著者
高畑 紳一 萬谷 智之 馬屋原 容子 倉本 恭成 山口 博之 森岡 壮充
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.525-529, 1996-08-01

今回、我々は mazindol 投与後に交流分析的アプローチが奏効した過食症の1例を経験したので報告する。症例は20歳、女性で、18歳時にダイエットを開始し、過食、下剤乱用、抑うつ気分を主訴に当科に来院した。神経性過食症(DSM-III-R)と診断され、当科入院となった。向精神薬による薬物療法、交流分析、行動療法を施行したが、治療に抵抗し、症状が増悪した。しかし、食欲抑制効果のある mazindol のみが過食行動を抑制した。両親とボーイフレンドの協力を得て交流分析を学習し、抑うつ気分などの症状は徐々に改善した。交流分析的見地から本例の発症機序や病態に関して考察し、mazindol の食欲抑制効果が過食症の治療において貢献しうることが示唆された。
著者
野間 俊一
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.45-51, 1999-01-01
参考文献数
15

ドイツにおける心身医学の現状を概観した。ドイツではすべての大学医学部に, 心身医学科あるいは精神療法科が設置され, 心身医学や医学的心理学の研究・教育に従事している。1992年に精神療法医学の専門医制度が導入された。バード・ノイシュタット心身症病院では, 集団療法や独自の身体療法によって, 狭義の心身症, 神経症, 人格障害, 嗜癖の治療に当たっている。また, ドイツの心身医学者としてGroddeck, Weizsacker, Uexkullの理論を素描し, さらに近年ドイツで話題になっている, 健康保持のメカニズムに焦点を当てたサルトジェネシスという医療観を紹介した。
著者
石川 ひろの 中尾 睦宏
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.201-211, 2007-03-01
被引用文献数
4

患者-医師間のコミュニケーションは,診察の主要な構成要素であり,患者-医師関係を築き治療を進めるうえで必要な情報の共有や意思決定をしていくための,最も基本的な手段である.診察における医師,患者のコミュニケーションは,各個人の特性によって異なるだけでなく,その場での相手のコミュニケーション行動に影響を受け,それに対応して変化していく.したがって患者-医師間のコミュニケーションを分析するためには,患者-医師間の会話や行動を客観的に評価すると同時にその相互作用を明らかにする必要がある.Roterが開発した相互作用分析システムは,医療現場に特有な相互作用を評価できるツールである.本稿では,そのシステムを日本の外来癌診療場面に用いた研究を紹介し,患者-医師コミュニケーション研究の新たな可能性について展望する.
著者
南部 春生
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.7, 2005-07-01

子どもたちはさまざまな「しぐさ」で自分の心のうち, ときにはSOSを親や大人たちに発信しています. とりわけ乳幼児期は情緒の発達がめまぐるしく分化し, 端的にいえば快適な刺激で微笑み, 喜び, 甘え, 不快な刺激には不満, 怒り, 恐れの表現を示し, その程度はさまざまです. もし, 自分の今の思いを「しぐさ」や「ことば」で表現できないときは, むしろその心のうちとは逆の「しぐさ」「ことば」で表現することにもなり, その場合には成長とともに自己表現をなしえないままに積み重なって, 気になる行動, 長じては不登校, 行為障害などの表現が"これも「しぐさ」"で, 親, 大人に訴えてくるはずです. 本書は2部で構成されており, 第一部は子どもの心は「しぐさ」にあらわれるとし, その「しぐさ」の1つが"子どもが意図的に出すしぐさ"つまり相手に何かを伝えたい, 察してほしいときに出すしぐさです. もう1つは"無意識に出すしぐさ'であり, 例えば「チック」などはその代表的なもので, 子ども自身は出そうとして出しているのではないのですが, それはSOSの表現であることがたびたびあるのです. しかも親, 大人にはよくわからない「しぐさ」のあること, それを理解するには一日の生活の中で子どもとゆっくり向き合う「ゆとり」があまりにも少なく, むしろその忙しさにより叱りつけたり, 聞き出しすぎたり, 放っておいたりで, まったく「しぐさ」をつかみ, 理解するに至らないことが多いことを指摘しています. その意味でも親, 大人たち, 特に子どもにとっては話をしやすい, 甘えやすい母親が節目節目で, 例えば一日の生活では朝食時, 元気に遊んでいるとき, 夜食, 寝るときにもう少しゆっくり優しく向き合うこと, またいつもと違うなということを, いろいろの生活部分ですぐに感じとる必要のあることが強調されています. 第2部では「しぐさ」の代表的なものを40アイテム用意し, このすべてをわかりやすいイラストで表現し, その中で子どもが"どんな気持ちなのか"を洞察し, "どうすればよいか"について解説しています. その「しぐさ」としては"やたらと「甘える」", "自分からやろうとしない", "反抗的な態度をとる"……"集中力がない", "不登校となる"などが取り上げられています. 特に愛情の表現ともいわれる「甘える」は物欲しげな態度, 例えば, おっぱいがほしい, ごはんを食べさせてほしい, そばにいてほしい, 遊んでほしい, 一緒に寝てほしい, と多彩で, またこれらは, 下の子の妊娠, 出産の際にも赤ちゃん返りの表現としてよく出してくるもので, それをそのまま優しく許すことでむしろ子どもは安堵し, 健やかな心とからだの成長発達が期待できるのです. 本書は「しぐさ」をテーマにその内容の深さを知るのには格好の参考書であり, 親, とりわけ母親, また多くの大人たち, 児童精神科医, 子どもの心身医学医, そして一般の小児科医にとっても子どもと対応する場合の術を学ぶことができ, また, 少しでも多くの時間を費して, 子どもの「しぐさ」を理解することの重要性を示唆している好著といえます.
著者
加來 昌子
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.609-613, 2002-09-01

転換性障害と診断された「利き手の不随意運動」に対する心理面接の中で,性的虐待が明らかになった2例を経験した.事例1は13歳,女児.心理面接開始約半年後,本児が母親に,10歳からの2年間,同居していた内縁の夫から,内縁の夫自身のマスターベーションを本児の手で行うことを強要される等の性的虐待を受けていたことを告白した.事例2は15歳女児.症状の形が事例1と似ていたことから性的虐待を疑い,本児に直接虐待の有無を尋ねたところ,事例1と同じような性的虐待を受けていることを告白した.これら2例において,利き手の不随意運動は「マスターベーションを強要されたこと」を直接的に表現したものと考えられた.
著者
芳賀 彰子
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.293-302, 2010-04-01

発達障害は,遺伝要因と環境要因が相互にかかわりあい発現する多因子疾患ととらえられている.近年は発達障害の発現に負の養育環境とのかかわりが注目されている.負の養育環境要因には,母親の妊娠中の飲酒/喫煙,妊娠/出産後のうつ,不適切なしつけと虐待行動,家族機能不全などがある.シンポジウムでは,知的に正常な発達障害がある母親を対象に心身医療が発達障害治療に果たす役割について母子臨床の視点から考察した.発達障害児を養育中で知的に正常な発達障害がある母親の養育環境は,妊娠中より続くうつ状態,心身症と不安/気分障害の併存,物質使用障害,夫婦間葛藤,虐待行動が,発達障害のない母親に比べ有意にみられた.発達障害がある母親の心身医療へのニーズは高い.発達障害児/者のよりよい未来に向け,負の養育環境の世代間伝達を防ぐために,心身医療が発達障害治療に果たす役割は大きい.
著者
中野 弘一 坪井 康次 村林 信行 山崎 公子
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.219-224, 1994-03-01

ライフサイクルの観点から中年期の生活を考えてみると, 社会的には職場における適応が大きな問題となっている。本論文では職場での適応について, 1つは不適応の代表として出社困難症例を検討し, もう1つは適応過剰のため心身症を発症し適応が破綻していった症例を考案した。不適応事例については, 東邦大学心療内科を受診し, 継続勤務が不良であった105例につき調査した。受診経路については, 女子では他人に勧められて来院するよりも自ら進んで来院するものの方が多く認められた(p < 0.05)。また初診までの期間別にみた復職状況では, 男子は1年以上たって受診したものは復職できているものが少なかった(p < 0.01)。さらに初診時における勤務状況別の復職者の割合については, 男子は現在の勤務状況に関連していたが, 女子では勤務状況との関連を認めなかった(p〈0.05)。また職場不適応の年代のピークは男女とも20歳代に認められ, もう1つのピークは40歳代で男性にのみ認められた。この現象は, 女性には中年の危機が存在しないのではなく, 社会進出した女性群が40代のピークを未だ迎えていないためと考えられた。さらにVDT障害による不適応の場合は他の職種に比べて不適応が早期に出現するが, これはコンピューターを使っての作業は専門性が高く, 他の人の協力や交替が得にくいためと考えられた。過剰適応については, (1)ライフスタイルの乱れから消化性潰瘍とうつ状態を呈し, 症状軽快後は外来での生活指導を拒否してしまった症例と, (2)過敏性腸症候群とともに肥満, 高血圧, 高脂血症, 高尿酸血症などのいわゆる成人病を呈し, 入院中は節制した生活をし症候全体が軽快していったが, 退院後1ヵ月で治療前の状態に戻ってしまった症例を示した。2症例を通じて, 中年期心身症の生活指導や行動変容は寛解と増悪を繰り返し, 難航するものが少なくないことを示した
著者
石蔵 文信
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.421-423, 2004-06-01
被引用文献数
1

近年,中高年男性にも女性と同様の更年期様症状があり,男性更年期として注目されている.泌尿器科領域では,男性ホルモン低下による種々の症状が新たな疾患概念となりつつある.近年の不況,リストラなどで中高年男性の自殺率が急速に上昇し,心療内科分野では,中高年男性のうつ病や不安症などをミドルエイジクライシスとよび,注意を喚起している.さらに,最近では中高年男性の勃起障害治療薬が発売され,勃起不全(ED)が注目され始めた.かかる状況の中で,中高年男性に特徴的な循環器疾患,EDさらにうつや不安症などを包括して診断治療するために男性更年期外来を2001年4月に開設したので,その特徴と経験を報告する.
著者
田中 勝則 田山 淳 有村 達之
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.334-342, 2013-04-01

本研究では大学生における身体醜形懸念とアレキシサイミアの関連について検討することを目的とした.身体醜形障害およびアレキシサイミアのいずれにもネガティブ感情が関連していることから,身体醜形懸念,アレキシサイミア,ネガティブ感情についての関連を検討した.大学生328名(男性187名,女性141名)から得られたデータを分析した結果,ネガティブ感情を統制したうえでも,身体醜形懸念の下位因子はいずれもアレキシサイミアの下位因子である感情同定困難因子と有意な正の相関を示した.また,身体醜形懸念の下位因子の一つである容姿への否定的評価因子は,同様にネガティブ感情を統制した際に,アレキシサイミアの下位因子である感情伝達困難因子とも有意な正の相関を認めた.アレキシサイミアの外的志向因子は身体醜形懸念とは有意な相関を認めなかった.重回帰分析の結果,感情同定困難因子は身体醜形懸念のいずれの下位因子とも有意な正の関連を示した.一方,感情伝達困難因子および外的志向因子は身体醜形懸念のいずれの下位因子とも有意な関連を示さなかった.以上の結果より,アレキシサイミアの特徴の一つである感情同定困難が身体醜形懸念と正の関連を有している可能性が示唆された.
著者
友成 晶子 山内 祐一
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.163-170, 2015-02-01

症例は,内気で気が弱く孤立傾向のある病前性格をもつ独居男性.社交不安障害(SAD)から職場不適応になり自宅閉居となった.休職が長期化し治療介入方法の選択に苦慮したが,認知行動療法が功を奏し,徐々に不安,緊張に改善傾向が認められるようになった.しかし東日本大震災が発生.患者は外出困難が再現し,食料がなく飢餓状態になっても家族が安否不明であっても「ひきこもり」を続けた.震災2カ月後にようやく実家へ出向き,津波の惨状を目の当たりにした.患者は自己の「ひきこもり」に対して絶望感から焦燥感へと心的変化があったと語り,復興ボランティアへの志願,職場復帰プログラムへの参加など自ら積極的に行動した.身体症状もほぼ改善され,震災10カ月後に職場復帰するに至った(休職2年3カ月).その後就労継続し再発はない.過去,「ひきこもり」治療の具体的な報告はほとんどみられない.職場復帰に成功した症例を経験したので報告する.
著者
水野 資子
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.7, 2005-07-01

目的:セロトニントランスポーター(5-HTT)の蛋白発現量と機能は5-HTT遺伝子の転写調節領域(SLC6A4)の遺伝多型によって調節される. 扁桃体を介した恐怖条件づけや日常生活におけるストレスに対する感受性に, この遺伝子多型が関与するという報告がある. 脳機能イメージングを用いた恐怖および怒りの表情認知課題において, 右扁桃体の賦活がSLC6A4遺伝子の"l/l"型に比し"s"アリルをもつ個体において強いことが報告された. 扁桃体と腹内側前頭前野(vmPFC)との間に存在する豊富な神経投射は情動の表出に関連するとされ, 大うつ病患者ではこの回路の過活動が報告されている. また, 前頭前野から扁桃体への伝達にセロトニン神経系が関与することが知られている. よって, セロトニン神経の伝達を調節するとされるトランスポーターの遺伝子多型が扁桃体-vmPFCの情報伝達を調節すると考えられる. 著者らは, トランスポーターの機能が低く, 気分障害や自殺企図との関連が報告される"s"アリル保持者で扁桃体とvmPFC間に強い連絡があると仮説づけ, これを検証した. 方法:対象は29名の健常男性である. 全員に5-HTT遺伝子の多型分析を行った. 課題には情動刺激として快, 不快の情動を想起させる写真を用いた, また, コントロールとしてneutralな写真を用いた. 課題遂行中の脳血流変化(BOLD)をfunctional MRIを用いて測定し, 遺伝子多型との関連性を検討した. 脳画像解析にはSPMを用いた. 結果:遺伝子解析の結果, s/s型9例, s/l型11例, l/l型9例であった. Friskらの報告と同様に, 不快または快刺激の提示時に扁桃体の活動がみられた. また, 不快刺激提示時にのみ右扁桃体と"s"アリルの相関がみられた. 一方, 快刺激提示時の扁桃体の賦活と遺伝子多型の相関はみられなかった. また, 扁桃体とvmPFCの局所血流量上昇の共変性が観測された. この共変性と遺伝子多型に相互作用がみられ, 左扁桃体と左vmPFCの共変性が"l/l"型の個体に比し"s"アリル保持者において強いことが明らかとなった. 考察:本研究は扁桃体-vmPFCの連合強度の5-HTT遺伝多型による差を証明した最初の報告である. 今回の結果は5-HTTの機能が負の感情形成に関与するという先行研究を支持した. また, "s"アリル保持者における不快刺激に対する高い過敏性を示唆した.
著者
岡 孝和 松岡 洋一 小牧 元 三島 徳雄 中川 哲也
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.405-409, 1991-06-01
被引用文献数
2

A case of Akatsuki disease was reported. Akatsuki disease which was named and reported first by Dr. Sakamoto in 1964 is defined as the skin lesions that are induced by neglect of skin hygiene and based upon certain psychological mechanisms. A 58 year-old female diagnosed as Akatsuki disease was referred to our department by a bermatologist. She had not been able to bathe for more than seven years because she felt burning sesations on her face when she took a bath. When she was admitted to our hospital, her cheeks looked red. When she put her hands into hot water, her face became more red and that state lasted over ten hours. However, endocrinological studies could not explain her complaints. As she was in a hypochondriacal state and also suspected to be in a hypersensitive state of the vasomotion of her face, Autogenic Training as well as the image therapy called "Nanso no Hou" were introduced in addition to supportive psychotherapy and congnitive, behavioral modification. As the result, the redness of her cheeks disappeared and she became able to take a hot shower in two months, and was discharged from the hospital.