著者
神戸 道典 伴 修平
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.375-389, 2007 (Released:2008-12-31)
参考文献数
39
被引用文献数
2 3

琵琶湖固有種であるアナンデールヨコエビ(Jesogammarus annandalei)について, 8,15,20および25℃における生残率,呼吸速度,アンモニアおよびリン排出速度を測定し,その水平分布に与える水温の影響について考察した。本種は,年一世代で,日中7~8℃の湖底に生息し,夜間温度躍層下部まで上昇する。飼育水温を8~15℃に変化させても生残率に影響はみられないが,20あるいは25℃まで上昇させると1日以内に50%が死亡した。呼吸速度はいずれの季節でも水温上昇に伴って増加する傾向を示し,また1~3月と10月に比べて5~6月に高かった。これは成長に伴う増加を示しており,呼吸速度(R)は体乾燥重量(W)と水温(T)で,logR = 0.695·logW + 0.03·T-0.34と表すことができた。一方,アンモニアおよびリン排出速度は5~6月には水温上昇に伴って増加傾向を示したものの,1~3月と10月には温0度に伴う増加はみられず,20℃を上回る高水温ではむしろ低下する傾向を示し,その影響は若齢個体で顕著だった。琵琶湖北湖における本種の水平分布は,湖底水温が周年を通して10~15℃以下の地点に偏っていた。本研究は,このことをよく説明し,水温が本種の水平および鉛直分布を決定する重要な環境要因の一つであることを示唆した。
著者
萩原 富司 諸澤 崇裕 熊谷 正裕 野原 精一
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.157-167, 2016-09-26 (Released:2018-06-11)
参考文献数
36
被引用文献数
2

霞ヶ浦には,在来種のヤリタナゴ,ゼニタナゴ,タナゴおよびアカヒレタビラの4種が同所的に生息する。近年,これら個体群の減少が著しく,地域絶滅が危惧されるものの,種ごとの個体数変動の要因はよく分かっていない。そこで,本湖におけるタナゴ亜科魚類群集の変遷とその要因を明らかにするため,1999年から2011年まで,タナゴ亜科魚類およびその産卵基質として利用されるイシガイ科二枚貝類の生息状況調査を実施した。調査の結果,在来タナゴ類の内,ゼニタナゴとヤリタナゴは採集されず,アカヒレタビラとタナゴは湖内全域で徐々に減少し,2010年頃にはほとんど採集されなくなった。外来種のオオタナゴは2000年頃に初確認され,その後徐々に増加し,2005年以降は毎年採集された。外来種のタイリクバラタナゴは減少傾向にあり,国内外来種のカネヒラも全調査期間を通して数個体しか採集されなかった。一般化混合加法モデルを用いて種ごとにタナゴ類個体数の時系列変化を解析した結果,在来タナゴ類が激減した要因として,オオタナゴの影響は検出できなかった。在来タナゴ類が利用するイシガイ科二枚貝類は,2006年の調査時点において,湖内全域で個体数が著しく減少していたことから,産卵基質の減少が影響している可能性が示唆された。一方,オオタナゴは,他のタナゴ類が激減した2010年以降も比較的多数採集された。これは,本種が産卵母貝として外来種のヒレイケチョウガイ交雑種を主に利用し,その産卵基質が淡水真珠養殖用に毎年供給されているためと考えられた。
著者
三橋 弘宗
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.251-258, 2000-10-30 (Released:2009-06-12)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

東京都多摩川水系秋川において,ニッポンアツバエグリトビケラNeophylax japonicus とコイズミエグリトビケラNeophylax koizumii の流程分布及び生活史の調査を行なった。上流域にはニッポンアツバエグリトビケラが,下流域にはコイズミエグリトビケラのみが分布しているが,比較的広範囲で両種の分布の重複がみられた。両種が同所的に生息する地点で生活史の調査を行なった。この2種はともに年一化の生活環をもち,ニッポンアツバエグリトビケラは,コイズミエグリトビケラよりも3ケ月早く12月に初齢幼虫が,1ケ月早く10月に成虫が出現した。両種間で幼虫,蛹,成虫の出現期間にずれがあったが,幼虫期の一部と前蛹期では,出現期間の重複が認められた。両種の幼虫が重複して出現する時期に,微生息場所の物理環境条件を調べたところ,両種間で齢期構成は異なるが,ニッポンアツバエグリトビケラはコイズミエグリトビケラと比して,より流速が早く水深が深い場所に分布していた。また,両種ともに前蛹期と蛹期が生活環の半分以上の期間を占め,この時期に集合性を示すことがわかった。
著者
谷口 智雅
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.19-25, 1995
被引用文献数
1

戦前の水環境について,特に水質については現在発表されている数値に対応できるレベルのデータはない。そのために歴史的水環境の復元をするにあたり,文学作品中の水に関する記述に注目し,現在の資料と同じレベルの指標に変換することによって水環境の評価を行った。文学作品は著者による主観的なものではあるが,その時代や土地柄などの背景を十分映しだしている。そのため,自然の描写や社会情勢などは,ある程度客観的なものとして捉えることができるとみなした。文学作品中の河川や魚,植生などの自然の描写は,水環境を復元するうえで有効な資料である。<BR>文学作品中の生物的・視覚的水環境表現は生物的水域類型をもとに3段階評価を行い,1920,1940年頃の東京の水環境をメッシュマップとして復元した。その結果,1920年頃は「きれいな水域」が24,「少し汚れた水域」が186,「汚れた水域」が56であったのが,1940年頃にはそれぞれ13,150,113になった。1920~1940年頃にかけては「きれいな水域」と「少し汚れた水域」が減少し,「汚れた水域」のメッシュ数は2倍以上にも増加した。
著者
平林 公男 林 秀剛
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.p105-114, 1994-04
被引用文献数
5
著者
古田 世子 吉田 美紀 岡本 高弘 若林 徹哉 一瀬 諭 青木 茂 河野 哲郎 宮島 利宏
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.433-441, 2007 (Released:2008-12-31)
参考文献数
27
被引用文献数
4 6

琵琶湖(北湖)の今津沖中央地点水深90 mの湖水検体から,通常Metallogeniumと呼ばれる微生物由来の特徴的な茶褐色のマンガン酸化物微粒子が2002年11月に初めて観測された。しかし,Metallogeniumの系統学的位置や生化学については未解明な部分が多く,また特に継続的な培養例についての報告はきわめて少ない。今回,Metallogeniumが発生した琵琶湖水を用いてMetallogeniumの培養を試みたところ,実験室内の条件下でMetallogenium様粒子を継続的に産生する培養系の確立に成功した。Metallogeniumを産生する培養系には,真菌が存在する場合と真菌が存在せず細菌のみの場合とがあった。実際の湖水中には真菌の現存量は非常に少ないため,細菌のみによるMetallogeniumの産生が湖水中での二価マンガンイオン(Mn2+)の酸化的沈殿に主要な役割を担っていると考えられる。真菌が存在する培養系では約2週間程度の培養によりMetallogeniumが産生された。しかし,細菌のみの培養系においては,Metallogeniumの産生に4週間から6週間を要した。本論文では特に細菌のみの培養系におけるMetallogeniumの発育過程での形態の変化を光学顕微鏡および走査電子顕微鏡を用いて継続観察した結果について報告する。
著者
石飛 裕 神谷 宏 糸川 浩司
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.69-79, 1993-01-25 (Released:2009-06-12)
参考文献数
15
被引用文献数
12 19

1985年の9月から1986年8月まで,宍道湖および中海の水位を観測した。境水道では潮汐と気圧の影響を受けた水位変動が見られるが,これが,殆ど減衰することなく中海に伝わっていた。ところが,宍道湖では大きく減衰した半日周潮,日周潮と4~8日程度の不定期な周期をもつ長周期変動が見られた。この宍道湖の水位の変動特性を,355日間の時間データを用いたフーリエ解析により,下流の中海および境水道の水位変動と比較検討した。宍道湖で見られる半日周潮,日周潮は境からの伝搬時間が異なるが,これは,潮汐成分によって,中海が高く宍道湖が低い場合,その水位の関係が持続する時間が異なるために起きると推察された。また,流入河川による淡水の供給が小さい時の長周期変動は,境の水位変動の25時間平均値に従うことが明らかになった。毎秒200トンを越える斐伊川出水がある時の長期変動パターンについても議論した。
著者
昆野 安彦
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.145-149, 2003-08-20 (Released:2009-06-12)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

我が国で唯一永久凍土丘のパルサが存在する大雪山平ヶ岳南方湿原(43°37'N,142°54'E,標高1,720m;以下,パルサ湿原)において,池塘に生息する水生昆虫を調べた。その結果,4ヶ所の池塘から合計して5目15種238個体の水生昆虫類が採集された。優占4種はキタアミメトビケラ,ダイセツマメゲンゴロウ,オオナガケシゲンゴロウ,センブリであった。
著者
浦部 美佐子
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.109-116, 1993-04-30 (Released:2009-06-12)
参考文献数
16
被引用文献数
8 6

琵琶湖水系及びその周辺の2地点より得られたチリメンカワニナSemisulcospira reinianaを,遺伝的変異と成殻・胎殻形態の面から調べた。浜大津・宇治・美濃津屋の3ケ所では,遺伝的に区別される2型が生息していた。MPI-A型は,比較的小さく平滑または縦助のある胎貝を持っていた。MPI-B型は大きく縦肋のある胎貝を持っていた。しかし,同じ地点から得られたこれら2型は,成殻形態では区別できなかった。これらの結果から,過去の分類学的研究においては2型が混同されてきたことを指摘し,さらに成殻の収斂現象について示唆した。
著者
田中 晋 志垣 修介
出版者
The Japanese Society of Limnology
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.111-115, 1987-04-30 (Released:2009-11-13)
参考文献数
12
被引用文献数
2 3

The Japanese form of Daphnia obtusa Kurz, 1874 emend. Scourfield, 1942 is described. This taxon was recorded as a variety of D. pulex (De Geer) in Japan by UÉNO (1927), but has not been definitely described in the Japanese literature since SCOURFIELD's revision (1942). In Toyama Prefecture, D. obtusa occurs only in Yadoya-ike Pond, a small-shallow and turbid pond, from early March to early May.
著者
花里 孝幸 安野 正之
出版者
The Japanese Society of Limnology
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.185-191, 1985-07-30 (Released:2009-11-13)
参考文献数
17
被引用文献数
18 41

Effect of temperature on growth, egg development and age at first parturition of five cladoceran species (Daphnia longispina, Moina micrura, Diaphanosoma brachyurum, Bosmina longirostris and Bosmina fatalis) were investigated in the laboratory. The relationships between egg development time of these species and temperature, and between age at first parturition and temperature, were expressed by an equation (ln D=ln a+b (ln T) 2). M. micrura and Diaphanosoma brachyurum seemed to have adapted to relatively higher temperature, while Daphnia longispina, B. longirostris and B. fatalis showed their adaptation to lower temperature. However, the results did not necessarily agree with the seasonal succession of the appearance of these species in the field.
著者
田邊 優貴子 工藤 栄
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.191-199, 2009 (Released:2011-02-16)
参考文献数
23
被引用文献数
4

湖沼研究において湖盆図作成は重要な情報であるにも関わらず、南極昭和基地周辺の湖沼において湖盆形態に関する調査はほとんど実施されてこなかった。一年のほとんどが氷で覆われ、また調査湖沼へのアクセスが不便であるために、船舶や機材の搬送が困難であるというような様々な要因が湖盆図作成までに至らなかった原因である。本研究では2007年~2008年にかけて、南極昭和基地周辺露岩域の長池とスカーレン大池の2湖沼で調査を実施した。小型のGPSと音響測深器もしくは測鉛を用いて位置と水深データを取得し、これまで明らかにされることが無かった東南極宗谷海岸露岩域湖沼の湖盆図を作成した。位置決定のための測量機材や測深器を搭載した船舶等を利用することなく、効率的かつ簡便に湖沼研究にとって十分な湖盆図を作成することが可能となった。本研究で明らかになった湖盆形態とその水質や水生生物との関わりについて考察した。
著者
平 誠
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.233-236, 1995-07-31 (Released:2009-06-12)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

高層湿原の池溏における,セストン量と甲殻類プランクトン群集の種組成の関係を,苗場山頂湿原において調査した。水中のセストン量が約4mg・l-1より少ない池溏ではAcanthodiaptamus pacificus,約4mg・l-1から7mg・l-1までの中程度のセストンを有する池溏ではDiaphanosoma brachyurum,約7mg・l-1より多くのセストンを有する池溏ではDiphnia longispinaがそれぞれ優占した。これらの結果から,腐植物質を主とするセストンの量が、甲殻類プランクトンの種組成を決定する重要な要因の1つである可能性が示唆された。
著者
東 幹夫
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.209-217, 2003-12-20 (Released:2009-06-12)
参考文献数
11
被引用文献数
3 1

1997年4月,諌早湾奥は西九州に位置する有明海から潮受け堤防によって遮断された。諌早湾干拓事業の着工以来,貝類,エビ類,カニ類,底魚類の漁獲量は年を追って減少し続けている。潮受け堤防の完成から4年後にノリ不作が有明海全域に拡大した。諌早湾内の調整池では淡水化と富栄養化が進み,湾外では環境悪化と漁業の衰退などの「有明海異変」が顕在化した。諌早湾口周辺から有明海奥部にかけて大型底生動物相の生息密度は年々減り続けている。潮止め工事完成後,赤潮発生件数は,夏季には有害赤潮を引き起こす鞭毛藻類が,冬季には珪藻赤潮が年々激増しており,潮受け堤防締切りによる諌早湾の泥干潟喪失後に出現し始めた赤潮と貧酸素水塊によって有明海漁業への被害も頻発している。これらの問題は,干潟消滅に伴う浄化機能の喪失と,潮受け堤防建設による潮流の変化に,主として起因していると考えられる。有明海を維持可能な生態系として蘇らせるためには,諫早湾干拓事業を中止し,水門を開けて潮汐と干潟の回復を目指す適応的管理に切替えるべきである。
著者
赤堀 由佳 高木 俊 西廣 淳 鏡味 麻衣子
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.155-166, 2015-12-10 (Released:2017-05-30)
参考文献数
31
被引用文献数
5

近年国内の浅い富栄養湖のいくつかでヒシ属植物の増加が報告されている。本研究では,オニビシの繁茂が水質に与える影響を明らかにするために,印旛沼においてオニビシが繁茂する地点(オニビシ帯)としない地点(開放水面)の水質を比較した。繁茂期(7月から9月)のオニビシ帯は,開放水面に比べ溶存酸素濃度および濁度が有意に低かった。溶存酸素濃度の低下は夜間と底層で顕著であり,無酸素状態になることもあった。濁度はオニビシが繁茂している時期にオニビシ帯の表層と底層両方で低くなった。オニビシ帯では,浮葉が水面を覆うことにより,水の流動は減少し,遮光により水中での光合成量は低下するため,溶存酸素濃度や濁度が低くなったと考えられる。栄養塩濃度に関してはいずれもオニビシ帯と開放水面の間で有意な差は認められなかったが,8月と9月に,アンモニア態窒素濃度が高くなった。オニビシの枯死分解に伴い無機態窒素が放出されるとともに,貧酸素により底泥から溶出した可能性がある。一方,オニビシが繁茂しない時期には,地点間でこれらの水質項目に明瞭な差は見られなかった。栄養塩濃度の差は,地点間の差よりもむしろ季節による差のほうが顕著で,オニビシ帯と開放水面共に,7月から9月は全リン濃度が高く,それ以外の時期は亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素濃度が高かった。印旛沼では,このような栄養塩濃度の季節変動は毎年確認されており,栄養塩濃度の季節変動に与える複数の効果に比べオニビシの効果は小さいと考えられる。
著者
根来 健一郎
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3-4, pp.139a-142, 1952-06-15 (Released:2009-11-13)
被引用文献数
1
著者
桟敷 孝浩 玉置 泰司 高橋 義文 阿部 信一郎 井口 恵一朗
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.73-80, 2012 (Released:2013-08-21)
参考文献数
21
被引用文献数
3 2

内水面漁業協同組合によるアユ(Plecoglossus altivelis altivelis)の増殖は,内水面漁業や遊漁に果たす役割だけでなく,アユが付着藻類を摂餌することで景観を保全する機能を有している。本研究の課題は,アユ増殖への取り組みから発現する,川の景観保全効果に対する経済的価値を計測するとともに,景観保全効果の経済的価値に影響を与える要因を明らかにすることである。本研究では,アンケート調査で得られた北海道と沖縄県を除く全国838サンプルを用いて,二段階二肢選択形式の仮想市場評価法による分析をおこなった。分析の結果,アユ増殖による川の景観保全効果に対する経済的価値は,1世帯当たり平均WTP(支払意志額)で4,216円と評価された。景観保全効果の経済的価値に影響を与える要因は,“川のそばで散歩やジョギングなどをしたことのある回答者”,“川で水泳や水遊びをしたことのある回答者”,“沢登りをしたことのある回答者”,“居住地から1 km以内に川がある回答者”,“より高い年間世帯所得の回答者”,“アンケートでより低い提示額の方が支払いやすい回答者”であることが解明された。
著者
草野 晴美 伊藤 富子
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.193-201, 2004-12-20 (Released:2009-06-12)
参考文献数
13
被引用文献数
1 3

北海道千歳川水系における淡水性ヨコエビの分布を調べたところ,本流にはトゲオヨコエビEogammarus kygi (Derzhavin),支流にはオオエゾヨコエビJesogammarus jesoensis(Schellenberg),湧水源流付近にはエゾヨコエビSternomoera yezoensis(Uéno)が生息していることがわかった。また千歳川支流のひとつ,内別川におけるオオエゾヨコエビとトゲオヨコエビの調査から,(1)2種の分布は,隣接するにも関わらず重複が少なく,分布境界が明瞭であること,(2)その分布境界の上流と下流で河川の物理的な環境に差異は見られないが,産卵後サケ死体の現存量に有意な差が認められること,(3)2種とも消化管に植物質,動物質の餌を含むが,トゲオヨコエビの方がオオエゾヨコエビより動物質の餌,特にヨコエビ破片を含んでいる頻度が高いこと,が明らかになった。これらの結果から,オオエゾヨコエビとトゲオヨコエビの分布を決めている要因について,(1)トゲオヨコエビが千歳川下流から遡上することによってオオエゾヨコエビよりあとから上流域へ分布を広げた,(2)トゲオヨコエビは動物性の餌資源をより多く必要とするためサケ遡上区域(産卵後サケ死体の分布)と重複するように分布し,オオエゾヨコエビは貧栄養的な支流に追いやられている,(3)2種間に捕食などの直接的な関係があることによって分布が排他的になっている,という3つの可能性を考察した。
著者
河西 芳一
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.56-62, 1942-09-30 (Released:2009-12-11)
参考文献数
33
被引用文献数
2 2

1.本報告は日本に於ける主なる強酸性水域13に就いて調査した動物相の概報である。2.本調査の結果從來知られて居た耐酸性種の外に多くの種類が著しい強酸性水域にまで棲息する事が明かになつた。3.中性水域では蜉蝣類,毛翅類,せき翅類が主要素であるが,酸性水域では鞘翅類,毛翅類,双翅類が主要素で殊に浮游類は殆ど出現しない。4,季節的變化は中性水のそれと大差なく尚水温が周年高温を保つ温泉附近の河川には特殊な動物が著しく繁殖して居る。5.一河川に於ける種數密度は中性河川と同じく中流で最も多く上下流では少い。6.中性河川と酸性河川との合流點を見ると酸性水域の動物相が著しく貧弱で且酸性河川に多くの動物が見られる時は兩河川に共通種が多い。從つて酸性河川の動物は中性河川より移動侵入したものと考へられる。7.pH5.0以下に出現する動物の種數次の如し。鞘翅類2種,毛翅類15楓,双翅類11種,異翅類8種,せき翅類5種,脈翅類5種,蜉蝣類4種その他7種である。8.pH2.0以下にまで棲息し得るもの次の如し。Rhyacophila towadensis., Prolonemonra sp.,Notouecla triguttat, Sigara substriata, Protohermes grautlis, EmpidacのEuhiefferiella sp., Poly--pedilum Sp.
著者
田村 正
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.63-73, 1936-06-20 (Released:2009-12-11)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1