著者
秋坂 真史 渡辺 めぐみ 志井田 孝 石津 宏
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.8, pp.607-617, 2005
参考文献数
19

茨城県東海村で発生したJCO社による放射能臨界事故は, 一般社会のみならず心身の健康に敏感な住民にも大きな衝撃をもたらした.事故災害やその健康被害などについての報告も多い中, 本事故についての現場からの調査報告, とりわけ児童の心身への影響に関する学術報告は皆無に近かつた.そこで, 本邦で初めて住民を巻き込んだ放射能洩れ事故が, 近隣の学校生徒の心身に与えた影響, 特に心的外傷後症状の実態や内容などを調べる目的で調査を行った.屋内退避対象地域になったJCOから半径10km圏内の7市町村に所在する15校の小学生・中学生・高校生計479名を分析対象に, 事故直後(想起)および事故1年後に心的外傷後症状の感情状態や変化(現在)に関し, 無記名かつ自記式の質問紙調査を実施した.男女別また校種別でも, 両期とも精神的症状項目で女子が有意に高かつた.事故直後の身体症状や睡眠障害・興奮などの心身症状は性差なく, 比較的少数であつたが存在はした.このように事故1年後でも思春期女子の感情不安定性が目立ち, 健康診断や精神的フォローアップの必要性が示唆された.
著者
村上 正人
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.434-442, 2021 (Released:2021-07-01)
参考文献数
22

リウマチ性疾患は自己免疫, アレルギーなどの免疫応答の異常による慢性炎症性疾患であり, 機能性リウマチ性疾患である線維筋痛症は慢性疼痛, 心身症のモデル的疾患である.いずれも遺伝的要因, 環境要因, 心身のストレス要因などが発症と経過に関係し, 病態理解と診断, 治療のためには心身医学的な視点を必要とする疾患である. これらの疾患は人種, 民族を超えて共通の病態を呈していながら, 疾患のとらえ方や対応はさまざまであり, 世界的な流れをみるには国際的な情報交換や情報発信が重要である. 筆者はリウマチ学, 心身医学の専門的立場からリウマチ性疾患, 特に線維筋痛症の臨床に携わってきたが, 米国留学, 国際学会への出席, ドイツ心身医学会や他国の研究者との相互交流などを通して多くの心身医学的知見を得た. 日本では厚生労働省研究班, 日本線維筋痛症学会や研究会, 患者会が設立され, それぞれに心身医学的視点が重要視されるなど, 国際的にもユニークな展開をみせているが, これらの成果の国外への情報発信は十分とはいえない. 今後はより多くの研究者の参画を得て日本の心身医学の国際化を図りたい.
著者
松岡 美樹子 吉内 一浩 原島 沙季 米田 良 柴山 修 大谷 真 堀江 武 山家 典子 榧野 真美 瀧本 禎之
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.52-57, 2016

近年, 摂食障害と発達障害との関連が指摘されている. 今回, 発達障害の合併が疑われ, 知能検査の施行が治療方針変更の良いきっかけとなった1例を経験したので報告する. 症例は32歳女性. X−21年に過食を開始し, 過食, 自己誘発性嘔吐や食事制限, 下剤の乱用により, 体重は大きく変動した. X−6年に神経性過食症と診断され, 入退院を繰り返した. X年に2型糖尿病に伴う血糖コントロールの悪化をきっかけに食事量が著明に低下し, 1日数十回の嘔吐を認め, 当科第11回入院となった. 生育歴やこれまでの経過から, 何らかの発達障害の合併が疑われたため, ウェクスラー成人知能検査を施行した. その結果, 動作性IQが言語性IQに比して有意に低値であり, 注意欠陥多動性障害を疑う所見も認められた. 退院後atomoxetineを開始したところ, 過食・嘔吐の頻度が週に1, 2回程度に減少し, その後も安定した状態を維持している.
著者
吾郷 晋浩
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.93-101, 2008
参考文献数
20

まず,わが国にはじめての精神身体医学研究施設(心療内科の前身)を九州大学に開設された故池見酉次郎先生が,その開設に当たって,また日本心身医学会の設立に当たってどのような役割を演じられ,その後,理想的な教室づくりを目指してどのような活躍をされたのか,そしてその後を継がれた中川先生と久保先生の教室の運営と業績について紹介した.ついで,日本心身医学会の分科会的な役割を演じていた循環器,消化器,呼吸器の各心身症研究会を中心にして,心身医学の臨床に重点を置いた学術団体としての日本心療内科学会が設立された経緯について述べた.最後に,現代医学の細分化・専門化によって引き起こされている諸問題を解決するために必要とされて生まれてきた心身医学がいかに必要であり重要であるかについて述べ,今後とも本学会が諸学会に働きかけ,心身医学的な疾病モデルに基づく診療・研究・教育が標準化・一般化されるようになることへの期待を述べた.
著者
花岡 啓子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.1011-1017, 2011-11-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9

交流分析の中で近年発達してきた人格適応論では,パーソナリティのタイプを6つに分類し,それぞれの適応型に応じた治療のアプローチについて詳しく述べている.それぞれのタイプは異なった治療のドアがあり,それを間違えると治療は進まない.人はそれぞれ思考,感情,行動の3つのいずれかの領域が,人間関係を作る入口(治療のドア)になっている.治療のドアには患者と信頼関係を築く最初の入口となるオープンドア,治療により統合が必要なターゲットドア,そして,早期に触れると防衛的になるトラップドアがあり,それぞれ思考,感情,行動のいずれかに当たる.6つの適応型の脚本と課題,治療のドアと治療のアプローチについて,症例を示しながら解説する.
著者
菊地 裕絵
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.796-800, 2016

<p>摂食障害では疾患に伴う身体的・心理的苦痛や社会機能の低下といったQOLの障害にとどまらず, 死の転帰をとることもある. 自殺は主要な死因の一つであり, 神経性やせ症での自殺による死亡率は1.24/千人年, 自殺による標準化死亡比は31.0であり, 神経性大食症ではそれぞれ0.30/千人年, 7.5と報告されている. 精神疾患の中では, 統合失調症, 大うつ病性障害, 双極性障害, 物質依存に次ぎ, 自殺による死亡率が高い. 摂食障害の中での自殺リスク要因としては排出行動・併存精神疾患の存在, 重症度などが挙げられているが, 軽症例でも自殺リスクは一般人口より高い. また, 摂食障害患者では自殺の意図を伴わない自傷行為が自殺例数に比して他の精神疾患より多いと指摘されているが, 繰り返す自傷行為が周囲の人間の疲弊や治療者の自殺リスクの過小評価につながらないよう注意が必要である.</p>
著者
山内 常生
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.46-51, 2021 (Released:2021-01-01)
参考文献数
3

飢餓状態にある摂食障害患者の生命を救うためには, 入院による厳格な身体管理が不可欠だが, 患者の病識欠如や治療抵抗により入院導入に苦労することも多い. 精神科医療機関では医療保護入院といった法律に基づく非自発的な治療介入も可能だが, その適応基準は明確でなく, 患者の重症度や患者と家族の考え方, 家庭背景や経済状況などさまざまな条件を満たす必要がある. また, 入院後も治療環境上の制限や隔離や身体的拘束などの治療措置には, 医療倫理的配慮だけでなく治療全体への影響についても慎重に検討しなければならない. さらに, 精神科にとって不慣れな身体管理が重荷になることも多く, 内科などと連携して治療が行える総合病院精神科であっても, 摂食障害に併発する独特な身体的問題への対処は容易でなく, 疾患全体の理解と経験が必要となる. 本稿では総合病院精神科である当院での治療経験を踏まえ, 精神と身体への適切な治療介入について検討する.
著者
永田 頌史
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.25-33, 2005
参考文献数
15

社会, 経済, 教育, 医療, 福祉などあらゆる分野で変革が進行中であり, ストレスやストレス関連疾患が増え, 心身医学へのニーズは高まっているが, 課題も少なくない. 本稿では次の4つの点について述べた. 1)喘息, アレルギーに関する病因論の変遷と心身相関を明らかにするための基礎的実験および臨床研究, 喘息の包括的治療に関するガイドラインについて. 2)変革の時代における職場のストレス増加と筆者が関係している産業医学の領域での心身医学の必要性, 近年進められているメンタルヘルス対策およびわれわれの仕事内容について. 3)医療情勢の変化と心身医学へのニーズの変化, 直面している問題と対策について. 4)心の時代とよばれる21世紀における心身医学の展開について述べ, 心身医学の将来の発展という視点から筆者の考えを述べた. 現代は変革の時代とよばれ, 近代史の中でも明治維新, 第二次大戦後に次ぐ3番目の大きな変化が, 産業, 経済, 教育, 医療, 福祉など社会全体で進行中である. 変革には痛みを伴うことが多く, 社会のさまざまな領域でストレスが増え, 心身の健康を損う人が増えている.
著者
田山 淳
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.245-253, 2011-03-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
20
被引用文献数
2

本研究では若年者における携帯電話依存に着目し,心理的ストレス反応および登校行動との関連を検討することを目的とした.657名の高校生を対象に携帯電話依存とストレス反応についての質問紙調査を実施した.結果として,高校生の携帯電話依存は,ストレス反応を増悪させることが明らかになった.また,携帯電話依存によって増悪したストレス反応は,携帯電話依存を増強することも明らかになった.さらに,携帯電話依存度の高い高校生においては,登校行動不良が引き起こされることが示唆された.携帯電話は,若年者においても利用価値の高いツールの1つになっている.しかしながら,携帯電話依存は,さまざまな心理・行動レベルの異常を誘発する可能性がある.
著者
古川 智一 中野 博 平山 健司 棚橋 徳成 吉原 一文 須藤 信行 久保 千春
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.790-798, 2011
参考文献数
51
被引用文献数
1

閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)は,のちに患者であることが判明した新幹線運転士の居眠り運転にみられるように,その社会的インパクトから最近注目されるようになった.また,OSAと合併症である高血圧,心血管障害,脳卒中との関連についても,多くの研究結果から明らかにされてきている.OSAの主症状であり日常的によくみられるいびきは,いびき症者のみならずベッドパートナーの睡眠も妨げるため重要な問題である.質問紙を用いた主観的ないびきと心血管障害との関連が過去の疫学研究によって報告されているが,そのいびきはOSAの代理指標とされ,OSAのないいびき症の臨床的意義についてはあまり注目されていなかった.しかし,最近の研究でいびきがOSAとは独立して眠気や血圧上昇に関与することが示唆されており,今後その臨床的意義について明らかにされることが望まれる.
著者
網谷 東方 網谷 真理恵 浅川 明弘 乾 明夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.1013-1022, 2016

<p>悪液質がもたらす栄養不良には, 食欲不振が大きく影響している. さらに, 炎症性サイトカインに誘発される全身の炎症反応による代謝異常のため, 骨格筋分解の亢進, インスリン抵抗性, 脂質分解の亢進などの同化障害と異化亢進された状態にある. この代謝障害が高度になり, 悪液質のステージが, "前悪液質 (precachexia)", "悪液質 (cachexia)", "不応性悪液質 (refractory cachexia)" と進行すると, 栄養補給を行っても有効に同化することができず, 栄養不良は不可逆的な状態になる. そのため, 悪液質のステージを評価し, 適切な栄養管理を行うことが重要となる.</p>
著者
古井 景
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.137-143, 2019 (Released:2019-03-01)
参考文献数
4

公認心理師法第42条第2項において, 公認心理師は主治の医師の指示を受けなければならないとされている. その一方で, 公認心理師の業務は診療補助行為ではないとされている. 医療領域における公認心理師の位置づけについては, さまざまな課題が残されており, 今後解決していかなければならない. 近年, bio-psycho-social modelが重視されてきており, 公認心理師がbioとsocialのつなぎ役を担うことになろう. 本論では, 医療に関わる公認心理師 (医療心理士) の位置づけについて整理し, 今後の役割について, 私見を述べた.
著者
三宅 典恵 岡本 百合
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1360-1366, 2015

大学生は思春期の自己同一性の問題が出現する時期であり,メンタルヘルス問題を生じやすい.特に新入生は,入学後の環境変化も大きいことから,新生活への悩みを抱え,不安やうつ傾向の高さが指摘されている.メンタルヘルス問題を抱えると,学生生活への影響も大きく,不登校やひきこもりのリスク要因となるため,早期発見や治療が重要である.そうした中で,大学内の保健管理センターを利用する学生も増加の一途である.メンタルヘルス相談に訪れた学生の精神科診断ではうつ病や不安症が多く,摂食障害や発達障害の相談も増加している.本稿では,大学生に多くみられる精神疾患,その早期発見や治療,支援に向けての取り組みについて述べる.
著者
坪井 康次
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.269-275, 1989

In this paper, the disturbance of interpersonal relationship and eating behavior of the neurotic patients with somatic complaints, so called somatizing patients, were discussed.It was said that they have a tendency not to express their emotions and psychosocial background. Then, they may be unable to have intimate relationship with others because of their personality characteristics and this is seen particularly in doctor-patient relationship.It might be also true that one's nehavior toward other persons reflects the characteristics of their interpersonal relationship in various situations. Especially, this fact is remarkable in eating situations, where interpersonal distance becomes close.Therefore, I tried to compare the eatin behavior at home, the attitude of communication with family, and awareness of emotional state, between somatizing patients with neuroticism and normal controls. The results were as follows.1) Irregularity of eating behavior was more frequently seen in neurotic oatients than in the control group.2) In the patient group, the attitude of communication with their family was negative, compared with control group.3) Patients with neuroticism tend to recognize themselves as calm, not-tense and not-irritable persons, as compared with normal controls.Moreover, a discussion was included as to one case, who was suffering from both irritable bowel syndrome and social phobia, and who felt very tense at eating situation such as together with his friends, in terms of his disturbance of interpersonal relationship and eating behavior.
著者
船場 美佐子 河西 ひとみ 藤井 靖 富田 吉敏 関口 敦 安藤 哲也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.330-334, 2021 (Released:2021-05-01)
参考文献数
24

難治性の過敏性腸症候群 (IBS) に対する心理療法の1つとして, コクラン・レビューでは認知行動療法 (CBT) の有効性が示されている. 本稿では, 近年日本で臨床研究が実施されている, IBSに対する 「内部感覚曝露を用いた認知行動療法 (CBT-IE)」 とその構成要素, CBT-IEの臨床研究の動向を紹介する.