著者
岡田 則子 土肥 名月 岡田 秀親
出版者
名古屋市立大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

1。ラットの種特異的補体制御膜因子である5I2抗原を発見し、そのcDNAもクローニングすることができたので、腫瘍細胞膜上への5I2抗原の発現を抑制し、自己(同種)補体の反応を許すようにさせる方法して、5I2抗原の遺伝子を特異的に攻撃するリボザイムの開発を試みた。5I2抗原のcDNAの塩基配列を解析し、ハンマーヘッド型のリボザイムの標的とするのに適当と考えられる塩基配列を探索した。それに基づきリボザイムの合成を行った。5I2抗原cDNAのin vitro transcriptを作り、このリボザイムを作用させたところtranscriptのmRNAを特異的に切断することが確かめられた。2。マウスのDAF (decay accelerating factor)のcDNAもクローニングすることができたので、発現組織についての検討を行ったが、精巣に強い発現が認められた。モルモットのMCP (membrane cofactor protein)のcDNAもクローニングし、その発現組織を検討したが、この場合には、より強い精巣への限局が認められた。一方、マウスの腫瘍細胞を用いて解析するため、マウスの強力な補体制御膜因子であるCnyに対するモノクローナル抗体を用いて腫瘍細胞膜上のCrryの機能をブロックしたときの補体反応性の解析を行った。その結果、Crryをブロックするだけでは不十分で、腫瘍細胞に対するIgM抗体などの反応を起こさせると強い補体反応を起こし、C3の沈着等を起こせることが分かった。3。5I2抗原リボザイムは、in vitroのtranscriptを特異的に切断するので腫瘍細胞の細胞内で作用させて、5I2抗原蛋白の細胞膜への発現をどの程度まで抑制するかを検討中である。
著者
伊藤 孝一
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

HCV母子感染例の小児7例を対象にPEG-IFN単独療法直前、治療後2-4週でのHCV NS5b領域の遺伝子解析を行った。PEG-IFNα-2a 90μgまたは180μgを週1回、24週間または48週間皮下注投与され、6例は治療完遂し、1例は12週で治療中止した。治療4、8週時のHCV-RNA陰性化は、2例(29%)、7例(100%)。治療終了後24週でのHCV-RNA陰性(SVR)は6例(86%)。7例全てにおいて治療後2-4週時点でHCV NS5b領域に変異を認めなかった。
著者
林 祐太郎 郡 健二郎 小島 祥敬 佐々木 昌一
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

今回われわれは,外因性内分泌攪乱物質の中でもダイオキシンに注目し,男子の生殖器奇形児のダイオキシン曝露量の指標として,患児を出産した母親の血液中のダイオキシン濃度を測定し,ダイオキシンが男子生殖器奇形の一因となる可能性について分析・評価した。実際には尿道下裂の患児の母親5名の血液中のダイオキシン濃度を測定した(採血した平成12年の段階での患児の年齢は1歳1例,3歳3例,5歳1例)。測定した化学物質はポリ塩化ジベンゾパラダイオキシン(PCDD)分画7種類とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)分画10種類であった。ダイオキシンの分析は,電子捕獲検出器付ガスクロマトグラフ法によって行った。得られたダイオキシン各分画の濃度を,最近環境庁が発表した一般環境住民の血液中ダイオキシン異性体別濃度平均と比較した。またそれぞれの分画の構成比率についても比較検討した。なお地域の偏りを少なくするために対象の5名は3県から選択した。それぞれの分画の濃度の比較で,1SDを越える異常値を示す症例はなかった。またPCDD,PCDF,PCDD+PCDFについても1SDを越えるものは認められなかった。分画の構成比についての検討では,ダイオキシン類の中でも最も毒性が強いとされている2,3,7,8-TetraCDDの割合が,環境庁の示した一般人のデータの平均を3例で上回っているほかに特徴的な所見はなかった。以上,尿道下裂の発生の増加に,近年問題にされている環境ホルモンのダイオキシンが関与しているかどうかを調査する一手段として,母親の血中ダイオキシン濃度を測定したが,一般人の血中ダイオキシン濃度との有意差を認めなかった。
著者
山田 美香
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.79-92, 2006-01-10

中国では犯罪予防教育が盛んである。2005年に北京で調査した際、法曹界が積極的に学校で法教育を実践していた。また中国の社会科・道徳の授業の指導要領には子どもが犯罪に遭わないためにどうしたらいいのかを第一義に考える項目があり、教科書もそのような構成となっている。その一方で、日本は少年犯罪発生を他人事のように考え、決して学校レベルで解決するという姿は見られない。少年犯罪の対処の方法は中国と日本では大きく異なっている。第一に、中国では犯罪予防の認識が高い。これは中国の社会が多様であり、貧困から犯罪に走ること、自己の権益が守れないこと、日本と同じように都市文化の影響で簡単に非行に走るケースが見られるなど、その対応に追われているためである。第二に、従来から、共産党組織や党の活動が犯罪防止に役立ったが、最近の中国では党主導の活動より学校教育で犯罪予防をする方向にある。第三に、日本では、個人のプライバシーや行政の家庭への介入への蓄積がないことが、問題を放置させる原因となっている。抜本的な改革が必要だと考える。第四に、中国ではモデル地区を選定し、その実施の状況を広く全国に進めていく政策方針を取っている。犯罪予防教育に対する各界の連携も北京市海淀区などは好例だが、各々の機関が協力しあう雰囲気を作っている。日本も各市町村にモデル地区を作るべきではないか。
著者
谷口 幸代
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.155-168, 2008-06

多和田葉子の戯曲『Pulverschrift Berlin』は、森鴎外の『大発見』を下敷きにしながら、観客を様々な固定観念から解き放ち新しい発見へと導く。本稿はその発見の過程を、言語遊戯と新たな鴎外像の創出という二つの観点から検証する。まず、音の連想、意味の連関などから日本語とドイツ語の間を往還し国家の支配から自由になった言葉が、様々な固定観念を融解することを明らかにした。その中で鴎外の留学目的の衛生学を意味するドイツ語も解体されて日本語へ変身し、多言語の「エクソフオニー」の響きを奏でる。次に鴎外像の創出では、多和田はクライストの翻訳史に関する考察の中で、日本の近代化を推進する意志と近代化に対する批判とを併せ持つ鴎外像を構築しており、この戯曲の鴎外もそれを受けたものと考えられる。続いて作中に挿入された詩の分析へ進み、鴎外がその名のイニシャルを通して、詩の題名でもあるアルファベットの「O」に変身させられるととらえた。それは様々な固定観念から解放されるトンネルの出入り口だと考えることができる。以上から、この戯曲はルイーゼ像が建つ場所をこうした出入り口を発見する可能性に満ちた場所とする。それによって、かつてクライストが詩を捧げたプロイセン王妃ルイーゼに極めて現代的な作品として捧げ直されるべき作品として創作されたと結論した。
著者
有賀 克明 水野 恵子 山田 美香
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.171-183, 2006-12-24

香港の幼児教育改革で特徴的なのは、幼保一元化(調和)が行政レベルでは既に2004年から開始されていることである。現在の就学前教育・保育は、教育統籌局Education and Manpower Bureauの管轄の幼稚園Kindergarten、社会福利署管轄の幼児園・幼児センターChildcare centerに二分される。2005年9月に両者の行政組織を調和harmonizationさせた。質の高い幼稚園は当然人気が高い。しかし多くの家庭はメイドを雇っていて、その数は20数万人にものぼるため、幼児園(幼児センター)等の役割は相対的に低く、政府による就学前教育への投資は抑制しがちになる。メイドの平均月給は3,500香港ドル(以下、ドルと略称、1ドル=16円程度)前後で、全日制幼児園の平均的な学費2,000数百ドルより高いが、メイドが家事全般をこなしてくれることを考えると割安と言えるので、幼児園よりメイドを選ぶ家庭が多くなるのも当然であろう。
著者
山本 将士
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.191-205, 2007-12

本研究では、いじめの規定因として他者軽視に基づく仮想的有能感に注目し、検討することを目的とした。2007年1月中旬に、被験者である高校2年生453名(男子243名、女子210名)に対して(1)他者軽視、(2)自尊感情、(3)過去半年間のいじめの経験、(4)過去のいじめ経験、の尺度で調査を実施した。その結果、自尊感情が高く仮想的有能感も高い「全能型」の生徒は、他の有能感タイプよりも過去半年間のいじめ(加害)の生起が多かった。また、自尊感情が低く仮想的有能感が高い「仮想型」の生徒は、他の有能感タイプよりも過去半年間のいじめ(被害)の生起が多いことも示された。さらに、「全能型」の生徒は、他の有能感タイプよりも過去のいじめ(加害)の生起が多く、「仮想型」の生徒は、他の有能感タイプよりも過去のいじめ(被害)の生起が多いことが示された。自尊感情と仮想的有能感がともに低い「萎縮型」は、間接的いじめに限り被害者になりやすいことが確認された。