著者
湯澤 正通 湯澤 美紀 関口 道彦 李 思嫻 齊藤 智
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.491-502, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
12
被引用文献数
3 2

本研究では, 日本語母語者の音韻処理特徴に応じた年少児向けの英語音韻習得方法の効果を検討した。本研究で検討したのは, 英語の音素を表現する手段として文字, 絵, 動作を学習し, それらの多感覚的な手段を用いて英単語の音声を分析したり, 音素から英単語の音声に統合したりする活動を行うという方法(多感覚音韻認識プログラム)であった。多感覚音韻認識プログラムに基づいた活動を継続的に行った多感覚認識I(5~6歳児35名), メディアを用いて, 英語の音素や単語の発声, 英語の歌の活動を行った音声体験(4~6歳児26名), 音声体験プログラムに続けて, 多感覚音韻認識プログラムに基づいた活動を行った多感覚認識II(4~6歳児22名), 同年齢の統制について, 英語音韻習得能力の指標となる3つの課題の成績を比較した。その結果, 1)多感覚認識IIは, 他の群よりも音韻認識課題の成績が良かった。2)多感覚認識I, 多感覚認識IIは, 統制よりも, また, 多感覚認識IIは, 音声体験よりも, 1音節反復課題の成績が良かった。3)多感覚認識IIは, 他の群より非単語反復課題の正答数や音節再生数が多かった。
著者
稲垣 実果
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.56-66, 2013 (Released:2013-09-18)
参考文献数
37
被引用文献数
6 1

本研究では, まず研究1において思春期(中学生)・青年期(高校生, 大学生および専門学校生)における自己愛的甘えの程度および質についての発達的変化を検討した。さらに, 研究2においては自我同一性の形成に対する自己愛的甘えの影響を検討するため, 自己愛的甘え尺度と多次元自我同一性尺度との関連について青年期である高校生と大学生および専門学校生との間で比較検討した。その結果, 中学生・高校生・大学生および専門学校生の全ての段階で, 自己愛的甘えの3つの構成概念(「屈折的甘え」「配慮の要求」「許容への過度の期待」)は同様に仮定できることが明らかになった。また, 思春期(中学生)においては「甘え」の欲求はあるが, 自己愛的甘えについての自覚が低いのに対し, 青年期(高校生・大学生および専門学校生)になると自己愛的甘えに対する自覚が高くなることが示された。さらに, 高校生においては自己愛的甘えが自我同一性に部分的に関わっているが, 大学生以降になると高校生に比べ自己愛的甘えの問題がより広く自我同一性の問題に関わってくることが示唆された。
著者
上長 然
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.21-33, 2007-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
44
被引用文献数
4 1

本研究は, 思春期の身体発育と抑うつ傾向との関連について, 思春期の身体発育の発現が直接抑うつ傾向に影響するのか, 思春期の身体発育が発現に対する受容感や身体変容行動を媒介として抑うつ傾向と関連するのかを検討することを目的として実施した。中学生870名 (男子445名, 女子425名) を対象に思春期の身体発育の発現状況, 思春期の身体発育の発現に対する受容感, 身体変容行動 (体重減少行動・体重増加行動), 露出回避行動, 身体満足度, 抑うつ傾向について測定した。その結果, 1) 男子においては思春期の身体発育の発現は抑うつ傾向と直接的にも間接的にも関連していなかった。2) 女子においては, 皮下脂肪がついてきたことにおいて抑うつ傾向と直接的な関連がみられたが, 他の身体発育では見られなかった。3) 女子においては, 思春期の身体発育の発現は, 発現に対する受容感が身体満足度と露出回避行動を媒介にして抑うつ傾向に関連するという構造が示された。
著者
伊藤 忠弘
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.42-52, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
50
被引用文献数
4 1

本稿はまず日本教育心理学会第53回総会での研究発表570件のうち社会領域に関連する245件の動向を確認した。本年度は学校組織や教師, 教師集団についての研究が増加した。子どもの対人関係や学級適応といったテーマも相変わらず関心が高かった。次に最近1年間に発表された本邦における対人関係と関係性を扱った社会心理学的研究の動向を概観した。これらの研究のテーマは, (1) クラスの中での逸脱行動への同調および社会的比較, (2) 青年期の対人関係の親密性と排他性, および希薄化, (3) 親密な関係が個人にもたらす機能(関係効力性, 社会的動機づけ), (4) 対人関係の否定的側面(関係性攻撃, 引きこもり), (5) 対人関係を支える対処行動や感情(罪悪感, 感謝, 共感性), ソーシャル・スキル, を含んでいた。関係性を間主観的な概念として捉えようとする試みや相互作用過程を解明しようとする試みが行われていることが明らかになった。
著者
長峯 聖人 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.175-186, 2021-06-30 (Released:2021-07-21)
参考文献数
45
被引用文献数
3

近年では,制御焦点と具体的な他者との関連についての研究が増加している。その中で長峯他(2019)は,競争場面における他者に着目し,特性として促進焦点的な個人にとってはライバル関係が適応的な結果につながることを示した。本研究は長峯他(2019)の知見を踏まえ,競争場面において,特性として防止焦点的な個人にとってはチームメイトとの関係が適応的な結果につながるかどうかを検討した。加えて長峯他(2019)に倣い,制御焦点の差異がチームメイトとの関係による影響を介し,チームへのコミットメントおよび集団的な動機づけに影響するかどうかを併せて検討した。大学生アスリートを対象とした調査研究の結果,まず特性として防止焦点的な個人はチームメイトとの関係によって義務自己の顕在化が生じやすいことが示された。さらに防止焦点的な個人は促進焦点的な個人よりもチームへの規範的コミットメントおよび集団的な動機づけの程度が高いことが明らかになった。加えて,それらの関連は,義務自己の顕在化によって媒介されることが併せて示された。最後に,本研究で制御焦点との関連がみられなかった変数に関する考察が行われた後,課題と今後の展望について議論された。
著者
三和 秀平 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.26-36, 2021-03-30 (Released:2021-05-01)
参考文献数
45
被引用文献数
7

本研究の目的は,小学校教師の動機づけと子どもの動機づけの関連を検討することおよび自律性支援の媒介の効果を検討することであった。そのために,2つの研究を行った。研究1では,90名の小学校教師を対象に質問紙調査を実施し,教師の動機づけと教師の認知する自律性支援との関連を検討した。その結果,内発的動機づけ,子ども志向,義務感と自律性支援との間に正の関連が,承認・比較志向と自律性支援との間に負の関連がみられた。研究2では,教師35名とそのクラスに在籍する子ども1,097名を対象に質問紙調査を実施し,教師の動機づけと子どもの動機づけの関連および自律性支援の媒介の効果を検討した。その結果,教師の子ども志向が子どもの認知する自律性支援を介して子どもの内的調整と正の関連を示すことが示唆された。また,熟達志向は直接的に子どもの取り入れ的調整と負の関連を示していた。研究1,研究2ともに子ども志向が自律性支援や子どもの動機づけと関連しており,“子どものため”といった教師の他者志向的な動機づけのポジティブな側面が明らかとなった。
著者
遠藤 由美 吉川 左紀子 三宮 真智子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.85-91, 1991-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
7
被引用文献数
4 1

When parents scold their children, they give various types of reproaching utterances to them.The purposes of this study were to find out the types of scolding utterances and to see whether same types of information were contained in them. At least1670scolding utterances of parents were collected from306fifth and sixth graders and 302 undergraduates, and were classified into 14 categories. Direct utterances such as ‘do this’ or ‘do not do that’ made about one third of the total data while the others were made of many types of indirect utterances (Study1).The analysis of the verbal reactions of the recipients showed that reactions depended on types of scolding utterances (Study2).It was suggested that vaious types of scolding utterances contained different types of information.
著者
柏木 恵子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.48-59, 1972-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
8
被引用文献数
8 6

青年期における性役割の認知構造とその発達過程を明らかにすることを目的として, 質問紙法によって得られた資料について因子分析的手法による処理, 分析を行なった。その結果, 次の諸点が明らかにされた。1. 性役割識別の次元として男性役割に関する次元の第I因子 (知性), 第III因子 (行動力), 女性役割に関する次元の第II因子 (美・従順) が抽出された。2. 次元ごとの因子得点につきグループ間の差の検討を行なった結果, 行動力の次元がもっとも高く, 逆に美・従順の次元はもっとも低いことが見出された。3. 因子得点の平均および分布型から, 各次元の性役割識別性についての発達的変化が検討された。その結果, 行動力, 美・従順の2次元については有意な発達的変動はみられないが, 知的次元は, とくに男子において年齢段階による有意な変化が認められた。4. 性役割の認知パターンとその発達の仕方には, 男女により異なる特徴が見出された。すなわち, 男子は中学生では女性にも美・従順とともに知性も期待する複合的なものが, 高校以上になると, 男性には行動力と知性, 女性には美・従順という風に男女に対して分化した認知パターンが成立する。他方, 女子は, 男性に対しては行動力, 知性を期待するが, 女性に対する役割特性の認知は消極的で, 美・従順次元の性役割識別性は男子に比べて有意に低い。
著者
立林 尚也 田中 敏
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.34-43, 1996-03-30 (Released:2013-02-19)

Many teachers have seen children behaving peculiarly for scientific materials and events, and believed that a child might have “good sense” as the greatest scientists might have in their childhood. This study was designed to explore factors that disposed peculiarly-behaving children (PBC) for their own activities. Seventy-seven PBC, from grades 3 to 6, were chosen as “peculiar but anything good” from thirty-nine elementary classes and were asked to rate their motivation for each of the fifty-seven behavioral episodes collected from many school informants of other PBC in scientific classrooms. Factor analysis suggested five behavioral factors; expectative and imaginative exploration, impulsive trying action, assimilating to creatures, focusing and concentration, and task creation. Further analysis revealed that these factors were not recognized plainly and teachers would not evaluate them as such.