著者
西中川 駿 松元 光春 鈴木 秀作 大塚 閏一 河口 貞徳
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.157-166, 1982-03-19

南九州の古代にどのような動物が生息し, また, 古代人がどのような動物を狩猟し食していたか, さらには現生種との間に骨学的差異があるかなどを知る目的で, 今回は鹿児島県片野洞穴出土の哺乳類, 鳥類の骨を肉眼的ならびに計測学的に調査した.1.自然遺物は, 縄文後期から晩期の土器と共に出土し, 総出土量約10547gで, そのうち哺乳類が7204g(68%)で, 鳥類はわずか0.8gであり, その他貝類などであった.2.動物種や骨の種類を同定出来たものは, 773骨片で, それらはイノシシ, シカ, ツキノワグマ, イヌ, タヌキ, アナグマ, ノウサギ, ムササビ, サルおよびキジの6目10種であった.3.動物別出土骨片数をみると, イノシシが最も多く(53%), ついでシカ(38%)であり, その他の動物はそれぞれ2〜5%にすぎなかった.ツキノワグマの出土は貴重なものであり, 最大長186mmで, 両骨端の欠如していることから若い個体と推定した.4.骨の形状は, 各動物共に現生のものにほとんど類似し, また, 骨の大きさはシカ, ノウサギで現生種より幾分大きい傾向を示した.5.以上の観察から, 縄文後期から晩期の鹿児島県大隅地方には, 少なくとも6目10種以上の動物が生息していたことが伺われ, また, 古代人がイノシシ, シカをよく狩猟し, 食べていたことが示唆された.
著者
大塚 閏一 山入端 正徳 西中川 駿
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.167-179, 1972-03-30

1)29頭の犬を用い, 51例の下顎腺および耳下腺に分布する動脈を肉眼的に観察した.2)下顎腺に分布する主要動脈は, A.facialis(顔面動脈)よりのRamus glandularis(腺枝)およびA.auricularis caud.(後耳介動脈)より起こるRami glandulares(腺枝)であった.このほか, A.thyroidea cran.(前甲状腺動脈)より起こるRamus sternocleidomastoideus(胸鎖乳突筋枝)の分枝およびA.parotidea(耳下腺動脈)の分枝が分布する例も認められた.なお, A.thyroidea cran.のRamus sternocleidomastoideusが, A.thyroidea cran.より起こらず, A.occipitalis(後頭動脈)の基部より分岐して, その分枝が下顎腺に分布する例が1例認められた.3)下顎腺への動脈分布状態は5型に分類でき, それらの頻度はTable 1のようで, A.facialisのRamus glandularisおよびA.auricularis caud.のRami glandularesのみが分布する型が41.2%と多かった.4)耳下腺に分布する主要動脈は, A.parotidea, A.auricularis caud.より起こるRamus auricularis lat.(外側耳介枝)の分枝およびA.temporalis sup.(浅側頭動脈)より起こるA.auricularis rost.(前耳介動脈)の分枝の3動脈であった.このほか, A.auricularis caud.のRami glandulares, A.temporalis sup.よりのA.transversa faciei(顔面横動脈)の分枝およびA.masseterica(咬筋動脈)の分枝が耳下腺に分布する例も認められた.5)耳下腺への動脈分布状態は7型に分類でき, それらの頻度はTable 2のようで, 主要3動脈のみが分布する型が45.1%と最も多かった.6)A.parotideaはA.carotis ext.より起こる例のほか, A.auricularis caud.またはA.temporalis sup.より起こる例が31.3%も認められた.7)A.auricularis caud.は一般に耳介の輪状軟骨の基部でA.carotis ext.より起こるが, 9.8%にあたる5例において, A.carotis ext.が舌下神経と交叉する部位より起こっていた.
著者
小山田 巽 橋口 勉 柳田 宏一 武富 萬治郎
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.99-106, 1979-03-19

1953年, 林田らにより命名されたトカラ馬は, 当時, トカラ列島宝島で総馬数43頭と報告されている.その後, 宝島に数頭を残すのみで島外に分散せざるを得なかった.現在, 鹿児島県下に65頭のトカラ馬が飼養されているが, 本報では, 最近における飼養頭数の推移および飼養場所の概要について報告した.また, 測定可能なトカラ馬について各部位の体尺測定を実施し, トカラ列島宝島で生産, 育成されたものと, 環境条件の異なる場所で飼養されたものとの形質的な相違について調査した.毛色については全集団について観察した.飼養頭数の推移と飼養場所の概要はTable1およびTable2のとおりである.体尺測定値については, それぞれの集団での測定結果を比較した.すなわち, 1953年に測定された宝島のトカラ馬集団と, 1976年に測定した開聞山麓自然公園, および, 1977年に測定した鹿児島大学入来牧場のトカラ馬集団の体尺測定の平均値は次の値を示した.体高では, 宝島集団の雄114.9cm, 雌114.5cm, 開聞山麓自然公園集団の雄113.55cm, 雌115.38cm, 鹿児島大学入来牧場集団の雄122.33cm, 雌120.45cmであった.体重においても, 林田らの測定した雄の体重の平均値は198kgとされているが, 鹿児島大学入来牧場集団の雄の体重の平均値は252.3kgであった.体尺測定の平均値は, 宝島集団と開聞山麓自然公園集団は良く一致しているが, 鹿児島大学入来牧場集団では高い値を示している.これが飼養条件のみによるものかは断定できない.また, 毛色については, 典型的な栗毛の毛色を示したものは全集団65頭の1.5%にあたる1頭の雄栗毛のみで, その他の毛色は鹿毛を基調としたトカラ馬特有の毛色であった.
著者
藤本 滋生
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.17-28, 1984-03-15

明治6-7年(1873-1874)に国立博物館から「葛粉一覧」および「澱粉一覧」(上, 下)が刊行された.これはわが国に産する澱粉性植物のうち, 地下に澱粉を貯える草本類45種を図解したものである.採録されている植物は, (a)昔から澱粉がとられてきた野生の植物, (b)栽培されている芋類, (c)救荒植物, (d)薬用植物, などから選ばれたものである.しかし実際には, 澱粉をまったく含んでいない植物が12種も混在している.本論文は, これら45種の植物につき, 現在の名称, 起源, 利用の方法, 澱粉の有無などについて述べたものである.
著者
団野 晧文 宮里 満 石黒 悦爾
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.183-187, 1982-03-19
被引用文献数
2

上部と下部にそれぞれ5本の紫外線灯を装着した紫外線照射装置(2号機)を試作し, 上下両方向から同時にしかも均一に照射できるようにした.紫外線照度計を用いて, 2号機内の紫外線線量率の垂直分布および平面分布を測定した.2号機内の線量率は上部の紫外線灯5本を点灯すると6.66〜2.31mW/cm^2となり, 距離に反比例して減少した.酵母菌に対して, 2号機を用いた紫外線照射とガンマーセルGC-40を用いたCs-137のγ線照射を行った.紫外線照射より得られた生存曲線は, γ線照射により得られた生存曲線と同様にシグモイド型となった.D_<10>値はSacch.cerevisiaeでは11.32mW・sec./cm^2,Candida utilisでは13.17mW・sec./cm^2となった.
著者
高山 耕二 魏 紅江 萬田 正治 中西 良孝
出版者
鹿児島大學農學部
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
no.57, pp.1-4, 2007-03

本研究は合鴨農法における家鴨雛の適正放飼日齢を明らかにする上での基礎的知見を得ることを目的とし、インディアンランナー種、中国系在来種およびマガモ系合鴨の初生雛を供試し、最大60分間の強制水浴下(20あるいは5℃)における水浴能力を水浴時間、体温、羽毛の浸潤程度を指標として、3種間で比較検討した。得られた結果は次のとおりである。1)家鴨3種の水浴時間は0日齢で最も長く、日齢の経過とともにいずれも短くなった。3、6、9日齢の水浴時間はマガモ系合鴨が他の2種に比べ有意に長かった(P<0.05)。家鴨3種の水浴時間に水温による影響は認められなかった。2)0日齢における水浴終了時の体温低下は、インディアンランナー種に比ベマガモ系合鴨と中国系在来種で有意に小さかった(P<0.05)。0-12日齢における水浴終了時の羽毛の浸潤程度には、3種間で有意差が認められなかった。以上の結果から、供試した家鴨3種の中ではマガモ系合鴨が最も高い水浴能力を有することが示された。
著者
雨宮 淳三 天本 広平 佐伯 拡三 姫木 学 岡本 嘉六
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.147-153, 1989-03-15

市販食肉(生食用馬肉, 鳥胸肉, 豚ロース肉, 豚挽肉)の細菌汚染状態を調査し, 以下の成績を得た.1.汚染の指標細菌として, 生菌数, 大腸菌群数, ブドウ球菌数, 嫌気性菌数, 低温細菌数を調べたところ, これらの指標細菌相互の相関係数は-0.31〜0.51であり, 関連性は薄く, それぞれ汚染の異なった側面を示すものと考えられた.豚挽肉はいずれの菌種についても菌数が多かったが, 馬肉, 豚ロース肉および鳥肉についても決して少ない菌数ではなかった.スライス肉相互の菌数の差は比較的小さく, 生食用馬肉では大腸菌群数と低温細菌数が少なかったものの, 他の菌数はほぼ同程度であった.このことは, 流通過程で食肉相互の汚染が交差し増大すること, 汚染菌数は食肉の種類によるよりも取扱いの適否に基ずくことを示すものと思われる.2.冷蔵保存した時の生菌数, 嫌気性菌数, 低温細菌数の推移は, 豚ロース肉が豚挽肉より進行が約半日遅いものの, 肉の形状による差異がないことから, 食肉の腐敗の進行は主として保存当初の汚染細菌によって決まるものと考えられる.嫌気性菌数は生菌数とほぼ同様の推移を示したが, 低温細菌はより速やかに増殖し腐敗に大きく関与しているものと考えられた.異臭発生時の菌数は, 生菌数と嫌気性菌数は約7.5,低温細菌数は約10であり, ついでネトの発生がみられた.3.分離した嫌気性菌のうち約半数が偏性嫌気性菌であり, API嫌気システムによる簡易同定ではCl.beijerinkiiが多くを占め, そのほかはFusobacterium symbiosum, Bacteroides spp.などであった.4.ブドウ球菌No.110培地で分離した368株のブドウ球菌の中で, 約30%がコアグラーゼ陽性であったが, コアグラーゼ活性の弱いものが大半であり, その中の55株がS.aureusと同定され, 3株がA型エンテロトキシンを産生した.MSEY培地とETGP培地におけるコアグラーゼ陽性株の性状を調べたところ, マンニット分解能および亜テルル酸塩還元能を有している株は, それぞれ, 76%, 95%であったが, 卵黄反応が陽性であったのはS.aureus株の27%に過ぎなかった.両培地とも, S.aureus集落の典型的性状として, 卵黄反応陽性をあげていることから, S.aureusの一部を見逃す危険性があると考えられる.また, コアグラーゼ反応の弱い株でもエンテロトキシンを産生していることから, 判定に際してはこの点を留意する必要がある.
著者
荒川 剛史 秋山 邦裕
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.55-67, 2005-03-01
被引用文献数
2

近年,都市住民を中心に,自然をコンセプトにしたテーマパークが注目を浴びている。その先駆的な企業が「株式会社ファーム」である。同社はファームパークを手掛け16年,全国に19の施設を持ち,18施設が黒字転換している。そこで,株式会社ファームの運営するファームパークの現状をみることで成功要因を探った。それらを要約すると以下のとおりである。一つに,基本コンセプトを「自然」とすることで来園者に憩いと安らぎの場を提供する。二つに,移動1時間程度に,100万人都市がある山間部に建設。荒廃した広大な土地を安価で購入し,自然の壮大なスケールをみせる。三つに,第3セクター方式・公設民営方式を採用することで,初期投資額を大幅に削減することが可能である。また,「自然」がテーマであるため追加投資はそれほど必要ではない。四つに,1人当たりの入場料が1,000円以下であり,家族4人が1日遊んで10,000円程度で過ごすことを可能にした。いずれも,今後のファームパークの展開において重要な示唆を与えるものと考える。
著者
馬場 裕典 吉良 今朝芳 枚田 邦宏
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.57-66, 1996-03-31
被引用文献数
3

1994年の屋久島の登山届(2,391部)を用いて, 登山者の構成, 登山の目的, 登山道入口の利用状況および登山の安全性について集計した.その結果, 以下のことが明らかになった.1.延べ登山者数は7,263人であった.登山者の構成は, 性別では男性が全体の70.2%, 年齢別では20歳代が全体の43.5%と大きなかたよりがある.2.登山の目的は縄文杉(64.3%), 宮之浦岳の(62.8%)の2カ所が主な目的地である.また登山道入口に関しては淀川登山口が39.4%, 白谷登山口が30.0%, 荒川登山口が24.8%であり, この3登山口で全体の94.2%であった.特に荒川登山口を利用した登山者のうち縄文杉のみを目的地とした登山者は80.7%であり, 同登山口は縄文杉のみの登山者が利用する傾向がある.3.登山の安全性についてみてみると, 装備品においてはシュラフ(寝袋)を装備していない登山パーティーが宿泊登山パーティー全体の10.3%であった.またテントを装備していない登山パーティーは39.6%であった.全登山パーティーのうち30.1%が下山連絡を行っているにすぎなかった.
著者
ローシュングリ アブリミテイ 岩元 泉 坂爪 浩史 高梨子 文恵
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.37-53, 2005-03-01

現在,新彊ウイグル自治区の農村女性において教育レベルの格差が拡大している。そこで我々は農村地域における女性の教育レベルの現状,および低学歴が家庭経済状況とどのような関係にあるかを明らかにすることを目的として,トルファン市ヤル村およびウルムチ県三坪農場の2つの地域で調査研究を行った.この2つの村で調査した結果,ウイグル農村女性においては教育機会が乏しく依然として低学歴状態に置かれていることが分かった.また,伝統的慣習による早婚の傾向,早婚による離婚,さらに低学歴に深い相関関係が見られた.これらは低い経済生活水準とも相まって,悪循環に陥っている.しかし次第に女性の収入が世帯の収入に寄与する割合も高くなってきている.経済的収入機会を増やすことが農村女性の地位向上には重要であることが明らかになった.
著者
田中 實男
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.37-44, 1996-03-31

ここ四半世紀に亘るわが国の農畜産物の生産調整は, 消費を上回る生産の増大による絶対的過剰と, わが国の貿易黒字を背景にして海外からの農畜産物の輸入調整の出来ぬままに国内の生産を抑制する相対的過剰とを原因として開始された.このこと自体が, 農畜産物価格を低迷させる結果となり, 農業経営にとって非常に厳しい状況となった.ここ10年ほどの間に, この厳しい環境条件のなかにおいて農業経営の継続が不可能となり, 農家整理の事例が散見されるようになった.本稿においては, 農業経営が破綻を来たして, 破産整理に至った原因について, 30年間に亘る農業経営診断作業過程から得られた知見を整理して検討した.その結果, まず第1点として, 農家の破産整理にまで至った事例にすべて共通する基本的条件は, 農業生産技術水準の低位性であった.これまでに農業生産についても, 所得拡大を目指して経営規模拡大の努力がなされてきた.しかし, この規模の拡大が所得の増大に結びつくには, 省力化しつつ規模拡大前と同一生産技術水準の維持が前提条件である.さらには, 規模の拡大は, 多分に経営外からの原材料用役の購入の増大すなわち経費率の上昇を伴うのが一般的である.結果として, 経営規模の拡大とともに生産技術水準の低下と収益の減少を来すのが多かった.所期の目的たる所得の拡大を実現するには, 農業経営者としての高い管理能力の発揮が問われたのである.第2点として, 経営能力と密接に関係するが, 生活水準を維持するには農業経営規模が零細である点が指摘される.この点は, 施設型資本集約型農業経営においては, 可成りの規模拡大によって目的が達成されているが, 土地利用型農業経営は, 農地問題との関係でもって非常に零細である.しかし, この必要とされる農業経営規模とは, 農家の生活水準におおきく関係するわけで, 第3点として, とくに戦後生れの農業経営者の生活観の不健全さを指摘した.何よりも人並みの生活水準が前提であって, 自分で稼ぎ出す所得の多寡とは無関係という人生観は理解の外であるが, 現実に存在しているのである.第4点としては, 農村にこのような破産型人生観が通用するような金融環境が存在することが問題である.それは, とくに農協を中心として成立しているが, 現在に至ってその存在を整理しなければならない状況に追い込まれた.農家の高額負債問題は現実に破綻して, 具体的に破産整理の実行となったわけである.農家の高額負債問題の整理としては, 著者は早くから提案したところであるが, 農業経営の再建の可能性の有無を尺度にして, その可能性のない農業経営は早急に経営活動を停止させて整理すべきである.このことは, 債権者としての農協などと債務者としての農家の双方にとって, 可能な限り損害の少ない処理法となるからである.そして, 再建の可能性のある農業経営は, 経営から生活までを管理する濃密な指導態勢のもとに置かれるべきである.それは, これぐらいの指導を必要とするぐらいの破産型の人生観を持った農業経営者が多くいるからである.1992年(平成4)11月末に, 6,500万円の負債でもって農協との合意のうえで農村から退散した畜産経営者が, その後はビル清掃員ついで長距離トラック運転手と転身したが, 現在の彼の「畜産経営をやっていた時に比べてこんなに楽をしていいものかと思う」ということばのなかに, 経営者としての能力の欠落とそれまでの生活の無計画さを見出すのである.
著者
西田 孝太郎 小林 昭 永浜 伴紀
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.151-168, 1955-11-30

I-1.日本産ソテツCycas revoluta THUNB.の種子より, 著者がさきに予想した有毒配糖体を純粋に単離した.このものはC_8H_<16>O_7N_2なる無色針状結晶の一新配糖体であることを証明して, cycasinと命名した.cycasinの単離にはその結晶化を妨げる共存不純物, 殊に糖類を, イオン交換樹脂及び活性炭chromatographyによつて分別除去する方法を採つた.I-2.cycasinの単離に際し, cycasinとの分離困難なsucroseを除くため, 抽出液に酵母invertaseを作用せしめ, 活性炭chromatographyを効果的に且つ容易に行い, その収量を原法に比して倍加せしめることができた.II.cycasinの構造を決定するため濠洲産ソテツのmacrozaminについての報告と比較検討した結果, 酸, アルカリ乃至は還元剤によるcycasinのaglyconeの分解生産物及び, cycasinの紫外部及び赤外部吸収スペクトルにおける吸収極大が, macrozaminのそれらと一致することを明らかにした.しかるにcycasinの糖成分として証明しうるのはglucose 1分子のみで, xyloseは存在しない.すなわちcycasinの構造はglucosyloxyazoxymethaneでなければならないと結論される.III.ソテツ種子から調製したemulsinによるcycasinの分解を, 酵素反応の条件を種々異にする場合について検討した.最終分解産物としてcycasin 1 mol.につき, N_2 gas, formaldehyde, methanol及びglucoseがそれぞれ約1 mol.ずつ得られ, 酸による加水分解の結果と一致した.N_2 gasの測定にはWARBURG manometerを用いた.cycasinのaglyconeは酵素によつてglucoseから切離される場合にも不安定で, 上記低分子化合物に分解するものと結論される.
著者
田邊 幾之助 上村 幸広 吉井 右 木佐木 博 藤井 正範
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.33-39, 1981-03-19

海水の常在微生物相から旧式焼酎蒸溜廃液を加えながら形成させた海水活性汚泥による処理は良好であったが, この海水活性汚泥法の的確な微生物管理のためには微生物相を充分に把握する必要がある.このため, 先ず, 通常の分離方法で微生物相を明らかにした.微生物相は混合液を洗浄液, 洗浄汚泥(試料(4))およびワーリングブレンダーでホモゲナイズした洗浄汚泥(試料(5))について明らかにしたが, 海水活性汚泥の場合は主として, flavobacteria, Achromobacter-Pseudomonas群およびCorynebacterium roseumから成立ち, しかも, これらはいずれも(5)/(4)比が10^3と高く, 汚泥フロックの構成的な細菌であることが証明出来た.菌類としてはGeotrichum candidum, 藻類としてはChlorellaおよび藍藻が目立った.
著者
西山 安夫 松尾 英輔 稲永 醇二 石黒 悦爾 宮里 満
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.251-258, 1990-03-15

ツルムラサキ, トウゴマ, ダイズ, ソラマメの乾燥種子を^<60>Co, γ線で照射した後, 砂箱または地床に播種して, それらの出芽および生育状況を調査した.ツルムラサキの'緑色種'と'紅色種', トウゴマおよびソラマメの出芽率は7.4kGy, 9.2kGy, 3.4kGyおよび0.2kGy以上の区ではいずれも0%となった.ツルムラサキの'緑色種'と'紅色種'およびダイズの生存率はそれぞれ0.5kGy, 0.4kGyと1.0kGy以上の区で0%となった.ダイズ'ひたしまめ'は0.5および0.7kGy区では出芽し, 生存し続けたが, 本葉の発生はみられなかった.本実験に用いた植物の茎長, 生体重はいずれも照射線量の増加につれて著しく小さくなる傾向がみられた.葉のモザイク症状はトウゴマ, ダイズ, ソラマメでは線量の増加とともに顕著に現れたが, ツルムラサキにはほとんど認められなかった.
著者
西原 典則 西川 正雄 堀口 毅 稲永 醇二
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.71-81, 1987-03-16

硝酸化成抑制剤の土壌中における行動を明らかにするため, 粘土鉱物の種類, 有機物含有量, CECなどを異にする3種類の土壌を用いて土壌カラムを作り, 浸透水による薬品の下方への移動を微生物的測定法および化学的測定法により検討した.得られた結果は次のとおりである.1.実験に用いた4種類の硝酸化成抑制剤(Dd, Tu, AM, DCS)の土壌中における移動速度はシラス土壌が他の土壌に比して大きかった.2.比較的溶解度の大きいDdおよびTuは溶解度の小さいAMおよびDCSに比して土壌中における移動速度が大きかった.3.化学的測定法により硝酸化成抑制剤の含有量の大きかったフラクションでは微生物的測定法による硝化抑制率も高かった.しかし, 化学的測定法で硝酸化成抑制剤が検出されなかったフラクションで硝化抑制効果の認められる場合があった.4.微生物的測定法による硝化抑制率のピークの巾は化学的測定法による薬品含有量のピークの巾に比して大きかった.5.Ddについては, シラス土壌において化学的測定法による土壌中含有量と微生物的測定法による硝化抑制率との間に正の相関がみられたが, 黒ボク土および沖積土では相関はみられなかった.AMについては, いずれの土壌においても土壌中含有量と硝化抑制率との間に相関はみられなかった.
著者
岩堀 修一 米山 三夫 大畑 徳輔
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.43-48, 1979-03-19

ニンポーキンカンの着色を促進し, 早期収量を増加させるためのエスレル(2-chloroethylphosphonic acid)の最適散布時期と濃度をきめるために, 加世田市の栽培者の園で3年間実験を行なった.第1実験ではエスレル0ppm, 200ppm, 400ppmを11月4日に散布した.エスレルは着色を促進し, その効果は濃度の高い方が著しく, 特に赤色の発現が顕著であった.第2実験ではエスレル0ppm, 200ppm, 400ppmを早期(10月18日), 中期(10月28日), 晩期(11月9日)に散布した.エスレルの着色促進効果は, 濃度は高い方が, 時期は早いほど著しかった.しかし400ppmの早期散布では50%の落果が, 中期散布では20%の落果があった.第3実験では2年間にわたりエスレル400ppm散布区と対照区の早期収量を調べた.散布は初年度は10月30日に, 2年目は11月2日に行なった.2年間ともエスレル散布によって早期収量は著しく増加し, 1月まで残る果実はほとんどなかった.落葉・落果, あるいは樹体への悪影響は認められなかった.第4実験では, 1.無処理, 2.10月18日200ppm散布, 3.10月18日と11月2日の2回200ppm散布, 4.11月2日300ppm散布の4処理の収量を比較した.300ppm散布で早期収量は著しく増加した.しかし200ppm1回と2回散布の間には差はなく, ともに対照区より早期収量は高い傾向にあったものの, 有意差は認められなかった.以上の結果から10月下旬〜11月上旬の300〜400ppmのエスレル散布が落葉・落果をほとんどおこすことなく, キンカンの着色促進, 早期収量増に有効であると思われた.
著者
西原 典則
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.177-185, 1958-10

稲白葉枯病に対して抵抗性を異にする6品種の水稲について7月4日(移植期), 8月22日, 9月2日, 及び9月20日の4回にわたり葉の圧搾汁液を採取しその滲透圧, 比電気伝導度, 全窒素, 全糖, 乾物, 灰分, 及び有機物含有量を定量して次の結果をえた.1.滲透圧, 全窒素, 乾物, 及び有機物含有率は移植期から9月上旬まで減少し9月下旬には増加した.2.比電気伝導度及び灰分含有率は生育の進むに従い低下した.3.全糖含有率は移植期から8月下旬まで増加し9月上旬には減少したが, その後最上位葉では増加し第3葉では減少した.4.滲透圧, 比電気伝導度, 全窒素, 全糖, 乾物, 灰分, 及び有機物含有率の品種間差異は生育時期及び葉位によつて異り一定の傾向を認めえなかつた.5.比電気伝導度/氷点降下度及び全糖/全窒素は水稲の生育時期によつてその値を異にしたが, 9月下旬において抵抗性品種は罹病性品種に比して比電気伝導度/氷点降下度が小で全糖/全窒素が大であつた.6.全窒素含有率と比電気伝導度, 全糖, 灰分含有率, 及び有機物含有率と比電気伝導度, 灰分含有率との関係を除き, 滲透圧, 比電気伝導度, 全窒素, 全糖, 乾物, 灰分, 及び有機物含有率の間には夫々相関が存在した.
著者
森園 充 北 敏郎 西山 実光
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.95-103, 1976-03-20

ウマ, ウシ, ブタ, イヌ, ネコの血清Al-P総活性値をK-K変法, BL法およびB変法の3種の方法で測定した結果, 次のような知見が得られた.1.各家畜の正常活性値は, K-K変法で, ウマ17.4±0.78,ウシ9.2±0.63,ブタ6.6±0.33,イヌadult5.8±0.4,infant8.8±1.1,ネコadult3.9±0.7,infant8.6±0.9KAU, BL法で, ウマ6.2±0.28,ウシ2.2±0.1,ブタ2.1±0.1,イヌadult1.6±0.1,infant2.3±0.2,ネコadult1.2±0.3,infant2.6±0.3BLU, B変法では, ウマ7.3±0.6,ウシ3.1±0.2,ブタ2.5±0.1,イヌadult2.3±0.2,infant2.9±0.3,ネコadult1.7±0.2,infant3.5±0.4BUであった.2.K-K変法に対するBL法とB変法の相関性は, 前者がウマでr=0.79,ウシでr=0.86,ブタr=0.65,イヌr=0.60,ネコr=0.80,後者がウマr=0.67,ウシr=0.79 r=0.76,ブタr=0.76,イヌr=0.77,ネコr=0.86といずれも強い相関が認められた.3.K-K変法に対するBL法とB変法による活性値の換算値は, ウマ10KAU-4.1BLU, 20KAU-7.0BLU, 10KAU-3.4BU, 20KAU-8.7BU, ウシ10KAU-2.5BLU, 20KAU-5.4BLU, 10KAU-3.4BU, 20KAU-6.1BU, ブタ10KAU-3.2BLU, 20KAU-6.4BLU, 10KAU-3.5BU, 20KAU-5.0BU, イヌ10KAU-2.4BLU, 20KAU-4.1BLU, 10KAU-3.3BU, 20KAU-6.6BU, ネコ10KAU-2.9BLU, 20KAU-5.5BLU, 10KAU-3.9BU, 20KAU-7.0BUであった.4.イヌとネコにおいては, infantがadultよりも活性値が明らかに高い傾向が認められた.5.各家畜における性差は認められなかった.6.ウシにおける品種間の差は認められなかった.7.3種測定法の中では, K-K変法が最も適当しているものと考える.
著者
柳田 宏一 伊東 繁丸 片平 清美
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.183-197, 1988-03-15

昭和57年3月から昭和58年2月までの1年間, 黒毛和種繁殖牛37頭を用いて, 冬季における貯蔵飼料給与量の増加や冬季離乳によって飼養改善を行った場合の季節別の繁殖成績を調査した.その結果, これらの改善を行っても, 冬季分娩牛の繁殖成績はあまり改善されず, 受胎までの日数は長いことが判明した.その原因は冬季の栄養状態の不良によるところが大きいと考えられたので, これらを改善するため, 冬季に立毛状態にしたイタリアンライグラス草地約7haに, 昭和58年12月16日から昭和59年3月14日の間(1年次)と昭和59年12月12日から昭和60年3月15日の間(2年次)に, 黒毛和種冬季分娩牛をそれぞれ22頭および30頭を放牧し, 冬季放牧が繁殖成績に及ぼす効果について検討した.すなわち, 冬季放牧が繁殖成績や体重, 栄養度指数およびBody condition score(BCS)に及ぼす効果を明らかにするとともに, これらに対する年次, 分娩月, 産歴および牛来歴の影響を追求した.また, 繁殖成績ならびに卵巣機能と体重, 栄養度指数およびBCSの関連性について検討し, 冬季放牧によって繁殖成績を向上させるための栄養状態の指標を探求した.その結果は次のとおりである.1.冬季放牧を行った冬季分娩牛の受胎に要する日数は1年次が69.1日, 2年次が105.2日であり屋外パドックでの貯蔵飼料給与形態での冬季分娩牛の受胎までの日数122±67日より短かった.2.冬季放牧を行った冬季分娩牛の受胎までの日数は, 年次により異なり, 備蓄草量の多い年は短かった.また, 受胎までの日数には, 分娩月間でも有意差が認められ, 1月および3月分娩牛が短く, 12月および2月分娩牛が長くなる傾向を示した.しかし, 産歴および牛来歴による差は認められなかった.3.分娩前後の体重の推移には年次および産歴による違いが認められた.また, 分娩月間では, とくに, 12月分娩牛の体重の低下が大きかった.栄養度指数では産歴による違いが認められたが, 分娩月や来歴による違いは認められなかった.BCSでは産歴および牛来歴による違いが認められ, 産歴が進むほど, また, 牧場生産牛ほどBCSは高かった.4.冬季放牧を行った冬季分娩牛の受胎時のBCSは分娩月間, 産歴間および牛来歴間で有意差は認められず, いずれも3以上の値を示した.しかし, 受胎時の体重および栄養度指数は産歴間で有意差が認められた.したがって, 繁殖管理での栄養状態の指標としてはBCSが優れていると考えられた.5.受胎に要する日数は分娩後20日から60日までの日増体重(Daily gain)が大きいほど短くなる傾向を示した.また, 分娩後40日, 60日および初回授精時のBCSは3よりやや高い値で受胎に要する日数が最小値を示した.6.分娩後90日以内に受胎する分娩牛のBCSは, 分娩前が3^+で, 分娩によって3に低下し, その後20〜40日で3^+に上昇した.7.分娩後20日までにプロジェステロン濃度が1ng/ml以上に上昇するパターン1の分娩牛は, 受胎までの日数が74.6日および授精回数が1.7回で, 他の分娩牛(パターン2)に比較して繁殖成績は良好であった.パターン1を示す分娩牛のBCSは分娩後60日までに3から3^+まで上昇した.8.授精後受胎した牛の授精直前の発情周期におけるプロジェステロン濃度のピークは4ng/ml以上で, 受胎しなかった分娩牛の濃度より高い値を示した.
著者
国分 禎二
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.1-126, 1973-03-24
被引用文献数
2

作物の栄養器官が同化産物の貯蔵器官として特に発達し, その器官の貯蔵物質の含有率が作物の品種によって異なる場合, 含有率の差異が貯蔵器官のどのような構造の差異に基づくものであるかと云う観点から, 貯蔵器官の構造とその機能の発現との関係を解明した研究は、きわめて少ない.本研究は, 以上のような観点より, 作物の同化産物の貯蔵器官の組織構造とその蓄積能力との関係に関する基礎的資料を得る目的で, 甘しょの塊根を材料としておこなったものであって, 塊根の組織諸形質の品種・系統間変異, およびその遺伝を検討し, 塊根の組織諸形質の特性から得られた知見に基づいて, 甘しょ高でん粉多収性品種の育種に関して考察をおこなったものである.A 塊根の組織構造塊根組織に関する明確な基礎的知見を得ることを目的として, でん粉貯蔵器官にとってとくに重要と考えられる維管束の分化と柔細胞の増生に焦点をあてながら, 発生初期の不定根から収穫期の塊根に至る一連の組織観察の結果を論述した.I 不定塊の根端部における組織の分化 甘しょ品種沖縄百号の栽植5日後の不定根を供試して, 根端部における組織の分化様相を観察した.1 根冠はその中央部を構成する中央構造とその側層を構成する側層構造とからなっている.2 横断面では, 根冠の中央構造の細胞は一定の配列様式を示さないが, 根冠の側層構造の細胞は, 中央構造を取り囲む輪状配列を示している.3 根冠の最内層は表皮原となっている.4 表皮原に接して頂端側(根冠側)と基部側(皮層および中心柱側)の両側に分裂組織がある.5 皮層は約8層の細胞層からなり, 横断面では, 中心柱を取り囲む輪状構造を示し, 根端部から約200μの部位では, 細胞間隙が認められる.6 内鞘細胞は, 表皮原先端部の基部側にある分裂組織から2〜3個の細胞を隔てた極先端部において識別できる.7 中心柱の先端部には表皮原の基部側の分裂組織に接して, 不整形の細胞よりなる半球形の部分が存在する.8 原生篩管は, 中心柱の先端部から約500μの部位において明瞭に認められる.9 原生木部道管の厚膜化が認められるのは, 中心柱の先端から1cmないし2cmの間である.10 中心柱の柔細胞は, 縦軸方向では皮層細胞より長く, また, 横断面におけるその細胞配列には一定の様式がみられない.11 軸の中心を通る縦断面では, 中心柱の中心部には大きな核をもった比較的大型の細胞からなる一列の細胞列があって, 頂端分裂組織のごく近くまで達している.II 不定根の塊根形成 沖縄百号および九州34号を供試して, 栽植5日後より1カ月間5日おきに合計6回不定根を採取し, 不定根の最肥大部または最肥大予想部位の組織標本を作成して, 塊根組織の分化発達過程を追跡した.1 栽植5日後には, 皮層は約8層の細胞層からなり, 離生細胞間隙にとむ.内鞘細胞はその並層分裂により中心柱の細胞数を増加し, 直層分裂によって内鞘細胞自身の数を増加してその円周を増加している.原生篩部は内鞘に接して, 5〜6個所に放射状に認められ, その周囲には, すでに伴細胞を伴う後生篩部が分化している.原生木部構成道管の細胞膜は厚膜化しているが, まだ木化しておらず, 原生木部は完熟していない.2 栽植10日後には, 厚生篩部に対応する皮層部に破生細胞隙が認められる.原生木部道管および中央後生木部道管が木化し, 成熟する.また, 篩部を取り囲む扇形の分裂組織が発達する.3 栽植15日後には, 中心柱では一次形成層が完成し, 道管周囲に分裂組織が発達する.4 栽植20日後には, 一次形成層による維管束ならびに柔細胞の増生が旺盛となる.道管周囲の分裂組織による柔細胞の増生も顕著であるが, この分裂組織は直接には維管束の分化をおこなわないので, いわゆる形成層とは認め難い.木部柔組織内に新しい篩部が分化し, この篩部に接して分裂組織が発達するこの分裂組織は維管束を分化するので, 形成層と認められる.従って, この木部内に発達した篩部(interxylary phloem)に接する分裂組織は, 先に分化した塊根周囲の一次形成層に対して, 二次形成層(secondary cambium)と呼称すべきである.5 栽植25日後には, 前期までに認められた諸種の分裂組織による細胞の増生は依然旺盛であるが, さらに, 木部柔組織の個々の大型の柔細胞が, 比較的孤立的に分裂するのが観察される.この種の細胞分裂は維管束の分化を伴わず, また一連の分裂細胞層の形をとらないので, 前期までの諸種の細胞分裂に対して, とくに, 大型柔細胞分裂として区別できる.6 栽植30日後には, 皮層はほとんど脱落し, 新しく, コルク形成層が発達して皮部を形成する.中央道管の周囲の分裂組織の活性はやや衰える.この時期に, 甘しょの塊根の組織学的諸形質は完成する.7 以上の観察結果から, 塊根肥大に寄与する細胞の増生は, コルク形層, 一次形成層, 二次形成層, 道管周囲の柔細胞分裂および大型柔細胞分裂によるものと結論される.これらの細胞分裂の中で, 一次形成