著者
石川 洋明
出版者
名古屋市立大学
雑誌
名古屋市立大学大学院人間文化研究科人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
no.5, pp.37-49, 2006-06

男性の「男らしさ」について、調査データ(N=218、非無作為抽出、回答者は男女双方)の二次分析により検討した。多変量解析の結果、「男らしさ」は、行動様式で6つ、意識でも6つ、配偶者とのコミュニケーションで3つの成分が抽出された。成分得点の回答者属性による差から、50代既婚男性が性暴力問題に最も懐疑的で家庭外達成志向が強く、20代男性が最も感情表現や子のケアに積極的であることがわかった。また、男性の回答から、「男らしくない」と言われるのは、配偶者への期待が低く、仕事を断れる人、「男らしくありたい」と思う人は、近所づきあいがよく、仕事を断ることができず、男は経済力・忍耐が必要で家事には向かないと思っている人であることがわかった。総じて、ワークライフバランスのうちではワークに特化することが男らしさである、と考えられていることが確認された。ただし、40代と既婚者に、それにとどまらない傾向も見られた。
著者
寺田 元一
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

初年度は7月の国際科学史学会で、「モンペリエ学派における生気論的生物観の形成と中国医学(フランス語)」という題目で報告し、その報告がArchives Internationales d'Histoire des Sciencesの最新号に掲載された。そこでは、1)中国医学(漢方を含む)のヨーロッパへの導入には二ルートがあり、中国医学は共通して西洋医学に器官の共感という問いを提起していたこと、2)中国医学の身体観の生気論的生理的機序(エコノミー・アニマル)観への同化が、被刺激性という問題系をめぐる論争を通じてのみでなく、脈学の生理学的「革命」を通じても実現されたこと、3)機械論に打ち勝つための身体観をメニュレが中国医学のうちに見出したこと、4)メニュレが中国医学の生理的機序観を同化して生気論の生理学的地平を拡大したことを明らかにした。第二年度はモンペリエ学派の脈学が生気論の成立の場として機能したことを明らかにした。論文Lasphygmologie montpellieraine : le role oublie du pouls dans l'emergence du vitalisme montpellierainによって、18世紀における中国医学と西洋医学との交流、モンペリエ学派の脈学の展開、生気論の成立という、相互に独立に研究されてきた対象について、始めて本格的に解明のメスを入れることができた。その結果、1)モンペリエ生気論が初期には未だアニミズムから自由でなかったが、関係的生理的機序観によってそれを乗り越えたこと、2)この関係的見方は、モンペリエ学派の脈学を狭い予診論的枠組みから広い生理学的地平へと転回させ、身体の表層と内部を結ぶ生理的機序の連関のうちに脈を位置づけ直すのに成功したこと、3)とりわけ、メニュレが中国医学の関係的見方を導入したことを通じてその転回は果たされ、身体全部分の競合・共鳴から生命が成立するという新たな生気論的見方に変わったことを、明らかにできた。
著者
加藤 寛之
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

以前の疫学調査の結果、アレルギー疾患罹患者かつ治療歴の長い患者は膵癌の発生は低いという報告がなされた。この報告から抗アレルギー薬には膵癌発生予防効果があるのではないかと考えハムスター膵発癌モデルを用いて実験を行った所、4種類の抗アレルギー薬からロイコトリエン受容体拮抗薬のみが有意な膵発癌予防効果が有ることが分かった。その機序として、膵星細胞内から分泌される物質を修飾する事により、Smad3経路を介して増殖抑制効果を来している事が推測された。
著者
石原 英子
出版者
名古屋市立大学
雑誌
名古屋市立大学看護学部紀要 (ISSN:13464132)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.105-106, 2001-03

平成12年度をもって定年退職をする筆者に,貴重な紙面での発言の機会を与えて下さいましたことを有難く思います。筆者は,平成12年10月28日に挙行された名古屋市立大学開学50周年記念式典・祝賀会・講演会の実行委員として,また,同年11月18日に開催した看護学部の市民公開講座に演者の一人として参加しました。そこでみた看護学部の活躍ぶりと市民公開講座開催までの経緯について記録しておきたいと思います。市民公開講座 : 公開講座企画委員会は大学全体の委員会の一つとして存在し,大学全体の公開講座の企画を調整する(平成12年度の看護学部選出委員は小玉学部長と研究紀要委員会委員の藤原奈佳子助教授)。その委員会が4月3日に開催され,今年は,開学50周年記念事業の統一テーマ「市民が育て,市民に発信する名古屋市立大学」に基づいて公開講座を企画することとなった。研究紀要委員会 : 学部内の研究紀要委員会は企画案を作成し,アンケートの結果を参考に,実演・実技を含めた講演を向う3年分を計画した。「第1回 : 看護と食」「第2回 : 五感と食」「第3回 : こころと食」である。今年,市民に配布された資料には,2000名古屋市立大学市民公開講座・第5講座看護学部テーマ「看護と食」,講師及び演題「看護と食-総論」「健康維持食から治療食まで」,実演「食品の塩分濃度を測定してみよう」と記されていた。障害のある方への対応と評価 : 市民向けパンフレットには「耳が不自由など,障害のある方は事前にお知らせ下さい。手話通訳等必要な対応をさせていただきます」とある。藤原委員の発案で字幕と手話通訳が実現した。歴史のある市民公開講座で,初めての予算措置であった。受講者のアンケートによると評判は上々であった。だが,もし車椅子使用の方が受講を希望したら,対応用トイレがこの川澄キャンパスには無い。このことも看護学部の13年度の予算要求(案)として取り上げられたが,復活要求では採用されなかった。「健康維持食から治療食まで」 : このテーマを依頼された理由を考えた。筆者が担当した科目に「生活・臨床栄養学」があり,それから由来していると想像した。この科目は本看護学部が設置申請した際,独自に立てた内容で教科書が無い。30時間の半分は健常人の家庭での栄養学に,半分を患者の臨床での栄養学にあて生化学的に解説している。健常人と患者に共通する栄養学上の警告に植物油(リノール酸を主成分とする)摂取過剰がある。以前の「脂肪に関する栄養指導」の誤りがはっきりしているのに,厚生省の対応が非常に遅いため,この警告を市民へ発信することにした。看護学部の活躍 : 本学は医学部,薬学部,経済学部,人文社会学部,芸術工学部,看護学部,自然科学研究教育センターからなる総合大学である。そのなかで,看護学部は何事につけ最も真剣に,最も着実に対応している。今回の市民公開講座の準備状況と当日の対応にも,それをみた。字幕業者との打ち合せを含めた綿密な準備と研究紀要委員会の方々および事務室の方々の心からの協力があり,以前には見られなかった団結力を感じた。看護学部は,名古屋市の中心地を通る地下鉄桜通線の改札口から一番近いところにある。地理的にも看護学部は市民・看護職者および関係職者との交流・提携・研修活動の拠点にふさわしい。車椅子対応用トイレの設置とその通路環境が早く確保されれば良いがと願う。看護学部から発案した字幕は「開学50周年記念講演会」で先に実施された。字幕に演者の発言がたちまちに打ち出されるのをはじめてみて感心した。この開学50周年記念式典・祝賀会・講演会に看護学部の教員はどの学部よりも多くの比率で参加した。式典の閉会のことばを担当したのは看護学部の筆者であった。在学期間も含めると,本学に46年間お世話になったことと重ね合わせ,感慨深いものだった。お別れに際して : 大勢の方々に支えられて,沢山の思い出を共有させていただきました。大豊作の秋のような感謝の気持ちで一杯です。有難うございました。
著者
廣瀬 泰彦
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

尿路結石は、疫学、形成機序など、動脈硬化と類似点が多い。近年、酸素を直径100nm以下のガス核として、Salting-out現象により安定化させた機能水、酸素ナノバブル(Oxygen nano-bubbles: ONB)水の抗炎症効果が報告された。炎症や組織改変をともなう動脈硬化などの疾病の治療薬となる可能性をもつ。そこで、私たちは、結石形成モデル動物を用いて、酸素ナノバブル水の、尿路結石形成抑制効果を調べた。酸素ナノバブル水は、尿細管細胞障害を低下させ、シュウ酸カルシウム結晶の接着因子であるオステオポンチンとヒアルロン酸の腎での発現を抑制し、腎結石形成を抑制することが示唆された。
著者
勝又 正直
出版者
名古屋市立大学
雑誌
名古屋市立大学看護学部紀要 (ISSN:13464132)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.47-53, 1999

ヴェーバーの「宗教社会学論集」のなかの「世界宗教の経済倫理」の諸論文はこれまで「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を前提にして読まれてきた。その結果、プロテスタンティズム論文のテーゼの状況証拠の論文集と見なされてきた。しかし両者をよく読むと、「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」の方には政治領域への言及の欠如があることがわかる。初版の注からその欠如を埋めるのがイエリネックの「人権宣言論」であると推測される。「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」」と「人権宣言論」の両者をセットにして読むとはじめて、プロテスタンティズムの政治経済双方への影響が見えてくる。と同時に、「宗教社会学論集」が東洋的家産制批判であるばかりか、ドイツ帝国の批判であり、真の市民社会創造の可能性を探った論文であることが了解されるのである。
著者
千葉 拓 瀧井 猛将
出版者
名古屋市立大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

食品紅花中にはセロトニン誘導体(N-(p-coumaroyl)serotonin(CS),N-ferutoyserotonin)の他、ポリフェノ-ル類に含まれる抗酸化物質が存在する。これらのセロトニン誘導体がグラム陰性菌のエンドトキシンリポ多糖(LPS)刺激によるヒト末梢単球からの炎症性サイトカインの産生を抑制する以外に、細胞増殖促進活性ももっていることを見出したのでその機序を明らかにする。そして、病気の予防、創傷治癒、また、抗炎症剤としての創薬の基礎的研究を目的とする。本研究では以下の点が明らかになった。1)LPSで活性化させた単球/マクロファージから産生される炎症性サイトカインであるIL-1α,IL-1β,IL-6,TNFαは、CS50μMで約50%、200μMで完全に阻害された。この効果はタンパク量レベル、mRNAレベルでも同様だった。2)CS類似化合物として、N-(p-coumaroyl)-tryptamine(CT),N-(trans-cinnamoyl)tryptamine(CinT)とN-(trans-cinnamoyl)serotonin(CinS)を合成し、抗酸化活性の構造活性相関を調べたところ、serotoninに付いている水酸基が抗酸化活性に関与していることが明らかになった。3)LPS刺激ヒト末梢単球からのIL-1α,IL-1β,IL-6,TNFαの産生抑制作用は、CS>CT>CinSの順で強められたが、CinTには作用が認められなかった。4)タンパク合成阻害作用は、CS,CTの方がCinS,CinTよりも強く認められた。5)正常なヒトやマウスの線維芽細胞増殖活性は、CS,CinS,CT>CinTの順であった。6)CSは、酸性の線維芽細胞成長因子(aFGF)や血小板由来の成長因子(PDGF)ではなく、塩基性の線維芽細胞成長因子(bFGF)や上皮成長因子(EGF)と共同して線維芽細胞を増殖させることが明らかになった。7)ラットの熱傷創に対する創傷治療速度について、我々が作製したCS軟膏やCinT軟膏,それに市販のゲーべンクリームを用いて調べたが,自然治癒に比べて著しい治癒効果はみられなかった。
著者
佐藤 慎哉
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ホルモン治療に抵抗性の前立腺癌に対する治療法は限られており、新たな治療法が求められている。私達は、DNAの塩基配列を変えずに遺伝子の働きを変えるエピゲノム機構を利用したホルモン治療抵抗性前立腺癌の増殖抑制を目指した。エピゲノム機構を制御するHDAC阻害剤(OBP-801)をホルモン治療抵抗性前立腺癌細胞に投与したところ、増殖抑制が確認された。さらにOBP-801は同じくエピゲノム機構を制御するマイクロRNA(miR-320a)の発現上昇を介して、前立腺癌の増殖に重要なアンドロゲン受容体の発現を抑制した。以上より、HDAC阻害剤はホルモン治療抵抗性前立腺癌に対する有望な治療薬と考える。
著者
松木 太郎
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

1.文献検討および解析プロトコルの検討:本研究では、①母親がマインドフルネス・トレーニングを実践することにより、母親および発達障害児(ASD、ADHD)においてどのような効果が生じるかについて検討すること、②ペアレント・トレーニングおよびマインドフルネス・トレーニングが有するそれぞれの特徴の違いに着目し、両トレーニングの長所を生かした育児支援方策のあり方を検討すること、の2点を主な目的として、文献検討および解析プロトコルの検討を行った。母親のアウトカムとして、育児ストレスの変化をはじめ、養育スタイルや主観的幸福感の変化にも着目すること、子のアウトカムとして、行動面および情緒面の変化を捉える必要性があることが示唆された。また、母親の既往歴、母親以外の者(父親など)の育児関与の有無、母親・子のストレスを生じさせるライフイベントの有無、子の投薬変更の有無、などを調整因子として含める必要性があることが示唆された。2.各アプリケーションの開発:文献検討および解析プロトコルの検討を行った上で、本研究で使用するペアレント・トレーニングおよびマインドフルネス・トレーニングのスマートフォン用アプリケーションを作成した。作成の際は、①各トレーニングの動機づけの維持、②各トレーニングの日々の達成度の記録、の2点が可能なように工夫を行った。なお、広く研究参加者を募集するために、スマートフォンはiPhoneおよびアンドロイドで実施できるようにしている。
著者
川添 豊 紺野 邦夫 鈴木 日出夫 高橋 和彦
出版者
名古屋市立大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

「目的」リグニン類のエイズ治療薬としての可能性を確立する事を目的として、quasi-in-vivoとでも言うべきassay法を採用し検討した。即ち、動物モデルの確立していないエイズ薬選別には、一般に、細胞レベルの効力判定にたよっているのが現状である。多くの候補リグニン類の中から、今回は、p-coumaric acidの脱水素重合体(DHP-pCA)を選び検討を行った。「結果と考察」合成リグニンをマウスに静脈内投与し、経時的に血清を採取してその抗HIV活性を測定したところ、投与直後から5時間にわたって、血中に有効な抗HIV活性が持続し、その活性は時間依存的に減衰し24時間後には消失することが明かとなった。これによりリグニンが抗HIV薬として非常に有望であることが示された。また、その活性本体は血清の熱処理によって消失しないことも明かとなった。おそらく、投与されたリグニンは生体成分によって不活性化されることなく10時間程度は有効濃度が維持されるものと考えられる。経口投与では、静脈内投与に比べ有効性は低いが、効果を発現していることも示された。これらの検討の過程で、合成リグニンの静脈内投与後15分から30分の間、血清中に細胞毒性因子が誘導されることが明かとなった。しかし、この因子は抗HIV活性本体とは異なるものである。この毒性は一過性のものであり、治療上支障があるとは考えられない。事実、マウスに対して、100mg/kg以上の連続投与によっても何等の毒性も検出されない。合成リグニンとしてp-クマ-ル酸、フェルラ酸、カフェー酸の重合体を用いて検討を行ったところ、毒性に関しては、フェルラ酸を前駆体をする合成リグニンが最も優れていることが判明した。今後、本格的な毒性試験を行う予定である。
著者
松原 和純
出版者
名古屋市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

前年度までの研究成果として、FISH法によって29の遺伝子がZ染色体にマッピングされ、そのうち5つがW染色体にもマッピングされている。そして、W染色体にもマッピングされた5つの遺伝子のうちCTNNB1とWACについて10科のヘビ種においてZとWホモログの塩基配列を解読し、分子系統樹を作製した。今年度は、SEPT7について同様に系統解析を行った。その系統樹の分岐パターンから、SEPT7のZとWホモログ間の分化はヘビ亜目の系統分化の初期に起きたと推定された。3つの遺伝子の分岐パターンを比較した結果、ヘビにおけるZとW染色体間の分化は動原体領域から始まったと推定された。また、ヘビの進化過程において比較的短時間で性染色体間の分化領域が拡大したと推定された。哺乳類や鳥類では性染色体の分化は染色体の末端から始まり、段階的に分化領域が拡大したと推定されている。ヘビにおける分化過程はそれらと異なり、性染色体の進化について新たな知見をもたらすと思われる。現在、この成果について論文を執筆中である。シマヘビの産卵後0日と4日の胚から生殖腺を摘出し、cDNAライブラリーを作製した。DMRT1、SOX、CYP19A、FOXL2などの性分化関連遺伝子の発現量をRT-PCRによって雌雄間で比較した結果、生殖腺の性分化は産卵後0日から4日の間に始まることが推定された。そこで、次世代シーケンサーを用いて産卵後4日杯の生殖腺におけるトランスクリプトーム解析を行い、発現遺伝子の種類やその発現量を雌雄間で比較した。ZとW染色体の両方に位置する遺伝子の一つであるCTNNB1が性分化初期の雌の生殖腺で強く発現していた。マウスにおいてこの遺伝子は未分化生殖腺が卵巣へ分化する際に必須であることが実験的に証明されている。これらのことから、現時点において、CTNNB1がヘビにおける性決定遺伝子の最有力候補と考えられた。