著者
蓮沼 誠久 近藤 昭彦
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.95-101, 2014 (Released:2017-02-01)
参考文献数
10

低炭素社会の構築に向けて,再生可能で食糧と競合しないリグノセルロース系バイオマス資源からバイオ燃料や化学品を生産する 「バイオリファイナリー」 の確立が求められている。糖プラットフォームを用いるバイオエタノール生産を例に取ると,そのプロセスは、結晶化したバイオマスを膨潤化する前処理工程,バイオマスを加水分解する酵素処理工程,微生物による発酵工程,生産物の分離回収工程から成り立っており,省エネルギーかつ低コストなプロセス開発の成否が実用化の鍵を握っている。微生物の細胞表層にセルラーゼを集積させる「細胞表層工学技術」は,酵素生産と糖化,発酵をワンパッケージ化することが可能であり,プロセスを簡略化することができる。また、高価なセルラーゼ製剤の生産に必要となる材料や設備の省略が可能となる。一方で,発酵を効率化するには,微生物細胞内の代謝メカニズムを機能的な方向に改変する必要がある。筆者らはトランスクリプトーム解析やメタボローム解析等のマルチオミクス技術を活用して微生物の代謝系を遺伝子レベルや代謝物レベルで網羅的に解析することで新規の微生物改変戦略を立案し,その発酵性能を向上させることに成功してきた。微生物をより優れたエタノール生産工場にするためには,代謝をシステムとして理解し,合理的に改変することが重要である。本稿では細胞表層工学技術と代謝工学技術を組合せた微生物によるバイオエタノール生産について紹介する。
著者
近藤 昭彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.109, 2020 (Released:2020-03-30)

2019年秋季に千葉県は台風15号、19号および台風21号の影響による風水害に見舞われた。一連の災害で最も広域の被害があったのは台風19号であり、この時は千葉県はむしろ被害は少ない印象を報道は与えたように思う。台風19号が、その後開催されたシンポジウム等では中心課題となったようである。しかし、連続する風水害が三重苦となった地域も多い。これは災害に対する外からのまなざしと内からのまなざしの違いといえる。前者では研究の成果の公表、後者では行政による災害対応、ボランティアや被災者自身を含めた復旧・復興が具体的なアクションとなるが、災害をわがこと化し、ふたつのまなざしを融合させる意識の醸成が大切だろう。 台風15号による強風は家屋の破壊、送電網の切断、倒木等の被害が生じたことはこれまでに報告されている通りである。災害の誘因は強風であるが、素因としての人間的側面をいくつか挙げることができる。・建物の老朽化:人口減少、高齢化と関連・雨戸の機能の失念:伝統的家屋の機能の再認識・森林管理の不全:拡大造林とその後の林業の不振 長引く停電は多くの家庭で不便を生じさせたが、多くの場所で末端の電信柱が倒れたため、復旧が追いつかなかったためである。これは送電システムに対する課題であり、これを機に自然エネルギーの活用策が進むと良いと思う。 土地利用、土地条件および地形と水害の関係は地理学の課題であり、防災、減災の要といえる。今回もこれらの関係が説明可能な事例が多く見られた(仮説を含む)。・JR佐倉駅東方高崎川鏑橋における氾濫(台風21号) 市街地が高崎川の沖積低地に発展したため、高崎川が市街地に入る部分が狭窄部となっており、従前から治水上の課題であった。・茂原の氾濫(台風21号) 概ね想定された範囲で浸水が発生したが、この地域は天然ガス鹹水の揚水による地盤沈下が進行している。地盤沈下と治水安全度の関係は現時点では不明であるが、受益と受苦の関係性に関わる社会的な問題でもある。・八街市の氾濫(台風21号) JR八街駅は台地上にあり、台地面上に市街地が発達している。関東ローム層底部には常総粘土層が発達しており、昔から湿潤な土壌を好む里芋の産地である。台地上によく見られる皿状地(台地の離水過程で形成された地形)では従前から夕立程度の雨でも広く湛水する地点が多数存在した。・長柄町、長南町の氾濫(台風21号) 丘陵地帯に位置する長柄町、長南町でも氾濫が発生した。ハザードマップはできていたが、浸水想定区域外でも浸水が発生した。この地域は上流部に塊状泥岩である笠森層が分布し、降雨時に飽和帯が発生しやすい。地質の特徴が急な浸水の発生を促した可能性がある。 以上のように、土地条件と水害の関連を地理学的知識に基づいて説明することは可能である。知識を智慧に変え、短期的だけではなく長期的な観点から災害に強い地域を創ることは地理学に課せられた課題であろう。 現在、多くのダムでは事前放流を行い、豪雨に備える対策をとっている。印旛沼でも台風15号の際に事前放流を行い、水位を下げた結果、沼の水位を低く抑えることができた。二つの排水機場を動作させなかった場合は水位は計画高水位を超えたであろうことを水資源機構は報告している。また、印旛沼土地改良区では排水ポンプを止めて、収穫後の水田を湛水させることにより印旛沼の水位上昇抑制に貢献している。隠れた努力、行為を知ることも防災意識向上への契機となりえる。 君津市久留里では台風15号により停電、断水等の被害に見舞われたが、上総掘りの自噴井が役に立ち、給水車を他地域に配置ができた事例があった。浅層地下水が利用できる富里市では発電機によるポンプの稼働で給水ができたという話を聞いた。地域の自然資源の活用は災害に強い地域づくりの要となるだろう。 ハザードは避けられないものだとしても、それをディザスターにしない方法を地理学的知識に基づき、生み出すことがでる。それが防災に関わる教育の目標である。一方、我々は近代文明の成果である治水施設により守られていることを知ることも重要である。 災害は地域で発生するので、地域ごとに素因を明らかにすることによって地域の安全を創り出すことができる。本文では十分な検証を経ずして記述している部分もあるが、今後の防災教育では地域の人が地域を知ることにより、地域の安全に関わる知識を生み出すことが災害に対して強い地域を創り出すことになる。それが必履修化される「地理総合」の目指すところではないだろうか。
著者
西廣 淳 大槻 順朗 高津 文人 加藤 大輝 小笠原 奨悟 佐竹 康孝 東海林 太郎 長谷川 雅美 近藤 昭彦
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.175-185, 2020-03-28 (Released:2020-04-25)
参考文献数
56
被引用文献数
5

著者らは,かつて里山として利用されてきた自然環境を持続可能で魅力的な地域づくりに役立てる方策を「里山グリーンインフラ」と称し,個々の活動の有効性の検証や社会実装について議論している.本稿では,印旛沼流域に広く分布し,かつて水田として利用され,現在では多くが耕作放棄地になっている「谷津」(台地面に刻まれた枝状の幅の狭い谷)に着目し,谷津の湿地としての維持・再生や,その流域の台地・斜面の草原や樹林の維持・再生によってもたらされうる多面的機能を,既存の知見や現地での調査結果から論じる.具体的には,谷底部を浅く水温の高い水域として維持することは,脱窒反応を通して下流への栄養塩負荷を軽減しうる.谷底部での湧水を保全するとともに水分を保持する畔状の構造に成形することで,絶滅危惧種を含む多様な生物の生息場となる湿地環境を生み出しうる.また定量的評価に課題はあるものの,雨水の流出抑制や浸透を通して治水にも寄与する可能性がある.
著者
近藤 昭彦
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.11, pp.788-799, 2003-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

本稿はリモートセンシングとGISを水文過程研究の重要な手法とし,さらに社会に貢献できる成果を生み出すためのリモートセンシングとGIS技術の応用のあり方について論じた.水循環研究の対象はグローバルからローカルスケールにわたる.グローバルは多数の地域から成り,個々の地域は固有の多様性,関連性,空間性,時間性,すなわち地域性を持つ.人間社会に還元できる科学の成果を出すためには地域の視点が必要である.同時に,地域をグローバルの中に位置付けることによって,国際社会に還元できる成果を生み出すことができる.このような応用はGISによって空間上に集積された知識ベースによって実現できると考えられる.
著者
田邉 浩文 生田 宗博 三川 年正 近藤 昭彦
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.505-510, 2019-08-15 (Released:2019-08-15)
参考文献数
23

音楽家にみられるフォーカルジストニアは,演奏中に現れる不随意運動であり,音楽家としてのキャリアを終了させることもある.フォーカルジストニアの病態生理に関する先行研究から,フォーカルジストニアの症状出現は,筋緊張異常や軟部組織の短縮に起因する異常な感覚入力により,大脳皮質の抑制系の活動減少を来すことが主因と仮説を立てた.本報告では,1名のフォーカルジストニア患者に対して6ヵ月間,外来で定期的に異常な軟部組織に対する治療介入と,セルフメンテナンスの実践に関するモニタリングを面接で行った結果,フォーカルジストニアの症状が改善するとともに筋緊張異常が減弱し,演奏に大きな支障を来さないまでに回復する結果が得られた.
著者
川口 秀夫 寺村 浩 中村 聡子 荻野 千秋 原 清敬 蓮沼 誠久 老沼 研一 高谷 直樹 平野 恒 佐塚 隆志 北野 英己 近藤 昭彦
出版者
一般社団法人 日本エネルギー学会
雑誌
バイオマス科学会議発表論文集 第11回バイオマス科学会議 (ISSN:24238333)
巻号頁・発行日
pp.35-36, 2016-01-14 (Released:2017-03-22)

Sorghum bagasse pretreated with diluted acid, which was predominantly composed of glucan (59%) and xylan (7.2%), was used as a lignocellulosic feedstock to produce D-phenyllactic acid (PhLA) by a recombinant Escherichia coli strain expressing phenylpyruvate reductase from Wickerhamia fluorescens. Compared to filter paper hydrolysate, the PhLA yield was reduced by 35% during fermentation with enzymatic hydrolysate of sorghum bagasse as a carbon source, and metabolomics analysis revealed that intracellular levels of erythrose-4-phosphate and phosphoenolpyruvate and NAD(P)H regeneration for PhLA production from glucose markedly reduced. Compared to the separate hydrolysis and fermentation (SHF) with sorghum bagasse hydrolysate, simultaneous saccharification and fermentation (SSF) of sorghum bagasse under glucose limitation conditions yielded 4.8-fold more PhLA with less accumulation of eluted components of p-coumaric acid and aldehydes, which inhibited PhLA fermentation. These results suggest that gradual hydrolysis of sorghum bagasse during SSF reduces the accumulation of both glucose and fermentation inhibitors, collectively leading to increased PhLA yield.
著者
蓮沼 誠久 石井 純 荻野 千秋 近藤 昭彦
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.689-695, 2015-09-20 (Released:2016-09-20)
参考文献数
10
被引用文献数
3

持続可能な社会へ向かうためには再生可能エネルギーが中心的な役割を果たすことが求められている.そのなかで,バイオマスから液体燃料やバルクケミカルを経済性良く,高効率で生産する技術の開発が期待されている.バイオマスとしては,安定的な供給が可能で,食糧と競合しないリグノセルロース系バイオマスの利活用が望まれている.本稿ではリグノセルロース系バイオマスからのエタノールの製造プロセスについて研究の課題と最新の知見を紹介するとともに,バイオプロセスによるバルクケミカル生産に関する最近の研究例についても紹介する.
著者
濱 侃 田中 圭 望月 篤 鶴岡 康夫 近藤 昭彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<b>Ⅰ</b><b> はじめに</b><br> 現在,農地を小労力,低コスト,低環境負荷で適切に管理するための作物の生育に関するデータの取得方法として,Unmanned Aerial Vehicle(UAV)を利用した近接リモートセンシングの活用が検討されている。そこで,衛星(特に光学衛星)を用いたバイオマス計測をはじめとした植生モニタリングの知見が応用され,施肥量の調整といった実利用を目的とした研究が進められている。これらのUAVを用いた観測データは,農家にとっては生育調整などに利用でき,同時に,搭載するセンサー次第で任意のデータを高頻度に取得可能なオンデマンド型リモートセンシングとして植生モニタリングに利用することができる。<br>本研究では,水稲を対象にUAVを用いた植生モニタリングを行い,高い時間および空間分解能の画像の取得に基づくフェノロジー観測,生育量の推定を試みた。<br><b><br> Ⅱ</b><b> 研究手法</b><br><b>☐</b><b> </b><b>フィールド観測</b><br> 千葉県農林総合研究センターの水稲試験場において,2014年,2015年の2年間,水稲の生育期間を中心におおむね週1回間隔で観測を行った。試験圃場は,2筆の水田を48区画に細分し,移植時期(全4期),品種(コシヒカリ,ふさおとめ,ふさこがね),施肥量(3~10gN/m&sup2;)を変えている。観測には,小型UAV(電動マルチコプター),可視光撮影用と近赤外撮影用のデジタルカメラ(可視画像:RICOH社 GR,近赤外画像:BIZWORKS社 Yubaflex)を用いて対地高度50mから空撮を行った。水稲の生育状況の実測データは,千葉県農林総合研究センターの観測値を使用した。<br><b>☐</b><b> </b><b>画像解析</b><br> オルソモザイク画像,3次元地表面モデルは,複数枚の重なり合う画像から自動でオルソモザイク画像,3次元地表面モデルを作成可能なSfM/MVSソフトウェアPhotoScan<br>Professional v1.2(Agisoft社)を用いて作成した。なお,近赤外撮影用カメラで撮影した画像は専用ソフト(Yubaflex2.0)で放射輝度に変換後,SfM/MVSソフトウェアを使用した。その後,植生指数(正規化差植生指数(NDVI)など)を計算し,植生活性度の計測および生育パラメーターの推定に使用した。なお,これらの情報をGIS(地理情報システム)上に集積し,時空間変化の解析を行った。<br><br><b>Ⅲ</b><b> 結果・考察</b><br> NDVIpvの時系列変化は,移植から出穂にかけて値が上昇し,その後登熟にかけて下降を示し,ピークの時期はほぼ出穂期と一致する。また,移植時期の差によるフェノロジーの差も,時系列変化に表れた。移植時期が遅いほど,出穂までの生育期間が高温になることで生育速度が早くなり,移植からNDVIpvのピークまでの期間が短くなった。移植時期が4月初旬と6月初旬で,その差は最大で24日となった。また,移植時期が遅いほどNDVIpvの最大値も高くなり,植生の活性度は高くなった。しかし,収量は増加せず,それらの区画では,重度の倒伏が確認され,過剰な生育の影響が示唆された。<br> 植生指標を用いて,出穂前(追肥の適期)の水稲の生育パラメーター(草丈,LAI)の推定を行った結果,草丈では特に推定精度が高く,平均二乗誤差は約5cmとなった。また,3次元地表面モデルから求めた草丈と実測した草丈を比較した結果,決定係数(R<sup>2</sup>)は0.82と高く,3次元地表面モデルを草丈の計測に使用できることがわかった。これらの草丈計測・推定手法の応用としてコシヒカリにおける倒伏予測を行った結果,予測エリアと実際の倒伏エリアは概ね一致した。
著者
小林 達明 高橋 輝昌 保高 徹生 近藤 昭彦 鈴木 弘行
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

福島第一原発事故による放射性Cs汚染に対する除染作業による里山森林生態系の反応を3年間継続測定した。137Csの初期沈着量は500kBq/m2だった。137Csの林冠から林床への供給は、2013年7kBq/m2だったのが2014年4.4kBq/m2に減少したが、2015年には4.7 kBq/m2に増加した。これは137Cs動態が平衡状態に移行しつつあることを示す。林床の137Cs蓄積量は有機物層除去で79%、リター除去で43%減少した。林冠から林床への137Cs供給はそれぞれ38%と33%減少した。処理効果は見られたが、有機物層下層の除去は可給態Csの減少にあまり貢献しなかったと考えられる。
著者
西尾 文彦 近藤 昭彦 中山 雅茂
出版者
千葉大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

寒冷な大気状態で降る雨や霧雨(着氷性降水)が付着凍結する雨氷現象は、森林被害や構造物・送電設備の倒壊被害を発生させる。本研究では、日本における着氷性降水の気象学的および気候学的な特徴の解明を目的として、(1)気候学的な特徴の把握(総観規模の特徴)、(2)発生条件の形成過程の解明(局地規模の特徴)、(3)大気の熱力学的構造の解析(雲物理規模の特徴)の観点から解析と研究を行った。そして、着氷性降水の発生予測手法を提案し、地上降水種(降雪・雨氷・凍雨・雨等)の地域分布の予測手法の可能性を示した。(1)では、中部地方以北の内陸山間部と関東地方以北の太平洋側平野部で着氷性降水の発生率が高く、着氷性降水の発生に関する季節変化と経年変化、地上気圧配置の特徴について示した。(2)では局地解析より、内陸山間部では盆地地形による寒気滞留が発生気象条件の形成に寄与し弱風下で発生し、太平洋側平野部では内陸からの局地的な寒気移流が関与して風を伴って発生するのが特徴である。この違いにより、太平洋側平野部では雨氷表面における負の熱フラックスが大きく、雨氷が発達しやすい大気状態にある。(3)では、熱力学的な理論計算により降雪粒子の融解条件と雨滴の凍結条件を求め、これと地上の露点温度の条件から着氷性降水の発生を予測する方法を提案した。推定された地上降水種の地域分布は、関東平野の事例における実際の降水種の地域分布に良く一致した。本研究では、着氷性降水の現象解明から発展して予測手法へ導く極めて独創性のある研究成果であると考えています。
著者
白木 洋平 近藤 昭彦 渡来 靖
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.472-479, 2011-09-30

近年,都市化が進展している関東地方ではヒートアイランド現象の影響による気温の高温化が年々顕著になっており,社会的な関心を集めている。このヒートアイランドの実態を把握する手段の一つとして,同時期同時刻の観測データを面的に取得することが可能な衛星リモートセンシングより推定される地表面温度データを利用する方法がある。そこで,本研究ではNOAA12およびNOAA14のAVHRRから作成した地表面温度のコンポジット画像を用いることで,関東地方におけるヒートアイランド現象の実態把握を行った。対象期間は1997年から2001年の5年間,ヒートアイランドが顕著に発生する冬季明け方(1月,2月の午前3時から午前6時を対象)と,比較対象として夏季明け方(7月,8月の午前3時から午前6時を対象)を選定した。次に,関東地方の地表面温度は都市の影響を最も受けていると考えられることから,都市域の分布と地表面温度の関係についても評価を行った。<BR>その結果,夏季明け方の地表面温度分布の形成には都市域の分布が大きな影響を与えていたが,冬季明け方の地表面温度分布の形成には都市域のみならず関東地方を取り巻く山地の斜面中腹に発生している斜面温暖帯が大きな影響を与えていることがわかっ
著者
近藤 昭彦
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学環境リモートセンシング研究センター年報
巻号頁・発行日
vol.3, pp.81-82, 1998-11

リモートセンシングは水文科学の研究において重要な道具となり得るだろうか。その可能性がある限り徹底的に追求するのが,環境リモートセンシングを確立させるための道順である。現在取り組んでいる課題の主なものは可視・赤外のリモートセンシングによって,1)蒸発散量をダイレクトに推定できるか,2)広域の乾湿状況を把握できるか,の2点である。様々な現象が積分されて記録されている衛星データから必要な情報を抽出するためには,対象とする現象と衛星データのシグナルの中に経験的な関係があるかどうかをまず検討する必要がある。そのような関係が得られれば,その物理的背景を検討することによって,新しい手法,モデル,アルゴリズムが発見される可能性が生じる。このような立場から,草地における蒸発散量と植生指標の関係について最初に発表した。実際に計測された蒸発散量とTMによる植生指標は草木の生育期間では驚くほどよく一致した。蒸発散量は光合成速度,バイオマスとも高い相関を持つため,リモートセンシングにより植生に関わるrateおよびstateを推定できる可能性は確かめられた。次に,NOAA/AVHRRにより,中国わい河平原において広域乾湿分布の推定を試みた。手法は,横軸に植生指標,縦軸に輝度温度をとり,散布の傾きを乾湿の指標とする方法である。得られた乾湿分布は先行降雨指数の分布と非常によく一致した。時系列データも梅雨明け後の乾燥過程を明瞭に捉えていた。その物理性に関しては今後,熱赤外イメージャー,分光放射計を使って検討する準備は整った。以上のように,リモートセンシングでは最も実用的である可視・赤外のセンサーによる情報抽出にかなりの程度成功したといえる。当日は以上の話題の他にもデータベース部門のホームページの紹介を兼ねて様々な話題提供も行った。
著者
樋口 篤志 近藤 昭彦 杉田 倫明 機志 新吉
出版者
筑波大学
雑誌
筑波大学農林技術センター研究報告 (ISSN:09153926)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.19-32, 1999-03

水田は農業的な側面のみだけではなく、モンスーンアジアを代表する土地被覆という観点から、水文学的・気候気象学的側面でも重要な土地被覆である。また、リモートセンシング技術は非接触で地表面の状態を連続的にモニターできる唯一のツールである。本研究では水田の大気-陸面過程のより深い理解のために、地表面フラックスと分光反射特性の連続的な観測を行った。地表面フラックスはボーエン比熱収支法を用いて算出し、分光反射特性に関しては近赤外波長域まで撮影できるビデオカメラを用いて"面"的な観測を行った。結果は以下に要約される; 1)地表面フラックスは、日変化レベルでは成長期には有効エネルギーの多くを水体の貯熱量変化に使われ、成長後はそのほとんどが顕熱に消費されていた。 2)地表面フラックスの季節変化では、稲キャノビーの成長期に有効エネルギー(Qn=Rn-G:RnとGはそれぞれ正味放射、地中熱流量)中、顕熱(IE)に消費される割合(IE/Qn)に明確な上昇傾向がみられ、"Ageing effect"(植物体の成長期の違いによって気孔コンダクタンスが変化する)に伴う、植物生理学的な要因が影響していると考えられた。 3)分光反射特性の季節変化は、近赤外波長域のそれはアルベドのそれに類似し、赤色域は成長初期に減少、収穫期に増加傾向が認められた。植生指標の季節変化は稲の活性度を比較的反映していた。
著者
開發 一郎 山中 勤 近藤 昭彦 小野寺 真一
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

1998年から2002年までの河川水文データーの内、2001年と2002年のデータはまだ補正解析を要したので、1998年から2000年までの河川水文データを集中的に解析した。その結果、4月から10月までに流出が見られ、降雨に対する流出のレスポンスは明確であり、3月・4月には降雨-流出や凍土融解-流出という寒冷乾燥地域の水文特性を把握した。また、既存資料によるセルベ川流域の流出解析と水収支計算から降水量の約60%が蒸発散であった。自動水循環ステーション(WaCS)モニタリングを2002年6月から開始し、データ処理と現象解析を実施したが、2002年末からWaCSの電源系の故障のため解析に耐えうるデータがその後十分取得できなかった。2002年夏のデータ解析から、降雨に対応して4月から11月までの間が地中水循環の活発な時期であり、2003年8月には流域内の河川・湧水の集中水文調査(土壌ほかの一般調査を含む)から、降水量の多かった2003年の河川流量は2002年に比べて源流域で3倍,流下距離が30kmの下流域で数十倍であったことや流下距離が10km以前の河川は地下水流出域,それ以降は地下水涵養域であることおよび主流路に対して30km付近では周囲からの地下水が流出している場となっていることが示唆された。セルベ川とトーラー川の地表水・地中水の水質分析と同位体比分析の結果から、セルベ川流域の浅層地下水の平均対流時間が約1.3年でトーラー川のそれは約30年であることが分かった。モンゴル国自然環境省の自然環境モニタリングステーションのトーラー川流域からモンゴル全土にかけての土壌水分と地表面植生のルーチンデータの時空間解析を行い、降水量の植生への影響を明らかにし、今後の衛星リモートセンシングのための基本解析結果を得た。