について論じた.ミトコンドリアDNAを用いた多型解析から,近隣の亜種との関係および大陸から日本に移り棲んで以降の日本における山岳による集団の隔離と分化に関する知見をまとめた.ライチョウを取り巻くさまざまな問題点について,最近の個体数の減少,ニホンジカ,ニホンザルといった低山の野生動物の高山帯への侵入と植生の破壊,オコジョや大形猛禽類といった古くからの捕食者の他に,最近では低山から高山に侵入したキツネ,テン,カラス類,チョウゲンボウといった捕食者の増加がライチョウを脅かしている可能性,地球温暖化問題等があることを指摘した.20年以上前のライチョウのなわばりの垂直分布から,温暖化の影響を検討し,年平均気温が3°C上昇した場合には,日本のライチョウが絶滅する可能性が高いことを指摘した.これまでの低地飼育の試みを評価し,野生個体群がまだある程度存在する今の段階から,人工飼育による増殖技術を確立し,増えた個体を山に放鳥する技術を確立しておくことの必要性を指摘した.
著者
遠藤 幸子
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.267-277, 2014 (Released:2015-04-28)
参考文献数
71
被引用文献数
1 2

多くの鳥類において,繁殖期に雄から雌への給餌行動が観察される.この行動は,繁殖における雌雄の役割分担,交尾をめぐる雌雄の性的対立,そして社会的一夫一妻制鳥類におけるつがい関係維持に果たす役割といった観点から研究が行なわれ,鳥類の繁殖生態の研究において行動生態学分野の知見を提供してきた.これまでの研究から,雄から雌への給餌行動は,各繁殖段階において個体の適応度に影響を与えるであろう,様々な機能をもつことが明らかになってきた.そして,これらの報告は,鳥類の繁殖における雌雄の関係性の理解に大いに貢献することを示唆した.そこで,本稿では,繁殖段階ごとに雄から雌への給餌の機能に関して提唱されている仮説とその検証結果について整理し,鳥類の繁殖における雄から雌への給餌行動の機能とこの行動の進化した背景について議論する.なお,つがい形成前における(1)つがい相手選択仮説,つがい形成後から産卵期にかけては(2a)栄養補給仮説,(2b)雌に交尾を受け入れてもらうための給餌仮説,(2c)雌による雄の育雛能力査定仮説,(2d)つがい関係維持仮説を,そして抱卵期における給餌においては(3a)栄養補給仮説,(3b)雌による雄の育雛能力査定仮説,そして(3c)つがい関係維持仮説について,それぞれ説明する.
著者
亘 悠哉
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.263-272, 2019-10-25 (Released:2019-11-13)
参考文献数
40
被引用文献数
2

近年世界各地で外来種の根絶事例が報告され始め,根絶が対策の目標の現実的な選択肢となってきた.このような先行事例で得られた知見を他の事業にフィードバックさせることができれば,外来種対策の全体の水準を上げることができるであろう.本総説では,根絶までの最終フェーズに到達している奄美大島のマングース対策の概要について紹介し,事業の過程で得られた知見について整理した.それらの知見に基づき,まず外来種対策を5つのフェーズに分割して外来種対策のロードマップの一般化を試みた.そして,フェーズごとに刻々と変化する外来種個体群の状況に応じて,対策の考え方や戦術を変化させる必要性を示した.次に,フェーズを突破するブレイクスルーを促進させる対策のガバナンスのあり方として,次々生じる問題の認識とそれに対応した対策が促進されるサイクルの重要性を示した.そして,この実現のためにも,関係者が主体的に参画する連携体制が必要であることを示した.最後に,外来種対策を進める際の実用的なチェックリストをフェーズごとに作成した.本総説で提示したロードマップとチェックリストが,各地で行われている外来種対策の考え方や方向性を検討する際のガイドラインとして活用されることが期待される.
著者
山口 恭弘 吉田 保志子
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-6, 2006 (Released:2007-07-06)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

近年, 農作業の省力化のために, 水稲の直播栽培が各地で行われているが, 播種期の鳥害が問題となっている. 入水前の田にモミを播く乾田直播ではキジバトStreptopelia orientalisが播種後に集団でモミを採餌するために, 地域によっては大きな被害を出している. そこで本研究では野外大網室内の実験水田において, 大麦を用いた代替餌場を設置することにより, キジバトの水稲への被害を軽減できるかどうかを実験した. 実験は代替餌設置区と非設置区とを設け, キジバトの導入時期は前期 (播種直後から出芽揃い) と後期 (出芽揃い以降に前期と同じ期間) に分けた, 代替餌の有無と導入時期の組み合わせの2×2の4処理を1セットとし, 2000年5月1日から9月12日にかけて5セット繰り返した. 苗立ち数を処理区とキジバトが入れないようにしたエクスクロージャーとの間で比較したところ, 前期では代替餌設置区で有意差がなく, 代替餌非設置区で有意に少なかった. 一方, 後期の苗立ち数は代替餌のあるなしに関わらず, エクスクロージャーとの間に有意差はなく, 出芽揃い以降には被害が生じないことが示された. これらのことより被害の時期は播種から出芽揃いの時期であること, 代替餌の設置により被害が軽減されることが明らかとなった.
著者
浅野 凜子 三上 修
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.145-152, 2022-10-24 (Released:2022-10-31)
参考文献数
25

米英に比べ,日本では,各家庭の庭で鳥に給餌をする習慣を持つ人が少ない.この原因として,日本はバードウォッチャーの数が少ないので給餌をする人も少ないという可能性と,バードウォッチャーの数とは無関係に給餌をする人が少ないという可能性の両方が考えられる.どちらで説明できるか,あるいは両方ともが必要かを明らかにするために,本研究では,日米英の3か国で,バードウォッチャー数の指標として,野鳥観察に関わる団体の会員数を調べた.その結果,会員数は日本において総数においても人口当たりの数でも最も少なかった.さらに,野鳥観察に関わる商品に対する購買力と給餌に関わる商品に対する購買力を比較するために,アマゾンのネットショッピングサイトで,給餌に関わる商品と野鳥観察に関わる商品のレビュー数と価格を3か国間で比較した.その結果,米英では,野鳥観察よりも給餌に関わる商品に対するレビュー数が多かったが,日本では逆に野鳥観察に関わる商品に対するレビュー数のほう多かった.また,給餌に関わる商品と野鳥観察に関わる商品の,相対的な平均価格は,どの国も,野鳥観察に関わる商品のほうが高かったが,日本においてもっともその差が大きく,給餌よりも野鳥観察に,より費用をかけていることが明らかになった.以上のことから,日本で給餌の習慣がないのは,バードウォッチャーが少ない効果もあるが,それだけでは説明できず,給餌に対する意欲そのものが,他2国よりも低いことが示唆された.
著者
中村 眞樹子 竹中 万紀子
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.243-249, 2015 (Released:2015-12-13)
参考文献数
20
被引用文献数
1

数年~10年以上にわたり詳細で慎重な継続観察ができ,かつ長年変化しない特徴を明確に識別できた場合に限り,ハシボソガラスでは標識にたよらない身体的特徴などによる個体識別法は有効であることが示唆された.この方法による個体識別が正しいとすると,札幌で繁殖するハシボソガラスの中には一時的な1夫2妻が形成されることがあり,これらのトリオ形成は,必ず第1♀が数年間続けて繁殖に失敗したあとに起こった.第2♀の由来は,2例で近隣のテリトリーから移動してきた若い♀であり,1例の♀の由来は不明であった.2例で第1♀が消失または死亡してから第2♀が「本妻に昇格」した.これらのつがい関係で興味深いのは第1♀の繁殖力が低下または消失してもつがい関係を一定期間維持し続けることである.本調査の観察は,テリトリー内につがい以外の個体が許容されても必ずしもヘルパーではないこと示すものである.
著者
屋地 康平 松木 吏弓 北村 亘 畔柳 俊幸 足立 和郞
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.45-51, 2013 (Released:2013-05-28)
参考文献数
23

電力設備の塩害対策として広く用いられているシリコーンオイルコンパウンドの塗布部分には,鳥類が原因と見られる著しい剥離の進行が散見され,保守現場で問題となっている.適切な鳥害対策を施すためには,鳥類種の特定が必要であることから,本研究では,シリコーンオイルコンパウンドと思われる人工物質を内容したペリットを採取し,DNA分析による種の特定,およびIR分析による内容物同定を行った.その結果,ペリットの吐出主がハシブトガラスであること,およびペリット試料に含まれる人工物が,設備のシリコーンオイルコンパウンドと同一の成分であることを突き止め,シリコーンオイルコンパウンド塗布部分への被害が,ハシブトガラスによってもたらされたことを示す一例を突き止めた.また,カラスの行うシリコーン化合物の採食行動が,従来考えられていた人工物からの脂質摂取とは異なる目的でなされた行動である可能性を指摘した.
著者
小田谷 嘉弥 山口 恭弘 熊田 那央
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.317-325, 2019-10-25 (Released:2019-11-13)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

ハス田における水鳥類によるレンコンの採食被害の防止のために,防鳥ネットが日本各地で用いられている.本研究では防鳥ネットの侵入抑制効果を検証するため夜間のハス田への飛来数および在不在を指標として,防鳥ネットの効果を他の環境要因と合わせて一般化線形混合モデル(GLMMs)で検証した.2011年の2月–3月(春期)と10月–12月(秋期)にそれぞれ6回の野外調査を茨城県土浦市およびかすみがうら市の80か所のハス田において行い,飛来している水鳥類の個体数を調査した.個体数の平均値は,春期,秋期ともに防鳥ネットを張ったハス田で少ない傾向が見られたものの,水鳥類の飛来数を目的変数としたモデル解析を行ったところ,いずれの季節/種においても防鳥ネットの有無や設置方法の違いは水鳥類の飛来数に影響を及ぼさなかった.一方,ハス田に残されたくずレンコンの量は,カモ類とオオバンFulica atraの合計,カモ類の合計,ヒドリガモAnas penelopeと秋期のマガモA. platyrhynchosの個体数に正の影響を与えており,湖からの距離は春期および秋期のオオバンの個体数に負の影響を,春期のヒドリガモに正の影響を与えていた.すなわち,防鳥ネットによって水鳥類の侵入を有効に抑制できているとは言えず,ハス田における被害対策のためには,防鳥ネットの隙間を作らないような適切な設置に加え,くずレンコンの除去などハス田の環境を考慮した対策が必要であることが示唆された.
著者
富田 直樹 仲村 昇 岩見 恭子 尾崎 清明
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.143-152, 2013 (Released:2013-11-21)
参考文献数
32

2011年10月から2012年3月までに日本全国14県17ヶ所において,渡り・越冬中のオオジュリンで,尾羽の形成不全(以下,尾羽異常とする)の個体が頻繁に観察された(5,541個体中767個体,13.8%).尾羽異常個体は,ほとんど幼鳥であった(97.3%).尾羽異常の形態は,以下の3型のいずれかに明確に分類された;虫食い状欠損型(45.9%,約1 mmの穴が数ヶ所開いている状態や,羽枝が途中で溶けたようになり,その先が欠損している状態),成長異常型(14.5%,伸長か不全の2種類で,正常羽と比較して,伸長で5.0±3.0 mm(平均±標準偏差)長く,不全で5.8±3.1 mm短かった),及びこれらが同時に観察される複合型(39.6%).虫食い状欠損型は尾羽中央3対に,成長異常型は中央2対に高頻度で観察された.その他ホオジロ科鳥類3種,ホオジロE. cioides(91個体中4個体,4.4%),カシラダカE. rustica(229個体中3個体,1.3%),及びアオジE. spodocephala(1,066個体中16個体,1.5%)でも同様の異常が少数例観察された.
著者
田中 公教 小林 快次
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.57-68, 2018 (Released:2018-05-11)
参考文献数
98

ヘスペロルニス目Hesperornithiformesは,白亜紀前期アルビアン期-白亜紀後期マーストリヒチアン期の北半球に広く分布した歯のある潜水鳥類である.鳥類の進化史上初めて潜水適応した最古の潜水鳥類として知られており,これまで15属31種が報告されている.1871年に初めて骨格化石が発見されたヘスペロルニスHesperornis regalisは,前肢が極端に発達しており,胸骨は竜骨突起を失い平たくなり,後肢は非常に発達していた.これらの形態的特徴から,ヘスペロルニスは白亜紀の飛翔能力を失った後肢推進性潜水鳥類と考えられる.この発見の後,アメリカ,カナダ,イギリス,スウェーデン,ロシア,カザフスタン,モンゴル,日本などから新たなヘスペロルニス目の化石が報告され,最古の潜水鳥類の進化の道のりが徐々に明らかになってきた.本稿では,現生鳥類の起源についての近年の研究のレビューを行い,現生鳥類がいつ頃から多様化を始めたのかを議論し,中生代の鳥類の最近の系統分類学を概観する.さらに,ヘスペロルニス目の発見からこれまでの研究を概説し,明らかになってきたヘスペロルニス目の生態や今後の研究課題について議論する.
著者
須藤 翼 柿崎 洸佑 青山 怜史 三上 修
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1-9, 2017 (Released:2017-05-13)
参考文献数
25

世界的に普通種の減少に注目が集まっている.普通種は個体数が多いため,その減少は生態系サービスに大きな影響を与えるからである.日本においては,普通種であり,かつ最も身近な鳥の1つであるスズメが減少していると言われている.これまでスズメの減少要因として,建物の建て代わりによってスズメが営巣できる隙間の数が減ったこと,都市の緑地が減って繁殖成績が下がったことが挙げられているが,どちらも間接的な証拠しかない.そこで本研究では,北海道函館市内の住宅地に10,000 m2の調査区を24設置し,緑地に近いかどうか,建物の隙間の数が多いかどうかによって,スズメの営巣数が異なるかどうかを検証した.AICを基準に,スズメの営巣数を説明するモデルを選択した結果,スズメの営巣数は,緑地が近くにあること,営巣できそうな換気口の数が多いこと,に正の影響を受けていることが示された.もしこの要因が確かなら,今後も,スズメの減少は続く可能性がある.都市における緑地は減少し,建物の建て替わりによってスズメが営巣できる隙間の数は減少すると予測されるからである.
著者
刘 利 鎌田 直樹 杉田 昭栄
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.77-83, 2012 (Released:2012-04-27)
参考文献数
28

本研究においては光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡を用いて,ハシブトガラスCorvus macrorhynchos舌の表面微細構造を観察した.本種の舌は舌尖,舌体,舌根の3つの部位から構成され,舌先の先端は左右に2分されており,左右共に上下二層構造を持っていた.舌体は扁平状で円形の舌隆起を有し,その尾側縁には円錐乳頭が連なっており,外側にはより大型の乳頭が見られた.さらに,粘膜下層には2種類の結合織芯が存在し,その境界は明瞭であった.舌根の表面および舌体の側面には大型の唾液腺の開口部が観察され,それらの周辺には味孔が分布していた.このように,ハシブトガラスの舌の形態・構造には動物食性鳥類のものと類似した点が多く,わずかに植物食性の鳥類の特徴も合せ持つことが明かとなった.また,形態に基づいた機能的類型に照らし,本種の舌は採集型と嚥下型の両方の特徴を合わせ持つと考えられた.
著者
宮澤 楓 島田 将喜
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.153-162, 2017 (Released:2017-11-16)
参考文献数
33
被引用文献数
1

ヤンバルクイナによる台石を使用したカタツムリの殻の割り方と殻の割れ方の対応関係を,行動の直接観察と殻の割れ方の分類によって明らかにした.沖縄県国頭村にて,センサーカメラをもちいた行動観察と,カタツムリの殻の採取を行った.動画内で識別された4個体すべてから地上に露出した石に,カタツムリの殻口を嘴で咥え保定し繰り返し叩きつけて殻の反対側を破壊し中身を食べるというパタンが観察された.台石使用行動はヤンバルクイナにとって一般的で定型化した採餌行動と考えられる.採取されたカタツムリの殻の割れ方は4つのタイプに分類されたが,うち大多数を占めるType 1と,Type 2はヤンバルクイナによる食痕の可能性が高いことが示唆された.クイナ科の系統でこの台石使用行動が直接的証拠により確認されたのは,ヤンバルクイナが最初である.台石使用行動は,丸飲みは不可能だが常時利用可能性の高い大型のカタツムリを採食可能にするという機能をもつ.
著者
福田 道雄 成末 雅恵 加藤 七枝
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.4-11, 2002 (Released:2007-09-28)
参考文献数
69
被引用文献数
25 24

日本におけるカワウの生息状況は,非常に劇的な変化を示した.1920年以前は北海道を除く全国各地で普通に見ることができた鳥であった.ところが,明治以降から戦前までの間は,無秩序な狩猟などによって急減したとみられる.戦後は水辺汚染や開発などによって減少したと考えられ, 1971年には全国3か所のコロニーに3,000羽以下が残るのみとなった.しかしながら,その後カワウは残存したコロニーで増加し始め,それらの近隣広がった.1980年代からは愛知,岐阜,三重の各県で始まった有害鳥獣駆除の捕獲圧による移動や分散で,各地に分布を拡大していったと考えら れる.増加の主な理由は,水辺の水質浄化が進み生息環境が改善したこと,人間によるカワウへの圧迫が減少して営巣地で追い払われることが少なくなったこと,そして姿を消した場所で食料資源である魚類が回復したことなどが考えられる.2000年末現在では,50,000~60,000羽が全国各地に生息するものと推定される.