著者
田邊 佳穂 松崎 絹佳
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-05-10

太陽系初期においてどのように惑星が形成されたのかを明らかにすることは重要である。隕石はその手掛かりの一つになっているが、地球に降ってくる隕石の数は非常に少ない。それに対して宇宙塵は隕石よりも地球へ降ってくる粒子数が多く、さらに、地球上のあらゆる場所で採取することができる。そのため、宇宙塵を研究すると惑星の形成のされ方が解明できる可能性が高い。そこで私たちは、宇宙塵に目をつけた。 宇宙塵は、ワセリンなどの粘着剤を塗布したスライドガラスを屋外にさらし、スライドガラスに付着した粒子の中から顕微鏡などの拡大機器を用いて採取する方法が一般的である。この採取方法では、地表由来の物質が混ざりやすく、また、一晩屋外に置いた際に採取できる宇宙塵の数は一枚のスライドガラスに対し0または1個と少ない。そのため、スライドガラスに付着した粒子を顕微鏡で見た際、粒子のほとんどが地表由来の物質となり、宇宙塵を探し出すのに手間と時間がかかる。 そこで本研究では、地表からの物質の混入を削減し、より効率よく採取する宇宙塵採取手法を開発した。まず初めに、地表由来の物質と宇宙塵とが混ざらないよう、図のような装置を作製した(fg.1)。重りを載せたベニヤ板に逆さまにしたプラスチックケースをガムテープで固定し、5 cmごとに高さを変化させたアルミ板をケースの側面に取り付けた。そして、プラスチックケースの底面にワセリンを塗布したスライドガラス10枚を取り付けた。外壁の高さは0 ㎝~30 ㎝の5 ㎝刻みで設定し、計七つの装置を一晩屋外に置いた。この実験では、アルミ板の外壁を取り付けることにより、風により舞い上がった余計な地表由来の物質がスライドガラスに付着するのをどれだけ減少させることができるかを検証した。その結果、外壁の高さを30 ㎝に設定したとき、地表由来の物質の数は0 ㎝のときに対して76%減少し、宇宙塵を見つけ出すことが容易になった。今回の実験では、最も高い外壁を30 cmとした。これは30 cmよりも高い外壁をつけると外壁が風の影響を受けて倒れるなど、装置が扱いにくいからである。外壁の高さを30 cmとした装置が、地表由来の物質の混入が少なく、扱いもちょうどよい高さであるため、この装置を用いて、宇宙塵採取を行うこととした。
著者
植田 勇人 吉村 靖 鹿野 ゆう
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

高圧変成岩塊を含む蛇紋岩メランジは,プレート境界で形成され上昇してきたと考えられる.しかし,プレート境界でどのような構造を持っていたか,それは地表まで上昇する間に保存されているのかは,充分に検討されていない.本発表では,北海道神居古潭帯の三石蓬莱山蛇紋岩メランジの産状観察に基づき,その形成過程を考察する.蓬莱山メランジは,角閃岩類やアンチゴライト蛇紋岩,塊状の蛇紋岩~かんらん岩のブロックを多産する.ざくろ石角閃岩から見積もられるピーク変成条件はおよそ650℃ 1.1 GPaと,沈み込み帯としてはかなり高温な部類に属する.当メランジは,ボニナイトを伴う160 Maの軍艦山オフィオライトの構造的下位に隣接するため,角閃岩類は高温ウェッジマントル下に沈み込んだスラブの断片と推察される.以下に,産状や組織観察から推定される形成過程を記す.ステージ1(緑簾石角閃岩相):ウェッジマントル下に緑簾石角閃岩化したスラブが沈み込む.変形はスラブ(緑簾石角閃岩)に集中し片理を形成したが,かんらん岩はほとんど変形しなかった.ステージ2(緑簾石曹長石角閃岩相):角閃岩は部分的に後退変成を受ける.かんらん岩にはアンチゴライトの脈が生じたほか,部分的に塊状アンチゴライト岩となる.角閃岩には網状剪断面が生じ,ブロック化が進行.角閃岩に外接するかんらん岩を置換して,アクチノライト岩が生じる.かんらん岩中にもアンチゴライト片岩やトレモライト岩の網状剪断面が形成される.この時期はかんらん岩や角閃岩の内部はほとんど変形せず,反応縁やこれを起源とする網状剪断面沿いに歪が集中した.ステージ3(青色片岩相):角閃岩中にアルカリ角閃石が生じる.この時期のかんらん岩の状態は不明.角閃岩は変形しなかった.コヒーレントな青色片岩ユニットが底付けし,メランジは既にスラブから離れていたと推定される.ステージ4(極低変成度):かんらん岩が低温蛇紋石化.角閃岩ブロックの周縁部は低温の反応縁を生じる.かんらん岩は低温蛇紋石化し,塊状のブロック部と葉片状の剪断帯(現在の基質)に分化.各ステージでの岩石組織から,主要な歪を担ったのは,ステージ1では角閃岩,2ではアクチノライト岩やアンチゴライト片岩,3?~4では蛇紋岩と考えられる.ステージ1~2では,かんらん岩や角閃岩の岩塊ないしスラブが,薄い反応縁起源の剪断帯(アクチノライト岩)を介してスタックした構造をとっていたと推定される.蛇紋岩を基質とする現在の姿はプレート境界で形成されたものではなく,上昇・冷却後の二次的な特徴と思われる.
著者
田村 笙 岩本 南美 東森 碧月 田島 晴香 中野 勝太 中野 美玖 尾藤 美樹
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-05-10

2011年に土砂災害が発生した兵庫県加古川市の大藤山や、2014年に土砂災害が発生した広島市安佐北区には花崗岩が分布している。このことから、花崗岩体では土砂災害が発生しやすいと考え、文献調査で確認しようとしたが、花崗岩と土砂災害の関係について確証できる実験データを伴うものはなかった。そこで、全国で2012年~2014年に土砂災害が発生した地域の地質を調査した。その結果、花崗岩の分布面積は全国で12%程であるにも関わらず、地質別の土砂災害発生件数は花崗岩体が最も多くなっていた(図1)。このことから、2015年度は花崗岩の風化が土砂災害に及ぼす影響について研究を行い、花崗岩特有の風化過程によって土砂災害発生の危険性が高まるという結論を得た。ところが、兵庫県の土砂災害ハザードマップには地質的条件が十分考慮されていない。そこで、花崗岩体における土砂災害発生危険度(以下、危険度とする)を新たに設定し、それをハザードマップに反映させることを目的として、昨年度から研究を進めている。危険度の設定には、鉱物の割合と透水係数を用いる。岩体の崩れやすさを鉱物の割合から、土砂層の崩れやすさを透水係数から、それぞれ[1]~[5]の5段階で定める。そして、岩体の崩れやすさと土砂層の崩れやすさの分布表を作成し、[A]~[E]の5段階で危険度を設定する(図2)。 崩れやすさを定めるにあたって大藤山で現地調査を行い、土石流跡付近の土砂を採取した。この地点の岩体・土砂層の崩れやすさを、最大である[5]と定義する。そして、土砂の鉱物の割合と透水係数を測定した。鉱物の割合は、採取した土砂を樹脂で固めて薄片を作成し、偏光顕微鏡で黒雲母・緑泥石・粘土鉱物の観察を行った。そして、3つの鉱物の合計面積に対する、それぞれの鉱物の面積の割合を算出した。黒雲母は風化によって緑泥石、粘土鉱物へと変質していくことから、粘土鉱物の割合が大きいほど風化は進行し、岩体は崩れやすくなると考えている。鉱物の面積は、偏光顕微鏡に設置したカメラで薄片を撮影し、画像加工ツールを用いて対象の鉱物を着色し、「PixelCounter」というソフトを使用して測定した。画像を分析した結果、土石流跡付近の土砂は粘土鉱物が91.5%、黒雲母が8.5%で、緑泥石は見られなかった。この結果から、土石流跡付近では風化が著しく進行していることが分かる。この土石流跡付近の土砂の岩体の崩れやすさを、前述で示した最大の[5]とした。また最小の[1]として、風化していない花崗岩の薄片観察の結果を用いた。次に、土砂層の崩れやすさを求めるために、ユールストローム図を用いた。ユールストローム図とは、土砂の粒径と、土砂が侵食・堆積され始める水の流速の関係を表したグラフである(図3)。流速が小さいほど、土砂が動き始める際に必要なエネルギーは小さい、即ち土砂層は崩れやすいと考えられる。この図を用い、土砂の粒径を測定することで土砂層の崩れやすさを求めようと考えていたが、ユールストローム図における土砂の粒径は均一であることが前提である。しかし、実際に堆積している土砂の粒径は不均一である。そのため、粒径と透水係数の関係を表す表であるクレーガ―表(図4)を用いることで、透水係数から土砂層の崩れやすさを求めることができると考えた。ここでユールストローム図とクレーガ―表から、図3の赤線と図4の赤枠が示すように、土砂層の崩れやすさが最大である[5]となる透水係数は3.80×10-3cm/sとなる。そこで、土石流跡の透水係数を測定し、最も土砂層の崩壊しやすい値(3.80×10-3cm/s)と比較することにした。測定実験は土石流跡の土砂の構造を壊さないように採取したものを持ち帰り、自作した装置(図5)に詰めておこなう、室内変水位透水試験を実施した。実験により得られた土石流跡の透水係数は5.18×10-3cm/sとなり、最も土砂層の崩れやすい値である3.80×10-3cm/s付近となることから、ユールストローム図とクレーガ―表を用いることで透水係数から土砂層の崩れやすさを求めることができるといえる。岩体と土砂層、それぞれの崩れやすさから設定した危険度の分布表をより正確なものにしていくために、土石流跡周辺の崩壊していない土砂層が見られる露頭でも同様の実験をおこない、そのデータを分析中である。今後は大藤山と同様に花崗岩体であり、既に予備調査を終えている六甲山(兵庫県神戸市)の試料も採取するなどさらに多くのデータを得て、危険度の分布表をより正確なものにしていきたいと考えている。
著者
伊藤 英之 角野 秀一 辻 盛生 市川 星磨 高崎 史彦 成田 晋也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

近年,宇宙線ミュオンを用いた火山体内部の透視技術が確立され,浅間山,薩摩硫黄島などで成果を出している(Tanaka, et.al 2008).我々は,岩手山山頂から約6km東麓に位置している国立岩手山青少年交流の家にミュオン測定機を設置し,2016年10月14日より観測を実施している.合わせて,岩手山起源の湧水の化学組成について連続観測を行い,ミュオグラフィーから得られる山体内部構造のイメージングとあわせ,火山体内部の深部地下水流動系の解明を目指している.現在のデータの取得状況は安定しており,二次元の簡易イメージは得られている状況にある.しかしながら,測定から得られる山の密度長は実際の山の厚さとはかけ離れた値を示しており,電磁シャワーや周囲からの散乱によって入ってきたミュオンによる影響が大きい.一方,数値地図火山標高10mメッシュを用いて,実測密度長と地形データの距離との比を取り,密度分布にすると,北側と南側で濃淡が異なってくることから,今後はバックグラウンドを仮定して,山体の密度分布を把握していく予定である.一方,湧水の化学組成から,岩手山麓の湧水の多くはCa(HCO3)2型であるが,北麓の金沢湧水と北東麓の生出湧水では,Ca(HCO3)2に加えSO42-の濃度が高い.これらの湧水についてトリチウム年代を測定したところ,13.9~23.5年の値が得られた.特に生出,金沢湧水については,それぞれ19.4年,23.5年の測定値が得られ,1998~2003年岩手山噴火危機の頃に涵養された地下水が今後湧出してくる可能性が示唆された.
著者
齋藤 遥香 鈴木 洋佑 市川 由唯 宮下 絵美里
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-05-10

福島県いわき市には「風と坊主は十時から」という言い伝えがある。しかし、本校の1,2年生640名にアンケートを取ったところ10名しか知っている人がいなかった。そこで実際にこのことわざは信頼性があるのか、そして本当に風が10時から吹くのかを検証した。また風が吹くということが、風が吹き始めることと風が急に強くなることのどちらを指すのかを検討した。 まず、気象庁の過去20年分の午前6時から12時の風速と風向のデータを天候別と季節別に統計した。観測地点はいわき市を含む福島県沿岸部の2地点と内陸の計4地点に設定し、吹き始めと風速の変化の大きい時間を調べた。人が風を感じる風速3.0m/sを初めて超えた時間帯を風の吹き始めとし、また、風速3.0m/sを超えた中で1時間の風速の変化量が最も大きい時間帯を風速の変化量とした。本研究では、この2つのデータと、その時観測された風の向きを統計の対象とした。 その結果、沿岸部のいわき市小名浜と相馬市では、吹き始め・変化量のどちらにおいても10時から風が吹くことが多く、特に春と夏は風速の変化量が最大になる時間帯が10時より早かった。風向きに関しては、夏は海側からの風が、冬は北西よりの風が多くみられた。このことから、春と夏に小名浜や相馬市で10時より早い時間帯に吹く風は海風であると考察した。一方で内陸に位置する福島市と会津若松市では、吹き始め・変化量どちらにおいても一年を通しておおむね10時より遅い時間帯に多く吹くことが分かった。風向きに関して、夏は北東、それ以外の季節では北西か西北西の風が多かった。 沿岸地域で風速の変化量が大きくなる時間帯が夏に早くなる原因が海風にあることを確証づけるため海風を模擬的に起こす実験を行った。まず水槽に水と砂を配置し、その間に風を可視化するため線香を置いた。そして熱を発する500Wのハロゲンライトで砂と水を温め、海陸風を発生させた。また温める前の砂と水の温度はどちらも10℃にして、実際の海水温と気温の変化と実験の結果を比較するため、水の温度と砂の温度を測定した。この実験を6回行った。風が吹き始めたというのは、上昇気流が砂の上で生じた時とした。実験から、風が生じたのは砂と水の温度差が平均して5.216℃の時だった。その条件に当てはまる気温と海水温の時間帯を調べたところ、8時と9時の割合が高かった。このことから、夏の8時に風速の変化量が大きかった理由が海風の影響を受けたためであると推測した。 このことから、福島県いわき市小名浜ではこの言い伝えがおおむね適用できるということが分かった。
著者
高田 亮
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

カルデラ形成を伴う大規模噴火,またはそれに準ずるVEIで6以上の噴火は,既存のDB(Seibert et al.,2010)によれば,100年に1-2回程度発生している.しかし,平均値とは異なり,インドネシアだけで最近200年間で3回のカルデラ噴火を経験している.本発表では,その中で,比較的最近の情報が多く残るKrakatau1883のカルデラ噴火について,前兆現象を文献(Nishimura, 1980, Yokoyama, 1981, Simkin and Fiske, 1983;Carey et al.,1996; Mandeville et al., 1996)などでレビュウし(Takada, 2010; Takada et al., 2012),また,現地での巡検視察(1996,2006)などをもとに考察する.Krakatau火山は,ジャワ版「列王記」で,西暦416年の噴火記録があるが詳細は定かでない.1596年のスケッチでは,1883年噴火直前の火山島とほぼ同じ形が描かれていた.1680年には爆発的噴火が起こったことが銅版画で残されている,18世紀以後は,1883年の噴火まで噴火記録はなく,樹木に覆われた島は農地や硫黄採掘,温泉などとして利用されていた.クライマックスである1883年8月27日に先立つ3ヶ月半以上前の5月より有感地震が起こった.1883年噴火の前兆現象として,広範囲に噴気孔が広がっていく異常現象がとらえられていた.5月20日には噴煙が約11km上がった.爆発音,振動,少量の降灰が記録されている.5月22日には間歇的な灰噴火が起こり,海面には軽石が浮遊したまた,5月27-28日には,観光ツアーが島を訪れ,北側の噴火口の様子を報告した.その後も,6月に入り役人やオランダの軍人が上陸し観察記録を残している.6月-7月は,2箇所から噴煙が上がっていたが,8月11-12日には,オランダの大尉が上陸すると,約5kmの範囲で3箇所の噴火口と14箇所の噴気孔を確認していた.クライマックスは,8月26日の早朝から始まり,14時に爆裂とともに噴煙中が26km上がったと記録されている.27日には,早朝から4回の噴煙柱が立ち上がり,最高で38kmに達したと言われている.それに伴う津波も発生し,被害を拡大した.火砕流や火砕サージも発生し,対岸の集落を襲った.この噴火で約12km3のマグマが噴出したと報告されている(Carrey et al., 1996).本研究は,原子力規制庁からの受託研究として行われた.
著者
塩見 雅彦 田部井 隆雄 伊藤 武男 大久保 慎人
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

西南日本の地殻変動場は,フィリピン海プレートの斜め沈み込みによる弾性圧縮変形が支配的である.先行研究におけるGPS変位速度データの解析から,量的には小さいながらも,中央構造線(MTL)を境とする前弧スリバーのブロック運動と,MTL断層面の部分的固着による剪断変形が確認されている.地殻変動場の理解には,これらの定量化と分離が必要である.本研究では,南海トラフ・プレート境界面上の固着分布,前弧スリバーのブロック運動,MTL断層面上の固着分布の同時推定を試みた.推定にはマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法を用いた.MCMC法は,マルコフ連鎖に基づく極めて多数の反復計算によりパラメータの事後確率分布を確率密度関数として求める手法で,パラメータが高次元であるようなモデルに対しても解を推定することができる.解析には,2004-2009年の期間の近畿から九州へ至る291点のGEONET最終座標解から算出した3次元 GPS変位速度に加え,MTLトラバース稠密GPS観測37点と海底地殻変動観測12点を加えた,合計340点の変位速度を使用する.この変位速度場を,グローバルプレートモデルMORVELを基に,アムールプレート準拠に変換する.深さ5-50 kmのプレート境界面を1000枚以上の三角形要素群で近似し,さらに四国西部から東部に至る長さ約250 kmのMTL断層面を,深さ下限15 km,傾斜角45度の56枚の三角形要素群で表現する.推定するモデルパラメータは,各断層面上のカップリング率と,アムールプレートに対する前弧スリバーのブロック運動のオイラーベクトルである.陸上のGPS変位速度のみから推定した結果をCASE-A,陸上データに海底地殻変動観測結果を加えたデータセットから推定した結果をCASE-Bとした.本研究の特色は,陸域から海域にわたる変位速度データを全て使用し,MCMC法を導入したことによって,前弧スリバーとその境界のより詳細な変動を議論した点にある.解析の結果,深さ15 km以浅のプレート境界面で,CASE-Bの方がAより大きなすべり欠損速度が推定された.CASE-Bではトラフ軸付近まで50 mm/yr以上の値が推定されたのに対し,CASE-Aでは30 mm/yr程であった.一方,15 km以深ではCASE-A,Bともに,類似したすべり欠損速度分布が得られた.土佐湾の深さ15-25 kmのプレート境界面上に50 mm/yrを超える最大すべり欠損速度が推定された.この領域は1946年南海地震(Mw8.1)の主破壊域とほぼ一致し,次の地震に向けてひずみを蓄積している状態であると解釈できる.25 kmより深部では,豊後水道(深さ30-40 km)を除いて,すべり欠損速度が急激に減衰する.豊後水道では,40-50 mm/yrのすべり欠損速度が推定された.この領域では,6-7年間隔で長期的スロースリップが発生し,1回あたり約300 mmの累積すべり量が見積もられている.発生間隔とすべり欠損速度を考慮すると,この領域に蓄積されたひずみは繰り返しスロースリップの発生により解放されていると考えられる.推定された前弧のブロック運動は反時計回りの回転を示し,アムールプレートに対する相対速度は約5-7 mm/yrであった.MTL断層面浅部の固着は一様ではなく,四国東部ではほぼ完全に固着しているのに対し,西部や中部では固着が弱い.MTL断層面の北傾斜構造と固着分布から,MTLの北側に剪断帯が形成されていることが示唆される.本研究により,プレート間固着による地殻の弾性変形やブロック運動を定量的に分離できただけでなく,従来は分離が困難であったMTL断層面の固着による影響も同時推定できたと言える.
著者
松尾 良子 中川 光弘
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

ニセコ火山群は,南西北海道火山地域の北端に位置する東西25km,南北15kmにおよび,10以上の成層火山や溶岩ドームからなる第四紀火山群である.これまでのニセコ火山群の地質学的研究は,広川・村山(1955)による図幅調査に始まり,大場(1960)や NEDO(1986,1987)により行われている.これらの結果からその噴火活動は約160万年前には開始し,西から東へと新しい火山体を形成しながら現在まで活動が継続していることが明らかになった.地形や噴気活動の有無から,イワオヌプリ火山は,ニセコ火山群の中でも最も新しい火山体とされる.奥野(2003)によって,イワオヌプリ起源と考えられるテフラが見出され,その年代として約6000年前の14C年代値が報告された.しかしながら,奥野(2003)では測定された14C年代値についての信頼度は低いことを指摘しており,またその噴火の様式や給源火口については明らかにされていない.そこで我々は,ニセコ火山の特に完新世の噴火活動履歴と様式を明らかにすることを目的として,地質学的研究を進めている. これまではイワオヌプリとニトヌプリの両方が,ニセコ火山群では最も新しい山体として捉えられることが多かった.イワオヌプリ火山及びニトヌプリ火山を構成する岩石は,斑晶として斜長石,単斜輝石,斜方輝石および磁鉄鉱を含む安山岩である.これに加えてイワオヌプリ火山の岩石は斑晶として角閃石を含まないが,ニトヌプリ火山の多くの岩石は角閃石斑晶を含む.また,全岩化学組成では,両火山はハーカー図上で多くの元素でそれぞれ別の組成変化を示していることで区別できる.両者の噴出中心の位置的違い,被覆関係および岩石学的性質から,両者は独立した火山として考えるべきである.よって本研究では,ニトヌプリ火山活動後に活動したイワオヌプリ火山のみを,ニセコ火山の最新の活動期として取り扱う. イワオヌプリ火山(標高1,116m)は,ニセコ火山群東部に位置し,ニトヌプリ火山活動後,その東側に形成された比高約350m,基底直径約2kmで,火砕丘や複数の溶岩ドームおよび溶岩から構成される火山である.火山体の西側には,直径約800mのイワオヌプリ大火口火砕丘があり,その頂部には直径約1kmのイワオヌプリ大火口が開口している.その火口内部には小イワオヌプリと呼ばれる小型の溶岩ドームが形成されており,それを覆って,大イワオヌプリと呼ばれる山体が形成されている.下部の溶岩ドームと山頂部から東側にかけての複数枚の溶岩から形成されている.さらに,五色温泉火口などの複数の小火口が火山体全域に認められる.イワオヌプリ火山については,被覆関係と噴火様式,噴出中心の違いから,①イワオヌプリ大火口火砕岩類②小イワオヌプリ溶岩ドーム③大イワオヌプリ下部溶岩ドーム④大イワオヌプリ上部溶岩類⑤イワオヌプリ水蒸気噴火火砕岩類の5つのユニットに区分できる. 最初の活動である,イワオヌプリ大火口火砕岩類を形成した活動は,まず水蒸気噴火から始まり,その後はマグマ噴火に移行し爆発的噴火により噴煙柱を形成し,その過程で断続的に火砕流が発生した.この噴火に伴うテフラが奥野(2003)で見出したNsIw-1テフラである.このテフラは東方から西方に向かって層厚および構成物の粒径が増大し,イワオヌプリ大火口火砕丘に対比できる.今回新たに試料を採取し,火砕流中の炭化木片からは9480 cal. yBP,テフラ直下の土壌からは10910 cal.yBPの14C年代が得られた.よってイワオヌプリ火山の活動開始は約9500年前であることが明らかになった.その後は,溶岩ドームの形成や溶岩流出を繰り返し山体が成長した.これらの山体には多くの爆裂火口が形成されており,水蒸気噴火やマグマ水蒸気噴火なども並行して頻発したと考えられる.確認された最後のマグマ噴火は,山頂部から大イワオヌプリ上部溶岩類の流出であるが,水蒸気噴火はその後も発生している可能性が高い.実際に五色温泉近くでの爆発角礫岩層の年代としてmodernという炭素年代測定結果が得られた.今回の調査では最初期の活動年代は明らかにできたが,その後の噴火史についてまだ十分な議論はできない.しかし,9500年前の噴火後の山体の成長と,多数の新しい爆裂火口の存在を考えると,イワオヌプリ火山は完新世を通じて活動した,活動度の高い火山の可能性が高い.
著者
馬場 俊孝 岡田 泰樹 芦 寿一郎 金松 敏也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

南海トラフなどの沈み込み帯では海溝型地震が繰り返し発生する.過去の事象の解明は将来の予測に直結するが,近代的な地震津波観測が始まったのはおよそ100年前であり,それよりも古い地震については史料や地質調査に頼らざるを得ない.徳島県には「震潮記」という史料が存在する.これには1512年永正地震,1605年慶長地震,1707年宝永地震,1854安政南海地震の徳島県宍喰地域の被災状況が記録されている.宍喰は四国の南東部にある海岸沿いの集落であり津波による被害が甚大である.特に1512年永正地震では津波により3700人あまりが死亡したと震潮記にあり,大津波の発生を推察させる.ところが1605年慶長地震,1707年宝永地震,1854安政南海地震の記録は震潮記以外にも多数の記録が存在し,それらの津波は西南日本の太平洋沿岸部を広く襲ったと解釈できるが,1512年永正地震に関する史料は震潮記を除いて存在せずこの地震の真偽は定かではない.本研究では1512年永正津波が局所的な津波であったと仮定してその波源について考察する.局所的な津波の例としては,たとえば1998年のパプアニューギニア地震津波のような海底地すべりによる津波が挙げられる.海底地形図を用いて海底地形を調査し,宍喰の南東約24km沖合の水深約800mの海底に幅約6km,高さ約400mの滑落崖を確認した.さらに学術研究船「白鳳丸」KH-16-5次航海において無人探査機NSSの深海曳航式サブボトムプロファイラを用いて調査したところ,比較的最近起こったとみられる地すべりの詳細な内部構造が捉えられ,それによる地層の垂直変位は約50mであった.これらの情報を基に海底地すべりをモデル化しWatts et al.(2005)の式を用いて津波の初期水位を求めた.ここで地すべり土塊の移動量は不明であるため,地すべり土塊の移動量を800mから3000mまで変更させて複数回計算を行った.津波シミュレーションでは非線形浅水波式を差分法で解いた.ネスティング手法を用いて宍喰地域の空間分解能を向上させた.宍喰地域の陸上地形データは現況の地形から堤防など人工構造物を取り除くとともに,古地形図などを用いて可能な限り当時の地形に近づけた.津波解析の結果,地すべり移動量1400m~2400mで震潮記に記載された宍喰の浸水状況を再現できることがわかった.この場合の宍喰での最大津波高は6m~9mで,一方対岸の紀伊半島沿岸では最大で津波高3mとなった.
著者
青木 久 岸野 浩大 早川 裕弌 前門 晃
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

津波石とは,津波により陸上に打ち上げられた岩塊のことである.先行研究によると,宮古島や石垣島をはじめとする琉球列島南部の島々には,過去の複数の津波によって石灰岩からなる巨礫,すなわち津波石が打ち上げられていることが報告されている.本研究では,津波によって陸上に打ち上げられた津波石のうち,海崖を乗り越えて海岸段丘上に定置している津波石に焦点をあてて野外調査を行い,過去に琉球列島南部,宮古諸島と八重山諸島に襲来した津波営力の違いについて考察を行うことを目的とする.本研究では,宮古諸島に属する宮古島・下地島,八重山諸島に属する石垣島・黒島の4島を調査対象地域として選び,宮古島東平安名崎海岸,下地島西海岸,石垣島大浜・真栄里海岸,黒島南海岸において,津波石の調査が実施された.これらの海岸では琉球石灰岩からなる海崖をもつ海岸段丘が発達し,段丘上や崖の基部,サンゴ礁上に大小様々な津波石が分布する.各海岸の背後には,岩塊が供給されうる丘陵などの高台が存在しないため,段丘上の岩塊は津波によって崖を乗り越えた可能性が高いと判断し,本研究では3 m以上の長径をもつ巨礫を津波石とみなした.津波石の重量(W)と海崖の高さ(H)に関する以下のような調査・分析を行った. Wを求めるため,津波石の体積(V)と密度(ρ)の推定を行った(W=ρgV,gは重力加速度). Vは津波石の長径と中径と短径の計測および高精細地形測量(TLSおよびSfM測量)による3D解析を併用し求められた.ρは弾性波速度の計測値から推定された.Hはレーザー距離計を用いて計測された.津波石は,宮古島ではH=17 mの段丘上に14個,下地島ではH=10 mの段丘上に1個,石垣島ではH=3 mの段丘上に4個,黒島ではH=3~4 mの段丘上に6個,計25個が確認された.段丘上の津波石が津波によって崖下から運搬されたと仮定すると,W・Hは津波石の鉛直方向の移動にかかった仕事を示すことから,津波石を崖上に運搬するのに必要な津波営力(運動エネルギー)の指標となる.さらに各島のW・Hの最大値は,各島における過去最大の津波を示すと考え,それらの値を比較してみると,その大小関係は下地島≧宮古島>石垣島>黒島となった.この結果は,過去に宮古諸島に八重山諸島よりも大きな津波が襲来したことを示唆し,石垣島周辺で最も大きい津波が襲来したとされる1771年の明和津波とは異なっている.
著者
安藤 雅孝 生田 領野
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

フィリピン海プレートの北西域端では、琉球海溝に沿って沈み込み、台湾東海岸では衝突する。この地域で、我々が最近実施した津波堆積物の調査、海底地殻変動観測に基づき、琉球海溝南西部の巨大地震のテクトニクスについて議論する。1.宮古島・石垣島沖での巨大津波本地域では、過去数千年にわたり、巨大な津波が繰り返し発生したことが知られている。我々が行った石垣島での津波堆積物の調査から、過去2000年にわたり、ほぼ600年に一回の割合で巨大津波が発生したことを明らかになった(Ando et al. 2017)。これらの地震のうち、最新の1771年八重山地震の際には、石垣島沿岸では地割れが生じ、揺れは震度V弱(またはそれ以上)に達したことも判明した。この地震による、400km離れた沖縄本島での震度は、IVと推定されおり(宇佐美 2010)、1771年地震は“津波地震”ではなく、通常の地震である可能性が高い。1771年地震の東側でも、別の巨大津波がそれ以前に発生したことが知られている。下島(宮古島市)には、日本で最大の津波石(帯石)が打ち上げられており、珊瑚のC14年代測定から、11世紀以降、1771年以前に、巨大津波によるものと推定される。このような結果を総合すると、琉球海溝南西域沿いには、長さ250kmを超える巨大地震発生域があると考えられる。Nakamura(2009)のプレート境界面上の逆断層地震モデルを採用すると、プレートの地震性カップリング率は20%程度と低くなる。2.琉球海溝の後退と伸張歪み場GPS観測によると、沖縄諸島は4–6cm/yの速度で南〜南東に向かって移動する。この変動は琉球海溝が南東に後退するために生じるもので、先島諸島は1–3x10-8/yの伸張歪み場にある。この伸びに応じて、背弧の沖縄トラフでは、マグマの貫入が起きるものと考えれる。2013年4月には与那国島の北50kmの沖縄トラフ内で、2日間にわたりマグマが貫入したと推定された(Ando et al., 2015)。2013年7月から9月の間に、その地点から西100kmで、マグマ貫入が生じたと、海底地殻変動観測から推定されている(香味・他、2017)。琉球海溝南西域では、海溝が後退しつつ、プレート沈み込みに伴う歪み応力を蓄積し、巨大地震を発生させるものと考えられる。カップリング率の低い伸帳応力場でも、巨大地震が繰り返し発生しうることは注目される。3.海底地殻変動観測結果2014年に、波照間島(西表島の南)の南60kmに、海底地殻変動観測点が設置され、観測が継続されている。この結果から、観測点が西表島に対し南に移動していることが明らかになった。ただし、観測期間は2年間と短く、結果の信頼性はまだ低い。海溝付近でも伸張場であることを確かめるには、さらに3年間の観測が必要である。一方、台湾東海岸には、琉球海溝から沈み込むプレート間カップリングの検証を目的として、3カ所に海底地殻変動観測点が設置された。その内の一つの宜蘭沖の観測点の2012年〜2016年の地殻変動観測結果が明らかにされた(香味・他、2017)。それによると、速度ベクトルは、南向きに4cm/y、東向きに8cm/yで、60km西の陸域の変動と調和的である。ただし、観測点が海溝から離れ過ぎているため、プレート間カップリングの有無を検証するに至っていない。さらに、海溝に近い他の2地点での観測を継続する必要があろう。今後、波照間沖、台湾沖での海底地殻変動から、この地域の巨大地震の準備過程が、解明されよう。4.まとめ琉球海溝南西域の巨大地震発生のメカニズム解明には、波照間島沖の地殻変動観測を継続し、かつ台湾東海岸に海溝に近い海底地殻変動観測を継続して行う必要がある。
著者
伊藤 好孝
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月の福島第一原発事故によって環境に放出された放射能・放射線について、政府、自治体、企業、研究者、一般市民に至る様々な人々により多種多様な測定が行われている。これらの一部はデータベースとして整理され一般公開されているものもある。しかし大部分の測定データは存在すら知られていないものも多い。これらのデータのメタデータ情報を収集してデータベース化し、測定量、測定日時、地点などからデータの所在を検索できる「福島第一原発事故に関わる放射能・放射線測定メタデータ検索システム」を開発した。このシステムによってデータの相互利用が強化されると共に、データ自身の恒久アーカイブ化への端緒が開かれると期待される。本講演では、本メタデータ検索システムの内容と今後の展開について報告する。
著者
帰山 秀樹
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

福島第一原子力発電所事故による放射性セシウム(134Csおよび137Cs)の環境放出により北太平洋全域の表層の放射性セシウム濃度が上昇した。水産研究・教育機構では2011年3月より水産物の緊急モニタリング調査を開始、それ以降海洋生態系を構成する様々な生物群、環境試料における放射性セシウム濃度の把握と、放射性セシウムの海洋生態系内における挙動を解析してきた。本研究では、海洋生態系における放射性セシウムの挙動を把握する際の最も基礎となる情報である、溶存態放射性セシウムの北太平洋における拡散状況を採水調査の結果に基づき報告する。調査は漁業調査船による資源調査航海などの機会を活用し、バケツによる表層海水の採取や採水器を用いた鉛直多層採水により得た海水20L試料を対象とした。その他、福島県沿岸では漁船を用いた用船調査、福島県水産試験場の協力による小名浜地先の汲み上げ海水などを採取している。海水試料はリンモリブデン酸アンモニウム共沈法を適用し、ゲルマニウム半導体検器によるガンマ線測定に基づき放射性セシウム濃度を求めた。北太平洋の広域拡散状況の把握という観点では144˚E、155˚Eおよび175.5˚Eにおける南北側線を設け、2011年7月、10月、2012年7月、2013年7月に表面海水採水による観測を実施しており、黒潮続流の北側における東方への拡散状況を把握している。また2012年9月の鉛直断面観測により、黒潮続流の南方においては亜熱帯モード水に補足された放射性セシウムを確認した。事故当時に減衰補正した134Csの総量は4.2±1.1 PBqと試算され、北太平洋全域における福島第一原発事故由来の134Cs放出量の22〜28%が亜熱帯モード水に存在すると推定された。亜熱帯モード水の輸送先である日本南方の亜熱帯海域に着目し、放射性セシウムの経年変化を137Csの水深0〜500mの水柱積算値で見ると2012年の3600 Bq m-2から2015年の1500 Bq m-2まで減少していることが明らかとなった。冬季の鉛直混合により亜熱帯モード水の一部は表層水塊へ表出し、移流・拡散により福島第一原発事故由来の放射性セシウムは希釈されたと推察される。一方、福島第一原子力発電所近傍海域として小名浜地先における汲み上げ海水を週一回の頻度で採水し放射性セシウム濃度の時系列変動を解析している。小名浜地先における溶存態放射性セシウム濃度は基本的に緩やかな減少傾向を示すものの、夏季および冬季にスパイク状に濃度の上昇が認められる。特に冬季、爆弾低気圧が福島県沖合を北上した時期に顕著な放射性セシウム濃度の上昇が認められた。2013年12月から2014年2月の期間には福島第一原子力発電所と小名浜の中間に位置する四倉沖で物理観測を実施しており、その際の流速データは、四倉沖で強い南向きの流れが継続した時期と、小名浜地先で放射性セシウム濃度が上昇した時期が一致することを示している。すなわち福島第一原子力発電所近傍の海水が強い南下流により小名浜地先近傍まで希釈をされずに移流したと推察される。このように福島第一原子力発電所近傍海域における溶存態放射性セシウムの分布は時空間的に変動が大きく、今後も引き続きモニタリング調査が必要である。
著者
金野 俊太郎 大河内 博 黒島 碩人 勝見 尚也 緒方 裕子 片岡 淳 岸本 彩 岩本 康弘 反町 篤行 床次 眞司
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2012 年より積雪期を除き 1 ヶ月もしくは 2 ヶ月毎(2015 年以降)に,浪江町南津島の山林でスギと落葉広葉樹の生葉,落葉,表層土壌,底砂の放射性Cs濃度を調査した.福島市-浪江町間の走行サーベイでは,除染により空間線量率は急速に減衰したが,未除染の山林では物理的減衰と同程度であった.2014 年以降,落葉広葉樹林では林床(落葉と表層土壌)で放射性Csは物理減衰以上に減少していないが,スギ林では生葉と落葉で減少し,表層土壌に蓄積した.2014 年までスギ落葉中放射性Csは降水による溶脱が顕著であった.2013 年春季には放射性Csはスギ林よりも広葉樹林で表層土壌から深層に移行していたが,2015 年冬季にはスギ林で深層への移行率が上回った.小川では放射性Csは小粒径の底砂に蓄積しており,一部は浮遊砂として流出するが,表層土壌に対する比は広葉樹林で2013 年:0.54,2015 年:0.29,スギ林で 2013 年:1.4,2016 年:0.31 と下がっており,森林に保持されていることが分かった.しかし,春季にはスギ雄花の輸送による放射性Csの生活圏への流出が懸念された.
著者
本間 雄亮 濱本 昌一郎 小暮 敏博 西村 拓
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

The accident at the Fukushima Daiichi nuclear power plant occurred in 2011, resulting in contamination of agricultural fields by radioactive substances such as 137Cs (RCs). Potassium (K) fertilization is typically considered as an effective countermeasure for reducing RCs uptake by plants. However, in case of a pasture, K fertilizer application results in increase in pasture K concentration, causing a metabolic disease for cattle known as grass tetany. Therefore, in the grassland polluted by RCs, alternative countermeasures for reducing RCs uptake are required. In this study, we investigated the effect of adsorbent applications on the RCs behavior in grassland soil.Soil samples were taken from a grassland polluted by RCs at the surface layer (from 0 to 5cm) in Fukushima prefecture. Zeolite and weathered biotite were selected as adsorbents. The soil was adjusted to different water contents (0.86, 1.2) and the adsorbents were added at 0.5, 2.5, 5g per 50g dried soil. Incubation was conducted in constant temperature (20℃) room. Incubation duration was 7, 28 and 112 days. After that, 1M ammonium acetate with soil: solution ratio of 1:4 (dried soil: solution) was added and shaken for 6 hours. Suspension was filtered by 0.45 μm membrane filter. Cs concentration (exchangeable Cs, Ex-Cs) in the filtrates were measured by a Ge semiconductor detector.With increasing adsorbents added to the samples, the concentration of Ex-Cs decreased where more decrease in Ex-Cs was observed for the sample at higher water content. Zeolite decreased concentration of Ex-Cs more than weathered biotite in same soil: solution ratio.This research was supported by grants from the Project of the NARO Bio-oriented Technology Research Advancement Institution (the special scheme project on regional developing strategy).
著者
大澤 和敏 西村 拓 溝口 勝
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月の東日本大震災の影響で発生した福島第一原子力発電所の事故により,大量の放射性物質が飛散し土壌などに吸着した.中でも放射性セシウム137(137Cs)は半減期が約30年と長く,土壌中の粘土鉱物や有機物に吸着しやすい性質を持っている.土壌に吸着したCsは河川に流出,湖沼や海洋に輸送されると考えられる.事故周辺地域では健康被害や農林水産物に長期にわたる影響が出ることが懸念されるため,流域におけるCsの動態をモニタリングすることは必須である.既往の研究では,河川水の懸濁物質(SS)濃度とCs濃度の関係性が確認されているが,懸濁態,溶存態等の輸送形態や経年的な流出量の変化に着目した研究は少ない.そこで本研究では,Csの土壌沈着量が異なる福島県飯舘村の2河川を対象とした現地観測を実施し,流域からのCsの輸送形態や流出量の経年変化について考察することを目的とした.福島県飯舘村の北部に位置する真野川,南部に位置する比曽川を対象流域とした(Figure 1).帰還困難区域を含んでいる比曽川流域では,土壌へのCs沈着量が真野川流域より大きい.両地点に各種計測機器を設置し,雨量,水位,流速,濁度の連続測定と採水を行った(Figure 2).観測期間は2013年6月~2016年12月である.降雨時に採水した約1Lの試料は目開き0.42mmのふるいを通過する試料としない試料に分け,それぞれ孔径1μmのガラス繊維濾紙で吸引濾過し,SS濃度およびCs濃度(降雨時懸濁態)を測定した.なお,一部の試料は2mm,0.42mm,0.072mmのふるいを用い,粒度別に分けて測定した.また,無降雨時に約20Lの採水を行い,ガラス繊維濾紙で吸引濾過し,SS濃度およびCs濃度(無降雨時懸濁態)を測定した.さらに,降雨時と無降雨時の採水試料の濾液を蒸発乾固させ,Cs濃度(降雨時溶存態,無降雨時溶存態)を測定した.降雨時の懸濁態試料における137Cs線量の粒径別割合をFigure 3に示した.粘土やシルトなど粒径の小さいものほど137Cs線量が高く,粘土,シルト,細砂成分で約70%以上を占めた.比曽川および真野川における粒径0.42mm以下のSS濃度の関係をFigure 4に示した.土壌へのCs沈着量が大きい比曽川の方が近似直線の傾きが大きかった.また,近似直線の傾きを比較すると,2013年~2016年の間で明確に減少している.このことから,SSに吸着している137Csは年々減少しており,減少率は3年間で79%以上と物理的半減期に基づいた3年間の減少率6.7%と比較し,非常に大きかった.これは雨水に流されやすい細粒成分や有機物に吸着した137Csから選択的に流出したことによると考えられる.137Cs流出量を算出した結果をTable 1に示した.降雨時懸濁態での流出割合は,どの年も両河川で95%以上と最大であった.一方,無降雨時の137Cs流出量は微少となった.また,降雨時,無降雨時それぞれで懸濁態の割合より溶存態の割合が小さかった.各流域における4年間の総137Cs流出量は比曽川で6.9 kBq/m2,真野川で2.1 kBq/m2であり,土壌沈着量の平均値(比曽川:1017 kBq/m2,真野川:421 kBq/m2)と比較すると非常に微少であった.以上のことから,放射性セシウムの流出は,降雨時懸濁態の流出成分が大部分を占めており,細粒成分や有機物に吸着して流出する割合が高いことが分かった.土壌の沈着量に対してCs流出量は微少であり流域内にほとんどが残存している状況下で,Cs流出量は自然崩壊による減少よりも著しく減少した.これは雨水に流されやすい細粒成分や有機物に吸着したCsから選択的に流出したことによると推察される.
著者
恩田 裕一 谷口 圭輔 脇山 義史
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

福島原発事故後5年間のモニタリングによって,福島河川中の放射性セシウム濃度は激減した。本発表では,その低下要因および濃度がチェルノブイリより1桁低いことをを紹介する。また,除染の効果についても算定したのでその結果も報告する。
著者
福田 美保 山崎 慎之介 青野 辰雄 石丸 隆 神田 穣太
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

After the accident at the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Station (FDNPS) happened in March 2011, large amounts of radionuclides including radiocaesium also released from the FDNPS into the terrestrial and marine environments. In marine environment, parts of particulate radiocaesium have transported in seawater and accumulated to seafloor. Then, radiocaesium in sediment have partly re-suspended as particulate form and re-eluted as dissolved form due to several factors such as bottom current and deformation. The characters of seafloor topography are more different in the area off the coast of northern and southern part of Fukushima Prefecture, dividing areas at the Onahama port (Mogi and Iwabuchi, 1961). Because the wave bases in fine and stormy weather are about 20 and 80 m, respectively (Saito et al., 1989), it seems that the area of shallower than 100 m is also affected by erosion and re-sedimentation near seafloor with ocean wave degree. Thus, it is necessary to elucidate interaction for radiocaesium between sediment and seawater close to seafloor with more stations in order to guess radiocaesium activity variation at long times. For example, in the case of collected bottom-layer water with the Conductivity-Temperature-Depth (CTD) system, it is very difficult to collect seawater close to sediment because it is careful not to touch CTD system seafloor. This study was aimed at elucidating the relationship for radioacesium activity concentration between sediment and trapped water on sediment collected using Multiple Corer, which is considered as overlying water.Sediment samples were collected using a Multiple Corer during UM14-04 cruise in May 2014 at three stations: I01 (37°14’N, 141°07’E, water depth:60 m), I02 (37°14’N, 141°13’E, water depth:120 m) and C (36°55’N, 141°20’E, water depth:190 m).Overlying waters were collected using tube for 2 hours later from collected sediment. In laboratory, collected sediment sample are dried and overlying water samples were filtered through a 0.2-μm pore size filter and was concentrated by the ammonium phosphomolybdate (AMP) method (Aoyama and Hirose, 2008). The radiocaesium activity concentrations in each sediment and overlying water samples were measured by gamma-ray spectrometry using a high-purity Ge-detector and corrected to sampling date.In overlying water, the dissolved 137Cs activity concentrations (mBq/l) were 3.1-16 and the activity at I01, I02 and C in order from the higher. In the surface-layer sediments (core depth 0-3cm), the activity concentrations (Bq/kg-dry) were 8.4-286 and the high activities at I01 and I02 have characters of relatively high percentage for silt to clay particle compared to those at C. At I02 and C, the activity in overlying water were same value compared those in bottom-layer of seawater, which collected above water depth 10 m from seafloor. On the other hand, the activity in overlying water at I01 was five time higher than those in bottom water. The calculated Kd’ (L/kg) of apparent distribution coefficient using 137Cs activity concentrations in surface-layer sediment and overlying water were 8.8×102-1.5×104 and within rages of recommended Kd value of 2.0×103 for caesium by IAEA TRS422.This work was partially supported by Grants-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas, the Ministry of Education Culture, Sports, Science and Technology (MEXT), Japan (nos. 24110004, 24110005) and Research and Development to Radiological Sciences in Fukushima Prefecture.
著者
加藤 弘亮 恩田 裕一 Saidin Zul 山口 敏朗
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

本研究では、福島第一原子力発電所事故後4年間にわたって、森林樹冠に捕捉された放射性セシウムの林床への移行状況の観測を実施してきた。スギ人工林の2林分(31年生壮齢林及び18年生若齢林)とコナラ・アカマツからなる広葉樹混交林を対象として、樹冠通過雨、樹幹流、落葉等に含まれる放射性セシウム濃度を測定した。また、サーベイメータと可搬型ゲルマニウムガンマ線検出器を用いて、林内の異なる高度における放射性セシウムの計数率と空間線量率の測定を行った。調査対象森林において、林内の空間線量率は、樹種や林齢によって異なる特徴的な垂直分布を示した。また、林内空間線量率はいずれの森林においても時間とともに指数関数的な低下傾向を示したが、測定高度や樹種によって異なる低下速度を示した。樹冠(およそ10 m高)の空間線量率は物理減衰速度よりも早く低下したが、林床(1 m高)の空間線量率は調査森林によって異なる低下傾向を示した。本研究の観測結果から、林内空間線量率は樹種や林齢による樹冠から林床への放射性セシウム移行状況の違いを反映して空間的・時間的に異なる時間変化を示すことが示唆された。また、林内空間線量率の低減は、原発事故後4年間(平成23年~26年)とその後の2年間(平成26年~27年)で異なる傾向が認められた。このことから、林内空間線量率の長期変化傾向を予測するためには、林内の放射性セシウムの移行メカニズムと空間分布の時間変化を解明することが必要であることを示した。
著者
新里 忠史 佐々木 祥人 三田地 勝昭
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

はじめに東京電力福島第一原子力発電所事故に由来する放射性物質のうち,Cs-137は半減期が約30年と長く,今後長期にわたり分布状況をモニタリングし,その影響を注視していく必要がある.福島県の約7割を占める森林域については,住居等の近隣の森林や森林内で日常的に人が立ち入る場所での除染等とともに,森林整備と放射性物質対策の総合的な取組みが進められている[1].本論では,山地森林におけるCs-137の流出特性に林床状況が及ぼす影響について,福島県の阿武隈山地に分布するアカマツ-コナラ林での調査結果を報告する. 調査地と手法森林域に降下した放射性セシウムは,降雨を起点とする林内雨や樹幹流及びリターフォールにより林床へ移動し,林床から土壌流出及び表面流に伴い林外へ移動すると考えられる.土壌流出によるCs-137流出は表面流の100倍程度[2]であり,前者に伴う流出がより重要と考えられる.本論では,土壌流出の最初の段階である降雨による土壌粒子の飛散(雨滴侵食)を対象として,斜面下方への放射性セシウム流出量と林床状況の関連を考察する.観測領域は阿武隈山地に分布するアカマツ-コナラ林の西向き斜面であり,面積は約10 m四方である.観測領域にアカマツはなく,平均樹高8 mのミズナラを主体とした落葉広葉樹が分布する.観測領域の斜面上部は下草が繁茂し落葉落枝等のリターが堆積する.斜面下部は,下草が除去されリターの堆積した北側及びリターが除去され裸地状態の南側に分けられる.斜面の傾斜は27~28度の範囲にある.林床状況が異なる以上の3領域において,雨滴侵食で飛散する土壌粒子を回収するためのスプラッシュカップを各領域に5台ずつ設置し,約1ヶ月間の観測を実施した.スプラッシュカップは直径30 cmあり,カップ内側の中央に林床表面が露出した直径10 cmの孔(内部孔)があけられている.内部孔の林床に雨滴があたり土壌粒子が飛散すると,内部孔を円形に取り囲み配置された高さ10 cmのトレイに土壌粒子が回収される.回収トレイは,内部の仕切り板により斜面上方と下方へ飛散する土壌粒子を取り分けられる.スプラッシュカップ外側の林床から土壌粒子が混入することを防ぐため,同カップの周囲約1 m四方に麻布を敷く対策を施した.落葉落枝等のリターによる林床の被覆率は,スプラッシュカップの内部孔における林床表面で計測した.土壌粒子の粒径はレーザー回折式粒径分布測定器により測定した.同カップで回収した土壌は105℃で24時間の乾燥後,Cs-137濃度を測定した.Cs-137流出量は,スプラッシュカップ内部孔の面積,斜面下方へ移動した土壌の重量とCs-137濃度から算出した.Cs-137流出率は,観測領域の近傍における深度20 cmまでの土壌試料の分析値から単位面積あたりのCs-137蓄積量を算出し,その蓄積量に対するCs-137流出量の百分率とした. 結果各観測領域における落葉落枝等のリターによる被覆率は,斜面上部で95.4%,斜面下部の北側で48.2%,斜面下部の南側で5.1%であった.これに伴い1 m2あたりの斜面下方への土壌移動量も異なり,斜面上部で8.5 g,斜面下部の北側で11.3 g,斜面下部の南側で21.2 gであった.移動土壌の粒径分布は,観測領域における林床0-1 cmの土壌粒子と比較し,淘汰が非常に悪くほぼ対称の歪度を示し,粒径に依存した選択的な土壌粒子の移動は確認できなかった.また,土壌のCs-137濃度から求めた1 m2あたりのCs-137流出量は,斜面上部で523 Bq,斜面下部の北側で295 Bq,斜面下部の南側で710 Bqとなった.ここで,斜面上部と斜面下部における1m2あたりのCs-137蓄積量(上部33 kBq,下部101 kBq)との比較からCs-137流出率を算出すると,下草が繁茂しリターが堆積する斜面上部では0.5%,下草がなくリターの堆積した斜面下部の北側で0.9%,下草とリターがなく裸地状態である斜面下部の南側では2.1%となった.以上の結果は,林床の被覆状況が森林域の放射性セシウム流出に関して重要な環境条件であることを示している.また,林床の下草や落葉落枝等のリター除去を行うような森林域での除染活動においては,除染後に下草が繁茂し落葉落枝等が堆積するような環境整備を合わせて実施することが,放射性セシウム移動抑制対策につながることを示すと考えられる. [1]環境省,森林の除染等について.http://josen.env.go.jp/about/efforts/forest.html[2]Niizato et al., 2016, J. Environ. Radiact. 161, 11-21.