著者
荒瀬 康司
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.6-26, 2019 (Released:2019-09-04)
参考文献数
22

科学論文の基本的3要素は,内容・構成・表現である.投稿された論文において,これらの3要素が適切に記載されていると判断された際に,はじめて採用と判定される.3要素における第一の内容は,新規性,独創性があり,さらに医療関係者ならびに受診者に裨益することが肝要である.陳腐的な,人口に膾炙された内容のみでは科学誌には採用されにくい.第二の構成は,理解されやすいこと,利用されやすいこと,等を念頭に組み立てられている必要がある.第三の表現は,「読み手」を意識して書かれることを要する.専門用語,省略語を我流で使用しすぎないこと,文末を常体(だ・である)で統一することなど,「読み手」にとって分かりやすい,読みやすい表現であることが必要となる1).科学論文の要素である内容・構成・表現の作成においてはルールがある.そこで,本稿では科学論文作成上のルールにつき記した.ルールは,1~144までの通し番号で示した.1~31は内容・構成,32~144は表現について記した.論文記載上の留意点については,すでに人間ドック学会誌に掲載されたが,今回は約10倍の分量で,より詳細に記した1-3).なお,図表の書き方は論文作成上,重要ではあるが,紙数の関係で記述しなかった.
著者
宮崎 朝子 志村 浩己 堀内 里枝子 岩村 洋子 志村 浩美 小林 哲郎 若林 哲也 田草川 正弘
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.789-797, 2011 (Released:2013-07-31)
参考文献数
18

目的:人間ドックにおいて甲状腺腫瘤の有所見率は非常に高く,臨床的に治療の必要がある腫瘤性病変を,的確にスクリーニングするためにはエビデンスに基づく基準が求められている.そのため,今回過去5年間にわたる当院の甲状腺超音波検査結果およびその推移について検討した.方法:2004年4月から2009年3月までの人間ドック受診者全例,21,856名に甲状腺超音波検査を実施した.結果:充実性腫瘤が4,978名(22.8%)に認められた.細胞診にてクラスIまたはII(B群)が165名,クラスIII(B/M群)が20名,クラスIVまたはV(M群)が57名であった.各群間で性差や精査時平均年齢,平均腫瘤径に有意差はなかった.平均腫瘤径の年間変化を検討したところ,B群では+0.2±0.3,B/M群では+0.8±0.5,M群では +1.3±0.5 mm/yearであり, M群ではB群と比較して有意差をもって増大傾向が認められた.また,M群では腫瘍径の縮小した症例は認めなかった.さらに,M群において腫瘍径が10 mm以下の場合,腫瘍増大はほとんどみられなかったが,11 mm以上では腫瘍増大傾向が認められた.結論:本研究より,超音波健診にて多数発見される甲状腺腫瘤に対する対応において,腫瘤径分類による方針決定とその後の経過観察の重要性が示唆された.
著者
橋本 佳明 二村 梓
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.652-655, 2010 (Released:2013-07-31)
参考文献数
11

目的:喫煙習慣の有無によりアレルギー性鼻炎(以下鼻炎と略す)の有病率が異なるかどうかを検討した.対象:職域健診受診男性9,733名,女性3,071名.方法:生活習慣および常用薬剤情報は自記式アンケート調査で得た.有病率の比較はカイ2乗検定で,オッズ比はロジスティック回帰分析で求めた.成績:男性の鼻炎有病率は10.5%で,喫煙状態別では,非喫煙者14.5%,過去喫煙者10.6%,少量喫煙者(1~19本/日)9.7%,中等量喫煙者(20~39本/日)5.8%,多量喫煙者(40本以上/日)3.7%であった.重回帰分析により鼻炎と関連していた年齢で調整して,非喫煙者に対する鼻炎有病率のオッズ比を求めたところ,過去喫煙者0.76,少量喫煙者0.64,中等量喫煙者0.38,多量喫煙者0.25でいずれも有意に低値であった.一方,女性の鼻炎有病率は14.7%で,男性と比較し有意に高率であったが,非喫煙者では差が認められなかった.結語:鼻炎有病率は喫煙量が多いほど低率であることが判明した.また,鼻炎有病率は男性と比較し女性の方が高率であったが,この原因は喫煙量の違いによるものであると考えられた.
著者
柄松 章司 森 章悟 高木 憲生
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
健康医学 (ISSN:09140328)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.35-38, 2002-05-31 (Released:2012-08-27)
参考文献数
9

1991年から当院の検診センターでは女性に対して超音波による甲状腺検診を行っている。対象は大半がトヨタ自動車従業員の妻で,40~50代が80%である。1991年から1995年までの5年間に15,190人が受診し976人が要精検となり,癌59人が発見された。うち33例はラテント癌と思われる微小癌であったため,1cm以下は敢えてチェックしない方針をとった。1996年から2000年までは15,540人が受診した。要精検は453人,癌発見も30人となり,微小癌も10例に減少した。
著者
仲松 宏 大城 一郎 端慶山 良助 小禄 洋子 具志堅 明美 具志 成子 新里 かおり 奥山 美智江 比嘉 京子 島田 篤子 比嘉 譲 真喜志 かおり
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
健康医学 (ISSN:09140328)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.34-38, 1993-05-20 (Released:2012-08-27)
参考文献数
13
被引用文献数
3 2

1991年4月より1992年3月までの1年間に当院人間ドックで腹部超音波検査時に甲状腺超音波スクリーニングを同時に施行し,5,567例中33例(発見率0.59%)の甲状腺癌を発見した。男性15例,女性18例に認めた。平均年令は47.7歳で,超音波検査で指摘できた33例全例が乳頭癌で,術後標本でみつかった潜伏癌の1個が濾胞癌であった。平均最大径は11.4mmで,腫瘍径10mm以下の微小癌が19例(58%)あった。腫瘍径15mm以下の癌の92%(24例/26例中)は触診上,触知不能(JTO)であった。リンパ節転移n1(+)が13例(42%),腺外浸潤 EX(ex)(+)が2例に認められた。超音波検査上,悪性を疑う所見は境界不鮮明(42%),低あるいは不均一な内部エコー(61%),砂状多発の石灰化像(55%)が主であった。超音波による甲状腺スクリーニングは極めて有効で腹部超音波検査時に甲状腺超音波検査を同時に行うことは有用と考えられた。
著者
佐々木 温子 西澤 美幸 佐野 あゆみ 佐藤 等 阪本 要一 池田 義雄
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.530-536, 2017 (Released:2017-12-22)
参考文献数
14
被引用文献数
1

目的:東京衛生病院の減量ステップアップ講座参加者に対して呼気アセトン濃度を測定し,減量の補助的指標としての有用性について検討した.方法:対象は2011年1月から2014年7月の期間中,東京衛生病院の減量講座(週1回,計6回)を受講した45名である.食事内容,体重変化,歩数,活動量を記録させ,毎回体重,体組成およびセンサガスクロSGEA-P1による呼気アセトン濃度を測定し,初日と最終日に血液生化学検査を施行した.結果:減量講座終了時には,行動変容の改善に伴い,肥満関連検査項目である身体計測値,血圧,糖・脂質代謝,肝機能の検査値の有意な改善がみられ,血中総ケトン体,呼気アセトン濃度は有意に増加した(血中総ケトン体:開始時73.6±59.2 μmol/L ,終了時240.5±193.8 μmol/L,p<0.001,呼気アセトン濃度:開始時529.2±150.8 ppb,終了時1,156.6±590.9 ppb,p<0.001).体重と体脂肪量は講座の回数を重ねるほど有意に減少し,呼気アセトン濃度は有意に増加し,特に5週目以降で著明な増加を示した.結論:減量経過において呼気アセトン濃度測定は脂肪燃焼を示唆する補助的指標として有用であると考えられた.
著者
那須 繁 山崎 昌典 宗 栄治 船越 健彦 岩谷 良一 井手 一馬 水田 由紀 井上 幹夫
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
健康医学 (ISSN:09140328)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.61-64, 1997-05-30 (Released:2012-08-27)
参考文献数
9
被引用文献数
3

人間ドックにおいて超音波を用いた甲状腺癌検診で,実受診者13.009名(のべ23,366名)中,38例の甲状腺癌が発見された。癌発見率は実受診者に対して0.29%(男性0.26%,女性0。33%)で,男性においても多数発見された。但し,甲状腺癌は頻度が高い劇に予後は良好であり,検診の目的や精検基準などを充分考慮して実施すべきと考えられる。
著者
紅粉 睦男 井川 裕之 森 孝之 山口 美香 北口 一也 島崎 洋 赤池 淳 真尾 泰生 川崎 君王
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.32-39, 2021 (Released:2021-07-01)
参考文献数
19

目的:当院人間ドック健診では,2010年より頚部超音波検査を導入し,動脈硬化性病変評価と同時に甲状腺スクリーニング検査も実施している.2010年~2013年度の4年間の甲状腺超音波検診の成績と課題について報告する.対象と方法:オプション検診として12,827例に実施.男女ほぼ同数,平均年齢56.8±11.0歳であり,50歳代,60歳代が多かった.甲状腺には治療対象にならない軽微な病変も高頻度にみられ,受診者に過剰な不安・負担を与えないように当院独自の判定基準を作成した.5mm以上の悪性を疑う病変,10mm以上の濾胞性腫瘍,びまん性の甲状腺病変を精密検査の対象とした.結果:①何らかの超音波所見を有する頻度は,男性42.1%,女性61.6%で,その多くは嚢胞や腺腫様結節,小さな濾胞性腫瘍であった.②精査を要するC判定は359例:2.8%で,そのうち腫瘍性病変は205例:1.6%であった.当院での精査受診率は57.1%であった.③4年間の甲状腺がん発見数は54例(濾胞癌,髄様癌が各1例,乳頭癌52例)であった.甲状腺微小乳頭癌18例で,手術13例,経過観察5例であった.④甲状腺がん発見率は0.42%で,精査を要する全例が当院受診したと仮定した場合の甲状腺がん推定発見率(罹患率)は0.74%であった.結論:当院独自の精査基準により,要精査率を多くせず効率よく甲状腺がんが診断され,人間ドック健診での甲状腺超音波検査の有用性が示唆された.さらなる甲状腺検診の精度向上は必要と思われ,特に甲状腺微小乳頭癌への対応が重要と思われた.
著者
志村 浩己 遠藤 登代志 太田 一保 原口 和貴 女屋 敏正 若林 哲也
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
健康医学 (ISSN:09140328)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.146-152, 2001-08-31 (Released:2012-08-27)
参考文献数
22
被引用文献数
2

甲状腺超音波検診による結節性甲状腺疾患および甲状腺機能異常のスクリーニングにおける有用性と問題点を明らかにするため,3,886名の甲状腺超音波検診の結果について検討した。その結果,充実性腫瘤は19.4%に認められ,このうち甲状腺癌は21例(0.5%),Plummer病は1例,原発性副甲状腺機能充進症も4例発見された。び慢性甲状腺腫あるいは内部エコーレベルの異常は11.7%に認められ,このうち17%で精査が行われ,橋本病47例(1.2%),バセドウ病4例,亜急性甲状腺炎1例が発見された。
著者
小松 悦子 福田 弥生 鵜原 日登美 遠田 栄一 石坂 裕子 山門 實
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.641-645, 2013 (Released:2014-03-28)
参考文献数
13

目的:三井記念病院総合健診センター(以下,当センター)における寄生虫陽性率の経年的変化を検討し,今後の人間ドックにおける寄生虫検査の継続意義について考察した.方法:対象は1994年8月から2012年3月までに当センターを受診した1泊人間ドック受診者4,673名で,虫卵の検出法はホルマリン・エーテル沈殿集卵法で行った.この他,当センターから提出された虫体の同定も行った.結果:集卵法総依頼件数4,673件中,寄生虫陽性件数は219件,陽性率は4.7%であった.年別陽性率は,1994年2.6%から1999年21.1%と経年的に増加傾向であったが,2000年には5.2%と減少した.2000年以降の年間陽性率は平均3.7%と横ばい傾向であった.集卵法で検出された寄生虫卵(重複患者を除く)の内訳は,横川吸虫が150件,ランブル鞭毛虫12件,大腸アメーバ2件,肝吸虫1件,鞭虫1件,サイクロスポーラ1件であった.虫体同定依頼件数8件の結果は,アニサキス7件,回虫1件であった.結論:本研究の成績,すなわち,当センターでも特に症状のない人から2005年以降2~3%の検出率で寄生虫が検出されていることや,5類感染症のランブル鞭毛虫が検出されている事実は,人間ドックが健康チェックのために行われるのであれば,寄生虫感染症を調べることは重要であり,受診者の高齢化も考慮すると日和見感染防止のためにも,今後も続ける意義があるものと考えられた.
著者
宗 栄治 山崎 昌典 緒方 徹 古賀 淳 船越 健彦 那須 繁 江里口 健次郎
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
健康医学 (ISSN:09140328)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.61-63, 1994-05-20 (Released:2012-08-27)
参考文献数
8
被引用文献数
1

平成4年6月から12月までの健診受診者2,557名を対象とし,10MHzプローブを用い,甲状腺一次スクリーニングを施行した。高解像超音波装置を用い,形状,石灰化像,辺縁に注目し,また大きさにより拾い上げることにより,高率に甲状腺癌が発見された。また同時にスクリーニングで発見された微小癌を如何に考え,対処するかが今後の課題になると思われた。
著者
荒瀬 康司
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.557-570, 2018 (Released:2019-03-29)
参考文献数
14

私は,2008年に日本人間ドック学会に入会した後,2010年より編集委員,2012年より編集副委員長,2014年より編集委員長を拝命し,学会誌の編集,投稿論文の審査等に携わらせていただいている.学会員の皆様に論文投稿をお願いしているが,一方では,学会員より,初心者向けに「論文の書き方」,「統計法の選び方」等の注意点を明示して欲しい等の要望が繰り返し寄せられている.そこで,今回は,統計法の選び方,表現法等につき,私なりにまとめてみた.私は,肝臓疾患を主体として約30年活動しており,統計関係については,各種の参考書1-9)を読みながら学会誌への投稿を繰り返してきた.統計法の記述についても,とんでもない誤り,勘違いを幾つも査読者より指摘されてきた.これらの多くの貴重な,裨益するご意見を基に原稿を修正してきた.今回は,これらの過去の失敗の実例を紹介し,統計を専門とされない方々に多少でも参考になればとの思いで本稿を記した.内容は,統計リテラシー,研究デザイン,データの表現法,要約統計量,推計,仮説検定,検定法の選択,リスク比とオッズ比,多変量解析,生存分析等における注意点である.
著者
大水 智恵 小野寺 博義 小野 博美 手嶋 紀子 近 京子 渋谷 大助
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.59-64, 2015 (Released:2015-09-29)
参考文献数
8

目的:主膵管の変化をとらえることは膵疾患の診断に有用性が高く,また膵管拡張が膵がんのハイリスクであるとの報告もあることから,腹部超音波検査にて主膵管の拡張を認めた症例のその後について調査し,経過観察をどうすべきかを検討した.方法:対象は平成8年4月から平成25年3月に,当協会の腹部超音波検診にて膵管拡張が指摘された162症例である.さらにそれらの症例のうち,当協会が検診後約1ヵ月に実施している2次超音波検査(US)を受診した症例を,2次USでも膵管拡張を認めたA群(31例)と,認めなかったB群(98例)に分けて比較検討した.結果:血液検査データには両群間で有意差を認めなかった.A群からは慢性膵炎5例,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)3例,膵嚢胞1例,膵がん1例が発見された.B群からも2年後に膵がんのハイリスクとされる膵嚢胞2例,8年後に粘液非産生性膵管内乳頭粘液腫瘍1例が発見された.結論:膵管径は生理的に経時的な変化をすることが知られており,検診後に拡張が消失した場合は積極的には経過観察を行っていなかった.しかし,そのような場合にも経過観察が必要であると考えられた.
著者
影山 洋子 山下 毅 本間 優 田中 千裕 中村 綾 冨田 美穂 寺田 奈美 毛利 恭子 小原 啓子 近藤 修二 船津 和夫 中村 治雄 水野 杏一
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.462-467, 2016 (Released:2016-12-26)
参考文献数
10

目的:インスリン抵抗性の診断は糖尿病発症予防のためにも早期発見が重要である.しかし,診断の基本となるインスリンが健診項目に入っている企業は少ない.そこで多くの企業の健診項目にあるTG/HDL-C比を利用して日本人におけるTG/HDL-C比がインスリン抵抗性の指標となり得るか,またその指標が10年間の糖尿病発症に関与しているかretrospectiveに検討した.方法:TG/HDL-C比を四分位し,男女別にhomeostasis model assessment-insulin resistance(HOMA-IR)と比較した.また,10年間における糖尿病の発症率をTG/HDL-C比高値群と非高値群で比較した.結果:男女ともにTG/HDL-C比が高くなるに従いHOMA-IRは増加していた.四分位による75パーセンタイルは男性が2.6,女性が1.4で,それ以上を高値群,未満を非高値群とすると,高値群は非高値群に比べてインスリン抵抗性を有していた割合が高かった.10年間の追跡による糖尿病発症では,男女ともに2001年時にTG/HDL-C比高値群が非高値群より2倍以上糖尿病を発症していた.結論:TG/HDL-C比はインスリン抵抗性を反映しており,鋭敏な糖尿病発症の予測因子となり得る.TG/HDL-C比としてみることで簡便でわかりやすいインスリン抵抗性の指標として使用できる可能性がある.
著者
牛島 千衣 岡村 建 中埜 杏奈 武田 あゆみ 緒方 徹 今村 明秀 望月 直美 山永 義之
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.691-700, 2022 (Released:2022-06-30)
参考文献数
28

目的:健診における甲状腺超音波検査(ultrasonography: US)の成績,特に腫瘤性病変の特徴を検討した.方法:2018年4月1日から1年間にUSを実施した未治療の5,714例(女性3,971例,男性1,743例,平均年齢51.3±10.5歳)を対象とした.検出した腫瘤の最大径を計測,個数については単発と2個以上の多発に分類し,びまん性病変(腫大,不均質,粗雑など)の合併についても検討した.結果:2,333例(40.8%)に何らかの所見―充実性腫瘤1,551例(27.1%),嚢胞性病変1,002例(17.5%),びまん性病変467例(8.2%)―を認めた.二次検診の結果が判明した136例中,バセドウ病3例(0.1%),慢性甲状腺炎38例(0.7%),甲状腺乳頭癌9例(0.2%)であった.腫瘤性病変についてさらに検討すると,腫瘤径は対数正規分布を示し(p<0.0001),平均±2SDは6.8(3.2~14.6)mm,1,054例(68.0%)は単発,497例(32.0%)は多発性で,嚢胞性や腫大など随伴所見を527名に認めた.多発性または>20mmの腫瘤が高頻度に随伴所見を伴った.年齢とともに腫瘤が存在する頻度や多発する頻度が上昇し,その傾向は特に女性において顕著であったが,腫瘤の最大径は年代別差を認めなかった.結論:USにて27.1%の高頻度に充実性腫瘤を検出し,0.2%に乳頭癌を認めた.腫瘤の最大径は対数正規分布し,加齢とともに頻度と数は増すが増大傾向は認めず,環境や加齢に伴う非増殖性の変化である可能性が示唆された.20mm以上の腫瘤形成は約1.2%と高頻度ではなかった.
著者
石井 史 屋代 庫人 田中 美紀 杉山 茂樹 橋本 洋
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
健康医学 (ISSN:09140328)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.590-594, 2004-12-20 (Released:2012-08-27)
参考文献数
9
被引用文献数
1

目的:炎症性腸疾患の患者は増加してきており,特に潰瘍性大腸炎は人間ドックの便潜血反応陽性を契機に発見されることがある.方法:ドックの便潜血反応陽性で発見された潰瘍性大腸炎の例を呈示し検討した.結果:ドックの便潜血反応陽性で大腸検査をした症例201人中の2例(1%)に潰瘍性大腸炎を認めた.この2症例はともに軽症例(直腸炎型,左側大腸炎型)であり,迅速に治療を開始し,治療経過は良好であった.診断後に問診を詳細に取り直してみると,潰瘍性大腸炎によると思われる症状があっても気付いていなかったり,血便は痔からによるものと自己判断していた.結論:便潜血反応検査は大腸癌のスクリーニングが主たる目的であるが,潰瘍性大腸炎症例の増加に伴い,ドックの便潜血反応陽性を契機に診断される症例が増えると予想される.潰瘍性大腸炎を無症状あるいは軽い症状で発見できることは有意義であり,ドックで行っている便潜血反応検査もその一助を担っていると思われる.
著者
伊藤 一人
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.7-16, 2012 (Released:2012-10-03)
参考文献数
40
被引用文献数
2

我が国の前立腺特異抗原(PSA)を用いた前立腺がん検診の普及率は低く,現在も多くの臨床的に重要ながんが進行するまで見逃されている.また,前立腺がん死亡数は増加し続けており,2010年は11,600人と推計され,2025年には15,700人に増加すると予測され,最も効果が期待できる対策を早急に講じるべきである. 前立腺がん検診は無作為化比較対照試験で死亡率低下効果が得られることが証明されており,日本泌尿器科学会は前立腺がん検診ガイドラインにおいて,「前立腺がん死亡率を低下させるPSA検診を推奨する」との指針を示した.一方で,検診受診から治療までの過程で不利益を被る場合もあり,検診の受診による利益と不利益を正しく住民に啓発したうえで,受診希望者に対して最適な前立腺がん検診システムを提供することをガイドラインに明記している. 死亡率低下効果が証明されたPSA検診は,日本泌尿器科学会のガイドラインに沿って,日本の主な受診機会である住民検診および人間ドックなどで正しく普及させることで,前立腺がん死亡率の低下が期待できる.
著者
水野 由子 山崎 力 小出 大介 高梨 幹生 小室 一成
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.484-489, 2014 (Released:2014-12-25)
参考文献数
23

目的:ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)はグラム陰性菌で,胃粘液下の上皮細胞表層に持続感染し,慢性胃炎,胃・十二指腸潰瘍,胃がん,胃MALT(Mucosa Associated Lymphoid Tissue)リンパ腫の原因となる.感染伝播の経路に関しては不明な点も多く,う歯,歯周炎がピロリ菌の病原巣として働き,除菌治療後の再感染の要因となる可能性が指摘されるものの,日本人での検討は十分でない.本研究では人間ドック受診者の歯科検診結果をもとに,ピロリ菌感染とう歯/歯周病の関連について検討した.方法:対象は歯科検診を受診した連続症例68名(34~82歳,平均59歳),胃内視鏡と胃がんリスク検診(胃がん予測因子 ペプシノゲンⅠ/Ⅱ比,抗ピロリ菌抗体濃度)の結果と,う歯/歯周病との関連を統計解析した.結果:これまでの報告と矛盾なく,慢性胃炎または胃・十二指腸潰瘍ありの症例で,ペプシノゲンⅠ/Ⅱ比の低下(罹患群 4.2,非罹患群 5.8,p=0.023)と,抗ピロリ菌抗体濃度の上昇(罹患群 42.2U/mL,非罹患群 8.7U/mL,p=0.015)を認めた.しかし一方,歯科検診結果の解析では,う歯/歯周病を有する症例で慢性胃炎および十二指腸潰瘍の罹患頻度が低い傾向がみられ,予測に反した.また,健常者に比べ歯周病群でペプシノゲンⅠ/Ⅱ比が高く(p=0.012),抗ピロリ菌抗体濃度が低い(p=0.020)という結果を得た.同様の傾向は,う歯群でも認めたが,統計学的有意差は得られなかった.結論:本検討では,う歯/歯周病と胃・十二指腸ピロリ菌感染の関連は見出されなかった.今後,症例数を増やすなどさらなる検討が必要である.