著者
小川 節郎 鈴木 実 荒川 明雄 荒木 信二郎 吉山 保
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
The journal of the Japan Society of Pain Clinicians = 日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.141-152, 2010-05-25
参考文献数
15
被引用文献数
15

帯状疱疹の皮疹消褪後に3カ月以上痛みが持続している帯状疱疹後神経痛患者371例を対象に,プレガバリン150 mg/日,300 mg/日,600 mg/日(1日2回投与)を13週間投与したときの有効性および安全性を無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験にて検討した.いずれのプレガバリン群においても疼痛は投与開始1週後から速やかに軽減し,最終評価時の疼痛スコアは300 mg/日群および600 mg/日群ではプラセボ群に比べ有意に低下した.プレガバリンは痛みに伴う睡眠障害を改善し,アロディニアや痛覚過敏にも有効であることが示された.主な有害事象は浮動性めまい,傾眠,便秘,末梢性浮腫,体重増加などであった.これらの有害事象は用量依存的に発現頻度が高くなる傾向があったが,ほとんどが軽度または中等度であった.以上の結果より,プレガバリンは帯状疱疹後神経痛に対して有用性の高い薬剤であることが示された.
著者
滝本 佳予 西島 薫 森 梓 金 史信 小野 まゆ
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.8-11, 2016

全身の痛みを中心とする多彩な症状を訴え心因性多飲を合併する患者に対し,薬物療法・認知行動療法と併せて行った,患者の語りの傾聴と対話を重視した診療が有用であった1例を報告する.症例は68歳の女性,全身の痛みを訴えて当科を紹介受診した.併存合併症として心因性多飲による低ナトリウム血症と意識混濁,むずむず脚症候群,過敏性腸症候群,睡眠障害,失立失歩があり,ドクターショッピングを長年続けた後の受診であった.患者の語りの傾聴と対話により,まず心因性多飲が改善した.次いで痛みの訴えを線維筋痛症・中枢感作性症候群と診断し薬物療法・認知行動療法を実施したところ,ドクターショッピングをやめ症状も軽減した.“説明不能な”痛みの訴えはペインクリニックではたびたび遭遇する.器質的原因が明確ではない疾患の症状を一元的にとらえ,診断治療を行う役目を果たすためには,患者との語り合いにも問題解決への可能性があることが示唆された.
著者
濱生 和加子 青木 克 清水 唯男 内田 貴久
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.403-410, 2000

目的: 特発性顔面手掌多汗症 (多汗症) 患者の心理特性と, 胸腔鏡下交感神経遮断術 (ETS) 後の患者の心理状態を調査し, ETS治療の有効性を検討する。方法: 多汗症患者を対象に, TEG (東大式エゴグラム・第2版), POMS (気分プロフィール検査), MMPI (ミネソタ多面的人格検査) をETS前に施行し3カ月以降に同心理検査とアンケート調査を行なった. 結果: TEGより, 多汗症患者は依存的, 消極的タイプが多いといえるが, 不適応的自我パターンが多いとはいえず, 術後は特に女性で適応的自我パターンに変化した. POMSでは, 多汗症患者に感情的問題が多いとはいえず, 術後に特に男性で気分状態は改善した. MMPIでは,「精神衰弱性」,「偏執性」,「抑うつ性」尺度に高得点を示す症例が多かったが, 術後は減少傾向を示した. 術後アンケートでは, 代償性発汗は全例にみられ, 約40%の患者が日常生活への支障を訴えたが, ETSを受けた患者の約95%は手術治療に対し満足感を表明した. 結論: ETS後, 多汗症患者の自我状態は自己肯定的に変化し, 気分状態も改善するが, 手術適応には, その患者が代償性発汗を受容できるかどうかの見極めが問題となる.
著者
石田 高志 関口 剛美 川真田 樹人
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.53-62, 2018-06-25 (Released:2018-06-29)
参考文献数
57

変形性関節症をはじめとする関節炎は,移動時に痛みが増強するため移動機能障害を招き,患者のQOLを著しく低下させることが問題となっている.関節炎の痛みの薬物療法として消炎鎮痛薬が用いられるが,長期投与による腎臓や消化管への副作用から,関節炎による痛みのメカニズムに基づいた,有効かつ安全な新たな治療法の開発が求められている.関節炎では,滑膜線維芽細胞や軟骨細胞からのIL-1やTNF-αをはじめとする各種炎症性サイトカインの放出が起こり,軟骨の変性や骨増生が起こる.炎症は関節内のみにとどまらず,関節周囲組織にも広範囲に波及する.慢性的な炎症に末梢神経や中枢神経における可塑的変化が生じ神経障害性疼痛の側面も持つようになり,痛みのメカニズムは複合的となる.さらに関節炎患者では,関節内の炎症や骨破壊だけでなく,骨髄内病変の出現により痛みが増強することが知られている.したがって関節炎では,関節・骨・骨髄の病変が相互に作用し,複合的なメカニズムにより痛みが増強する.本稿ではまず関節炎に伴う複合的な痛みのメカニズムを概説する.次いで,痛みのメカニズムに基づいた新たな鎮痛薬・鎮痛法について解説する.
著者
牛山 実保子 加藤 実 坂田 和佳子 山田 幸樹
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.318-322, 2020-10-25 (Released:2020-10-28)
参考文献数
8

30歳代女性,主婦.10年間持続する右胸痛を主訴に,集学的多職種診察を行っている当院緩和ケア・痛みセンター内痛みセンター外来に紹介された.生活・家族背景などについて看護師診察の丁寧な聴取で,完璧主義で真面目な性格,母や夫に見捨てられないよう気を使っていること,40カ所の医療機関で見出せなかったトラウマ体験が明らかになり,かつ痛みで自分は死ぬというとらわれにつながっていたことが判明した.看護師は母とも面談を行い,学童期の通学中に同級生の死体遭遇体験,数々の傷つき体験,不安・恐怖感が強く周囲を気にかけての生育歴が判明した.身体的要因とトラウマ体験に伴う強い不安と恐怖感の情動要因の両者に対応した結果,初診から2カ月後に弱オピオイドの減量,痛みの軽減と日常生活の改善が得られた.身体的要因のみに焦点を当てた痛み治療で改善しない症例において,集学的多職種診察チームの看護師診察による本人や家族への介入で,本人の強い不安と関連する重要なトラウマ体験が明らかになり,独特な認知行動特性への多職種の対応が可能となり,集学的診療の効率をあげ有用であった.
著者
濵口 孝幸 八反丸 善康
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.77-80, 2018-06-25 (Released:2018-06-29)
参考文献数
10

薬物使用過多による頭痛とは一次性頭痛に対する急性期治療薬の過剰使用による頭痛の発現・増悪であるが,詳細な病態生理は不明であり治療法も確立されていない.今回デュロキセチンを予防薬として投与し,乱用薬物の中止が可能であった症例を報告する.症例は44歳の男性.左眼窩部痛と頭痛を主訴に来院した.3年前から主訴が出現し各種の薬物療法を行った結果,ナラトリプタンにより痛みは緩和し,平日は連日ナラトリプタンを内服するようになっていた.当科初診時には一日中続く頭重感と15分間の流涙を伴う左眼窩部痛発作が数回/日あり,薬物使用過多による頭痛と慢性群発頭痛と診断した.さらに意欲の低下を自覚し,抑うつ傾向があった.群発頭痛に対しベラパミルを開始し左眼窩部痛発作は消失し,薬物使用過多による頭痛の予防薬として抑うつ症状の存在からデュロキセチンを開始したところ,頭痛は改善して乱用薬物が中止可能となった.デュロキセチンは薬物使用過多による頭痛の予防薬として有効である可能性がある.
著者
北島 美有紀 境 徹也 樋田 久美子 澄川 耕二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.491-493, 2010-09-25 (Released:2010-10-06)
参考文献数
12

明らかな原因を発見できない口腔内灼熱感のうち,痛みが舌に限られるものが舌痛症と定義されている.心理的要因が関与しているとされるが,発症の原因は不明である.今回,漢方薬の抑肝散加陳皮半夏(エキス製剤7.5 g中に半夏5 g,蒼朮4 g,茯苓4 g,川きゅう3 g,釣藤鈎3 g,陳皮3 g,当帰3 g,柴胡2 g,甘草1.5 gを含む)により痛みが軽減した舌痛症の1症例を報告する.患者は82歳の男性で,4年前に脳梗塞を発症し,その約1年後から舌の痛みが出現した.歯科で口腔内の器質的障害は否定されていた.脳梗塞の後遺症で歩行障害があり,患者はいらいら感や胃部不快感を訴えていた.また,舌に何か異常があるのではないかという不安を持っていた.漢方的診察により得られた証に随って,抑肝散加陳皮半夏7.5 g/日を開始した.内服開始7日後には,痛みの程度は数値評価スケールで8/10から4/10に軽減し,範囲も半減した.患者の証に沿った漢方薬の選択が,難治であった舌痛の緩和に繋がった.
著者
大淵 麻衣子 住谷 昌彦 平井 絢子 佐藤 可奈子 冨岡 俊也 小川 真 辛 正廣 関山 裕詩 山田 芳嗣
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.44-47, 2011 (Released:2011-06-04)
参考文献数
10

慢性痛の重大な併発症として睡眠障害が挙げられるが,睡眠障害は患者の自覚的な訴えやアンケート調査によってしか評価されていない.睡眠・覚醒リズムを判定することができる腕時計型高感度加速度センサー(actigraphy®)を用いて慢性痛患者の睡眠障害を脊髄電気刺激療法の前後で客観的に評価した2症例を報告する.症例1は腕神経叢引き抜き損傷後痛み,症例2は閉塞性動脈性硬化症による足趾切断術後の難治性の痛みであった.いずれも薬物療法抵抗性の痛みであり,深刻な睡眠障害を併発していたことを客観的に評価できた.両症例とも脊髄刺激療法の導入によって睡眠効率(就床から起床までの時間に対する実睡眠時間の割合)が改善した.難治性痛みの治療は痛みだけでなく quality of life(QOL)の改善が重要であるが,睡眠障害の客観的評価は新たな評価基準に成りうる可能性がある.
著者
米本 紀子 米本 重夫 小林 俊司 神移 佳 井戸 和己 森本 正昭
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.61-64, 2020-02-25 (Released:2020-03-04)
参考文献数
9

身体表現性障害とは「検査所見に異常が無く,医師がその症状には身体的根拠が無いとするにもかかわらず,身体症状を反復して訴え,絶えず医学的検査を要求する」と定義される.身体表現性障害として紹介された8人が,当院ペインクリニックでの介入により,どのような経過をたどったか報告する.症例A~Cは未治療であった身体的根拠があり,その器質的原因に対する治療によって痛みが軽減し,生活機能が改善した.症例D~Fは生活機能が保たれており「慢性痛の治療目的は生活の質を改善していくことである」という説明を理解し,身体症状を反復して訴え完治を期待する言動をやめた.症例Gは8カ月後に解離性障害と診断され精神科入院となった.症例Hは,生活機能は保たれていたが慢性痛の説明に納得できず,1年後も身体表現性障害の言動を継続していた.以上より,身体表現性障害と診断されても,ペインクリニックの介入が有効なケースもあると考える.
著者
下畑 敬子 下畑 享良 小野 哲 茂木 僚一郎 石倉 秀昭 宮下 興
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.129-132, 2014 (Released:2014-07-18)
参考文献数
11

【目的】ナラトリプタンによる月経関連片頭痛に対する治療効果と問題点について検討する.【方法】対象は2008年6月から2010年1月の間に,ナラトリプタン2.5 mgにより治療を行った月経関連片頭痛患者16名とした.観察期間中における継続率,有効率,副作用について後方視的に検討した.【結果】継続率は14/16名(87.5%)であった.有効が14/16名(87.5%),無効が2/16名(12.5%)であった.重篤な副作用はなかった.継続した理由は,(1)再発率が低く経済的である,(2)副作用がない,があげられた.一方,継続できなかった理由は,(1)悪心・嘔吐で内服できない,(2)効果発現までの時間が長い,があげられた.【結論】月経関連片頭痛に対するナラトリプタンは,継続率,効果とも良好で,重篤な副作用もなかったことから,月経関連片頭痛に有用であると考えられた.一方,悪心・嘔吐のため内服困難であることや,別種類のトリプタンを状況に応じて使い分けている患者がいることもわかり,トリプタン製剤の使い分けなど,外来における患者指導が重要であると考えられた.
著者
寺山 和利 渡部 多真紀 渡辺 茂和 三浦 邦久 土屋 雅勇
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.32-38, 2020-02-25 (Released:2020-03-04)
参考文献数
29

【目的】痛みの評価はVASなど主観的方法が汎用されている.客観的評価ツールであるPainVision(PV)が痛みの測定に有用であるか,外用NSAIDsの薬効をPVとVASで評価した.【方法】被検者は成人ボランティア33名とした.試験薬剤はインドメタシン・ケトプロフェン・ジクロフェナク・フェルビナクを主成分とする外用NSAIDs 19剤を用いた.鎮痛効果はPVとVASを用いて検討した.【結果】PVとVASはr=0.681(p<0.01)と相関を示した.クリーム剤のミカメタン,テイコク,ユートクはインテバンに比べ有意差をもって強い鎮痛効果を示した(p<0.05).ゲル剤のエパテック,ナボールはイドメシンに比べ有意差をもって強い鎮痛効果を示した(p<0.05).【結論】PVが痛みの評価に有用なツールである可能性を示した.外用NSAIDsは主成分や剤型により鎮痛効果が異なるため,医師や薬剤師が薬剤を選択する際には,鎮痛強度の違いを考慮すべきである.
著者
平森 朋子 眞鍋 治彦 久米 克介 有川 智子 武藤 官大 武藤 佑理
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.479-483, 2013 (Released:2013-11-07)
参考文献数
13

発作性片側頭痛は,群発頭痛と同様に激しい片側痛とともに自律神経症状を呈するが,インドメタシンが著効することが特徴の,まれな疾患である.今回,群発頭痛からの移行,三叉神経痛との合併例を含む発作性片側頭痛の3 例を経験したので報告する.症例1 は31 歳,男性.突然5~6 回/時の頻度で,右後頭部痛が出現した.発作時に同側の流涙,眼瞼下垂,鼻閉を伴った.発作性片側頭痛を疑いインドメタシンの投与を開始したところ,痛みは消失した.症例2 は63 歳,女性.反復性群発頭痛として発作期のプレドニゾロンと予防薬としての炭酸リチウム,ベラパミルの投与を行っていたが,寛解期が短くなり,発作時にジクロフェナクで痛みが軽減したことから,インドメタシンを定期投与した.その後,発作は消失した.症例3 は77 歳,男性.特発性三叉神経痛としてカルバマゼピンの投与中であった.痛み発作時に同側の流涙,結膜充血,眼瞼下垂を伴うことがあったため,インドメタシンを併用投与した.その後痛みは軽減消失した.頭部・顔面痛は長期的な治療を要することが多いが,その経過中に痛みの性状が変化したり治療に抵抗性を示す場合には,他の疾患の合併を念頭に置く必要がある.
著者
日本ペインクリニック学会安全委員会 田中 信彦 山蔭 道明 具志堅 隆 關山 裕詩 中塚 秀輝 益田 律子 山浦 健
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.133-142, 2020-06-25 (Released:2020-06-30)
参考文献数
12

日本ペインクリニック学会安全委員会では,2009年より学会認定ペインクリニック専門医指定研修施設を対象に有害事象収集事業を開始した.本稿では2015年の1年間を対象とした第5回調査および2016年の1年間を対象とした第6回調査の結果について報告する.第5回調査では350施設中162施設(46%),第6回調査では348施設中197施設(57%)から回答が得られた.これまでの調査結果と同様に,有害事象のほとんどが鎮痛薬・鎮痛補助薬の副作用と神経ブロック・インターベンショナル治療の合併症であった.鎮痛薬・鎮痛補助薬に関しては,プレガバリン,三環系抗うつ薬およびトラマドール・アセトアミノフェン配合錠の副作用が多く報告された.神経ブロック・インターベンショナル治療に関しては,硬膜外ブロック・カテーテル関連,星状神経節ブロック,肋間神経ブロックおよびトリガーポイント注射による合併症が多く報告された.今後も有害事象に関する情報を学会員間で共有し,痛み診療における安全の確保と質の向上を図る必要がある.
著者
山本 洋介 山田 信一 有川 貴子 永田 環 中川 景子 大石 羊子 澤田 麻衣子 福重 哲志 牛島 一男
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.488-490, 2010-09-25 (Released:2010-10-06)
参考文献数
10

膝蓋下脂肪体炎で下肢痛を生じ,歩行困難となった症例を報告する.症例は 81歳の男性で,当科を受診する 1カ月半前に,右大腿前面から膝に及ぶ痛みが起こった. MRI検査により L3/4外側ヘルニアと判断され,仙骨硬膜外ブロックや L3の神経根ブロックを数回受けたが,痛みは軽減しなかった.膝の MRI検査で外側半月板変性も疑われ,膝関節内に局所麻酔薬の注入を受けたが,痛みは軽減せず,歩行困難となったので当科を紹介された.痛みは視覚アナログスケールで 83 mmであり,大腿四頭筋は萎縮し,筋の両側辺縁に沿った部位と膝関節周囲に強い圧痛があった.右大腿部の感覚障害はなかった.痛みが膝から始まり,膝蓋下に強い圧痛があったので,膝蓋下脂肪体炎を疑い,診断的ブロックとして,膝蓋下脂肪体に 1%メピバカイン 3.5 mlとベタメタゾン 2.5 mgを局所注入した.ブロック直後から痛みは軽減し,歩行が可能となった.その後,局所麻酔薬の注入を計 3回行い,1カ月後からは鎮痛薬内服だけで,膝の違和感が残っただけであった.大腿四頭筋の萎縮は,朝,夜に坐位からの起立運動を行うことで改善し,2カ月後に違和感も消失した.
著者
石黒 直樹 原田 紀子 江端 望 藤井 幸一
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.19-0018, (Released:2020-01-21)
参考文献数
48

変形性関節症の痛みについて,患者には「関節軟骨が剥がれて,むき出しになった骨が擦れて痛い」「骨棘がぶつかるから痛い」と説明されることが多いと思われるが,実際はそれ以上に複雑である.もちろん,骨や軟骨,関節周囲の支持組織の構造変化は痛みの原因になり得るが,変形性関節症の痛みには,滑膜炎や軟骨・半月板内側などの無神経野への神経伸長,中枢性/末梢性感作や下行性疼痛抑制系の異常など,さまざまな要素が関連している.これらの要素は,密接にかかわりながらもそれぞれ独自の機能を有するため,独自に異常をきたし得る.つまり,変形性関節症の痛みは,非常に複雑かつ病期や患者個人によって痛みの主因がさまざまであるため,異常をきたしている要素に応じた治療が求められる.超高齢社会を迎えるにあたり,われわれ医療従事者が変形性関節症患者の診療を行う機会はさらに増えていくと思われる.変形性関節症の痛みに対するテーラーメイドの治療を実現するには,まず変形性関節症で起きている変化や痛みの原因について,深く理解することが重要である.
著者
谷口 千枝
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.63-68, 2018-06-25 (Released:2018-06-29)
参考文献数
34

がん関連痛は,手術,化学療法,放射線治療といったがん治療に伴うものから,終末期のがん性疼痛によるものまで,さまざまな病期に起こる.喫煙は急性症状として一時的に痛みを軽減させるが,その後に起こるニコチン離脱症状は痛みの感受性を上げる.患者は痛いとタバコを吸いたくなり,吸いたくなると痛みは増す.そのようななかでわれわれ医療従事者は,痛みのある喫煙がん患者に対しどのように対応すべきか.本稿では,喫煙と痛みの関連について特にがん関連痛を中心に文献レビューを行い,痛みのある喫煙がん患者に対する症状緩和につながる禁煙支援について説明する.
著者
安部 伸太郎 廣田 一紀 平田 和彦 竹本 光一郎 井上 亨 比嘉 和夫
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.52-55, 2013 (Released:2013-03-22)
参考文献数
11

硬膜外自家血注入を3カ所に行うことで,外傷性低髄液圧症候群が治癒した症例を報告する.患者は44歳の男性で,入院の3週間前に後頸部から背部にかけて強くマッサージをされ,その翌日から起立性頭痛が生じた.頭部と頸部MRI,MRミエログラフィー,RI脳槽·脊髄液腔シンチグラフィー,髄液圧測定により,硬膜下血腫を伴う外傷性低髄液圧症候群と診断したが,髄液の明確な漏出個所は特定できなかった.入院での安静臥床と輸液による保存的治療を開始したが,入院7日目に頭痛は増悪し,硬膜下血腫は増大した.入院11日目に瞳孔不同をきたしたため穿頭血腫除去術を行い,同日に第7頸椎/第1胸椎間の硬膜外腔に自家血13 mlを注入した.しかし,頭痛は消失しなかった.入院15日目の腰部MRI,17日目の胸部MRIで,胸椎下部から腰椎上部にかけての硬膜外腔に髄液が漏出していたが,明確な漏出個所は不明であった.入院19日目に第3/4腰椎間の硬膜外腔に自家血16 mlを注入したが,頭痛は消失しなかった.入院22日目に第9/10胸椎間の硬膜外腔に自家血12 mlを注入し,2時間後に頭痛は消失した.頭痛が消失して1カ月後には,硬膜下血腫と瞳孔不同は消失した.
著者
樋田 久美子 境 徹也 北島 美有紀 澄川 耕二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.52-54, 2011 (Released:2011-06-04)
参考文献数
6

電撃傷は,体に電気が通り,筋や神経の障害が生じる病態であり,労働災害が原因となることが少なくない.われわれは就労中に感電し,左腕の痛みと筋力低下を生じたが,疾病利得が影響し,症状が誇張されたと思われる症例を報告する.56歳の男性で,溶接作業中に左指から感電し,受傷翌日,当院に入院した.左上肢の強い痛み,筋力低下,関節可動域制限を訴えていたが,病棟では左上肢を支障なく動かしており,補償の獲得を示唆する発言があった.患者に退院を勧めたが,患者は激しい痛みを訴えて入院継続を強く求め,当院に16日間入院した後,他院に転院し,2カ月間入院を継続した.症状を誇張する背景に疾病利得の影響が考えられた.