著者
熱田 淳 渡邉 恵介 藤原 亜紀 篠原 こずえ 川口 昌彦 橋爪 圭司
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.529-533, 2016 (Released:2016-11-04)
参考文献数
5

脳脊髄液漏出症の診断において,CT myelography(CTM)の硬膜外造影剤貯留像は精度が高く有用であるが,漏出点を特定することはできない.今回,dynamic myelography(DM)を用いてCTMを行い,漏出点の検出を試みた.脳脊髄液漏出症疑いの4症例に対し,計5回のDMを用いたCTMを行った結果,5回のDMのうち3回では,造影剤がくも膜下腔から硬膜外腔に流出し始める部位を確認することができ,漏出点を特定しえた.他の2回では漏出点は特定できなかったが,漏出点の範囲を限定することが可能であった.脳脊髄液漏出症の漏出点検出にdynamic myelographyが有用である可能性がある.
著者
住谷 昌彦 宮内 哲 前田 倫 四津 有人 大竹 祐子 山田 芳嗣
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-10, 2010-01-25 (Released:2010-08-04)
参考文献数
53
被引用文献数
3

四肢切断後に現れる幻肢痛をはじめとする神経障害性疼痛の発症には末梢神経系と脊髄での神経系の異常興奮とその可塑性に加え,大脳を中心とした中枢神経系の可塑性が関与していることが,最近の脳機能画像研究から確立しつつある.本稿では,幻肢痛を含む病的疼痛全般は脊髄よりも上位の中枢神経系に由来するというわれわれの持論から,まず幻肢の感覚表象について概説し,続いて幻肢の随意運動の中枢神経系における制御機構から「幻肢が中枢神経系にとって健常肢として存在すれば幻肢痛が寛解する」という仮説を提案する.この仮説を,われわれが行っている鏡を用いて幻肢の随意運動を獲得させることによる臨床治療(鏡療法)から検証し,鏡療法の有効性と限界,そして今後の幻肢痛および神経障害性疼痛に対する新規神経リハビリテーション治療の可能性について概説する.
著者
杉浦 健之 徐 民恵 幸村 英文 平手 博之 藤田 義人 薊 隆文 伊藤 彰師 笹野 寛 祖父江 和哉
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.384-387, 2011 (Released:2011-10-10)
参考文献数
12

プラミペキソールの服用後に有痛性下肢運動障害疾患が軽快した症例を報告する.患者は60歳代の男性で,右膝関節の再置換術後から右足趾(第2~5)に痛みと不随意運動が発現した.足趾の痛みは,持続性で歩行時に増強していた.不随意運動は,安静時に足趾内転位を示すジストニアと,1-2 Hzの不規則な持続性の振戦であった.下肢遠位側の病変で,痛みと不随意運動を特徴とする“痛む脚と動く足趾症候群”を疑ったが,確定診断には至らず,有痛性運動障害疾患として取り扱った.仙骨硬膜外ブロックとプラミペキソールの内服後に,足趾の痛みと不随意運動は軽減した.プラミペキソールを増量後に,不随意運動はほぼ消失し,歩行が円滑にできるようになった.その後は,坐骨神経ブロックを隔週に行い,プラミペキソールの内服を継続している.下肢静止不能症候群の治療薬であるプラミペキソールは,本症例のような有痛性下肢運動障害疾患にも効果がある可能性がある.
著者
谷口 奈美 前田 愛子 冨永 昌周
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.534-537, 2016 (Released:2016-11-04)
参考文献数
12

原発性肢端紅痛症(primary erythromelalgia:PE)は,四肢末端の灼熱痛,発赤,皮膚温上昇を三徴とする難治性臨床症候群である.現状では確立した治療法はない.今回,PEの治療を経験したので報告する.症例は54歳,女性.10年前より温熱刺激による四肢末端の痛み,発赤,灼熱感を自覚するようになった.冷却により一時的に改善したが,痛み制御不良のため紹介受診となった.1日に20回程度の発作的な四肢末端の激しい痛みが出現し,睡眠障害を生じていた.自己免疫疾患,血液疾患は否定され,その症状からPEと診断した.治療は,星状神経節ブロックを施行し,症状の著明な改善がみられた.その後,α1アドレナリン受容体拮抗薬の内服を継続し,症状の改善を維持している.過去の文献から,PEは後根神経節,交感神経節やこれらの末梢神経のナトリウムチャネルの変異があると報告されている.この変異は痛みの感受性変化や血流障害を誘起し,また付随的な局所の発痛物質放出を招き,痛みを遷延化する可能性がある.本症例では交感神経遮断治療が奏効したことから,PEの病態に対する交感神経系の関与が示唆された.
著者
荻野 祐一 根本 英徳 斉藤 繁 後藤 文夫 乾 幸二 柿木 隆介
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-6, 2008-01-25 (Released:2011-12-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1

痛みは不快な感覚であるが,同時に主観的な感情である.新しいニューロイメージングにより,痛みの感情と,それが痛覚認知に与える影響が科学的に明らかになってきた.本稿では,それらについて最近の私たちの研究成果を中心に紹介する.近年,侵害刺激に反応して活動する大脳皮質領域,いわゆる痛み関連脳領域が明らかとなったが,実際に痛み刺激が与えられなくても,痛みをイメージした時には類似の脳部位が活動するという仮説を実証するため,私たちは痛そうな写真(注射をされている写真など)を被験者に見せて,機能的MRI(fMRI)で脳活動を計測した.その結果,第二次体性感覚野,島,帯状回といった痛覚認知に関与する脳領域の血流が有意に上昇する事を発見した.また,瞑想中には痛みをまったく感じないというヨガの達人では,瞑想中に痛覚刺激を与えたときの脳磁図とfMRIの計測では,痛み関連脳領域の活動が著しく減弱していた.このように,痛みの感情により生じる脳活動は,痛み関連脳領域の主要活動を占めており,暗示や瞑想などにより,侵害刺激による痛み関連脳領域の活性化と抑制が起こり,痛覚認知が強く影響されていることが明らかとなった.
著者
中村 好美 田辺 久美子 金 優 吉村 文貴 山口 忍 紙谷 義孝
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.30, no.7, pp.174-177, 2023-07-25 (Released:2023-07-25)
参考文献数
11

機能性身体症状は「症状の訴えや,苦痛,障害が,確認できる組織障害の程度に比して大きい」と定義される疼痛症候群である.今回,COVID-19ワクチン接種を契機に機能性身体症状が出現した2症例を経験した.1症例は複合性局所疼痛症候群の判定基準を満たしていた.ワクチン接種による機能性身体症状の発症メカニズムは未だ十分に解明されていないが,今回の2症例は,COVID-19ワクチンによる経験したことのない発熱や痛み,副反応による不動化,不安やうつ状態などの心理的因子が合わさり,機能性身体症状を発症したものと考えた.それぞれの病態にあわせた集学的治療や社会復帰への支援を行い,患者の回復へつなげることができた.
著者
藤井 知昭 三浦 基嗣 長谷 徹太郎 敦賀 健吉 森本 裕二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.36-39, 2019-02-25 (Released:2019-03-12)
参考文献数
14

複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)はアロディニアを伴うことが多い.アロディニアは慢性痛患者の生活の質を損ねるだけでなく,治療に難渋することも多い.抑肝散は動物実験において抗アロディニア作用を有することが示されている.今回,抑肝散の内服継続が困難なCRPS症例に対して七物降下湯を投与したところ,抑肝散と同様の抗アロディニア作用が得られた.七物降下湯は,抑肝散の抗アロディニア作用の中心的生薬と考えられる釣藤鈎を含んでおり,抑肝散と同様の抗アロディニア作用を有する可能性がある.
著者
光畑 裕正
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.2-9, 2014 (Released:2014-03-12)
参考文献数
34

局所麻酔薬のアナフィラキシーの頻度は非常に少ないものの,発症すれば死に至ることもある.局所麻酔薬のアナフィラキシーについて,その機序と臨床症状を概観し,アナフィラキシーの治療を述べた.アレルギー反応では,遅延型アレルギー性皮膚炎が約80%と頻度は高く,アナフィラキシーは約1%程度とされている.局所麻酔薬使用時のアナフィラキシーは局所麻酔薬やバイアル瓶に含まれている保存薬,ラテックスが抗原となる.アナフィラキシーは迅速に診断し,治療をできるだけ早期に始めることが,治療を成功させる鍵であり,現在広く使用されている診断基準を示した.また,アナフィラキシー治療の第一選択薬は酸素,補液,アドレナリンである.局所麻酔薬使用時にアナフィラキシーが発症したときには,原因薬物の同定は臨床上必須のことである.局所麻酔薬を頻用するペインクリニック医師は,頻度が少ないといえどもアナフィラキシーの治療には習熟しておく必要がある.
著者
長谷川 丈 杉山 大介 熊坂 美紀子 菱沼 美和子 松尾 公美子 井出 壮一郎 田中 聡 鬼頭 剛
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.144-149, 2008-05-25 (Released:2011-12-01)
参考文献数
10
被引用文献数
3

「電流知覚閾値(患者が感じる最小電気刺激量)」と「痛み対応電流値(痛みと等価の電流量)」から「痛み度」を数値化する知覚・痛覚定量分析装置ペインビジョンTMが開発された.疼痛治療の評価におけるペインビジョンの有用性を,治療により疼痛が軽減した16症例(疼痛低下群)と疼痛が軽減しなかった9症例(疼痛不変群)の合計25症例で,視覚的アナログ疼痛スケール(VAS)で評価した痛みの程度(VAS値)との関係から検討した.疼痛低下群では,治療後にVAS値,痛み対応電流値,痛み度は有意に低下し,電流知覚閾値は有意に上昇した.疼痛不変群では,VAS値,痛み対応電流値,痛み度は有意に変化せず,電流知覚閾値は有意に低下した.VAS値と最も強い相関を示したのは痛み度であった.以上より,疼痛の治療前後にペインビジョンで評価することで,痛みという主観的な感覚の変化を,痛み度という数値の変化として表現できることが示された.
著者
植松 弘進 安田 哲行 田渕 優希子 真下 節 下村 伊一郎 柴田 政彦
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.102-106, 2013 (Released:2013-07-06)
参考文献数
13
被引用文献数
1

オピオイド長期投与中,内分泌機能低下症をきたした症例を経験した.症例は51歳男性で交通外傷による末梢神経障害を伴う左下肢複合性局所疼痛症候群の診断にて,受傷1年後より加療中であった.当初行われた投薬・神経ブロック等により痛みはコントロールでき,職場復帰していた.残存する痛みに対し受傷3年後より塩酸モルヒネによる内服加療を開始し痛みは軽減されたが,同時期より性欲低下の自覚症状が出現した.受傷7年後にはフェンタニル貼付剤へと変更し痛みのコントロールはさらに良好となったが,変更後数カ月で急激な体重減少(合計-24㎏)をきたし,変更後半年で強い全身倦怠感と食欲不振も出現し就労不可能となった.内分泌機能異常を疑い行ったホルモン負荷試験等の結果より,オピオイドによる続発性副腎機能低下症および中枢性性腺機能低下症と診断された.痛みのためにオピオイドを完全に中止できなかったため,トラマドール内服へと変更しホルモン補充療法を行った.ホルモン補充療法開始後は全身倦怠感等の自覚症状は改善した.このエピソードをきっかけに抑うつ状態となり職場復帰は果たせていないものの約9カ月で体重も回復した.
著者
玉川 隆生 林 摩耶 樋田 久美子 米川 裕子 深澤 正之 安部 洋一郎
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.41-44, 2016 (Released:2016-03-06)
参考文献数
9

腹部片頭痛は国際頭痛分類で小児片頭痛に分類されており,小児に発症することが多い疾患である.成人例も報告されているが,症例数が少ないためあまり認知されていない.そのため,診断や治療に難渋することがある.今回われわれは,国際頭痛分類の診断基準に準じて腹部片頭痛と診断し,発作痛に対してトリプタン・インドメタシンが著効して,バルプロ酸が発作予防に効果的であった成人例を経験した.成人腹部片頭痛はまれな疾患ではあるが,その症状は特異的で小児腹部片頭痛の診断基準を用い,発作に関する問診,他疾患の否定により診断が可能な疾患である.また,その治療は片頭痛の治療に準じて行うことで効果が期待できると考える.
著者
田渕 優希子 安田 哲行 北村 哲宏 大月 道夫 金藤 秀明 井上 隆弥 中江 文 松田 陽一 植松 弘進 真下 節 下村 伊一郎 柴田 政彦
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.17-23, 2013 (Released:2013-03-22)
参考文献数
38

近年,非がん性慢性痛に対するオピオイド処方の選択肢が広がったことにより,オピオイドによる内分泌機能異常発症に留意する必要性がある.内分泌機能異常としては性腺機能低下症が最も多いが,副腎機能低下症や成人GH(成長ホルモン)分泌不全症の報告例も散見される.これらの内分泌機能異常は単に患者のQOLを低下させるのみならず,さまざまな代謝異常,臓器障害を呈し,時に生命の危機にかかわる病態へと進展することもある.現時点で,これらの内分泌機能異常がどのような患者に惹起されやすいかは明らかではなく,また内分泌異常の診断も必ずしも容易ではない.しかし,これらの内分泌機能異常はオピオイドの減量,中止,あるいは非オピオイド系鎮痛薬への変更,ホルモン補充療法により改善可能な病態であることから,オピオイド投与中の患者において決して見逃してはならない副作用の一つと考えられる.オピオイドによる内分泌機能異常について基礎医学的および臨床医学的見地から解説する.
著者
木下 真佐子 橋爪 圭司 渡邉 恵介 林 浩伸 古家 仁
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.475-481, 2012 (Released:2012-11-16)
参考文献数
22
被引用文献数
1

【目的】髄液漏出の検出にRI脳槽造影やCT脊髄造影が用いられるが,両者の直接比較はない.国際頭痛分類基準を満たす特発性低髄液圧性頭痛18症例で両検査の所見を比較した.【方法】対象は男/女=8/10,平均年齢41.7歳,特に誘因なく典型的な起立性頭痛を発症し,造影脳MRIにて全周性硬膜増強を認め,硬膜外自家血パッチで治癒し,特発性低髄液圧性頭痛と診断された.RI脳槽造影は腰椎穿刺してインジウム111を投与し経時的にカウントし,CT脊髄造影はイオヘキソール10 mlを髄腔内注入し全脊椎CTを撮影した.【結果】RI脳槽造影で間接所見(早期膀胱集積,上行遅延)は全症例でみられたが,直接所見(傍脊椎集積)は12症例(検出率67%)であった.CT脊髄造影では,傍脊椎集積を認めなかった6症例を含め全症例で造影剤の硬膜外貯留を認め,その部位は主に頸・胸椎であった.RI脳槽造影は,腰・仙椎の正常神経根鞘を検出した場合があった.【結論】CT脊髄造影による硬膜外貯留の証明は,現に今,漏出している髄液瘻の存在を意味する.典型的な髄液漏出の診断には,RI脳槽造影よりもCT脊髄造影が鋭敏であった.
著者
清水 雅子 田中 益司 野村 正剛 宮田 妙子 今中 宣依
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.511-514, 2014 (Released:2014-11-07)
参考文献数
12

64歳,女性.右肩関節骨折に対して保存的に加療された.画像上頸椎や肩関節に異常はないが,頸部,肩部,前胸部,背部など全身の広範囲に痛みが遷延し,非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) やプレガバリンは無効で当科を紹介受診した.血液検査の各種自己抗体は陰性で,アメリカリウマチ学会線維筋痛症分類基準を満たした.アミトリプチリンとコデインの内服で頸部から肩の痛みは軽減したが,前胸部と背部に中等度の痛みが持続した.同部位の痛みは肩の受傷以前から存在したことがわかり,右胸鎖関節部の軽度肥厚を確認した.X線,CT,MRIの骨肥厚像,骨シンチグラフィーのbull's head signからSAPHO症候群を診断した.アレンドロネートの内服を開始すると痛みは著明に低下し,線維筋痛症分類基準を満たさなくなった.初診4カ月後に足部に皮診が出現し,皮膚科で掌蹠膿疱症を診断された.本症例は初診時に皮膚症状がなく,痛みは広範で肩受傷との関連を疑われたが,詳細な診察と画像検査を行うことでSAPHO症候群を診断するに至り,薬物療法で症状の寛解を得た.
著者
日本ペインクリニック学会用語委員会 西江 宏行 長櫓 巧 有田 英子 表 圭一 鈴木 孝浩 寺井 岳三 中谷 俊彦 藤井 善隆 森脇 克行
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.505-508, 2009-09-25 (Released:2011-09-01)
参考文献数
12

Painは,日本ペインクリニック学会用語集第2版で痛み,疼痛と和訳されているが,日本ペインクリニック学会用語委員会では第3版編集にあたりpainの訳語を,現代と過去の国語辞典,英和辞典,医学辞典,日中辞典,痛みに関する論文を調べ,再検討した.現代と過去の国語辞典は,「痛み」と「疼痛」を区別しており,「疼痛」とは疼く痛みのことであり,「痛み」の中のごく一部を意味すると定義されている.Painの訳語は,現代の主な英和辞典では,苦痛,苦しみ,痛みなどが記載されており,過去の英和辞典でも,主に痛,痛みと記載されており,疼痛という訳語は記載されていない.これに対して医学辞典では過去と現代ともに,ほとんどがpainの訳語を「痛み,疼痛」と記載し,「痛み」と「疼痛」を同義語としている.中国語では「疼:teng」「痛:tong」「疼痛:tengtong」は,ほぼ同じ意味である.用語委員会ではpainの訳語が医学界と一般社会で違いがあるのは望ましくないと考え,第3版のpainの和訳として「痛み」あるいは「痛」が適切であると結論し,ただ,疼痛がすでに定着した言葉になっているので,「疼痛」も併記することになった.
著者
岡崎 良平 難波 宏好 吉田 広幸 岡井 恒 河村 稔
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.407-413, 2008-09-25 (Released:2011-12-01)
参考文献数
24

目的:ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン®,以下NTP)と疼痛疾患治療に使われる非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)および抗うつ薬の抗アロディニア作用を比較した.また,NTPとミルナシプランの併用効果についても検討した.方法:9週齢Wistar系雄性ラットを用い,麻酔下でL5脊髄神経の後根神経節末梢側を結紮した.手術28日後に薬物を経口投与し,機械刺激性アロディニアを測定した.NTPとミルナシプランの30%有効用量を求め,アイソボログラムにより併用効果を評価した.結果:NTPは400 NU/kgでアロディニアを抑制した.NSAID(ロキソプロフェン)およびCOX-2選択的阻害薬(セレコキシブ)は100 mg/kgで抑制しなかった.抗うつ薬であるSNRI(ミルナシプラン)は100 mg/kgでアロディニアを抑制したが,SSRI(パロキセチン)は10 mg/kgで抑制しなかった.NTPとミルナシプランとの併用により相加効果が認められた.結論:神経障害性疼痛に対してNTPはSSRIおよびNSAIDより有効であり,NTPとSNRIの併用が有用であることが示唆された.
著者
境 徹也 澄川 耕二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.21-24, 2010-01-25 (Released:2010-08-04)
参考文献数
13

虚偽性障害は,身体的・心理的症状または徴候を意図的に作り出す疾患であり,特に身体的症状と徴候の優勢なものはミュンヒハウゼン症候群と呼ばれる.われわれは複合性局所疼痛症候群(CRPS)様症状をきたしたミュンヒハウゼン症候群患者を報告する.患者は47歳の男性であった.腰椎椎間板術後の腰下肢痛と歩行不能を訴え,車椅子で当科へ紹介受診となった.腰椎のMRIで,明らかな異常はなく,院外では普通に歩行していた.その後,咽喉頭部違和感,腹部不快感,上顎痛,発熱など多彩な身体症状を次から次へと訴えていたが,検査で異常はなかった.8カ月後に,右肘部管症候群に対する尺骨神経移行術後に,右腕の腫脹が出現し,CRPSが疑われた.13カ月後に,腹部不快感を訴え,腹部CTにて腸管内に金属異物が発見された.40カ月後に,右腕の腫脹が著明になり,右上腕がバンドで強く締め付けられているのが発見された.医療スタッフは早期にこの病態を認識し,この病的行動により混乱させられないことが重要である.
著者
安部 伸太郎 原賀 勇壮 比嘉 和夫 楠本 剛 重松 研二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.506-510, 2014 (Released:2014-11-07)
参考文献数
6

【目的】使い捨て注射器は,プランジャー(押し子)と注射器内側が接する部位があり,注射器内側が汚染する可能性がある.プランジャーの往復回数と使い捨て注射器内側の汚染の程度を検討した.【方法】菌液塗布群5本,対照群5本の計10本の20 ml使い捨て注射器で実験を行った.滅菌した液体培地を最大目盛の25 ml吸引し,プランジャーの突出部に菌液を塗布し,液体培地をすべて排出するという操作を,注射器1本につき10回繰り返した.対照群では,菌液ではなく滅菌した液体培地を塗布して同様の操作を行った.排液25 mlのうち0.1 mlを培養し,菌数を計測した.【結果】菌液塗布群では,1回目の排液に菌が含まれていた使い捨て注射器は1本,2回目では0本,3回目では3本,4回目では4本,5回目以降では5本すべての使い捨て注射器の排液から菌が検出された.使用回数の増加とともに排液中の菌数が増加した.対照群では,1本の使い捨て注射器で9回目の排液から菌が1個検出され,それ以外の検体からは菌は検出されなかった.【結論】使い捨て注射器のプランジャーが汚染された状態で往復運動を繰り返すと,注射器の内側が汚染され,使用回数が増えると汚染の程度は増加する.