著者
小野 理恵 橘 一也 松浪 薫 木内 恵子 宮川 慈子 香河 清和 渡辺 高士 奥山 宏臣
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.213-218, 2008-04-01 (Released:2008-11-01)
参考文献数
7

気管無形成は予後不良の先天性疾患で,長期生存例の報告はほとんどない。今回,退院に至った気管無形成患児の集中治療管理について報告する。患児は出生直後よりチアノーゼを呈し,食道挿管によって換気可能となった。気管無形成と診断し,出生当日に食道皮膚瘻造設術,食道絞扼術,胃瘻造設術を行った。術後,気道として利用している食道と気管食道瘻が容易に閉塞し,換気不全を繰り返した。鎮静や高いPEEPにより気道の開存維持を図ったが著効せず,呼吸管理に難渋した。生後52日目,人工心肺下に食道気管吻合と食道外ステント術を施行し,術後呼吸状態が安定した。2回目の術後34日目に人工呼吸からの離脱が可能となり,生後10ヶ月で退院となった。気管無形成では,出生直後の適切な蘇生処置とそれに続く姑息的手術により生存可能であるが,呼吸管理が困難であり,気道の開存を維持するために更なる外科的治療を考慮する必要がある。
著者
西村 文宏 牛島 智子 三嶋 あかね 杉野 由起子 柳 茂樹 宮村 重幸 鬼木 健太郎 猿渡 淳二
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.438-444, 2019-11-01 (Released:2019-11-01)
参考文献数
35

【目的】心臓血管外科手術患者における術後せん妄発症のリスク因子を抽出し,せん妄チェックシートを作成する。【方法】心臓血管外科手術を施行した患者267例を対象に,せん妄のリスク因子をロジスティック回帰分析により抽出し,術前に確認可能な因子をもとにせん妄チェックシートを作成した。さらに,2017年度の心臓血管外科で手術を施行した患者131例に本チェックシートを適用し,検証した。【結果】緊急手術,ICU入室期間の延長,高齢,ヒドロキシジンの単剤投与が有意なリスク因子であった。ヒドロキシジン未使用患者を対象としたサブ解析では多剤併用,低体重がリスク因子であった。せん妄を発症した患者の2例に1例はせん妄チェックシートでせん妄高リスクに該当し,本チェックシートの有用性が示唆された。【結論】本研究で作成したせん妄チェックシートを用いることで,術前にせん妄高リスク患者を効率的に把握できることが示唆された。
著者
戸塚 亮 鈴木 秀鷹 相原 史子 櫻井 うらら 松尾 和廣 寺岡 麻梨 原 俊輔 原田 尚重
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.532-536, 2021-11-01 (Released:2021-11-01)
参考文献数
10

メトホルミン関連乳酸アシドーシス(metformin-associated lactic acidosis, MALA)は広く知られているが,血漿中濃度測定と剖検の報告は少ない。今回,MALAを発症して死亡し,死亡前の血漿メトホルミン濃度が高値であった剖検例を経験したので報告する。症例は糖尿病でメトホルミン内服中の64歳,女性。嘔吐を主訴に救急搬送され,MALA,急性腎障害,肺炎の診断でICUに入室した。抗菌薬,人工呼吸器管理,腎代替療法を施行したが奏功せず死亡した。血漿メトホルミン濃度は51.9 mg/Lと高値であった。病理解剖で巣状融合性肺炎を認めたが,高度な乳酸アシドーシスの原因は指摘できず,MALAの診断に矛盾しなかった。 血漿中濃度測定,病理解剖ともに行った症例は稀少で, MALAの診断には血漿メトホルミン濃度と臨床像の蓄積が重要であり,特異的な病理所見の有無の確認のためには,さらなる研究が待たれる。
著者
大谷 典生 石松 伸一
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 = Journal of the Japanese Society of Intensive Care Medicine (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.171-176, 2007-04-01
参考文献数
6
被引用文献数
2 3

目的 : 当院救急部での末期医療の現状を明らかにし, その問題点を探る。方法 : 2004年4月~2005年3月の期間に当院救命救急センターで死亡転帰をとった患者の診療録よりデータ収集を行った。結果 : 対象は61例。発病前より自身の治療方針に関する意思表示があったのは5例。回復困難の説明時, 34例の家族は積極的治療の継続を希望していた。全例, 担当医と家族との話し合いで治療方針を決定していたが, 最終的に47例で “do not attempt resuscitation (DNAR)” の決定があった。倫理カンファレンスの介入はなかった。DNAR決定後, 一部治療で差し控えもしくは中断が行われていた。結論 : 末期医療は事例ごとに, あり方が異なるが, (1) 本人の意思確認が不能の際の治療方針決定方法, (2) 回復困難の判定方法, (3) DNAR決定後に許容される治療内容の変更範囲に関するガイドラインの作成が必要である。
著者
日本集中治療医学会集中治療CE検討委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.139-148, 2019-03-01 (Released:2019-03-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

2014年の診療報酬改定以降,集中治療室(ICU)に関わる臨床工学技士(clinical engineer, CE)が増加している。そこで,CEのICUにおける業務成果を把握するため,医師・看護師からCEの評価を受ける形式で調査を行った。血液浄化・体外循環・人工呼吸の生命維持管理装置を安全に迅速に実施すること,医療機器のトラブル対応・インシデント発生軽減・不安軽減にどの程度CEが貢献しているか,CEの業務に満足しているかを調査した。その結果,CEがICUに常駐する・夜勤を行うなど,ICUに長く関わるほど貢献度・満足度ともに高く評価された。このことによりCEがより深くICU業務に関わることが,ICUにおける治療の質の向上や安全確保に成果を上げることにつながると考える。
著者
卯野木 健
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.381-386, 2013-07-01 (Released:2013-08-09)
参考文献数
11

Quality indicatorは,現在行われている医療の質を示すために用いられ,質を改善する試みを行う場合に必須なものである。その中で,看護の質を示す指標はnursing-sensitive indicators(NSI)と呼ばれる。NSIには,褥瘡発生率,転倒転落率などが挙げられるが,急性期領域ではさらに鎮静深度や離床までの期間などもNSIとして定義されうると考えられる。しかし,看護師の役割や責任範囲は施設間で異なるため,ある指標がNSIと成りうるかは施設によって異なる可能性が大きい。今後は看護師の役割や責任範囲を標準化し,どのような指標がNSIとして妥当なのかを検討する必要があるだろう。
著者
江木 盛時 小倉 裕司 矢田部 智昭 安宅 一晃 井上 茂亮 射場 敏明 垣花 泰之 川崎 達也 久志本 成樹 黒田 泰弘 小谷 穣治 志馬 伸朗 谷口 巧 鶴田 良介 土井 研人 土井 松幸 中田 孝明 中根 正樹 藤島 清太郎 細川 直登 升田 好樹 松嶋 麻子 松田 直之 山川 一馬 原 嘉孝 大下 慎一郎 青木 善孝 稲田 麻衣 梅村 穣 河合 佑亮 近藤 豊 斎藤 浩輝 櫻谷 正明 對東 俊介 武田 親宗 寺山 毅郎 東平 日出夫 橋本 英樹 林田 敬 一二三 亨 廣瀬 智也 福田 龍将 藤井 智子 三浦 慎也 安田 英人 阿部 智一 安藤 幸吉 飯田 有輝 石原 唯史 井手 健太郎 伊藤 健太 伊藤 雄介 稲田 雄 宇都宮 明美 卯野木 健 遠藤 功二 大内 玲 尾崎 将之 小野 聡 桂 守弘 川口 敦 川村 雄介 工藤 大介 久保 健児 倉橋 清泰 櫻本 秀明 下山 哲 鈴木 武志 関根 秀介 関野 元裕 高橋 希 高橋 世 高橋 弘 田上 隆 田島 吾郎 巽 博臣 谷 昌憲 土谷 飛鳥 堤 悠介 内藤 貴基 長江 正晴 長澤 俊郎 中村 謙介 西村 哲郎 布宮 伸 則末 泰博 橋本 悟 長谷川 大祐 畠山 淳司 原 直己 東別府 直紀 古島 夏奈 古薗 弘隆 松石 雄二朗 松山 匡 峰松 佑輔 宮下 亮一 宮武 祐士 森安 恵実 山田 亨 山田 博之 山元 良 吉田 健史 吉田 悠平 吉村 旬平 四本 竜一 米倉 寛 和田 剛志 渡邉 栄三 青木 誠 浅井 英樹 安部 隆国 五十嵐 豊 井口 直也 石川 雅巳 石丸 剛 磯川 修太郎 板倉 隆太 今長谷 尚史 井村 春樹 入野田 崇 上原 健司 生塩 典敬 梅垣 岳志 江川 裕子 榎本 有希 太田 浩平 大地 嘉史 大野 孝則 大邉 寛幸 岡 和幸 岡田 信長 岡田 遥平 岡野 弘 岡本 潤 奥田 拓史 小倉 崇以 小野寺 悠 小山 雄太 貝沼 関志 加古 英介 柏浦 正広 加藤 弘美 金谷 明浩 金子 唯 金畑 圭太 狩野 謙一 河野 浩幸 菊谷 知也 菊地 斉 城戸 崇裕 木村 翔 小網 博之 小橋 大輔 齊木 巌 堺 正仁 坂本 彩香 佐藤 哲哉 志賀 康浩 下戸 学 下山 伸哉 庄古 知久 菅原 陽 杉田 篤紀 鈴木 聡 鈴木 祐二 壽原 朋宏 其田 健司 高氏 修平 高島 光平 高橋 生 高橋 洋子 竹下 淳 田中 裕記 丹保 亜希仁 角山 泰一朗 鉄原 健一 徳永 健太郎 富岡 義裕 冨田 健太朗 富永 直樹 豊﨑 光信 豊田 幸樹年 内藤 宏道 永田 功 長門 直 中村 嘉 中森 裕毅 名原 功 奈良場 啓 成田 知大 西岡 典宏 西村 朋也 西山 慶 野村 智久 芳賀 大樹 萩原 祥弘 橋本 克彦 旗智 武志 浜崎 俊明 林 拓也 林 実 速水 宏樹 原口 剛 平野 洋平 藤井 遼 藤田 基 藤村 直幸 舩越 拓 堀口 真仁 牧 盾 増永 直久 松村 洋輔 真弓 卓也 南 啓介 宮崎 裕也 宮本 和幸 村田 哲平 柳井 真知 矢野 隆郎 山田 浩平 山田 直樹 山本 朋納 吉廣 尚大 田中 裕 西田 修 日本版敗血症診療ガイドライン2020特別委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.28, no.Supplement, pp.27S0001, 2020 (Released:2021-02-25)
被引用文献数
1

日本集中治療医学会と日本救急医学会は,合同の特別委員会を組織し,2016 年に発表した日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG) 2016 の改訂を行った。本ガイドライン(J-SSCG 2020)の目的は,J-SSCG 2016 と同様に,敗血症・敗血症性ショックの診療において,医療従事者が患者の予後改善のために適切な判断を下す支援を行うことである。改訂に際し,一般臨床家だけでなく多職種医療者にも理解しやすく,かつ質の高いガイドラインとすることによって,広い普及を目指した。J-SSCG 2016 ではSSCG 2016 にない新しい領域[ICU-acquired weakness( ICU-AW)と post-intensive care syndrome(PICS),体温管理など]を取り上げたが,J-SSCG 2020 では新たに注目すべき4 領域(Patient-and Family-Centered Care,sepsis treatment system,神経集中治療,ストレス潰瘍)を追加し,計22 領域とした。重要な118 の臨床課題(clinical question:CQ)をエビデンスの有無にかかわらず抽出した。これらのCQ には,本邦で特に注目されているCQ も含まれる。多領域にわたる大規模ガイドラインであることから,委員25 名を中心に,多職種(看護師,理学療法士,臨床工学技士,薬剤師)および患者経験者も含めたワーキンググループメンバー,両学会の公募によるシステマティックレビューメンバーによる総勢226 名の参加・協力を得た。また,中立的な立場で横断的に活躍するアカデミックガイドライン推進班をJ-SSCG 2016 に引き続き組織した。将来への橋渡しとなることを企図して,多くの若手医師をシステマティックレビューチーム・ワーキンググループに登用し,学会や施設の垣根を越えたネットワーク構築も進めた。作成工程においては,質の担保と作業過程の透明化を図るために様々な工夫を行い,パブリックコメント募集は計2 回行った。推奨作成にはGRADE方式を取り入れ,修正Delphi 法を用いて全委員の投票により推奨を決定した。結果,118CQ に対する回答として,79 個のGRADE による推奨,5 個のGPS(good practice statement),18 個のエキスパートコンセンサス,27 個のBQ(background question)の解説,および敗血症の定義と診断を示した。新たな試みとして,CQ ごとに診療フローなど時間軸に沿った視覚的情報を取り入れた。J-SSCG 2020 は,多職種が関わる国内外の敗血症診療の現場において,ベッドサイドで役立つガイドラインとして広く活用されることが期待される。なお,本ガイドラインは,日本集中治療医学会と日本救急医学会の両機関誌のガイドライン増刊号として同時掲載するものである。
著者
江尻 晴美
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.543-547, 2008-10-01 (Released:2009-04-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

せん妄は,身体的原因により短期間に発現して時間とともに変動する,注意力や意識レベルの障害と睡眠覚醒障害を伴った認知機能の変化である。今回,ICU滞在中にせん妄を発症した患者において,その後,せん妄に対する患者の思いを直接聞くことができたので報告する。症例は,60歳代前半の男性。修正大血管転位症のため左側房室弁置換術,心房細動根治術を受け,術後2日目よりせん妄を発症した。悲観的,抵抗・拒絶,見当識障害が認められたが,家族が介入すると現実認知が可能であった。術後8日目,「大変見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした」と涙を流した。このときの患者の言動から,見当識障害,会話の障害など,せん妄患者によく認められる現象が患者にとって苦痛で辛いものであることがわかった。看護スタッフはその気持ちを理解して援助する必要性が示唆された。
著者
岡本 明久 小野瀬 亜樹 梅垣 岳志 浜野 宣行 山崎 悦子 阪本 幸世 西 憲一郎 新宮 興
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.34-37, 2013-01-01 (Released:2013-04-23)
参考文献数
9

妊娠を契機にして発症した血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura, TTP)の症例を経験した。妊娠23週の37歳の女性で意識障害,重度の貧血,血小板減少が見られ入院となった。A disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motif, member13(ADAMTS13)活性の低値,ADAMTS13インヒビター陽性を認めたため,血漿交換を6回施行した。ステロイドパルス療法,抗血小板薬の投与も行ったところ,速やかに血小板数増加とADAMTS13活性の改善を認め,インヒビターも陰性となった。その後定期的にADAMTS13活性を測定したが,低下は認められず,再発を疑わせる所見はなかった。ADAMTS13活性の定期測定がTTPの管理や血漿交換の適用の判断にも有用であった。
著者
原田 大 内野 滋彦 須田 奈美 北村 正樹 瀧浪 將典 川久保 孝
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.293-295, 2014

ICUでは診療科を問わず様々な疾患をもった患者が入室し,病状も刻々と変化するため,様々な理由により投与中の薬剤が廃棄されている。本研究では,薬剤の廃棄理由とその総額について調査を行った。2週間の調査より廃棄総件数382件,廃棄総額262,525円が確認された。診療科別廃棄件数・廃棄金額は心臓外科が最も多く,薬品別廃棄総額はカルペリチド,デクスメデトミジンが上位を占めていた。また,廃棄理由は「治療方針の変更」が最も多かった。本研究により,ICUにおける注射薬の廃棄原因や具体的な廃棄金額が明らかとなった。今後,日々の診療にICU薬剤師が積極的に関与することで,ICU患者の薬剤費を削減できる可能性が示唆された。