著者
伊藤 美奈子 千勝 泰生 松本 明美
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.35-42, 2013 (Released:2013-09-30)
参考文献数
9

目的:生活をともにする夫婦の生活習慣と生活習慣病における類似性について分析した.方法:対象は2008年4月~2012年3月に当健診センターを受診した40~74歳の夫婦570組.夫と妻それぞれについて,6つの生活習慣(運動,朝食,間食,睡眠,喫煙,飲酒)のうち,保有する好ましくない生活習慣の数によって3群に分け,年齢,BMI,腹囲,体重変化,生活習慣病を比較した.上記で3群に分けた受診者の配偶者に関しても同様に3群比較を行った.夫婦の関連をみるために,夫が因子を有するときにその妻も有するオッズ比を求めた.結果:夫も妻も不良な生活習慣の数が多いほど,体重増加と腹囲が大きく,生活習慣病の保有率は高い傾向にあった.配偶者の比較でも同様の結果を得た.好ましくない生活習慣の数が多い受診者ほど配偶者の好ましくない生活習慣保有数も多かった.夫が不良な生活習慣を有するときにその妻も有するオッズ比は,6つの習慣すべてにおいて2以上となり有意差を認めた.夫が60歳以上の夫婦の方が60歳未満の夫婦に比べオッズ比が高かった.結論:夫婦の生活習慣は関連があり類似していることが示唆された.好ましくない生活習慣を有する受診者については,配偶者からの影響の可能性を意識した保健指導を早期に行うこと,また,単独受診者に対しては,次回から夫婦での受診を促し,夫婦単位で保健指導を行うことで効果的な習慣改善につながると思われる.
著者
後山 尚久 萩原 暢子 中野 未知子 小林 喜美代 石原 多恵 福永 知子 藤原 祥子
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.688-693, 2015 (Released:2015-06-29)
参考文献数
16

目的:我が国の子宮頸がん検診率の低迷の要因を明らかにする目的で,子宮頸がん検診の受診行動に関する意識調査を実施した.方法:対象は2011年度に当施設で対策型子宮頸がん検診を受けた20~30歳代の638例,および2010年1月より2014年3月までに当施設で子宮頸がん予防ワクチンの任意接種を終了した116例であり,子宮頸がん検診に関する意識調査を自己記入式アンケートにて実施した.結果:20~30歳代の女性の子宮頸がん検診を受けなかった理由の75.1%は「なんとなく,きっかけがない」であり,「自分には無縁」が28.7%にみられた.今回検診を受けた理由の69.4%は「子宮頸がん検診クーポンの送付」であった.このことは,子宮頸がん検診の意義の伝達の徹底の必要性と何らかのきっかけの提供が検診への行動化に繋がることを示している.また,理想とする検診間隔として毎年とする意見が60.5%を占めていたが,実際には毎年および隔年の受診がそれぞれ16%であった.これに対して,予防ワクチンの存在を知り,それを実際に接種した女性の92.5%に今後の検診継続意欲が認められた.結論:検診行動の国際レベルへのシフトは,子宮頸がん検診の認知度の向上とともに,子宮頸がんは予防できるがんであるという,疾患を理解したうえでのきっかけの提供による行動化の推進にあることが推測された.
著者
船津 和夫 山下 毅 斗米 馨 影山 洋子 和田 哲夫 近藤 修二 横山 雅子 高橋 直人 水野 杏一
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.572-580, 2019 (Released:2020-04-01)
参考文献数
38

目的:コーヒー飲用の肝障害に対する改善効果は,これまで国内外から報告されてきた.今回は,10年間にわたる長期縦断的調査で,コーヒー飲用の脂肪肝ならびに臨床検査値への影響を検討した.対象と方法:腹部超音波検査で脂肪肝を認めない男性のなかで慢性肝障害,高血圧,脂質異常症,糖尿病で治療中の人を除いた対象者について,10年後の脂肪肝発生の有無で調査終了時の年齢,BMI,運動量をマッチした無脂肪肝群(404名)と脂肪肝群(202名)のペアを作成し,両群におけるコーヒー飲量の推移と臨床検査値の変動を比較した.また,脂肪肝発生に影響する可能性のある諸因子を調整し,コーヒー飲用の脂肪肝発生への影響を検討した.次に,10年間のコーヒー飲量の推移によりコーヒー飲量減少群(233名),同等群(213名),増加群(151名)の3群に分け,各群の脂肪肝発生頻度と臨床検査値への影響を検討した.結果:脂肪肝の発生別に分けた2群ならびにコーヒー飲量の推移別に分けた3群の検討から,コーヒー飲用が脂肪肝の発生を抑制し,メタボ関連項目の臨床検査値の改善をもたらす可能性が示唆された.結論:コーヒー飲用は脂肪肝の発生を抑制し,生活習慣病関連因子の改善をもたらす可能性があることから,生活習慣病の予防に有用であることが示唆された.
著者
久保田 修 落合 巧 小川 祐子 横山 明子 長尾 住代 松下 重子 高橋 芳子 今坂 純奈 木部 美帆子 野中 佳子 村松 富子 佐藤 五夫
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.626-632, 2010 (Released:2013-07-31)
参考文献数
19
被引用文献数
2

目的:適切なBMIを維持する事が健康長寿にとって重要であるので,どのような生活習慣がBMIに関連するのかを明らかにする.方法:当院健診センターを受診した6,826人を対象とし,生活習慣に関する質問事項と計測したBMIの関連性について統計学的に比較検討した.結果:年代別BMIの分布では男性では30~50代の中年層で高く,女性では20代と30代の若年層で低い傾向がみられた.男女とも食べる速度が速い群と遅い夕食を摂る群でBMI高値であったが,運動習慣や睡眠の満足度との関連性は認めなかった.男性では夕食後に間食がある群と3合以上飲酒する群でBMIが高く,喫煙者,日常生活での身体活動がある群,歩行速度が速い群,毎日飲酒する群で低値であった.女性では朝食を抜く習慣がある群でBMIが高値であった.結論:保健指導においては,禁煙,運動,適度な飲酒などはもちろんのこと,ゆっくり食べることと遅い時間に食事を摂らないことを指導することが特に重要である.
著者
吉田 秀夫 藤井 勝実 中村 和弘 深澤 順子 新海 佳苗 新井 祥子 園部 洋巳 田村 由美子 花岡 和明
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
健康医学 (ISSN:09140328)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.61-65, 2004-06-25 (Released:2012-08-27)
参考文献数
9
被引用文献数
1

長時間労働を行っている勤労者に対して,人間ドック受診時に記入される問診票を分析することによって,問診票の持つ意義とその活用について検討した。平成14年度に当健康管理センターを受診した男性勤労者4,275名(平均年齢48.5±9.0歳)を対象とした。残業を含めた一日の労働時間から,対象者を12時間以上,8~12時間,8時間以内の3群に分類した。問診票のなかから労働態様,生活形態,嗜好習慣,身体的及び精神的愁訴について18項目を選び,長時間労働者の特徴を解析した。一日12時間以上の勤労者は500名あり,他の2群に比べて,年齢が若く,対人業務が多く,最近の仕事内容の変化でつらくなったと感じている者が多く,一ヶ月あたりの休日数は少なかった(P<0.001)。生活形態では睡眠時間が少なく,定期的運動習慣が少なく,3度の食事がきちんと取れない,寝る前に食事をとる,今も喫煙しているなどの特徴が見られた(p<0.001)。また,自覚的愁訴では体全体がだるい,朝の出勤がつらい,職場での対人関係が悪い,困った時の相談相手がいない,日常生活が楽しく過ごせていないなどの問題を抱える者が多かった(p<0.007)。長時間勤労は脳・心血管疾患の危険因子であることが示されているが,長時間労働者では多くの問題点を抱えており,労働状態や日常生活の把握に,問診表がもつ意義の重要性が改めて示された。
著者
小林 伸行 都築 隆 萬造時 知子 渡部 洋行 竹澤 三代子 土屋 敦 土屋 章
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.34-41, 2014 (Released:2014-09-30)
参考文献数
20
被引用文献数
1

目的:脂肪肝の線維化の指標としてのFIB4 Indexの有効性を検討する.方法:複数回受診の脂肪肝症例について,初回と最終回受診時のFIB4 Indexを算出した.線維化のcut off値を2.67とし,初回受診時2.67未満の12,059例を対象とした.初回から最終回受診までの期間,FIB4 Indexの変化を求めた.最終回受診時にFIB4 Indexが2.67以上へ上昇した症例について,性別,アルコール性/非アルコール性の脂肪肝種類別に比較した.FIB4 Index算定式の各因子(年齢,AST,ALT,血小板数)および超音波画像の変化を検討した.結果:最終回にFIB4 Indexが2.67以上に上昇したものは161例(1.3%)であった.この上昇群では初回からFIB4 Indexが有意に高値であった.観察期間5年未満のFIB4 Index上昇群の頻度1.1%に対し,5年以上では1.6%と有意に多かった.男女間やアルコール性,非アルコール性によるFIB4 Index上昇群の頻度には差を認めなかった.算定式の4因子のうち,ASTの変動が最も大きくAST/ALT比も初回0.86から最終回1.18と上昇した.初回から最終回の超音波画像上の変化は,161例中3例に肝辺縁の鈍化を認めたのみであった.結論:FIB4 Indexの変化に要する期間や,AST優位への変化から,線維化の予測指標としての可能性が示唆された.
著者
山門 實 新原 温子 山本 浩史 山本 麻以 谷 瑞希 戸田 晶子 石坂 裕子
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.673-677, 2013 (Released:2014-03-28)
参考文献数
19
被引用文献数
2

目的:がん患者と健常人の血漿中アミノ酸濃度(PFAA)のバランスの違いを「アミノインデックス技術」を用いて統計解析し,がん罹患の確率を予測する新規がん検診として,アミノインデックス®がんリスクスクリーニング(AICS)が開発され,現在,肺,胃,大腸,前立腺,乳腺,子宮・卵巣の6種のがんに対するスクリーニング検査が実用開始された.本研究では,AICSの精密検査対象となるランクCの割合とAICS値の分布の妥当性について,AICS導出時の理論値と人間ドック受診者での検査結果を比較検討した.方法:三井記念病院の人間ドック受診者799名(男性494名,女性305名,平均年齢59±11歳)を対象とし,各がん種に対するランクCの割合とAICS値について,AICS導出時の理論値と比較した.結果:人間ドック受診者のランクC割合は,AICS(大腸),AICS(乳腺),AICS(子宮・卵巣)では,6.8%,3.0%,3.8%であり,理論値の5%と有意差がみられず,AICS値の分布も理論値と同等であった.AICS(肺),AICS(胃),AICS(前立腺)のランクC割合は,10.1%,10.8%,11.3%と理論値より有意に高く,AICS値分布も理論値と有意差がみられた.結論:ランクC割合およびAICS値分布が理論値とほぼ同等であったことは,AICSが新規がん検診として応用可能であることを推察させた.
著者
田中 孝幸 安東 敏彦 高橋 三雄 石坂 裕子 谷 瑞希 山門 實
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.24-28, 2007-06-29 (Released:2012-08-20)
参考文献数
21

目的:環境の変化や人間関係,過労などに心身の適応が困難な場合,精神的身体的緊張を引き起こし様々なストレス疾患が表れる.一方で,アミノ酸を摂取することによってストレスに対する抵抗性が高まることを示す研究結果が報告されており,ストレス下において血中アミノ酸パターンが変化していると予測された.今回は,アミノ酸を測定することにより,ストレス疾患の早期発見・治療につながる可能性が得られたので報告する。方法:ストレス負荷の定量的評価として当センターで用いているストレス関連問診票より職業性ストレス簡易調査票に対応する問診項目を抽出しスコア化した.また,当センターの問診票からDSM-IV(Diagnostic and Statistical Manualof Mental Disorder,4th ed)診断基準を準用し,大うつ病を判定した.上記ストレス問診結果と血中アミノ酸の解析を行った.成績:「ストレスなし」群をコントロールとして,他の群と各アミノ酸の血中濃度を比較したところ,「抑うつ」群および「大うつ病」で有意にリジンが低下していた.また,うつ病患者においてトリプトファンの低下が報告されているが,今回の結果でも大うつ病にてトリプトファンの有意な低下がみられた.結論:人間ドックにおけるアミノ酸測定は,ストレス群のようなうつ病予備軍の発見・治療において有用な情報を提供できる可能性があると言える.
著者
阪本 要一 西澤 美幸 佐藤 富男 大野 誠 池田 義雄
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
健康医学 (ISSN:09140328)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.38-41, 1993-10-20 (Released:2012-08-27)
参考文献数
14
被引用文献数
5

体脂肪の測定法として,近年いろいろな簡易法が開発されてきている。今回,生体インピーダンス法の応用として,立位で測定した両足間の生体インピーダンスから体脂肪を推定する方法を新たに考案し,皮脂厚法及びBMIとの相関性について検討した。その結果,皮脂厚法及びBMIのいずれとも高い相関性を示し,体脂肪の評価に有用である事が確認された。
著者
加藤 公則
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.541-549, 2016 (Released:2017-03-28)
参考文献数
35

Brain natriuretic peptide(BNP)とN terminal(NT)-proBNPは心不全の診断,予後を推定できる有用なバイオマーカーである.しかし,BNPは循環器内科医や一般内科医にとって有用なだけではなく,将来は健診医にとっても有用なバイオマーカーと成り得ると思われる.つまり,BNPやNT-proBNPは心不全と診断できる値より低値で,将来の死亡,心疾患や脳卒中の発症を予測できることが知られてきている.したがって,人間ドックにて高血圧,糖尿病(耐糖能障害も含む),脂質異常症,喫煙などがあり,すでに将来の動脈硬化性疾患の発症リスクのある人は,BNPやNT-proBNPを測定し,もし,それが正常高値にあれば,将来の脳心疾患の発症を防ぐために,さらに厳密なリスク管理を施す必要があると思われる.さらに,BNPは糖代謝とも関連していることが最近知られてきており,将来,糖尿病医にとっても大切なバイオマーカーになる可能性もある.
著者
神谷 英樹 滝川 久美子 杉山 秀樹 榎崎 茂 間根山 彰一
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.756-762, 2012 (Released:2012-07-13)
参考文献数
8

目的:健康診断における心臓聴診の重要性の評価.方法:対象は2009年4月~2011年3月までに,当センターで健康診断を受診した5,492例(平均47.8±12.0歳,男2,296例,女3,196例).全例に心臓聴診を行い心雑音の有無を評価した.その結果を,病歴,胸部X線検査(XP),心電図検査(ECG)と比較検討し,精密検査結果の追跡を行った.結果:49例(0.89%)に心雑音を認め,うち,未診断例は35例(0.64%)であった.この35例中,XPは29例に施行し要精査例は2例(7%),ECGも29例に施行し要精査例は4例(14%)であった.XP,ECGのいずれか,または両方で異常を認めた例は6例(17%)であった.未診断35例中19例で精密検査結果が追跡可能で,手術適応例(重症)は3例(僧帽弁閉鎖不全症(MR)1例,大動脈弁閉鎖不全症(AR)1例,動脈管開存症1例),専門医の管理を要する例(中等症)は7例(MR 3例,AR 2例,大動脈弁狭窄症2例),軽微な異常は4例(MR 2例,AR 1例,詳細不明1例),異常なしは5例であった.重症と中等症の10例中,ECG異常はなくXP異常は心拡大1例のみで,残り9例は心雑音以外の異常を認めず,心臓聴診のみで診断可能であった.結論:心臓弁膜症や先天性心疾患診断のため,健康診断において心臓聴診は重要である.
著者
沼部 幸博 三浦 雅美 鴨井 久一
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
健康医学 (ISSN:09140328)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.358-367, 2002-12-20 (Released:2012-08-27)
参考文献数
13

ラフイノースは,砂糖の原料となるビート(甜菜)からできるオリゴ糖の一種である。本研究では,ラフイノース連続投与の全身および口腔内環境に及ぼす影響を検索する目的で,ラフイノース摂取前後の末梢血および唾液中の成分変化を調べた。その結果,ラフイノースには正常値の範囲内ながら,末梢血および唾液のLDH(乳酸脱水素酵素)を上昇させるとともに,唾液中の歯周病原性微生物の増殖抑制効果があることが示された。
著者
松本 智美 照井 文 旗持 芙美 野崎 浩二 林 建男
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.66-73, 2020 (Released:2020-10-07)
参考文献数
6

目的:当施設では要精密検査や要治療判定者に対し,勧奨案内(以下勧奨)を2回送付している.さらなる勧奨返信率を期待すべく,今回未受診者・勧奨未返信者から得られたアンケート結果より今後の課題を明らかにした.方法:2019年1月の人間ドック利用者で前年度勧奨未返信者288名に,検査開始前に問診,検査終了後に未受診理由と未返信理由について質問紙法によるアンケート(複数回答可)を実施した.回答をもとに,行動変容ステージモデルに合わせて分析を行った.結果:勧奨未返信者のうち,105名は実際受診していた.未受診理由は「忘れていた・時間がない・毎年言われる・受診先に何を説明すればよいか分からない」などの回答があった.受診したが勧奨未返信の理由は「返信することに気が付かなかった・面倒さを感じた・忘れていた・次回健診時に伝えればよい」などの回答があった.結論:行動変容ステージモデルをもとに,各段階における未受診・勧奨未返信理由を分析し,アンケートの回答を無関心期・関心期・意図(準備)期に分けた.未受診者には,各段階に合わせた内容で受診につなぐための後押し(ナッジ)を行うことが大切であることが分かった.また勧奨未返信者は無関心期が多かったことから,勧奨することの意義を理解してもらい,広く伝えることで実施把握率の向上につながると考える.今後ITなどを取り入れ,より簡単に返信できる工夫を行い,実施把握率向上に努めたい.
著者
橋本 佳明 二村 梓
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.650-652, 2007-12-28 (Released:2012-08-20)
参考文献数
3

目的:血液検体の血清分離遅延により血清カリウム値が変動すること,さらにその変動は放置温度や放置時間により異なることが報告されている.今回,東京の某健診機関で見られた血清分離遅延による低カリウム血症率の上昇について分析した.方法:2003年4月から10月の間に職域健診をうけた2,645名のデータを解析した.4月から7月の検体は採血後7-10時間で,8-10月の検体は採血後0.5-1時間で血清分離された.成績:各月の低カリウム血症(3.4mEq/1以下)率は,4月12.7%,5月14.1%,6月21.5%,7月24.5%,8月1.6%,9月0.8%,10月0.6%であった.高カリウム血症(5.1mEq/l以上)率は4-7月0.28%,8-10月0.58%であった.結論:東京の4月から7月の気温で全血を7-10時間放置すると低カリウム血症率が著しく上昇することが判明した.血液検体の血清分離は速やかに行う必要がある.
著者
星野 立夫 田辺 光子 大塚 裕子 清水 文子 山下 幸枝 坂下 清一 大濱 正 宮崎 博子 三浦 賢佑
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
健康医学 (ISSN:09140328)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.152-155, 2002-09-30 (Released:2012-08-27)
参考文献数
8
被引用文献数
1

禁煙指導の一助とするため,男性の喫煙率と年齢および職種との関連性を人間ドック受診者で調べた。受診者数の多い5職種を選び,その職種の2000年度の男性受診者全員を対象とした。男性の喫煙率は,若い年代で高く,年代が進むにつれて低下する傾向を示したが,年代だけでなく職場環境も喫煙率に影響している事が示唆された。生活習慣病予防のためには若い年代に対する禁煙指導の強化が望まれるが,職場環境を考慮したたばこ対策が必要と考えられた。
著者
岸 知恵 髙野 泰明 小寺 徹 中川 善雄 小椋 智美 津田 好子 奥山 春子 福山 藍子 上野 恵美子
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.588-593, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
10

目的:上部消化管内視鏡検査の前投薬として,芍薬甘草湯の蠕動抑制効果を検討した.方法:上部消化管内視鏡検査を実施した78例の前投薬を,ガスコン水100mLのみ服用する群(ガスコン群)と,これに芍薬甘草湯2.5gを溶解させた群(芍薬甘草湯群)とに割り付けた.検査施行医が,胃前庭部の蠕動を丹羽分類で,蠕動による検査の支障の程度をVisual Analogue Scale(VAS)で評価し数量化した.丹羽分類の評価は,別の消化器内科医師がDVD動画でダブルチェックを行った.結果:ガスコン群61例,芍薬甘草湯群17例の検討の結果,両群間に統計学的有意差は認められなかったが,ガスコン群に比べ,芍薬甘草湯群に蠕動を抑制する傾向がみられた.結論:芍薬甘草湯は,上部消化管内視鏡検査の前投薬として蠕動抑制効果が期待される.