著者
磯野 真穂
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.849-856, 2013-09-01

不適切な親子関係が摂食障害を引き起こすとするモデル(=「家族モデル」)は,すでに多くの批判にあい,現在主流の機序モデルではない.しかし,このモデルは当事者や家族に対し,いまだ強い影響力をもつ.これまで「家族モデル」に対する批判は「正・誤」の二項対立の中で展開されてきたが,単に「家族モデル」を「誤り」とするだけでは,このモデルがいまだ当事者や家族に受容される理由を明らかにすることはできない.したがって,本稿は,「家族モデル」を内面化したと思われる1事例を取り上げ,当事者にとっての「家族モデル」の意義とその内面化の功罪を,「物語」の観点から解析した.結果,「家族モデル」は,親を原因とすることで,当事者を病気にかかったことの罪悪感から救済するが,疾病利得を生み出し,救済の範囲を親子関係の中にとどめて,社会性の回復を促さないという弊害も見出された.
著者
近喰 ふじ子 塚本 尚子 安藤 哲也 吾郷 晋浩
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1171-1185, 2010-12-01
被引用文献数
1

筆者は,ここ数年,子どもが身体症状を訴えて母親とともに小児科外来を受診した際,子どもの症状を心配するよりも夫婦関係を重視した情報を聞かされ,家族関係が変化したことを母親の言葉から間接的に知らされた.すなわち,夫婦関係の親密性が想定された.そこで,今回,「夫婦親密度尺度」を作成した.本尺度は4因子の構造からなり,親関係項目からは「依存型夫婦」「安定型夫婦」「不満型夫婦」「尊重型夫婦」の31項目が,子ども関係項目からは「子ども重視型夫婦」「子ども干渉型夫婦」「子ども否定型夫婦」「子ども不信型夫婦」の25項目が抽出され,信頼性と妥当性が確認された.すなわち,従来使用されていた「家族機能測定尺度」との相関関係から,従来の家族機能とは異なる新しい家族機能へと変化し,子どもの混乱が生じやすいことが推察された.
著者
針間 克己
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.583-587, 2004-08-01
参考文献数
9

パラフィリアとは典型的でない性嗜好に対する医学的疾患概念である.典型的でない性嗜好の何が医学的な異常で何が正常なのか,何をもって医学的疾患とするのか.その境界線は,文化,時代の影響を受ける古典的には生殖に結びつかない性行動が異常とされた.その後, 1970年代のゲイムーブメントの影響を受けて,本人に苦悩があることをもって精神疾患とするようになった.しかし,2000年に出されたDSM-IV-TRにおいては,その行動が性犯罪となるものは,苦悩がなくても行動をもって精神疾患とされるように変更となった.すなわち現在では,パラフィリアは性犯罪グループと非性犯罪グループで診断基準が異なっだものとなっている.
著者
木村 祐哉
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.357-362, 2009-05-01
被引用文献数
3

少子高齢化の進む現代の日本において,ペットは家族の一員として重要な存在となっている.そのようなペットの喪失によって強い悲嘆が生じうることは,「ペットロス」という言葉とともに知られるようになったが,十分な社会的理解が得られるには至っていない.本稿では,ペットロスに伴う悲嘆反応とそれに対する支援について諸文献から考察した.ペットロスは対象喪失の一種であり,親しい人物との死別の場合と同様の悲嘆のプロセスを経るとされる.専門的介入もまた有効であると考えられているが,安楽死の決定にかかわる罪悪感や,周囲との認識の違いによる孤独感など,ペットロスに特異的な状況が存在するということにも注意する必要がある.本稿ではさらに,日本におけるペットロスの現状について触れ,今後の研究に求められる課題を明らかにすることを試みた.
著者
小林 伸行 高野 正博 金澤 嘉昭 濱川 文彦 中島 みどり 霜村 歩 西尾 幸博 山田 一隆
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1018-1024, 2013-11-01
被引用文献数
1

肛門からガスが漏れていると信じる自己臭症(自臭)患者に対して,肛門括約筋を強化するバイオフィードバック(BF)訓練を行った.対象と方法:大腸肛門科を受診した自臭患者でBF治療に同意した20名(男性9名,女性11名,平均年齢36.4±12.9歳)を対象とした. BF前後にWexnerスコアの算定,肛門内圧検査を行った.患者の自己申告をもとに総合改善度を評価した.結果:13.4±8.6回のBFを行い,自覚的漏れはWexnerスコアで8.1±3.7点から5.8±3.2へと有意に改善した(p<0.01).最大肛門静止圧は治療前後で差はなく,最大随意圧(MSP)は男性では325.2±57.6cmH_2Oから424.4±105.8へと有意に増加したが(p<0.05),女性では差はなかった.総合改善度は消失5名,改善11名,不変4名であったが, MSPの増加量とは相関しなかった.結語:自臭患者にBFを行い80%に有効であった. BFの直接的効果ではなく治療構造自体が治療的と考えられた.妄想が強くても適応可能な新しい試みである.
著者
岩橋 成寿 國井 啓子
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.143-149, 2005-02-01

対麻痺を繰り返し神経内科で多発性硬化症が疑われた症例に二次的疾病利得を認め, 直面化技法を行い, これが奏効したので報告する. 患者は38歳, 大学工学部卒の男性. 突然の両下肢の知覚消失と麻痺が生じ, 多発性硬化症を疑われて神経内科に入院, ステロイド療法を施行された. 過去に2度, 7年前と8年前に対麻痩のため, それぞれ前脊髄動脈症候群, 横断性脊髄炎の診断で6カ付き間の神経内科入院歴があった. 脳と脊髄のMRI所見に異常を認めず, 症状と神経学的所見の解離を認められて第18病日に心療内科に紹介された. 家族面接により, 患者は職場での使い込みと借金を繰り返し, その度に親が責任を問わずに返済していたこと, 今回の発症も使い込みの露見直後である事実が判明し, 使い込みの責任を疾病によって回避するという二次的疾病利得の存在が明らかになった. 診断は転換性障害と詐病の判別が極めて困難であった. 生育歴上, 両親に溺愛され, 父性原理が欠如した養育を受けており, 超自我が未発達と思われた. 父親から「借金の後始末は今回が最後で, 次回は刑事責任も自分でとれ」と通告された後に対麻痺は消失し, 3日後に退院した.
著者
仲 紘嗣
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.737-747, 2011-08-01

「心身(シンシン)一如」は心身医学で重要な概念であるが,この言葉の由来は従来から「道元の言葉"身心(シンジン)一如"とされ,」とあいまいである.近年は栄西の言葉「心身(シンジン)一如」とする説もある.栄西(1141〜1215年)は1198年に『興禅護国論』を執筆しているが,その原本は紛失して現存していない.現在,われわれが一般に読むことができるのは1778年以降の校訂本である.その校訂本では,「心身一如」を含む前後の句を『禅苑清規』(1103年,中国の文献:禅僧の生活規範が記してある)から引用して示している.しかし,『禅苑清規』には「心身一如」ではなくて「身心一如」と記載されている.したがって,栄西の執筆時の言葉は「身心一如」であったと推測される.一方,道元(1200〜1253年)の言葉「身心一如」の出典は『正法眼蔵』「辧道話」(1231年)である.道元の言葉を今日用いている「心身一如」の由来とするには身と心の語順の逆転が問題となるが,そのことに関しては本文で示した理由により納得できるものであった.以上,これらの言葉の出典や原典の検討から,今日用いている「心身一如」の由来は道元の言葉「身心一如」であって,また,「身心一如」は推測ながら栄西の執筆時の言葉でもあったであろう.道元・栄西それぞれの言葉の意味するところは本文で示した.歴史的には「身心一如」は身を重視し「心身(シンシン)一如」は心を重んじてきた.「心身一如」の本来の意味は身を重視した「身心一如」にあり,この概念は心身医学分野ですでに生かされているが,いっそうこの点を念頭に置いて研究・診療にあたるべきであろう.
著者
村上 典子 小笹 裕美子 村松 知子
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.7, pp.655-660, 2006-07-01
参考文献数
4
被引用文献数
2

当院心療内科は,1995年1月の阪神淡路大震災・被災地での心身医学的ケアを目的に,1996年に開設された.また,震災から約10年後の2004年10月の新潟県中越地震では,心療内科スタッフは日本赤十字社の災害救護の一員として,全員被災地に赴いた.その際,感冒,高血圧,不眠・不安,便秘など,被災というストレスフルな背景に配慮した心身医学的ケアが必要とされた.震災10年後の心療内科受診患者を対象としたアンケート調査では,39%が「震災と今の自分の病気は関係がある」と考えており,特に,転居,失職(転職),家族構成の変化など震災後生活変化の大きかった者に限ると,その割合は68%にも達した.災害においては,急性期から復興期にれたり,身体的,精神的,社会的,スピリチュアルな全人的ケアが必要とされ,今後の心身症を防ぐためにも,長期的視野に立った心身医学的介入が災害直後の急性期から必要と考える.
著者
RS Kahn D Brandt RC Whitaker 一條 智康
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, 2005-03-01

母親のうつ病が子の健康にさまざまな影響を及ぼすことは知られている.母親がうつ病であると,その子には発達の遅れ,行動の問題,うつ病,喘息,外傷などが生じる可能性が高いと指摘されている.今までの研究は産後うつ病に焦点が当てられていたが,母親のうっ病が産褥期のあとにも持続すると子の健康に対する影響が大きくなることは明らかである.親の精神的健康状態がその子たちの精神的健康にどのような影響を及ぼすかについて行われた大部分の研究は,母親に焦点を当てており,父親の調査は除外されていた.著者らは,子に及ぼす両親の精神的健康状態の複合的影響をリサーチするために(具体的には,父親の精神的健康状態が子の行動および情緒の健康状態を修飾するか否かを検証するために),822人の子(3〜12歳,平均8.2歳)を含む605家族の調査データを検討した.子は全員,2人の養育者(母親と父親,または母親とそのボーイフレンド)と生活していた.親は妥当性が確認された質問表(K10)で親自身の精神的健康状態に関する症状(例えば,うつ気分,不安)を評価した.子の行動および情緒の健康状態についてはBehavior Problem Indexを用い,母親が主に評価した.その結果,精神的に不健康な2人の養育者をもつと,子の健康状態は精神的に健康な2人の養育者をもつよりも有意に不良であった.母親のみが精神的に不健康な家族では,父親の精神的健康状態のよい場合には子の情緒および行動の問題が有意に減少した.著者らは,母親の精神的健康状態がどのくらい子の健康に影響するかは父親の精神的健康状態により左右されること,すなわち,母親の精神的不健康が子の健康状態に与えるマイナスの影響は精神的健康状態のよい父親によって軽減されることを発見した.また,本研究では親の精神的健康状態に関する質問表によりうつ気分だけではなく不安も含めてチェックしたことは,先行研究にはほとんど見られなかった点であることも,著者らは記述している.結果として,臨床医,特に小児科医が患者(子)の母親のうつ気分や不安を指摘し,適切に対処する役割が特に注目される.また,子を診るときには両親との関係性の中で(両親の精神的健康状態を視野に入れて)子を評価することの重要性を改めて強調している.
著者
伊丹 仁朗 昇 幹夫 手嶋 秀毅
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.34, no.7, pp.565-571, 1994-10-01
被引用文献数
9

This experiment was conducted to clarify the influence of laughter on the immune system. Nineteen volunteer subjects were taken to a variety theater to experience laughter for three hours. Blood samples were taken from the subjects immediately before and after the performance. The NK activity and CD 4/8 ratio of these blood samples were examined. Without exception, in those subjects with NK activity levels which were below average before the performance, there was a significant increase in these activity levels, and in the CD 4/8 ratiosimmediately after the performance (p<0. 05,Wilcoxon's rank-sum test). In all the subjects who had CD 4/8 ratios that were above the standard level immediately before the performance, there was a significant decrease of these ratios immediately after the performance (p<0. 05,t-test). From these findings it is concluded that laughing increases the NK activity of people whose ac- tivity levels are below average and normalizes the CD 4/8 ratios of people whose ratios are above or below the standard levels.
著者
田中 由美 宮田 正和 児玉 直樹 辻 貞俊
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.49-54, 2001-01-01

片側性の眼瞼下垂を主徴とし重症筋無力症が疑われたが転換性障害による偽性眼瞼下垂と診断された患者を2例経験したので報告する.1例目は23歳女性, 四肢脱力と左眼瞼下垂の主訴で受診.2例目は33歳女性, 右眼瞼下垂と右半身感覚低下の主訴で受診した.2例ともエドロフォニウム試験は陰性, 抗アセチルコリン受容体抗体陰性であり, 神経学的にも明らかな異常は眼瞼下垂以外には認められなかった.仕事上のストレスで症状の増悪が認められ, 最終的に転換性障害と診断した.転換性障害の眼症状としては, 複視, 視力低下, 注射麻痺などが知られているが, 偽性眼瞼下垂の報告例は海外で5症例と少ない.転換性障害の発症前や, 症状の増悪時には, 心理的要因が関与していることが多く, 神経学的所見や検査所見に矛盾点がある場合には, 発症前の心理社会的背景を把握するなど心身医学的なアプローチが必要であると考えられた.
著者
増田 彰則
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.815-820, 2011-09-01
参考文献数
10
被引用文献数
1

不登校を合併した子どもの睡眠について調査したので報告する.対象:当院を受診した患者108名(10〜18歳)のうち,不登校合併例51名,不登校合併のない心身症例57名と健常高校1年生64名である.結果:不登校例では,(1)31%が入眠障害を訴え(健常高校生は3%),24%が中途覚醒(同8%)を訴えた.(2)不眠でつらい思いをしている割合は24%(同8%),朝だるさを訴える割合は61%(同36%),悪夢をみる割合は53%(同36%)であった.(3)テレビを3時間以上みる割合は52%(同13%)で携帯電話,インターネット,ゲームを3時間以上する割合はそれぞれ18%(同11%),18%(同5%),10%(同2%)であった.(4)これら電子機器を1日5時間以上すると答えた患者の62%は不登校を合併していた.考察:不登校合併例の多くに睡眠障害がみられた.特に入眠障害と朝起きられない問題を抱えていた.原因の1つとして子どもの生活が深夜型化していることが挙げられた.
著者
齊藤 卓弥
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.303-311, 2010-04-01
被引用文献数
1

発達障害と気分障害の合併は,患者の全体的な機能(functioning)の低下を引き起こし,発達障害の患者の適応をより低いものにする.従来,発達障害患者の気分障害の合併に関してはさまざまな議論があったが,徐々に発達障害に気分障害が合併すること,また発達障害患者に気分障害の評価・診断を行う際にはさまざまな配慮が必要であることが明らかになってきている.発達障害の中で気分障害に注目することは,問題行動の予防をする点からも重要であると考えられるようになってきている.同時に,治療可能な合併する気分障害の治療を積極的に行うことは,発達障害患者のquality of lifeの向上と機能の至適化に重要である.ここでは,気分障害を合併する発達障害の診断・治療について,現在までの知見を概説するのと同時に,米国における発達障害への教育的なかかわりを通して成人の発達障害への支援について1つのモデルを提案する.
著者
齊藤 万比古
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.277-284, 2010-04-01
被引用文献数
1

発達障害は最初に子どもの年代で診断されることが多い障害の代表的なものであるが,発達障害とされる諸障害が成人で注目されるようになったのはわが国ではごく最近のことである.注目が集まるにつれ,成人の間に発達障害を見出したとの症例報告が増えているが,診断の困難さは成人における各発達障害の臨床像が必ずしも確立していないことにもある.診断を難しくしている最大の要因は,発達障害における併存精神障害の併発率の高さと多様さにある.難治性の,あるいは対応困難な成人期の精神障害や心身症の背景に発達障害が存在していないか否かを見極める視点が,この領域の臨床家にとって必須なものとなっている.こうした観点での精神医学および心身医学の整理が必要ではないだろうか.