著者
松尾 英輔
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.229-241, 1978-03-19

植木鉢の原点を探ってみると, 1)植物を植えるための土を保持できること, 2)水によってこわれないこと, の2点があげられる.ここでは, この原点にたって植物が植えられている容器のうち, 植物を植える目的をもって開発された容器類以外のすべてを"アイディア鉢(Idea Pot)"と称する.本調査では, 鹿児島市内の1333戸を対象として, 1)アイディア鉢の保有状態, 2)アイディア鉢として使われた素材, 3)アイディア鉢に植えられている植物を明らかにすることを目的とした.アイディア鉢の保有率は調査戸数の約30%であった.また, 屋敷内の緑が少ないほどアイディア鉢の保有率は高い傾向がみられた.アイディア鉢の種類は70種以上, その延べ総数は1423個であった.このなかには, 数こそ少なかったが, 電燈のかさ, 切り株, タイヤ, 浴用椅子, ブロックの穴, ビニール袋, 石臼など, 園芸専門家の常識では考えつきそうにないものが含まれていた.アイディア鉢の材料についてみると, 種類としては合成樹脂製品, 金属製品が多く, 数のうえでは木製品の比率が高かった.アイディア鉢への転用の仕方をみると, 種類, 保有戸数, 総数のいずれについても, 使い古したもの, 欠損したもの, あるいは, 魚箱, リンゴ箱のような, 本来の目的を達したものが多かった.アイディア鉢となったものがもともと使われていた場所の面からみると, 種類および保有率では台所用品が多く, 数のうえからは, 普通の家庭ではあまり使われないもの(たとえば, 魚箱, リンゴ箱など)が多かった.アイディア鉢の植物は260種以上に及び, 観賞植物は約70%でもっとも多かった.個々の植物の出現率についてみると, ネギがもっとも多く, ついで, ニラ, ゼラニウム, キク, シソの順であった.野菜は植木鉢にはあまり植えられていなかったが, アイディア鉢ではきわめて多かった.
著者
団野 皓文 宮里 満 石黒 悦爾 西山 安夫
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.197-210, 1984-03-15

桜島の火山活動は1972年以来, 非常に活発になってきている.年間の爆発回数, 噴煙回数それに地震回数は驚くほど増加している.桜島からの多量の降灰は, 桜島周辺の農林産物に多大の被害を与えている.リモートセンシング技術を用いて, 圃場や森林への降灰の影響を測定した.筆者らは, 1977年より日本国土海洋総合学術診断(JAFSA)プロジェクトに参加し, 桜島の火山活動が記録されているMSSデータを解析した.1977年8月に観測したMSSデータを用いて, Ch.7に青, Ch.9に緑, Ch.11に赤を対応させたカラー合成写真を作成して, 桜島の溶岩台地の分布を明確に解析した, 降灰の影響を定量的に解析するため, 火山灰に覆われた樹木と野菜の葉面の分光反射率と, 火山灰に覆われていない樹木と野菜の葉面の分光反射率の変化を測定した.この結果を垂水地区における噴煙の流れが記録されている1977年10月のMSSデークの解析に用いた.CCTカウント比, すなわちCh.3/Ch.9,Ch.5/Ch.9とCh.7/Ch.9のディジタル演算で得られたカラー合成写真と, それに対応する濃淡マップの解析を行い, 垂水地区における圃場や森林に対する降灰の分布を明かにすることができた.一方, 火山灰の物理的性質は, 桜島火山の活動に関する多くの情報を与えるものと考えられる.火山灰中の天然放射性核種を, ゲルマニウム検出器と多重波高分析装置を用いて解析した.^<40>Kが最も多量に含まれる核種で, 火山灰中の^<40>Kの放射能は9.4〜12.0pCi/gであった.K_2Oの濃度と^<40>Kの放射能は, 最近しだいに増加していることが示された.
著者
福永 隆生 古賀 克也 藤井 信 小倉 博代
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.181-192, 1990-03-15

ニワトリおよびウズラに綿実粕あるいはカポック粕添加飼料を給餌すると7日目あるいは10日目から卵黄色に異常(淡褐変)がある卵が産卵され, 約3週間後に褐色を帯びた卵黄硬化卵が産卵されることを認めた.これらの飼料を正常飼料に変換すると約20日後に正常卵に復元することが認められた.異常卵黄と正常卵黄の脂質の分画や, それらの画分の脂肪酸組成および復元過程中の脂肪酸組成の変動を調べた.さらに異常および正常卵黄のタンパク質のアミノ酸組成および, これらの卵黄のエーテル抽出物のウズラの胚リパーゼ活性に対する作用を調べた.1.卵黄脂質を硅酸カラムクロマトグラフィーで分画したところ, トリアシルグリセロール画分(81〜85%)が最も多く, つづいてケファリン画分, レシチンとスフィンゴミエリン画分であり, 異常卵黄と正常卵黄間には量的差異は認められなかった.2.卵黄のエーテル抽出脂質の沃素価は, 正常卵黄に比べ異常卵黄が小さく, 構成脂肪酸をみると異常卵黄はステアリン酸が著しく多く, オレイン酸が少ない.リノール酸はやや多かった.このステアリン酸とオレイン酸の顕著な増減はトリアシルグセロール画分についても認められた.さらに, 異常卵黄の脂質およびその分画画分が正常卵黄のものより飽和脂肪酸総量が著しく多く, 不飽和脂肪酸総量は少なかった.その増減率はトリアシルグリセロール画分が最も大である.3.硅酸カラムクロマトグラフィーにおけるトリアシルグリセロール溶出液を-20℃で保存するとき生成する不溶化析出物と溶存物質の脂肪酸組成は, 正常卵黄では差はないが, 異常卵黄ではパルミチン酸とステアリン酸が析出物に多く, オレイン酸とリノール酸は逆に少なかった.4.ニワトリ, ウズラともに異常卵黄から正常卵黄への復元過程における脂肪酸組成の変化をみると, 正常飼料給与後の短期間で飽和脂肪酸総量の減少と不飽和脂肪酸総量の増加が認められた.11日目には正常卵黄とほぼ同じレベルに到達した.5.異常卵黄凍結乾燥粉末のエーテル抽出物はMillian反応, Halphen反応ともに陽性であった.6.脱脂卵黄タンパク質のアミノ酸組成をみると, ニワトリ, ウズラともに異常卵のリジンとチロシン含量が正常卵より少なく, 逆にバリン含量は多かった.7.ウズラの受精卵胚部からのリパーゼ粗抽出液の酵素活性は異常卵黄エーテル抽出物の添加により阻害された.
著者
西中川 駿 松元 光春 大塚 閏一 河口 貞徳
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.19-24, 1993-03-31

鹿児島の縄文46,弥生22遺跡の動物遺体の出土状況を調査し, そのうち31遺跡の哺乳類遺体について, 肉眼的ならびに計測学的に検索し, 出土動物種を明らかにした.1.出土した動物遺体は, 哺乳類, 鳥類, 爬虫類, 両生類, 魚類, 甲殻類および貝類のものであり, 貝類, 哺乳類の出土した遺跡が最も多く, 両生類は少ない.地域別では薩摩半島が28ヵ所で最も多く, 次いで南西諸島の22ヵ所である.時期別では, 縄文後, 晩期が40ヵ所で最も多く, 弥生が22ヵ所である.2.動物種の同定された哺乳類遺体は, モグラ, コウモリ, サル, ノウサギ, アマミノクロウサギ, ムササビ, ネズミ, ツキノワグマ, オオカミ, イヌ, タヌキ, アナグマ, カワウソ, テン, イタチ, オオヤマネコ, イエネコ, アシカ, イノシシ, シカ, カモシカ, ウシ, ウマ, クジラ, イルカおよびジュゴンの10目26種のものである.これらのうちイノシシ, シカが全体の97%(出土骨片数)を占め, 当時の鹿児島の狩猟獣の中心であったことが示唆された.なお, ウシ, ウマ, イエネコは同時代のものかは疑問視される.3.イノシシは県下の全遺跡で検出されたが, 南西諸島のものは県本土のものとは形状が異なり小型である.また, 南西諸島の遺跡からは, シカ, サル, タヌキ, アナグマなどの出土例はなく, トカラ海峡を境にすでに縄文時代から, 哺乳動物相が異なっていたことが示唆された.
著者
宮部 芳照 阿部 正俊 小島 新
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.245-248, 1979-03-19

さとうきび脱葉機開発のための基礎資料として, 蔗茎の節位別衝撃抵抗について測定を行った.その結果は次のとおりである.1.蔗茎の節位別衝撃エネルギは梢頭部から根部の方へいくに従って増大し, 第12節位は2.14(kg-m)(標準偏差σ=0.05kg-m), 第18節では3.76(kg-m)(σ=0.09kg-m)であり, 約1.8倍の増加を示している.節位と衝撃エネルギの間には極めて強い相関関係がある(相関比η_<r1>=0.98).2.蔗茎の節位別衝撃抵抗値は梢頭部から根部の方へいくに従って増大し, 第12節位では0.54(kg-m/cm^2)(σ=0.04kg-m/cm^2), 第18節位では0.71(kg-m/cm^2)(σ=0.04kg-m/cm^2)であり, 約1.3倍の増加を示している.節位と衝撃抵抗値との間には極めて強い相関関係がある(相関比η^<r2>=0.87)
著者
高橋 正記 服部 芳明 橘田 紘洋 藤田 晋輔 古川 惠子
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.89-96, 1995-03-31
被引用文献数
2

教員や児童・生徒の疲労自覚症状の訴え率は校舎構造や建築材料によって違いがあるかどうかを検討した.本論文では, 教員および児童・生徒の疲労自覚症状を調査し, 校舎構造別の訴え率を比較した.なお, 学校校舎は校舎構造によって木造校舎, 内装木質校舎, 典型的なRC造校舎の3種類に分類した.内装木質校舎とはRC造校舎でも教室の腰壁と床面が木質材料である校舎とし, それ以外のRC造校舎を典型的なRC造校舎と定義した.調査対象は九州地方おける小学校と中学校の教員および児童・生徒である.調査表は日本産業衛生学会・産業疲労研究会が提案した調査表を用いた.この調査表は30の疲労項目から成り, 10項目ごとにI群「ねむけとだるさ」, II群「注意集中の困難」, III群「局在した身体違和感」に分けられる.これらの疲労自覚症状について, 校舎構造別の訴え率を比較した結果, 以下のことがわかった.1.教員および児童・生徒の疲労自覚症状の訴え率はI群が最も高く, III群が最も低かった.訴え率の大小関係は「I>II>III」であった.児童・生徒の自覚疲労はねむけの症状が多かった.2.教員も児童・生徒もともに寝不足になるほど, 訴え率が高くなっていた.また, 小学5年生よりも中学2年生のほうが訴え率が高かった.3.木造校舎と典型的なRC造校舎の訴え率を比較した場合, 教員も児童・生徒もともに木造校舎の訴え率のほうが低かった.特に一般的症状と精神的症状に有意差が認められた(I群とII群, p<0.01).4.内装木質校舎と典型的なRC造校舎の訴え率を比較すると, 児童・生徒の場合, 内装木質校舎のほうが訴え率が低かった.しかし, 教員の場合は内装木質校舎のほうが典型的なRC造校舎よりも訴え率が高く, 児童・生徒の場合とは反対の傾向を示した.5.児童・生徒の場合は, 昨夜の睡眠時間に対する満足度が寝不足であったときに, 典型的なRC造校舎より木造校舎のほうが訴えが少なく, 有意差が認められた.教員の場合は, 昨夜の睡眠時間に対する満足度が「十分」であったときに校舎構造別の訴え率に有意差が認められた.すなわち, 典型的なRC造校舎より木造校舎のほうが訴えが少なく, また内装木質校舎より典型的なRC造校舎のほうが訴えが少なかった.
著者
坂田 祐介
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.9-62, 1988-03-15
被引用文献数
3

ツバキ属植物の花弁のアントシアン色素分析法の確立と色素分布の概要について検討した.1.1次元にn-BAW(II), 2次元にn-BAW(I)の展開溶媒を用いたTLCでもっとも優れた色素スポットの分離がみられ, 供試ツバキに色素1から色素14までの合計14個のアントシアン色素を検出した.またこれらの性状を精査した結果, モノサイド群の低次色素系とダイサイド群と推定できる高次色素系とに分類したが, 種によって両色素系の分布が異なることを予測できた.2.煮沸風乾花弁の色素構成や色素蓄積比率は, 新鮮花弁や凍結真空乾燥花弁のそれとまったく同じで, 試料花弁の調整・保存に煮沸後風乾する方法が可能となった.3.蕾の発達に伴う色素生成を見ると, 開花6日前の花弁は開花したものと同じ色素構成や色素蓄積を示し, 幅広い時期に及ぶ花弁採集が可能といえる.HPLCを採用して野生型ユキツバキ花弁のアントシアン色素を分析した結果, これまでのTLCでシアニジン3-グルコシドとした色素スポットは, 実際はシアニジン3-グルコシドとガラクトシドの混合物であった.ツバキ属植物においてシアニジン3-ガラクトシドの存在を見出したのは初めてのことである.2次元のTLCとHPLCを用い代表的なツバキ栽培種の花弁のアントシアン色素を精査し, 色素分布を検討した.1.ヤブツバキ, ユキツバキ, サザンカ, カンツバキ, ハルサザンカは低次色素系を主体とし, トウツバキは高次色素系を主体とした.またワビスケは高次と低次色素系の混在する品種群であった.2.低次色素系ではヤブツバキとユキツバキは色素1を主体とし, サザンカとカンツバキは色素5を主体とした.ハルサザンカは色素1と色素5を等量持つヤブツバキとサザンカの中間型であった.また高次色素系ではトウツバキは色素11,13を主体とした.3.ユキツバキは色素1に占めるシアニジン3-ガラクトシド量が多く, ヤブツバキは少なかった.これに対し, サザンカとカンツバキはシアニジン3-ガラクトシドをほとんど持たなかった.4.構成色素の蓄積の変異はヤブツバキとハルサザンカは色素1と色素5間で, トウツバキは色素11と色素13間で, またユキツバキはシアニジン3-ガラクトシドとグルコシド間で見られた.これに対し, サザンカとカンツバキには変異はさほど見られなかった.5.以上の色素分布の様相から色素1,色素5,色素10・12,色素11・13,シアニジン3-ガラクトシドおよびデルフィニジン系色素を指標にすれば, ツバキ栽培種を類型化でき, かつ品種分化の実態を把握できることを明らかにした.2次元のTLCを用い種間雑種起源のツバキ栽培種の花弁のアントシアン色素を精査し, 色素分布の様相から色素の遺伝を検討した.1.サルウィンツバキ×ヤブツバキ群では色素10,12,トウツバキ×ヤブツバキ群では色素11,13,サザンカ×トウツバキ群では色素11,13,またサルウィンツバキ×トウツバキ群では色素10,12をそれぞれ主体したが, ヤブツバキ×トウツバキ群では低次色素系, 色素10,12および色素11,13の量はまちまちであった.2.以上の色素分布の様相から, 色素生成はサルウィンツバキ型>トウツバキ型>ヤブツバキ(サザンカ)型の順に遺伝的に優性と考えられる.2次元TLCとHPLCを用い本邦産カメリア節ツバキ野生型の花弁のアントシアン色素を精査し, 色素分布の様相を検討した.1.ヤブツバキ, 本邦産ホウザンツバキ, リンゴツバキは低次色素系の色素1と色素5を主体とし, かつ色素1に占めるシアニジン3-ガラクトシド量は少なかった.これに対しユキツバキ, 台湾省産ホウザンツバキは色素1は100%を占め, かつ色素1に占めるシアニジン3-ガラクトシドはグルコシドとほぼ等量と, 多かった.2.構成色素の蓄積の変異はヤブツバキ, 本邦産ホウザンツバキ, リンゴツバキは色素1-色素5間で, またユキツバキ, 台湾省産ホウザンツバキはシアニジン3-グルコシド-ガラクトシド間で見られた.3.以上の色素分布の様相に加え, 種の分布域, 形態および地史を踏まえると, ヤブツバキとリンゴツバキは本邦産ホウザンツバキから変異分化し, ユキツバキと台湾省産ホウザンツバキは残存隔離した古型ツバキから分化したと推定できる.2次元TLCとHPLCを用い中国大陸産カメリア節ツバキ野生型の花弁のアントシアン色素を精査し, 色素分布の様相を検討した.1.サルウィンツバキ, ピタールツバキ・ピタール種は高次色素系の色素10,12を主体とし, トウツバキ, ピタールツバキ・雲南種は高次色素系の色素11,13を主体とした.2.宛田紅花油茶は低次色素系に高次色素系が混在したが, 低次色素系では色素1,5を主体とし, 色素1に占めるシアニジン3-ガラクトシド量は少なかった.3.南山茶は低次色素系のみで, 色素1,5を主体とし, 色素1に占めるシアニジン3-ガラクトシド量はほぼゼロに等しかった.4.浙江紅花油茶は低次色素系のみで, 色素1が100%を占め, 色素1に占めるシアニジン3-ガラクトシドはグルコシドとほぼ等量と, 多かった.5.ホンコンツバキは低次
著者
冨田 裕一郎
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.115-121, 1972-03-30

トリプトファン・グルコース反応液と現在常用されている抗酸化剤との酸化防止効果の比較を行なったところ, ここで明らかにされた最適条件で得られた反応液の抗酸化能はα-トコフェロールよりも強く, 合成抗酸化剤のBHA, BHTに匹敵するものであることが明らかになった.以上のように強い抗酸化性を示したトリプトファン・グルコース反応生成物ナタネ油の抗酸化剤, カロチンの安定剤および餅の揚げ物の抗酸化剤として用いた試験を行なった.そして, この反応生成物はBHA, BHTなどに匹敵する効果を示すことを明らかにした.
著者
張 日新 秋山 邦裕
出版者
鹿児島大學農學部
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
no.58, pp.49-56, 2008-03

外国人研修・技能実習制度は発展途上国への技能移転のための国際貢献の制度と位置づけられている。近年、外国人研修生・技能実習生が急増している。しかし、人権侵害、労働法令違反、失踪、中間搾取などの問題が10年以上も続いてきた。これらの問題に対して、経済産業省、厚生労働省、法務省などの機関を中心に制度のあり方が検討され、いくつかの提言が出されている。本稿では、各機関・団体からの報告等の主要な論点を比較し、制度の持つ課題や今後のあり方について検討した。
著者
佐々木 修
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.1-7, 2000-03-01

25℃, 31℃および37℃に制御された大型水槽をガラス室内に設置し, これにポットに生育中の水稲を入れ, 水温の違いが水稲の生育および各器官の諸形質に及ぼす影響について検討した.昼(8 : 30〜17 : 30)夜(17 : 30〜8 : 30)の変水温処理を7月1日(葉令6.5)より8月13日まで行った後材料を採取し測定に供した.1.茎葉及び根の生育量は水温31℃で最も高かった.夜水温37℃では生育は著しく劣り, 昼夜水温が37℃では全く生育を停止した.また, 昼水温が37℃であっても夜水温が25℃あるいは31℃であれば高水温の影響はほとんど打ち消された.2.茎数に対して昼間の高水温が最も促進的であったのに対し, 夜間の高水温は一定の傾向を示さなかった.草丈は25℃から31℃の範囲で最も促進され, 昼夜いずれの高水温(37℃)でも抑制されたが, 特に夜間の高水温による抑制が著しかった.また草丈と昼夜平均水温との間に高い負の相関が認められた.3.冠根数, 出葉間隔, 葉の大きさ及び冠根直径は昼間あるいは夜間の水温の違いによる影響よりもむしろ昼夜平均水温と極めて高い相関関係が認められ, 水温そのものの影響が大きかった.
著者
小林 嵩 品川 昭夫 市来 征勝
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.93-"131-6", 1968-02-15
被引用文献数
3

亜熱帯湿潤気候地帯にある奄美群島の主要な島である奄美大島, 徳之島, 沖永良部島, 与論島および喜界島の5つの島の土壌について1962年以来先きの琉球列島の土壌の研究に引つづき調査研究を行って来た.この内, 奄美大島および徳之島の土壌についてはすでに第2報として報告した.本報告は残りの3つの島である沖永良部島, 与論島および喜界島の土壌について地質母材を異にする土壌すなわち, 国頭礫層, 琉球石灰岩(珊瑚石灰岩), 島尻層, 古生層および火成岩として花崗岩などに由来する土壌の断面形態並びに一般理化学的性質について行った研究成積である.成績の概要を述べると次の如くである.1.土壌断面調査島尻層に由来する土壌を除いて各島の土壌は地質母材の如何にかかわらず, その表層(A属)は腐植の集積によって土色は灰褐色または暗褐色を呈し, その下層(B層)は赤褐邑, 黄褐色, 黄赤色, 赤色など赤味色の強い土色を示し, 赤黄色土の性格を示している.島尻層に由来する土壌は表層は上記と同様な土色を示しているが, 下層土は灰青色, 灰黄色など灰味色を示している.各地質母材に由来する土壊の表層は腐植の集積と植物根の発達によって, 粗しょうで, 粒状または果粒状構造をしているが, 下層は緻密で硬く, 可塑性および粘性が強く, 乾くと固結し, 塊状構造を示している.2.理学的組成各島とも各地質母材に由来する土壌はいずれも粘土にとみ, 土性はLiCまたはHCで, 多くがHCである.島尻層に由来する土壌は細砂にとみ, 土性はLiCが多い.沖永良部島の花崗岩に由来する土壌は粗砂および細砂とも多く, とくに下層に多い.土性はSLが多い.礫は各地質母材に由来する土壌はいずれも極めて少ない.粘土分は表層に少なく下層に多い傾向がある.3.化学的性質1)反応琉球石灰岩に由来する土壌には塩基性を呈するものが多いが, 同時に酸性の強い土壌も各島に多く存在している.喜界島の島尻層に由来する土壌にも塩基性を示すものと酸性を呈するものとがある.その他の地質母材に由来する土壌は殆んど強い酸性反応を示している.2)塩基置換容量沖永良部島土壌の総平均B.E.C.は表層土が15.32m.e., 下層土が12.56m.e.であり, 与論島土壌のそれはそれぞれ16.98m.e., 15.25m.e., 喜界島土壌のそれはそれぞれ20.18m.e., 19.25m.e.であって, 沖永良部島の土壌が最も小さく, 喜界島の土壌がもっとも大きいB.E.C.を示しかつ, 各島とも下層土の方が小さい.3)置換性塩基各島に分布している琉球石灰岩や喜界島の島尻層に由来する土壌には置換性塩基の含量の高いものが多く, これらの石灰飽和度は64〜74%であるが, また塩基含量の少ないものも多く, その石灰飽和度は13〜40%である.その他の地質母材に由来する土壌の石灰飽和度は12〜35%で顕著に小さい.喜界島の島尻層に由来する土壌は徳之島の泥灰岩土壌と同じく多量の置換性苦土を含んでいる.置換性加里含量はいずれの土壌も少ない.4)炭素率沖永良部島の土壌の表層土の総平均炭素率は10.6,与論島の土壌のそれは10.2,喜界島の土壌のそれは9.7で, 三島の土壌の表層土の炭素率は略同じ大きさである.これを奄美大島の12.1,徳之島の12.0に比べると小さい.土壌の炭素率は下層にゆくに従って小さくなっている.5)窒素および腐植各島の土壌の表層土の窒素および腐植の含量は平均して沖永良部島の土壌がそれぞれ0.17%, 3.14%, 与論島のそれがそれぞれ0.19%3.22%, 喜界島のそれがそれぞれ0.23%, 4.12%であって喜界島のものが顕著に多い.しかし, 前2島のそれらは奄美大島や徳之島の土壌に比べるとほぼ同程度の含量である.6)燐酸吸収係数各島の土壌の表層土および下層土の燐酸吸収係数をみると, 沖永良部島の土壌はそれぞれ590,670,与論島のそれはそれぞれ531,623,喜界島のそれはそれぞれ590,763であって, 喜界島の下層土がやや大きい値を示しているが, 他は略同じ大きさである.この値を奄美大島および徳之島の土壌の燐酸吸収係数と比べると略同じ大きさである.喜界島の島尻層に出来する土壌の燐酸吸収係数は表層土の平均が482,下層土のそれが547で, 他の地質母材に由来する土壌に比べて顕著に小さい.7)有効燐酸各島の未耕地の土壌には有効燐酸は殆んど含まれていない.ただ, 燐砿石を産する与論島の琉球石灰岩地帯の一部の土壌には未耕地土壌にも有効燐酸が含まれている.耕地土壌にはやや多量に含まれている.4.以上の如く, 与論島, 沖永良部島および喜界島の各島で特に未耕地として残されている地区の土壌の殆んどが強酸性, 塩基欠乏, 重粘質など不良な理化学的性質を持っている.従ってこれらの地区を将来農地として開発する場合は, まず土壌の不良性を改善する必要がある.このため, これらの島々に広く分布している石灰質の砂丘砂の客入は土壌の理化学的性質の改良に大いに役立ちうるもので, その活用が望まれる.
著者
中西 喜彦 吉永 健一郎 小川 清彦
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.81-88, 1985-03-15

雄ミニ豚について, 体尺測定値, 精液採取の状況, 精液性状および精液性状の季節変動について追究した.その結果は次のとおりである.1.体重は12カ月齢で37.8kg, 36カ月齢で76.5kgであった.体高と体長は12カ月齢で47.9cmと93.7cmであり, 36カ月齢で59.2cmと112.0cmであった.2.精液は擬ひん台を用いて, 手圧法で容易に採取できた.精液採取は4〜5カ月齢から可能であるので, ミニ豚は一般豚より数カ月性成熟が早いと思われる.3.射精時間は5分52秒(n=86)であり, 一般豚より1〜2分短かった.濃度精液の分画数で分類した射精型は1回型;52.3%, 2回型;33.8%および3回型;1.9%であった.4.精液量は10〜20カ月齢で134ml(n=57), 液体部量;99.6ml(n=86)および膠様物量;20.6g(n=84)であった.1ml当りの精子濃度は1.5億であり, 液体部のpHは7.8であった.さらに, 28〜38カ月齢では精液量;152.0ml(n=63), 液体部量;120.0ml(n=61)および膠様物量;26.0g(n=59)と精液量は月齢とともに若干増加する傾向が認められたが, 精子濃度やpHは変らなかった.5.精子全長をミニ豚, ハンプシャー種およびバークシャー種で測定した.平均精子長はそれぞれ56.4μm, 55.0μmおよび55.8μmであった.精子長はミニ豚で他の2品種より若干長かった.6.ミニ豚の精液性状の季節変動について2年間にわたって調べた.精液量, 精子濃度およびpHでは季節変動ははっきりしなかった.しかし, 奇形精子率が冬季に増加した.これは制限給餌で飼育しているので, 雄豚が低栄養状態になったためと考えられる.
著者
荒井 啓 山本 明
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.31-37, 1977-03-19
被引用文献数
1

鹿児島県内数ケ所の公園, 街路に植えられたカナリーヤシ(Phenix canariensis Hort.et Chab.)に立枯症状が認められ, その原因を調べたところ, 以下のことが明らかにされた.1.本症状を呈する樹は, 鹿児島市, 指宿市, 揖宿郡喜入町, 鹿屋市, 垂水市, 曾於郡大崎町, 肝属郡佐多町などで認められた.2.病徴は主として下枝に認められ, 初期には葉身の片側半分が枯れるのが特徴である.やがて下枝全体が枯れ, 次第に上枝に進展する.最終的には樹全体が枯れ立枯症状となる.このような樹の葉身, 葉脚, 根の導管内に多数の菌糸が認められ, 導管周辺の細胞は褐変していた.このような現象は, 外観緑色で健全にみえるような部分にもしばしば認められた.3.罹病組織より, PDA培地を用いて菌の分離を行なつたところ, 葉身, 葉脚, 根のいずれからも, 白色綿毛状の菌叢の菌が分離された.この菌をカナリーヤシに接種したところ, 発病が認められ, 立枯症状を呈した.発病株より, 菌の再分離を試みたところ, 根および葉身より, 同種の菌が分離され, この菌が病原菌であることが確かめられた.病原菌の菌糸は隔膜を有し, 隔膜のない短かい担子梗を分岐し, その上に無色単胞楕円形の小型分生胞子(2.5〜5×4〜10μm)を擬頭上に多数形成していた.時には, Fusarium菌特有の大型分生胞子(3〜5×10〜35μm, 4〜5胞)が認められた.培養過程でスポロドキアが高頻度に観察され, 古くなると, 厚膜胞子(径7.5〜10μm)や菌核の形成が認められた.このような培養所見から, 本菌はFusarium oxysporum Schl.emend.Snyd.et Hans.と推定された.4.病原菌の寄主範囲を調べるために, 分離菌を12科26種の植物に"ふすま"を用いて土壌接種したところ, カナリーヤシとナツメヤシに立枯症状が認められた.以上の結果から, カナリーヤシの立枯症状は, Fusarium oxysporumによる病害であることが確かめられた.このようなカナリーヤシの立枯症状は, わが国では報告がなく, 本病を「カナリーヤシ立枯病 : Fusarium disease of Canary Island date palm」と命名した.
著者
西中川 駿 松元 光春 大塚 閏一 河口 貞徳
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.147-157, 1983-03-15
被引用文献数
1

黒川洞穴出土の自然遺物, とくに哺乳類の骨を肉眼的ならびに計測学的に調査した.1.自然遺物の総重量は, 20455.5g(貝類を除く)で, そのうち哺乳類が全体の99%である.2.動物種や骨の種類を同定できたものは, 2059個の骨片で, それらはイノシシ, シカ, カモシカ, ツキノワグマ, オオカミ, イヌ, タヌキ, アナグマ, テン, イタチ, ノウサギ, ムササビ, モグラおよびサルの6目14種である.3.出土骨片数は, イノシシがもっとも多く(66%), ついでシカ(21%)であり, そのほかは13%である.オオカミ, ツキノワグマ, カモシカの出土は, 極めて貴重なものである.4.骨の形状は, 各動物ともに現生のものにほとんど類似し, また, 骨の大きさは, シカ, イノシシ, ノウサギで, 現生種より幾分大きい傾向を示した.5.以上の観察から, 縄文後期から晩期の鹿児島地方には, 少なくとも14種以上の哺乳類が生息していたことが伺われ, また, 縄文人がイノシシ, シカをよく狩猟し, 食べていたことが示唆された.
著者
西中川 駿 松元 光春 大塚 閏一 河口 貞徳
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.83-93, 1984-03-15

高橋貝塚出土の自然遺物, とくに陸棲哺乳類の骨を肉眼的ならびに計測学的に調査した.1.自然遺物の総重量は, 40963,0gで, そのうち, 陸棲哺乳類が全体の85.7%を占める.2.動物種や骨の種類を同定できたものは, 2811個の骨片で, それらはサル, ノウサギ, イヌ, タヌキ, アナグマ, テン, イノシシ, シカ, ウシ, ウマの5目10種である.3,出土骨片数は, イノシシでもっとも多く(60)%, ついでシカ(37%)であり, そのほかはわずか3%である, 4.骨の形状は, 各動物ともに現生のものにほとんど類似し, また, 骨の大きさは, シカ, イノシシ, ノウサギで, 現生種より幾分大きい傾向を示す.5.以上の観察から, 高橋貝塚を遺した人々は, イノシシ, シカをよく狩猟し, 食料としていたことが示唆された.
著者
西中川 駿 大塚 閏一 林田 重幸
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.91-98, 1966-03-14

家畜の乳房血管系の研究として, さきに山羊28例の乳房血管分布について報告したが, 今回は乳牛(Holstein)14例の乳房血管分布を肉眼的に精査し, その走行および分岐状態を明らかにした.1.乳房に分布する動脈はA.pudenda ext.とA.perinealisがある.しかしこのA.perinealisの乳房実質への分布はほとんどみられなく, 乳房後部および乳鏡の皮膚に分布し, 乳房上リンパ節枝からの分枝と吻合する.A.pudenda ext.は一般に, A.subcutanea abdominisを分岐して, A.mammariaになると記されているが, 検索した乳房全例ともこのA.subcutanea abdominisはA.mammaria cranialisの移行枝としてみられた.2.A.mammariaは後乳区の乳房基底部で乳房実質に入り, 直ちにA.mammaria cranialisとA.mammaria caudalisとに分かれる.A.mammaria cranialisは後乳区の実質と後乳頭に達する枝を分け, さらに前乳区実質および前乳頭に分布する内側乳腺動脈を分けて, A.subcutanea abdominisに移行する.A.mammaria caudalisは乳房上リンパ節へ枝を分け, 後乳区実質に広く分布して, 後乳頭に達する.前後の乳区間の動脈吻合枝として, A.mammaria cranialisからの後乳頭枝がみられ, 左右乳区間には内側乳腺動脈からの分枝と乳房上リンパ節枝からの分枝がみられた.3.A.mammariaからの枝の分かれ方に4つのTypeがあり, そのTypeと出現頻度についてはFig.5に示した.4.静脈はおおよそ動脈に随伴して走り, 外径は同名の動脈の約2〜3倍の大きさで, 乳房基底面および腹面では左右の静脈が連絡し, いわゆる静脈輪を形成している.5.従来, 血液の流出する径路にはV.pudenda ext., V.subcutanea abdominisおよびV.perinealisの3つの径路があると記されている.しかし, 静脈弁の位置と構造からして, V.perinealisは乳房から血液の流れ去る径路とはならず, むしろ乳鏡付近でこの静脈に入つた血液は乳房に向い, 会陰静脈吻合枝, V.mammaria caudalisを通り, V.pudenda ext.へ流れると考えられ, また乳房を環流した血液はV.subcutanea abdominisよりもV.pudenda ext.へ流れ去るものが多いと考えられる.
著者
西中川 駿 松元 光春 大塚 閏一 出口 浩
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.19-27, 1992-03-30

縄文後期の草野貝塚出土の哺乳類の骨を肉眼的および計測学的に検索し, 動物種や骨の種類を明らかにした.1.自然遺物の総重量は, 157.843kg(貝類を除く)で, そのうち哺乳類が152.983kgで, 全体の96.9%を占めている.2.哺乳類の種や骨の種類を同定できたものは, 16,323個の骨片で, それらはニホンザル, ムササビ, ネズミ, ノウサギ, オオカミ, イヌ, タヌキ, アナグマ, カワウソ, テン, イタチ, イノシシ, シカ, カモシカ, イルカおよびクジラの6目16種である.これらのうちイノシシ(11,590個), シカ(4,155個)が全体の96.5%を占める.3.骨の形状は, 各動物ともに現生のものとほとんど差はないが, 大きさは出土骨の方が幾分大きい.4.以上の観察から, 草野貝塚を遺した人々は, イノシシ, シカを中心に狩猟していたことが示唆され, また, オオカミ, カワウソなどの出土は, 当時の動物相を知る上に貴重な資料である.
著者
西中川 駿 臂 博美 松元 光春 大塚 閏一 中島 哲郎
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.105-113, 1987-03-16
被引用文献数
1

縄文後期の麦之浦貝塚出土の自然遺物, とくに哺乳類の出土骨を肉眼的ならびに計測学的に調査した.1.自然遺物の総重量は, 72,174.2g(貝類を除く)で, そのうち哺乳類が99%を占めている.2.哺乳類の種や骨の種類を同定できたものは, 3,865個の骨片で, それらはニホンザル, ムササビ, ネズミ, ノウサギ, ツキノワグマ, オオカミ, イヌ, タヌキ, アナグマ, カワウソ, テン, イタチ, アシカ, イノシシ, シカ, カモシカ, ウマ, イルカおよびクジラの7目19種である.これらのうち, 出土骨片数の多いものは, イノシシ(2,414個), シカ(1,310個)で全体の89%を占め, ほかのものはわずか11%である.3.骨の形状は, 各動物ともに現生のものとほとんど差異はなく, また, 骨の大きさは, イノシシ, シカ, タヌキ, アナグマ, ノウサギで, 現生のものより大きい.4.以上の観察から, 麦之浦貝塚を遺した人々は, イノシシ, シカを中心に狩猟していたことが示唆され, また, オオカミ, ツキノワグマ, カワウソなどの出土例は, 動物地理学上貴重な資料となるであろう.
著者
大塚 閏一 山入端 正徳 西中川 駿
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.277-281, 1973-03-24

1)ラットの耳下腺, 下顎腺および単孔舌下腺について, 血管分布密度を組織切片一定面積中の血管断端数で検討した.2)血管分布密度は耳下腺が最も高く, 下顎腺がこれにつぎ, 単孔舌下腺が最も低かった.3)下顎腺においては, 雌の血管分布密度が雄よりも高かった.
著者
西中川 駿
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.1-55, 1970-03-25

乳腺に分布する血管の起源, 走行, 分布域などを, 乳牛, 山羊, トカラ山羊, めん羊, 馬, 犬, 猫, 家兎, モルモット, ハムスター, マウスおよびラットの12種類の動物について, 比較解剖学的に精査し, その詳細を明らかにし, 図および表に示した.また, 処女, 妊娠, 泌乳および退行の各時期におけるマウス乳腺の実質の消長と, これらに分布する血管系の消長との相互関係を検討した.さらにこれらの点についてはホルモンを用いた実験を加わえて追究し, また, これらの結果はさらに, アイソトープを用いて, 乳腺に分布する血管の形態学的観察と乳腺を灌流する血液の流量との相互関係について比較検討を行なった.以上の結果は以下のように要約される.1.乳腺への動脈系の分布状態から上記動物は5型に分類出来た.すなわち, 乳牛, 馬, 山羊, トカラ山羊, めん羊およびモルモットの乳腺は鼠径部にあり, その動脈系は外陰部動脈に由来し(Type I), 従来, 成書に記載されている会陰動脈の乳腺実質への分布はみられなかった.乳牛は1側に2つの乳腺域をもち, 血管も前後の乳腺動脈に分かれて分布し, これらの血管は互いに吻合している.また, 左右乳区間の血管吻合については特に山羊, トカラ山羊, めん羊で明らかに認められた.犬, 猫の前位乳腺には内胸, 外胸動脈が, 後位乳腺には外陰部動脈がそれぞれ主流として分布し, これらは互いに吻合している(Type II).家兎乳腺は胸部から腹部にあり, 動脈系は犬, 猫の主流動脈に浅腹壁動脈が加わり, 外陰部動脈より強枝で, 腹部乳腺に広く分布する.また, 外胸動脈は内胸動脈よりも強枝であり, 乳腺への分布域も広い(Type III).ハムスターの乳腺は胸部から腹, 鼠径部にあり, 内胸動脈は乳腺枝をもたず, 外胸, 浅腹壁, 外部の3動脈系が関与する(Type IV).マウス, ラットでは胸部乳腺に外胸, 浅頸動脈が, 腹鼠径部乳腺に浅腹壁, 腸腰, 外陰部動脈が主流をなして分布する(Type V).2.静脈系はいずれの動物においても, その大部分がほぼ動脈に伴行して走る.反芻家畜の静脈系の主流は外陰部静脈であるが, 馬の場合, 乳房後部から大腿深静脈に入る主要乳腺静脈が主流をなし, 本来の外陰部静脈は非常に細いという特徴を示した.腹皮下静脈は乳牛で最もよく発達してみられた.従来, 乳房の静脈路として記載されている会陰静脈は静脈弁の配置と構造からみて, 血液の流れの方向は乳房より流れさるのではなく, むしろ乳房に向かって流れるものと考えられた.犬, 猫の前位の乳腺の静脈は内胸, 外胸静脈へ, 後位のものは外陰部静脈へ流れ, 家兎の場合, 動脈は浅腹壁動脈が強枝であってその分布域は広いが, 静脈は外陰部静脈が太い.また, ハムスターでは浅腹壁静脈が太く, 血液はこの方へ流れるものが多いと考えられる.3.乳腺血管の分布状態は動物の生理的変化に伴う乳腺の機能状態に応じて変化するが, マウスでは, それぞれの主な血管系の本幹には大差はなかった.しかし, 導管や腺胞に分布する血管には特徴的な差がみられた.すなわち, 処女期においては導管やBudに分布する血管網の発達は弱いが, 脂肪組織への分布は多い.奸娠期には乳腺の血管分布は密になり, 特に妊娠初期から中期にわたって, Budや腺胞の付近の脂肪組織中にルーフ状の特徴的な毛細血管網があらわれ, 妊娠が進むにつれてこれらの血管網の中に腺胞が発達, 侵入するのが認められた.また, この像は分娩後3日目の乳腺にも少数認められた.これらの血管叢の起源は導管に沿って伸びた血管と, 導管とは無関係に脂肪組織に分布していた血管からであり, 明らかに腺胞系の発育のために脂肪組織の中に確立していた血管が妊娠により, 活発化したものと推測される.泌乳期では導管および腺胞は毛細血管で密にとりかこまれ, 小葉間導管と腺胞の一部に, 分娩3日目頃から蛇行した血管が出現し, 12日目最高に達して, 以後次第に退化した.この蛇行血管は特に泌乳中のみに発達している点から, 乳汁の生成および導管や腺胞中の乳汁の貯留および排出とも関係があるものと考えられる.離乳期における腺胞の退化はすみやかであるが, 血管は原型に近い形でそのまま退縮後も残り, そののち次第に退縮して付近の脂肪組織に分布するのが確認された.4.未成熟, 成熟および卵巣除去マウスにEstradiol, Progesteroneを同時に14日間投与すると奸娠前期から中間にほぼ準じた血管分布像がみられ, Budや腺胞の付近にはルーフ状に特異的に吻合した血管網がよく発達していた.この様な血管像はまた, Progesterone単独投与でもみられたが, Estradiol単独投与のものでは少なく, むしろ乳頭や導管周囲の血管がよく発達していた.5.胸部乳腺の血液の流量をIsotopeを用いて測定したが, 流量は妊娠開始と共に増加し, 分娩後12日目で最高となり, 以後下降した.これらのことは乳腺の血管分布密度の発達の程度とほぼ一致した結果を示した.