著者
田中 真理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.427-437, 2001-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

本研究では, 知的障害者のメタコミュニケーションの機能の特性について検討した。特に, 伝達相手にとって明確になるように相手の特性に応じて発話内容を構成するためのメタコミュニケーションについて検討した。知的障害者30名 (MA3:9~6:10・CA21:0~53:0の知的障害者15名とMA7:8~10:8・CA15:10~18:2の知的障害者15名) と, 非知的障害児20名 (6歳児10名, 9歳児10名) を対象に比較検討した。課題は同じ物語内容を発達レベルや関係性の異なる複数の他者に伝達することであった。これらの伝達内容の違いを分析した結果, 以下の3点において知的障害者の方が非知的障害児に比べ, メタコミュニケーションがより機能していたことが示唆された。言語的な側面については,(1) 相手の特徴を正確に分析し, 相手の受け止め方を予測することのできる推理力をもち, そうしようとする志向性がある,(2) 相手の特性を今直面しているコミュニケーション場面に適用し効果的に行うという点であった。また, 非言語的な側面については,(3) 相手の注意や関心を自分に向けるための行動要求や伝達内容をわかりやすく伝えるための行動的工夫がみられるという点であった。
著者
熊野 道子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.456-464, 2002-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
35
被引用文献数
4 2

この研究の目的は, 自己開示の状況的要因の1つで, 自己開示のきっかけとなる要因である尋ねることに着目し, 自ら進んでの自己開示と尋ねられての自己開示の相違を検討することである。315名の大学生を開示内容が社会的に望ましい場合 (159名) と社会的に望ましくない場合 (156名) に分け, 自ら進んで開示する場合と尋ねられて開示する場合のそれぞれに, 自己開示の程度, 動機, 開示後の気持ちについて回答を求めた。その結果, 以下のことが明らかになった。(1) 開示程度については, 開示内容が社会的に望ましくない場合は, 自ら進んでより尋ねられて開示する程度が高かった。(2) 開示動機については, 自ら進んで開示する場合は感情性を動機として開示が行われやすく, 尋ねられて開示する場合は規範性を動機として開示が行われやすかった。(3) 開示後の気持ちについては, 不安といった否定的な感情では, 自ら進んで開示する場合も尋ねられて開示する場合も, 統計的有意差が認められなかった。一方, 肯定的な感情では, 自ら進んで開示する場合は安堵感が高く, 尋ねられて開示する場合は自尊心が高かった。
著者
大塚 雄作 犬塚 美輪 高橋 登
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.228, 2021-03-30 (Released:2021-11-16)

修正 「Ⅰ.選考経過」の「2.選考委員」のリストに以下を追加。 金山元春
著者
平野 真理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.343-354, 2012
被引用文献数
4

本研究の目的は, 「生得的にストレスを感じやすい」というリスクを, レジリエンスによって後天的に補うことができるかを検討することであった。18歳以上の男女433名を対象に質問紙調査を行い, 心理的敏感さと, 資質的レジリエンス要因(持って生まれた気質の影響を受けやすい要因)・獲得的レジリエンス要因(後天的に身につけやすい要因)の関係を検討した。分散分析の結果, 心理的敏感さの高い人々は資質的レジリエンス要因が低い傾向が示されたが, 獲得的レジリエンス要因については敏感さとは関係なく高めていける可能性が示唆された。次に, 心理的敏感さから心理的適応感への負の影響に対する各レジリエンス要因の緩衝効果を検討したところ, 資質的レジリエンス要因では緩衝効果が見られたものの, 獲得的レジリエンス要因では主効果のみが示され, 敏感さというリスクを後天的に補える可能性は示されなかった。また心理的敏感さの程度によって, 心理的適応感の向上に効果的なレジリエンスが異なることも示唆され, 個人の持つ気質に合わせたレジリエンスを引き出すことが重要であることが示唆された。
著者
井澤 信三
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.91-103, 2021-03-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
49
被引用文献数
1

本研究では,わが国における特別支援教育にかかわる教育心理学研究の動向を概観した。はじめに,特別支援教育や教育心理学に関連する主要な学術雑誌を「障害に直接関連しない学術雑誌」と「障害に直接関連する学術雑誌」に大きく分け,それごとに,最近(2017年1月から2020年9月)における「障害に関連する研究」についての数量とその内容からの整理・分析を行った。さらに,自閉スペクトラム症児における介入研究の動向と介入研究が学校教育に貢献できるための方略について文献検討を行った。主として,(1)モノとヒトの環境を最適化していくための1つとしてのエビデンスに基づく実践という捉え方,(2)エビデンスに基づく実践を環境に組み入れる意義,(3)エビデンスを学校教育の実践につないでいくための方向性,また,(4)今後の学校教育に求められるエビデンス,といった4点の視点から論考した。
著者
藤井 美保子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.87-96, 1999-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
5 1

This study ontogenetically examined the relation between the ability of speech and gesture production. Four-year-old preschoolers, 5-year-old preschoolers, 1-3rd graders, 4th-6th graders, and university students (N=56) were instructed to explain a swing and a slide verbally. Their explanation was video-recorded and analyzed. The results showed that, although the total duration of speech production increased linearly as a function of age, the frequency of gestures changed tracing a U-shaped pattern. Gesture production decreased in school children but not in university students. Each group produced gestures different from those of other participants with regard to the pattern. Beats were produced only by university students while the viewpoint of gestures and speech-gesture relations differed between groups. Only university students produced gestures regarded to be profoundly related to language competence. Gestures produced during the early period of human development were considered complementary to language competence, while those produced by adults were seen as redundant to their speech.
著者
水野 君平 太田 正義
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.501-511, 2017
被引用文献数
7

<p> 本研究の目的は,スクールカーストと学校適応の関連メカニズムについて,社会的支配志向性(SDO)に着目し,検討することであった。具体的には,自己報告によって生徒が所属する友だちグループ間の地位と,グループ内における生徒自身の地位を測定し,前者の「友だちグループ間の地位格差」を「スクールカースト」と定義した。そして,SDOによるグループ間の地位から学校適応感への間接効果を検討した。中学生1,179名を対象に質問紙調査をおこなった結果,グループ内の地位の効果が統制されても,グループ間の地位はSDOのうちの集団支配志向性を媒介し学校適応感に対して正の間接効果を持った。つまり,中学生において,SDOを介した「スクールカースト」と学校適応の関連メカニズムが示された。考察では,集団間の地位格差を支持する価値観を通して,高地位グループに所属する生徒ほど学校適応が向上する可能性が議論された。</p>
著者
井上 信子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.10-19, 1986-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
6 3

Purposes: (1) to examine the relationship between self-esteem and academic performance or popularity by clarifying the feature of self-esteem individually,(2) to investigate, as every self-esteem type, how children cope with unsuccessful problems in terms of the number of unsuccessful problems they select, how they solve them (mental set), and how they increase their anxiety. Subjects: Fifth grade children (n=69) were divided into five groups (7 subjects each) of self-esteem types, namely high-high (HH), high-low (HL), middle-middle (MM), low-high (LH) and low-low (LL), to score their answers of a questionaire and their behaviour related to self-esteem. Results: HHs have stable self-esteem and get high score in unsuccessful problem selection, mental set and anxiety. LLs have helpless and negative image of themselves and get lowest score in all three problems. HLs and LHs have unstable self-esteem and get various scores according to their stressed conditions.
著者
吉野 巌 山田 健一 瀧ヶ平 悠史
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.143-155, 2014 (Released:2015-03-27)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

本研究は, 演奏者の映像が楽曲の認知に及ぼす影響と鑑賞授業での有効性について検討したものである。研究1は, 小学校5年生と大学生を対象に, 聴取した楽曲に対する感情価評定と自由記述の量・内容が音響のみ条件と映像付き条件とで異なるかどうかを比較した。その結果, 演奏者の映像は, 基本的な感情的性格の認知にはほとんど影響しないが, 5年生が楽曲の特徴を認知し記述するのを妨害する(大学生に対しては促進する)ことが示された。研究2では, 研究1の結果から立てた仮説「楽曲の諸要素の認知や情景のイメージには音のみ聴取が効果的であり, 演奏表現や楽器の認知, 動機づけの喚起には映像提示が効果的である」について, 小学校4年生の鑑賞授業で2種の教授法を比較することにより実践的に検討した。この結果, 楽曲の諸要素の認知や情景のイメージについてはほぼ仮説通り, さらには楽器の認知でも, 音のみで鑑賞することの優位性が示された。演奏表現に関しては有効な教授法が複数の下位項目間で分かれ, 動機づけに関しては教授法間で差が認められなかった。両者の視聴形態の効果をふまえた上での, 学習目的に応じた授業計画の必要性について議論する。
著者
小堀 友子 上淵 寿
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.359-370, 2001-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本研究では, 情動のモニタリング操作による学習への影響を明らかにすることを目的とした。情動制御過程から「情動制御のスムーズさ」と「情動制御レパートリー」の2つの側面をとりあげ, 学習に集中できない子どもを対象に介入を行った。その結果, モニタリング操作を導入することで, 情動制御のスムーズさおよび情動制御レパートリー数に変化が見られた。また, 操作導入後の方が喚起された情動に伴う学習行動の予測やそれに対する評価が正確になった。最後に, 残された課題について考察を行った。