著者
加藤 有希子
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

芸術と生活の融合に関する戦後史研究ということで、平成29年度は海外の芸術祭の調査を行った。具体的には夏にドイツのミュンスター彫刻プロジェクト、カッセルのドクメンタ14、イタリアのヴェネツィア・ビエンナーレへの現地調査をした。そしてその結果は、論文「芸術祭の時代――政治か経済か、変わる芸術の役割」にまとめた。これを慶應義塾大学美学美術史専攻の三田芸術学会の学会誌『芸術学』に平成29年10月に投稿した。翌3月に査読が通り、現在入稿済みで、出版を待っている段階である。この論文では、経済的なモチベーションを基軸にする日本の芸術祭と、政治的なモチベーションを基軸にするヨーロッパの芸術祭との比較を行った。日本の芸術祭は越後妻有や瀬戸内国際芸術祭のように地方創生型のものが最も個性を発揮しており、それゆえ開催地の経済活性化が最大の課題となる。一方、移民を多く受け入れているヨーロッパは、政治的アイデンティティが個人の在り方を決定づけるため、政治的関心を引く作品が多い。とりわけ今回のドクメンタはその最たる例であった。しかし経済、政治、いずれにしても、それはカント以来の近代的な芸術観を覆すものである。カントは「無関心性」の美学で名高いが、経済や政治に終始する昨今の芸術祭は、生活関心に直結し、さながら昨今の自己啓発ブームすら思わせる「勇気づけ」の行為にあふれている。例えば、一般人がアーティストの活動に参加したり、アーティストが一般人が自信をもてるようななぐさめの言葉を送ったりする。VUCAと呼ばれる先の見えない不安定な世の中で、昨今の芸術は生活関心に直結し、私たちの生きる道筋を照らすともしびとなっている。それはブルデューがディスタンクシオンとよぶ差異化や、ダントーがアートワールドと規定した分離も瓦解させる動きである。本論ではそのことを指摘した。
著者
江崎 康弘
出版者
埼玉大学
巻号頁・発行日
2014

博士の専攻分野の名称 : 博士(経済学)学位授与年月日 : 平成26年3月24日
著者
三浦 敦 寺戸 淳子
出版者
埼玉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

昨年度に引き続き、海外共同研究者の協力を得て、次の調査を行った。・カンボジアに海外ボランティアに行った学生について、ボランティア期間中およびボランティア期間終了後のその学生のSNS利用(特にLINE)と、彼らがとってLINEに載せた写真、およびLINE上の文字や画像による会話について、データ収集を行った(三浦)。そのデータについては現在、解析中である。・介護ボランティア活動を行う北海道の施設において、その活動の状況について参与観察調査を行った(寺戸)。この研究では、まだ彼らのSNS利用についての調査までには至っていないが、基礎的なデータはほぼ集まりつつある。・介護実習を行う大学生に関して、その学生の介護実習への関わりとSNS(LINE、インスタグラム、フェイスブックなど)利用の状況について、参与観察及びインタビュー調査を行った(デュテイユ=緒方)。また、埼玉大学および早稲田大学において、運動部(ダンス部および柔道部)に所属する学生たち、およびスポーツ実習に参加する学生を対象に、スポーツ活動とSNS利用およびSNS上の写真投稿の関連性について、参与観察調査およびインタビュー調査を行った(デュテイユ=緒方)。あわせて、早稲田大学スポーツ科学部のスポーツ人類学研究室において意見交換を行った。以上の諸研究については、現在、データをまとめているところであり、理論的考察も含めて、次年度においてその成果を、国際会議および国際ジャーナル上において公表する予定である。
著者
秋葉 剛史
出版者
埼玉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

「唯名論を現代的な観点から彫琢し擁護する」という本研究の目的の達成に向け、平成25年度中に以下のような研究を行った。まず、博士論文の内容を発展させ、より包括的な議論に仕上げた。同論文では、「単純な述定命題のtruthmaker(この種の命題を真にするもの)」という理論的役割に注目し、この役割を果たす存在者は実在論の枠内(事態説)でよりも唯名論の枠内(トロープ説)でこそ満足な仕方で与えられると論じた。昨年度はこの議論を拡張し、truthmaker概念を採用することの動機づけをより丁寧に補強するとともに、従来この概念を採用することの一つの障壁とみなされていたスリングショット論法に応答する論考を加えた。以上の内容は、学術単著『真理から存在へ――<真にするもの>の形而上学』として近日出版予定である。また、現代形而上学の成果をドイツ・オーストリア学派の理解にフィードバックする一つの試みとして、現代形而上学における有力学説の一つである「性質の因果説」の見解を、特にE・フッサールが展開した性質・物体構成論を読み解くための手がかりとして用いることを試みた。その成果は、第12回フッサール研究会シンポジウムにおける提題として発表した。さらに、「実在論と唯名論」という理論的対立の基本に立ち返り、その意義をより広く非専門家に知らしめることを目指し、次の仕事も仕上げた。一つは、現代形而上学全般についての著作『ワードマップ現代形而上学』(新曜社、2014年)であり、この中で私は「普遍」「個物」「形而上学手のさらなる広がり」という三つの章の執筆を担当し、形而上学的対立を検討する一般的な意義とその方法について特に丁寧に紹介した。もう一つは、現代哲学において普遍の問題について論じるための必読文献となっているD. M. ArmstrongのUniversals : An Opinionated Introductionの翻訳であり、この中では詳細な訳注によって著者の議論を補足するとともに、この問題のそもそもの背景や争点についても解説した。
著者
村田 正行
出版者
埼玉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

移動度の変化をホール係数測定により実験的に評価するために、集束イオンビーム加工を利用したホール測定用電極の作製を行った。サンプルの直径が非常に細い点とビスマスが大気中で酸化しやすいという点から、ナノワイヤー側面に局所的な電極を取り付ける事は非常に多くの困難を要する。そのため、ビスマスナノワイヤーにおけるホール測定の結果は、これまで報告されていなかった。そこで、本研究では研磨と集束イオンビーム加工を利用して、石英ガラス製の鋳型中に配置されたビスマスナノワイヤーに対してナノスケールのホール測定用の局所電極を作製した。このように作製した直径700nmのビスマスナノワイヤーを利用してホール係数の測定に成功し、キャリア移動度の評価を行った。ナノワイヤーにおけるホール係数の測定は世界で4例目、ビスマスナノワイヤーに関しては初めての結果となった。また、直径160nmのビスマスナノワイヤーのゼーベック係数の温度依存性を測定したところ、これまでの直径200nm以上のサンプルでは現れなかったゼーベック係数の上昇が観察された。これまでの研究では、ワイヤー直径を小さくすることによりキャリアの平均自由行程が制限され、キャリア移動度が減少するために、ゼーベック係数は徐々に低下する傾向があった。しかし、直径160nmのビスマスナノワイヤーの測定結果は、予想される温度依存性よりも上昇し、50K程度で極値を持つような温度依存性が得られた。理論計算によると直径200nm以下ではバンド構造が変化することにより、ゼーベック係数が変化すると予想されている。このようにビスマスナノワイヤーにおけるゼーベック係数の上昇を世界で初めて観測した。
著者
小出 慶一
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

日本語学習者の発話に現れるフィラーについて発話コーパスを分析し、その結果、一定の出現順序があり、それは概ね、母音の長音形フィラー、指示詞からの派生形フィラー、副詞からの派生フィラー、そして最上級段階に指示詞の一部(「このー」)が現れることを跡付けた。これは、習得の深化に伴って起きる現象であることを述べた。
著者
田中 秀逸
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本課題の目的は、我々が開発した非相同末端結合能欠損株を用いた植物細胞における高効率遺伝子ターゲッティング法に関して、遺伝子機能解析や育種への応用への有効性を示すことであった。特定の蛋白質へのタグ付けを行うための遺伝子導入用コンストラクトを作製したが、耐性を獲得したカルスは得られていない。RNAiによりKU70量を抑制した野生型細胞の作製を試みたが、形質転換カルスが得られないでいる。得られ次第ターゲッティング実験を行う。T-DNAによる高効率な細胞内への遺伝子導入法との共用の検討はできなかった。本研究で使用したカルスは、培地の植物ホルモン組成を変えることでシュート形成することを確認した。
著者
大友 秀明
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、子どもの社会性や人間性を育むために、「伝統生活文化」を中心教材に据えたカリキュラムの在り方を構想し、実践することである。本研究の成果は、以下のとおりである。1.戦後教育における「伝統生活文化」学習の位置・役割・意義を明確にした。取り上げた内容は、(1)民俗学の成果の活用と生活文化学習(成城学園初等学校の社会科プラン、柳田國男・和歌森太郎の社会科教育論)、(2)中核教材による総合的学習論(富士山学習と琵琶湖学習)、(3)秋田の「ふるさと教育」である。2.上記の「民俗学の生活文化」「中核教材」「ふるさと教育」の視点から、「荒川流域の伝統生活文化学習」の教材を開発した。そのテーマは、(1)荒川水系の新河岸川の舟運・水運、(2)伝統漁業と農業(川魚料理とわさび栽培)、(3)治水と水防の知恵(水害・洪水・堤防)、(4)祭り(祭りと地形・地名)、(5)水神信仰の5つである。また、授業素案・略案を作成するとともに、子どもに期待する学習活動(祭り・遺跡・石碑の調査、マップ作成など)の内容を整理した。3.羽生の「藍染」、桶川の「紅花栽培」、草加の「煎餅」、三芳の「さつまいも栽培」を教材とする小・中学校社会科の実験授業を行い、「伝統生活文化」の有効性と課題について分析した。4.ドイツ・バイエルン州の学習指導要領を中心に分析し、民主主義社会における共同生活の基礎を培う「政治・社会学習」の意義と内容とともに、「政治教育」のカリキュラム構成原理を明確にした。
著者
加地 大介
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本質主義のいくつかのタイプに関する比較考察の結果、実在的定義に基づく定義的本質主義を基礎としつつも傾向本質主義と最小本質主義をも部分的に取り入れた「範疇的力能本質主義」を採用した。それに基づきつつ、擬似的実体としての穴と虹の実在的定義を試みた結果、前者を充填可能性という力能を有する依存的耐続者として、後者を具体的実在対象としての実在的個別性を欠く現象的耐続者として規定した。さらに、実体的対象の本質の一部である耐続性を貫時点同一性としての純粋生成として捉え、その実在性を時制や生成とともに三位一体的に擁護した。
著者
福岡 安則
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

ハンセン病療養所「入所者」「退所者」「家族」,その他(弁護士,医師,元職員など)からのライフストーリーの聞き取りも,280人に達した。すでに2009年には『栗生楽泉園入所者証言集』(全3巻)を刊行,今回の研究期間内でも,『生き抜いてサイパン玉砕戦とハンセン病』(創土社,2011年)をはじめとして,紀要などに13編の聞き取り事例を公表したほか,2012年夏に実施した韓国のソロクト病院および定着村への訪問記を,韓国の当事者団体の機関誌『ハンピッ』に連載のかたちで報告している。
著者
小出 慶一
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

出現頻度の高い日本語のフィラー「あのー」「そのー」「このー」「こう」「まあ」「もう」「なんか」「で」「えーと」「えー」及び母音延引形フィラーについて、話し言葉コーパスを利用して出現実態を調査し、それぞれのフィラーが談話行動においてどのような役割を果たしているかを記述した。また、フィラーには、指示詞、副詞などから派生したものと、フィラー専用のものがあるが、それぞれに異なる役割を持つことも明らかにした。
著者
久保田 尚 松本 正生 藤井 聡 羽鳥 剛史 高橋 勝美
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、交通計画に関わるサイレント層に着目し、計画論の分野では、地区レベルの合意形成において社会実験がサイレント層に及ぼす影響を明らかにするとともに、ナラティブアプローチによりアンケートでは把握しきれない物語の抽出を測り、それに基づく政策提言を行った。さらに調査論の面から、複数の調査手法を組合わせることによる交通調査の回収率向上や調査コスト削減、データ信頼性向上が期待される結果を得た。
著者
前川 仁 子安 大士
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、拡張現実における仮想物体描画の位置決めに、シーン中の画像特徴群を用いる。このため、3DのCGシミュレーションによる局所特徴量の評価法を提案した。これによって、隠蔽のある状況での各種局所特徴量の経時的な追跡評価が行えるようになった。また、モバイルデバイスの自己位置推定法について、機械センサからの加速度データとカメラからの画像特徴を、それぞれの観測の不確かさに応じて統合する手法を示し、実験的に検証した。さらに、仮想物体描画のために、シーンの代表物体の影から光源位置を推定する手法を提案し、仮想物体の影付けに適用した。これらによるプロトタイプシステムのアンドロイド端末への実装も行った。
著者
小澤 京子
出版者
埼玉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ルドゥの都市・建築計画、特に『建築論』収録のテクストと図版を、「性の管理」、「労働と共同体」、「教育・訓育」の観点から分析した。同時代の重要な比較参照項として、 ブレやルクーの建築構想、『百科全書』の関連項目、サド、レティフ、フーリエらの生政治的建築構想、その他18世紀後半のフランスで発行された文献の調査・分析も併せて遂行し、ルドゥの時代における「性的身体を対象とする生権力」のあり方について見取り図を構築した。この研究の成果を集成した博士論文「ユートピア都市の書法:クロード=ニコラ・ルドゥの建築思想」は、審査通過後に単著として刊行予定である。
著者
久野 義徳 小林 貴訓 児玉 幸子 山崎 敬一 山崎 晶子
出版者
埼玉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

目はものを見るためにあるが、アイコンタクト等の非言語コミュニケーションのためには他者に見せる機能も重要である。また、人間と共存するロボットとの目としては、人間に親しみやすい感じを与えるものが望まれる。そこで、この2点について、レーザプロジェクタにより種々の目の像を投影表示できるロボット頭部を試作し、どのような目の形状がよいかを被験者を用いた実験により調べた。その結果、人間の目の形状程度から、さらに目を丸く、また瞳も大きい形状が、親しみやすく、また視線がどちらを向いているかが読みとりやすいことが分かった。また、目や頭部の動かし方についても調査し、人間に自然に感じられる動かし方を明らかにした。
著者
小田倉 泉
出版者
埼玉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、子どもの権利尊重に基づく教育実践を遂行するための、研修プログラムを作成することである。ここで言う子どもの権利尊重とは、J.コルチャックによる「子どもの人間としての権利」である。本研究ではコルチャックの思想に基づく実践として高い評価が報告されたイスラエルのアヴィハイル・スクールにおいて、その実践を調査し、今日の子どもの権利尊重実践のための研修プログラムを作成した。権利尊重実践のためのポイントは、子どもの権利を具体化するための子どもとの「対話」である。従って、研修プログラムは教師間の価値観の共有と対話力の向上に主眼を置いた3段階となった。
著者
伊藤 博明 田中 純 加藤 哲弘 木村 三郎 上村 清雄 足達 薫
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ヴァールブルクが晩年に取り組んだ、未完の学問的プロジェクトである『ムネモシュネ・アトラス』に所蔵された全パネルについて共同して詳しく読み解き、その成果は図書として刊行するとともに、2回のシンポジウム「アビ・ヴァールブルクの宇宙」と「ムネモシュネ・アトラス展」において公表した。ヴァールブルクの研究を批判的に受け継ぎ、文化系統学、イメージ人類学、神話の構造分析、世俗世界のイコノロジーなどについて方法論的考察を深め、その成果は7名の外国人研究者を含んだ国際シンポジウム「思考手段と文化形象としてのイメージ――アビ・ヴァールブルクから技術的イメージ・図像行為まで――」において発表した。
著者
権 純哲
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

近代的国家体制構築のさなか、侵略を露骨化しつつある日本との友好関係の維持に腐心していた大韓帝国に受容される近代学問と思想が如何なる役割を果たしたか、という問題意識のもと、とくに国家学・反国家思想の受容実態を、近代学術の伝授と受容の観点から究明しようとする本研究において、まず、「国家学」関係書籍の原書確認と対照考察をおこない、その受容実態を明かにしたのであり、つぎに、帝国主義批判書の原書確認と対照分析を通じて、近代日本の帝国主義国家思想に対する批判論の意義と韓国知識人によるその受容実態の一端を究明した。