著者
村田 雄哉 猪股 伸一 山口 哲人 渡辺 雅彦 玉岡 晃 田中 誠
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.50-53, 2015 (Released:2015-03-07)
参考文献数
8

患者は生来健康な26歳,女性.職業はキャビンアテンダント.勤務中に乗客の重い荷物を全身の力で頭上の棚に持ち上げ,その夜より強い頭痛と嘔気が生じた.頭痛や嘔気は立位や夕方に増強し,臥位で改善した.computed tomography(CT)脊髄造影で髄液漏出が認められ,脳脊髄液減少症と診断された.治療として硬膜外生理食塩液持続注入を行い,症状・activities of daily living(ADL)ともに改善がみられた.合併症が多いと考えられる硬膜外自家血注入を行わず,安全かつ効果的に治療することができた.また,非外傷性の脳脊髄液減少症は発症契機が不明なことが多いが,本症例では重い荷物を頭上に持ち上げるようなストレッチ運動が契機となった可能性が高いと考えられた.
著者
村田 雄哉 猪股 伸一 山口 哲人 渡辺 雅彦 玉岡 晃 田中 誠
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.14-0020, (Released:2014-12-26)
参考文献数
8

患者は生来健康な26歳,女性.職業はキャビンアテンダント.勤務中に乗客の重い荷物を全身の力で頭上の棚に持ち上げ,その夜より強い頭痛と嘔気が生じた.頭痛や嘔気は立位や夕方に増強し,臥位で改善した.computed tomography(CT)脊髄造影で髄液漏出が認められ,脳脊髄液減少症と診断された.治療として硬膜外生理食塩液持続注入を行い,症状・activities of daily living(ADL)ともに改善がみられた.合併症が多いと考えられる硬膜外自家血注入を行わず,安全かつ効果的に治療することができた.また,非外傷性の脳脊髄液減少症は発症契機が不明なことが多いが,本症例では重い荷物を頭上に持ち上げるようなストレッチ運動が契機となった可能性が高いと考えられた.
著者
加藤 利奈 杉浦 健之 酒井 美枝 草間 宣好 藤掛 数馬 祖父江 和哉
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.5-8, 2022-01-25 (Released:2022-01-25)
参考文献数
7

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の病態生理には,脳腸相関が重要な役割を果たす.発症と増悪にはストレスが深く関わり,治療として心身医学的アプローチも有効とされる1).今回IBSに対し,心理療法と漢方療法の併用が有効であった症例を経験した.症例は49歳の女性.腹痛により日常生活に支障をきたし,さらに全身のしびれが出現したため,当院いたみセンターへ紹介された.初診時,臨床心理士の評価で,不適切な養育や配偶者暴力体験などの背景に加え,実父による心理社会的ストレスが明らかになり,これらが消化器症状増悪に関与していると判断した.心理療法開始後,全身のしびれがなくなり,行動が活性化した.しかし,消化器症状は継続したため,抗不安作用のある桂枝加竜骨牡蛎湯と芍薬甘草湯を併用したところ,症状の改善が得られ,生活の質および日常生活動作が向上した.IBS症状増悪に関連する心理社会的背景や心理特性を踏まえて心理療法を行い,その後に漢方療法を導入したことが,著明な症状の改善やQOLの改善につながったと考えられた.
著者
小山 なつ
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.47-55, 2022-04-25 (Released:2022-04-25)
参考文献数
28

神経系における「抑制機構」は,単に伝導・伝達されつつある信号の遮断や減弱を引き起こすとは限らない.感覚の情報処理における「側方抑制」は,感覚情報のコントラストを上げる仕組みに深く関わっている.カブトガニの複眼の研究で最初に報告され,ヒトでは網膜における視細胞と水平細胞の間の相反性シナプスによる側方抑制が,双極細胞の受容野を限局させる役割を果たしている.体性感覚系においても類似の抑制機構があり,どこが痛いのかをピンポイントに判別できることに結びつくとも考えられる.中脳中心灰白質(PAG)は単なる痛みの制御に関わる神経核ではなく,多彩な機能がある.PAGは脳の広汎な領域と双方向性の線維連絡があり,睡眠・覚醒や性行動にも関与し,循環系,呼吸器系,体温調節などの自律神経系を介する制御に関わる.背外側PAGが関与するノルアドレナリン神経系を介する下行性の疼痛制御系も,腹外側PAGが関与するセロトニン神経系を介する疼痛制御系も,抑制系だけでなく,促進系として機能する可能性がある.痛みの発現も下行性疼痛制御系も共に,侵害刺激に対抗するための生体防御機構の一部であり,脳内に何重にも存在するホメオスタシスを維持するための神経回路によって引き起こされると考えられる.
著者
木村 健
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.1202020052, (Released:2012-02-16)
参考文献数
10

帯状疱疹後神経痛の治療開始1カ月後に自殺企図を起こした1症例を報告する.79歳の女性で,帯状疱疹のために,急性期より強い痛みが持続し,不眠となっていた.鎮痛薬で痛みが軽減せず,副作用で日常生活動作が著しく障害されていたので,当科を紹介された.当科受診後,薬物による副作用は改善したが,痛みの治療に難渋した.神経ブロックによる治療を後日予定し,退院した.退院の翌朝に自殺目的で服薬し,意識が消失した状態で家人に発見された.本患者は,精神神経疾患の既往はなく,入院中に自殺念慮を示唆する明らかな言動はみられなかった.再入院後,頸部硬膜外ブロック,星状神経節ブロックを施行しながら精神科医による治療を受け,痛みは軽減した.高齢者の慢性痛患者では,自殺の可能性に留意する必要があると考えられた.
著者
藤原 淳 森本 賢治 藤原 俊介 西村 渉 田中 源重 南 敏明
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.14-0014, (Released:2014-09-30)
参考文献数
9

硬膜外ブロック後の合併症の頭痛には,硬膜穿刺後の髄圧性が一般的であるが,硬膜下腔やくも膜下腔に迷入した空気による気脳症由来も知られている.今回,生理食塩水を用いた抵抗消失法での腰部硬膜外ブロック後に気脳症を生じた症例を経験したので報告する.症例は70歳代,女性.腰部脊柱管狭窄症増悪のため,腰部硬膜外ブロックを施行した.ブロック施行後,突然激しい頭痛を訴えたため,頭部CT撮影を行った.橋から延髄にかけて空気像を認め,1週間の入院加療となった.頭蓋内へは少量でも空気が迷入すると集積する部位によっては頭痛が引き起こされる.空気を用いた抵抗消失法による硬膜外ブロック施行では気脳症発症を助長するとの報告があり,当院では生理食塩水を用いた方法を推奨している.しかし,生理食塩水を用いた手技においても気脳症を発症したことから,施行時,穿刺方法以外に,穿刺部位や硬膜外ブロックの適応についても十分な検討が必要である.
著者
平森 朋子 眞鍋 治彦 久米 克介 有川 智子 武藤 官大 武藤 佑理
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.12-0061, (Released:2013-09-30)
参考文献数
13

発作性片側頭痛は,群発頭痛と同様に激しい片側痛とともに自律神経症状を呈するが,インドメタシンが著効することが特徴の,まれな疾患である.今回,群発頭痛からの移行,三叉神経痛との合併例を含む発作性片側頭痛の3 例を経験したので報告する.症例1 は31 歳,男性.突然5~6 回/時の頻度で,右後頭部痛が出現した.発作時に同側の流涙,眼瞼下垂,鼻閉を伴った.発作性片側頭痛を疑いインドメタシンの投与を開始したところ,痛みは消失した.症例2 は63 歳,女性.反復性群発頭痛として発作期のプレドニゾロンと予防薬としての炭酸リチウム,ベラパミルの投与を行っていたが,寛解期が短くなり,発作時にジクロフェナクで痛みが軽減したことから,インドメタシンを定期投与した.その後,発作は消失した.症例3 は77 歳,男性.特発性三叉神経痛としてカルバマゼピンの投与中であった.痛み発作時に同側の流涙,結膜充血,眼瞼下垂を伴うことがあったため,インドメタシンを併用投与した.その後痛みは軽減消失した.頭部・顔面痛は長期的な治療を要することが多いが,その経過中に痛みの性状が変化したり治療に抵抗性を示す場合には,他の疾患の合併を念頭に置く必要がある.
著者
伊藤 昌子 渡辺 弘道 金子 裕子 井上 由実 肥川 義雄
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.523-526, 2012 (Released:2012-11-16)
参考文献数
8

左下肢切断後に発症した幻肢痛に対して,硬膜外ブロックと坐骨神経パルス高周波療法が奏効した症例を経験したので報告する.症例は73歳女性,下肢閉塞性動脈硬化症を罹患し膝下で左下腿切断術を受けた.術直後より下腿の断端痛と幻肢痛が出現した.薬物療法でも痛みのコントロールがつかず,術後15日目に持続硬膜外ブロックを試みたところ痛みは回数,程度ともに軽減した.その後超音波ガイド下に局所麻酔薬による坐骨神経ブロックを施行し効果を認めたので5日後に坐骨神経に42°C180秒のパルス高周波療法を行った.それにより断端痛と幻肢痛は完全に消失した.
著者
村井 邦彦 酒井 大輔 中村 嘉彦 中井 知子 鈴木 英雄 五十嵐 孝 竹内 護 村上 孝 持田 讓治
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-8, 2012 (Released:2012-03-07)
参考文献数
49

椎間板ヘルニアに伴う神経痛の病態には,神経根の炎症機序が関与している.その一因に,椎間板髄核が自己の組織として認識されない隔絶抗原であるので,髄核の脱出に伴い自己免疫性炎症が惹起されることが考えられる.一部の髄核細胞の細胞表面には,眼房細胞などの隔絶抗原にみられる膜タンパクFasリガンドが存在し,Fas陽性の免疫細胞のアポトーシスが惹起され,自己免疫反応は抑制されるが,二次的に好中球の浸潤が惹起され,炎症を来す可能性がある.近年,われわれはマクロファージやナチュラルキラー細胞などの細胞免疫反応が,椎間板ヘルニアに伴う痛みの発現に関与することを示した.Fasリガンドや,細胞免疫の初期に発現するToll 様受容体に着目すれば,坐骨神経痛の新たな治療法が開発できる可能性がある.
著者
加葉田 大志朗 新谷 歩
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1-6, 2019-02-25 (Released:2019-03-12)
参考文献数
4

治療などの介入を研究対象者へ無作為(ランダム)に割り付けるランダム化比較試験(randomized control trial:RCT)では,介入群と対照群の背景因子は平均的に似通ったものとなる.日常臨床では治療を行うかどうかは臨床的判断によるため,各群への割り付けには一定の傾向が生じることが多い.そのため日常臨床から得られたデータのみを利用する観察研究においては,この治療を受ける傾向によって比較群間で背景因子に差異が生じてしまう.この背景因子の違いによってアウトカムの群間比較の結果にバイアスが生じることを交絡と呼び,観察研究ではこの交絡への対処が必須となる.交絡への基本的な統計的対処方法としては多変量回帰分析が利用されている.多変量回帰分析では介入因子以外の背景情報についても考慮することができるため,それらのアウトカムへの影響を差し引いた介入効果を推定できる.また多変量回帰分析と並んで,交絡への対処方法として広く活用されるようになった傾向スコア手法とあわせてその概要を紹介する.加えて,これらの手法について医学研究における不適切な利用が指摘されることもあるため,本稿ではその利用方法に関する基本的な注意事項についても言及する.
著者
榎本 澄江 寺田 哲 木村 理恵 林 映至 新井 丈郎 奥田 泰久
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.35-37, 2016 (Released:2017-03-10)
参考文献数
8

吃逆とは,間代性で不随意な横隔膜の痙攣様収縮で,吃逆が48時間または1~2カ月以上持続もしくは発作が再発するものは難治性吃逆と定義されている.今回,当科に紹介された難治性吃逆患者8例の治療を経験したので報告する.横隔神経ブロックと薬物療法で対応して,8例中,吃逆が消失5例,軽減1例,不変2例であった.横隔神経ブロックとバクロフェンは難治性吃逆の治療に有効であることが示唆された.
著者
工藤 尚子 三浦 耕資 周東 千緒 村上 敏史 齊藤 理 的場 元弘
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.13-0014, (Released:2013-09-30)
参考文献数
9

オピオイドの全身投与で十分な鎮痛が得られなかった2 例のがん性痛患者に対して,くも膜下モルヒネに高用量のブピバカインを併用し良好な鎮痛を得たので報告する.症例1:72 歳の男性で,肺がんの腸腰筋・大腿筋群転移による下肢の痛みに対し,くも膜下鎮痛法を施行した.モルヒネ単独で十分な鎮痛が得られずブピバカインを最大94 mg/日で併用し,痛みはverbal rating scale で4 から1~2 へ軽減した.症例2:64 歳の女性で,直腸がんの皮膚転移による陰部,大腿の痛みに対し,くも膜下鎮痛法を施行した.モルヒネ単独で十分な鎮痛が得られずブピバカインを最大66 mg/日で併用した.レスキュードーズ使用時に下肢のしびれ,低血圧を認めたが,レスキュードーズの調整で軽減し,痛みはnumerical rating scale で10 から2~5 へ軽減した.くも膜下モルヒネの効果が不十分ながん性痛の患者において,ブピバカインを加え,副作用や合併症に注意しながら高用量まで漸増することで,患者満足度の高い優れた鎮痛が得られた.
著者
高橋 秀則
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.18-0053, (Released:2020-01-21)
参考文献数
7

関節リウマチなどで生じる関節痛に対する西洋医学的治療は,薬物療法や理学療法などを中心に行われることが多いが難治の症例もある.一方,東洋医学的療法の一つである経穴刺激療法(遠絡療法)は,難治性疼痛に対して有力であるとの報告があるものの,有効性が確立されていない.今回,関節リウマチと診断されていた症例で,外傷を契機に発症した重度肘関節痛に対して本法が奏効したので報告する.症例は60歳,女性.左肘を捻り左肘痛が発症し,近医で肘内側靱帯断裂と診断され鎮痛薬投薬,理学療法を行うも改善せず痛みのために関節運動が困難になった.翌年には右肘関節にも痛みが生じ,次第に関節運動が困難となり,発症2年後われわれの施設に紹介受診となった.初診時両肘の関節運動はまったく不可能で,運動時痛のみならず安静時痛も激しく筋萎縮や骨萎縮も生じていた.薬物療法とともに遠絡療法が開始された.治療は1~2週間に1回行われ,2カ月後には安静時痛は消失,左肘関節は全可動域,右肘関節は0~90°までに可動域が改善した.遠絡療法は鍼を刺さない東洋医学的手技として,重度の関節痛に有力な除痛手段と思われた.