著者
半田 裕一
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.105-112, 2017-01-20 (Released:2018-01-20)
参考文献数
20

コムギは,全世界の耕地の16%に相当する2億1,800万ヘクタールで栽培され,その生産量は年間約7億トンにも及び,イネやトウモロコシとともに世界の三大穀物として,私たちの食料基盤を支えている.また,トウモロコシやイネよりも多くのタンパク質を含むことから,多くの国で最も重要な植物タンパク質源となっている.一方,コムギは遺伝学の材料として古くから利用されてきており,今日,一般的に使われるようになった「ゲノム」という言葉は,コムギと深い関係にある.しかし,コムギゲノム自体は,ヒトゲノムの5.7倍の17 Gbもあり,異質6倍体ということと相まって,その解読は進んでいなかった.本稿では,コムギとゲノム研究のかかわりを解説しながら,現在進められているコムギのゲノム解読の現状を紹介する.
著者
野崎 慎 前島 一博
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.177-182, 2013-03-01 (Released:2014-03-01)
参考文献数
20

1細胞あたり全長2 mにも及ぶヒトゲノムDNAは「人体の設計図」であり,直径約10~20 µmの「細胞核」や直径0.7 µmの「染色体」の中に収納されている.本稿ではゲノムDNAの収納原理とその柔軟性について,最近の筆者らの知見を紹介したい.
著者
木村 邦男
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.616-618, 2000-05-01 (Released:2008-11-21)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1
著者
五十嵐 雅之
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.37-42, 2015-12-20 (Released:2016-12-20)
参考文献数
38

3大感染症(エイズ,マラリア,結核)および顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs, 17疾患群)は,患者の多くが途上国に偏在するため,先進国で爆発的に蔓延したエイズを除き,長い間新薬研究開発の対象としては顧みられてこなかった.近年,これら3大感染症およびNTDsに対し革新的な新薬をより効率的に開発し蔓延国に供給する目的で,国際機関,各国政府あるいは官民が連携し研究開発の支援組織が発足している(1).この支援のもとで国際的に新薬の開発が進められているが,なかでも天然物からの治療薬探索は有用かつ革新的な新薬を開発しうるアプローチとして大きな期待を受けている.この分野で先駆的な成功を収めた大村らに2015年のノーベル医学生理学賞が授与されることもその期待の表れと言えよう.大村らが発見した放線菌Streptomyces avermitilisの生産するエバーメクチン(avermectin)の誘導体イベルメクチン(2)(ivermectin,図1)が線虫に起因するオンコセルカ症などの治療薬として開発され,またTuらによりマラリア治療薬としてアルテミシニン(3)(artemisinin,図1)が植物成分より単離されいずれも有用性の高い革新的な新薬として使用されている.本稿では,3大感染症の一つである結核の治療薬の開発状況を天然物の視点で紹介したい.
著者
村田 篤志
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.265-267, 2015

本研究は,日本農芸化学会2014年度大会(開催地:明治大学)での「ジュニア農芸化学会」において発表された.日本を含め東アジア一帯に生息する捕食性テントウムシの一種であるナミテントウ(Harmonia axyridis)は,農作物に被害を与えるアブラムシの駆除を目的に日本から欧米に移入された.しかしナミテントウは,欧米在来の捕食性テントウムシ類を激減させるなど自然環境に大きな影響を与えたことから,生物多様性を脅かすおそれがあるとされ,侵略的外来種に指定されている.一方,日本ではほかの捕食性テントウムシと共存しており,生態系に悪影響を与えているという報告はない.発表者は,ナミテントウを含む日本在来の捕食性テントウムシ3種の捕食行動や餌となるアブラムシの種類を詳細に比較・解析することで,日本でナミテントウとほかの在来の捕食性テントウムシが共生できる原因を考察するなど,得られた結果は非常に興味深いものとなっている.
著者
斎田(谷口) 美佐子 亀井 保博
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.580-585, 2015-08-20 (Released:2016-08-20)
参考文献数
16

IR-LEGO(Infrared laser-evoked gene operator)とは,赤外レーザーを生体の単一細胞(組織)に照射することで細胞を温めて熱ショック応答を起こさせ,熱ショックプロモーター下流の遺伝子の発現誘導を行うシステムである.この技術を用いることにより,特定の時期に特定の細胞で特定の遺伝子の発現を誘導することが可能となる.本稿ではIR-LEGO技術の原理や応用例について紹介するとともに,われわれが所属する基礎生物学研究所の共同利用研究システムについて紹介する.
著者
松崎 政紀
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.406-413, 2012-06-01 (Released:2013-06-01)
参考文献数
39
被引用文献数
1

オプトジェネティックス(Optogenetics;光遺伝学)は,遺伝学的,光学的方法を組み合わせて生体組織の特異的細胞種における機能獲得,機能欠損を達成するものである(1).2005年にチャネルロドプシン-2の青色光照射による神経細胞活動の高速制御が発表されて以来(2),神経科学の分野で爆発的な進展と応用が始まっている.発現量の安定性など改良すべき点もまだあるが,神経科学も分子生物学における遺伝子ノックアウト法,強制発現法のような明快な因果関係を捉えることが可能なツールを手に入れ,新しい局面に入ったことは間違いない.ここでは,その歴史も含め,現在の進展状況とこれまでの応用例について概説する.

6 0 0 0 OA 菌につく菌

著者
橋岡 良夫
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.11, pp.731-739, 1974-11-25 (Released:2009-05-25)
参考文献数
19

6 0 0 0 OA 放線菌

著者
池田 治生 大村 智
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.10, pp.694-700, 2002-10-25 (Released:2009-05-25)
参考文献数
16
著者
長谷 純宏
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.659-664, 2014-10-01 (Released:2015-10-23)
参考文献数
6
被引用文献数
2

突然変異は生物資源拡大の基礎をなすものである.近年,植物や微生物の新品種開発において,イオンビームを変異原とする突然変異育種「イオンビーム育種」が広く利用されるようになった.本稿では,イオンビームによって誘発される突然変異の特徴や産業利用の現状について紹介する.
著者
小林 謙一
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.469-476, 2020-08-01 (Released:2021-08-01)
参考文献数
40

キノリン酸は,必須アミノ酸であるトリプトファンの中間代謝産物であり神経毒である.キノリン酸の脳内蓄積が,ハンチントン舞踏病などの神経変性疾患と関連するという「キノリン酸仮説」が提唱されてから40年が経つ.筆者らは,キノリン酸を体内に蓄積できる遺伝子改変マウスを用いた解析で,このマウスが腎線維化と腎性貧血様の症状を呈することを見いだした.これは,キノリン酸と慢性腎臓病とが関連するという第2の「キノリン酸仮説」といえる.本稿では,キノリン酸と慢性腎臓病とのかかわりについて解説するとともに,これらを踏まえて「腎」を守る機能性食品の創出が可能かどうかについて考えてみたい