著者
若松 養亮 白井 利明 浦上 昌則 安達 智子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.201-216, 2019
被引用文献数
1

<p> 日本の進路指導では長い間,「合格すること」に偏重した指導を行ってきたという批判がある。2004年にキャリア教育が始まって以降も,「キャリア=職業」という誤解のために,「夢やつきたい職業見つけ」ばかりが盛んに扇動されるが,その手段や方法が指導されず,キャリア発達を高める指導も二の次にされる弊害がある。本論文では,進路意思決定,時間的展望,自己効力感,ジェンダーの4つの研究の蓄積をもとに,それを超える指導とはどのようなものか,また進路指導やキャリア教育で目標とされる「社会的・職業的自立」に結びつく支援はどのようなものかが論じられた。最後の節では,4つの論考をふまえて,今後の進路指導とキャリア教育への提言が論じられた。</p>
著者
豊沢 純子 唐沢 かおり 福和 伸夫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.480-490, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
23
被引用文献数
24 13

本研究は, 脅威アピール研究の枠組みから, 小学生を対象とした防災教育が, 児童の感情や認知に変化を及ぼす可能性, および, これらの感情や認知の変化が, 保護者の防災行動に影響する可能性を検討した。135名の小学校5年生と6年生を対象に, 防災教育の前後, 3ヵ月後の恐怖感情, 脅威への脆弱性, 脅威の深刻さ, 反応効果性を測定した。また, 防災教育直後の保護者への効力感, 保護者への教育内容の伝達意図と, 3ヵ月後の保護者への情報の伝達量, 保護者の協力度を測定した。その結果, 教育直後に感情や認知の高まりが確認されたが, 3ヵ月後には教育前の水準に戻ることが示された。また共分散構造分析の結果, 恐怖感情と保護者への効力感は, 保護者への防災教育内容の伝達意図を高め, 伝達意図が高いほど実際に伝達を行い, 伝達するほど保護者の防災行動が促されるという, 一連のプロセスが示された。考察では, 防災意識が持続しないことを理解したうえで, 定期的に再学習する機会を持つこと, そして, 保護者への伝達意図を高くするような教育内容を工夫することが有効である可能性を議論した。
著者
太田 絵梨子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.204-220, 2021-06-30 (Released:2021-07-21)
参考文献数
26
被引用文献数
4

高校数学では,基礎的な概念の理解や数学的表現力の育成が重視されており,テストなどの学習評価でもそうした観点での診断が求められている。一方,概念的理解やその表現を問うテストとは具体的にどのようなものであり,そうしたテストの実施が教育現場の課題の解決にどのように資するかについては十分検討されていない。そこで本研究では,研究者が心理学的な視点を生かして行なった学習評価に関する提案を高校数学の実践場面で検討した。具体的には,(1)高校数学における概念的理解を評価するテストの考案,(2)テストを受験した高校生のつまずきの分析,(3)高校生による概念的理解の実態に対する教師の認識の検討,の3点を行なった。分析の結果,基礎的な概念の理解や数学的表現に課題が見られ,教師が生徒の理解の実態を必ずしも把握できているとは言えないことが明らかになった。また,結果を教師にフィードバックした際のグループディスカッションの様子から,教師が学習者の理解状況に対する認識を修正し,日常的な評価や授業でも概念的理解を問う必要性を感じていたことが示された。最後に,数学における学習評価の研究及び教育実践に対する示唆と展望について論じた。
著者
芳賀 純
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.82-84,132, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

北海道全域から抽出した中学校3年生1267名を被検者にしてNHKラジオ放送によつて英語聞き取り検査を施行し, 標準化した。この検査は6項目の聞き取り能力の下位検査からなり, ペーパーによる英語標準検査とは.780の相関値をもつ。問題の録音吹込みは経験を経た日本人教師によつてなされたために, この聞き取り検査は教室場面で経験を経た英語教師がテープなしに問題を読むことによつて近似的に生徒の能力を測定・評価することも可能である。なお今後の研究は, この結果を基礎として外人教師が問題を吹込んだ場合との比較および分析が必要である。
著者
竹村 明子 仲 真紀子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.211-226, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
55
被引用文献数
1

二次的コントロール(Secondary Control : SC)(Rothbaum, Weisz, & Snyder, 1982)とは, 状況に合わせて個人が変わる過程を表す概念であり, 集団主義的文化や高齢者心理の特徴を理解するために重要な概念として期待されている。しかし, SC概念は研究者ごとに捉え方が異なり, 研究結果の比較を妨げる障害となっている。本稿は, このようなSC概念に関する研究者間の一致・不一致を整理することを目的に, 関連研究のレビューを行った。その結果, 1) SCの概念構造に関して, 階層構造を想定する立場と単層構造を想定する立場があること, 2)一次的コントロール(Primary Control : PC)とSCの関係において, PCとSCと諦めの位置づけおよびPCとSCの区分基準, PCに対するSCの機能性に関する考え方に研究者間の違いがあること, などを見出した。さらに, 3)統制感の維持に焦点を当てる立場と状況との調和に焦点を当てる立場, 4)行動と結果の随伴性認知を必然と捉える立場と偶然と捉える立場, 5)SCの統制主体を自分以外と捉える立場と自分自身と捉える立場, などの考え方の違いにより想定されるSCの機能性が異なることを明らかにし, 今後の課題について考察した。
著者
大西 彩子 黒川 雅幸 吉田 俊和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.324-335, 2009
被引用文献数
12

本研究の目的は, 児童・生徒が教師の日常的な指導態度をどのように捉えているのかということ(教師認知)が, 学級のいじめに否定的な集団規範と, いじめに対する罪悪感の予期を媒介して, 児童・生徒のいじめ加害傾向に与える影響を明らかにすることである。547名(小学生240名, 中学生307名)の児童・生徒を対象に, 教師認知, 学級のいじめに否定的な集団規範, いじめに対する罪悪感予期, いじめ加害傾向を質問紙調査で測定し, 共分散構造分析による仮説モデルの検討を行った。主な結果は以下の通りであった。(1) 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期は, 制裁的いじめ加害傾向と異質性排除・享楽的いじめ加害傾向に負の影響を与えていた。(2) 受容・親近・自信・客観の教師認知は, 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期に正の影響を与えていた。(3) 怖さの教師認知と学級のいじめに否定的な集団規範は, いじめに対する罪悪感に正の影響を与えていた。(4)罰の教師認知は, 制裁的いじめ加害傾向と異質性排除・享楽的いじめ加害傾向に正の影響を与えていた。本研究によって, 教師の受容・親近・自信・客観といった態度が, 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期を媒介して, 児童・生徒の加害傾向を抑制する効果があることが示唆され, いじめを防止する上で教師の果たす役割の重要性が明らかになった。
著者
鹿毛 雅治 並木 博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.36-45, 1990-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
11 19

The purpose of the present study was to investigate the effects of evaluation structure on children's intrinsic motivation and learning. The following three experimental conditions were set up in terms of the mode of feedback given to the pupils: norm-referenced evaluation, criterion-referenced evaluation, and self-evaluation. Each of the three classes of sixth graders was randomly assigned to one of the experimental conditions. The learning material was composed of several pages of programmed sheets. The pupils were given feedback based on the result of tests corresponding to the three experimental conditions. The dependent variables consisted of several measures of intrinsic motivation obtained from behavioral indicators and questionnaires. Results indicated that higher intrinsic motivation was revealed in the criterion-referenced evaluation group than in the normreferenced evaluation group. And the results of a questionnaire showed that increasing pressure was experienced in the norm-referenced evaluation group relative to the criterion-referenced evaluation group. Furthermore, ATI effect was observed between intelligence and the three conditions when perceived competence was used as a dependent variable.
著者
阿部 望 岸田 広平 石川 信一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.64-78, 2021-03-30 (Released:2021-05-01)
参考文献数
39
被引用文献数
4

本研究では,学校の実情に合わせた2つの強み介入を実施し,強み介入が中学生の精神的健康(生活満足度・抑うつ症状)に及ぼす効果について検討することを目的とした。研究1の強み認識・注目介入(自己や他者の強みを認識・注目させる介入)では中学3年生128名が対象であり,研究2の強み認識・注目・活用介入(自己や他者の強みを認識・注目させ,自己の強みを活用させる介入)では中学3年生87名が対象であった。分析の結果,研究1で実施した強み認識・注目介入は,生活満足度の向上に対してのみ効果があることが示唆された。一方,研究2で実施した強み認識・注目・活用介入は,生活満足度の向上と抑うつ症状の低減の両方に対して有効であることが示唆された。次に,効果的な強み介入の構成要素を探るために,介入の構成要素と対応する既存の強み変数の変化と精神的健康の変化の関連について探索的に検討した。その結果,強みの認識と他者の強みへの注目の変化が生活満足度の変化と正の関連を示し,強みの活用感の変化が抑うつ症状の変化と負の関連を示した。これらの結果から,生活満足度を向上させるためには強みの認識と他者の強みへの注目が重要であり,抑うつ症状を低減させるためには強みの活用が重要である可能性が示された。最後に本研究の課題と今後の展望について議論された。
著者
三和 秀平 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.426-437, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
38
被引用文献数
13 5

本研究は, 教師の学習の特徴を踏まえた“教師の教科指導学習動機尺度”を作成しその妥当性および信頼性を検討すること, またその特徴を検討することを目的とした。研究1では教師202名を対象に, 予備調査によって作成された原案54項目を用いて因子分析を行った。その結果, “内発的動機づけ”, “義務感”, “子ども志向”, “無関心”, “承認・比較志向”, “熟達志向”の6因子29項目から構成される教師の教科指導学習動機尺度が作成され内容的な側面の証拠, 構造的な側面の証拠および外的な側面の証拠が一部確認され, 尺度の信頼性も確認された。研究2では現職教師243名および教育実習経験学生362名を対象に, 分散分析により教師の学習動機の違いについて検討した。その結果, 特に現職教師と教育実習経験学生との間に学習動機の差が見られ, 教育実習経験学生は“承認比較志向”が高いことが示された。研究3では教師157名を対象に, 教師の学習動機とワークエンゲイジメントとの関係について重回帰分析により検討した。その結果, 特に“内発的動機づけ”, “子ども志向”, “承認・比較志向”がワークエンゲイジメントと正の関連があることが示された。