著者
岡田 隆平 角田 篤信 籾山 直子 岸根 有美 喜多村 健 岸本 誠司 秋田 恵一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.8, pp.791-794, 2012 (Released:2012-10-06)
参考文献数
10
被引用文献数
6 13

困難な術式や新しい術式に際して術前に解剖体を用いて解剖学的理解を深めることは有意義であるが, 従来のホルマリン固定による解剖体では組織の硬化が強く, 術式に即して展開することが困難であった. Thiel法は1992年に発表された解剖体の固定方法で, 生体とほぼ同じ質感を維持することができ, 病原体による感染の危険性を伴わない. 本固定法で処理された解剖体は組織が柔らかく, 実際の術式に即したかたちで解剖, 検討することができ, 術前の解剖学的検討に有用と考えられた. 本法は他の解剖体固定法と比していくつもの有利な点があり, 術式検討に加え, 新しい手術機器の開発, 外科医の技術評価にも有用であると考えられる.
著者
平野 実 宮原 卓也 宮城 平 国武 博道 永嶋 俊郎 松下 英明 前山 忠嗣 讃井 憲威 川崎 洋 野副 功 広瀬 肇 桐谷 滋 藤村 靖
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.1189-1201, 1971-07-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

研究目的: 歌唱に際して声区, ピッチ, 声の強さなどがどの様にして調節されているかを, 一流の声楽家について明らかにし, 発声法の訓練, 指導に資するとともに, 音声調節のメカニズムの解明にも寄与することを目的とした.研究方法: 本邦第一級のテノールとして活躍中の一声楽家を対象として, 種々の発声中の喉頭筋々電図記録, 呼気流率測定, 声帯振動の高速度映画撮影を行っ.研究成績および結論: 1. 声区は声帯筋によつて第一義的に調節される. 声帯筋はheavy registerでは強く収縮するが, light registerではほとんど収縮しない. 従つて, heavy registerでは声帯が厚く, 粘膜波動は著明で, 開放時間率が小さく, 開閉速度率は大きい. 呼気流率は一般にlight registerで大きい.2. ピッチの調節機構は声区によつて異なり, 前筋, 側筋, 声帯筋の関与はheavy registerで顕著である. 呼気流率の関与は何れの声区においても認められなかった.3. heavy registerでは声帯筋と呼気流率が声の強さの調節に関与する. light registerでは声帯筋は関与せず, 呼気流率と声の強さの関係が極めて緊密である.4. 声の調節機構はstaticなものではなく, 前後の発声情況によつて変化するdynamicなものである.
著者
鈴木 幹男
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.12, pp.1490-1496, 2019

<p> 頸部腫瘤は先天性, 炎症性, 良性腫瘍, 悪性腫瘍など多くの病態を含んでいる. また発生部位, 発症年齢に特徴的な腫瘤も多い. このような頸部腫瘤の診察に当たって最も重要なことは, 悪性腫瘍を見逃さず, 先入観に固執することなく理学所見・検査にて診断, 治療することである. 本総説では陥りやすいピットフォールとして, 耳下腺腫瘍の良悪性鑑別・悪性転化, 類似した理学所見を呈するものとして耳下腺内顔面神経鞘腫, 側頸部腫瘤,特殊疾患としてリンパ節結核を取り上げ, 自験例を交え概説した.</p>
著者
細谷 誠 藤岡 正人
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.12, pp.1508-1515, 2019-12-20 (Released:2020-01-09)
参考文献数
23
被引用文献数
1

感音難聴に対する治療法の開発は, 診断学の向上に比べて進捗が乏しい. その一つの原因は生検による患者内耳細胞の直接の観察が解剖学的に困難なことにある. これまでに代替手法として細胞株やモデル動物を用いた研究が展開され, 有用な情報をもたらしてきたものの, いまなお未解明な科学的課題も多数残されている. 近年, 既存の手法で克服できなかった科学的課題に対し, ヒト細胞および組織の代替となる新しい研究ツールとして, ヒト iPS 細胞を用いた検討が医学のさまざまな分野で展開されている. 山中らによって2006年にマウスで最初に報告された iPS 細胞だが, 続く2007年にはヒト iPS 細胞の樹立方法が報告され, 約十年の間にその応用方法は飛躍的な発展を遂げている. 本細胞は体内のありとあらゆる細胞に分化誘導可能という特徴を持つ. この性質を利用することによって, 体外で目的の細胞を作成し, 細胞移植治療や病態研究, さらには創薬研究への応用が可能である. 国内においても, すでに網膜や脳に対する移植が臨床研究レベルで行われているほか, 複数の疾患において iPS 細胞を用いて発見された治療薬候補の臨床検討が開始されている. ヒト iPS 細胞を用いた研究は, 内耳疾患研究および治療法開発にも応用が可能である. ほかの臓器と同様に, 本細胞からの体外での内耳細胞誘導が可能であり, 誘導されたヒト iPS 細胞由来内耳細胞を用いた研究が展開できる. 内耳研究においてもこれまでに, ① 細胞治療への応用, ② 内耳病態生理研究への応用, ③ 創薬研究への応用, がなされており, そのほかにも老化研究や遺伝子治療法の開発への貢献などさまざまな可能性が期待されている. 本稿では, ヒト iPS 細胞の内耳研究への応用および iPS 細胞創薬の展望を概説するとともに, 最新の試みを紹介する.
著者
木津 純子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.11, pp.1405-1410, 2019-11-20 (Released:2019-12-06)
参考文献数
12

花粉症を含むアレルギー性鼻炎の患者は増加の一途をたどり, 今や国民病の一つとされている. アレルギー性鼻炎は, 発作性反復性のくしゃみ, (水様性) 鼻漏, 鼻閉を主徴とし, 自動車運転を含めた日常生活に多大な影響を及ぼす. 薬物治療の基本は第二世代抗ヒスタミン薬であり, 病型を問わずすべての重症度で推奨されている. 脳内に移行しにくい非鎮静性第二世代抗ヒスタミン薬は, 眠気の発現が少なく, 抗コリン作用やインペアード・パフォーマンスなども軽減されている. 特に, 2010年以降, 新薬が相次いで販売され, 治療選択肢の幅が広がっている. しかしながら, 眠気が軽減されてはいるものの, 服用患者を対象とした実態調査においては, いずれの第二世代抗ヒスタミン薬を服用しても我慢できないほどの強い眠気を訴える患者が存在し, 眠気の発現には個人差が大きいことが確認されている. 第二世代抗ヒスタミン薬を処方する際には, 服用後にアレルギー症状について効果を確認するとともに, 眠気や作業効率の低下などの発現についても確認することが重要である. さらに, 第二世代抗ヒスタミン薬は, 薬物相互作用, 薬物動態に及ぼす食事の影響などにも違いが認められ, 1日の服用回数や服用時期も異なっている. アレルギー性鼻炎の症状を抑え, 自動車運転を含めた QOL を向上させるには, 個々の患者の生活スタイルや嗜好などについても把握した上で, 患者のアドヒアランスを考慮し, 患者に最も適した薬剤を選択することが重要となる.
著者
牧山 清
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.10, pp.930-931, 2012-10-20
参考文献数
6
被引用文献数
3
著者
松本 智成
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.3, pp.141-150, 2012-03-20
参考文献数
29

1943年の日本での結核死亡率は人口10万対235で, 2010年の約120倍と高く, 結核はかつては死の病もしくは亡国病として恐れられていたが, 標準化学療法の確立により結核患者数は1980年まで大きく減少し, 一時は「結核の流行は終わった」といわれるくらいになった. 一方において世界では, その発生数は増加している.<br>結核の増加とともに問題となっているのは, 耐性結核の問題である. 多剤耐性結核 (MDR-TB) は, 結核治療に重要な抗結核薬であるイスコチン (INH), リファンピシン (RFP) にともに耐性である結核菌と定義される. 最近, さらにフルオロキノロンおよびアミノグリコシド系の抗結核剤にも耐性であり, さらに治療困難である超多剤耐性結核 (XDR-TB) が世界的に広がっており上述の結核の増加の原因になっている.<br>日本におけるMDR-/XDR-TBの問題点は, MDR-TBは感染しづらいという考え方が根強く存在したことである. 結核菌分子疫学解析の大きな成果は, MDR-TB, 特にXDR-TBは日本において主に感染によって広がっていることを提示できたことである. つまり, MDR-/XDR-TBは医療機関内感染だけではなく市中感染によっても広がっているということである.<br>2011年9月14日には, 世界保健機関 (WHO) が, 従来の薬が効かないMDR-TBやXDR-TBの感染が欧州・中央アジア地域で急速に拡大しており, 保健当局が阻止できなければ多くの死者が出ると警告した. 有効な治療法が少なく, かつ莫大な治療経費を必要とするMDR-/XDR-TB対策には, DOTSのみならず, 結核菌分子疫学解析を駆使しながら感染拡大を防止すること, さらに新規抗結核薬の開発が重要な手段の一つになる. 新しい抗結核薬として日本からdelamanid (OPC-67683) が発表された. 今後, MDR-/XDR-TBも含めた結核の治療への貢献が期待される.<br>さらに, 近年, 関節リウマチや膠原病の治療に抗TNF製剤に代表される生物製剤が開発され, その治療の中心的な役割を担うようになってきた. この抗TNF製剤は感染症, 特に結核の発生率を上げ生物製剤使用中の結核対策が重要になってきた. また結核を発症した場合, paradoxical responseへの対策も重要である.
著者
山本 裕
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.2, pp.69-76, 2013 (Released:2013-04-11)
参考文献数
17
被引用文献数
1

耳小骨奇形の病態や分類に関する今までの知見を整理し, 本症に対する術前診断の方法と限界, 適切な手術適応と術式について考察した.耳小骨の発生は胎生5週から7週の軟骨性耳小骨原基の誘導に始まる. その後, 伸長, 接触, 骨化, 吸収などのプロセスを経て, ツチ骨, キヌタ骨は24週までに, アブミ骨は胎生末期で形態が完成する. 臨床上の耳小骨奇形の分類としては, 本邦では船坂の分類が広く用いられており, 極めて有用性が高い. 加えて奇形の部位を耳小骨上の連続的な分布として分析することにより, 耳小骨上の奇形のフォーカスを明らかにすることができた.純音聴力検査の気導聴力閾値のうち, 250Hzと4,000Hzに着目し, それぞれの閾値が40dBを超えるか否かで症例を分類すると, 耳小骨離断を有する症例か, 固着を伴う症例かを8割以上の的中率で予想することが可能であった. 一方, ティンパノグラムや耳小骨筋反射での奇形の型の予測率は高くなかった. CT画像による術前診断はキヌタ・アブミ関節付近の欠損症例での診断率は向上していた.手術適応の決定に際しては, 気骨導差の信頼度, 中耳炎罹患の危険度などの特殊性を十分考慮しなければならない. また, 聴力改善手術を成功させるためには, 発生学的, 疫学的知識をもとに, 正確な病態の把握を行い, 適切な術式を選択し安全な手技で手術を行うことが重要となる. 病態が極めて多彩で, 確定診断は術中に得られるため, あらゆる病態を想定し, 手術の準備を行うことが必要である.
著者
梅野 博仁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.9, pp.1193-1196, 2017-09-20 (Released:2017-10-03)
参考文献数
7
被引用文献数
2
著者
北原 糺
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.9, pp.1165-1172, 2014
被引用文献数
1

1970年代に報告された耳音響放射は, 蝸牛における非線形性と外有毛細胞を中心とする能動運動に由来する音響反応と考えられている. 音響刺激のない場合でも内耳由来と考えられる自発性耳音響放射が検出され, 当初耳鳴との関係が注目された. 結局その関連性は耳鳴患者のごく一部に過ぎないとされたが, これを機に耳鳴を音響生理学的に捉えて他覚化することで, 耳鳴の発生機序, 責任部位の解明, 動物実験との比較, 薬物の効果判定, 新治療法の開発, 詐病としての耳鳴の発見などに新しい期待が出てきた.<br> 1990年代以降は, PET (positron emission tomography), MEG (magneto-encephalography), fMRI (functional MRI) 等の脳機能画像解析検査の普及により, 耳鳴を自覚する脳内賦活化部位の研究が進んだ. これら耳鳴の画像的他覚化の結果を踏まえて, 反復経頭蓋磁気刺激法と呼ばれる非侵襲的脳刺激による治療が検討されるようになった.<br> 最近, 血中の神経栄養因子 BDNF (brain-derived neurotrophic factor) 値が耳鳴の程度と関連があるか検討された. 耳鳴の程度を血中バイオ・マーカーによって他覚化しようとする試みであり, 興味深い分野である.<br> 耳鳴動物モデルを用いた研究では, 動物が耳鳴, つまり外部音なしで音を感じた時にとる行動を, 明確に把握する必要がある. われわれのグループは, 防音室内に音刺激装置と足底電気刺激装置を併せ持つ逃避行動実験装置を設け, 新たなサリチル酸耳鳴動物行動実験系を確立した. さらにわれわれのグループは, サリチル酸耳鳴動物行動実験系を使用して, サルチル酸投与ラットのらせん神経節における侵害受容体 TRPV1 (transient receptor potential cation channel super family V-1) の発現上昇が, サリチル酸耳鳴の発生機構に深く関与していることを証明した.<br> 「耳鳴りの他覚的評価」とは, 耳鳴という通常第三者が聞くことも見ることもできない現象を, 電気生理学的のみならず, 動物行動学的, 分子生物学的なアプローチにより基礎研究的に他覚化し, 臨床検査として他覚化された諸成果とともに, 耳鳴全容の解明, 新しい治療法の発見を可能にする研究分野と考える.
著者
福本 一郎 根本 俊光 佃 朋子 越塚 慶一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.3, pp.201-205, 2015-03-20 (Released:2015-04-17)
参考文献数
14

当科において2009年10月から2011年12月の27カ月間に急性感音難聴として入院加療を行った95例を検討し, 診断後に聴力が悪化した症例とその他対照群とを比較した. 聴力悪化の条件は250Hz から4,000Hz の5周波数の聴力閾値平均が10dB 以上悪化, ないし連続した2周波数で各15dB 以上悪化したものとした. 悪化群は95例中22例 (23.2%) で, 割合については過去の報告と大差はなかった. 突発性難聴の重症度分類を用いると, 悪化群22例は対照群73例に比して難聴のグレードは高かったものの, 聴力予後は不良ではなかった. 22例の中にはステロイド依存性難聴 (6例) や内耳窓閉鎖術施行例 (4例) がみられたが, 外リンパ瘻疑い症例も含め原因不明なもの (10例) も多く認めた. 急性感音難聴と診断された後に聴力が悪化した場合は, 副腎皮質ステロイドの慎重な漸減や内耳窓閉鎖術など, 症例に応じた治療法の選択が重要であると考えられた.