著者
高 永才
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.62-73, 2006-12-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
38

本研究は,温度補償型水晶発振器市場における競争分析を通して,技術知識の蓄積に起因して形成される認知枠組みが,既存企業による技術転換を阻害するだけではなく,それが技術転換後も慣性として働くことによって,適切な競争上の対応を妨げることを示す.そこでは,技術の限界を深く理解するために技術転換後も既存の製品開発経路を維持しようとする既存企業と,技術限界への理解が乏しいためにむしろ積極的な開発を推進する新規企業との対比が示される.
著者
山口 裕之
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.76-86, 2007-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
23

既存の技術革新研究では,技術転換期に既存企業が競争地位を落とす理由として,新規技術への移行に遅れることが指摘されており,新規技術への迅速な移行をいかに果たすかという問題が重要視されてきた.これに対し,本稿では,新規技術への迅速な移行は既存企業に必ずしも望ましい結果をもたらすわけではなく,むしろ競争地位の低下・喪失につながる場合があることを指摘する.
著者
朱 穎 武石 彰 米倉 誠一郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.78-92, 2007-03-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
25

技術革新がなぜある特定の時期に実現するのか.本論は,技術の社会的構成論に立脚しながら,そのメカニズムについて考えるものである.1970年代における自動車排気浄化技術の革新を事例としてとりあげ,技術に対して異なる解釈をもった社会集団間の社会政治的なやりとりを通じて,存続しえなかった技術(CVCC)が支配的技術(三元触媒)の実現時期を早めたというメカニズムが作用していたことを明らかにする.
著者
佐藤 秀典
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.74-84, 2010-09-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
18

本稿では,組織が社会的な問題を起こした際に,外部からの要請に積極的に応じることで生じる逆機能のメカニズムを明らかにした.損害保険業における保険金の不払い・払い漏れ問題の事例から,組織は正当性獲得のために近視眼的に行動せざるを得ないが,組織内部と外部の情報の非対称性からくる因果関係の認識の相違から,意図せざる結果として資源配分がゆがみ,新たな問題が発生するというジレンマが生じることが明らかになった.
著者
尾田 基
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.57-68, 2019-03-20 (Released:2019-06-16)
参考文献数
31

非常に新規性の高い事業は,計画段階で予期できなかった社会的・法的問題に直面することがある.企業家は社会からの批判に反論し,法制度の専門職に対して新事業の正当性を主張する必要がある.本論文は,サービスの無料提供が,社会的正当化の文脈においても有効な施策であることを論ずる.サービスを無料で提供することで事業計画が過剰に難しくなることを防ぎ,企業家が対応すべき問題を明確にする効果がある.
著者
藤井 大児
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.68-80, 2002-06-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
16

本論文の目的は,イノベーションの発生メカニズムを明らかにするという問題意識のもと,従来,開発主体にとって外生的な偶然性によってしか説明されてこなかった創造段階のメカニズムを,開発者の主体性という視点からとらえなおすことである.本論文では偶然性は戦略的に選びとれると主張する.進化論的アプローチの「イノベーションが偶然訪れる」という主張を擁護してしまうが,まったくランダムに試行錯誤を展開しても,イノベーションへ到達する保証はない.そこで開発者の主体的な相互作用のプロセスが,開発競争での多数派と少数派の形成を経由して,開発者の経験する偶然に差を生むとえる.青色LEDの開発事例の記述・分析を通じて,この論理を具体的に示した.
著者
戸田 信聡
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.73-86, 2022-09-20 (Released:2022-12-02)
参考文献数
30

本稿では,不明部分の多いリーダーのダブル・ループ学習のプロセスについて,使用理論を手がかりに調査した.食品メーカーZ社での研修を通じ,使用理論を形成したリーダー13名とそのフォロワーに対し,ダブル・ループ学習の傾向を識別する基準を設定し,比較ケース・スタディにより分析した.その結果,ダブル・ループ学習の傾向のあるリーダーは建設的な対話を通じて予測範囲を広げ,使用理論を改訂していることが見出された.
著者
榊原 清則
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.26-33, 2010-09-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
24

組織研究の柱のひとつはイノベーション研究である.サイモンの『人工物の科学』は,組織論を科学として確立するためのアジェンダを示した重要な業績であるが,組織とイノベーションに関心を持つ研究者の立場で言えば,別種のアジェンダもあり得る.本稿では,「意味や価値を論じる人工物の科学」という方向で組織研究の将来を展望する.
著者
島本 実
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.45-51, 2019-06-20 (Released:2019-10-30)
参考文献数
5

本稿は,小樽商科大学での2019年度組織学会年次大会においての報告の内容をできうる限りそのまま伝えるものであり,『組織科学』への投稿予定者に,読者にとって魅力ある論文とは何かについて1つの考え方を伝えることを目的としている.その内容は,以下の命題に集約される.それらは⑴論文作法で素人とばれる,⑵学問は皆で石を積む作業,⑶読み通せれば掲載される,⑷読者の視点で書く,⑸現実とモデルに橋をかける,⑹一般化と反省の弁証法,の6つである.
著者
岩尾 俊兵
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.70-86, 2018-12-20 (Released:2019-02-12)
参考文献数
55

改善活動は,分権的組織によって創出される多数のインクリメンタル・イノベーションの集合として,半ば規範的に捉えられることもある.これに対し本稿は,インクリメンタル・イノベーションとしての改善活動の実態が必ずしも上記規範に一方的に規定されるとは限らないと指摘し,そこには「どのような規模のものに集中し,どのような組織で取り組むか」という全社的な戦略的意思決定の余地が残されていることを明らかにした.
著者
町田 裕彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.55-66, 2022-06-20 (Released:2022-09-17)
参考文献数
37

本稿は,Plowman et al.(2007)に代表される継続的変革研究が想定していない,変革の意図をもったリーダーシップが連続的創発プロセスを起動するメカニズムの実証を目的とする.このリーダーシップをトランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)として仮説を構築し検証した結果,このメカニズムは実証されたが,TFLのメカニズムへの関与によっては,起動を妨げうることも示唆された.
著者
澁谷 覚
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.37-47, 2020-12-20 (Released:2021-01-14)
参考文献数
28

実験参加者が英会話スクールのサイトと,次にそのクチコミを見た後に,それらの内容について回答する実験を行った.参加者は後から見たクチコミの内容に影響され,スクールに関する記憶は肯定的クチコミを見たグループの方が正確だった.しかしクチコミ自体の記憶は,否定的クチコミを見たグループの方が正確だった.クチコミから受ける影響(クチコミのシミュレーション性)は,発信者に類似性を認知した参加者の方が強かった.
著者
坪山 雄樹
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.39-54, 2022-06-20 (Released:2022-09-17)
参考文献数
32

国鉄の再建計画,その中でも計画の根幹をなす貨物輸送の需要想定を,実態と脱連結された組織ファサードの事例として取り上げ,その需要想定の下で国鉄内の部門間でどのような相互 作用が展開されたのかを,当事者たちへの聞き取り調査で得られたデータに基づいて明らかにする.
著者
長谷部 弘道
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.15-26, 2022-06-20 (Released:2022-09-17)
参考文献数
36

組織における新旧のレトリカル・ヒストリーの移行の過程において,過去のレトリカル・ヒストリーを支持するアクターとの軋轢を回避するために経営者がいかなる対策をとるのかは,先行研究でもまだ十分に検討されていない課題である.本稿ではソニーを事例に,「歴史的距離の確保」という,過去に展開されたレトリカル・ヒストリーにあえて触れないという経営者の行動が,軋轢の回避として重要であることを明らかにした.
著者
石田 大典 黒澤 壮史
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.28-37, 2017-12-20 (Released:2018-03-30)
参考文献数
33

本研究では,組織の双面性とパフォーマンスの関係について,52篇の先行研究の成果をメタアナリシスによって統合し,統一的な見解の導出を試みた.分析の結果,組織の双面性とパフォーマンスはプラスの関係にあることが明らかにされた.さらに,コモン・メソッド,パフォーマンスの測定尺度,調査対象の業種といった測定方法や調査方法が両者の関係へ及ぼすモデレータ効果も確認された.
著者
林 侑輝 坂井 貴行 山田 仁一郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.67-79, 2022-06-20 (Released:2022-09-17)
参考文献数
29

大学発技術の上市(製品化)を促進するプロセス要因を明らかにするために,日本の技術移転機関(TLO)における39件のプロジェクトを調査した.質的比較分析の結果によると,上市の促進のために重点化されるべき活動は特許出願前の入念なプレマーケティングと,製品開発ステージにおける境界連結活動の2点である.この発見は,科学技術の商業化に関する適合的な価値連鎖パターンが日米で異なることを示唆している.
著者
佐藤 郁哉
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.4-17, 2003-03-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
33

日本における学術出版産業の動向について実証研究を通して分析を進めていく際の概念的枠組みを構築していく.「制度固有のロジック」概念を用いて米国の出版産業について分析した Thorntonの研究(1995,1999,2002)を批判的に検討した上で,学術出版に関わる個人や組織が,複数の制度固有のロジックを組み合わせ,また象徴資本と経済資本を組み合わせることによってみずからの利害関心を追求していくプロセスを記述し分析するための感受概念として「ポートフォリオ戦略」を提案する.
著者
沼上 幹 浅羽 茂 新宅 純二郎 網倉 久永
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.64-79, 1992 (Released:2022-07-15)
被引用文献数
16

本稿は競争が発見をもたらすプロセスであるという視点をより具体的に展開し,競争を企業間の対話プロセスとして捉える.この視点に基づいて,1971年から82年までの日本の電卓産業における日本企業の競争行動の事例を解釈しなおし,その再解釈によって得られた知見を簡単に述べる.その上で,競争の対話観が示唆する新しい研究の方向について若干の検討を加える.
著者
河野 英子
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.82-95, 2012-06-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
35

本研究は,関係的組織能力という考え方を中心にすえ,多角化分野で競争優位を構築したプロセスについて明らかにするものである.自動車用ばねからHDD用サスペンションへと多角化し,突出した成功例となった日本発条の事例を取り上げ,そのプロセスをやや長期に渡って分析した.その結果,既存事業で培ってきた組織能力をベースにしながら,進出先分野における特定企業との多段階の相互作用が,当該分野で必要とされる関係的組織能力の発展段階的な形成に大きな意味をもつことを明らかにした.
著者
鈴木 修
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.66-81, 2012-06-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
24

「探索」と「活用」のバランスを考察するために,携帯電話端末のプラットフォーム・モデルと派生モデルの開発を題材に分析を実施した.プラットフォーム・モデル,派生モデルの双方で競合組織を上回る開発効率が実現されている組織が存在し,これらの組織ではプラットフォームに付随するリスクが適確に管理されていることが示された.「探索」と「活用」のバランスの観点から,プラットフォーム戦略に関する示唆が得られた.