著者
春名 純一 山中 寛男 宮下 和久 香河 清和 橘 一也 秋田 剛 木内 恵子
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.175-180, 2009-04-01 (Released:2009-10-15)
参考文献数
14

【目的】病院における騒音は,以前から指摘されてきたにもかかわらず,十分な対策は立てられておらず,また現状評価もなされていない。そこで,最も騒音レベルが高い小児集中治療室(pediatric ICU, PICU)において,騒音の音響学的測定と分析を試みた。【方法】大阪府立母子保健総合医療センターPICUにおいて,連続7日間および24時間の5分間等価騒音レベル,ピークサウンドプレッシャーレベル,1/3オクターブバンド等価音圧レベルを測定した。【結果】連続7日間の同時刻の等価騒音レベルは平均約60 dBA,ピークサウンドプレッシャーレベルは平均約90 dBAで,他の報告と同じく高いレベルであった。1日の8時点における測定では,日内差はあまり見られなかった。1/3オクターブバンド等価音圧レベルは全周波数帯でほぼ同じレベルで,低周波領域の音圧レベルが高かった。【結論】PICU騒音はWHOの院内騒音基準を大きく超えるレベルにあり,患者および医療スタッフの健康被害をもたらす可能性がある。周波数分析からは低周波音の関与が示唆された。
著者
内野 博之 牛島 一男 平林 剛 石井 脩夫 芝崎 太 黒田 泰弘
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.527-550, 2007-10-01 (Released:2008-10-24)
参考文献数
63

集中治療における脳保護の成否は, (1) いかに早期に脳への血流を再開させ, エネルギー代謝を改善することができるか (脳機能回復を念頭に置いた脳蘇生法) と, (2) 血流再開後にいかに脳を保護できるか (脳神経障害から脳を保護する治療法の適用) の2点が大きな柱となるものと思われる。すなわち, 心停止後の頭蓋外臓器の機能を脳に有利になるような方法で管理し, かつ頭蓋内の恒常性を維持することをその意図とすることをその主目的としている。神経集中治療における救命救急処置法の改善および脳保護法の進歩や脳指向型集中管理法が併用され, これまでは回復が難しいと思われてきた神経機能回復に光明を見い出すことができるようになったが, 人の脳神経細胞障害のメカニズムは複雑かつ多要素で, 神経機能回復を目指した治療を開始するまでの時間が極めて短く, 虚血性脳神経細胞障害を完全に抑制できる状況とは言い難い。本稿では, 虚血性神経細胞障害における細胞内カルシウム動態とフリーラジカルの関与を紹介し, 細胞死に深く関わるミトコンドリア機能不全とカルシニューリン/イムノフィリン情報伝達系の重要性を概説する。
著者
木下 喬公 端野 琢哉 矢部 光一郎 藤原 周一
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.655-659, 2016-11-01 (Released:2016-11-01)
参考文献数
15

単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus, HSV)感染症では多彩な症状が発現するが,その中の肝炎が劇症化することは稀である。今回我々は,HSV感染から劇症肝炎・ウイルス関連血球貪食症候群に陥った一例を経験したので報告する。症例は26歳,女性。発熱・全身倦怠感を主訴に,他院に急性肝炎の診断で緊急入院した。肝機能障害が改善せず,加療目的で当院消化器内科に入院となり,翌日,全身管理目的にICU入室となった。入室時,身体所見および血液検査所見より劇症肝炎,血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome, HPS),DIC(disseminated intravascular coagulation)と診断し,血漿交換療法・ステロイド大量療法・免疫抑制療法を開始した。ウイルス抗体検査および肝生検の免疫染色の結果でHSV感染によるものと診断し,抗ウイルス薬投与も追加した。以上の治療が奏功し,入室後13日目にICU退室となった。HSV肝炎の劇症化は稀ではあるが,治療の遅れは予後に影響を与える。HSV劇症肝炎が疑わしい場合には,早期に生検を考慮することも必要である。
著者
一瀬 麻紀 岡田 保誠 稲川 博司 小島 直樹 山口 和将 佐々木 庸郎 有野 聡 杉田 学
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.99-103, 2020-03-01 (Released:2020-03-01)
参考文献数
10

酸化マグネシウム(MgO)は下剤として頻用されており,多くの症例で安全に使用されているが,稀に高マグネシウム(Mg)血症を生じることがある。症例は60歳,男性。統合失調症で抗精神病薬とMgO 2 g/dayを内服していたが,来院13日前から排便がなかった。来院当日,排便後に昏睡・低血圧となり当院へ搬送された。各種検査では血清Mg値20.2 mg/dLであり高Mg血症による意識障害,循環不全と診断した。カルシウム製剤の持続投与と血液透析を行い血清Mg濃度は低下し,症状は改善した。抗精神病薬投与中は,抗コリン作用の腸管蠕動低下に伴うMg製剤の腸管内停滞によりMgの吸収率が高まり,高Mg血症をきたすことがある。抗精神病薬を服用中の患者では,たとえ常用量のMg製剤の内服でも,注意深い臨床症状の経過観察および血清Mg濃度のモニタリングが必要であると考えられた。
著者
榎本 有希 六車 崇
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.132-136, 2015-03-01 (Released:2015-03-10)
参考文献数
15

デクスメデトミジン(dexmedetomidine, DEX)は離脱徴候を引き起こさないと言われていたが,長期投与例が増加するに伴い,離脱徴候に関する報告が散見されている。しかし,少数例のものにとどまり,その実態は明らかではない。DEXによる離脱徴候が見られた5例について報告する。5症例の月齢の中央値は22(最小4,最大39),DEX投与期間の中央値は61時間(最小54,最大187),最大投与流量の中央値は 0.9μg/kg/hr(最小0.6,最大0.9)だった。DEXを漸減してから中止した症例はいなかった。離脱徴候としては頻脈,頻呼吸,高血圧,発熱,興奮,不機嫌,睡眠障害,振戦,易刺激性などの症状が見られた。DEXを長期間投与した小児では離脱徴候の出現に留意する必要がある。
著者
西山 千尋 櫻谷 正明 吉廣 尚大 松本 丈雄 筒井 徹 髙場 章宏 河村 夏生 吉田 研一
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.132-136, 2022-03-01 (Released:2022-03-01)
参考文献数
12

60歳代の男性で2型糖尿病に対してメトホルミン内服加療中の患者が,急性腎障害および乳酸アシドーシスのため救急搬送され,重炭酸ナトリウム(Na)投与,透析加療を含めた集中治療を行ったが,加療中に浸透圧性脱髄症候群(osmotic demyelination syndrome, ODS)を合併した症例を経験した。ODSは慢性的な低Na血症がなくても,急激な浸透圧変化があれば発症しうる。本症例では重度の代謝性アシドーシスに対して重炭酸Naを複数回投与したが,その後に血清Na値の上昇を認めており,ODS発症に影響した可能性があった。代謝性アシドーシスに対する重炭酸Na投与に関しては,有効性や投与方法を含めてまだエビデンスは不十分である。投与の際には,有害事象の1つである高Na血症について十分なモニタリングを行い,慎重に投与適応を判断する必要がある。
著者
熊澤 淳史 方山 真朱 大江 恭司 湯澤 紘子 伊藤 史生 糟谷 美有紀 伊良部 徳次
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.611-615, 2011-10-01 (Released:2012-03-20)
参考文献数
11

ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia, HIT)が疑われた患者に対して経皮的心肺補助(percutaneous cardiopulmonary support, PCPS)維持のためアルガトロバンを長期間投与した症例を経験した。本症例ではヘパリン依存性自己抗体(HIT抗体)は陰性であったが,HITが疑われる症例ではHIT抗体の結果を待たず,ヘパリン投与を中止し代替抗凝固療法を開始するべきとされている。HITに対してアルガトロバンは有効とされるが,体外循環維持のためのアルガトロバンの有効性,使用法は確立されていない。今回,ヘパリン使用時と同程度のactivated clotting time(ACT)を目標としてアルガトロバン投与量を調節し,15日間PCPSを施行したが,血栓形成や出血を認めず,安全に使用できた。HIT症例において体外循環を必要とする場合,ACTの目標値にはさらなる検討が必要であるが,抗凝固薬としてアルガトロバンが有効と考える。
著者
渡邉 栄三
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.13-16, 2011-01-01 (Released:2011-07-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2
著者
梶原 千世里 藤本 寛子 山口 嘉一 水田 菜々子 伊藤 純子 山田 宏 山口 修
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.43-46, 2013-01-01 (Released:2013-04-23)
参考文献数
6

症例は,54歳,男性。1型糖尿病,慢性腎不全で腹膜透析を導入していた。入院当日,自宅前で倒れているところを発見され,当院に救急搬送となった。来院時は軽度の意識障害があり,血液検査上,血糖値1,452 mg/dl,血清Na濃度 107 mmol/lと高血糖,低Na血症があり,代謝性アシドーシスと炎症反応マーカーの上昇を認めたことから,感染を伴う糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis, DKA)と診断し,全身管理目的でICU入室となった。透析中の無尿症例であるため,一般的な初期治療として推奨される輸液負荷は危険と考え,心臓前負荷の評価を行い,維持輸液量で治療を開始した。また,1時間毎に血液ガス分析で,電解質,血糖値を測定し,緩徐に電解質,血糖値の是正を行い,第3病日から血液透析に移行した。慢性腎不全患者のDKAに対し,初期治療の結果を頻回に評価して電解質および血糖値を緩徐に補正することで,神経学的合併症なく軽快退院できた。
著者
板垣 大雅 西村 匡司
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.605-612, 2017
被引用文献数
1

患者-人工呼吸器非同調(以下,非同調)は,人工呼吸中に見られる頻度の高い事象である。人工呼吸器のガス供給パターンと,患者の呼吸パターンにずれがある場合,非同調が生じる。非同調は,ガス交換障害,肺過膨張,呼吸仕事量の増大,人工呼吸期間やICU滞在期間の延長をきたし,患者予後への影響も指摘されているが,その認識は高いとは言えない。非同調は,(1)患者の吸気努力に一致して人工呼吸器の送気が開始しない不適切なトリガー(オートトリガー,ミストリガー,二重トリガー,逆行性トリガー),(2)吸気から呼気へ転じるタイミングのずれ(送気の早期終了,送気の終了遅延),(3)人工呼吸器の送気流量と患者の吸気流量の過不足,の3つに大別される。ベッドサイドの医療者には,これら非同調の原因,グラフィックモニタ波形上の特徴,対処方法について深い理解が求められる。
著者
佐藤 慧 丹保 亜希仁 奥田 勝博 清水 惠子 南波 仁 一宮 尚裕 山蔭 道明
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.454-457, 2021-09-01 (Released:2021-09-01)
参考文献数
10

要約:急性カフェイン中毒は用量依存性の反応を示し,同じくキサンチン誘導体であるテオフィリン中毒に症状や機序が類似する。致死量の急性カフェイン中毒に対して血液透析(hemodialysis, HD)を施行して改善を認めた症例を経験し,経過中のカフェインおよび中間代謝産物のテオフィリン血中濃度の推移から治療戦略について検討した。本症例のカフェインとテオフィリンの血中濃度は,内服後早期で異なった推移を示した。HD施行後,腸管再吸収に伴うカフェイン血中濃度再上昇時も含め,両者は相似的に推移した。HD効果によるカフェイン血中濃度低下の指標や,再吸収による血中濃度再上昇の指標として,テオフィリン血中濃度の推移は参考となる可能性が示唆された。
著者
武田 親宗 美馬 裕之 川上 大裕 浅香 葉子 朱 祐珍 植田 浩司 下薗 崇宏 山崎 和夫
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.306-311, 2016-05-01 (Released:2016-05-02)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

【目的】ICU再入室に関する危険因子を検討した。【方法】後方視的診療録調査で,2012~2013年にICUを退室した患者のうち,死亡退室,18歳未満の小児患者,データ不備を除いた,生存退室患者879例を対象とした。【結果】ICU再入室は36例であった。独立した再入室の危険因子[OR]は入室時のAPACHE IIスコア[1.11 per point]と輪状甲状間膜穿刺キット挿入[15.5]と主診療科(腹部外科[7.34],頭頸部外科[9.03],その他の外科[4.74])であった。25例が隣接するハイケアユニット(HCU)からの再入室で,再入室理由の18例が呼吸器系トラブルを理由としていた。【結論】入室時の重症度が高く,喀痰排出障害がある患者の再入室のリスクは高く,HCUなどワンステップおいた退室が妥当と考えられる。