著者
久保木 富房 野村 忍 熊野 宏昭 末松 弘行
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.107-113, 1996-02-01
被引用文献数
1 1

摂食障害における死亡率の検討は現在までにいくつか報告されている。欧米および本邦でのそれらの報告では1〜10%とあり, 多数例による報告では4%とほぼ一致している。当科の23年間の外来患者中の摂食障害患者は724名である。これら全例についてその予後を調べ, どれほどの患者がどのような状況, 状態で死亡しているのかを調べてみた。当科の外来カルテ, 台帳およびデータベース, さらに担当医への質問紙などより資料を集め, 724名中データの得られた434名について該当者のリストをつくり, それぞれ担当医に直接依頼して, 症例サマリーと以下の項目についての回答を得た。全症例の中で死亡を確認できた症例数は9例あり, 全例女性で, 死亡時の年齢は17〜48歳(平均28歳)であった。発症時年端は14〜21歳(平均17歳)で, ANのみの症例は4例, AN+BNの症例が5例であった。また, 死亡時の体重は17〜66kg(平均35kg)で, 肝障害が確認されていた症例が6例, 浮腫が4例.低K血症が5例, 低血糖発作が4例であった。そして, 死因としては衰弱死3例, 飛び降り自殺2例.服薬自殺未遂後の心不全1例, 突然死2例, 癌死1例であった。さらに心理社会的な面では, やせ願望(肥満恐怖)は全例に強く認められ, 自殺企図4例, 人格障害4例, 母子共生6例, 強迫性5例, Hy傾向3例であった。また, 治療者側の反省点としては以下のことが挙げられた。(1)AN3例(No.1,3,9)→衰弱死この3例に共通する治療者側の反省点は, 治療関係の確立と治療動機づけができなかったことである。No.9の症例においては父親の単身赴任によって母親の負担が増加し, 母親が治療者へ陰性の転移を強く示し, 治療上の問題点とされていた。(2)AN+BN2例(No.5.8)→飛び降り自殺不安定な精神状態への対応が十分でなかったこと, 慢性的なうつ状態に対する評価と対策がとれなかったこと, さらに自殺の予知と対応が不十分であったこと。(3)AN+BN(No.6), AN(No.7)→突然死身体状況の的確な評価ができなかったこと。(4)AN+BN(No.4)→薬物自殺→心不全bulimia症例とのつき合い方, 治療者と患者との距甦の問題, identity crisisや大学への不適応などの問題が十分扱えなかったこと。(5)AN+BN(No.2)→癌死引きこもり(schizoid)への対応が不十分であったこと。両親への対応が十分でなかったこと。摂食障害における死亡は最悪のことであり, 今後さらなる検討が必要と考える。また, 長期化しsocial abilityの低下している症例も多く, Garfinkelらは25%と報告しているが, これらの症例についての今後の検討も重要な問題と考えている。
著者
土居 正人 三宅 俊治 園田 順一
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.1112-1119, 2013-12-01

本研究の目的は,自傷行為が行われる傾向を測定する尺度を作成し,今後の疫学的研究に資することである.これまでの自傷行為尺度は,行動的要因の項目のみで構成されており,自傷行為者特有の心理社会的要因についての質問は含まれていなかった.さらにその項目は,自傷行為に関して直接的に表現されており,尺度の精度や倫理的側面に疑問が残る.そこで本研究では,行動的要因における損傷度の高い自傷行為の表現を避け,間接的な表現にし,さらに心理社会的要因からの項目を含めることで,自傷行為者の特性を全体的にとらえ,精度の高い尺度を作成した.大学生209人を対象に質問紙調査を試行した.探索的因子分析,および確認的因子分析の結果,「抑圧状態」「自責思考」「承認欲求」「親子葛藤」の4因子20項目が最も適合した.次に構成概念的妥当性を確認するために54人の学生を対象に調査を実施し,また,基準関連妥当性を確認するために13人の自傷行為者を対象に調査を実施した結果,いずれも妥当性があると認められた.この尺度の使用によって,被験者が回答する際の心理的な負担を軽減することができ,項目からの,バイアスを回避し,精度の高い調査を行うことが可能である.
著者
森本 兼曩 丸山 総一郎
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.241-251, 2001-04-01
被引用文献数
2

情報化社会, 高齢化社会の到来といった社会経済構造の変革, 疾病構造の変化などにより, われわれのライフスタイルは大きく変わろうとしている.このような現代社会において, 国民の健康意識は高く, 病気になって考えるのではなく, 健康な時期に将来発生するかもしれない疾病に対する一次予防の方法を積極的かつ科学的に考え, さらにQuality of Life(QOL)を高める具体的方策を追求していくことが, 緊急かつ重要な課題となっている.こうした問題に対するアプローチとして, われわれが必要と考えているのはストレスに強いライフスタイル, より健康的なライフスタイルへの変容に個々人が自主的, 自発的に取り組むことである.喫煙, 飲酒, 運動などのライフスタイルが, 心身の健康と関連性のあることをこれまでに報告してきた.われわれは, 勤労者, 地域住民, 高齢者, 阪神・淡路大震災被災者を対象に, 一般的健康質問票, 健診データ, 染色体変異, NK細胞活性, IgE, コルチゾールなどを調べた.われわれは, これまでの研究やBreslowの報告に基づき, 8つの健康習慣として, (1)喫煙しない, (2)適量飲酒, (3)定期的な運動, (4)7〜8時間の睡眠, (5)栄養バランスを考える, (6)労働時間10時間未満, (7)毎日朝食を食べる, (8)ストレスを適正に保つ, を抽出した.同時に, この8つの健康習慣をいくつ守るかによって健康習慣指数(HPI)を算出した.2, 148人の勤労者における6年間の追跡調査の結果からは, 不健康なライフスタイルの人は, 慢性疾患の発症の割合が有意に高いことを示した.一方, 癌免疫力の指標の一つであるNK細胞活性は, 良好なライフスタイルの人で有意に高いことも明らかにした.遺伝的健康度は, リンパ球染色体変異の頻度(姉妹染色分体;SCE, 小核;MN)で測定した.その結果, 良好なライフスタイルを多くもつ人ほど, 染色体変異の頻度が有意に低かった.また, 不健康なライフスタイルの人で異常にIgEが高くなっていることも明らかにした.震災の被災者を対象にした調査では, 不良なライフスタイルの人ほど, また心的外傷後ストレス傷害(PTSD)傾向の強い人ほど, NK細胞活性が有意に低く, コルチゾールは有意に高くなっていることを示した.勤労者や高齢者のデータからは, 良いライフスタイルの人やヒューマンサポートの多い人ほど, 高い職場ストレスや身体的健康状態が良くないにもかかわらず, 高いQOLを示していたことを報告した.以上の結果から, われわれがライフスタイルをより健康的なものに変容させようとするのも, 個々人のいわば短い生涯のうちで, なるたけ大きな自己実現に向けての活動が, 健康であればあるほど容易になるからである.そのような意味からは, より健康的なライフスタイルは, 将来のさまざまな健康破綻への負荷に対する防御力, 耐性力, 抵抗力を示す資料でもある.
著者
武田 綾 鈴木 健二 白倉 克之
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.8, pp.513-519, 2002-08-01
被引用文献数
3

アルコール依存症を合併した摂食障害(合併群)の転帰について摂食障害単独群(単独群)との比較研究である.1990〜1998年に受診した30歳以下で半構造化面接のできた摂食障害患者130名に対し,2000年10〜12月にアンケートと電話で追跡調査を行った.対象者のうち102名(78%)が回答し,平均追跡期間は4.6年であった.2つの群は初診時において,初診年齢,パーソナリティ障害,AN-Rの割合,結婚・離婚経験など多くの点で違いがあった.調査時点で合併群は非常に高い死亡率(25%)があり,離婚経験は38%,問題飲酒も42%がもっており,症状消失とED-NOSが半数を占めた単独群と比較して,合併群の長期転帰は非常に悪かった.両群に共通した転帰良好因子は嘔吐が少ないことであった.
著者
鈴木 伸一 熊野 宏昭 坂野 雄二
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.8, pp.597-605, 1998-12-01
被引用文献数
2

本研究の目的は, ストレス対処過程のeffort-distress次元における心理・生理的反応を検討することであった.被験者は男子大学生22名であり, 実験群と統制群に振り分けられ, effort条件とdistress条件の実験に参加した.測定指標は心拍数, 収縮期血圧, 拡散期血圧, 皮膚電気伝導水準, 末梢皮膚温, effort-distress得点, 心理的反応, であった.分散分析と回帰分析の結果, effort状態では心臓血管系の反応が顕著であり, 拡散期血圧がeffort状態の変化に対応して変化すること, distress状態では抑うつ・不安反応が顕著であり, 皮膚電気伝導水準がdistress状態の変化に対応して変化することが明らかにされた.本研究の結果は, ストレス状況における認知・行動的状態とストレス諸反応との対応関係を明らかにするものであると考察された.
著者
折津 政江 横山 英世 野崎 貞彦 村上 正人 桂 戴作
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.39, no.8, pp.595-602, 1999-12-01
参考文献数
14
被引用文献数
1

心療内科受診者を対象に, ストレス耐性度チェックリスト(STCL)を施行した.信頼性分析のほか, 因子分析で得られた結果を第1報で報告した健常群で得られた結果と比較検討し, さらに判別分析を行った.平均得点は健常群より有意に低く, 判別分析では, 判別率77.8%で異なる群として有意に分けられた.因子分析では, 「明朗・積極性」「対人寛容性」「自己不確実性」「自己本位」「過緊張」の5因子が抽出された.ストレス耐性をストレッサーに対し, 調和的かつ適正に認知・評価し対処する機能と考えると, STCLはストレス耐性度をある程度推測することができるものと思われたが, より正確に測定するために, 追加すべき要因のほか, 対象の見直しやストレッサーやストレス反応との関連などの検討を重ねることが必要であろうと考えられた.
著者
藤林 真美 梅田 陽子 松本 珠希 森谷 敏夫
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.336-344, 2011-04-01
参考文献数
32

多様化した現代社会の中で,ストレスを抱える人口が激増している.ストレスも長期にわたると精神障害の発症を招く可能性が指摘されており,心の健康の維持・増進は重要課題である.本研究では,一般社会人20名を対象として予防的観点から運動トレーニングを4週間介入,介入前後に安静時心電図を測定し心拍変動パワースペクトル法を用いて自律神経活動を分離・定量化し,さらに質問紙法(Center for Epidemiologic Studies Depression:CES-D)を用いて抑うつ傾向を評価した.運動トレーニングの介入により,Δ心拍数とΔCES-D,および副交感神経活動を反映するΔHFとΔCES-Dに有意な強い相関を認めた.これまで運動トレーニングが身体および心理的な改善作用を有することは数多く報告されているが,本研究より,身体と心の改善は独立した変動ではなく心身相互作用である可能性が示唆された.
著者
松本 珠希 後山 尚久 木村 哲也 林 達也 森谷 敏夫
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.48, no.12, pp.1011-1024, 2008-12-01
参考文献数
50
被引用文献数
3

月経前症候群(premenstrual syndrome; PMS)は,身体・精神症状から社会・行動上の変化に至るまで広範囲にわたる症状が,黄体期後半に繰り返し出現し,月経開始後数日以内に軽快するという特徴をもつ.種類や程度,継続する期間を問わなければ,性成熟期女性の大半が何らかのPMS症状を自覚しているといわれているが,その成因はいまだ明らかにされていない.本研究では,PMS症状のレベルが異なる女性を対象に,"体内環境の恒常性維持に寄与し,心の状態にも影響を及ぼす"とされる自律神経活動の観点から月経前の心身不調の発症機序について探求することを試みた.正常月経周期を有する20〜40代の女性62名を対象とした.実験は卵胞期と黄体後期に各1回行った.月経周期は,月経開始日,基礎体温および早朝第一尿中の卵巣ホルモン・クレアチニン補正値を基準に決定した.自律神経活動は,心拍変動パワースペクトル解析により評価した.月経周期に伴う身体的・精神的不定愁訴および行動変化は,Menstrual Distress Questionnaire (MDQ)により判定した.MDQスコアの増加率に応じて,被験者をControl群,PMS群,premenstrual dysphoric disorder (PMDD)群の3群に分け,卵胞期から黄体後期への不快症状増加率と自律神経活動動態との関連を詳細に検討した.PMS症状がないあるいは軽度のControl群では,自律神経活動が月経周期に応じて変化しないことが認められた.一方,PMS群では,卵胞期と比較し,黄体後期の総自律神経活動指標(Total power)と副交感神経活動指標(High-frequency成分)が有意に低下していた.PMDD群では,黄体後期の不快症状がPMS群よりもいっそう強く,自律神経活動に関しては,他の2群と比較すると卵胞期・黄体後期の両期において心拍変動が減衰,併せて,すべての周波数領域のパワー値が顕著に低下していた.PMSは,生物学的要因と・心理社会的要因が混在する多因子性症状群であり,その病態像を説明するさまざまな仮説が提唱されてはいるが,統一した見解が得られていないのが現状である.本研究からPMSの全貌を明らかにすることはできないが,得られた知見を考慮すると,黄体後期特有の複雑多岐な心身不快症状の発現に自律神経活動動態が関与することが明らかとなった.また,PMDDのようなPMSの重症例では,月経周期に関係なく総自律神経活動が著しく低下しており,黄体後期にいっそう強い心身不調を経験するとともに,月経発来後も症状が持続するのではないかと推察された.
著者
小牧 元 前田 基成 有村 達之 中田 光紀 篠田 晴男 緒方 一子 志村 翠 川村 則行 久保 千春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.839-846, 2003-12-01
被引用文献数
13

われわれは先にアレキシサイミア評価のための構造化面接法を開発した.今回,引き続きアフレキシサイミアの自記式質問紙Toronto Alexithymia Scale-20 (TAS-20)日本語版の信頼性と因子的妥当性を検討した.対象は健常群347名と心身症・神経症などの患者群940名である.両群で3因子構造モデルは確証的因子分析により確認,再現された.質問紙全体としてほぼ満足できる内容であり,テスト-再テスト間の安定性も高いことから,日本語版TAS-20の信頼性および因子的妥当性は支持された.ただし,第3因子の外的志向に関しては内的一貫性が低く,その質問項目の均質性には問題があり課題として残された.