著者
古山 富士弥
出版者
名古屋市立大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1986

本研究は三つの部分から成っている。(1)高環境温度耐性ラットの系統開発すでにある程度まで育成していた高環境温度耐性ラットを、この三年間でさらに選抜と交配をくりかえして純化し、二十数世代をかぞえる近交系として確立した。この系統は、1982年および1988年に発表した約20系統のラットよりも、高温耐性であった。遺伝分析のために、既存の系統のうち最も高温非耐性であったACIラットとの間に、F1、F2、BCを産ませて、高温耐性を測定した。その結果、高温耐性はポリジーニックに決定されていることと、主要な数個の遺伝子が特につよく関与していることがわかった。(2)ハイブリッドの作出このF2をもとに数系統のリコンビナント・インブレッズを作出したが、途中で研究室の研究条件が一過性に悪化したときに、一系統を残してすべて殺した。その後、高環境温度耐性ラットと祖先を同じくする対照系が絶滅したために、残ったリコンビナント・インブレッズを高環境温度耐性ラットにBCして、対照系として育成しつつある。現在、研究条能が少し好転してきたので、再びリコンビナント・インブレッズを育成する準備をしている。(3)生理的機能の研究既存の系統では、高温耐性であるほど、唾液分泌が活発で、唾液分泌が長く持続し、体水分利用公立が高かった。高環境温度耐性ラットでは、唾液分泌はさらに活発で、さらに長時間持続したが、体水分利用効率は既存の系統のうち最高のものと同値であるにすぎなかった。高環境温度耐性ラットは、室温25℃での体温が約1℃ひくく、高環境温度へ暴露されると体温を40℃付近に設定した。
著者
今泉 祐治 大矢 進 山村 寿男 戸苅 彰史
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

脳神経等の興奮性細胞では、強い刺激と興奮により細胞にCa^<2+>負荷が生じた場合、自己防衛的にスパイク発生頻度を減じてCa^<2+>過負荷による細胞障害を回避するシステムが存在する。特にCa^<2+>活性化K^+チャネルはその活性化により、過分極を介して電位依存性Ca^<2+>チャネル活性を低下させるため、多くの興奮性細胞において最も基本的な[Ca^<2+>]_i負帰還調節機構を担う重要な分子と認識されている。本研究はCa^<2+>活性化K^+チャネルの分子制御機構の解明を基盤とした創薬研究を目的としている。研究期間内に以下の事柄を明らかにした。(1)脳血管内皮細胞に発現している小コンダクタンスCa^<2+>依存性K^+(SK)チャネルがアストロサイトなどから遊離されたATP刺激による内皮細胞増殖促進機構において、極めて重要な機能を果たしていることを発見し、創薬ターゲットとしての可能性を示した(JBC,2006)(J Pharmacol Sci,104,2007)。(2)型リアノジン受容体(RyR2)異型接合性欠損マウス膀胱平滑筋を用いて、[Ca^<2+>]_i負帰還調節機構へのRyR2と大コンダクタンスCa^<2+>活性化K^+(BK)チャネルの寄与を明らかにし、尿貯留・排泄調節という膀胱機能発現において生理的に重要であることを示した(J Physiol,2007;J Pharmacol Sci,103,2007)。(3)電位感受性蛍光色素として創薬探索に汎用されているオキソノール化合物がβ1サブユニット選択的なBKチャネル開口作用を有することを発見し、BKチャネルβサブユニット選択性のある初めての化合物として創薬シーズの可能性を示した(Mol Pharmacol,2007)。(4)本態性高血圧症モデルラット(SHR)の大血管において細胞外液酸性の状態で収縮が著しく増強されることが知られていたが、高血圧の補償として発現促進されたBKチャネル機能更新と酸性時に活性が抑制される特有の機構が主な原因であることを見出した(Am J physiol,2007)。
著者
寺田 元一
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

『生理学要綱』の最大の典拠と推定されるハラー『生理学原論』をラテン語で読み、それ自体が、ハラーの生理学者としての研究成果であるだけでなく、ヨーロッパ中の生理学関係の古典ならびに最新著作を整理した総合的著作であること、その科学的かつジャーナリスト的活動は『百科全書補遺』の生理学項目執筆にも継承されたことを解明した。ディドロはそのような間テクスト的ハラー生理学を唯物論的に換骨奪胎することで『生理学要綱』を執筆した。そのテクスト生成の研究は今後の課題だが、それに必要なSP写本の暫定的校訂版を作成し、HPに掲載した。
著者
寺田 元一
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

18世紀を中心とする創発論的自然観について、ボイル、ハラー、モンペリエ学派を中心にして考察を行い、次のような成果を上げることができた。ボイルは化学的場面における粒子論的物質理論、ハラーは生理学における階層的構造機能論的生物像、モンペリエ学派は、やはり生理学ではあるが、諸生命の生命という階層的生気論的生物像と、それぞれ相違しながらも、そこには次のような共通性が見られた。(1)全体を考えるに当たって基本単位として原子的なものを前提する、(2)全体を諸構造の構造、諸生命の生命といった階層的秩序において見る、(3)より高次の構造に対応してより高次の機能が存在するとする、(4)低次の構造にはなかった機能が高次の構造においてなぜ出現するのかを説明する必要を感じている、(5)その説明のために、あるときは創発、あるときは「隠れた力」、あるときは霊魂などに依拠する、(6)神秘的なものに助けを求めず、構造機能論を徹底的に貫こうとする場面で、創発の論理を豊かに展開することになる、以上の共通性である。彼らに共通する自然観は粒子論的階層的構造機能論的創発論的自然観(以下、創発論的自然観)と特徴づけることができる。17、8世紀の自然観については、宇宙全体を機械=時計とする機械論が流行し、それに生気論などが対抗したが、最終的に前者が勝利したと見られている。しかし、これでは創発論的自然観の存在が見えなくなってしまう。だが、実は近代科学=機械論・要素主義ではなかった。原子論の復興を契機として、上述したような創発論的自然観が登場し全体論的で複雑な見方を展開していった。言葉はなくても創発を問題とせざるをえないような自然観がこの時代に存在し発展し続け、近代科学を支える自然観の重要な一部を形成していたのである。それゆえ、粒子(原子)論もまた機械論ではない。粒子(原子)論からある種全体論的ともいえる自然観が展開されたからである。
著者
舘脇 洋 三好 永作
出版者
名古屋市立大学
巻号頁・発行日
2008

本研究では4成分相対論を使用して4f電子を含む原子や分子の電子状態を明らかにすること、大きな系を解くには計算の簡略化が必要となるが、信頼に足る4f電子系model core potential (MCP)法の開発である。4成分相対論では変分崩壊、そして大成分偏重に基づくエラーが問題となる。当研究で変分崩壊の無い基底関数が全原子に対して開発され、さらに十分の精度を持つが実用に足る大きさの基底関数も開発された。またHeと等電子系の重イオンの電子相関エネルギーが計算され、非相対論のそれとは異なること、負のエネルギーをもつ状態からの寄与が無視できないことが示された。全一フッ化ランタノイドLaF~LuFの基底状態がDirac-Fock-Roothaan法で求められ、基底状態のf電子配置が明らかにされた。CASCI法、MCQDPT2法等を使用しLaF、CeF、GdF等の分光定数、励起状態の帰属もなされた。4成分相対論における電子遷移能率を世界に先駆け開発し、GdFの励起状態の正確な帰属に成功した。4f電子系に対しての相対論MCP法をGamess等のよく使われているプログラムに組み込み、3フッ化ランタニド分子の系統的研究を行ったが、核間距離の定量的計算には動的電子相関を取り入れることが重要であることが示された。さらに実験(築部)グループにより創製された機能分子トライポードとランタニドイオンの相互作用に関する理論研究では、開発された相対論MCP法を使用し、実測データを説明する結果を得た。
著者
上島 通浩 那須 民江
出版者
名古屋市立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

2-エチル-1-ヘキサノール(2E1H)の空気中濃度が高い建物でシックビル症候群(シックハウス症候群)、化学物質過敏症状等が生じるが、病態は未解明で、また、2E1H発生量の決定要因にも不明な点が多い。9週齢の雄ICRマウスを理論濃度値0,55,110,219ppmの2E1Hに1日8時間、7日間吸入曝露した。219ppm群では鼻腔の嗅上皮に構成細胞の減少、炎症細胞浸潤が見られた。呼吸上皮では炎症細胞浸潤は軽度で、また下気道では区域気管支、細気管支の平滑筋層に炎症細胞浸潤が見られた。この結果は、2E1H曝露時にみられる鼻の不快感、刺激性と一致すると考えられた。また、肝のアルコール脱水素酵素(ADH)活性は、0ppm群で6.9±0.9(nmol/mg protein/min)、219ppm群で7.6±1.4(nmol/mg protein/min)で、曝露によるADH活性の上昇は認められなかった。マウスでは2E1HがADHの、2-エチル-1-ヘキサナールがアルデヒド脱水素酵素の基質となることも示されたが、ppbの濃度域で生じるシックハウス症状の原因が、2E1Hから2-エチル-1-ヘキサナールへの代謝亢進による可能性はほぼないと考えられた。また、2E1H発生側の要因解明のために、セメント中に存在する化学成分と2E1H発生量との関係を検討した。CaO、Fe_2O、Na_2O、Mn_2O_3が発生促進と密接な関係があり、一方SiO_2、K_2O、MgOは発生を抑制すること、発生促進と抑制はセメントの種類、含水率、経時日数に依存することが明らかになった。今回の分析条件では、アルデヒドの発生は認められなかった。2E1Hの発生を避けるためには、コンクリートの十分な乾燥が必要であることが知られるが、さらに、床を形成するセメントコンクリートの材料を適切に選択することの重要性が示唆された。
著者
小玉 香津子
出版者
名古屋市立大学
雑誌
名古屋市立大学看護学部紀要 (ISSN:13464132)
巻号頁・発行日
vol.1, 2001-03

私共の学部は看護系大学のなかではまったくの後発校であることもあって,淡々と,気負わずに発足したのでしたが,"紀要"をめぐっては,何とも意気込みました。身のほどにあわせて最善をつくせばよいとは知りつつも,大学学部なのだからと,収載するにふさわしい論文について討議を重ね,名称にも新味を探るなどしたあげく,初年度の発行は見送ったのです。しかし,ようやくその時がきて,ここに名古屋市立大学看護学部紀要第1巻が誕生しました。学部内輪の単純な喜びをまずは記さずにはいられません。と同時に,ご高覧くださることを願ってこの紀要をお届けいたします関連の外部の皆様には,謹んでご批評を乞わせていただきます。研究誌としての"紀要"の価値は高くないと決めてかかる向きがあり,私共の論議にもそれが見え隠れすることがあったのですが,さて,どうでしょうか。私は,看護学文献を"さわって"きた若干の経験から,ここ2,30年の日本の看護学研究の進歩は,短期大学等の紀要をぬきにはありえなかったのではないかと思っています。ちょうどその間,私は看護学のキーワードの1つである生活行動援助を主題とした文献集を5年毎に編み,150を越える看護関係誌から文献を取り出し,いくつかの観点で分類をする作業をしたのですが,当時のいちばんの印象は,たとえどんなに小さくても確かな発見のある研究,あるいは引用頻度の高い論文はかなりの頻度で"紀要"にあるということでした。それらは概して,形にとらわれずに自由に書かれており,疑問のたて方がまっとうといいますか地に足が着いていて,もっぱらその解決のために研究という方法を採った必然性が明か,したがって結果の有用性がよく見える,そんな記憶があります。研究の進め方はいったいに素朴ではありました。ということができますのは,同じ時期に私は大規模学会の学会誌編集も手がけていまして,こちらには,申し分なく形の整った,どうかすると,手の込んだ仮説をもとにみごとに作り上げたといった感のある,しかしあまりせっぱつまったふうの勢いのない論文が載る傾向があり,暗に"紀要"と比べていたからです。この種の学会誌の論文が看護学のそればかりであるのに対し,"紀要"には看護学周辺の諸学領域の研究も発表されており,看護の入った諸領域共同研究もあって,全体として看護学の研究に奥行をもたせている,そうした違いも感じました。"紀要"には,看護学の研究ではないという理由で学会誌が退けた,とはいえ看護学の研究でもありそうな研究が載っていたのです。いま,研究のスタイルも論文のスタイルも整った看護学の世界は,学会誌への発表に非常な重きをおき,確かに"紀要"を軽くみるようになっています。しかし,"紀要"のあの"長所"に思い当たると,"紀要"の復権を考える行き方のあることに気づきます。学内誌である"紀要"には,私共がへんに構えることなく投稿できるよさがあり,そのことが,形よりも実質を問いかつ必要とする看護学のような専門にもたらす恵みは大きいのです。私共の紀要には,研究による発見ばかりでなく,トライアル・アンド・エラーののちの発見も,偶然の発見も発表することができます。同僚間査読のシステムはそれを支えるように働きます。私共の紀要には,看護学の論文ではない論文も載ります。看護学部のメンバーの仕事はすなわち看護学の収穫と考えるのもよし,看護を専門としない者がしたからこれは看護学の研究ではなく,看護の者がしたからそれは看護学の研究だといったナンセンスを皆で笑うのもよし,学部に活気が高まるでしょう。私共は"紀要"に関してだけはいささか気負って論議した結果,一見以前からある伝統的な,しかし出自は間違いなく私共の学部にある紀要をもつことになりました。この紀要に,名古屋市立大学看護学部の学風を立てよう,と私は呼ばわります。文字通り,風が立って欲しいのです。
著者
松本 佐保 廣部 泉
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究補助金の成果として、研究代表者は、英国における国際関係史学会で、18年度にThe Yellow Peril and the Russo-Japanese war-The Racial question and Anglo-Japanese relations-, 19年度にJapanese Pan-Asianism and the West, 1894-1919, 20年度にAustralian defense policy and White Australian policy, 1901-1921という題目で三回学会発表、また日本では日本オーストラリア学界で20年6月に「オーストラリア移民規制問題と大英帝国の問題、1894-1924年」という課題で白豪主義と日系移民の問題について成果発表を行った。本発表はインドという英国にとって重要な植民地からの白人自治領への移民問題がインド・ナショナリズムを生み、これが後にインドがアジア主義運動に関わるきっかけになったなど、次なる研究への発展にもつながった。なお、The Yellow Peril and the Russo-Japanese war-The Racial question and Anglo-Japanese relations-は『中京大学紀要』(2007年)、Japanese Pan-Asianism and the West,1894-1919は『東北学院大学紀要』(2008年)に論文として、オーストラリア学会での報告は『西洋史学』(2008年)の学会発表報告という形で掲載された。またこれら成果の集大成として、英国の高水準の学術書出版社と知られるオックフォード大学出版会から共著、The Diplomats' World, a cultural history of diplomacy, 1851-1914として2008年の12月に出版された。以上の経緯から本研究は人種問題を国際関係などの政治・外交研究において位置付け、外交文化史研究という新しい研究分野を切り開き、学会への多大なる貢献となった。
著者
稲垣 宏
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

胃MALTリンパ腫の免疫グロブリン重鎖遺伝子解析から慢性炎症を基盤に発生するMALTリンパ腫群と慢性炎症の関与が明らかではない群は互いに独立していることを明らかにした。またアジア、欧州、米国間で共同研究を行い、皮膚辺縁帯B細胞リンパ腫は慢性炎症の関与が明らかではない群であること、DAPKおよびp16遺伝子メチル化が高率に認められること、またアジア症例には好酸球の浸潤が特徴的であること、を明らかにした。MALTリンパ腫全体像を最新成果とともに総説に著した。
著者
脇本 寛子
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究から,新生児早発型GBS感染症を発症した事例において新生児側の要因と母側の要因を併せて解析し,予防に寄与する要因が明らかとなった.早発型GBS感染症を発症した児の母と非発症児の母との比較では,妊娠35週以降にGBSスクリーニングを実施した方が早発型GBS感染症を予防できると考えられた.新生児搬送状況の検討から,夜間に発症しながら翌朝に搬送依頼されており夜間も含めた新生児搬送システムの構築が必要と示唆された.GBS 322株を収集でき[新生児血液髄液由来14株(発症株),新生児保菌61株(非発症株),妊婦褥婦腟保菌247株)],全てのGBSにおいてpenicillin系抗菌薬に感受性を示した.以上の成果から,妊娠35週以降にGBSスクリーニングを実施し,分娩時にGBS保菌妊婦にpenicillin系抗菌薬を予防投与することは新生児GBS感染症予防に有用であると考えられた.
著者
藤原 奈佳子
出版者
名古屋市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究の目的は、(1)ライフスタイルや運動機能、高次脳機能などの加齢変化の把握 (2)脳機能の異常を早期段階でスクリーニングする簡便法としての指標を検討することである。対象者は本研究目的に同意を得た者で日常生活に支障ない60歳以上の在宅高齢者で男性が71名(73.0±6.5歳)、女性が231名(70.1±6.0歳)である。調査項目は問診(ライフスタイルなど)52項目、身体特性5項目、運動機能5項目、PGCモラールスケール、Zung鬱スケール、高次脳機能検査5項目(MMS,三宅式記銘力PAL,仮名ひろい,Raven,Rey複雑図形)である。対象者のMMS得点平均値は男性が26.1±3.5、女性が26.9で±2.5で、臨床的には痴呆症状のない者である。対象者のうち111名(男性35、女性76)は脳MRI検査も実施した。加齢とともに、熟睡ができず(男)、睡眠時間が長くなる(女)、咀嚼困難、飲酒量低下(男)、陽気(男)小心(女)、新聞を読むのが面倒になる、肥満指数BMIが低くなる(女)、拡張機血圧低下(女)、握力低下、大腿四頭筋筋力低下、動作が遅くなる、平衡能低下、高次脳機能検査得点の低下、鬱傾向(女性)となる傾向にあった。脳MRI検査成績は、梗塞性所見は、65-69歳では男性が71.4%で女性が66.7%であったが、70歳以上では、男女ともに90%以上の者に所見を認めた。脳萎縮所見を有した者は男性では65-69歳の28.6%から75-79歳の45.5%へと加齢とともに増加傾向にあったが、女性では65-69歳で26.7%、75-79歳で26.3%と加齢による増加は認められなかった。MRI検査で梗塞性所見または脳萎縮性所見(臨床的に問題とならない程度のものも含む)が認められた者の特徴(年齢補正)は、睡眠時間が長い、MMS得点が低い(男)、三宅式記名検査得点が低い(男)、仮名拾いテスト拾い忘れが多い(女)、Raven得点が低い、Rey得点が低い(男)、動作が遅い(男)、平衡保持時間が短い(女)などであった。今後、対象者を追跡し本成績と記銘力体または痴呆症との関連を把握する予定である。
著者
渡辺 稔 武井 智美 河合 智之 今泉 祐治
出版者
名古屋市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

ラット、ブタ等の哺乳動物の虹彩散瞳筋において各種薬物により張力変動が生じる時、平滑筋細胞でのどのようなCa動態の変化がそれをもたらしているかが研究課題であった。特に副交感神経興奮時或いはムスカリン様作用薬投与時の弛緩機構解明を主に検討した。まずムスカリン作用薬がM_2タイプのリセプタ-を介する可能性が高いものの従来のM_1、M_2という分類では充分説明できないことがわかった(あたらしい眼科、1989)。また毛様体神経節除去によりラット散瞳筋を副交感神経除神経すると、神経刺激による弛緩だけでなく、ムスカリン様作用薬による弛緩も消失した(E.J.P.,1988)。このことは、化学伝達物質のアセチルコリンが何等かの弛緩物質の遊離を介して散瞳筋を弛緩させている可能性を示唆するものである。そこで、弛緩を引き起こす生理活性物質を広く検索した結果Ca、ベ-タ、アルファ、ムスカリニック拮抗薬すべての存在下で高K液により顕著な弛緩が生じることを発見した(B.J.P.,1990)。遊離弛緩物質としては、血管上皮細胞由来の弛緩物質(NO)或いはペプチドではないこと、またその弛緩の際の細胞内情報伝達系としては、_cーGMPおよび_cーAMPが関与している可能性は低いことが示唆された。一方、上頸神経節切除による交感神経除神経では、散瞳筋の交感神経終末の変成によるノルアドレナリン再取り込み能消失のためと考えられるノルアドレナリンに対する特異的感受性の増大が見られたが、ムスカリン性弛緩は影響を受けなかった(J.J.P.,1989)。Ca動態を探るのに最も有用と思われたFura2による細胞内Ca濃度の測定は散瞳筋では組織が非常に小さいため張力との同時測定の成功率が非常に低くまだ結果の発表段階に到っていない。以上の結果からラットおよびブタ虹彩散瞳筋において、ムスカリン作用薬および高K液は副交感神経由来の弛緩物質を遊離させ、筋を弛緩させる可能性の高いことがわかった。
著者
福田 道雄 木村 玄次郎
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

近年、1)慢性腎臓病(CKD)は早期であっても心血管病の危険因子であり、2)腎機能が正常な時期から腎機能低下につれて心血管病の危険度が増加する事(=心-腎連関)が判明し、CKDを早期診断・治療して心血管病を予防する事が世界規模の健康問題となった。私達名古屋市立大学心臓・腎高血圧内科学の研究グループは、24時間に亘る適切な血圧管理のために24時間血圧測定を日常診療に取り入れた結果、腎機能が低下するにっれて夜間血圧が低下しなくなるnon-dipper型の血圧日内リズムを呈し、かつ日中に比し夜間の尿中ナトリウム排泄量が多くなることを発見した(Kidney Intemational. 2004 Feb ; 65 (2) : 621-625)。この現象を「腎機能が低下すると日中に十分なナトリウムを排泄しきれなくなり、本来夜間に低下(dipper)する血圧を高いまま維持することで圧-利尿を発揮し夜間にナトリウムを排泄する」と解釈し、この考えを「non-dipperの腎性機序」として提唱してきた。さらに日中の活動時にナトリウム排泄が低下してしまう病態では臥位から立位に体位変化をするとナトリウム排泄が低下してしまうとの仮説を立て、本研究を立案・実施した。平成17~18年度は「non-dipperの腎性機序」を支持する研究成果を積み重ね、平成19年度は立位負荷時の尿中ナトリウム排泄低下が、血圧や尿中ナトリウム排泄のnon-dipper型日内リズムを検知し得ることを明らかとした。non-dipperや食塩感受性の基本には共通した腎におけるナトリウム排泄障害が存在し、それを立位負荷時のナトリウム排泄低下で診断し得る可能性が示された。non-dipperも食塩感受性も心血管イベントリスクである事は確立しており、立位負荷による腎予備能低下の診断はCKD早期における心血管イベントリスクのスクリーニングに有用である可能性が示唆され興味深く、今後さらなる検討を要する。本研究を支えて頂きました日本学術振興会様、国民の皆様に深謝致します。
著者
池澤 威郎
出版者
名古屋市立大学
雑誌
オイコノミカ (ISSN:03891364)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.81-120, 2007-03-01
著者
坪内 俊二
出版者
名古屋市立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

腰痛の発生にはいろいろな原因があるが、椎間板性の腰痛は最もよく知られているもののひとつである。現在までに椎間板そのものの神経支配についてはよく調べられており、線維輪の外側3分の1までしか神経の存在が認められないとされている。しかし、椎間板の上下にあたる椎体終板における神経支配はほとんど発表されていない。ここに神経、特に疼痛の伝達物質であるSubstance-Pをふくむ神経の存在を調べれば、腰痛の発生機序並びに椎間板の栄養の調節機構を解明する一助となると考えられ本研究を開始した。15EA02:本研究は免疫組織化学的方法がもとになっている。まずはじめにクライオスタットを用いて凍結切片を作成する技術を習得した。その後、家兎・剖検・手術材料などから得られた椎体終板・椎間板・棘上棘間靱帯・仙腸関節などに存在するであろうと思われる神経週末をsubstance-P,S-100蛋白,neurofilament,PGP9.5などに対する抗体を使いABC法にて染色した。現在までのところ、神経組織がうまく染色されたのはヒトの棘上靱帯のみであり、終板部ではまだみつかっていない。ヒトの骨は動物のものに比べて脱灰しにくく、クライオスタットで切っても軟部組織との境界部で固さの違いにより、うまく切れなかったり、切片を厚くすると染色時にはがれやすいなどの難点を抱えている。これらを試行錯誤により改善しつつ、本来の目標であるヒト椎体終板染色を行っているところである。当然調べられていいはずの椎体終板部での発表がないということは(ラットやマウスでは2-3みられる)、脱灰、染色などで同様の苦労をしていると考えられる。何とかこれを克服して神経終末の存在の有無を明らかにしたい。また、コンスタントに染色して神経の存在を確認することが出来るようになれば、変性を誘発するような処置、椎間板切開・振動させる・adjuvant-induced arthritis modelを作製するなどして神経分布の変化を調べることができる。
著者
成 玖美
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

今年度は昨年度までの研究をもとに2本の論文を発表した上で、新たに在日韓国・朝鮮人女性の生涯学習課題について考察をおこなった。発表論文では、EU統合の流れの中で議論されてきた「社会的排除と包摂」の視点に学びつつ、現在の在日韓国・朝鮮人の状況を「シティズンシップからの排除」と捉えて、それを乗り越える「包摂」像を在日韓国・朝鮮人NPO実践の中から描き出した。具体的には、先進的在日韓国・朝鮮人NPO実践の中で志向されているのは、単なる日本国家への直接的包摂ではなく、東アジアへの自己解放/東アジア共同体への包摂、という回路を採る歴史的かつ創造的戦略の姿であると論じた。また別稿においては、在日韓国・朝鮮人が東アジア共同体構想に寄せる期待を論じた上で、それが新たな民族主義に回収されないようなあり方を模索する必要について触れた。一方、今年度からは在日韓国・朝鮮人女性のキャリア形成や生涯学習課題についての研究も開始した。昨今の生涯学習課題としてキャリア形成の課題が注目されているが、みずからが在日韓国・朝鮮人であることが、キャリア選択などにどのような影響を与えているのかについて検討した。また先行研究において、在日韓国・朝鮮人女性は民族的マイノリティであるというホスト社会からの差別に加え、在日韓国・朝鮮人の家父長制社会の中での女性差別という、二重の差別=「複合差別」状況にあるといわれてきたが、この「複合差別」は現在では多数派を占める日本人男性と結婚した在日女性にも当然、やや姿を変えて現出すると考えられる。女性のライフコース選択に及ぼすエスニシティとジェンダーの作用に着目し、複合的葛藤の中から立ち上がる学習課題の様相について、引き続き研究を重ねていきたい。
著者
中川 敦子 鋤柄 増根 水野 里恵 古賀 一男
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

自分の順番が来るまで待つというような自己を制御する力は、3歳以降おもに認められるが、本研究では、それ以前の子どもの注意力や、内気・臆病・引っ込み思案といった傾向、環境(育児文化)などが影響を及ぼすと考え、月齢12ヶ月から36ヶ月にかけて縦断研究を行った。その結果、月齢36ヶ月時の自己制御行動には月齢18ヶ月時の内気・臆病といった傾向が関連すること、発達初期の注意機能は負の情動と関わることが示唆された。
著者
鋤柄 増根
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

自己報告(self-report)形式のパーソナリティ検査において,常に問題になるのは,回答の歪みを検出する方法の開発とその発生機序である。検出方法には,従来からさまざまな方法が考案されてきた。その中で,比較的最近提案されたものに項目反応理論に基づいたperson-fitがある。本課題における,はじめの研究は「person-fitによるパーソナリティ検査における逸脱回答の検出」であり,person-fit指標の有効性を検討した結果,悪く見せようとする受検態度の検出には有効であるが,よく見せようとする受検態度を検出することは難しいことが明らかになった。この検討のなかで,パーソナリティ検査における逸脱回答と能力検査におけるそれとの違いも明らかになった。次の「性格記述用語の反対語調査による性格次元の双極・単極性の検討」では,黙従傾向を逆転項目で検討しようとするときの逆転項目作成の基礎資料を提供すると同時に,性格次元の双極・単極性を検討するものでもある。双極性である性格特性に関しては,その特性を中程度に持っている個人が「どちらでもない」と回答する。一方,単極性の性格特性には「どちらでもない」という回答は本来ありえないはずなので,単極性の性格特性に対して「どちらでもない」と回答するのはその特性をもたない個人であることになる。以上の点を検討するための基礎資料ともなる。最後の「逆転項目によるパーソナリティ検査における黙従傾向の検討」は,反応の偏りの一つである黙従傾向を,ミネソタ多面人格目録(MMPI)のHy尺度とPt尺度について,逆転項目を利用して検討したものである。ここでは,Bentler, Jackson, & Messick(1971)が指摘したagreement acquiescence(是認黙従傾向)とacceptance acquiescence(受認黙従傾向)の2つの黙従傾向を潜在構造分析によって分析した結果,是認黙従傾向は,尺度得点にほとんど影響していなかったが,受認黙従傾向は中程度の影響を持っていた。しかし,その影響は,潜在特性による影響に比べてかなり小さいことも明らかになった。