著者
川上 和人 江田 真毅
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.7-23, 2018 (Released:2018-05-11)
参考文献数
158
被引用文献数
1

鳥類の起源を巡る論争は,シソチョウArchaeopteryxの発見以来長期にわたって続けられてきている.鳥類は現生動物ではワニ目に最も近縁であることは古くから認められてきていたが,その直接の祖先としては翼竜類やワニ目,槽歯類,鳥盤類恐竜,獣脚類恐竜など様々な分類群が提案されてきている.獣脚類恐竜は叉骨,掌骨や肩,後肢の骨学的特徴,気嚢など鳥と多くの特徴を共有しており,鳥類に最も近縁と考えられてきている.最近では羽毛恐竜の発見や化石に含まれるアミノ酸配列の分子生物学的な系統解析の結果,発生学的に証明された指骨の相同性,などの証拠もそろい,鳥類の起源は獣脚類のコエルロサウルス類のマニラプトル類に起源を持つと考えることについて一定の合意に至っている.一般に恐竜は白亜紀末に絶滅したと言われてきているが,鳥類は系統学的には恐竜の一部であり,古生物学の世界では恐竜は絶滅していないという考え方が主流となってきている.このため最近では,鳥類は鳥類型恐竜,鳥類以外の従来の恐竜は非鳥類型恐竜と呼ばれる. 羽毛恐竜の発見は,最近の古生物学の中でも特に注目されている話題の一つである.マニラプトル類を含むコエルロサウルス類では,正羽を持つ無飛翔性羽毛恐竜が多数発見されており,鳥類との系統関係を補強する証拠の一つとなっている.また,フィラメント状の原羽毛は鳥類の直接の祖先とは異なる系統の鳥盤類恐竜からも見つかっており,最近では多くの恐竜が羽毛を持っていた可能性が指摘されている.また,オルニトミモサウルス類のオルニトミムスOrnithomimus edmontonicusは無飛翔性だが翼を持っていたことが示されている.二足歩行,気嚢,叉骨,羽毛,翼などは飛行と強い関係のある現生鳥類の特徴だが,これらは祖先的な無飛翔性の恐竜が飛翔と無関係に獲得していた前適応的な形質であると言える.これに対して,竜骨突起が発達した胸骨や尾端骨で形成された尾,歯のない嘴などは,鳥類が飛翔性とともに獲得してきた特徴である. 鳥類と恐竜の関係が明らかになることで,現生鳥類の研究から得られた成果が恐竜研究に活用され,また恐竜研究による成果が現生鳥類の理解に貢献してきた.今後,鳥類学と恐竜学が協働することにより,両者の研究がさらに発展することが期待される.
著者
川上 直秋
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.23-33, 2020 (Released:2020-04-25)
参考文献数
25

Drawing on the literature about approach-avoidance behavior, this study tested whether asymmetries in the ways people interact with their smartphones using flick input (an input method based on swiping a key in a certain direction to produce the desired letter) influence their evaluations of the emotional valence of words. Specifically, a downward flick is regarded as an approach behavior in that the movement of a finger is directed toward the self, while an upward flick is regarded as avoidance behavior in that the movement is directed away from the self. In five studies, the predicted relationship between emotional valence and direction of finger movement on the smartphone was observed for nonwords and existing words. On average, words with more downward flick letters were rated as more positive in valence than words with more upward flick letters (hereafter referred to as the Flick effect). Of note, the Flick effect was not found among people who have never owned a smartphone, suggesting that smartphone use with flick input shapes the meaning of words.
著者
伴埜 行則 並河 幹夫 三輪 真理子 伴 創一郎 折戸 太一 瀬村 俊亮 川上 雅弘 土井 直也 三宅 司郎 石川 和弘
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.178-187, 2013-06-25 (Released:2013-07-18)
参考文献数
29
被引用文献数
1 3

チェルノブイリ原子力発電所事故以後,京都市内に流通する食品中の放射性ヨウ素(131I)および放射性セシウム(137Csおよび134Cs)のモニタリングを実施してきたが,2011年3月の福島原子力発電所の事故は,調査の重要性を改めて認識させることとなった.福島原子力発電所事故前後において検出した核種と検出率,および濃度について検討した.検査にはゲルマニウム半導体検出器を用いた.福島原発事故以前は,輸入品,国産品をモニタリングの対象とした.核種としては137Csのみが検出された.魚介類からの検出頻度は約70%であり,濃度は最高でも1.7 Bq/kgであった.乾燥キノコを除くキノコ類からの検出頻度は,83%と高く,濃度の最高値は7.5 Bq/kgであった.野菜類は,207検体のうち2件のみ(根菜を除く)で検出したが濃度も明らかに低かった.福島原発事故以降は,東北・関東地方産の流通食品を検査した.3月23日に中央卸売市場から採取したミズ菜から3,400 Bq/kgの131I,280 Bq/kgの134Cs,および280 Bq/kgの137Csを検出したのをはじめ,3月と4月に検査したすべての葉菜類でこれらの放射性物質を検出した.しかし,11月以降はすべてが不検出となった.魚介類から検出された137Csは,平均で7.9 Bq/kgだった.肉類では,トレーサビリティーによって汚染稲わらを与えられたことが判明したウシの肉からのみ暫定規制値を超える137Csが検出された.また,甲状腺に対するリスクが懸念される131Iは,5月以降すべての試料で不検出となった.基準値を超える食品が京都市内を流通する恐れは,すでにほとんどないと考えられた.
著者
川上 裕司 関根 嘉香 木村 桂大 戸高 惣史 小田 尚幸
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.19-30, 2018 (Released:2018-04-01)
参考文献数
20
被引用文献数
3

自分自身が皮膚から放散する化学物質によって,周囲の他人に対してくしゃみ,鼻水,咳,目の痒みや充血などのアレルギー反応を引き起こさせる体質について,海外ではPATM(People Allergic to Me)と呼ばれ,一般にも少しずつ知られてきている。しかしながら,日本では殆ど一般に認知されておらず,学術論文誌上での報告も見当たらない。著者らはPATMの男性患者(被験者)から相談を受け,聞き取り調査,皮膚ガス測定,着用した肌着からの揮発性化学物質測定,鼻腔内の微生物検査を実施した。その結果,被験者の皮膚ガスからトルエンやキシレンなどの化学物質が対照者と比べて多く検出された。また,被験者の皮膚から比較的高い放散量が認められたヘキサン,プロピオンアルデヒド,トルエンなどが着用後の肌着からも検出された。被験者の鼻腔内から分離された微生物の大半は皮膚の常在菌として知られている表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)であった。分離培地上でドブ臭い悪臭を放つ放線菌(Arthrobacter phenanthrenivorans)が分離されたことはPATMと何か関連性があるかもしれない。また,浴室や洗面所の赤い水垢の起因真菌として知られている赤色酵母(Rhodotorula mucilaginosa)がヒトの鼻腔内から分離されたことは新たな知見である。この結果から,PATMは被験者の思い込みのような精神的なものではなく,皮膚から放散される化学物質が関与する未解明の疾病の可能性が示唆された。
著者
仁藤 二郎 奥田 健次 川上 英輔 岡本 直人 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.187-205, 2021-03-25 (Released:2022-03-25)
参考文献数
123

応用行動分析学はその黎明期において、精神科臨床の領域においても盛んに研究が行われていた。ところが、その流れは1980年代には行動療法の一部としてみなされるようになり、現在では広義には第3世代とされている認知行動療法(CBT)の中で、行動分析学の原理を取り入れた臨床行動分析として発展を続けている。しかし、CBTあるいは臨床行動分析の効果検証は、実証的に支持された治療(EST)の影響を受けて、主に無作為対照化試験(RCT)などのグループ比較デザインにとどまっており、行動分析学の方法論に基づいた実践研究はほとんど行われていない。本論文では、最初に、①精神科臨床における応用行動分析学の歴史を振り返る。次に、②現在の精神科臨床において薬物療法以外で標準治療とされているCBTについて、その歴史と行動分析学との関係について整理する。そして、③CBTが掲げるエビデンスの特徴と問題点を指摘する。最後に、④精神科臨床において、グループ比較デザインの知見とシングルケースデザインの方法論に基づく実践効果検証それぞれの利点を活かして統合し、応用行動分析学に基づく完成度の高い実践(well-established practices)を目指すことが重要であることを論じる。今後、精神科臨床の領域においても行動分析学の方法論を用いた実践を増加させる仕組みづくりが必要である。
著者
川上 和人
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.237-262, 2019-10-25 (Released:2019-11-13)
参考文献数
149
被引用文献数
2 7

小笠原諸島は太平洋の北西部に位置する亜熱帯の海洋島である.小笠原の生態系は現在進行中の進化の過程を保存するとともに高い固有種率を示しており,2011年にユネスコの世界自然遺産に登録された.しかし,1830年から始まった近代の入植により,森林伐採や侵略的外来種の移入などが生じ,在来生物相は大きな影響を受けている.小笠原では2種の外来種を含む20種の陸鳥と21種の海鳥の繁殖が記録されている.このうち7種の固有種・亜種が絶滅し,5種の繁殖集団が諸島から消滅している.絶滅の原因は,主に生息地の消失,乱獲,侵略的外来種の影響と考えられるが,特に外来哺乳類の影響が大きいと考えられる.小笠原諸島にはこれまでに10種の外来哺乳類が野生化しているが,このうちヤギ,イエネコ,クマネズミ,ドブネズミ,ハツカネズミが現存し,その生態系への影響の大きさから駆除事業が行われている.ヤギは旺盛な植食者であり,移入先ではしばしば森林の草原化,裸地化を促し,土壌流出を生じさせる.小笠原諸島では特に聟島列島でその影響が大きい.また,ヤギが歩き回ることで海鳥の営巣が撹乱される.ヤギは過去に20島に移入されたが,父島以外の島では根絶されており,海鳥の分布拡大が見られる.鳥類の捕食者となるネコは8島に移入され,現在は有人島4島に生残する.父島では山域のネコの排除が進み,アカガシラカラスバトColumba janthina nitensが増加している.ネズミは小笠原諸島のほとんどの島に侵入しており,無人島では駆除事業が進められている.根絶に成功した島では鳥類相の回復も見られるが,再侵入や残存個体の増加が生じている島も多い.外来哺乳類の駆除後には,想定外の生態系の変化も見られている.ヤギ根絶後には抑制されていた外来植物の増加が生じている.ネコ排除後にはネズミが増加している可能性がある.ネズミの駆除後は,これを食物としていたノスリButeo buteo toyoshimaiの繁殖成功の低下が見られている.複数の外来種が定着している生態系では,特定の外来種を排除することは必ずしも在来生態系の回復につながらない.このような影響を緩和するためには,種間相互作用を把握し外来種排除が他種に及ぼす影響を予測しなければ,保全のための事業がかえって生態系保全上の障害になりかねない.このため,外来種駆除を行う場合は複数のシナリオを想定し,生態系変化モニタリングに基づいて次のシナリオを選択し順応的に対処を進めていく必要がある.
著者
阿部 恵子 須山 祐之 川上 裕司 柳 宇 奥田 舜二 大塚 哲郎
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.69-73, 2007-06-01 (Released:2012-10-29)
参考文献数
4
被引用文献数
1

空気清浄機の除菌性能評価法を策定するために必要な基礎データを得ることを目的とした予備実験を試みた。供試微生物散布用の試験室を作製し, その試験室の空気中に浮遊させる微生物としてwallemia sebiおよびPenicillium freguentansの胞子を用意し, 胞子の散布にネブライザ法および超音波法を適用し, 散布胞子の採取にゼラチンフィルタ法を用いた。ネブライザ法と超音波法の何れの方法でも, 試験室内に胞子を散布することができた。市販の空気清浄機の除菌性能 (空中浮遊菌除去性能) の評価試験を試みたところ, フィルタによる空中浮遊生菌濃度の低減効果が認められたが, クラスタイオンによる低減効果は認められなかった。
著者
山口 一 伊澤 康一 山田 容子 川上 梨沙 冨岡 一之
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会環境系論文集 (ISSN:13480685)
巻号頁・発行日
vol.80, no.716, pp.945-952, 2015 (Released:2015-11-11)
参考文献数
27
被引用文献数
1

Recently attention has been focused on countermeasures against microorganisms such as viruses and microbe, in connection with pandemics of new forms of influenza or SARS, and the occurrence of bioterrorism. Also, in pharmaceutical or food production facilities, a high standard of internal environment of the facility is required, including countermeasures against microorganisms. These countermeasures from the facility point of view include partitioning of work zones (zoning), and cleaning the air using HEPA filters. However, when workers/researchers are working within a facility, dispersion of dust or adhering microbe brought in from clothes, etc., cause pollution of the air. In this report, the sterilization performance of weak acid hypochlorous solution used as the chemical substance was verified. In addition, the sterilization performance in an actual space varied not only with the chemical substance used, but also with the condition of the room, the air conditioning system, the method of spraying, etc. Therefore, from the above sterilization performance tests using chemical substances, the raw data required for a computational fluid mechanics (CFD) model were derived. A method that enables the effect of the chemical substance to be predicted under various conditions was investigated, and the results are reported.
著者
鶴崎 展巨 川上 大地 太田 嵩士 藤崎 謙人 坂本 千紘
出版者
鳥取県生物学会
雑誌
山陰自然史研究 (ISSN:13492535)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.33-44, 2015-03-31

2013年から2014年にかけて鳥取砂丘の全域でハンミョウ類の生息調査をおこない,カワラハンミョウの幼虫の巣穴が砂丘のほぼ全域にみられるのに対し,エリザハンミョウのそれはオアシス周辺の湿り気のある砂泥地表に限定されていることを確認した。1990年代までオアシス周辺で生息が確認されていたハラビロハンミョウは確認できず,鳥取砂丘からは絶滅したと判断される。当地は環境省国立公園の特別保護地区であり,採集は厳密に規制されているのでこの絶滅は1994年からはじまった除草に影響された可能性が強く疑われる。本種の鳥取砂丘内での最終確認は1997年である。カワラハンミョウとエリザハンミョウについてはコドラート調査により,カワラハンミョウは基本的に年1化で1 ~ 2齢の幼虫で越冬,エリザハンミョウも年1化だがすべての齢で越冬していると推定された。巣穴は1年をとおして集中分布でとくに若齢幼虫の多い秋季にはその傾向がめだった。We surveyed distributions and life histories of cicindelid beetles in Tottori Sand Dunes, Tottori Prefecture, Honshu, Japan. Larval nests of Chaetodera laetescripta were widely found in the bare arenaceous ground around vegetation of sandy shore plants in the dunes, while those of Cilindela elisae were limited to the bare silt-mingling arenaceous ground along the stream flowing into the pool called "Oasis". No adults and nests of Calomera angulata (Fabricius, 1798) that had been found up to 1990s around "Oasis"were found. Absence of the records of Calomera angulata from Tottori Sand Dunes after the last observation in 1997 strongly suggests extinction of the species in the area. It is highly suggested that weeding activities that started in 1994 in Tottori Sand Dunes influenced negatively for the occurrence of the species, because Tottori Sand Dunes has been designated as a special protection area of the national parks by the Japan Ministry of Environment and collecting animals and plants and other activities that may influence conservation of the environment are strictly regulated. Chaetodera laetescripta and Cilindela elisae were univoltine and adults appeared from July. Analyses of dispersion pattern of larval nests for the two species showed contagious distribution.
著者
依光 朋子 山﨑 裕司 萩野 智美 酒井 寿美 平賀 康嗣 稲田 勤 川上 佳久 西野 愛
出版者
高知リハビリテーション学院
雑誌
高知リハビリテーション学院紀要 (ISSN:13455648)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.23-25, 2012

図書館利用者数,貸出冊数を増加させる目的でポイントカードを導入し,その効果について検討した. 対象は平成22年度本学院在学生520名,平成23年度本学院在学生523名である. 平成23年10月から,図書館利用者にポイントカードを配布した.ポイントは,図書の貸出機会,返却機会,国家試験問題への挑戦について2ポイント,文献相互貸借申込について6ポイントが付与された.合計10ポイントで,借用可能な図書数を1冊増加,あるいは漫画本3冊の貸出という特典を準備した.さらに30ポイントで,漫画本10冊の貸出という特典を付与した.平成23年10月から平成24年2月までの期間における来館者数,貸出図書冊数を平成22年度の同時期と比較した. 平成22年度と23年度を比較すると,11月13.1%,12月11.4%,1月11.8%,2月39.5%の有意な増加を認めた.しかし,貸出冊数には,有意な変化を認めなかった. ポイントカードの導入は,利用者数を増加させるうえで有効に機能したものと考えられた.
著者
佐々木 那津 津野 香奈美 日高 結衣 安藤 絵美子 浅井 裕美 櫻谷 あすか 日野 亜弥子 井上 嶺子 今村 幸太郎 渡辺 和広 堤 明純 川上 憲人
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.275-290, 2021-11-20 (Released:2021-11-25)
参考文献数
28

目的:本研究では,医学研究における患者・市民参画(PPI: Patient and Public Involvement)の枠組みを用いて日本人女性労働者の就労上の悩みと期待する職場での研究を把握し,研究の課題発見と優先順位を決定する.対象と方法:日本の女性労働者を対象に,インターネット調査を利用した横断研究を行った.独自の調査票を用いて「女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因(身体症状,精神症状,月経の悩み,妊娠・出産の悩み,ワーク・ライフ・バランスなど)」,「女性労働者が活用できる制度の利用状況」,女性労働者が「期待する職場での研究テーマのニーズ」を尋ねた.「就労上課題となる生物心理社会的な要因」と「期待する職場での研究テーマのニーズ」は基本的属性(年齢,配偶者の有無,子どもの有無,未就学児同居の有無,勤務形態,職種)別にχ2 検定および残差分析を行い,また期待する職場での研究テーマとして頻度の高い4項目に関して症状の有無との関連をχ2 検定で検討した.調査は2019年7月に実施した.結果:本調査では416名から回答を得た.就労上課題となる生物心理社会的な要因として,なんらかの就労に支障がある症状を持つ者の割合は,身体症状(89%),月経に関する悩み(65%),精神症状(49%),ワーク・ライフ・バランスの悩み(39%),妊娠出産に伴うキャリアの悩み(38%)の順で多かった.制度利用の状況として,回答者本人の利用率は不妊治療連絡カード(0%),フレックスタイムやテレワーク(1~3%),生理休暇(4%),短時間勤務制度(8%)であった.期待する職場での研究は,「肩こりや腰痛をやわらげる研究」(45%),「女性のメンタルヘルスを向上させる研究」(41%),「月経と仕事のパフォーマンスに関する研究」(35%),「ワーク・ライフ・バランスを向上させる研究」(34%)の順に多かった.20代/30代・配偶者がいない・こどもがいない・フルタイム勤務という要因をもつ対象者では「メンタルヘルス」と「月経」に関する研究への期待が高かった.未就学児同居の対象者では「産後の精神的な支援」「産後の身体的な支援」「産後うつ予防」の研究への期待が有意に高かったが,「ワーク・ライフ・バランス」に関する研究への期待は有意差がなかった.月経の悩みやワーク・ライフ・バランスの課題を抱えていることと,それらの研究を期待することには有意な関連が見られたが,有症状者のうち介入を期待した者の割合はいずれも48%であった.男性労働者にも共通する心身の課題を除くと月経に関する悩みは最も頻度の高い女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因であった.考察と結論:就労上困難を感じる症状として月経に関連したものは頻度も高く,女性労働者の健康課題として婦人科に関連した心身の状態は今後研究の対象となることが期待された.しかし,悩みや困難を抱えていることと職場での研究を希望しているかどうかについては,個別の文脈で慎重に検討する必要があると考えられる.
著者
川上 泰雄
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集 第68回(2017) (ISSN:24241946)
巻号頁・発行日
pp.37_2, 2017 (Released:2018-02-15)

トップアスリートや舞踊家、音楽家など、様々なジャンルで活躍するエリート達は、いずれも人間の身体能力を極めて高いレベルで達成している「達人」であるといえる。人々を驚嘆、感動させるこうした達人たちの動きに関して精力的に研究・実践活動を進めている4名の専門家を演者としてお招きし、本シンポジウムを企画した。「達人技」の域に達する動作の機序、音楽・リズムとの絶妙な協調を成し遂げる情報処理能力や身体制御方略、そして人々の感動を呼ぶ達人の動きのポイントなどについて、各氏より最新の研究成果をご披露いただく。会場では「達人技を科学する」というテーマのもと、各演者の話題を中心に議論を行い、領域横断的な考察を深めることを目指す。シンポジウムに割り当てられる合計時間の関係から、パネルディスカッションは最小限とし、各演者のご発表と質疑応答にできる限りの時間を充てる予定である。バイオメカニクス研究領域はもちろん、ご興味をもたれる様々な研究領域の皆様のご参加と、積極的な意見交換をお願いする次第である。芸術の域にまで高められた人間の究極の動きに迫り、身体能力の多様な可能性を探りたい。
著者
日高 佑紀 森 大樹 吉 赫哲 川上 茂樹 一川 暢宏 有薗 幸司
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.27-34, 2014-03-31 (Released:2014-05-16)
参考文献数
23

パーソナルケア製品に頻用されている合成香料は、脂溶性が高く、生体内に高濃度で濃縮されることが憂慮される。しかし、これらの環境汚染状況や生体影響への情報は少ない。今回、合成香料のうち、多環ムスク化合物である6-acetyl-1,1,2,4,4,7-hexamethyltetraline (AHTN) 及び1,3,4,6,7,8-hexahydoro-4,6,6,7,8-hexam ethylcyclopenta-γ-2-benzopyran (HHCB) 並びにHHCB の代謝物HHCB-lactone、さらに[1,2,3,4,5,6,7,8- octahydro-2,3,8,8,-tetramethylnaphtalen-2yl]ethan-1-one (OTNE) の下水処理場における挙動とその動態につ いて調査した。その結果、下水処理施設の流入水においてAHTN 2.3 µg/L、HHCB 4.8 µg/L、HHCB-lactone 1.2 µg/L、OTNE 5.4 µg/Lが検出され、放流水では、AHTN 0.7 µg/L、HHCB 0.9 µg/L、HHCB-lactone 0.9 µg/L、 OTNE 0.7 µg/Lの濃度で検出された。下水汚泥においてはAHTN 2.1~9.3 mg/kg、HHCB 3.9~11.7 mg/kg、HHCB-lactone 1.8~3.4 mg/kg、OTNE 2.0~9.3 mg/kgの範囲で検出された。下水汚泥の各処理過程においては、AHTN、HHCB及びOTNEが活性汚泥中で濃度が低下するのに対し、HHCB-lactoneは下水処理過程を通して濃 度の大きな変動は見られなかった。さらに、下水処理場からの多環ムスク化合物の環境への排出量は、流入量の約60 %が放流水及び下水汚泥として環境中へ放出されること、下水処理過程での分解消失率は流入量の除去率は40 %弱であることが判明した。
著者
川上 直秋
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.91.18060, (Released:2020-03-10)
参考文献数
25

Drawing on the literature about approach-avoidance behavior, this study tested whether asymmetries in the ways people interact with their smartphones using flick input (an input method based on swiping a key in a certain direction to produce the desired letter) influence their evaluations of the emotional valence of words. Specifically, a downward flick is regarded as an approach behavior in that the movement of a finger is directed toward the self, while an upward flick is regarded as avoidance behavior in that the movement is directed away from the self. In five studies, the predicted relationship between emotional valence and direction of finger movement on the smartphone was observed for nonwords and existing words. On average, words with more downward flick letters were rated as more positive in valence than words with more upward flick letters (hereafter referred to as the Flick effect). Of note, the Flick effect was not found among people who have never owned a smartphone, suggesting that smartphone use with flick input shapes the meaning of words.
著者
佐々木 那津 川上 憲人
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.17-50, 2021 (Released:2021-05-13)

新型コロナウイルス感染症流行下(コロナ禍)における労働者の精神健康の状況と関連要因、対策に関して系統的レビューおよび個別論文、国内外の対策ガイドを検索し整理した。労働者におけるコロナ禍の精神健康の関連要因と組織および個人レベルでの対策が明らかになった。医療従事者は特に精神健康が悪化しやすい集団であった。課題として研究の絶対数が少ないこと、研究の質が高くないこと、介入研究がないことがあげられた。
著者
三木 文雄 小林 宏行 杉原 徳彦 武田 博明 中里 義則 杉浦 宏詩 酒寄 享 坂川 英一郎 大崎 能伸 長内 忍 井手 宏 西垣 豊 辻 忠克 松本 博之 山崎 泰宏 藤田 結花 中尾 祥子 高橋 政明 豊嶋 恵理 山口 修二 志田 晃 小田島 奈央 吉川 隆志 青木 健志 小笹 真理子 遅野井 健 朴 明俊 井上 洋西 櫻井 滋 伊藤 晴方 毛利 孝 高橋 進 井上 千恵子 樋口 清一 渡辺 彰 菊地 暢 池田 英樹 中井 祐之 本田 芳宏 庄司 総 新妻 一直 鈴木 康稔 青木 信樹 和田 光一 桑原 克弘 狩野 哲次 柴田 和彦 中田 紘一郎 成井 浩司 佐野 靖之 大友 守 鈴木 直仁 小山 優 柴 孝也 岡田 和久 佐治 正勝 阿久津 寿江 中森 祥隆 蝶名林 直彦 松岡 緑郎 永井 英明 鈴木 幸男 竹下 啓 嶋田 甚五郎 石田 一雄 中川 武正 柴本 昌昭 中村 俊夫 駒瀬 裕子 新井 基央 島田 敏樹 中澤 靖 小田切 繁樹 綿貫 祐司 西平 隆一 平居 義裕 工藤 誠 鈴木 周雄 吉池 保博 池田 大忠 鈴木 基好 西川 正憲 高橋 健一 池原 邦彦 中村 雅夫 冬木 俊春 高木 重人 柳瀬 賢次 土手 邦夫 山本 和英 山腰 雅宏 山本 雅史 伊藤 源士 鳥 浩一郎 渡邊 篤 高橋 孝輔 澤 祥幸 吉田 勉 浅本 仁 上田 良弘 伊達 佳子 東田 有智 原口 龍太 長坂 行雄 家田 泰浩 保田 昇平 加藤 元一 小牟田 清 谷尾 吉郎 岡野 一弘 竹中 雅彦 桝野 富弥 西井 一雅 成田 亘啓 三笠 桂一 古西 満 前田 光一 竹澤 祐一 森 啓 甲斐 吉郎 杉村 裕子 種田 和清 井上 哲郎 加藤 晃史 松島 敏春 二木 芳人 吉井 耕一郎 沖本 二郎 中村 淳一 米山 浩英 小橋 吉博 城戸 優光 吉井 千春 澤江 義郎 二宮 清 田尾 義昭 宮崎 正之 高木 宏治 吉田 稔 渡辺 憲太朗 大泉 耕太郎 渡邊 尚 光武 良幸 竹田 圭介 川口 信三 光井 敬 西本 光伸 川原 正士 古賀 英之 中原 伸 高本 正祇 原田 泰子 北原 義也 加治木 章 永田 忍彦 河野 茂 朝野 和典 前崎 繁文 柳原 克紀 宮崎 義継 泉川 欣一 道津 安正 順山 尚史 石野 徹 川村 純生 田中 光 飯田 桂子 荒木 潤 渡辺 正実 永武 毅 秋山 盛登司 高橋 淳 隆杉 正和 真崎 宏則 田中 宏史 川上 健司 宇都宮 嘉明 土橋 佳子 星野 和彦 麻生 憲史 池田 秀樹 鬼塚 正三郎 小林 忍 渡辺 浩 那須 勝 時松 一成 山崎 透 河野 宏 安藤 俊二 玄同 淑子 三重野 龍彦 甲原 芳範 斎藤 厚 健山 正男 大山 泰一 副島 林造 中島 光好
出版者
Japanese Society of Chemotherapy
雑誌
日本化学療法学会雜誌 = Japanese journal of chemotherapy (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.526-556, 2005-09-25

注射用セフェム系抗菌薬cefozopran (CZOP) の下気道感染症に対する早期治療効果を評価するため, ceftazidime (CAZ) を対照薬とした比較試験を市販後臨床試験として実施した。CZOPとCAZはともに1回1g (力価), 1日2回点滴静注により7日間投与し, 以下の結果を得た。<BR>1. 総登録症例412例中最大の解析対象集団376例の臨床効果は, 判定不能3例を除くとCZOP群92.0%(173/188), CAZ群91.4%(169/185) の有効率で, 両側90%, 95%信頼区間ともに非劣性であることが検証された。細菌性肺炎と慢性気道感染症に層別した有効率は, それぞれCZOP群90.9%(120/132), 94.6%(53/56), CAZ群93.3%(126/135), 86.0%(43/50) で, 両側90%, 95%信頼区間ともに非劣性であることが検証された。<BR>2. 原因菌が判明し, その消長を追跡し得た210例での細菌学的効果は, CZOP群89.5%(94/105), CAZ群90.5%(95/105) の菌消失率 (菌消失+菌交代) で, 両群間に有意な差はみられなかった。個々の菌別の菌消失率は, CZOP群91.1%(113/124), CAZ群90.8%(108/119) で両群問に有意な差はみられなかったが, 最も高頻度に分離された<I>Streptococcus pneumoniae</I>の消失率はCZOP群100%(42/42), CAZ群89.5%(34/38) で, CZOP群がCAZ群に比し有意に優れ (P=0.047), 投与5日後においてもCZOP群がCAZ群に比し有意に高い菌消失寧を示した (P=0.049)。<BR>3. 投薬終了時に, CZOP群では52,4%(99/189), CAZ群では50.3% (94/187) の症例において治療日的が達成され, 抗菌薬の追加投与は不必要であった。治療Il的遠成度に関して両薬剤間に有意な差は認められなかった。<BR>4. 随伴症状の発現率はCZOP群3.9%(8/206), CAZ群5.0%(10/202) で両棊剤間に有意な差はなかった。臨床検査値異常変動として, CAZ群に好酸球増多がCZOP絆より多数認められたが, 臨床検査値異常出現率としては, CZOP群31.6% (65/206), CAZ群32.2% (65/202) で, 両群間に有意な差は認められなかった。<BR>以上の成績から, CZOPは臨床効果においてCAZと比較して非劣性であることが検祉された。また<I>S. pneumoniae</I>による下気道感染症に対するCZOPの早期治療効果が確認された。
著者
小林 宏行 武田 博明 渡辺 秀裕 太田見 宏 酒寄 享 齋藤 玲 中山 一朗 富沢 麿須美 佐藤 清 平賀 洋明 大道 光秀 武部 和夫 村上 誠一 増田 光男 今村 憲市 中畑 久 斉藤 三代子 遅野井 健 田村 昌士 小西 一樹 小原 一雄 千葉 太郎 青山 洋二 斯波 明子 渡辺 彰 新妻 一直 滝沢 茂夫 中井 祐之 本田 芳宏 勝 正孝 大石 明 中村 守男 金子 光太郎 坂内 通宏 青崎 登 島田 馨 後藤 元 後藤 美江子 佐野 靖之 宮本 康文 荒井 康男 菊池 典雄 酒井 紀 柴 孝也 吉田 正樹 堀 誠治 嶋田 甚五郎 斎藤 篤 中田 紘一郎 中谷 龍王 坪井 永保 成井 浩司 中森 祥隆 稲川 裕子 清水 喜八郎 戸塚 恭一 柴田 雄介 菊池 賢 長谷川 裕美 森 健 磯沼 弘 高橋 まゆみ 江部 司 稲垣 正義 国井 乙彦 宮司 厚子 大谷津 功 斧 康雄 宮下 琢 西谷 肇 徳村 保昌 杉山 肇 山口 守道 青木 ますみ 芳賀 敏昭 宮下 英夫 池田 康夫 木崎 昌弘 内田 博 森 茂久 小林 芳夫 工藤 宏一郎 堀内 正 庄司 俊輔 可部 順三郎 宍戸 春美 永井 英明 佐藤 紘二 倉島 篤行 三宅 修司 川上 健司 林 孝二 松本 文夫 今井 健郎 桜井 磐 吉川 晃司 高橋 孝行 森田 雅之 小田切 繁樹 鈴木 周雄 高橋 宏 高橋 健一 大久保 隆男 池田 大忠 金子 保 荒川 正昭 和田 光一 瀬賀 弘行 吉川 博子 塚田 弘樹 川島 崇 岩田 文英 青木 信樹 関根 理 鈴木 康稔 宇野 勝次 八木 元広 武田 元 泉 三郎 佐藤 篤彦 千田 金吾 須田 隆文 田村 亨治 吉富 淳 八木 健 武内 俊彦 山田 保夫 中村 敦 山本 俊信 山本 和英 花木 英和 山本 俊幸 松浦 徹 山腰 雅弘 鈴木 幹三 下方 薫 一山 智 斎藤 英彦 酒井 秀造 野村 史郎 千田 一嘉 岩原 毅 南 博信 山本 雅史 斉藤 博 矢守 貞昭 柴垣 友久 西脇 敬祐 中西 和夫 成田 亘啓 三笠 桂一 澤木 政好 古西 満 前田 光一 浜田 薫 武内 章治 坂本 正洋 辻本 正之 国松 幹和 久世 文幸 川合 満 三木 文雄 生野 善康 村田 哲人 坂元 一夫 蛭間 正人 大谷 眞一郎 原 泰志 中山 浩二 田中 聡彦 花谷 彰久 矢野 三郎 中川 勝 副島 林造 沖本 二郎 守屋 修 二木 芳人 松島 敏春 木村 丹 小橋 吉博 安達 倫文 田辺 潤 田野 吉彦 原 宏起 山木戸 道郎 長谷川 健司 小倉 剛 朝田 完二 並川 修 西岡 真輔 吾妻 雅彦 前田 美規重 白神 実 仁保 喜之 澤江 義郎 岡田 薫 高木 宏治 下野 信行 三角 博康 江口 克彦 大泉 耕太郎 徳永 尚登 市川 洋一郎 矢野 敬文 原 耕平 河野 茂 古賀 宏延 賀来 満夫 朝野 和典 伊藤 直美 渡辺 講一 松本 慶蔵 隆杉 正和 田口 幹雄 大石 和徳 高橋 淳 渡辺 浩 大森 明美 渡辺 貴和雄 永武 毅 田中 宏史 山内 壮一郎 那須 勝 後藤 陽一郎 山崎 透 永井 寛之 生田 真澄 時松 一成 一宮 朋来 平井 一弘 河野 宏 田代 隆良 志摩 清 岳中 耐夫 斎藤 厚 普久原 造 伊良部 勇栄 稲留 潤 草野 展周 古堅 興子 仲宗根 勇 平良 真幸
出版者
Japanese Society of Chemotherapy
雑誌
日本化学療法学会雜誌 = Japanese journal of chemotherapy (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.333-351, 1995-07-31
被引用文献数
2

新規キノロン系経口合成抗菌薬grepafloxacin (GPFX) の内科領域感染症に対する臨床的有用性を全国62施設の共同研究により検討した。対象疾患は呼吸器感染症を中心とし, 投与方法は原則として1回100~300mgを1日1~2回投与することとした。<BR>総投与症例525例のうち509例を臨床効果判定の解析対象とした。全症例に対する有効率は443/509 (87.0%) であり, そのうち呼吸器感染症432/496 (87.1%), 尿路感染症11/13 (84.6%) であった。呼吸器感染症における有効率を疾患別にみると, 咽喉頭炎・咽頭炎19/22 (86.4%), 扁桃炎17/18 (94.4%), 急性気管支炎53/58 (91.4%), 肺炎104/119 (87.4%), マイコプラズマ肺炎17/19 (89.5%), 異型肺炎5/5, 慢性気管支炎117/133 (88.0%), 気管支拡張症48/63 (76.2%), びまん性汎細気管支炎17/19 (89.5%) および慢性呼吸器疾患の二次感染35/40 (87.5%) であった。<BR>呼吸器感染症における細菌学的効果は233例で判定され, その消失率は単独菌感染では154/197 (78.2%), 複数菌感染では22/36 (61.1%) であった。また, 単独菌感染における消失率はグラム陽性菌48/53 (90.6%), グラム陰性菌105/142 (73.9%) であり, グラム陽性菌に対する細菌学的効果の方が優れていた。呼吸器感染症の起炎菌のうちMICが測定された115株におけるGPFXのMIC<SUB>80</SUB>は0.39μg/mlで, 一方対照薬 (97株) としたnornoxacin (NFLX), onoxacin (OFLX), enoxacin (ENX) およびcipronoxacin (CPFX) はそれぞれ6.25, 1.56, 6.25および0.78μg/mlであった。<BR>副作用は519例中26例 (5.0%, 発現件数38件) にみられ, その症状の内訳は, 消化器系18件, 精神神経系13件, 過敏症3件, その他4件であった。<BR>臨床検査値異常は, 490例中49例 (10.0%, 発現件数61件) にみられ, その主たる項目は, 好酸球の増多とトランスアミナーゼの上昇であった。いずれの症状, 変動とも重篤なものはなかった。<BR>臨床効果と副作用, 臨床検査値異常の安全性を総合的に勘案した有用性については, 呼吸器感染症での有用率422/497 (84.9%), 尿路感染症で10/13 (76.9%) であり, 全体では432/510 (84.7%) であった。<BR>以上の成績より, GPFXは呼吸器感染症を中心とする内科領域感染症に対して有用な薬剤であると考えられた。
著者
服部 泰典 土井 一輝 川上 不二夫 日浦 泰博
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.23-26, 1997-05-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
3

指末節部の切断指再接着術後のうっ血に対し, 医療用に開発されたヒルを使用し良好な結果を得ることができた。わずか数十分の使用で数時間にわたる出血が得られ, 従来行われていた医師もしくは看護婦によるミルキング等の処置を必要とせず, 医療サイドの負担を大きく軽減させることが可能となった。ヒルの使用による感染の危険もあるが, 第2, 3世代のセフェム系抗生剤に感受性があるため十分予防可能である。