著者
鈴木 順子
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.113-126, 2007-12

現代の家族を特徴づけるものは核家族である。戦後の高度経済成長は急激な工業化や都市化を招き、都市への人口集中をもたらし、またその都市化の進行は家族形態を大家族から核家族へと移行させた。近年、それに加え、少子化傾向が見られ、政府はこの状況に対し、様々な子育て支援策を講じてきたが働く母親や育児負担を抱えている母親にとって充分な施策が行われているとはいえない。本稿では、この中で自治体の取り組みの一つであるファミリー・サポート・センターに焦点を当てる。このファミリー・サポート・センターが少子化対策の一つとして、また子育て支援システムの中でどのように子育てを支援し、位置づけがなされているか、実践報告を基に検討することで、ファミリー・サポートの住民相互援助という新しい形態が今後の子育て支援に重要な役割を果たしていくと考えている。
著者
飛田 秀樹 三角 吉代 増田 匡 石田 章真
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

注意欠陥多動性障害モデルラのSHRラットを用い、発育期の外部環境(豊かな環境飼育、通常飼育、孤独な環境飼育)による情動行動の変化と脳内ドパミン神経系の変化をコカイン&アンフェタミン調節性転写物 (CART)に注目し解析した。その結果、豊かな環境飼育(EE)群では、他群に比べオープンフィールド試験で多動性が減少、社会性試験で社会性が亢進していた。EE群では、CART 発現が扁桃体で上昇し、免疫染色により中心核での強い発現が確認された。さらにパルブアルブミン非陽性のGABA陽性細胞に共発現することも確認された。本研究から、発育期の環境がCARTを介して情動行動の形成に影響することが示された。
著者
久田 健吉
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.61-75, 2003-01-10

この研究は、ヘーゲル研究にとって画期をなすものと自負する。本論末尾の「緒論攷」でまとめたように、『人倫の体系』は難解な書、挫折の書、シェリング哲学残滓の書とされ、イエナ実在哲学との関連で、そういうものだろう程度の研究しかなされていない。しかし人倫の体系は、挫折どころか、ヘーゲル哲学の根幹をなす研究をなしている。ヘーゲルはこの書物で問題にしたのは、人間による「絶対的人倫の理念の認識」だった。この認識に至る道は概念の絶対認識を通してであって、この認識を通して民族(国家)を自覚し、人間は民族(国家)を形成するとする。そしてこれを可能にするものこそは「直観と概念の相互包摂」である。直観とは人間の主観性、概念とは客観世界。人間は己を貫こうとして、客観世界に己を対置する。 しかしこの時、真に己を貫こうとしたら、客観世界に即して己を貫くのでなければならないことを知る。これが「直観による概念の包摂」から「概念による直観の包摂」への逆転であって、こうあることが直観による概念の真の包摂だと人間は自覚する。これが人倫の体系で問題にされたことであった。ヘーゲル哲学は精神の哲学と言われる。この研究の上に立つなら、精神が実現してきた世界理性をわがものとしてこそ真の実存、真の哲学と説いていることがよく分かる。私はヘーゲル研究において、新たな地平を提起したと自負する。
著者
中邨 真之
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

葉緑体では同義コドンの使用頻度と翻訳効率が必ずしも一致しない。また、葉緑体rps2 mRNAには翻訳効率の高いコドンが、rps16 mRNAには翻訳効率の低いコドンが多く含まれるように進化してきたと考えられる。このようなコドンの嗜好性がmRNAの翻訳効率にどのような影響を与えるのかについて、葉緑体in vitro翻訳系を用いて解析した。その結果、(1)rps16の5'非翻訳領域はほとんど翻訳活性を持たない、(2)rps16 mRNAのタンパク質コード領域はrps2よりも約3倍速く翻訳される、(3)この翻訳効率はコドン変換によりさらに高まることが明らかになった。
著者
伏見 嘉晃
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.155-168, 2004-01-10

個人の「自由」、そして「自立」、これらは所与のものなのであろうか。近代以降、それらは個人が他者との関係のうちでみずから形成獲得してきたものである。こうしたことを考えると、各人が己の「自由」や「自立」を求めることは、他者との関係を必然的なものとして捉えることにつながると考えられる。このようにして「人間関係」、つまり個人と個人との関係(繋がり)を基礎とする社会は構築されると考えられる。すなわち、これが近代以降みられる「共同性」のあり方であると思われる。しかし、この「共同性」は漠然としたもしくは強制的な「人間関係」によるものであってはならない。諸個人が相互に尊重しあう関係を必然とする「共同性」でなくてはならないと思われる。なぜならば、「人間関係」のうちに諸個人の「自由」と「自立」が保障される必要があるからである。以上を考慮に入れると、「自由」と「自立」そして「共同性」を解明することは、諸個人がどのように他者との関係を形成するのか、ということの検証であろう。こうした理由により、諸個人間に展開される「承認」のあり方の考察の必要性が浮かび上がると思われる。以上の理由から、若きヘーゲルが本格的に検討をはじめた『イェーナ体系構想』に見られる「承認論」の考察を試みたいと思う。この考察により、「市民社会(社会一般としての)」の本性の一端も明らかになるであろう。
著者
奥山 治美 市川 祐子 藤井 陽一
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

炎症性疾患はアレルギー症、多種の癌の他、多くの難治性疾患を含み、わが国では過去半世紀の間に発症率が著増している。これらの発症、病態の進展に持続性炎症が重要な因子となっている。本研究では、摂取油脂のリノール酸(n-6)系/α-リノレン酸(n-3)系の比を下げることによって脂質性炎症メディエーターの産生を抑え、これら炎症性疾患が予防できる可能性を基礎的、臨床的に評価した。【アレルギー過敏症の体質改善】動物実験ではn-6/n-3比の低い紫蘇油が、この比の高い紅花油に比べ脂質性炎症メディエーター産生を低下させることを明らかにした。臨床的にはアトピー性患者(76名)を対象に、n-6/n-3比を低くする食物を推奨した。2年追跡時で皮膚炎症状が著しく改善し、血清脂質のn-6/n-3比の低下に伴う好酸球の減少が認められた。約半数が3年まで受診したが喘息併発者が多く、n-6/n-3比と好酸球数が元に戻る傾向が認められたが、皮膚炎症状は改善したままであった(共同研究)。【腫瘍再発予防】動物実験ではn-6/n-3比の低い紫蘇油がこの比の高い紅花油に比べ、大腸癌、乳癌、腎臓癌などの化学発癌を抑えること、腹水肝癌の肺転移を抑えることを明らかにしていた。UVB照射で誘発した皮膚癌に対し、紫蘇油は良く抑えたが魚油は紅花油と同様、抑制効果を示さなかった。魚油と紫蘇油の差は、炎症性メディエーター産生能の差では説明できずまた皮脂量でも説明できなかった。臨床的に大腸腫瘍再発予防介入試験を継続中である。ポリープ切除者の中で癌になっていない人を対象に、総脂質摂取を減らす対照群と総脂質の摂取低下とともにn-6/n-3の低下を勧める介入群につき、ポリープの再発率を評価した。各群約20名の中間段階(2年時)では、対照群の再発率が40%、介入群が8%であったが、この段階では結論的ではなかった。より多くの人数について観察する必要があるが、介入による有害作用は認められなかった(共同研究継続中)。
著者
村井 忠政
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.49-69, 2006-12-24

1965年のアメリカ合衆国の移民法改正は、それ以前の人種差別的移民制限法の下で保たれてきていたエスニック集団間の均衡を突き崩すという結果をもたらした。65年移民法体制の下、1970年代の合衆国は合法移民、「不法」移民、そして難民を合わせて恐らくは毎年100万を越えると推定される新しい移民の波に見舞われ、ラテンアメリカからのヒスパニックや従来ほとんど認められていなかったアジア系移民の激増を見ることとなったからである。1970年代以降、20世紀初頭の第一の移民の大波に次ぐ第二の大量移民時代にアメリカ合衆国が突入したことを受けて、アメリカの移民研究は現在新しい段階に入っている。本稿では、現代アメリカ合衆国のラテンアメリカとアジアからの「新移民」の同化をめぐる社会学的実証研究に精力的に取り組み、目覚しい成果を挙げているキューバ系アメリカ人社会学者アレハンドロ・ポルテスに着目し、彼の移民の同化をめぐる議論に焦点を当てることにする。本稿のねらいは、(1)アメリカ合衆国における20世紀初頭の新移民と現代の「新移民」の比較考察をすることで、現代の「新移民」の同化が持つ多様性、独自性を明らかにすること、(2)さらに、これら「新移民」の第二世代に当たる子どもたちが、現代アメリカ社会に適応し、社会経済的地位を向上させていくためには、いかなる条件が必要とされるかを明らかにすることにある。
著者
菊地 夏野
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

外国籍(フィリピン)女性の当事者コミュニテイ活動について継続的にフィールドワーク調査を行った。必要に応じてインタビュー調査を行い、当事者の経歴、ライフコースや意識を探った。とくに、当事者たちの法廷闘争に着目し、画期的な判決を出した国籍法改正裁判について調査した。当事者(原告の母)たちのインタビュー調査と、支援団体(NGO)のインタビュー調査を行い、裁判の経緯を調べた。その上で、この闘争が持った社会的意義を考察した。
著者
瀬口 哲夫 福島 茂 高山 純一 宮崎 幸恵 宮崎 耕輔
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

1999年以降に合併した、800km^2以上の行政面積を持つ市を研究の対象とした。これら、「合併巨大都市」は、行政規模が大きくなり、集約型の都市を志向する傾向がある。また、土地利用や都市計画、さらに、産業振興・地域活性化では、地域的差異を抱え込みながらも広域調整の点で成果が見られる。一方で、広大な過疎地や山間部を抱えていることから、「都市内分権」や住民自治の強化が求められており、地域自治に先駆的な試みが見られる。
著者
菊池 志乃
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2023-04-01

認知行動療法(CBT)は、薬剤抵抗性の過敏性腸症候群(IBS)に有効な治療法であるが、医師や臨床心理士といった治療者の不足や、費用負担などの課題から、臨床での普及は進んでいない。本研究の目的は薬剤抵抗性IBSに対する治療者による短時間ガイドを伴う、インターネットを介したCBT(iCBT)プログラムを開発し、その有効性と費用対効果を無作為化比較試験で検証して、IBSに対するCBTの普及に向けた科学的根拠を創出することである。本研究の目標は実臨床におけるIBSに対するCBTの普及と実装であり、薬剤抵抗性IBSの治療選択肢拡大への貢献が期待される。
著者
山崎 小百合 今井 優樹 的場 拓磨 志馬 寛明 浦木 隆太
出版者
名古屋市立大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-10-07

自己免疫疾患は超高齢化社会の日本と世界の先進国で増加している。自己免疫疾患の発症や増悪は病巣感染で誘因されることが知られている。高齢者でも安心に使用できる治療法の開発のため、詳細な機序の解明が急務である。これまでの研究成果を発展させて超高齢化社会で問題となる病巣感染の病態メカニズムに迫り、高齢者でも安心な合併症の少ない治療法の開発への貢献を目指す。
著者
杉浦 知範 藤井 聡
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

心筋トロポニンは急性心筋梗塞などの心筋障害の指標として利用されている。わずかなトロポニン濃度の変化は軽微な心筋障害の反映と推測されるが、変化の機序や要因は明らかではなく、未解明のトロポニン調整機構に関連している可能性がある。本研究では健常人におけるトロポニンI、T 濃度、および関連する動脈硬化指標や血液学的指標などを測定し、さらにトロポニン発現を調節するnon-coding RNAに着目してエピゲノム因子の探索を行う。候補となる指標の有用性を検証しつつ、最終的にはトロポニン検出の意義解明を目指す。本研究の成果は心疾患の早期発見や治療に結びつき、医療費削減と健康寿命延伸への貢献が期待される。
著者
吉田 一彦 柴田 憲良 藤本 誠 高志 緑
出版者
名古屋市立大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

本研究は、「偽」というマイナスのイメージから研究上の価値が低いと誤認されてきた「疑偽経典」を、豊かな思想を伝えるテキストととらえ直し、その思想作品としての価値を解明するとともに、それらが日本および東アジアの社会、文化に果たした役割を明らかにしようと企図するものである。本研究では、日本に仏教が土着していった様相を、疑偽経典の受容、作成、浸透に着目して考察し、そこから日本仏教の歴史と思想の特質を考究する。
著者
太田 美里 牧野 利明
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、生薬を蜂蜜と共に加熱する加工(蜜炙)に注目し、科学的エビデンスを得ることを目的とした。培養マウス消化管上皮細胞(MCE301細胞)に各種蜂蜜または含有する糖類の加熱処理品の熱水抽出エキスを添加し、培地中に放出されるG-CSF (granulocyte-colony stimulating factor) 濃度をELISA法により測定した。蜂蜜の加熱によりG-CSF産生誘導活性が発現し、isomaltoseが本活性に寄与していた。180℃では1時間、200℃では15~30分加熱した時、活性が最大であった。以上、isomaltose含量の高い蜂蜜が蜜炙に適していることが示唆された。
著者
徳留 信寛 王 静文
出版者
名古屋市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

大腸がんには多くの環境要因が関連していますが、そのなかで脂肪および食物繊維摂取が重要だと考えられます。また、遺伝的感受性が大腸がんの発症に重要な役割を担っていることも報告されています。インドには各種ベジタリアンがおり食物繊維摂取量が多く、また、脂肪摂取量が少ないので大腸がん罹患率が低いのではないかと考えられています。遺伝的要因・環境要因と大腸がんリスクの関連を明らかにするためにインドにおける大腸がんの症例対照研究を行っています。この研究では、喫煙、飲酒はある程度の大腸がんのリスクと関連していたことが示唆されましたが、野菜、果物の高摂取は大腸がんの発症リスクを下げる効果が見られました。葉酸の代謝酵素MTHFRの遺伝子多型は大腸がんとの関連を検討したところ、MTHFR A1298C多型のCC型では統計学的に有意なリスクの低下を認め、さらに野菜の高摂取との交互作用が見られました。だが、MTHFR C677T多型と大腸がんのリスクとの関連は観察されませんでした。このほかに、脂肪の蓄積の主調節要因であるPPAR-gammaのPro12AlaとC161T遺伝子多型、細胞周期のG1期からS期への移行において重要な役割を演じるCCND1のA870G遺伝子多型と大腸がんの関連を検討しました。PPAR-gamma C161T多型のT alleleでは大腸がんのリスクが高く、特に結腸がんでは強い関連が観察されました。さらに、PPAR-gammaのPro-T haplotypeでは大腸がんリスクの高いことが見出されましたが、魚摂取の交互作用は認められませんでした。CCND1 AA型では大腸がんのリスクが高くなり、CCND1 A alleleが常染色体劣性遺伝形式に適合していることが認められました。さらにA870G多型は、肉、魚と野菜摂取により大腸がんリスクを修飾する可能性が示唆されました。
著者
廣川 美子 阪口 明弘 日色 真帆 小倉 繁太郎 伊藤 泰行 山下 享子
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

高級土壁の展示場といわれる角屋、土壁の塗りたて当初の色を再現するために、1992年2月の測定値と2000年2月の測定値の比較を行い、変化の方向と変化量を考察した。Lab表色系により色差を求めているが、L値について新旧で変化の大きい土壁は黄大津磨きと赤大津磨きであり、共にL値の高い方に変化している。C値については黄大津磨きと大阪土の変化が大きく共にC値の低い方に変化している。a値とb値について変化が大きいのは、a値は江州白の赤と大阪土であり、共にa値の低い方に変化、b値は赤大津磨き、黄大津磨き、大阪土であり、すべてb値の低い方に変化している。色差が最も大きいのは扇の間西側廊下の赤大津磨きと馬の間縁側の江州白の赤であった。聚楽土と漆喰壁の色差は少なかった。文化財壁の復元作業においては色合わせが重要な役割をもつ。今回文化財壁を形成している土、砂、すさのような粉末状の試料の色の数値化に伴う側色技術およびコンピュータを用いた色合わせを検討した。粉体の分光特性はその充填密度、厚さ、入射光を照射する側の試料面の状態に強く依存するので、充填作業に個人差がでにくいよう開発したセル厚可変の石英窓板付き粉末セルと精度よく散乱光のみを検知する正反射トラップ付き大型積分球の組み合わせ用いた拡散反射測定によってこの問題点を解決した。この測定法で得た可視スペクトルをもとにCCM(コンピュータカラーマッチング)を行った結果、目標色との色差が1.0未満の良好な結果を得た。関西には聚楽土、大阪土、浅黄土、九条土、桃山土等の色土が豊富であったが、特に利休が茶室に用いた聚楽土には格別な思い入れがある。その聚楽土を地質学的に知るために、その採集地の地層の成り立ちを調べることにした。聚楽土は平安京跡付近の地下の泥層を掘ったものである。考古学では平安京の地盤と考えている。京都盆地北部の平原は賀茂川や天神川などの扇状地でできている。扇状地礫層の上には厚さ1m程度の泥層が堆積している。その形成過程を知るために、各地の扇状地の泥層を採集している段階である。