著者
村井 邦彦 酒井 大輔 中村 嘉彦 中井 知子 鈴木 英雄 五十嵐 孝 竹内 護 村上 孝 持田 讓治
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.1202020056, (Released:2012-02-16)
参考文献数
49

椎間板ヘルニアに伴う神経痛の病態には,神経根の炎症機序が関与している.その一因に,椎間板髄核が自己の組織として認識されない隔絶抗原であるので,髄核の脱出に伴い自己免疫性炎症が惹起されることが考えられる.一部の髄核細胞の細胞表面には,眼房細胞などの隔絶抗原にみられる膜タンパクFasリガンドが存在し,Fas陽性の免疫細胞のアポトーシスが惹起され,自己免疫反応は抑制されるが,二次的に好中球の浸潤が惹起され,炎症を来す可能性がある.近年,われわれはマクロファージやナチュラルキラー細胞などの細胞免疫反応が,椎間板ヘルニアに伴う痛みの発現に関与することを示した.Fasリガンドや,細胞免疫の初期に発現するToll 様受容体に着目すれば,坐骨神経痛の新たな治療法が開発できる可能性がある.
著者
坂本 昇太郎 高雄 由美子 上嶋 江利 柳本 富士雄 前川 信博
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.519-522, 2012 (Released:2012-11-16)
参考文献数
14
被引用文献数
2

術前5日前の凝固系検査では異常のない患者に硬膜外麻酔併用全身麻酔を行った際,硬膜外穿刺部から多量の出血を認めた症例を経験した.術直後の凝固能検査では,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は正常値であったが,プロトロンビン時間(PT),トロンボテスト(TT),ヘパプラスチンテスト(HPT)が異常値を示しており,これらの結果より,出血はビタミンK依存性凝固因子である第VII因子の低下が原因であると疑われた.本患者は,術前よりイレウス症状を呈しており,長期の絶食,セフェム系抗生物質の投与が行われていた.これらの要因が重なり,ビタミンKが欠乏したと考えられた.凝固障害の原因判明後,ただちにビタミンKおよび新鮮凍結血漿投与が行われ,出血傾向は改善され,後遺症を残すことはなかった.長期の絶食患者に抗生剤を投与する際にはビタミンK欠乏に注意が必要である.
著者
大路 牧人 境 徹也 田中 絵理子 澄川 耕二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.27-30, 2014 (Released:2014-03-12)
参考文献数
17

メトロニダゾール(MNZ)は,嫌気性菌や原虫による感染症に有効な抗菌薬である.薬剤性神経障害の原因薬剤は多岐にわたるが,MNZでも起こりうる.今回われわれは,MNZにより生じた薬剤性末梢神経障害に対し薬物療法を行ったので報告する.症例は77歳の男性である.5カ月前に腰痛が出現し,非結核性抗酸菌性脊椎炎と診断された.MNZ 1,500 mg/日が開始されたが,投与より1カ月で四肢の痛みとしびれ,複視,意識障害,構音障害が出現し,薬剤性神経障害が疑われた.MNZを中止後,中枢神経症状は数日で軽快したが,末梢神経症状は残存した.プレガバリン75 mg/日とトラマドール/アセトアミノフェン配合錠2錠/日を投与されたが軽快せず,当科紹介となった.デュロキセチン20 mg/日を投与したが,無効であったため中止した.その後,プレガバリンを150 mg/日に増量し四肢の痛みは軽減したが,しびれは残存した.プレガバリンはMNZによる末梢神経障害の痛みに対して,投与を考慮してもよい薬剤であると考えられた.
著者
小原 洋昭 中島 毅 兜 正則
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.107-110, 2014 (Released:2014-07-18)
参考文献数
10

片頭痛患者が後頭部の痛みを主訴に来院し,MRAにて椎骨動脈解離と診断された症例を報告する.症例は38歳,女性で,3年前から,主に月経前に左後頭部に前兆と随伴症状を伴う拍動性の頭痛が生じるようになったが,痛みは市販の解熱鎮痛薬を内服することでその都度軽快していた.今回も夕食中,急に同部位に拍動性の頭痛が出現したため,鎮痛薬を服用したが症状の軽快があまりみられず,また,いつもの症状とは異なる“つっぱる感じ”が続くため,不安になり同日救急外来を受診した.診察では神経症状はなく,また単純CTでも異常はみられなかったが,MRAにて左椎骨動脈解離と解離部での内腔の閉塞,偽腔による動脈瘤の形成を認めた.脳動脈解離は椎骨動脈に発生することが多いが,頭痛の性状からは片頭痛などの一次性頭痛と鑑別することは困難である.そのため,後頭部の痛みを訴える患者が受診した際には二次性頭痛も念頭に置いて診察し,単純CTにて異常がみられない場合でも,疑わしければMRAを施行することが必要である.
著者
上杉 貴信 高雄 由美子 安藤 俊弘 魚川 礼子 前川 信博
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.495-498, 2009-09-25 (Released:2011-09-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

幻肢痛が持続硬膜外ブロックを併用した鏡療法により軽減した症例を報告する.症例は37歳の男性で,腕神経叢引き抜き損傷と多発外傷に起因した難治性の幻肢痛であった.最初に鏡療法を用いて幻肢痛の軽減を試みたが,鏡療法を導入した後に,断端痛が増悪し,鏡療法を継続することが困難となった.持続頸部硬膜外ブロックを行い,断端痛を軽減させると,鏡療法が円滑に可能となった.その後,硬膜外刺激電極植込み術を行い,幻肢痛と断端痛は軽減した.
著者
今井 美奈 三枝 勉 松本 園子 山口 敬介 光畑 裕正
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.106-109, 2016 (Released:2016-06-30)
参考文献数
10

舌痛症は器質的変化がないにもかかわらず,舌に慢性的な痛みやしびれが生じる疾患である.とくに更年期の女性に多く発症し,歯科治療後に発症することが多いが,原因は不明なことが多く難治性である.心因性の問題が大きく関与していると考えられている.疼痛は舌尖部から舌縁部に好発し,摂食時,睡眠時には軽減する傾向がある.今回,舌痛症の診断で西洋医学的治療を行ったが無効であった4症例に対して,証に合わせてそれぞれ四逆散合香蘇散(柴胡疎肝湯の方意),桂枝人参湯,加味逍遙散,四逆散を使用し,numerical rating scale(NRS)で0~3に痛みが改善した.このように難治性舌痛症に対しては証(漢方学的所見)に従う漢方を使用することにより,効果があることが示された.
著者
有川 智子 眞鍋 治彦 久米 克介 加藤 治子 武藤 官大 武藤 佑理
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.15-0010, (Released:2017-05-26)
参考文献数
11

静脈穿刺による末梢神経障害は,時に痛みや感覚障害が長期に持続し,治療に難渋する.静脈穿刺に伴う末梢神経障害で受診した16例について,症例の背景,穿刺部位,症状,治療経過を診療記録より後ろ向きに検討した.対象は,女性14例,男性2例,21~79歳.穿刺部位は,肘皮静脈11例(正中5例,橈側4例,尺側2例),橈側皮静脈3例,前腕尺側静脈2例であり,初診時に14例が痛み,2例が違和感を訴えた.握力低下10例,アロディニア6例,冷覚鈍麻6例,腫脹3例,血腫2例があった.治療は薬物療法を13例,リドカイン点滴を8例,星状神経節ブロックを4例,持続硬膜外ブロックを2例で行った.転帰は軽快10例,治療中4例,転院2例であった.今回の調査では,静脈穿刺による末梢神経障害は報告が少ない肘部橈側静脈でも発生していた.末梢神経と静脈の走行と神経損傷の知識の普及が重要である一方,どの部位でも起こりうることから,末梢神経障害を疑った場合にはただちに抜針・止血し,早期より治療を開始するよう啓発する必要がある.
著者
齋藤 朋之 橋本 雄一 立川 真弓 島崎 睦久 新井 丈郎 奥田 圭子 斎間 俊介 安達 絵里子 奥田 泰久
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.516-518, 2012 (Released:2012-11-16)
参考文献数
8

神経障害痛に対する各治療ガイドラインで第一選択薬であるプレガバリンの通常初回投与量は150 mg/日とされる.主な副作用に浮動性めまい,傾眠,浮腫および体重増加などがあり,強く発現した場合はその投与の継続を中止せざるを得ない場合も少なくはない.今回,他施設にて150 mg/日の投与が開始されたが,副作用のために投与が中止された4症例に対して,当科ペインクリニック外来において再度75 mg/日から開始して,その後に重篤な副作用は発現せずに継続および増量投与が可能となった症例を経験したので報告する.特に副作用が生じやすい高齢者などでは,初回は少量投与で開始し,徐々に増量する方法が推奨される.
著者
御村 光子 佐藤 公一 井上 光 並木 昭義
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.141-144, 2003-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
7
被引用文献数
1

目的: 発症より1年以上経過した帯状疱疹後神経痛 (PHN) における局所麻酔薬による神経ブロックの効果を retrospective に検討した. 方法: 発症後平均31.5ヵ月を経過したPHNの6症例を対象とし, 痛みの推移を pain relief score (PRS) を指標として評価した. これら症例においてはアミトリプチリンを併用し, 1%リドカインを用いた星状神経節ブロックまたは硬膜外ブロックを初診より1~2ヵ月間は週1~2回の頻度で行った. 結果: 6症例はすべて女性, 平均年齢64歳, 平均観察期間は19ヵ月, 罹患部位は三叉神経第1枝3症例, 頸, 胸神経各々1, 2症例であった. 初診より約4週間において痛みの程度の低下は顕著であり, その後疼痛が軽減した症例は1症例のみであった. 5症例については神経ブロックにより段階的に痛みが軽減した. 初診時の痛みの程度を10とするPRSでみた場合, 最終的に3症例でPRS 5, 2症例で3, 1症例で1となった. 結論: 発症後1年以上を経過したPHN症例においても, アミトリプチリン併用下に局所麻酔薬を用いた神経ブロックにより痛みの軽減を期待できる.
著者
鵜瀬 匡祐 木本 文子 中原 春奈 別府 幸岐 吉村 真紀 深野 拓
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.165-168, 2009-05-25 (Released:2011-09-01)
参考文献数
12

アルコール性慢性膵炎の急性増悪による上腹部痛が柴胡桂枝湯で消失し,画像所見も改善した症例を報告する.62歳の維持透析中の男性で,内科に入院中であった.視覚アナログスケールで60-80/100 mmの上腹部痛と背部痛があり,疼痛の治療のために麻酔科を紹介された.モルヒネの持続静脈内投与を開始し,疼痛は軽減し,2週間後にモルヒネを中止した.しかし,経口摂取を開始後に膵炎が再燃し,上腹部痛が再発した.モルヒネ,フェンタニルの持続静脈内投与,アトロピン,非ステロイド性抗炎症薬を併用したが,上腹部痛は軽減しなかったので,柴胡桂枝湯の内服を追加した.上腹部痛は10日後に消失し,オピオイドを中止した.腹部CTで遷延していた膵の炎症性変化が軽減していた.柴胡桂枝湯は単に疼痛を軽減しただけでなく,膵炎の治癒も促進したと考えられた.
著者
伊東 久勝 服部 瑞樹 堀川 英世 竹村 佳記 山崎 光章
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.231-237, 2018-10-25 (Released:2018-11-07)
参考文献数
40
被引用文献数
3

遷延性術後痛(chronic postsurgical pain:CPSP)は,多くの患者のQOLを損失する深刻な手術合併症である.CPSPは侵襲の大きさなどの手術因子,精神・心理的因子や遺伝素因などの患者関連因子,環境因子を含んだ複合的なメカニズムによって発症し,その病態の理解は単純ではない.これまでにCPSP対策として薬物療法,神経ブロック,低侵襲手術の普及などさまざまな治療介入が行われており一定の効果は得られているが,より効果的な治療介入の開発のためにさらなる研究が望まれる.精神・心理的因子はCPSPの明らかな危険因子であり,これらの影響を評価し適切な治療介入を行うためには,痛みの有無や強度のみの単純な評価だけではなく,痛みの多面的評価が必要である.最近では,遺伝子解析やMRIなどの先進的な手法を用いてCPSPのリスクや病態を客観的に評価する試みがなされている.本稿ではCPSP対策の現状と今後の課題を中心に概説する.
著者
金澤 慧 野里 洵子 佐藤 信吾 髙橋 萌々子 入山 哲次 三宅 智
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.119-122, 2022-06-25 (Released:2022-06-25)
参考文献数
13

II型呼吸不全を合併した下咽頭がんの患者に,ヒドロモルフォンを投与したところ重大な呼吸抑制を認めた症例を経験したため報告する.症例は,下咽頭がんによる左頚部リンパ節転移,左肩甲骨転移,肺転移,肝転移を認める77歳男性.痛みと呼吸困難の症状緩和目的で緩和ケア病棟へ入棟した.ヒドロモルフォン経口徐放性製剤4 mg/日導入後,重大な呼吸抑制が生じた.ナロキソン投与にて呼吸状態は改善し,以降オピオイドの使用を控えることで呼吸抑制は認めなかった.呼吸不全や肝腎機能等の臓器障害の合併症のある終末期の患者では,全身状態をより慎重に評価し,薬物代謝能力の低下による生体内利用率の増加等を考慮して,投与量や投与方法を注意深く検討する必要があると考える.
著者
前島 英恵 北原 雅樹
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.184-187, 2020-06-25 (Released:2020-06-30)
参考文献数
6

認知症は慢性疼痛の症状や治療に大きく影響するため,早期に気づき介入することが必要である.痛みの訴えによってペインクリニック外来を訪れる患者のなかには,痛みが実は認知症のために表れている症状の一つに過ぎず,本当の問題は認知症であるということがある.今回,睡眠障害を伴う難治性の背部痛として当科を紹介受診し,軽度のparkinsonismや幻覚,強い抑うつの存在からレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)の診断に至った1症例を経験した.診断後はDLBに対する薬物治療,認知機能に影響を及ぼす可能性のある鎮痛薬の整理のほか,今後予想される生活機能の低下への福祉的対応が必要であった.DLBは多彩な症状(認知機能低下以外に睡眠行動異常やparkinsonism,幻覚など)があるものの,アルツハイマー型認知症(Alzheimer's disease:AD)のように早期から記憶障害が前面に出現せず,疑わなければ気づきにくい.認知症の存在に気づくためには,認知症に関する知識の習得や高齢者に対する積極的な認知機能検査が必要である.
著者
阿瀬井 宏佑 佐藤 仁昭 本山 泰士 上嶋 江利 高雄 由美子 溝渕 知司
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.27-31, 2020-02-25 (Released:2020-03-04)
参考文献数
12

オピオイド鎮痛薬は非がん性痛患者の痛みを和らげるが,オピオイド誘発性便秘(opioid induced constipation:OIC)が生じる.OICに対しては緩下剤で治療を行うが,治療に難渋することがある.非がん性痛患者では,がん性痛患者に比べ,オピオイドやOICに対する治療薬の投与期間が長くなることが考えられるため,副作用や経済的負担を考慮する必要がある.今回,これまでの緩下剤治療では排便コントロールが困難な非がん性痛患者で,ナルデメジンを新しく使用開始したことによる効果,副作用および費用について後ろ向き観察研究を行った.症例数は36症例(男性17症例,女性19症例)であった.便秘が改善したのは33症例(92%),改善なしが3症例(8%)であり,26症例(72%)は併用していた他の緩下剤を減量あるいは中止できた.17%で一過性下痢,8%で軟便がみられたが重篤な副作用は認めなかった.患者が負担する緩下剤内服にかかる費用については,ナルデメジン開始前は1カ月あたり平均1,148円であったが,開始後は同6,102円と5.3倍に増加した.