著者
池見 陽
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.688-694, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
13

本稿は心身医学を専門とする医師が知っておくべき心理学について, その理論と実践を論説したものである. 米国の哲学者でフォーカシング指向心理療法を見い出したEugene Gendlinの理論より, 体験過程と追体験といった現象学的・解釈学的概念について論じ, これらの実践上のポイントをいつくか提示した. また, Gendlin理論に基づく体験過程様式およびその評定のための第三者評定尺度であるEXPスケールの概要を示し, このスケールを臨床に役立てるためのポイントを提示した. また, 今日の研究動向として, 現在開発中のEXPチェックリストおよびそれを用いたサイコセラピー・アウトカムの国際共同研究計画について言及した.
著者
笠原 諭
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1165-1170, 2010-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
13

国民の愁訴として腰痛は最も多い症状であり,特に慢性腰痛の患者は精神医学的問題を合併していることが少なくない.そこで福島県立医科大学では,慢性腰痛に対して整形外科とリエゾン治療を行っている.腰痛の治療成績を改善するには,腰痛を「生物・心理・社会的疼痛症候群」という概念でとらえる必要がある.難治な慢性腰痛では身体表現性障害と診断されることが少なくない.慢性腰痛を一症状とする身体表現性障害の各疾患に有効性が確立した薬物はまだない.慢性腰痛に合併するパーソナリティ障害が治療を困難にさせる.慢性腰痛の治療においては,整形外科と精神科の連携が重要である.
著者
中村 晃士 沖野 慎治 小野 和哉 中山 和彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1105-1110, 2014-12-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
3

不定愁訴に基づき身体科をいくつもかかる患者の中には,自閉症スペクトラム障害(ASD)と思われる一群がいる.こうしたASD患者の特徴をアスペルガー障害の男性症例を提示して考察した.まずASD患者は,基本的に身体過敏性をもち,さらにコミュニケーション障害を含む社会性の障害からくる不適応による症状の身体化,そしてそれを強固なものとする症状へのこだわりをもつ.筆者らはこれをASD患者の「身体化の三重構造」と呼ぶこととした.この「身体化の三重構造」のために,ASD患者の身体症状が遷延化しやすく,結果として身体科を不要に受診し続けやすい.こうした患者への対応では,患者と治療者の関係性を意識的,積極的に良好に保つこと,彼らの過敏性などの特性についての認識を共有すること,コミュニケーションの中であいまいな表現は極力避け,ときには断定的な表現を用いるなどの工夫が必要であることを指摘した.
著者
松本 洋輔
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.599-607, 2021 (Released:2021-10-01)
参考文献数
9

LGBTQ+と呼ばれるセクシュアルマイノリティのメンタルヘルスは損なわれやすいことがさまざまな研究で明らかになっている.筆者は主にトランスジェンダーの生活史を多数聴取しているが,メンタルヘルスの問題はLGBTQ+に共通するものがあると考えている.それは社会との間で抱える問題であり,LGBTQ+本人の中にはない.学校における種々のジェンダーの規範はトランスジェンダーを苦しめる.学校教育などの中でセクシュアリティの多様性に関して肯定的な情報の提供は乏しい一方,LBGTQ+を揶揄するような否定的な情報はさまざまな場面で繰り返され,それが問題であることもほとんど指摘されることはない.LGBTQ+の割合は20~30人に1人とされ,医療機関受診者にも多数混じっている.彼らのメンタルヘルスを守るためには,医療者が無自覚にもっているスティグマに気づく必要がある.
著者
鶴谷 隆司 中舘 俊英 三上 一治 板倉 康太郎 千葉 太郎 田村 昌士 冨地 信弘
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.71-76, 1986-01-15 (Released:2017-08-01)

In order to investigate the character of patients with bronchial asthma, we studied their chartacteristic traits through Seikenshiki Personality Inventory (INV) which has been well known to reflect the premorbid character. The results were 48 follows. A large number of patient with bronchial asthma were nervous and cyclothymic in the characteristic pattern. The characteristic traits of high frequency were "simple-minded", "insensible", "sympathetic". "hypochondriacal", "sticky" and "restrained". Comparing males with females a to characteristic traits "simple-minded" was more freequently observed in males than in females statistically; "fun'' was often observed in males and "restrained" was often observed iA females. "Precise" was more frequently observed in the oider group than in the younger. Atopic asthmtics were significantly more insensible, restrained and careless than nonatopic asthmatics. Asthmatics with paroxyamal type showed more schizophrenic and hysteric tendencies than those with chronic type in characteristic pattern. "Simple-minded" showed significantly higher frequency in the latter than in former. Comparing mild cases with moderately severe or severe cases as to characteristic pattern, epileptic pattern was highly apparent in mild cases. These reslts suggest that the asthmatic by nature tend to devote themselves to their excessive adaptation. Moreover, their characteristic traits might influence their chinical courses.
著者
日高 なぎさ 田中 英高 土田 こゆき 寺嶋 繁典
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.55-59, 2001-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

従来から指摘されているように心因性発熱の発生機序を不十分な情動表現から生じるとするなら, 言語化を促す箱庭療法はきわめて有効な治療手段であろう.箱庭療法が奏効した心因性発熱の1例の治療過程について報告する.導入当初は統合性の低い箱庭が多くみられ, 制作中はほとんど話をせず言語表現の乏しさが目立ったが, 治療を終結する頃には全体として統合性の高い箱庭があらわれるようになった.同時に言語化も促され, 家庭や学校での出来事を自発的に話し, 発熱もなく登校するようになった.本症例では箱庭療法を通じて欲求や感情の言語化が促され, 心的浄化が図られた結果として症例の重篤化を防ぐことができたと考えられる.
著者
島津 明人
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.471-475, 2022 (Released:2022-11-01)
参考文献数
16

本稿では,労働者のメンタルヘルスについて,特にワーク・ライフ・バランスに注目して言及する. 従来の労働者のメンタルヘルス対策,特に第1次予防対策では,職場環境や働き方に焦点を当て,管理監督者教育,職場環境の改善,セルフケアの支援などが行われてきた.しかし,労働者のメンタルヘルスのあり方は,職場環境や働き方だけでなく,ワーク・ライフ・バランスや休み方など,仕事外の要因によっても影響を受ける.筆者らは,2008年にTWIN study(Tokyo Work-life INterface study)を立ち上げ,未就学児をもつ共働き夫婦のワーク・ライフ・バランスのあり方が自己とパートナーの健康に及ぼす影響をTWIN study Ⅰ,自己・パートナー・子どもの健康に及ぼす影響をTWIN study Ⅱの2つの大規模コホート研究を通じて明らかにしてきた.さらに,TWIN study Ⅲでは,労働者・夫婦・子どもの3者の健康を支援するプログラムを新しく開発し,その効果を無作為化比較試験によって評価してきた.本稿を通じて,心身医学と社会医学および心理学との協働が促進され,労働者の心身の健康の維持・向上につながれば幸いである.
著者
鈴木 裕也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.154-158, 2014-02-01 (Released:2017-08-01)

摂食障害は社会的要因に大きく関係した疾患であり,「社会文化結合症候群」というとらえ方がある.本症の患者数は統計的に把握しにくいが,EDNOSを含めると患者は増加の一途をたどっていると思われる.産業構造の変化による1980年代からの女性の社会参画増加による育児への影響や,競争社会によるストレスの多い排他的な,子どもたちにとって住みにくい社会へと変貌している状況から,今後も患者数は増加することが危倶される.「やせ礼讃社会」によるダイエットの流行と本症の増加にみられる関係は,裕福な経済状態という社会的環境変化を潜伏変数とした擬似相関であり,発症要因としての因果関係はないと考える.
著者
河合 啓介
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.834-840, 2013-09-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
13

本稿では,九州大学病院心療内科での神経性食欲不振症(AN)患者の入院治療を通じて,AN治療の最近の治療上の工夫について心身両面から述べる.身体面:身体的要因による緊急入院治療への取り組みは大きな課題である.われわれは,(1)BMI13〜14kg/m^2までは,飢餓時期においては,脂肪分解によるエネルギー産生が中心となり,それ以下のBMIでは,蛋白異化が中心となること,(2)除脂肪量(筋肉・内臓組織・血液量など)が低下するほど身体的要因による緊急入院のリスクが有意に増加すること,(3)BMIが12〜13kg/m^2以下のANの体重増加期は,脂肪の合成よりも除脂肪合成が優位であること,(4)入院時BMI12kg/m^2以下の症例でも,高リン含有の栄養補助食品(アルジネード^[○!R] 125ml)を併用すると簡便にrefeeding症候群を予防できることを報告し,BMI13kg/m^2をキーポイントとした身体管理の重要性を提言している.心理面:当院では,入院症例に対して多くは「行動制限を用いた認知行動療法」を行っている.体重が増えなければ治療が進まない形式の心身両面への統合的アプローチである.最近は入院治療中に,強い他者批判や社会あるいは家族との関係に課題を持ち続ける事例に対して,内観療法を併用することがある.この2つの心理療法には類似点があり,併用すると相乗効果があると思われる.
著者
水野 泰行 福永 幹彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.1111-1114, 2016 (Released:2016-11-01)

漢方は東洋の人間観である身心一如を重視する心療内科となじみが深く, 重要な治療手段と位置づけられている. 関西医科大学附属病院における3カ月間の外来処方を分析すると, 漢方薬の26.0%を心療内科が処方していた. 次いで女性診療科 (10.9%), 消化器外科 (6.5%), 総合診療科 (5.8%) の処方数が多かった. 外来患者1人あたりの処方数では心療内科が0.63と最も多く, 続いて総合診療科 (0.15), 精神神経科 (0.12) が比較的多かった. 方剤の種類も心療内科が最多で, 総合診療科とともに多種類の方剤がまんべんなく使われていた. 一方, 精神神経科, 消化器外科は少数の方剤を多数使用する傾向があった. 卒前教育では3学年の講義50コマのうち8コマを東洋医学に割り当てている. 卒後教育では当講座主催のセミナーと複数科からなる世話人会による研究会をそれぞれ年1回, 初心者向けのセミナーを年2回開催している.
著者
大田垣 洋子 米澤 治文 志和 資朗 斎藤 浩 中村 研
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.225-231, 2005-03-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
22
被引用文献数
1

摂食障害患者103例について自尊感情と摂食態度,感情状態,罹病期間,BMIとの関連をローゼンバーグの自尊感情尺度,EAT,BITE,POMSを用いて検討し,さらに病型間の自尊感情の比較を行った.摂食障害患者の自尊感情は,摂食態度や感情状態との関連を認めたが,罹病期間やBMIとの関連は認めなかった.また重回帰分析において,自尊感情と摂食態度との関連が確認された.病型間の比較では,ANではむちゃ食い/排出行動のある群,BNでは排出行動のない群で自尊感情が低かった.摂食障害の本質として自己同一性の確立を巡る葛藤があり,この葛藤をうまく解決できないため自立が困難となり自己評価が低下し,その無力感や絶望感を体重のコンロトールによって処理し達成感を得ようとしていることはよく知られている.自己評価の基準は一般的な社会の中でコンセンサスが得られている価値よりも,むしろ自分自身がもっている価値ないし理想とされる.
著者
春日 伸予
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.391-398, 1992-06-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
2

The present study discussed the relationship between a technostress tendency and psychological characteristics. The interviews with 23 computer operators were conducted to devise a draft questionnaire to investigate a technostress tendency. After analyzed by chi-square test, a questionnaire which consisted of 31 questions was completed. The completed questionnaire was sent out to 273 computer operators (male : 241,female : 82). Each question had 8 answers-Yes, No, and Unknown-. At the same time, MAS test, SDS test, Y-G test were conducted on the subjects. Questions about a technostress tendency were given a point according to the answer-1 point for Yes O.5 point for Unknown, O point for No-. Total points of the questions were used as the score to judge the technostress tendency of the subject. Subjects whose scores were≧mean+ SD were in the high tendency group and subjects whose scores were≦mean-SD were in the low tendency group. With MAS test, subjects were divided into 2 groups-1) the subjects with anxiety, 2) those without anxiety. With SDS test, subjects were divided into 3 groups-1) the subjects with depression, 2) those with slight depression, 3) those without depression. The data from Y-G test were used to observe 3 profile patterns-Y-G 12 profiles, Y-G6 profile groups. Y-G 5 personality types. With the data on Y-G 12 profiles, subjects were divided into 5 classes. With the data on Y-G 6 profile groups, subjects were divided into 3 groups-1) subjects who have a strong profile, 2) those who have a slight profile, 3) those between 1) and 2) . Chi.square test was used to examine if these psychological characteristics were significantly different between the high and low technostress tendency groups. The results showed that subjects who had strong psychological characteristics as follows were contained significantly more in the high technostress tendency group than in the low one. 1) Techno-centered tendency : anxiety (MAS), depression, nervousness, Iack of cooperativeness, thinking introversion, obedience (Y-G 12 profiles), emotional instability, social maladjustment (Y-G 6 profile groups). 2) Techno-anxious tendency : anxiety (MAS), depression (SDS), nervousness, depression, Iack of cooperativeness, aggressiveness, Iack of objectivity, inferiority feeling, rhathymia, cyclic tendency (Y-G 12 profiles), emotional instability, social maladjustment, activity (Y-G 6 profile groups). It was also observed that the high tendency group of techno-centered stress contained significantly more A and B type people and less D type people than the low one and that the high tendency group of techno-anxious stress contained significantly more A, B and E type people and less C, D type people than the low one (Y-G 5 personality types). The author would like to conduct further studies based on this study, especially a case study and a case-control study, and hopes to obtain a standard conclusion.
著者
千葉 太郎 加藤 明子 浜渡 千春
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.408-415, 2011-05-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
14

近年は医療に関する種々の問題が表面化しており,これらの問題は過重労働を介して医療従事者の健康を損ねることにつながっていると思われる.そこで,問題点と過重労働との関連や医療従事者の健康を守るための対策について,特に勤務医を対象として考察した.わが国はOECD諸国の中で人口あたりの医師数は少なく,また病院数は減少傾向にある.厚生労働省によると,勤務医の1週間の総労働時間は63.3時間ときわめて長い.さらには医療関係訴訟も増加している.これらの状況から,勤務医は劣悪な労働状況の中で過重労働を強いられているといえる.日本医師会の調査では,勤務医には睡眠状況の悪い者が多く,また自分の体調不良を他の医師に相談する者は少なく,悲しみを自覚する医師,死や自殺について考える医師も少なからずみられるという.さらに医師の自殺は2005年に年間90件あり,自殺率は一般の日本人と比べて1.3倍と高い.このような労働状況とその帰結としての心身の不健康は,医療費抑制政策,新医師臨床研修制度,さらに医師-患者間の関係性の希薄化などと関連すると考えられる.勤務医の健康を守るために最も重要なのは,「人的資源」としての医療従事者の健康を守ることによって国民の健康と命を守るという立場から,国が対策に取り組むことである.
著者
渋谷 節子 斉藤 巌 菊池 浩光 高岡 和夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.55-65, 2006-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
19

われわれは1991年以降, 末期癌告知や余命告知後に失意や無力感に陥った癌患者に対して, 心理的介入として受容的なカウンセリングとサイモントンのイメージ療法にバイオフィードバック法を併用した.これまでイメージ療法を行った36名のアンケート調査では, イメージ療法の効果について, 「心身とも楽になった」23名(63.9%), 「症状が軽減した」17名(47.2%), 「生きる希望をもった」16名(44.4%), また治療意欲では, 「期待ができるので続けたい」18名(50%), 「積極的に治療したい」18名(50%)などの結果が得られた.心理テストでは17名のうち13名(76.5%)に抑うつが認められたが, イメージ療法後ではこのうち11名(84.6%)に抑うつの改善が得られた.これらの結果から, イメージ療法は末期癌患者に対する心理的介入として有効であることが示唆された.また, これらの療法が著効し, 癌性骨髄症から回復した末期癌患者についても併せて報告する.
著者
阿部 哲也 福永 幹彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1033-1037, 2010-11-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
12

慢性膵炎疑診例と胆道ジスキネジーは,ともに器質的異常を認めずに上腹部痛を主訴とする疾患であり,乳頭括約筋機能異常という疾患概念に包括する考えが広まっている.また,心身症の病態を呈する例や,他の機能性消化管障害との並存を示す例が多いことより,これらを障害部位で分類するのではなく,機能性身体症候群として考えることもできる.その際,病状評価には心電図R-R間隔変動係数が有用となる.計測条件の工夫で,多様な場面の自律神経機能状態を推測することができ,これにより患者の生活史の中で症状をとらえていく心身医療への導入がしやすくなると考える.
著者
石川 俊男 田村 奈穂
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.122-127, 2014-02-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
3

摂食障害(ED)の治療や研究の最近の動向について述べた.2013年,DSM-IVが改訂されDSM-5が公開された.そこではさまざまな変更が行われ,その例として,むちゃ食い障害が特定不能の摂食障害から独立した扱いになっている.治療面では,これまで報告されてきた精神療法の効果の有無をRCTで検討する研究が進められた結果,神経性無食欲症(AN)で治療成績の改善が得られ,認知行動療法(CBT)の神経性大食症(BN)に対する有効性の科学性が高まり,第一選択治療法との位置づけが確立した.薬物療法に関しては,BNに対してむちゃ食いなどの症状に対する治療効果が多くの抗うつ薬や向精神薬,抗てんかん薬などで確かめられた.新たな生物学的治療法として経頭蓋磁気刺激法(repetitive transcranial magnetic stimulation : rTMS)がEDにも試みられているが,その有効性については今後の課題である.一方で基礎研究面では,これまでのように遺伝子研究,神経伝達物質研究,脳画像研究,神経回路網の脆弱性などさまざまな研究結果が出されている.例えば,ニューロイメージング研究ではEDの病態生理の脳内メカニズムとして,ANで認知的柔軟性課題遂行中の腹側前頭葉-線条体回路の活動性の低下や食物に限局した恐怖・情動ネットワークの過敏性の亢進,BNでは食物刺激に対する報酬系の反応性の低下などが指摘されている.
著者
野間 俊一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.215-219, 2022 (Released:2022-05-01)
参考文献数
3

摂食障害の治療は容易ではないが,その精神病理を理解し適切に診立てることで,患者に応じた精神療法を行うことができる.摂食障害の症状の本質は「こだわり」であり,その背景には自己存在の不確かさに由来する「完璧主義」が認められる.症状が慢性化しやすい理由としては,摂食障害が「嗜癖」という側面をもっていることと,他者からの評価を過剰に意識する「自己過敏傾向」が存在することが挙げられる.診立てるためには,摂食障害のステージ,パーソナリティのタイプ,動機づけレベルの3つの軸から評価すべきである.すなわち,ステージは初期・持続期・慢性期,タイプは反応葛藤型・固執型・衝動型,動機づけレベルは回復の段階・怯えの段階・否認の段階と分けて病理の深さを評価する.外来診療では,簡易版認知行動療法を中心に据えながら,病理の深さに応じた治療的アプローチを行う.治療者が患者とともに回復のイメージを共有することが重要である.