著者
神崎 晶 熊崎 博一 片岡 ちなつ 田副 真美 鈴木 法臣 松崎 佐栄子 粕谷 健人 藤岡 正人 大石 直樹 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3, pp.236-242, 2019-03-20 (Released:2020-04-08)
参考文献数
15

聴覚過敏を主訴とした患者に対して, ほかの感覚器の過敏症状を問診・質問票による検査をしたところ, 複数の感覚過敏を有する5例を発見した.「感覚過敏」と本論文では命名し, その臨床的特徴を報告する. 主訴に対する聴覚過敏質問票に加えて, 複数の感覚過敏に対する質問票「感覚プロファイル」を用いて過敏, 回避, 探求, 低登録について検査した. 同時に視覚過敏は5例で, 触覚過敏は4例で訴えたが, 嗅覚と味覚過敏を訴えた例はなかった. 病態には中枢における感覚制御障害が存在することが考えられる. 感覚過敏の検査法, 診断法, 治療についてはまだ確立されておらず, 今後の検討を要する.
著者
内田 育恵
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.5, pp.744-749, 2019

<p> 超高齢社会を迎えた日本では, 要介護原因の1位が認知症となり, 一方, 認知症の分野で '難聴' が一気に社会的注目を集めるきっかけとなった Lancet 国際委員会の報告では, 医学的介入により認知症発症を予防できる要因として難聴が筆頭に挙げられた. 認知症や認知症以外の不利益に対し, 難聴が関連しているというエビデンスは積み重ねられており, 健康寿命の延伸のために, 中年期以降の聴力維持はますます重要性を増すと考えられる.</p><p></p><p> 認知症だけでなく認知機能障害や認知機能ドメインと聴力, 就労や所得と聴力, 不慮の事故による負傷リスクと聴力, に関する先行研究の報告を概説し, 補聴器の使用がいかに影響するかを検討した研究を取り上げた. 補聴器の認知症予防に対する効果は, 集団規模の大きな, 長期間の追跡プロジェクトが各国で実施されているものの, 結果は必ずしも一定しない. われわれが遂行中の, 補聴器使用と認知機能に関する研究も中間解析について紹介した. それらを踏まえて, 超高齢社会の難聴ケアについて期待を込めた今後の展望を述べた.</p>
著者
五島 史行
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.8, pp.1105-1109, 2016-08-20 (Released:2016-09-08)
参考文献数
11

うつ病患者は初診の診療科として精神科を受診するよりも耳鼻咽喉科をふくむ身体科を受診することの方が多い. うつ病によってさまざまな身体症状が出現したり, もともと有していた身体症状がより強くなることによって, 身体科である耳鼻咽喉科を受診することは少なくない. われわれ耳鼻咽喉科医としてもある程度うつ病をふくむ, うつの知識を持った上で日常診療にあたることで, これまで説明ができなかった患者の身体症状の要因を明らかにすることができる. 本稿でははじめにうつ病について概説し, 耳鼻咽喉科を受診するうつ病患者の症状の特徴, スクリーニング, 治療法について解説する. うつ病は, 気分障害の一種であり, 抑うつ気分, 意欲・興味・精神活動の低下, 焦燥 (しょうそう), 食欲低下, 不眠, 持続する悲しみ・不安などを特徴とした精神障害である. うつ病の診断基準を満たすものを大うつ病としてアメリカ精神神経科学会では定義をしている. 耳鼻咽喉科を受診するうつの患者はうつ状態を主訴として受診するのではなく, あくまで耳鼻咽喉科の身体症状を訴えて受診するため, 耳鼻咽喉科外来でうつを発見するには適切にスクリーニングをする必要がある. 耳鼻咽喉科でうつを疑うのはめまい, 耳鳴, 咽喉頭異常感を主訴としており, 医学的に症状が十分説明がつかない場合である. その場合には, 問診票 (既往, 書き方) に注意する. さらに質問紙を用いたスクリーニングとして DHI, THI, SDS 等を用いる. 問診では特に睡眠障害, 体重減少, 気分の落ち込みについて問診する. うつを疑った場合には身体疾患がないことを保障し, 企死念慮を確認し, 精神科, 心療内科への紹介を検討する.
著者
五島 史行
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.7, pp.989-991, 2019-07-20 (Released:2019-08-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1
著者
角南 貴司子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.592-595, 2020-07-20 (Released:2020-08-06)
参考文献数
27
被引用文献数
1
著者
脇坂 浩之
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.6, pp.840-841, 2014-06-20 (Released:2014-07-12)
参考文献数
10
被引用文献数
2
著者
新井 基洋
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.5, pp.307-314, 2020-05-20 (Released:2020-06-05)
参考文献数
21

めまい・平衡障害は, 前庭機能ならびに視機能, 体性感覚などの複合感覚障害であり, その治療法としてのめまいのリハビリテーション (以下めまいリハ) は耳鼻咽喉科領域において関心の高い事項の一つである. 1989年日本平衡神経科学会 (現, 日本めまい平衡医学会) の “「平衡訓練の基準」掲載にあたって” の中で, めまいリハは, 一側前庭障害代償不全や各種めまい後遺症のみならず, めまい・平衡障害の治癒促進を目的とした治療法の一つとして扱われている. 筆者は1989年に北里大学耳鼻咽喉科の徳増厚二教授 (現名誉教授) から北里式めまいリハの指導を受け, 以来, めまい・平衡障害の治癒促進を目的としためまいリハを「平衡訓練の基準」にのっとり施行してきた. めまいリハは, 体系的なメニューを採用する Cawthorne-Cooksey 法を元にした方法と, 特定の疾患や病態を対象として考案された方法に大別される. 後者の代表が良性発作性頭位めまい症における Brandt 法で, 最近の時流である患者個人ごとのめまいリハ治療も後者に該当する. 当院でも, 効率良くめまいリハを行うために個人の疾患を踏まえたリハを選択して外来指導をしており, そのポイントとなる適切なリハの見極め方について述べる. 一側前庭障害代償不全では中枢代償獲得促進が, 加齢性めまいなど両側前庭機能障害は視覚と深部感覚などによる機能補充を目標とする. 頭位治療や Brandt 法では改善しなかった良性発作性頭位めまい症例には頭位変換を用いた寝起きめまいリハも選択肢となる. そのほか, メニエール病, 前庭性片頭痛, 持続性知覚性姿勢誘発めまいに対するめまいリハについても触れる. さらに, めまいリハの歴史と根拠, 治療に導入できるめまいの対象疾患と方法の選択, 評価方法についても述べる.
著者
杉浦 むつみ 大前 由紀雄 新名 理恵 池田 稔
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.103, no.8, pp.922-927, 2000-08-20
参考文献数
12
被引用文献数
4 1

難聴の高齢者を対象に補聴器装着前後における心理的ストレスの評価を行った.対象は,難聴を主訴に東京都老人医療センター耳鼻咽喉科を受診した患者のうち,補聴器の装着が適切であると判断された31例(男性11例,女性20例,年齢80.4&plusmn;5.3歳,66~89歳)である.補聴器装着前後に聴こえに対する自己評価と,新名の心理的ストレス反応尺度のうち情動18項目(うつ&bull;不安&bull;怒り)について質問した.その結果,患者の聴こえに対する自己評価は,装着後に有意(p<0.001)な改善を認めた.また情動18項目(うつ,不安,怒り)における心理的ストレス反応は,うつ,不安,怒りのいずれも有意(p<0.001)な減少を認めた.特にうつについてはストレス反応スコアの減少が著明であった.従って,補聴器の装着は,聴力の改善によるコミュニケーション能力の向上だけでなく,高齢者の心理面にも良い影響を及ほしたと考えられた.精神科領域では老年期にみられる痴呆とうつ状態は相互に影響しあい,互いに移行することが指摘されており,高齢者の心理面より,うつ,不安等の心理的ストレス反応を減少させることは,老年期うつ病の発症や,老年期痴呆への移行を二次的に予防することにもつながる可能性が考えられた.また聴覚障害が痴呆や認知障害の進行や重症度に影響する可能性も指摘されており,補聴器装着による聴力の改善は,痴呆や認知障害の進行を抑制するという観点からも有用であると考えられた.
著者
松島 俊夫 勝田 俊郎 吉岡 史隆
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.1, pp.14-24, 2015-01-20 (Released:2015-02-05)
参考文献数
19
被引用文献数
1

頸静脈孔と舌下神経管は頭蓋底深部に位置し, さらにその周囲の複雑な構造のため外科的に到達困難な部位の一つである. しかもそれらに腫瘍性病変が発生すると, 頭蓋内外へ進展するため, 耳鼻咽喉科医と脳神経外科医の両者で取り扱われる境界領域でもある. この領域の外科治療を行うためには, 項部筋肉や, 側頭骨, 顔面神経管, 乳様突起, 茎状突起, 後頭顆, 環椎後頭骨関節, 環椎横突起などの骨構造や, S 状静脈洞, 頸静脈球, 内頸静脈とそれらに交通する周囲の静脈網, 近傍を走行する内頸動脈, 椎骨動脈などの血管構造も十分に理解しておく必要がある. また, 顔面神経を含む脳神経の走行も重要である. 手術アプローチを選択する際には, 環椎後頭骨関節が不安定にならないための骨削除範囲の配慮も必要になってくる. それ故, 術前画像検査では, 同部腫瘍の進展範囲と周囲重要構造物との位置関係や腫瘍による骨破壊範囲をできる限り詳しく術前から読影することが重要である. 本稿では, 屍体を用いこの領域の詳細な解剖を呈示し, その上で同部の画像解剖や到達困難な外科的到達法について脳神経外科医の立場から解説する. 同部に発生した腫瘍は頭蓋内外へ進展するため, 多くの症例で一方向からのみですべてを露出することはできない. 症例毎にいくつかの手術アプローチを単独でもしくは組み合わせて手術を行っている. また近年, 診断と治療が容易にできるようになったこの部の硬膜動静脈瘻や舌咽神経痛についても簡単に紹介する.
著者
池田 香織 富田 雅彦 新堀 香織 尾股 丈 馬場 洋徳 高橋 奈央 佐々木 崇暢 堀井 新
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.10, pp.1279-1287, 2018-10-20 (Released:2018-11-21)
参考文献数
25

嗄声や嚥下障害など急性発症の下位脳神経麻痺が Ramsay Hunt 症候群の随伴症状として出現する場合があり, その診断や治療方法の決定は比較的容易である. しかし, 水痘-帯状疱疹ウイルス (varicella-zoster virus; 以下 VZV) が原因の下位脳神経麻痺の中には顔面神経麻痺を伴わない例もあり, 球麻痺や悪性腫瘍との鑑別など確定診断に時間を要し, 治療開始の遅れから後遺障害を残した例も報告されている. 今回われわれは血清抗体価および疱疹から VZV 再活性化が原因と考えられるものの, 顔面神経麻痺を伴わずに急性発症した下位脳神経麻痺2例を経験した. 渉猟し得た22例と合わせ, 考察を加え報告する.
著者
任 智美
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.5, pp.738-743, 2019-05-20 (Released:2019-06-12)
参考文献数
20
被引用文献数
2

年間24万人の味覚障害患者が医療機関を受診する中, 味覚障害に対して保険適応を持つ薬剤は存在せず, 従事する医師も少ない. しかし高齢化が進むとともにフレイルの原因になり得ることが考えられ, 今後, 味覚障害診療におけるニーズは増していくと思われる. 味覚障害の主な病態として亜鉛欠乏による受容器障害が挙げられるが, 質的味覚異常では亜鉛欠乏が関与する例が少なく, 亜鉛内服療法の効果が量的異常より低いため, ほかの治療が必要になることが多い. 味覚障害の原因は亜鉛欠乏, 薬剤, 感冒, ストレスなど多種多様であるが現在の原因分類は部位と原因が混在しているため, 見直す必要があると考える. 治療は亜鉛内服療法が唯一エビデンスを持つ薬剤である. 2013年に厚生労働省所管の社会保険診療報酬支払基金よりポラプレジンクの味覚障害に対する適応外使用が認められ, 酢酸亜鉛水和物が2017年3月に低亜鉛血症に対して保険適応が認められた. ビタミン欠乏や鉄欠乏が存在する例では欠乏物質を補うことで速やかに改善する. 時に漢方や向精神薬が著効する例を経験する. 漢方は単剤エキスの治療効果を評価するのが難しく, 基本は随証治療を行う. 自発性異常味覚の一部は舌痛症と病態が類似しており, 舌痛症に準じて治療を行う. 近年, 舌痛症に対してカプサイシンクリームの有効性が報告されているが, 難治性の自発性異常味覚症例に使用したところ症状が軽減した例が多く見られた. 味覚と舌一般体性感覚は受容器から中枢に至るまで相互作用があり, カプサイシンクリームが自発異常味覚にも効果があることが示唆された. 味覚異常は義歯や舌粘膜疾患などの局所的な異常のこともあるが, 背景に重大な疾患が隠れている場合もあり, 全身を診て病態を把握することが重要である.

1 0 0 0 OA 聴性定常反応

著者
青柳 優
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.3, pp.178-191, 2012 (Released:2012-07-03)
参考文献数
38
被引用文献数
6

聴性定常反応 (ASSR) の歴史, 刺激音, 解析法, 成立機序, 臨床応用, および問題点について述べた. 他覚的聴力検査におけるASSRの最も重要な利点は, 正弦波的振幅変調音を用いた場合, 周波数特異性の高い反応を得ることができ, 比較的正確にオージオグラムを推定できることである. 正弦波状のその反応波形から, ASSRは高速フーリエ変換を用いたパワースペクトル解析や位相スペクトル解析による閾値の自動解析に適している. ASSRの反応出現性は覚醒時検査か, 睡眠時検査かにより変化するので, 40Hz ASSRは覚醒時の成人における他覚的聴力検査に, また, 80Hz ASSRは睡眠時の幼児における他覚的聴力検査に適している. 反応の成立機序については, 40Hz ASSRは聴性中間潜時反応の, また, 80Hz ASSRは聴性脳幹反応のsteady-state versionと考えられている. 骨導ASSRでは, 60dB以上の音圧においては検査結果の信頼性は低いが, 骨導ASSRは伝音難聴の診断に有用である. 80Hz ASSR閾値により500Hz以下の周波数の聴力レベルを評価することの難しさは, 聴覚フィルタによって説明できる. また, multiple simultaneous stimulation techniqueを用いることによって両耳において4つの異なる周波数の聴力を比較的短い検査時間で評価することができる. しかし, auditory neuropathyなど聴力レベルとASSR閾値の乖離がみられる症例もあるので, 聴力評価は条件詮索反応聴力検査など他の検査法とともに総合的に行うべきである.ASSRによる補充現象の検査や音声刺激によるASSRも検討されており, 将来的には乳幼児においても補充現象や語音弁別能の評価が可能になると考えられるので, ASSRを用いた補聴器の他覚的フィッティングが行われるようになるであろう.
著者
渡辺 行雄
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.7, pp.808-817, 2013-07-20 (Released:2013-09-14)
参考文献数
14

私は1971年に新潟大学耳鼻咽喉科学教室に入局, 1979年に富山医科薬科大学 (現富山大学) に移動, 1993年に前任の水越鉄理名誉教授 (故人) の後任として耳鼻咽喉科学教室教授に就任, 2012年3月に退任した. この間, 耳鼻咽喉科診療全般に従事するとともに, めまい・平衡障害の研究と臨床に専念した.私のこの領域との関係は, 眼振分析の情報処理から始まった. PDP12という当時としては画期的な実験室用分析コンピュータを使用し, アセンブリ言語で分析プログラムを開発した. 私は, コンピュータプログラミングが性に合って, 初期はめまい臨床ではなくソフト開発に没頭した. また, 眼振などのアナログ情報処理ばかりではなく, 当時の厚生省メニエール病研究班の疫学調査データ解析を担当した. これらの研究は, 富山医科薬科大学にて, より上位機のPDP11を使用して大きく発展した. 具体的には, 平衡機能検査の自動分析システムの構築と眼振・眼球運動の分析 (温度刺激, 回転刺激検査 (VOR), 視標追跡, 視運動眼振, およびこれらの刺激との関連), 重心動揺記録の各種分析, 電気性身体動揺検査システムの開発等々である. これらの研究活動とともにめまい臨床に携わっていたが, 当初はあまり興味を持つことができなかった. これは, めまい, 特に難治例に対する治療方法が明確でなかったことによる. しかし, メニエール病に対する浸透圧利尿剤, BPPVへの頭位治療, めまいの漢方治療, 前庭機能障害後遺症の平衡訓練, 難治性メニエール病に対する中耳加圧治療などを経験, 開発して治療選択肢が広がるにつれ, ライフワークとしてめまい診療に取り組むようになった. 特に中耳加圧治療は, 私が本邦で初めて導入し, また, 米国製の医療機器に対し本邦独自の変法を考案, 開発したもので, 私の退任直前の仕事として充実感をもって当たることができた. 本稿では, 私がめまいとともに歩んだ40年についての退任記念講演会の講演内容を概説した.
著者
岡本 伊作 鎌田 信悦 三浦 弘規 多田 雄一郎 増淵 達夫 伏見 千宙 丸屋 信一郎 武石 越郎 松木 崇
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.1, pp.27-30, 2013 (Released:2013-03-05)
参考文献数
14
被引用文献数
3 9

副咽頭間隙に発生する腫瘍は全頭頸部腫瘍の0.5%といわれ比較的まれな疾患である. 2005年7月から2011年6月までの6年間, 国際医療福祉大学三田病院頭頸部腫瘍センターで入院加療を行った副咽頭間隙腫瘍76例を経験した. 対象は男性35例, 女性41例, 年齢は15歳から78歳で中央値44歳であった. CTやMRIによる術前画像診断や穿刺吸引細胞診 (FNA: fine needle aspiration) と術後病理組織診断について検討した.病理組織学的診断の内訳は良性腫瘍が69例 (90.8%), 悪性腫瘍が7例 (9.2%) であった. 良性腫瘍では神経鞘腫32例 (42.1%) と多形腺腫28例 (36.8%) で大部分を占めていた. 多形腺腫は茎突前区由来が26例 (93.8%), 神経鞘腫は茎突後区由来が28例 (87.5%), 悪性腫瘍に関しては茎突前区由来が7例 (100%) であった. 術前FNAを施行している症例は55例で正診率は39例/55例 (70.9%) であった.術前画像診断は病理組織を予測する上で非常に有用であると思われた. また茎突前区由来の場合では, 常に悪性腫瘍の可能性を考慮し術前にFNAを施行しておく必要があると思われた. 正診率に関してはFNAの手技を検討することで改善の余地があると考えている.
著者
西村 忠己 細井 裕司 森本 千裕 赤坂 咲恵 岡安 唯 山下 哲範 山中 敏彰 北原 糺
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.12, pp.1522-1527, 2019-12-20 (Released:2020-01-09)
参考文献数
8
被引用文献数
1

軟骨伝導補聴器は耳軟骨の振動を介して音を伝える軟骨伝導を用いた新しい種類の補聴器で2017年11月に発売となった. 既存の補聴器で対応が難しい外耳道閉鎖症などの症例に対しても非常に効果があり, 補聴手段の新しい選択肢になる. 取扱医療機関は増加しているが全国的な認知度は必ずしも高くはない. 全国の難聴者がその恩恵を受けることができるように普及を進めていくため, 当院にフィッティング希望で2019年2月までに受診した59例の難聴者が, どこで軟骨伝導補聴器の情報を知り受診に至ったかについて調査した. 当院外来通院中の6例を除き, 受診契機となった情報源 (受診契機) が判別できたのは45例であった. 受診契機は医師, メディア (インターネット・TV), 患者会, 家族・友人, 学校の先生, 補聴器販売店に分類し3カ月ごとの経時的な変化を調べた. また病態別に3群に分類し経時的な変化についても評価した. その結果全体では患者会が最も多く約3分の1を占めていた. 経時的な変化では販売開始当初の1年間は医師の例は少なかったが, 直近の3カ月では大幅に増加していた. 補聴器販売店は販売開始当初半年間だけであった. 今回の結果から医療機関での認知度は上昇傾向にあると思われた. 補聴器販売店に対しては再度情報を提供する必要があると思われた. 成人の症例が少なく, 成人の外耳道閉鎖症例に対するアプローチが今後の課題であると考えられた.
著者
市川 銀一郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.65-84, 1972-01-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
34

骨導音を頭蓋半球の或る部位に与えると, その音を反対側の耳で知覚することがある.この現象を骨導における交叉感覚といい, 1864年にLucaeにより始めて明らかにされた現象である. この交叉感覚について, 臨床的に正常聴力を有する症例, また, 一側性, あるいは両側性に伝音障害のある症例等につき, いかなる状態にあるかを検討した. さらに, 動物実験的に, 蝸牛電位を指標としてこの現象を客観的にとらえてみた.方法: まづ臨床的に, 被検者67名について, 各頭蓋半球を一定の基線のもとに, 各々54に区分し, 各々の部位に250Hz, 800Hz共域値上10dB, 20dB, 時に30dBの骨導音を与え, その音を左右いずれの耳にて知覚するかを調べ, 交叉感覚を示す頭蓋骨上の部位を検討した.また, 動物実験においては, 成熟描を用い, 正円窓窩より, 一側性または両側性に蝸牛電位を導出しつつ, 頭蓋骨上の各部位に与えた骨導音刺激に対する蝸牛電位の変化を観察記録した.結果: 臨床的には, 両側聴力正常者では, 左右半球いずれにも交叉感覚を有する部位が一定の範囲に認められること, 個人差がかなり有ること. また, 左右半球にて必ずしも対称的でないこと, 周波数により交叉感覚を有する部位が異ること, などを認めた. 次に, 一側または両側の伝音障害が認められる症例にては, 原則として聴力良好なる半球ではほとんどの部位で交叉感覚が認められるのに対し, 聴力の悪い半球では交叉感覚を有する部位はあまり認められなかった.動物実験では, 両側伝音器が正常な場合, 両側耳介後上部に蝸牛電位上の交叉現象陽性部位が認められた. また, 鼓膜, 耳小骨を順次破壊することにより伝音器障害を起させると, 伝音器の正常側から障害側えの交叉が, より大きな電位差として現われ, 障害側から正常側えの交叉は認められなくなった.