著者
塚崎 公義
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学商学研究 (ISSN:1342047X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.79-92, 2005-06

(1)株価の下方へのバブルは合理的バブルとして成立しえない。バブルの永続可能性を合理的バブルの必要条件とすると、株価の下方バブル(株価がファンダメンタル価格から下方に乖離していくバブル)は合理的バブルとして成立しえない。これは投資家がリスク中立的であってもリスク回避的であっても同様である。実際の株価をP、株式のファンダメンタル価格をF、バブルをBとすると、下方バブルの場合にはP=F-Bとなるが、バブルが持続する場合について市場が予測するBの成長率はFの成長率を凌駕するため、バブルが永続した場合について市場の予測する将来のPがマイナスになってしまうからである。(2)円の対ドル価値の下方へのバブルは合理的バブルとして成立し得る。ドルのファンダメンタル価格をF円、バブルをB円とすると、1ドル=F+B円となる。日本人(円保有者)の為替投機によりドル高のバブルが発生したと仮定する。このとき、米国人(ドル保有者)にとっては円安のバブルが生じていることになる。ファンダメンタル価格は1/F(ドル/円)、実際の価格は1/(F+B)(ドル/円)であり、その差がバブルの規模である。米国人投資家(ドル保有者)が少しでもリスクを許容できるならば、バブルが一定規模に達した段階でバブルを「空売り」することが合理的である。彼等にとっては、バブルの成長率が逓減していくことで「空売り」に際してのリスクが減少していくからである。したがって、ドル高(=円安)のバブルは永続しえず、合理的なバブルとは言い得ない。しかし、米国人投資家が完全なリスク回避主体であれば、バブルの「空売り」は行なわない。バブルが拡大を続ける可能性がある以上、バブルの「空売り」にはリスクが伴うからである。したがって、この場合には、日本人投資家によるドル買いバブルが永続する可能性があり、「ドル高円安」の合理的バブルが成立し得ることとなる。
著者
堂前 亮平
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

近代期の奄美・沖縄の主要な島の中心地において、寄留商人と呼ばれる他県および同県の他地域からの外来商人が、商店や事業所を構えて街を形成していた。本研究は、寄留商人という社会集団が形成する商業空間の形成と特質を考察するものである。沖縄諸島において寄留商人町がみられたのは、沖縄本島の那覇、久米島の儀間、宮古島の平良、石垣島の4箇であり、奄美諸島では奄美大島の名瀬、古仁屋、喜界島の湾、早町、徳之島の亀津、平土野、沖永良部島の和泊、知名、与論島の茶花であった。奄美・沖縄に多くの寄留商人が本格的に移住してくるのは、廃藩置県後のことである。寄留商人の出身地をみると、圧倒的に鹿児島県出身者が多い。これは、地理的距離に加え、歴史的関係によるものである。奄美諸島や沖縄諸島に寄留商人が入ってくる理由は、藩政時代か盛んに行なわれていた砂糖や織物などの取引に商業活動の旨味を目論んだからである。また砂糖や織物の取引のみならず、呉服や雑貨などのさまざまな商品の卸小売りにおいても、奄美・沖縄は商業の空白地域であったことである。例えば、奄美諸島最大の商業地区は名瀬であり、当時259の商店・事業所のうち、経営者の出身地で最も多いのが、鹿児島県出身者で84人、次いで地元名瀬出身者が64人となっている。また沖縄県で最大の都市である那覇においては、335人の寄留商人が商業を営んでいたが、その中で鹿児島県出身者205人で、寄留商人全体の3分の1近くを占めている。寄留商人はいずれの島でも、島の中心地で寄留商人経営の店が集まって街を形成していた。このような寄留商人町も第二次世界大戦の末期には、県外からの寄留商人は引き上げていき消滅した。
著者
山崎 博
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

動物実験においては局所TNBS腸炎モデルラットを作成し、自己組織化ペプチド局所投与単独でのその効果を検討した。投与7日後の潰瘍面積、腸重量は有意に減少した。 次にヒト検体においては、健常人、IBD患者での、TRPチャネルファミリーの発現について検討した。末梢血単球中において、UCでは健常人に比べTRPV2が低く、TRPM2が高かった。また疾患活動性とADM,IL-1β,TRPV2,ALBに有意な相関を認めた。臨床検査値については、UCではTRPV2と白血球数に有意な相関がみられた。血球成分除去療法において、TRPV2では、検体数が少なく有意差は認めなかったものの改善群で上昇傾向がみられた。
著者
与小田 隆一
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学文学部紀要. 国際文化学科編 (ISSN:09188983)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.39-52, 1993-06

(1)創作の自由が保証され,政治による干渉が最大限に緩和された中で出現した長篇小説『無冕皇帝』は,初めて文学界自身を批判の対象とし,拝金主義,道徳観念,法観念の欠如など文学界内部に現実に存在する問題を指摘した文学作品として意義を持つ.(2)作者蕭立軍に対し,中国作家協会は,極めて短期間のうちに,停職検査処分という「文学作品について政治的責任を問わない」との原則に反した,極めて異例の厳しい政治的処分を下した.そこには,中国作家協会の組織としての意図が働いていた.(3)この作品の出現,及びそれによって引き起こされた紛争は,現在の中国の文学が抱えている次のような二つの問題の存在を明らかにした.a.創作の自由,政治による干渉の排除ということが,そのまま直ちに文学の繁栄にはつながっていないこと.b.現在の中国の作家は,作家という「個人」としての立場と,作家協会会員という「組織の一員」としての立場との矛盾という問題を抱えており,これが創作活動に制約を加える要因ともなり得ること.
著者
ポドリヤク ナタリヤ 許 莉芬 大西 良 辻丸 秀策
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学文学部紀要. 社会福祉学科編 (ISSN:13455842)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.81-88, 2007-03

日本では障害の有無にかかわらず,すべての国民が誰でもその能力を最大限発揮しながら安全にそして安心して,心豊かな生活ができるように,ソフトおよびハード両面にわたり,社会的バリアフリーを推進している.法律では,「障害を理由とする差別禁止」を定め,あらゆる障害について理解して日常生活や事業生活の中で配慮や工夫をすることを呼びかけている.ところが,実際には,社会的バリアフリーについて十分な理解や認識がなされているとは言い難く,障害者専用の駐車場の不正使用に関する苦情はむしろ増えている現状がある.そこで,本研究では,障害者用の駐車場の利用実態を明らかにして,具体的な対応策について検討すること目的とした.調査の結果,以下の点を明らかにした.(1)障害者用駐車場の平均利用時間は,15.39±13.34分であった.(2)利用者の特徴として,50歳代男性の健常者の利用が最も多かった.(3)利用していた車両の約9割に「車椅子マーク」および「駐車許可書」の提示がなかった.(4)高齢者の利用が4割を超え,障害者の利用は2割程度であった.
著者
山本 眞利子
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.29-34, 2008

本実験では,大学生,大学院生の48名の被験者をカウンセラー役24名とクライエント役24名に分け,2名1組でリフレイミングを行いその効果を検証した。被験者は,カウンセラー役とクライエント役のいずれかになった。まず,クライエント役の者が最近,後悔したことや嫌だと思ったことを想起した。その後,カウンセラーがその内容をリフレイミングし記述した。カウンセラーがリフレイミングの内容をクライエントに伝えた。クライエントはリフレイミングによってどのように思ったかをカウンセラーにフィードバックした。事前と事後の否定的感情得点と肯定的感情得点をカウンセラーとクライエントで比較した。その結果,カウンセラーでは,事前と事後で肯定的感情得点で差がなかったが,クライエントは事前より事後で有意に高くなった。
著者
岩田 好司
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学外国語教育研究所紀要 (ISSN:13406175)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.45-68, 1999-03

Ismail Kadare, ne en 1936 a Girokastra, est, comme on le sait, l'un des plus celebres ecrivains de l'Albanie. Tres jeune, il s'est fait connaitre notamment grace au succes international de Le general de I'armee morte et il a plusieurs fois ete candidat au prix Nobel de la litterature. Etant donne que Kadare ecrit en albanais, rien n'est plus naturel que son oeuvre soit inseparablement liee a tout ce qui concerne ce peuple habitant dans le sud-ouest de la peninsule balkanique: son histoire, sa culture, ses legendes et mythes et evidemment sa politique cotemporaine. Mais il reussit si bien a universaliser son materiau "local" que l'on a tendance a oublier de quoi il fait son roman. En effet, il nasse sous silence la realite brute albanaise. Il n'est cependant pas fortuit que Kadare ait evite de traiter de facon directe et critique des problemes brulants dont souffrait son pays. Tant s'en faut. Cette sorte d'auto-censure prouve l'inseparabilite de son oeuvre et de la vie quotidienne de l'Albanie contemporaine; Kadare devait vivre (ecrire), comme tous ses compatriotes, sous la menace de la dictature d'Enver Hoxha (1908-85), qui etait au pouvoir depuis la fin de la guerre. Il etait oblige, sous peine de prison, de contourner ou mettre en fable les grands problemes contemporains - tvrannie ou politiaue totalitaire et isolement international. On ne pouvait alors que deviner ce qui se dissimulait derriere les paraboles que racontaient ses romans. Et pourtant la situation evolue depuis que Kadare s'est refugie en France en 1990; il s'est mis a s'exprimer librement.Et les oeuvres cachees par crainte de la police secrete n'ont pas tarde a voir le jour, dont L'ombre. Redige dans une version semi-codee en 1984-86, le manuscrit fut depose dans un coffre de banque a Paris, ordre etant donne a l'editeur de le publier aussitot en cas d'"accident" survenu a l'ecrivain. Heureusement cecui-ci a survecu au regime stalinien et l'oeuvre se voit publier en 1994. Dans ce roman en quelque sorte testamentaire et qui constitue le corpus principal de notre etude, Kadare revele pour la premire fois la matiere brute de sa litterature: isolement et souffranee du peuple albanais sous la dictature de Hoxha. Assuremment ne se contente-t-il pas de la reveler; il l'unversalise en la sublimant a l'aide du patrimoine legendaire et mythologique, notamment de la legende de Doruntine, a laquelle il a deja consacre deux roman: Le crepuscule des dieux de la steppe (1978) et Qui a ramene Doruntine? (1980). Partant d'une analyse rapide des deux romans precedents pour voir combien la dimension politique de la legende y est dissimulee, nous suivrons la troisieme variation sur Doruntine dans L'ombre. Variation au cours de laquelle une simple aventure amoureuse d'un Albanais avec une Parisienne se metamorphose en une histoire mythique de resurrection du peuple albanais. Nous esperons ainsi faire ressortir l'inseparable lien de la creation litteraire d'Ismail Kadare et de son pays.
著者
駄田井 正
出版者
久留米大学
雑誌
産業経済研究 (ISSN:03897044)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.621-644, 2006-09-25
著者
森 正直
出版者
久留米大学
雑誌
産業経済研究 (ISSN:03897044)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.445-479, 2004-12-25

日々,また年々の諸変動を超えて,我々が属する先進諸国はいわゆる脱工業社会ないし高度成熟化社会への道を歩みつつあるが,この型の国家社会においては人間文化を支える経済がそれ自体の進化・発展の中核的熱源の多くをますます文化(実用的便益技法の体系としての文明の対概念)に得ている。このような現実の社会構造を背景として,これら先進諸国においてこそ文化経済学への関心が高まりつつあるが,先に「文化経済学原理」(九州大学出版会)を上梓した筆者は,同書においてこの学問の原理的な性格・位置づけ・枠組み・構造・主領域・諸課題等を検討・考究する一方,そこでは文化経済学の歴史的系譜や近年の動向という,原理的論考にとっては本質的重要性がやや希薄な事柄にまで触れる繁を避けた。そこで本稿は,これらの点について,筆者が必要・十分と考える範囲で,上記自著(→久留米大学比較文化研究所刊行「比較文化研究」第32輯1〜91頁所収の論文「文化・経済相互作用の諸相-文化経済学原理III-」自著(平成15年12月発行)に示した追加的論考を含む。)との比較対照に留意しながら,改めて考察・解説を行なうものである。
著者
堂前 亮平
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、川崎市、大阪市、名古屋市、福岡市およびこれらの都市の周辺都市における沖縄県出身者の社会空間の形成および特質について明らかにし、社会集団と空間との関係を考察するものである。沖縄から県外への移住は、大正末期から昭和初期にかけての恐慌によって、県外に生活の糧を求めて海外移民や本土の工業都市への出稼ぎがはじまった。大正末期、沖縄から最も出稼ぎが多かったのは、大阪で、全体の43%を占めていた。ついで神奈川県であった。本土という異質社会のなかで生活するために、沖縄県出身者は相互扶助のために必然的に県人会や、郷友会といった同郷組織をつくり、助け合って生活を送ってきた。この基底には、沖縄のシマ共同体という強い連帯がある。このため、沖縄県出身者は、必然的にお互いに近い距離に家を持つため、居住地も沖縄県人の集中地域が見られる。川崎市では川崎区、大阪市では大正区、名古屋市では緑区といったところである。幾つかの沖縄県人会館は、沖縄県出身者の拠点として機能している。琉球舞踊をはじめ三線や太鼓などの沖縄の芸能は、沖縄県出身者の拠り所として、沖縄社会のなかで演じられてきたが、近年、地域行事にも積極的に参加するようになり、地域との交流が進んできた。このような傾向は日常生活についても見られ、沖縄県出身者の生活行動様式が変化してきた。このことは、本土の人たちの沖縄に対する意識が、沖縄を「特別なもの」から「個性輝くもの」と見るように変化してきたことによる。相互扶助を目的として、県人会が組織されているが、その性格も、親睦的なものへと変化してきている。
著者
石竹 達也 原 邦夫 星子 美智子
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

国の公立病院改革ガイドラインのもと、自治体病院の経営改善のために経営形態移行が進められている。本研究では経営形態移行が職員・地域住民の健康にどのような影響を及ぼすかを検討した。経営形態別では「一部適用型」から「全適型」が最も多かった。経営形態移行は、職員や地域住民の健康に影響を及ぼすことがわかった。しかし、特定の病院を対象として経営形態移行前に健康影響予測評価(HIA)を適用できなかったため、その妥当性については評価できなかった。
著者
佐々木 健一郎
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

虚血下肢骨格筋組織は高度の酸化ストレスに暴露しており、そこへ筋注投与された血管内皮前駆細胞の多くが、その血管新生能力を発揮することなく細胞死を迎えていた。虚血性骨格筋細胞のミトコンドリア機能、炎症系血管新生作動タンパク分泌機能、糖エネルギー輸送機能は障害されていた。薬用化学物質プロピオン酸塩をマウス下肢虚血組織に噴霧投与し、低酸素傷害骨格筋細胞の機能回復を図ったところ、血管内皮前駆細胞投与後の血管新生効果が高まる傾向にあり、細胞投与組織の環境改善を図るという次世代型血管新生療法開発への有用なヒントとなった。
著者
鷹野 誠 伊藤 政之 武谷 三恵 山下 潤 桑原 宏一郎
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

近年、徐脈性不整脈に罹患し人工ペースメーカー植え込み術を受ける患者数は増加の一途である。これは自動能をもつ洞房結節ペースメーカー細胞の変性・脱落が原因であり、再生心筋による治療の可能性が注目を集めている。そこで洞房結節のペースメーカー細胞に特異的に発現するHCN4という分子の遺伝子座にホタルの発光蛋白質を組み込んだ遺伝子改変マウスを作成した。このマウスではペースメーカー細胞をホタルのように光らせることができる。この光を手がかりに、ペースメーカー型の再生心筋細胞を簡便かつ定量的にスクリーニングする方法を開発することができた。
著者
古村 美津代 石竹 達也
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

認知症高齢者グループホーム(以下、GH)のケアスタッフが認知症高齢者との関わりの中で抱える困難とその関連要因を明らかし、GHケアスタッフへの支援を検討した。GHケアスタッフは、認知症高齢者との関わりの中で様々な困難を抱えていた。この研究結果において、GHケアスタッフの職場環境の改善に加えて日々の業務に伴う困難を支援する必要性が示唆された。
著者
小路 純央 森田 喜一郎 柳本 寛子 内村 直尚
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

我々は心理教育、認知行動療法、作業療法、軽スポーツからなる復職支援プログラムを実施し、BDI-II、SDS、HAM-D、SASS-Jに加え、今回多チャンネル近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)を用いて、客観的評価としての有用性について検討した。プログラム施行前後で、診断名が変更となった方もおり、外来のみでの診断の困難さが示唆された。またうつ症状の改善を評価するだけでなく、社会適応能力を含めた評価が必要であることが示唆された。さらに多チャンネルNIRSより健常者に比較し脳酸素化Hb濃度変動がうつ病群で有意に低く、プログラムにより前頭前野、側頭領域において血流変動が改善することが示唆された。