著者
森下 茂
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.583-588, 2003-09-01
被引用文献数
1

clonazepam(CNP)は,気分安定薬としてうつ病に有用であることが知られている.CNPの遷延性うつ病に対する有効性に影響を与える因子を検討した.101例の遷延性うつ病にCNPを投与した結果,初回うつ病発症年齢が40歳以上は有効性が高かった.精神疾患の家族歴と性別は,単一で比較すると有効性に影響は表れなかったが,初回うつ病発症年齢と組み合わせると,40歳以上では精神疾患家族歴がないほうが有効率は高かった.また39歳以下では,男性が女性より有効率が高い傾向かあった.初回うつ病発症年齢と精神疾患の家族歴は, CNPの有効性の反応予測因子になると考えられ,性別も反応予測因子になる可能性があると考えられた.
著者
鈴木 仁一 山内 祐一 堀川 正敏
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.292-298, 1977-10-01

β-ブロッカーが循環器系心身症の愁訴改善に有用であるとの報告は1965年にすでになされているが, われわれは, 精神薬理学的実験によって, その作用機序を解明することにした。実験対象は冠不全 5,NCA 5,本態性高血圧症 2,陳旧性心筋梗塞 1 の合計13例で, いずれも発症または経過に心理的要素が重大な影響をもつ心身症例である。これらの患者に, われわれの考案した鏡映描写試験により心理的ストレスを与えると, 動悸, 前胸部不快感などの自覚症状が発生するだけでなく, 血圧の上昇, 心拍数の増加, 心電図上で不整脈, ST-T異常が起こり, しかもその異常は尿中カテコールアミンの排泄増加および血中カテコールアミンの指標としてのFFAの増加と正の相関を示す。そこで鏡映描写試験前にβ-ブロッカーを内服させて前処理をしてみたところ, 自覚症状は発生せず, 血圧上昇, 心拍数増加は推計学的に有意の差で阻止され, 心電図にも異常所見は現われなかった。しかし, 尿中カテコールアミンおよび血中FFAは非処置群と同様に増加していた。以上のことにより, β-ブロッカーは心理的原因によって起こる循環器系異常を, 生体が生理的に反応してくる以前に, β-受容体の段階で阻止できることを明らかにすることができた。
著者
西方 宏昭 野崎 剛弘 玉川 恵一 河合 宏美 河合 啓介 瀧井 正人 久保 千春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.699-706, 2003-10-01

選択性緘黙と神経性食欲不振症を合併した症例に対し"三匹の猫"の対話ノートを使った非言語的交流技法を導入した.症例は14歳,中学2年の女子生徒.小学6年(12歳)時よりダイエットを開始し,中学1年(13歳)時,3カ月で29kgから22kgに体重が減少.同時期より家庭以外で話せなくなった.近医小児神経科に入院し点滴,経管栄養および抗うつ剤を投与され25kgで退院したが緘黙症状は悪化,体重も再び減少し当科入院となった.入院時身長134.5cm(骨年齢9歳6カ月),体重22.6kg(BM12.5kg/m^2,肥満度-28%).言語的交流がきわめて限られていたため摂食障害患者をモチーフに三匹の猫を作成した.猫たちとの交流を通じ,患者は初めて感情表現を行うことができた.その後は体重を29kgまで増やし退院した.
著者
船坂 宗太郎
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
精神身体医学 (ISSN:05593182)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.216-221, 1974-08-01
被引用文献数
2
著者
保坂 隆 大須賀 等 狩野 力八郎 藤井 明和
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.523-533, 1987-10-01
被引用文献数
1

子宮摘出術の精神的影響を検討するために43人の患者を対象として調査した。対象は手術前日に精神科的面接を受け心理テスト(CMI, YGテスト)が施行された。精神科的面接は中立性, 客観性を保つために著者らのうち2名の精神科医が同席して行われた。さらに, 婦人科的診察・術式・術後合併症などについて医師からどう説明されたか, また, 過去の喪失体験に対する反応や女性性, 月経, 月経停止に対する態度など, あらかじめ決められた質問が用意された semi-structured interview の形式をとった。さらに術後7日目にも特に喪失体験に対する急性反応に焦点をあてた精神科的面接が施行された。また, 約2年後に術後の影響を調べるために心理テストと, 特別に作成された調査用紙が郵送された。回答が得られすべての項目に関するデータが揃ったのは35人(81.4%)で, 以後はこの35人について検討された。1人の離婚女性と2人の未婚女性を除けばすべて既婚者で出産経験者であった。過去に神経症的傾向のある2人は術後一時的に症状増悪がみられたが, 両者とも既婚者で2人以上の子供がいた。さらに両者とも婦人科的診断は良性の子宮筋腫であった。また, 附属器切除を施行した52歳の主婦ではエストロゲン欠乏によると思われる灼熱感がみれらた。さらに一時的に腰痛を自覚した患者も4名いた。一般に, 子宮摘出術後に病的な精神科的反応を惹起する危険因子は, (1)若年女性であること, (2)精神科既往歴があること, (3)家族歴に精神科疾患があること, (4)子供がいないか少なくて, 妊娠を希望していること, (5)夫婦関係が障害または破綻していること, (6)器質的疾患がないこと, (7)術前に不自然なまでに安定していること, などである。しかし, 本研究の結果は, 子宮摘出後には種々の精神症状がみられるという従来からの仮説を支持することはできなかった。その理由のひとつとして考えられるが, 本研究より驚くほど多くの患者が自分の受ける手術の術式や術後合併症について知らなかったり, また知ろうとしていないことが明らかになった。この「否認」という防衛機制が, わが国における子宮摘出術患者において術前の緊張や不安を軽減したり, 術後の精神科的合併症を回避するのに有効であるように思えた。
著者
中川 俊二 吉村 睦夫 永田 [チカ]子 松岡 茂 池見 酉次郎
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.217-227, 1981-06-01
被引用文献数
1

Spontaneous regression of cancer (SRC) was classified according to the definition by Everson and Cole in 1966 and it was decided to recognize as the proper cases those which met the following requirements. 1) The reduction of a cancer which has been pathohistologically confirmed. 2 ) The reduction of a cancer in spite of unsatisfactory therapy or in the absence of any anti-cancer therapy. 3 ) The long survival of the host body due to extremely delayed progress or prolonged arrest of cancer with no rapid growth of a malignant tumor. 4 ) The long survival of the host body with no cachectic change of cancer in the presence of some anti-cancer therapy or the death of the host body after long survival due to some cause other than cancer. We have collected 35 cases of SRC. We studied each case from pathohistological findings and immunological characteristics (mainly digestive cancer patients) and found some interesting facts. The SRC cases are all primary cancers identified as 17 digestive cancers, 6 lung cancers, 4 vocal cord cancers, 2 liver cancers, 2 rectal cancers, and others. 54. 3% were males whereas 45. 7% were females. The classification of cancer according to histological findings are as follows ; 19 adeno carcinoma, 8 squamous cell carcinoma, 2 hepatoma, 2 carcinoma simplex, 2 scirrhous carcinoma, 1 undifferentiated carcinoma and 1 osteosarcoma. Now* we would like to review pathohistological studies of the organism's reaction to cancer. Watanabe stated that the degree of the lymphocyte infiltration of gastric cancer stroma and the histiocyte reaction of regional lymphocytes are related to the prognosis of cancer (lymphoid stroma). We found many cases of lymphoid stroma as the result of our histological study of the SRC in digestive cases. Psychological evaluation revealed that they had marked tendency to repress their feelings. But after they knew they had cancer, they stopped their bad habits completely and started to live a meaningful life on a day-to-day base by doing service to their surroundings. This can be called what Booth says " an existential shift." It was characteristic of these cases that the patient showed no sign of depression, fear of death and loss of meaning of life after they found their cancer.