著者
村中 誠司
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.715-721, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
14

本稿では,質的データの解析手法として,自然言語処理技術として発展を続けている構造的トピックモデル(Structural Topic Model:STM)を紹介する.自然言語とは人間が互いにコミュニケーションを取るための自然発生的な言語である.この自然言語をコンピュータに処理させる技術を自然言語処理という.この自然言語処理の技術の1つとしてSTMがある.STMとは,Latent Dirichlet Allocation(LDA)を用いて,トピックとしてまとめられる潜在変数に基づいて観測された単語を生成する統計的なアプローチである.STMを用いることにより,入力した文書の「意味」のまとまりをつかむことができる.実践例として,夏目漱石の『こころ』を題材にSTMを実施した結果,『こころ』で語られる時勢の遷移による価値観の変化とこの変化がもたらす「わからなさ」を浮き彫りにする結果が示された.扱うテキストの前処理など,実用上の課題はあるものの,STMの今後の臨床研究への活用が期待される.
著者
岡本 敬司 野崎 剛弘 小牧 元 瀧井 正人 河合 啓介 松本 芳昭 村上 修二 久保 千春
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.369-375, 2001-06-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
16

栄養状態の回復期にカルニチン欠乏および高CPK血症をきたした神経性食欲不振症を報告した.症例は30歳女性.入院時体重は19.6kg(-57%標準体重).入院時より高度の肝機能障害を認めたが, 栄養状態の改善に伴い入院30日目には正常化した.しかし, そのころよりCPKが上昇しはじめ, 入院時は正常範囲にあった血清カルニチン濃度が正常の半分以下まで低下した.その後, 摂食量の増加にもかかわらず, 血清カルニチン濃度はわずかに上昇したのみで, CPKも漸減しただけであった.そこでカルニチン製剤を投与したところ, CPK, カルニチンともに速やかに正常化した.神経性食欲不振症の栄養状態の回復期におけるCPKの上昇とカルニチンの関連を考察した.
著者
大森 英哉
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.664-668, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
5

肩こりや腰痛は日本人の国民病といえるほど多くの患者がいる. この中には心身のストレス関連症を合併している筋筋膜性疼痛症候群の患者層も相当数いる. 近年, トリガーポイントの概念が単なるこりの点としてではなく, 筋膜に存在する過敏化した侵害受容器であることが知られてきた. トリガーポイントが多数存在して活動的となっている筋膜は, 超音波ガイド下に肥厚し白く重積して映し出される. この筋膜を注射液ではがす筋膜リリースは筋筋膜性疼痛に有効性が高く, 心身症を背景とした身体感覚の過敏性が高い場合や逆に感覚鈍麻になった症例への応用も期待できる. 心身医療での活用のために筋膜リリースの基本手技について概説する.
著者
馬場 天信 佐藤 豪 齋藤 瞳 木村 穣 中川 明仁
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.937-944, 2012-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
21

肥満治療において臨床心理士を加えたチーム医療システムは効果的である.また,パーソナリティ尺度は,肥満症患者の置かれている心理社会的状況を理解するツールとして,患者と治療スタッフ双方に有益な情報を提供する.パーソナリティと肥満に関する研究報告は近年増加しているが,日本人の肥満症患者に関する報告は数少ない.本研究ではNEO-PI-R, TEG II, TAS-20を用いて,肥満症患者と一般成人におけるパーソナリティの違いを検討したところ統計的差異は認めらなかった.次に,肥満度別によるパーソナリティの違いについて分散分析を用いて検討したところ,BMI35以上の肥満症患者は神経症傾向(特に不安と抑うつ)が高く,感情同定困難という特徴が認められた。以上の結果は,肥満度の高い肥満症患者に対する介入にはパーソナリティの査定が有効であることを示唆している.
著者
佐藤 康弘 福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.790-796, 2017 (Released:2017-08-01)
参考文献数
29

摂食障害の発症, 維持にはストレスが深く関与しており, 対人関係ストレス, 虐待, 喪失体験などが摂食障害のリスク要因として知られている.神経性やせ症 (AN) 患者は認知制御が過剰で, 情動処理の活動が抑制されていることがその病因, 病態に深く関与していると考えられるようになってきた. 対人関係ストレスに関連する不快な語彙を用いたfMRI研究では, AN患者は背外側前頭前野など認知制御を司る領域の活動が亢進し, 一方で失感情症傾向が強いほど情動に関わる扁桃体などの活動が低下していた.われわれは認知柔軟性課題をAN患者に施行したfMRI研究により, 腹外側前頭前野の機能低下を報告している. また, 認知制御と報酬評価の機能を統合した意思決定課題において, AN患者は背外側前頭前野の活動亢進を示した. これらの知見もまた過剰な認知制御による情動処理抑制の証左となる. 摂食障害患者における神経回路の異常がストレス対処行動の異常につながっている.
著者
榎戸 芙佐子 窪田 孝 中川 東夫 渡邉 健一郎 亀廣 摩弥 大原 聖子 地引 逸亀 野田 実希
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.897-905, 2006
参考文献数
27

神経衰弱,慢性疲労症候群(CFS),うつ病の三者が疑われる3例の診断と治療・経過を紹介し,問題点を指摘し,今後の研究に対する提案を行った.症例1は疲労を主訴にインターネットの情報からCFSを疑って受診してきたがCFS疑診例であり,症状からICD-10の神経衰弱と診断し治療したが軽快に止まった.症例2もCFSを自己診断していたが,客観的所見に乏しく身体表現性障害と考えて治療していたとこう,妄想が明らかになり妄想性障害に診断を変更した.症例3は抑うつエピソード以前から身体徴候があり,リンパ節腫脹,関節痛,咽頭炎の症状からCFSと診断し,治療の結果ほぼ完治した.CFSと神経衰弱は社会的背景・症状が似ており,両者は文化的変異形と考えられる.れが国における神経衰弱の乱用ともいえる現状を考えると,CFSを積極的に診断し治療していくことが患者・家族の福利につながり,疲労の脳機能の解明にも貢献すると考えた.
著者
名越 泰秀
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.554-559, 2019

<p>身体症状症および関連症群 (身体表現性障害) の病態は, 薬物療法の観点では, 強迫, 不安・恐怖, 怒りに分類される. </p><p>強迫に対しては, SSRIが有効である. SSRIで効果が不十分な場合は, D<sub>2</sub>受容体への親和性が高い抗精神病薬による増強療法が有効である. 早急な改善が必要な場合は, NaSSAの併用が有用である. </p><p>不安・恐怖に対しては, ベンゾジアゼピン系抗不安薬, SSRIが有効である. 効果が不十分な場合, MARTAなどの抗精神病薬の併用が考えられる. また, 不安や恐怖の中枢である扁桃体の過活動に対するα<sub>2</sub>δリガンドの併用も選択肢の1つになりうる. </p><p>怒りに対しては, 症例によっては抑肝散などの漢方薬やMARTAなどの抗精神病薬の投与を試みてもよいと思われる.</p>
著者
名越 泰秀
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.554-559, 2019 (Released:2019-09-01)
参考文献数
27

身体症状症および関連症群 (身体表現性障害) の病態は, 薬物療法の観点では, 強迫, 不安・恐怖, 怒りに分類される. 強迫に対しては, SSRIが有効である. SSRIで効果が不十分な場合は, D2受容体への親和性が高い抗精神病薬による増強療法が有効である. 早急な改善が必要な場合は, NaSSAの併用が有用である. 不安・恐怖に対しては, ベンゾジアゼピン系抗不安薬, SSRIが有効である. 効果が不十分な場合, MARTAなどの抗精神病薬の併用が考えられる. また, 不安や恐怖の中枢である扁桃体の過活動に対するα2δリガンドの併用も選択肢の1つになりうる. 怒りに対しては, 症例によっては抑肝散などの漢方薬やMARTAなどの抗精神病薬の投与を試みてもよいと思われる.
著者
岡 孝和 小山 央
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.25-31, 2012-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
30
被引用文献数
1

自律訓練法は不安,抑うつ,怒りなどの陰性感情を低下させ,自己認知を積極的なものに変化させ自己受容を促すという心理的効果がある.練習中,中心後回などの手足の感覚に関連する部位に加えて,前頭前皮質や島皮質など,内部感覚や情動に関連する皮質機能の活動が亢進する.両腕が「重たい」,「温かい」という公式を裏づけるように,骨格筋の弛緩と末梢皮膚温の上昇が生じる.交感神経活動に対しては抑制的に作用する.迷走神経活動に関しては,心臓迷走神経活動を賦活する一方で,消化管を支配する迷走神経機能亢進状態に対しては抑制的に作用する.さらに視床下部-下垂体-副腎皮質系を抑制し,機械的疼痛閾値を上昇させる.
著者
岩垣 穂大 辻内 琢也 扇原 淳
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.1013-1019, 2017 (Released:2017-10-01)
参考文献数
31
被引用文献数
2

災害復興におけるソーシャル・キャピタルの役割が注目されている. ソーシャル・キャピタルとは 「社会関係資本」 と訳され, 他者への信頼感, 助け合いの意識, ネットワーク, 社会参加などで評価される人間関係の強さを表す概念である. 先行研究において, 災害発生時, ソーシャル・キャピタルの豊かな地域ではPTSDやうつといった精神疾患の発症リスクが低いとの報告も行われている.本研究では福島第一原子力発電所事故からの避難者を対象にソーシャル・キャピタルとメンタルヘルスの関連について調査を行った. その結果, 高齢者を対象とした調査, 子育て中の母親を対象とした調査のいずれも, 個人レベルのソーシャル・キャピタルが豊かなほどメンタルヘルスが悪化しにくいことが明らかとなった.今後, ソーシャル・キャピタル醸成の視点を取り入れた災害復興政策を行っていくことが重要であると考えられた.
著者
野崎 剛弘 須藤 信行
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.20-28, 2013-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
10

生活習慣病の一つである2型糖尿病では,食事や運動といった薬物以外の自己管理に委ねる割合が高い.自己管理の成否には,患者の心理社会的要因が少なからず影響を及ぼす.したがって,心身両面から患者を理解し治療していくという心身医療(心身医学的アプローチ)は,糖尿病の臨床において大きな効果を発揮する.本稿では,まず2型糖尿病患者に対する心身医療について述べ,次に2型糖尿病患者の血糖コントロールに影響を及ぼす心理・社会的因子を縦断的に調査した自験例を紹介し,最後に通常の内科的治療では血糖コントロールが不良であった患者が心身医療によって良好な血糖コントロールとなり維持している症例を提示する.
著者
瀧井 正人
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.12-19, 2013-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
21

1型糖尿病は,若年発症,インスリン注射の必要性,少数派ゆえの周囲の無理解など,病気に関する負担は大きく,心理社会的問題の頻度は高く概して重篤である.1994年以降に当科を受診した,心理社会的問題を抱えた1型糖尿病患者約250名のうち,実に約7割が摂食障害を併発していた.若い1型糖尿病女性の約1割に摂食障害が併発しているといわれており,血糖コントロールの著しい悪化,糖尿病合併症の早期の発症・進展など医学的な問題も大きい.一方,インスリン注射の不適切な使用などによる自己破壊的行動は,1型糖尿病におけるもう一つの重大な問題である.本稿では,これらの2つの問題を中心に,その病態と治療・対策について述べた.
著者
齊藤 早苗 嶋 大樹 富田 望 対馬 ルリ子 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.339-348, 2020 (Released:2020-05-01)
参考文献数
23

過敏性腸症候群 (IBS) では, 腹部症状に関連する思考, 感情, 身体感覚などを回避する患者が多いことから, アクセプタンス & コミットメント・セラピー (ACT) の有用性が示唆されている. そこで, ACTの治療標的である体験の回避が, 消化器症状に関連した不安や腹痛頻度および腹満感頻度に及ぼす影響について検討する. 方法 : 便秘を自覚する女性244名 (IBSのRome Ⅲ診断基準を満たした128名を含む) に対して, 腹痛頻度および腹満感頻度, 体験の回避 (AAQ-Ⅱ), 消化器症状に関連した不安 (VSI-J), 抑うつ気分・不安気分 (DAMS) に関する質問紙調査を実施した. 結果 : 構造方程式モデリングの結果, 体験の回避が消化器症状に関連した不安に対して正の影響 (0.30) を示した. さらに, 消化器症状に関連した不安と腹痛頻度および腹満感頻度には有意な正のパス係数 (0.55) が示された (Χ2=1.13, df=2, p=0.57, GFI=0.998, AGFI=0.988, RMSEA=0.000). 結論 : 体験の回避は消化器症状に関連した不安を介して, 腹痛頻度および腹満感頻度に影響を及ぼすことが示された.