著者
石黒 直樹 原田 紀子 江端 望 藤井 幸一
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.8-14, 2020-02-25 (Released:2020-03-04)
参考文献数
48

変形性関節症の痛みについて,患者には「関節軟骨が剥がれて,むき出しになった骨が擦れて痛い」「骨棘がぶつかるから痛い」と説明されることが多いと思われるが,実際はそれ以上に複雑である.もちろん,骨や軟骨,関節周囲の支持組織の構造変化は痛みの原因になり得るが,変形性関節症の痛みには,滑膜炎や軟骨・半月板内側などの無神経野への神経伸長,中枢性/末梢性感作や下行性疼痛抑制系の異常など,さまざまな要素が関連している.これらの要素は,密接にかかわりながらもそれぞれ独自の機能を有するため,独自に異常をきたし得る.つまり,変形性関節症の痛みは,非常に複雑かつ病期や患者個人によって痛みの主因がさまざまであるため,異常をきたしている要素に応じた治療が求められる.超高齢社会を迎えるにあたり,われわれ医療従事者が変形性関節症患者の診療を行う機会はさらに増えていくと思われる.変形性関節症の痛みに対するテーラーメイドの治療を実現するには,まず変形性関節症で起きている変化や痛みの原因について,深く理解することが重要である.
著者
長谷川 麻衣子
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.301-307, 2017-10-25 (Released:2017-11-08)
参考文献数
27

炎症は,生体侵襲が加わった際に恒常性を維持するための,防御反応である.一方,痛みはさらなる侵襲を回避し治癒のために安静を促す,警告的な感覚である.炎症性疼痛は,炎症によって組織の侵害受容器が刺激を受けて生じる痛みであり,痛みの神経学的分類では侵害受容性疼痛に含まれる.術後早期の創部痛のほか,筋膜や筋・骨格,内臓の炎症など,しばしば原因の除去が困難な慢性炎症を背景とする病態に伴うことが多い.このように“長期化する痛み”という前提で鎮痛の着地点を模索する場合,炎症性疼痛へのアプローチは,生体防御に不可欠な炎症反応と鎮痛を両立させるという,相反する介入を繰り返すことといえる.NSAIDs,オピオイド,局所麻酔薬などの鎮痛薬は抗炎症・免疫抑制作用を有するものが多く,鎮痛目的で炎症を抑えてしまうことにより炎症・治癒過程が遷延し,逆に痛みが慢性化する可能性が示唆されている.炎症性疼痛に用いる麻酔・鎮痛薬の作用機序と,鎮痛以外の薬理作用に関する最近の知見から,痛み以外のアウトカムについて概説する.
著者
辛島 裕士
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.308-317, 2017-10-25 (Released:2017-11-08)
参考文献数
39

transient receptor potential(TRP)チャネルは,さまざまな部位に発現し,多岐にわたる生体機能に関与する.そのうち,一次求心性侵害受容線維終末に発現が多くみられるTRPA1は,痛みに関係するチャネルとして研究が進んでいる.TRPA1は,多様な外因性の刺激物質によって活性化されて急性痛を起こすだけでなく,炎症に関与する内因性物質によっても活性化される.さらに炎症時には発現量の増加や,細胞表面への移動がみられることより,TRPA1は炎症性疼痛にも大きく関与する可能性が考えられている.TRPA1チャネル活性化による炎症性疼痛の増強は,臨床でよく用いられている麻酔薬でも認められることが報告されており留意する必要がある.最近,TRPA1の発現は,一次求心性線維の末梢側だけでなく中枢側にもみられ,中枢側でのTRPA1チャネル活性化は発痛ではなく,逆に鎮痛となる可能性が示された.このことも考慮に入れたうえで,TRPA1をターゲットにした鎮痛薬創薬に期待したい.
著者
秋元 望 本多 健治 松本 恵理子 川田 哲史 右田 啓介 牛島 悠一 高野 行夫
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.478-484, 2010-09-25 (Released:2010-10-06)
参考文献数
14
被引用文献数
1

目的:神経障害痛の発症機序にミクログリア細胞の関与が示唆されている.ミクログリア細胞の活性は抗生物質ミノサイクリンで抑制されることが報告されているので,神経障害痛発現に対するミノサイクリンの抑制効果を検討した.方法:神経障害痛モデルはマウスの坐骨神経を部分結紮し,作製した.痛みの強さはvon Frey フィラメント刺激に対する痛み様行動をスコア化し,評価した.脊髄グリア細胞の変化は,免疫組織染色法とウエスタンブロット法により検討した.結果:坐骨神経部分結紮後,結紮側で痛みスコアが上昇(アロディニア発現)し,脊髄ミクログリアの発現量が増加した.ミノサイクリンを結紮前(20 mg/kg)とその後7日間(20 mg/kg/日)の反復投与によりアロディニアの発症と脊髄ミクログリアの発現量が抑制された.ミノサイクリンを結紮3日後から7日間(20 mg/kg/日)の投与により,アロディニアの発現は一部抑制されたが,ミクログリアの発現量は抑制されなかった.結論:神経障害痛に対してミノサイクリンは有効であり,その作用機構に脊髄ミクログリア細胞の活性の抑制が一部関与することが示唆された.
著者
石井 正和 加藤 大貴 山田 智波 高木 麻帆 市川 瑞季 栗原 竜也 河村 満
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.83-87, 2015 (Released:2015-06-26)
参考文献数
17
被引用文献数
1

【目的】片頭痛患者の,震災時におけるお薬手帳の有用性に関する認知度,および災害への備えに関する現状を明らかにする.【方法】片頭痛患者を対象にアンケート調査を実施した.【結果】回収率は67.5%(77/114名)であった.東日本大震災時に,処方や代替薬の選択などに際しお薬手帳が役立ったことを61.0%の患者は知らなかった.震災に備えて,66.2%の患者は常に予備の内服薬を持ち歩いていたが,お薬手帳を常に携帯している,あるいは緊急時すぐに持ち出せる場所に保管しているとの回答は,それぞれ20.8%,16.9%であった.【結論】平常時から,患者に薬剤の管理方法と災害時の対応を十分に指導し,患者個人の危機管理意識を高める必要があることが明らかとなった.
著者
福井 弥己郎 岩下 成人
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.469-477, 2010-09-25 (Released:2010-10-06)
参考文献数
39
被引用文献数
1

痛みは不快な感覚・情動を伴う主観的体験であり,そのとらえ方はヒトによって大きく異なることから,客観的評価を行うことが困難であった.近年,画像医学の技術進歩に伴い,ポジトロン放出断層撮影(PET),機能的磁気共鳴画像(fMRI),核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)をはじめとする機能的画像診断法が確立し,痛みの脳内機構に関してさまざまな知見が明らかにされている.また,機能的画像診断法のみならず,3D-MRIを応用したvoxel-based morphometry(VBM)によって脳内組織の容積を直接測定する形態学的画像診断法も確立されつつある.これらの研究から,慢性痛患者では痛みの認知面,情動面に関与する部位の神経化学的・解剖学的・機能的変化が深く関与していることが示唆されている.これらの画像診断法をもとに明らかにされてきた痛みに関するさまざまな研究とその成果について概説する.
著者
林 伸治 高薄 敏史 山口 重樹
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.28, no.12, pp.245-252, 2021-12-25 (Released:2021-12-25)
参考文献数
41

オピオイドクライシスは,トランプ大統領が,公衆衛生上の非常事態宣言を出したことで広く知られるようになった.その始まりは,疼痛で苦しんでいる患者をなんとかしたいという善意であったが,グローバル化に取り残された社会環境を背景に,政策転換を悪用した製薬会社による安全性軽視の積極的なプロモーションにより,クライシスが拡大した.日本においては,まだ,オピオイドクライシスは起こっていないが,楽観視はできない.また,がん治療の進歩にともなって,がんサバイバーは増加していることからも注意は必要である.一度オピオイドクライシスが発生すると,終息させるのは至難の業である.そうならないため,オピオイド療法にかかわる全ての関係者が,適正使用に向け協力していくことが求められている.
著者
友田 明美
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-7, 2020-02-25 (Released:2020-03-04)
参考文献数
23

近年,児童虐待と「傷つく脳」との関連が脳画像研究からわかってきた.例えば,暴言虐待による「聴覚野の肥大」,性的虐待や両親のDV目撃による「視覚野の萎縮」,厳格な体罰による「前頭前野の萎縮」などである.虐待を受けて育ち,養育者との間に愛着がうまく形成できなかった愛着障害の子どもは,報酬の感受性にかかわる脳の「腹側線条体」の働きが弱いことも突き止められた.こうした脳の傷は「後遺症」となり,将来にわたって子どもに影響を与える.トラウマ体験からくるPTSD,記憶が欠落する解離など,その影響は計り知れない.しかし,子どもの脳は発達途上であり,可塑性という柔らかさをもっている.そのためには,専門家によるトラウマ治療や愛着の再形成を,慎重に時間をかけて行っていく必要がある.一連のエビデンスについて社会全体の理解が深まることで,大人が責任をもって子どもと接することができ,子どもたちの未来に光を当てる社会を築くことに少しでもつながればと願っている.
著者
岩元 辰篤 白井 達 森本 昌宏 岩崎 昌平 南 奈穂子 中尾 慎一
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.559-562, 2016 (Released:2016-11-04)
参考文献数
10

プレガバリン(PGB)を長期間継続投与中で,治療効果が不明瞭な症例において,投与中止が可能であるかにつき調査した.PGBを6カ月以上投与している11症例を対象とし,続行によってもさらなる改善がないと判断した場合,受診ごとに投与量を半減し,痛みが増強した場合には元の投与量に戻すこととして,25 mg/日まで減量が可能となった時点で中止とした.この結果,7例では減量後も痛みの程度に変化はなく中止が可能であったが,4例では減量あるいは中止により痛みが増強したために投与を継続した.以上,治療効果判定が不十分なままPGBを漫然と投与している症例があることが判明した.今後は,長期間投与を行っている症例では,漸減・中止を考慮すべきと考えられた.
著者
長谷川 丈 杉山 大介 熊坂 美紀子 菱沼 美和子 松尾 公美子 井出 壮一郎 田中 聡 鬼頭 剛
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
The journal of the Japan Society of Pain Clinicians = 日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.144-149, 2008-04-25
参考文献数
10
被引用文献数
7

「電流知覚閾値(患者が感じる最小電気刺激量)」と「痛み対応電流値(痛みと等価の電流量)」から「痛み度」を数値化する知覚・痛覚定量分析装置ペインビジョン<sup>TM</sup>が開発された.疼痛治療の評価におけるペインビジョンの有用性を,治療により疼痛が軽減した16症例(疼痛低下群)と疼痛が軽減しなかった9症例(疼痛不変群)の合計25症例で,視覚的アナログ疼痛スケール(VAS)で評価した痛みの程度(VAS値)との関係から検討した.疼痛低下群では,治療後にVAS値,痛み対応電流値,痛み度は有意に低下し,電流知覚閾値は有意に上昇した.疼痛不変群では,VAS値,痛み対応電流値,痛み度は有意に変化せず,電流知覚閾値は有意に低下した.VAS値と最も強い相関を示したのは痛み度であった.以上より,疼痛の治療前後にペインビジョンで評価することで,痛みという主観的な感覚の変化を,痛み度という数値の変化として表現できることが示された.
著者
村田 久行
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-8, 2011 (Released:2011-02-04)
参考文献数
9
被引用文献数
3

緩和医療の臨床で生の無意味,無価値,空虚などの苦しみを訴える終末期がん患者のスピリチュアルペインを「自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛」と定義して,それを人間存在の時間性,関係性,自律性の三次元から分析した.その結果,終末期がん患者のスピリチュアルペインを,将来の喪失(時間性),他者の喪失(関係性),自律性の喪失(自律性)から生じる苦痛であると解明し,この構造解明に基づきスピリチュアルケアの指針は,死をも超えた将来の回復,他者の回復,自律の回復にあることを示した.そして,終末期がん患者のスピリチュアルペインの緩和が患者の身体的苦痛の軽減に影響を与えることを示唆した.
著者
廣瀬 宗孝 助永 憲比古 岡野 一郎 岡野 紫 中野 範 恒遠 剛示 棚田 大輔 佐藤 和美 乾 貴絵
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.15-0039, (Released:2016-09-06)
参考文献数
43

慢性疼痛の発症とその持続には,中枢神経系の神経可塑性が重要であるが,血液における自然免疫の役割も注目されている.このため慢性疼痛の血液マーカーを見つける研究が行われており,脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)もその候補の一つである.末梢神経が損傷されると,炎症誘発期では中枢神経系のBDNFは増加し,抗炎症期になると低下すると考えられている.中枢神経系のBDNFは血液中に漏出するため,このような中枢神経系におけるBDNFの変化は血液中のBDNF濃度に反映するとの考えがある.しかし,われわれが行った慢性腰痛症患者の臨床研究では,抗炎症反応が増加すると血液細胞のBDNF遺伝子におけるエピジェネティックな変化で血清BDNF値は低下することが明らかとなり,BDNF値の低下と痛み症状の数の増加に相関関係が認められた.慢性疼痛患者の血中BDNF濃度は,その時々の自然免疫状態など他の因子との関係も鑑みることで血液マーカーとなる可能性がある.
著者
有川 智子 眞鍋 治彦 久米 克介 加藤 治子 武藤 官大 武藤 佑理
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.100-104, 2017 (Released:2017-07-03)
参考文献数
11

静脈穿刺による末梢神経障害は,時に痛みや感覚障害が長期に持続し,治療に難渋する.静脈穿刺に伴う末梢神経障害で受診した16例について,症例の背景,穿刺部位,症状,治療経過を診療記録より後ろ向きに検討した.対象は,女性14例,男性2例,21~79歳.穿刺部位は,肘皮静脈11例(正中5例,橈側4例,尺側2例),橈側皮静脈3例,前腕尺側静脈2例であり,初診時に14例が痛み,2例が違和感を訴えた.握力低下10例,アロディニア6例,冷覚鈍麻6例,腫脹3例,血腫2例があった.治療は薬物療法を13例,リドカイン点滴を8例,星状神経節ブロックを4例,持続硬膜外ブロックを2例で行った.転帰は軽快10例,治療中4例,転院2例であった.今回の調査では,静脈穿刺による末梢神経障害は報告が少ない肘部橈側静脈でも発生していた.末梢神経と静脈の走行と神経損傷の知識の普及が重要である一方,どの部位でも起こりうることから,末梢神経障害を疑った場合にはただちに抜針・止血し,早期より治療を開始するよう啓発する必要がある.
著者
滝本 佳予 西島 薫 森 梓 金 史信 小野 まゆ
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.8-11, 2016 (Released:2016-03-06)
参考文献数
13

全身の痛みを中心とする多彩な症状を訴え心因性多飲を合併する患者に対し,薬物療法・認知行動療法と併せて行った,患者の語りの傾聴と対話を重視した診療が有用であった1例を報告する.症例は68歳の女性,全身の痛みを訴えて当科を紹介受診した.併存合併症として心因性多飲による低ナトリウム血症と意識混濁,むずむず脚症候群,過敏性腸症候群,睡眠障害,失立失歩があり,ドクターショッピングを長年続けた後の受診であった.患者の語りの傾聴と対話により,まず心因性多飲が改善した.次いで痛みの訴えを線維筋痛症・中枢感作性症候群と診断し薬物療法・認知行動療法を実施したところ,ドクターショッピングをやめ症状も軽減した.“説明不能な”痛みの訴えはペインクリニックではたびたび遭遇する.器質的原因が明確ではない疾患の症状を一元的にとらえ,診断治療を行う役目を果たすためには,患者との語り合いにも問題解決への可能性があることが示唆された.
著者
松木 悠佳 石本 雅幸 塩浜 恭子 溝上 真樹 重見 研司
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.123-126, 2015 (Released:2015-06-26)
参考文献数
12
被引用文献数
3

【目的】プレガバリンはさまざまな神経障害痛に対して有効であるが,眠気,めまい,末梢性浮腫などの副作用も多く報告されている.今回,プレガバリンを投与された神経障害痛患者で,副作用が認められた症例の危険因子を後ろ向きに検討した.【方法】当科でプレガバリンを処方された神経障害痛患者を,電子カルテ記録から後ろ向きに抽出した.プレガバリンによる副作用が出現した群(副作用群)と副作用が出現しなかった群(非副作用群)の2群に分類し,年齢,性別,BMI,プレガバリン投与量,副作用出現までの期間,プレガバリン投与前後におけるVAS,eGFR,血清アルブミン値,血清クレアチニン値,血清尿素窒素値,血清カリウム値を比較した.【結果】解析対象患者100名のうち副作用が出現した患者は28名であった.単変量解析では,eGFRが非副作用群に比べ副作用群で有意に低く,血清カリウム値が非副作用群に比べ副作用群で有意に高かった.多変量解析では,血清カリウム値が高値であることが独立した危険因子であった.【結論】プレガバリンを投与される神経障害痛患者において,副作用の発生には血清カリウム値も参考にするべきことが示唆された.
著者
千葉 知史 中本 達夫 飯嶋 千裕 綿引 奈苗 伊達 久
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.288-296, 2019-10-25 (Released:2019-11-08)
参考文献数
36

超音波ガイド下神経ブロックは,神経とその周辺組織,ブロック針や注入薬液などをリアルタイムに描出できる安全確実な手技として普及しつつある.通常透視下で行われていた仙腸関節ブロックも超音波ガイド下に行われることが多くなってきた.仙腸関節ブロックとは,仙腸関節障害症例に診断的・治療的目的に行われる手技である.仙腸関節ブロックは,仙腸関節内注入と後仙腸靱帯内注入の2種類に大別できるが,それらの方法の成功率や注入時の放散痛の研究,カダバーを用いた仙腸関節知覚枝の解剖の知見などから後仙腸靱帯内注入が確実で効果が高い方法として推奨されている.仙腸関節知覚枝は,posterior sacral network(PSN)という神経叢から分枝するが,PSNはS1,S2,S3の後枝外側枝に由来することが多い.S1,S2,S3後枝外側枝は,同名の後仙骨孔の外側に存在する外側仙骨稜を横切るように走行するため,同部位を穿刺目標とすると効果的なブロックとなる.神経ブロック的手技のなかで比較的浅い位置でのブロックであり周囲に動脈や重要臓器などの組織も存在しないため,腰下肢痛症例の診療に積極的に導入してもよいと思われる.
著者
廣瀬 宗孝 助永 憲比古 岡野 一郎 岡野 紫 中野 範 恒遠 剛示 棚田 大輔 佐藤 和美 乾 貴絵
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.507-515, 2016 (Released:2016-11-04)
参考文献数
43

慢性疼痛の発症とその持続には,中枢神経系の神経可塑性が重要であるが,血液における自然免疫の役割も注目されている.このため慢性疼痛の血液マーカーを見つける研究が行われており,脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)もその候補の一つである.末梢神経が損傷されると,炎症誘発期では中枢神経系のBDNFは増加し,抗炎症期になると低下すると考えられている.中枢神経系のBDNFは血液中に漏出するため,このような中枢神経系におけるBDNFの変化は血液中のBDNF濃度に反映するとの考えがある.しかし,われわれが行った慢性腰痛症患者の臨床研究では,抗炎症反応が増加すると血液細胞のBDNF遺伝子におけるエピジェネティックな変化で血清BDNF値は低下することが明らかとなり,BDNF値の低下と痛み症状の数の増加に相関関係が認められた.慢性疼痛患者の血中BDNF濃度は,その時々の自然免疫状態など他の因子との関係も鑑みることで血液マーカーとなる可能性がある.
著者
天野 玉記 精山 明敏 十一 元三
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.29-33, 2010-01-25 (Released:2010-08-04)
参考文献数
11
被引用文献数
1

治療に難渋しやすい慢性痛の1つに幻肢痛があり,その機序には痛みに関する記憶が関与すると推測されている.心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder:PTSD)に対する治療法の1つとして精神医療で用いられるようになった眼球運動による脱感作および再処理法(eye movement desensitization and reprocessing:EMDR)は,トラウマ体験の記憶と感情の処理により症状を寛解させると考えられている.同様の技法が幻肢痛の治療(幻肢痛プロトコル)に試みられている.今回,腰椎椎間板ヘルニア手術時の事故で左下肢の麻痺が起こり,8年間激しい慢性痛があった70歳の女性にEMDRを実施し,痛みが著明に軽減した症例を報告する.本症例では,事故に関連した場面等を想起させた状態で,左右交互の眼球運動を繰り返しながら想起場面と関連した感情を鎮静化しつつ認知の修正を試みた.その結果,治療セッション中に痛みが軽減し,ほぼ消失した.治療から3カ月後にも痛みは再発していなかった.心因性の機序が関与した慢性痛に,EMDRの幻肢痛プロトコルが治療法の1つになりうることが示唆された.
著者
山本 雅子 西江 宏行 中塚 秀輝
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.62-66, 2019-02-25 (Released:2019-03-12)
参考文献数
15

三叉神経第III枝領域に発症した帯状疱疹に,顎骨壊死を合併した症例を経験した.患者は77歳の男性で,既往に糖尿病があり,左耳痛と左下の歯の痛み,舌痛を主訴に近医歯科を受診した.症状が改善しないため発症7日目に当院口腔外科を紹介された.左下顎根尖病変に加え,左耳介と頬部から下顎にかけて自発痛を伴う皮膚びらんと腫脹が広がっていた.帯状疱疹の診断で皮膚科に入院となり,アシクロビル投与が開始されたが,翌日に異常行動などが出現したためアシクロビル脳症を疑い,投与を中止し免疫グロブリン投与が行われた.疼痛コントロールが不良であったためペインクリニックに紹介されたが,当科での治療開始後,疼痛が改善したため退院した.発症51日目に左下の歯牙脱落の訴えがあり,当院口腔外科に紹介した.左下顎骨壊死との診断で,全身麻酔下に腐骨除去術が施行された.帯状疱疹が三叉神経第II,III枝領域に発症した場合,続発的に歯の脱落や顎骨壊死を発症する報告があり,帯状疱疹の合併症の一つとして認識しておく必要がある.本症例は帯状疱疹に対して十分な抗ウイルス薬投与が行えなかったことが,発症の一因であった可能性が考えられた.