著者
高島 尚美 村田 洋章 西開地 由美 山口 庸子 坂木 孝輔 瀧浪 將典
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.399-405, 2017-07-01 (Released:2017-07-05)
参考文献数
20
被引用文献数
8

12時間以上人工呼吸管理を受けたICU入室患者のストレス経験の実態と関連要因を明らかにするために,ICU退室前に34項目のICU Stressful Experiences Questionnaire日本語版(ICU-SEQJ)を作成し,聞き取り調査をした。その実態は,8割近くが「口渇」を,7割近くが「動きの制限」や「会話困難」,「気管チューブによる苦痛」,「痛み」,「緊張」を中程度~非常に強い主観的ストレスとして経験していた。既往歴がない,緊急入室,有職者は有意にストレス経験が強く,重回帰分析では抜管前のCRP値が最も影響を与えており,気管挿管時間,鎮痛鎮静薬投与量,痛みの訴えは弱い関連があった。96名中,気管挿管に関する7項目の記憶がなかった患者は10名でストレス経験は有意に低く,関連要因はプロポフォール使用の多さと深鎮静と高齢だった。多くのICU入室患者にとってストレス経験は厄介で,入室状況や病歴によっても異なるため,看護師はニーズを予測しながら個別的にアセスメントし,ストレス経験緩和のための介入をする必要がある。
著者
藤井 康彦 稲葉 頌一 稲田 英一
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.27-32, 2012-01-01 (Released:2012-07-10)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

輸血後移植片対宿主病(graft-versus-host disease, GVHD)は免疫不全の患者にのみ発症すると考えられていたが,原病に免疫不全のない患者でも,human leukocyte antigen(HLA)一方向適合を主要な条件として発症することが明らかになった。日本人はHLAの多様性が少ないため,輸血後GVHD発症のリスクが高い。日本輸血・細胞治療学会は1992年に初めて「輸血によるGVHD予防のための血液に対する放射線照射ガイドライン」を公表し,2010年に4度目の改訂を行った。2000年以降,放射線照射血液製剤による輸血後GVHDの確定症例は確認されなくなった。しかし,2007年と2010年に日本輸血・細胞治療学会が実施した「輸血業務に関する総合アンケート調査」では,放射線未照射製剤を使用した施設が少なからず存在した。放射線照射ガイドラインによる予防対策は効を奏しているが,輸血後GVHDの重篤性や予防の必要性に対する認識が薄れる懸念があり,認識不足による予防の不徹底からの輸血後GVHDの発症は回避されるべきである。
著者
日本集中治療医学会小児集中治療委員会日本小児集中治療連絡協議会COVID-19 ワーキンググループ 日本集中治療医学会小児集中治療委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.177-180, 2022-03-01 (Released:2022-03-15)
参考文献数
11

日本集中治療医学会小児集中治療委員会日本小児集中治療連絡協議会COVID-19ワーキンググループは,新型コロナウイルスの国内流行のいわゆる第5波で,その初期の段階で20 歳未満の患者数が増加していることを把握した。小児科学会との協力体制のもと,小児重症・中等症例発生状況をまとめた。登録症例数は46例。COVID-19肺炎は20例であり,その他の入室理由が過半数を占めた。また,重症症例の診療体制について整理した。
著者
株丹 浩二
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.311-312, 2014-07-01 (Released:2014-07-25)
参考文献数
6
被引用文献数
1
著者
小尾口 邦彦
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.163-169, 2023-05-01 (Released:2023-05-01)
参考文献数
36
被引用文献数
1

日本の集中治療領域では国際的に承認されていない独自の薬剤や医療機器があり,時にガラパゴス化と呼ばれる。2000年以後に認可された独自治療の国内認可試験と公開審査議事録を検討した。シベレスタットは,国内第Ⅲ相試験で有効性を示せなかったが,追加の単 一群試験の人工呼吸器離脱日数が最初の第Ⅲ相試験やARDS network試験を上回り,認可された。シベレスタットの国際試験は,中間解析の180日死亡率において対照群よりも劣ったため,早期中止された。トロンボモジュリンは国内第Ⅲ相試験のDIC離脱率においてヘパリンに対して非劣性を示し,認可された。トロンボモジュリンは,国際試験の28日死亡率において対照群に対して優位性を示せず,海外において認可されていない。AN69ST膜を用いた血液濾過器は,敗血症を対象として単一群試験が行われ,28日生存率がAPACHEⅡスコアによる予測生存率に比して著しく高かったため,敗血症の保険適用を得た。日本の医薬品や医療機器の臨床試験において,死亡率よりも代用指標や単一群試験結果が重視されて認可されることがある。
著者
藤田 基 鶴田 良介
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.373-379, 2013-07-01 (Released:2013-08-09)
参考文献数
35

一酸化炭素(CO)中毒の間歇型は,CO中毒患者の亜急性期から慢性期における予後を規定する病態である。その病態は,COによる直接的・間接的な虚血による神経細胞傷害と脱髄性傷害が主体と考えられる。診断は急性CO中毒後,無症状期を経て40日以内に出現する失見当識,記銘力障害などの多彩な精神神経症状による。また積極的に複数の検査を組み合わせた評価バッテリーを行う方法がある。間歇型発症率は0~46%と報告されており,予測因子としては意識障害の有無,年齢36歳以上,血中carboxyl hemoglobin(COHb)濃度25%以上,CO曝露から治療開始まで24時間経過していること,白血球増多などが報告されているが,一定したものはない。また予防として高気圧酸素治療が有効である可能性があるが,その効果について未だ議論が分かれており,今後のさらなる症例の蓄積,検討が必要である。
著者
森 貴子 問田 千晶 六車 崇 齋藤 千恵子 横尾 由希子 金子 節志 稲元 未来 橋本 圭司
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.107-114, 2017-03-01 (Released:2017-03-16)
参考文献数
10

当施設PICUでは,2013年より重篤小児に対する早期リハビリテーション充実へ向けた取り組みを開始した。取り組み導入による効果を検証し,課題を呈示する。【対象と方法】PICUに3日以上滞在した16歳未満の小児に対する早期リハビリテーションの効果,施行率,PICU医師と看護師に対する意識調査を行った。【結果】重篤小児に対する早期リハビリテーションによる効果は実証できなかった。効果を認めなかった要因としては,リハビリテーション施行率の低さ,リハビリテーションに関する知識不足,理学療法士との協力体制の不備,効果の判定方法の問題が示唆された。【考察】今後は,小児の年齢や発達に応じた評価指標に基づき,リハビリテーションの効果を客観的に評価するとともに,年齢,疾患および重症度ごとに検証する必要がある。
著者
波多野 俊之 松田 直之 井口 光孝 八木 哲也 江嶋 正志 足立 裕史 沼口 敦
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.115-120, 2017-03-01 (Released:2017-03-16)
参考文献数
17

【目的】菌血症におけるプロカルシトニン(procalcitonin, PCT)の初期診断での有用性について,後方視的に解析した。【方法】2012年11月から2013年6月までの8ヶ月間において当院で血液培養検査が陽性となりPCTが測定されていた132例を調査対象とし,検出菌,PCTおよびC反応性蛋白(CRP)との関連性を評価した。【結果】感染症専門医により,菌血症102例,contamination(擬陽性)30例と判断された。菌血症と擬陽性でPCT(ng/ml)とCRP(mg/dl)の中央値は,それぞれ2.8と0.3,13.2と7.0であり,菌血症で有意に高かった(P<0.001,P=0.020)。ROC-AUC(receiver operating characteristic-area under the curve)(95%CI)は,PCT 0.76(0.65~0.86),CRP 0.64(0.52~0.76)だった。一方,菌血症の原因菌別でグラム陽性菌(n=48)とグラム陰性菌(n=54)のPCTは,それぞれ2.1と3.7で有意差を認めなかった(P=0.123)。【結論】PCTはCRPと比較して真の菌血症と擬陽性の鑑別に役立つと評価された。しかし,菌血症におけるグラム陽性菌とグラム陰性菌を鑑別できるものではなかった。
著者
下野 謙慎 勝江 達治 佐藤 満仁 野口 航 吉原 秀明 坪内 博仁
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.121-125, 2017-03-01 (Released:2017-03-16)
参考文献数
8
被引用文献数
2 3

破傷風は破傷風菌による感染症で,開口障害や頸部硬直などの症状を呈し,呼吸不全や全身痙攣を来たすと致死的なことがある。呼吸不全や全身痙攣は筋強直により生じ,破傷風患者の治療において重要である。今回,筋強直の緩和のため漢方薬である芍薬甘草湯を破傷風患者3例に投与し,芍薬甘草湯を投与しなかった破傷風患者3例と臨床経過を比較し,芍薬甘草湯の効果を検討した。破傷風患者6例全例が,抗破傷風ヒト免疫グロブリンおよびペニシリンの投与を受けていた。芍薬甘草湯非投与群の3例は呼吸不全を生じ,人工呼吸管理に至ったのに対し,芍薬甘草湯投与群の3例では筋強直の改善が得られ,呼吸不全には至らなかった。芍薬甘草湯は,破傷風患者の筋強直に対し有効な治療法である可能性が示唆される。
著者
和田 宗一郎 野上 正雄 田村 卓也 齋 秀二 上野 倫彦 長谷山 圭司 南雲 淳
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.110-113, 2021-03-01 (Released:2021-03-01)
参考文献数
11

患者搬送固定翼機(メディカルジェット)による補助循環用ポンプカテーテル(IMPELLA®)装着下転院搬送を行った。症例は12歳女児で,急性心不全の加療目的に約300 km遠方の病院から回転翼機で当院に搬送された。拡張型心筋症の診断で治療を行ったが,転院から約1か月後に心原性ショックに陥り,IMPELLA®を装着した。1,000 km離れた小児心臓移植施設への転院のためメディカルジェットの使用を決定した。機材の一体化・超音波検査装置の携行・場面別シミュレーションにより搬送中のカテーテルの位置変動リスクを低減し,合併症なく搬送を完遂した。非医療職を含めたスタッフの普段からの搬送業務への関与が,メディカルジェットの円滑な運用に寄与したと考えられた。
著者
日本集中治療医学会PICS対策・生活の質改善検討委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.165-176, 2022-03-01 (Released:2022-03-15)
参考文献数
12
被引用文献数
2

【目的】Post-intensive care syndrome(PICS)対策としてのICU退室後のフォローアップに関する実態を明らかにする。【方法】2021年5月7~31日に日本集中治療医学会会員が勤務するICUを対象とし,インターネット上での調査を実施した。【結果】110ユニットのICU のうち,75.5%でPICSという用語や疾患概念が周知・使用され,89.1%で早期リハビリテーションが実施されていたが,55.5%でPICSに関する評価が実施されていなかった。ICU退室先の部署への訪問,PICS外来,退院後の医療機関などへの病院からのPICSに関する情報提供の実施率は,それぞれ32.7%,3.6%,19.1%であった。これらの実施の主な障壁として,マンパワーやPICSに関する知識,組織の理解,診療報酬があった。【結論】ICU退室後のフォローアップの実施率の低さが明らかになった。実施の推進のためには,ICUはもとより,あらゆる医療機能へのPICSに関する啓発強化,エビデンス蓄積の上,診療報酬の評価などを通した医療資源の確保が必要である。
著者
時田 祐吉 山本 剛
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.419-428, 2021-09-01 (Released:2021-09-01)
参考文献数
44

要約:集中治療領域で行われる心エコー図検査の代表的なものとして,①緊急を要する病態に対し,ベッドサイドでの迅速な診断を目的とし定性的な評価を行うpoint-of-care超音波であるfocused cardiac ultrasound(FoCUS)と,②包括的なプロトコルに基づき定量的評価を含め循環器系の幅広い病態の診断を目的とした包括的心エコー図検査(comprehensive echocardiography),の2つが挙げられる。FoCUSは循環器医に限らず幅広く集中治療医により行われるため,目的や評価すべき内容の理解に加え,誤った診断に至らないようにFoCUSの限界や包括的心エコー図検査でなければ診断できない病態についての理解が必要である。本総説ではFoCUSの概要と限界,また包括的心エコー図検査との関係について述べる。
著者
永野 達也 伊関 憲 仁木 敬夫 杉浦 明日美 二藤部 丈司 川前 金幸
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.207-210, 2010-04-01 (Released:2010-10-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1

アナフィラキシーショックからの蘇生治療に難渋し心肺停止に至った1症例を経験した。症例は65歳の男性。ハチに刺されショック状態となり,当院救急部に搬送された。7ヵ月前に急性心筋梗塞の既往があり,β遮断薬を内服していた。アナフィラキシーショックに対してエピネフリンの筋注や静注を行ったが治療に反応せず,心静止となった。心肺蘇生とエピネフリンの追加投与により自己心拍が再開し,2ヵ月後に独歩退院した。本症例では心肺停止の原因として,ハチ毒による冠血管攣縮と,β遮断薬の内服がアナフィラキシーに対するエピネフリン治療に影響を及ぼした,という2つの病態が考えられた。β遮断薬内服中の患者がアナフィラキシーショックに至った場合には,通常の2~5倍量のエピネフリン投与が必要であると言われている。

4 0 0 0 OA 血清療法

著者
一二三 亨
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.235-242, 2018-07-01 (Released:2018-07-01)
参考文献数
51
被引用文献数
1

血清療法とは,人工的に作られたポリクローナル抗体(ヒト,他の動物)を含む血清(抗毒素・抗血清とも呼ばれる)を投与して治療することと定義されている。その歴史は,1890年に北里柴三郎とエミール・ベーリングが,ジフテリアと破傷風の血清療法の発見を発表したことにより始まる。現在,本邦には国有品として,ガス壊疽抗毒素,ジフテリア抗毒素,ボツリヌス抗毒素があり,保険承認薬で通常医療機関ですぐに使用できるものとしてマムシ抗毒素,ハブ抗毒素,破傷風ヒト免疫グロブリンなどがある。さらに未承認薬で臨床研究として使用可能なものにヤマカガシ抗毒素,セアカゴケグモ抗毒素がある。本邦の代表的な救急・集中治療領域でのテキストで血清療法としてまとめて掲載しているものは存在しない。本稿では,実際の血清療法を患者に行うにあたって,どのようにすればよいのか? 注意は何か? について集中治療医にわかりやすい内容を提供する。
著者
梅井 菜央 安宅 一晃 嶋岡 英輝 木西 悠紀 菅 健敬 大塚 康義 宇城 敦司
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.405-408, 2012-07-01 (Released:2013-01-16)
参考文献数
10
被引用文献数
1

発熱を初発症状とする12歳の男児が,血液分布異常性ショック,肝不全,非乏尿性腎不全を呈して来院した。血液検査は,WBC,CRP,プロカルシトニン,サイトカインの上昇を示し,重症感染による敗血症性ショックと診断した。しかし翌日,心機能低下や皮膚粘膜症状に気づき,川崎病と診断した。川崎病は乳幼児期に発症し,年長児以降の発症例はまれである。また,川崎病は免疫系の異常により高サイトカイン血症に至り,敗血症と同様の症状を呈することがある。本例のように,年長児以降に感染を疑う血液分布異常性ショックを呈した場合は,川崎病も考慮する必要がある。