著者
中筋 章人
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.250-255, 2005-12-10
参考文献数
8
被引用文献数
1 3

「ハザードマップ」とは, 一般的に「災害予測図」とよばれるように, 災害の危険予測情報が表示されていなければならない.この点からすると, 現在一般市民に配布されている土砂災害関係の防災マップは, 「土砂災害ハザードマップ」ではなく「土砂災害危険箇所マップ」である.土砂災害ハザードマップの研究と実用化が遅れている理由は, 技術的には火山のような噴火災害と比べ災害履歴に乏しく, 水位や流速で被害規模がほぼ決まる洪水災害と比べ発生要因が複雑であることが原因である.つまり土砂災害は, 対象箇所での災害履歴が少ないうえに降雨要因のみならず, 地形や地質要因, さらに複雑な土質や地下水要因が絡み合っていることが災害発生予測を困難にしていると考えられる.さらに, 平成13年4月1日に施行された「土砂災害防止法」では, 新たな危険区域の設定手法が提示されるに至ったが, いろいろ状況が異なる斜面や渓流に対して, 全国一律的に機械的な危険区域設定手法をとろうとしている点に問題がある.このような土砂災害ハザードマップの技術的課題に加えて, その有効利用方法にも大きな問題がある.平成16年9月末に三重県宮川村で発生した豪雨災害は, 事前に精度の良い土砂災害危険箇所マップが配布されていたにもかかわらず, 避難勧告の遅れなどで多くの犠牲者を出した.この災害では, あらためて自治体の災害に対する意識や経験の少なさから来る「防災力」の弱さと土砂災害危険箇所マップを用いた事前避難訓練の重要性が浮き彫りとなった.本論では, 「なぜ土砂災害ハザードマップができないのか」に加えて土砂災害危険箇所マップが災害時に「なぜ利活用されなかったのか」についても考察した.
著者
戸邉 勇人 千木良 雅弘 土志田 正二
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.66-79, 2007-06-10
参考文献数
47
被引用文献数
3 6

1972年,愛知県小原村では豪雨により花崗岩類の崩壊が多数発生した.われわれはその被災地で崩壊の分布・密度に対する岩相と降雨量の影響を数値的に検討した.5時間で約200mmの降雨を受けた同一地域であるにもかかわらず,花崗岩地域の崩壊密度は293/km^2であり花崗閃緑岩の値(13/km^2)を一桁以上上回った.また,花崗岩地域では降雨量増大とともに崩壊密度の増大が認められたが,花崗閃緑岩地域では認められなかった.航空レーザー測量を約3km^2の範囲で行い,空中写真と対比し,この災害時だけでなくそれ以前に発生した崩壊も抽出した結果,崩壊密度の差がこの災害以前から存在し続けていたことがわかった.これらの差は,岩相間で風化帯構造が異なることによると推定される.花崗岩地域ではD_H〜D_M級の硬質なマサがもっとも広く分布し,それらは斜面表層部に明瞭な緩み前線を伴っていたため,崩壊しやすかったと推定される.また,一部の花崗岩にはマイクロシーティングが発達し,崩壊発生を助長していた.一方,花崗閃緑岩地域ではD_L級のマサが広く分布し,それは強風化しているが,明瞭な緩み前線を伴っていなかったため,崩壊数が少なかったと推定される.
著者
千木良 雅弘
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.182-194, 1984-12-30
被引用文献数
10 9

Geological and geomorphological invesigation was performed in the Kanto mountainous land to study the relationship between geology and landslide topographies in the Sambagawa terrain where crystalline schist is distributed. Landslide topographies were found to be abundant in pelitic and basic schist ranges and scarce in siliceous schist, psammitic schist, and massive basic rock ranges. It was elucidated that the landslide topographies have the size and the moving direction, both are controlled by the attitude of the basement rocks. The landslide topographies that show the movement about parallel with the dip direction of the basement rocks exceed the other landslide topographies in their number and in their size.
著者
藤田 元夫
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.88-91, 1995-04-10
被引用文献数
1

本年1月17日に発生した"阪神大震災"は5000人を上回る死者を出す大惨事となったが、この大地震による激震地域が帯状の分布を示していたことが明らかになりつつある。現在のところ、このような震度分布を"活断層"のみによって説明しようとする論調が目立っているが、地震動や震災を"地盤"との関係から検討する視点が重要であることは、関東大震災を初めとする種々の震災で指摘されてきたところである。筆者は、阪神大震災の発生直後から、この震災と"地盤"との関係に着目し、この関係を検討するための資料として、明治以降の古地形図と最新の地形図を読図することにより、神戸市・芦屋市・西宮市一帯における埋立地の推移と、大正初頭の水田・市街地の分布、および地形区分を明らかにする図面(p.90〜91)を作成した。初版図は本年1月末に作成したが、本報で発表するものは2月初旬に作成した改訂版である。
著者
日本応用地質学会平成20年岩手・宮城内陸地震調査団 橋本 修一 千木良 雅弘 中筋 章人 日外 勝仁 亀谷 裕志 野崎 保 森 一司 高見 智之 菖蒲 幸男 小林 俊樹 山本 佑介
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.98-108, 2009-06-10
参考文献数
11
被引用文献数
6 5

平成20年6月14日朝,岩手県内陸南部を震源としてM7.2の地震が発生した.震源域の山地では,地中で1G超の加速度,地表で2mを超える隆起など大きな地盤変動が観測され,巨大な斜面崩壊や多くの河道閉塞が発生するなど,大小さまざまな規模の地盤災害が多発した.これらの地盤災害を理解するには,地質,地質構造および岩盤特性を正しく把握する必要があるものと考えられた.日本応用地質学会は災害実態を把握するために災害調査団を組織し,9月中旬に第一次現地調査を行い,その概要を平成20年度研究発表会(10月31日横浜)および学会誌(Vol.49,No.6)で速報し,その内容は同学会ホームページに公開している.本報告は,上記現地調査結果を中心にして,調査地区の特徴的な斜面災害状況を記載し,その発生の過程・メカニズムについて現段階までの知見を加えて考察したものである.
著者
大島 洋志 徳永 朋祥 宮島 吉雄 田中 和広 石橋 弘道
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.351-358, 1996-10-10
参考文献数
24
被引用文献数
1 6

Data on various hydrological and geochemical fluctuations caused by the 1995 Hyogo-ken Nanbu Earthquake were accumulated. We reported fluctuations of the relatively shallow groundwater at the Nuruyu area, the Northern Awaji Islands, and those of the deeper one at the regional (about 300km&times;300km) scales. Then, we briefly reviewed the precursory geochemical changes in groundwater.<BR>Groundwater gushed out soon after the earthquake at around the Nuruyu and Nojima-Tokiwa areas, which are situated to the east of the Nojima fault, and then has dried up within the several months. There has been no sign of the recovery of groundwater level in wells one year after the earthquake. The water springing out at the hanging wall side along the Nojima fault seemed to be moved from the eastern mountainous area where groundwater has dried up.<BR>Groundwater in deep underground also fluctuated by the earthquake and their spatial distribution seemed to be related to the distance and the direction from the epicenter of the earthquake. Temperature increase at several hot springs has also been observed after the earthquake.<BR>The investigation of the groundwater fluctuations is important not only for the prediction of earthquakes but also for the engineering geological activities, such as planning water supply for the mountainous villages, monitoring and solving groundwater pollution problems, and evaluating long-term stability of deep underground environments. We proposed several plans to monitor and manage data on groundwater fluctuations both in usual times and at earthquakes. We also showed the recommended countermeasure for the fluctuations of hot springs, and pointed out the importance to prepare water supply plans for the places where the drops of water levels have been observed by the previous earthquakes.
著者
出納 和基夫
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, 1988-06-25
著者
山岸 宏光 中筋 章人 野崎 保 平野 吉彦 中川 渉 安田 匡 棚瀬 充史 須藤 宏 三戸 嘉之 永野 統宏 小野 雅弘 安田 幸弘 濱 康之
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.192-202, 2007-10-10
被引用文献数
1 2

平成19年7月16日午前10時13分,新潟県中越沖の深さ17kmを震源とするM6.8の地震が発生し,新潟県柏崎市,長岡市,刈羽村,長野県飯綱町で震度6強の大きなゆれを観測するとともに,各地で大きな被害が発生した.日本応用地質学会では,いち早く先発隊として野崎北陸支部副支部長が17日に現地調査を開始し,22日にはその結果を速報としてホームページ上に公開した.ついで北陸支部(山岸支部長)が主体となり,学会本部の新潟県中越地震による土砂災害研究小委員会(千木良委員長)が支援する形で,現地調査を行うことが決定し,調査団を募ったところ13名のメンバーが参集した.現地調査は,8月3日に猛暑(36℃)の中で行われ,13日にはその成果をホームページに公開した.本報告は,今回行なった現地調査の中から,地震災害の代表的現象である液状化・斜面崩壊・地すべりなどを対象に,その状況と発生メカニズムについて検討した結果を報告するものである.
著者
藤井 幸泰 渡辺 邦夫 村上 和哉
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.258-264, 2007-12-10
被引用文献数
4

古シルクロードに位置するタジキスタン共和国アジナ・テパ仏教遺跡の修復・保存活動が,ユネスコ文化遺産保存日本信託基金によって行われている.2006年の活動の一環として,遺跡の修復・保存を目的とした現況の記録作業が行われた.記録作業には写真測量技術を適用し,倒壊の危惧される六つの壁の三次元可視化と,遺跡の地形図作成が行われた.その結果,写真測量技術が現況の記録および修復プランの計画に大変有効であることが明らかとなった.壁の三次元可視化は,断面線などから浸食の状況を把握し,倒壊の危険性の客観的判断に利用できる.また精度の高い地形図は,修復プランの計画や,今後の経過報告として利用される予定である.
著者
齋藤 和春 渡辺 邦夫 GAUTAM Mahesh
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.170-180, 2001-08-10
被引用文献数
2

本研究は,青函トンネル掘削時の地質および湧水量データを用いて,統計解析的手法により岩盤割れ目とトンネル湧水量との関係を明らかにするものである.本報告では湧水量と地質的要因との相関を調べ,さらに数量化理論とニューラルネットワーク(ANN)解析による湧水の地点と量の予測を試みた.その結果,数量化理論では定性的要因をも考慮して湧水量に与える地質要因の影響をある程度調べることができたが,予測精度では実用上問題もあった.それに比べニューラルネットワーク解析では予測も実用的に高いことがわかった.とくに,湧水量の再現性は極めて高い結果を得た.しかし,局所的な突発湧水についての予測は確度が低く,また定性的要因をいかにして定量的に評価してパラメータとして扱うかなどについての課題を示した.
著者
林 為人 高橋 学 李 小春 鈴木 清史
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.299-305, 1999-12-10
被引用文献数
4 6

難透水性岩石の透水係数を測定する場合, 供試体を流れる水が極微量であるため, 供試体と被覆材料との間を流れる側面流が発生しないことが正確な透水係数を得る前提条件となる.本研究では, 3種類の異なる方法で被覆を施した白浜砂岩供試体を用いて, トランジェントパルス法透水試験を実施した.その結果, 熱収縮チューブのみによる被覆の場合は側面流が発生し, 透水係数の過大評価を招く恐れがあえることが明らかになった.側面流を防ぐ対策として, 熱収縮チューブを被せる前に, 低粘性シリコンゴムを供試体表面に塗布することによって, 側面流の発生を防げることが判明した.次に, 本研究での実験条件において, 発生した側面流の流量および, 側面流の水みちを円筒形キャピラリーと等価した場合の等価キャピラリー半径を定量的に評価した.等価半径0.01mmほどの側面流水みちは透水試験結果に影響を及ぼすことが明らかになった.さらに, 弾性論に基づいて被覆材料の封圧伝達特性を検討した結果, 岩石供試体の弾性係数が被覆材料のそれ以上あれば, 被覆材料は封圧をほぼ忠実に供試体に伝達できることが判明した.
著者
河西 秀夫
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.84-92, 1994-08-10
参考文献数
12
被引用文献数
1

15〜25KHzの周波数(VLF帯)の電磁波を用いて地表の電磁場応答を測定する電磁波探査がVLF-MT(Very Low Frequency-Magneto Telluric)法である。 Magneto Telluricは地磁気地電流法と訳されている。VLF帯の電磁波として米軍の送信所から発信される対潜水艦用の通信電波が使用されている。VLF-MT法では水平磁場強度とそれに直交する水平電場強度が測定され、これらの値から次式で見かけ比抵抗と位相角が求まる^1)。ρ_2=0.2T(E/H)^2(1)φ=arg(E/H)(2)ρ_2:見かけ比抵抗値(Ωm)φ:位相角(^)T:周期(秒)E:電場強度(mV/km)H:磁場強度(nT)地中に入射した電磁波の強度が1/e(eは自然対数の底)に減衰する深度を表皮深度δというが、この表皮深度をほぼ探査深度と見なすことができる。比抵抗ρの均質大地の表皮深度は次の式で求まる^2)。δ=500√<p/f>(3)ρ:比抵抗値(Ωm)f:測定周波数(Hz)比抵抗値として見かけ比抵抗値を使用して計算するが、見かけ比抵抗値が500Ωmの場合は表皮深度は35m、1000Ωmの場合は120mである。このようにVLF-MT法は探査深度が浅いが、装置が小型で軽量なことや短時間で測定ができることから、露頭が少ない火山地域の浅都の地質構造を推定する手段として有効であると思われる。筆者は先に富士山北麓の地域(山梨県鳴沢村)のテフラ堆積地帯でVLF-MT法を用いて浅都の地質構造を推定し、その有効性を報告した^3)。この報告では地盤は2層構造であるという仮定下で測定データの数値解析を行なったが、既存のボーリング資料の対比から、400Ωm以下の比抵抗層を火山砂礫層、401〜800Ωmの比抵抗層を凝灰角礫層、1200Ωm以上の比抵抗層は溶岩流と凝灰角礫層の互層、2000〜5000Ωmの比抵抗層を溶岩流であると推定した。また、地質構造の解析に当って、あらかじめ踏査やボーリング資料等の既存資料を使用してできる限り地質構造を検討しておく必要があることを指摘した。今回、前回の方法の有効性をさらに確認するために、富士山北麓地域と両様に富士山の噴出物が厚く堆積している富士山北西麓地域(山梨県富士吉田市)でVLF-MT法を用いて浅都の地質構造の調査を行い、2層構造の仮定下で測定データの数値解析を行った。また、VLF-MT調査とともに地質踏査を行い、解析を行うために必要な地質構造の把握を行った。本文では解析結果を報告するとともに、幾つかの問題点を検討する。