著者
林 信太郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

ブラタモリとはどういう番組か?「ブラタモリ」は NHK総合テレビで2008年から放送されているエンターテインメント・教養番組で,その視聴率は時として15%を超える。タレントのタモリ(以下タモリさん)がNHKの若手アナウンサーとともに各地を“ブラブラ”歩きながら謎解きをし,様々な発見をする。また,「案内人」という解説者の問いかけにより番組が進行する。謎解きの「お題」には,しばしば地質学や地理学に関連したものが登場し,地球科学のアウトリーチに大きな効果を発揮している。講演者は「#81 十和田湖・奥入瀬~十和田湖は なぜ“神秘の湖”に?~」メインの案内人として登場した。「ブラタモリ」:私の印象と案内人の責任 私の印象:番組中で見せるタモリさんの地球科学に関する広い知識は本物と強く感じた。また,タモリさんの発見能力,対象をじっくりと思考する真摯な態度は,たいへん印象に残った。また,案内人の私にコンタクトを取る以前に,担当ディレクター(地球科学の非専門家)は,文献から得られる情報はほとんど調べつくしていた。 案内人の責任:案内人には番組の科学的妥当性を担保するという社会的責任がある。「ブラタモリ」は地球科学者の視聴率も高く,常に誤りがチェックされている。実際,「ブラタモリ」と同時進行で,ツイッターで批判的意見をつぶやく地球科学関係者は多いし,自分でもたいへんそれを楽しんでいる。しかし,自分が案内人の場合はそのプレッシャーがことごとく自分にかかってくるのである。 番組の正確性の担保のため,案内人は調査に多大な時間をかける。講演者の場合,十和田湖や奥入瀬に関連した書籍や論文を100編以上参照した。また,案内人はこの他にロケハンやリハーサルの作業にも付き合い,番組の正確性を担保する。現場の確認(ロケハン)のために合計4日間,現地での(タモリさん抜きでの)リハーサルや最終確認のために3日を要した。実験とブラタモリブラタモリの番組内ではしばしば実験が解説の手段として用いられる。「#81 十和田湖・奥入瀬~十和田湖は なぜ“神秘の湖”に?~」では,カルデラ湖のでき方をココアとコンデンスミルクを用いて説明した。ココアの山の中にコンデンスミルクで見立てたマグマを置き,それを下から抜き取ることでカルデラ陥没を起こすという実験である。この実験は小中学生を対象に何度も試行したことがある。これまでの授業経験から,言葉での説明や図解でカルデラのでき方を理解させることが難しいことはわかっていた。そのため,番組にこの実験は必須だった。視聴者やタモリさんに,カルデラのでき方について納得させるだけではなく,ココアでできたカルデラの形状の観察も番組のその後の部分に繋がった。ブラタモリで実験が採用されるための必要条件? じつは提案はしてみたが,番組に採用されなかった実験も多い。その1例として「パリパリ溶岩実験」がある。先端を溶融したガラス棒を水につけ水冷破砕させるという実験である。ブラタモリの他の回の番組で2度提案したが,どちらも不採用だった。 「パリパリ溶岩実験」不採用の理由として考えられることは,「パリパリ溶岩実験」は1)ビジュアル的に地味である,2)ガラスと水という素材はあまり印象的ではない,の2点が挙げられる。もちろん,単に番組の編集作業の過程で提示する時間がないため削られただけという可能性もある。ブラタモリとアウトリーチ地球科学分野におけるアウトリーチ活動は, 1)研究資金の獲得;2:後継者の育成;3:一般社会に認知してもらうことの3点で重要である(鎌田,2004)。そのために地球科学で得られた成果を科学者の側からわかりやすく発信していく必要がある。ブラタモリのアウトリーチ効果は2つある。第1にブラタモリは多くの国民が視聴し,科学者の努力では到達し得ない多くの国民へのアウトリーチが可能である。第2に科学者に対する教育効果が大きいことがあげられる。ディレクターは番組をわかりやすくするために徹底的に努力し,科学者の側はそこに啓発される。また,担当ディレクターとのやり取りの中で,わかりやすさと正確さを両立させる方法を体験的に学ぶことができる。 ブラタモリの案内人になることは,多大なエネルギーと時間を使うことである。しかしながら,その大きなアウトリーチ効果を考えると(声がかかった)研究者は積極的に応じるべきであろう。
著者
富山 眞吾 梅田 浩司 花室 孝広 高島 勲 林 信太郎 根岸 義光 増留 由起子
出版者
一般社団法人 日本鉱物科学会
雑誌
岩石鉱物科学 (ISSN:1345630X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.111-121, 2007 (Released:2007-11-29)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

Mutsu-Hiuchidake Volcano has an erosion caldera which shows a horseshoe-like geomorphological feature toward east. Tertiary strata as a basement are distributed in the caldera. Tertialy strata and a part of pyroclastic deposits of the Mutsu-Hiuchidake Volcano have altered strongly to moderately by hydrothermal activities related to the volcanism. This study is to clarify a progress history of the alteration by using a geological mapping, thermoluminescence (TL) dating, x-ray diffraction analysis, an infrared reflection absorption analysis and a fluid inclusion study.      Highly altered zone is recognized in the area of midstream to upstream along the Ohakagawa and the Koakagawa within erosion caldera. The argillic alteration zone surround a silicification zone in the highly altered area shows a circular distribution. The strongly altered areas are along NNW-SSE to NNE-SSW fractures. The alteration areas were divided into the smectite, kaolinite, alunite and pyrophyllite zones.      The kaolinite and alunite zones give the TL ages of quartz 67 ± 13 ka (KG-5), 88 ± 18 ka (OG-4) and 91 ± 23 ka (OG-1). The smectite zone within the argillic alteration zone of outside of collapse caldera, yield the ages 752 ± 215 ka (SO-2) and 615 ± 197 ka (KG-1). These TL ages suggest the hydrothermal activity end at 70 to 90 ka.      The existence of pyrophyllite suggests that hydrothermal temperatures were 200 to 250 °C in these area. This is supported from the homogenization temperatures of fluid inclusions in calcite, 242 °C in average.
著者
鹿野 和彦 大口 健志 林 信太郎 矢内 桂三 石塚 治 宮城 磯治 石山 大三
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.126, no.5, pp.233-249, 2020-05-15 (Released:2020-09-17)
参考文献数
38
被引用文献数
2

田沢湖カルデラから2-1.8Maのある時期に噴出した火砕流密度流起源のテフラを記載した.下部は多面体~平板型ガラス片と岩片に富むテフラで,マグマ水蒸気爆発に伴ってカルデラ崩壊が始まったことを示唆する.上部は淘汰不良無層理の気泡型ガラス片に富むテフラで,岩屑なだれ堆積物と共存しており,カルデラ形成噴火最盛期に放出されたことを示唆する.これらは長期的にわたって侵食され田沢湖近傍でさえほとんど残っていない.カルデラ形成後の1.8-1.6Maには2つの溶岩ドームがカルデラ床に,2つの溶岩流が外輪山に噴出している.また,カルデラ形成前にはカルデラ南縁で少量の安山岩が噴出している.
著者
林 信太郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

日本のジオパークは高校教育での地球惑星科学教育を支援できるのだろうか?答えはイエスである。ジオパークの高校への支援はジオパークにとって大きな意味がある。また,ジオパークからの支援は高校にとって有用である。はじめに,「地学基礎」,「地理総合」のカリキュラムについて述べ,その後ジオパークヘのメリット,高校へのメリットについて述べる。なお,カリキュラムについては2018年2月14日に示された新学習指導要領(案)に基づいて述べる。また,「地学基礎」と「地理A」の現行の教科書も参考にした。<「地学基礎」,「地理総合」のカリキュラムとジオパークによる支援可能な要素>「地学基礎」:大きく「地球のすがた」「変動する地球」に区分されている。これらのうち「地球のすがた」のプレートの運動や火山活動と地震,「変動する地球」の古生物の変遷,「地球の環境」の日本の自然環境のもたらす恩恵や災害,それらと人間生活との関わりについて,ジオパークには良い教材があり,探究活動のテーマも豊富である。「地理総合」:「地理総合」の内容は大きく3つに分けられる。すなわち「地図や地理情報システムで捉える現代世界」「国際理解と国際協力」「持続可能な地域づくりと私たち」である。このうち,「持続可能な地域づくりと私たち」は,さらに「自然環境と防災」「生活圏の調査と地域の展望」に区分される。「自然環境と防災」は課題探究活動の中で,自然災害,それへの備えや対応について知識を身につけ,ハザードマップや新旧地形図を読み取りまとめる技能を身につける。日本のジオパークの中には自然災害を主要なテーマとするものが多く(洞爺湖有珠山ジオパーク,三陸ジオパークなど)「自然環境と防災」分野では多くの支援が可能である。また,「生活圏の調査と地域の展望」の課題探究では,地域の成り立ちや変容,持続可能な地域づくりについて多面的・多角的に考察することとなっている。ジオパークの活動は持続可能な地域づくりを目的としている。したがって,ジオパークそのものが,「生活圏の調査と地域の展望」の教材となり,多くの支援が可能である。「地学基礎」と「地理総合」の相補的関係:従来の「地理 A」と「地学基礎」は,地形分野に関して相補的である。「地学基礎」では,地球内部の力が扱われるが,地形への言及は少ない。一方地形については「地理 A」で学ぶことができた。しかし,「地理総合」でどのように地形が扱われるか,詳細はわからない。学習指導要領(案)では地形への言及は少ない。ただし,「地理 A」の教科書と対応する学習指導要領とを比較すると,学習指導要領にほとんど言及のない地形に関する内容が教科書には含まれている。もし同様に「地理総合」の教科書に地形に関する内容が含まれているとすれば,「地学基礎」と「地理総合」の両方を学ぶことで相補的な地形理解が可能であろう。また,「地理総合」の自然災害に関する探究活動では,地形を題材にする可能性が高い。したがって,ジオパークにによる地形についての学習支援が重要であろう。また,「地学基礎」では地震や火山について災害の要因は学ぶが,災害そのものの学習は十分ではない。例えば,土石流や豪雪については,現行「地学基礎」の教科書には記述が見られない。一方「地理総合」では,地域の自然災害が探究活動の大きなテーマとなる。災害を多面的・多角的に理解するためには,「地学基礎」と「地理総合」の両者の学習が必要である。両者の学習が困難な場合は,ジオパークによる支援が有効である。<「地学基礎」,「地理総合」への支援:ジオパークのメリット>高等学校の「地学基礎」,「地理総合」の授業を支援することは,そもそもジオパークの3つの活動(保全,教育,地域の持続可能な発達)の一つの「教育」そのものである。このほかに,「地学基礎」,「地理総合」の授業支援には,ジオパークにとって3つのメリットがある。第1にジオパークを支える人材を生み出す効果がある。「地学基礎」,「地理総合」の探究的学習が行われた場合,地域の課題やジオパークの活動に関心のある人材が生まれる可能性が高い。第2に「地理総合」の探究的活動は地域活性化に直接貢献する可能性があり,その成果をジオパークに活かせる可能性がある。第3に「地学基礎」,「地理総合」の授業支援は,防災・減災にも有用である。したがって,防災・減災に関わる人材を生み出す可能性がある。<「地学基礎」,「地理総合」への支援:高校側のメリット>「地学基礎」,「地理総合」への支援は高校にとって3つのメリットがある。第1にジオパークの専門員や大学の教員を授業に活用できることである。ジオパーク関係の学術関係者は,対話やグループ活動を通じた授業を行える人材が多い。日常的にガイド教育を行うとともに,対話的に進行するNHKの人気番組「ブラタモリ」の影響を受けているためである。第2に,地球惑星科学を総合的に学ぶことが可能になる。「地学基礎」,「地理総合」を単独で学んだ場合,地学的現象を総合的な地球惑星科学の視点から学ぶことはむずかしい。第3にジオパークそのものに探究的活動の素材を見つけることができることである。以上のように,「地学基礎」,「地理総合」への支援はジオパーク側にも高校側にもメリットがある。したがって,ジオパークからの「地理総合」と「地学基礎」への支援は可能である。支援を活発化させるためには,ジオパークから高校への働きかけが重要であろう。
著者
千葉 達朗 林 信太郎 小野田 敏 栗原 和弘 藤田 浩司 星野 実 浅井 健一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.103, no.6, pp.XXI-XXII, 1997 (Released:2010-12-14)
被引用文献数
1

5月11日午前8時, 秋田県鹿角市の澄川温泉で, 地すべりと石流が発生, 澄川温泉と赤川温泉の16棟が全壊, 国道341号も寸断された. 5月4日頃から水の濁りや道路の変状等が察知され, 適切な警戒避難が行われたため, この災害による死者・負傷者はなかった. なお, 地すべりの最中に末端付近で水蒸気爆発が発生した. ここでは, 5月12日にアジア航測(株)が撮影した空中写真, その後の現地の他, 秋田航空(株)が撮影した水蒸気爆発の瞬間の写真を紹介する.
著者
伊藤 英之 脇山 勘治 三宅 康幸 林 信太郎 古川 治郎 井上 昭二
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.427-440, 2005
参考文献数
27

The Yakedake volcano is located in the southern part of the northern Japan Alps, central Japan. Yakedake volcanic hazard map was published in March 2002, and in June 2002, it was distributed to the inhabitants of Kamitakara village, Gifu prefecture, where is located 4-20km west from the volcano. In January 2003, the questionnaire survey was carried out on the inhabitants in order to know their attitudes to the volcanic hazard map and the level of their understanding of the contents of the hazard map. The Kamitakara village office distributed the questionnaires to 1,102 families through the headman of each ward, the headman collected 802 answers. The results of analysis were as follows. 89% of the respondents knew the existence of the hazard map and 35% read it well, but about 11% have not read the map at all. The elders have a tendency to have deeper understanding of the hazard map than younger ones, especially in elders who have experiences to meet some kinds of natural hazards. And the people who once attended the explanatory meeting of the hazard map, which was held for the residents living inside the disaster-prone area four times after the publication of the hazard map, also tend to have more proper understandings. The people who are engaged to the tourism give more attention to the volcanic hazard than others. The respondents have strong tendency to require more knowledge about the volcanic activities and hazards. We can say that the further activities by scientists, engineers and administrative officers are expected in order to establish an informed consent, that is, there should be a decision-making by inhabitants themselves and support by officers in charge with detailed explanations.
著者
林 信太郎
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.207-212, 1998-08-31 (Released:2017-03-20)
参考文献数
19

Kampu volcano is a small stratovolcano situated at the central part of Oga Peninsula, Akita Prefecture. In 1810, an earthquake as large as M 6.5 occurred near this volcano. Yoshimasa Satake, the lord of the Akita clan, wrote two official reports to the Tokugawa shogunate. They included eruption records of Kampu volcano: “Yamayake” and “Yamayakekuzure”. These words were usually used for the eruption during Edo period and mean that the mountain was firing. Several reliable documents, which was written at Oga Peninsula included no eruption record. In addition, there is no eruption record in the note of Yoshimasa Satake, which is thought to have used for making the two official reports. It is concluded that the eruption descriptions of 1810 Kampu is false and created by Yoshimasa Satake at Akita clan office at Edo (Tokyo). The false eruption might have been created to make the exaggerated damage report of earthquake.
著者
田島 靖久 林 信太郎 安田 敦 伊藤 英之
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.151-171, 2013-08-01 (Released:2013-09-28)
参考文献数
48
被引用文献数
7

霧島火山の新燃岳では2011年に軽石を伴う噴火を起こした.新燃岳は,最近1万年間内に3回の軽石噴火をしているが,2011年噴火はこれらより短い間隔をもって噴火した.また,新燃岳の火口壁には複数の溶岩の露出が知られていたが,その噴出年代は解明されていない.そこで,新燃岳の長期的活動史を理解するために野外調査・年代測定・全岩化学分析を行い,テフラと溶岩の関係を考察した.その結果,既知のテフラ以外に4.5,2.7,2.3 cal ka BPにテフラ噴出があったことが新たに判明した.また,溶岩はテフラとの関係より牛のすね火山灰以前,新燃岳-新湯テフラ以前,新燃岳-享保テフラ以前,およびそれ以降に分けられる.新燃岳は,少なくとも 5.6~4.5 ka, 2.7~2.3 ka, 18世紀以降の3回の活発にマグマを噴出する活動的な期間と静穏な期間を繰り返しており,現在は活動的な期間に位置づけられる.
著者
藤本 幸雄 林 信太郎 渡部 晟 栗山 知士 西村 隆 渡部 均 阿部 雅彦 小田嶋 博
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.114, no.Supplement, pp.S51-S74, 2008-09-18 (Released:2011-12-22)
参考文献数
130
被引用文献数
2 1

男鹿半島には白亜紀後期の基盤花崗岩類から古第三紀火山岩類,新第三紀火山岩類・海成層,第四紀層と海成段丘,火山岩及び火山地形,砂丘などが整然と分布している.そのため男鹿半島は,東北地方日本海側の9000 万年ないし6500 万年前からの地史を考える上で重要な地域になっている.風光明媚にして男性的な景観には,このような地質体の形成過程・多彩な地史が刻み込まれており,自然界の営みの中に歴史を作る人々の営為も垣間見ることができる.災害・産業・環境問題・自然認識などをはじめとして,地学は教育の重要な柱として一層の活用が求められている.ここでは近年得られた新知見を加え,地質体の形成過程・地史について解説し,合わせて地学教育上の要点を挙げてみる.
著者
林 信太郎 岡田 豊博 堤 久 熊川 寿郎 森 眞由美
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.373-376, 1999-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

症例は72歳男性. 1991年頃より膝関節痛が出現しNSAIDsが投与された. 同時期に軽い腎障害を指摘された. 1993年に貧血 (Hb 9g/dl台) を指摘された. 1996年7月に下腿の浮腫と息切れを主訴に当院に受診し, 貧血の進行 (Hb 6.9g/dl) と腎障害 (Cr 1.5mg/dl) を認め入院となった. 貧血の主因として骨髄異形成症候群 (以下MDS) が, 腎障害の精査で行った腎生検でIgA腎症が確認された. また10月下旬には両側手, 膝関節に関節炎が出現した. このためプレドニン20mg/日を開始したところ, すみやかに関節炎は消失し, 貧血と腎機能にも改善傾向がみられた.本例は経過中にMDS, 腎障害, 関節炎と多彩な臨床像を呈したが特にMDSと成因の一つに骨髄異常を指摘されているIgA腎症の合併例はこれまでになく, 本報告が一例目と思われる.
著者
千葉 達朗 林 信太郎 小野田 敏 栗原 和弘 藤田 浩司 星野 実 浅井 健一
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.103, no.6, pp.XXI-XXII, 1997-06-15
被引用文献数
4 1

5月11日午前8時, 秋田県鹿角市の澄川温泉で, 地すべりと石流が発生, 澄川温泉と赤川温泉の16棟が全壊, 国道341号も寸断された. 5月4日頃から水の濁りや道路の変状等が察知され, 適切な警戒避難が行われたため, この災害による死者・負傷者はなかった. なお, 地すべりの最中に末端付近で水蒸気爆発が発生した. ここでは, 5月12日にアジア航測(株)が撮影した空中写真, その後の現地の他, 秋田航空(株)が撮影した水蒸気爆発の瞬間の写真を紹介する.
著者
林 信太郎
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.207-212, 1998
参考文献数
19
被引用文献数
1

Kampu volcano is a small stratovolcano situated at the central part of Oga Peninsula, Akita Prefecture. In 1810, an earthquake as large as M 6.5 occurred near this volcano. Yoshimasa Satake, the lord of the Akita clan, wrote two official reports to the Tokugawa shogunate. They included eruption records of Kampu volcano: "Yamayake" and "Yamayakekuzure". These words were usually used for the eruption during Edo period and mean that the mountain was firing. Several reliable documents, which was written at Oga Peninsula included no eruption record. In addition, there is no eruption record in the note of Yoshimasa Satake, which is thought to have used for making the two official reports. It is concluded that the eruption descriptions of 1810 Kampu is false and created by Yoshimasa Satake at Akita clan office at Edo (Tokyo). The false eruption might have been created to make the exaggerated damage report of earthquake.
著者
林 信太郎 井門 正美 林 良雄
出版者
秋田大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

自治体の防災担当者などの噴火危機管理訓練用ゲーミングシミュレーションサーバ開発のため,今年度は訓練用ゲーミングシミュレーションの開発を行った。主な研究・開発事項は、1)火山警戒避難シミュレーション「リブラ」「リブラ2」のルールの洗練化およびオンラインゲーム化、2)訓練用シナリオ「コスモス島の噴火」の開発、3)火山版クロスロードの制作である。1)については、何度かの試行の結果、リアリティの追及を行わないと良い訓練結果が得られないことが明らかになってきた。そのため、仮想世界の火山の噴火史、研究論文、確率樹などを作成した。また、「リブラ2」のオンラインゲーム化を行い、試行を繰り返した。2)については桜島をモデル火山とした訓練シナリオである。過去の噴火史を参考に架空の噴火をつくり、様々な事件が発生する中、適切な対処を行う訓練シナリオである。3)については、噴火の際に発生する様々なジレンマについて資料収集を行い、およそ20のクロスロードゲームを作成した。そのうち、10の問題を完成版に収録した。林信太郎・赤塚彩・伊藤英之(2006)では、「リブラ2」について発表を行い、ポスターセッションの場で「リブラ2」の実演をすると共にその場での議論に基づいてルールの改善を行った。これらの研究を行った成果と、研究の過程で得られた副産物的知見について学会発表や論文化を行った。林ほか(2006)、伊藤ほか(2006)では、ゲーミング制作過程で調査した火山災害史について述べている。また、林の著書「世界一おいしい火山の本」にも研究の過程で得られた火山噴火サバイバル法について述べられている。
著者
林 信太郎 伊藤 英之 千葉 達朗
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.103, no.9, pp.XXVII-XXVIII, 1997-09-15
被引用文献数
2

1997年8月16日午前11時頃, 秋田焼山(標高1366m)山頂の北東500mの空沼(からぬま)付近で水蒸気爆発が発生し, 同時に継続時間約1時間の火山性微動が観測された. 噴火の起こった地点は1949年の火口群の位置にほぼ相当する(第1図; 津屋, 1954). ここでは, 噴火の二日後の18日に撮影した写真を中心に水蒸気爆発噴出物およびその火口について紹介する. 現時点で見つかった地質学的証拠から8月16日の噴火の過程を再現すると次のようになる: 1) 新火口b1あるいはb2から泥が吹き出し, 空沼火口に「泥流」となって流れ込み, 2) 次に新火口aから火山灰, 噴石が噴出, 3) 最後に新火口b2から少量の泥が噴出し. それ以前の堆積物を同心円状におおった. なお, 今回の噴火の総噴出量は1万m<sup>3</sup>以下と推定される.
著者
鹿野 和彦 大口 健志 林 信太郎 宇都 浩三 檀原 徹
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.373-396, 2002-11-29 (Released:2017-03-20)
参考文献数
82
被引用文献数
5

An alkali-rhyolite tuff-ring is newly identified in the western end of the Oga Peninsula and named as Toga volcano in this paper. The existence of this maar-type volcano at the Toga Bay has been suspected for a long time because of the elliptical embayment reminiscent of a maar and the distribution of the Toga Pumice localized along the bay coast. The Toga Pumice is cornposed mainly of pumice and non- to poorly-vesicular glass shards, but many pumices of lapilli size are rounded and fines are poor giving a sandy epiclastic appearance to the deposit. In our latest survey along the bay coast, the Toga Pumice is found to be in direct contact with the basement rocks. The contact steeply inclines at 40-50° and envelopes an elliptical area 2.0 km×2.4 km covering the bay and bay coast to form a funnel-shape structure. The basement rocks at the contact are brecciated to a depth of several tens of centimeters, or collapsed into fragments to be contained in the Toga Pumice. The beds inside the inferred crater incline toward the center of the crater at 10-30° or much smaller angles, presumably reflecting a shallow concave structure infilling the more steeply sided crater. The deposit is thinly to thickly bedded to be parallel- to wavy- or cross-stratified, inversely to normally graded with many furrows, rip-up clasts and load casts, and is sorted as well as fines-depleted pyroclastic flow deposits and/or pyroclastic surge deposits. These features are characterisitic to turbidites and indicate the place of emplacement was filled with water. Constituent glass shards are, however, commonly platy or blocky and likely to be phreatomagmatic in origin, and pumice lapilli are interpreted to have been originally angular but rounded by repeated entrainment and abrasion in multiple phreatomagmatic eruptions and succeeding emplacement in the crater lake. A pyroclastic surge deposit (Oga Pumice Tuff) correlative in composition and age to the Toga Pumice occurs at Anden and Wakimoto, 11 km and 15 km east of Toga, respectively. The juvenile pumice lapilli are angular to subrounded, in contrast with the pumice lapilli of the Toga Pumice.
著者
齋藤 万有 林 信太郎 鎌田 崇嗣 村井 弘之 尾本 雅俊 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.753-758, 2015 (Released:2015-10-16)
参考文献数
16

症例は45歳女性.38歳より右手指の伸展障害が出現,その後数年かけて左側,次いで右側の下垂足が出現した.腱反射は右上肢と両下肢で減弱し,左下肢遠位部に軽度の異常感覚を認めた.神経伝導検査は軸索障害パターン,針筋電図検査で慢性神経原性所見を認めた.血清抗SS-A抗体と唾液腺病理所見が陽性.腓腹神経生検では神経束内の有髄神経線維脱落の分布に差異があり小血管周囲に炎症細胞浸潤を認めた.シェーグレン症候群に伴う多発性単神経炎と診断,免疫療法を行い一部の筋力に改善がみられた.本例が年余に亘る緩徐進行性の運動優位多発性単神経障害を示した点は,同症候群に合併する末梢神経障害として特異である.