著者
高田 基志 山本 拓巳 井上 智重子 酢谷 朋子 新家 一美 鈴木 照 土肥 修司
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.289-293, 2009-07-01 (Released:2010-01-20)
参考文献数
12

患者は67歳,女性。めまいと嘔吐を主訴に経過観察入院となったが,入院3日目に胸部不快感とSTの上昇を認め,緊急心臓カテーテル検査が実施された。冠動脈に有意狭窄はなかったが,心尖部の収縮低下を認め,たこつぼ心筋症と診断された。ICU入室時,頻脈を認めたため,ランジオロールにて心拍数のコントロールを試みた。また悪心・嘔吐に対してドロペリドールを投与したところ,急激な血圧低下と頻脈を来たした。急速輸液とフェニレフリン投与は無効であった。ランジオロールを増量したところ,血圧の上昇を認めた。プロプラノロール内服によりランジオロールを漸減でき,入室3日目に一般病棟に転床した。しかし後日イレウスを来たし,不幸な転帰をとった。病理解剖の結果,褐色細胞腫が判明した。本症例の左室壁運動異常の原因は過剰カテコラミンによる微小循環障害と推察された。またランジオロール投与は左室壁運動を正常化し,循環動態を改善したと考えられた。
著者
日本版敗血症診療ガイドライン2016作成特別委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.271-277, 2018-07-01 (Released:2018-07-01)
参考文献数
5

日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016作成特別委員会は,J-SSCG2016の普及状況をモニタリングすることと,今後のガイドライン改訂における改善点を明らかにすることを目的に,日本集中治療医学会,日本救急医学会の両学会員を対象とし,J-SSCG2016の使用に関する実態調査を実施した。610名から回答を得た。回答者の86%でJ-SSCG2016が活用されており,50~75%程度の敗血症患者でガイドラインに準じた治療が行われていた。また,回答者の83%が診療の標準化,51%が教育の向上にJ-SSCG2016が役立つと評価した。一方,ガイドラインの存在意義,作成工程や発行・公開方法,両学会員以外の一般医療従事者における普及に関する問題を指摘する意見もあった。本調査結果を今後のJ-SSCG改訂に活かし,より実用的なガイドラインとして発展させていくことが重要と考えられる。
著者
日本集中治療医学会早期リハビリテーション検討委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.255-303, 2017-03-01 (Released:2017-03-16)
参考文献数
295
被引用文献数
39

近年,集中治療領域での早期リハビリテーションが注目されているが,わが国の集中治療領域で行われている早期リハビリテーションは経験的に行われていることが多く,その内容や体制は施設により大きな違いがある。早期リハビリテーションへの期待が高まり,今後より高度急性期の病床機能の明確化が進む中で,集中治療領域での早期リハビリテーションの確立や標準化は喫緊の課題である。この度,日本集中治療医学会の早期リハビリテーション検討委員会では,「集中治療における早期リハビリテーション ~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~」を作成した。このエキスパートコンセンサスでは,早期リハビリテーションの定義や早期リハビリテーションの効果,さらには早期リハビリテーションの禁忌や開始基準・中止基準,早期リハビリテーションの体制について解説する。
著者
田原 慎太郎 小野 雄一郎 当麻 美樹
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.506-510, 2014-09-01 (Released:2014-09-17)
参考文献数
12

外傷性ショックとして搬送されたフレカイニド中毒の1症例を経験したので報告する。症例は89歳の男性,原付自転車乗車中に自損転倒し,救急搬送された。来院時意識清明であったが,収縮期血圧60 mmHg台,心拍数75 /minの非常に幅広いQRS波形の心室調律を認めた。血圧の低下は心室調律によるものと判断し,電気的除細動を試みたが奏効せず,アミオダロンの静脈内投与で洞調律へ復帰した。原因精査に冠動脈造影も行ったが,急性冠症候群を示唆する所見は認めなかった。検査終了後心室頻拍が出現したが,アミオダロンの持続静注を開始したところ再び洞調律へ復帰した。既往歴に心筋梗塞,心房細動を有し,フレカイニドを内服していたが,血中濃度高値でありフレカイニド中毒と診断した。抗不整脈薬の血中濃度上昇が致死的不整脈発現の誘因となっている場合もあり,既往歴の詳細な確認,薬物血中濃度の測定,治療法の熟知が肝要である。
著者
江木 盛時 内野 滋彦 森松 博史 後藤 幸子 中 敏夫
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.21-26, 2009-01-01 (Released:2009-07-25)
参考文献数
30
被引用文献数
2 1

過去に報告された無作為化比較試験(randomized controlled trial, RCT)で有効であるとされた治療法が,その後に行われたRCTで否定されることがある。その原因として,過去のRCTが有意差の得られやすい条件で施行されていることが挙げられる。RCTは,この条件を踏まえた上で考察することが重要である。その三要素として,(1)subgroup analysis, (2)single center open label study, (3)early terminationが挙げられる。(1)Subgroup analysisは,統計学的検討回数を増やすことで,(2)single center open label studyは,ホーソン効果と治療の浸透性により,(3)early terminationは,random highと統計学的検討回数の増加により,偽陽性の確率を高める。これらの手法を用いて得られたRCTの結果は,慎重に吟味する必要がある。
著者
赤川 玄樹 小野 富士恵 柏 健一郎 木村 康宏 七尾 大観 藤本 潤一 西澤 英雄
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.328-332, 2016-05-01 (Released:2016-05-02)
参考文献数
20
被引用文献数
1

症例は17歳,女性。意識障害を主訴に当院受診。てんかん重積状態(status epilepticus, SE)の診断で入院となり,第2病日に呼吸管理目的にてICU入室となった。SEの原因は入院中の精査で全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus, SLE)と判明した。原疾患の治療を行いつつ,SEのコントロール目的に抗痙攣薬を開始したがコントロールがつかず,静脈麻酔薬による全身麻酔療法を開始した。それでもSEのコントロールに難渋したため,第10病日より吸入麻酔薬のイソフルランを併用した。その使用期間は38日間に及んだが,経過中イソフルランの使用に伴う重篤な合併症はみられず,比較的長期間安全に管理することができた。静脈麻酔薬による全身麻酔療法でSEのコントロールに難渋する場合には,吸入麻酔薬を併用することも選択肢の一つと考えられた。
著者
菊地 博達
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.487-489, 2008-10-01 (Released:2009-04-20)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1
著者
山口 修
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.569-577, 2012-10-01 (Released:2013-04-01)
参考文献数
46

現在の集中治療医学の最重要課題の一つが,敗血症の克服である。しかし,これまでの多くの臨床研究の中で明確な有効性を証明できた治療戦略は少なく,対象患者の選定基準が原因の一つとされる。感染が原因で全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome,SIRS)状態にあれば,敗血症と定義される。しかし,SIRSの診断基準は特異性に乏しく患者の重症度や病態を反映していない。そこで,腫瘍学の世界のTNM分類にならい提唱されたのがPIRO scoreである。Pはpredisposition(背景,素質),Iはinsult/infection(侵襲/感染),Rはresponse(反応),Oはorgan dysfunction(臓器障害)を意味し,各々のカテゴリーをスコア化して敗血症の進行度を分類しようとするものである。各カテゴリーを構成する内容は,重症敗血症,市中肺炎,院内肺炎などでモデルが提唱され,実際の患者の予後を良く反映することが証明されつつある。このPIRO scoreにより重症度を均質化した臨床研究が期待されている。
著者
河崎 純忠 阿部 伊知郎
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.299-307, 2007-07-01 (Released:2008-10-24)
参考文献数
21
被引用文献数
5 4

集中治療室に入室したがん患者586名を対象に, 患者背景, ICUの転帰, ICU退室後生存時間, 死因を調査し, 多変量解析を用いてICU死亡とICU退室後予後に関わる独立予後予測因子を得た。ICU退室後予後の解析では, 退室後1ヶ月間, 3ヶ月間, 6ヶ月間, 1年間, 3年間, 5年間の各観察期間の予後予測因子を求めて, 予後予測因子におよぼす観察期間の影響について検討した。ICU死亡率は30%, ICU死亡に関わる予後予測因子は脳腫瘍, 中枢神経障害, Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II (APACHE II) スコア, 不全臓器数, 敗血症であった。ICU退室後の予後予測因子は, 癌腫の臨床病期, 呼吸不全, 肝不全, 腎不全, APACHE IIスコア, 肺がんであったが, 病期が一貫して退室後予後に影響したのに対し, 集中治療項目の予後への影響は退室後1年で, 予後予測因子となる項目が時間経過と共に変化した。がん患者の集中治療とは, 進行がんや難治がんに対するがん治療の合併症を治療することといえる。
著者
横堀 將司 江川 悟史 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.29, no.Supplement2, pp.S20-S24, 2022-12-01 (Released:2022-12-01)
参考文献数
5

2020年に脳死判定に関する新しい国際コンセンサスが作成された(determination of brain death/death by neurologic criteria: The World Brain Death Project)。これによると,解消できない要因により脳死判定に関わる臨床検査を完遂できない場合に,補助検査を施行するべきとされている。補助検査は主として脳血流検査および電気生理学的検査に大別される。特に脳波検査は本邦の法的脳死判定では必須とされているが,今回の国際コンセンサスにおいては,脳波検査は脳幹機能を検査できないため,これを判断基準とすべきでないとの記載がある。また,脳血流検査においては,近年普及しつつあるCT血管造影やMRIについても言及されているものの,臨床的データの少なさから,現状では脳血流停止を評価するための補助検査として使用しないことが提案されている。我々には,本邦の脳死判定基準の歴史や国際コンセンサスとの整合性を図り,補助検査を活用することが求められている。
著者
小野 雄一郎 小野 真義 伊藤 岳 佐野 秀 宮本 哲也 当麻 美樹
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.253-256, 2013-04-01 (Released:2013-05-14)
参考文献数
11

インフルエンザA/H1N1pdm09による重症病態は数多く報告されている。インフルエンザ感染に劇症型A群溶連菌感染症,血球貪食症候群を併発した1例を報告する。症例は24歳の男性。高熱,意識障害で前医を受診,精査の結果,インフルエンザ感染による多臓器障害と診断され,当院に紹介搬送となった。来院時,呼吸不全・循環不全を呈しており,心機能の著明な低下も認めたため,人工呼吸器管理,補助循環を導入した。また,臨床所見から血球貪食症候群を併発していると判断し,免疫抑制療法や血漿交換を施行したが,溶連菌菌血症も併発し,救命することができなかった。死後の骨髄検体で血球貪食像や溶連菌の組織浸潤を認めた。インフルエンザは日常診療でしばしば遭遇する疾患であるが,ときに致死的な合併症をひき起こすため,注意すべきである。
著者
漆畑 直 村田 希吉 中本 礼良 吉行 綾子 大友 康裕
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.379-383, 2019-09-01 (Released:2019-09-01)
参考文献数
18

【目的】2015年の心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation, CPR)ガイドラインでは,胸骨圧迫の速さが100〜120 /min,深さが5〜6 cmと従来よりも厳格な規定となった。我々は新ガイドラインにおける胸骨圧迫は徒手的よりも機械的の方が遵守されると仮定し,当院におけるimmediate cardiac life support(ICLS)コース受講生を対象に評価した。【方法】ICLSコース受講後に徒手的CPRの採点を行った。またLUCAS®2自動心臓マッサージシステム(以下,LUCAS)を用いて機械的CPRの採点も行った。【結果】受講生(n=18)の徒手的CPRの結果は深さ3.65〜6.13 cm(中央値5.40 cm),速さ98〜128 /min(中央値115 /min)であり,ばらつきを認めた。一方,LUCASは深さが5.13 cm,速さが101 /minという結果であった。【結論】徒手的CPRではガイドラインからの逸脱を認めた。