著者
佐藤 達郎
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学学芸学部論集
巻号頁・発行日
vol.41, pp.199-212, 2004-03-06

今回は、揚雄に続いて後漢の崔[エン]・胡広の官箴を主に扱う。それら後漢の官箴は、揚雄の創始したスタイルを基本的に踏襲しながら、内容・表現の上でいくつかの変化が見られる。晦渋な揚雄官箴に比べ、後漢の官箴は比較的平明で、具体的史実をふまえた表現の多いことが特徴としてまず挙げられる。中でも、漢代の事跡・制度が引き合いに出されることが多いのは、時代の上で当然としても興味深い点である。さらに漢代の制度を取り上げつつ、それを周制になぞらえようとする志向の間々見られることにも注意される。また典故について見れば、今文から古文への転換の見られつつあること、讖緯の影響の見られることなどが、やはり後漢の学術・思想界の動向を反映した点として、指摘できるであろう。これらの点は改めて論考篇で考察することとし、本訳注はこれを以て終了する。
著者
北尾 悟 寺本 円佳
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学学芸学部論集
巻号頁・発行日
vol.39, pp.69-78, 2002-03-06

アルカリpH域におけるブドウ種子ポリフェノール(GR-S)のDPPHラジカル捕捉活性の熱安定性についてアスコルビン酸(AsA)と比較検討した。またアルカリpH域で加熱ゲル形成を行うコンニャク製造にGR-Sを応用し,GR-S配合コンニャクを試作し,そのDPPHラジカル捕捉活性をはじめとする各種の評価を行った。中性pH域と比べると,アルカリpH域ではGR-Sも若干ラジカル捕捉活性が減少したが,AsAよりもはるかに熱に対して安定だった。例えば,AsAが完全に活性を失ったpH 10.0,100℃,30分処理において,GR-Sは捕捉活性を約60%保持していた。このことより,GR-Sはアルカリ・熱に対して非常に安定なDPPHラジカル捕捉化合物であることが明らかとなった。GR-S配合生コンニャクはDPPHラジカル捕捉活性を有意に示すことが明らかとなり,醤油ベースのおでん風味とした場合でも活性を確認できた。一方,同濃度のAsA配合生コンニャクでは弱い活性値しか示さず,おでん風味となると活性が検出できなかった。GR-S配合コンニャクは,無配合およびAsA配合コンニャクと同等なテクスチャーを有し,官能検査でも同様の結果が得られた。GR-S配合コンニャクは特に赤色に着色しており,官能検査でも生の場合,外観そして全体の評価が悪かった。しかし,おでん風味となると今回試作した3種類のコンニャクに大きな評価の違いはなかった。
著者
石川 義之
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.119-172, 2004-01-31

この論考は、A県在住の男女を対象に実施したドメスティック・バイオレンス(DV)に関する実態・意識調査からのデータを基に、全国調査や他都道府県調査のデータをも比較対照しながら、DVの病理を解明したものである。 ドメスティック・バイオレンスを身体的暴力、精神的(心理的)暴力、性的暴力、ネグレクトの4つに分類した上で、DVの経験率、DVの認識度、DV発生の要因・条件・背景、DV被害の影響、DV被害についての相談、DV問題解決のための方策などについて、経験的データに基づく分析がなされている。 調査分析から得られた最も重要な発見は、DVの被害経験率は男性に比して女性が圧倒的に高く、しかも女性のうちでもDVの被害を最も受けやすいタイプは、伝統的家父長制男性社会のパターンからはずれた意識を持ち行動する革新的タイプの女性であること、したがって、DV問題の解決のためには、伝統的家父長制男性社会のパターンに固執し、それから逸脱する女性に対して暴力をもって対応する男性の意識・行動傾向を是正することが重要であることが示唆されたこと、であると言えよう。
著者
柏野 健次
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学学芸学部論集 (ISSN:18807887)
巻号頁・発行日
no.47, pp.19-30, 2010-01

本稿では、英語の(準)助動詞を題材にモダリティ論を展開していく。まず、第1節ではモダリティ研究の基本問題として「助動詞は単義か多義か」という問題を検討する。筆者の立場は、「理論的には単義説のほうがネイティブ・スピーカーの直観を反映しているが、英語教育の観点からは多義説の持つ意義も見逃すことはできない」というものである。次に第2節では、have to とmight as well を例にとり、擬似法助動詞と認識的モダリティの発達について論を進める。have to が認識モダリティを表すということは周知のことであるが、その日本における認知の歴史を振り返る。一方、might as well がWhen we went to the seasideon our summer holidays, it was so cold it might as well have been winter. にみられるように、認識モダリティを表し、as if に近い意味で用いられるという事実はあまり知られていないように思われる。第3節では、if 節に現れるwillを取り上げ、認識的モダリティの客観化の問題に挑む。ここでは、Leech (2004)の考えを手がかりに、「誰(話し手か聞き手か)のいつの時点での予測判断か」をベースに据え、If you'll be alone at the New Year, just let us know about it. の文もIf I will be late, I will call you. の文も統一的に説明できる意味論的な論拠を提出する。
著者
安田 純生
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
樟蔭国文学 (ISSN:03898792)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.23-29, 1983-11-06
著者
杉浦 隆
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-8, 2003-01-31

オノマトペ+つく」という形態を持った複合動詞の統語的および意味的特徴の分析を行う。「つく」には非能格タイプと、非対格があり、それぞれ異なったLCSを持つことを示す。また、オノマトペ表現は「つく」に対する副詞的付加語として機能し、「つく」のタイプによって、状態変化の結果を表すものと、活動の様態を表すものがあることを示す。
著者
小西 瑞恵
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学学芸学部論集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.49-64, 2005-03-08

最近の武士論では、代表的な論者の高橋昌明にみるように、武士は芸能人だったという見解にもとづく「職能的武士論」が中心となっている。従来から、武士論には、「職能的武士論」と「在地領主的武士論」があり、武士(武士身分)の成立について考える場合、前者が中心にならざるをえなかったが、高橋説は武士とはなによりも、「武」という芸(技術)によって他と区別された社会的存在であったと定義しているだけではなく、「在地領主的武士論」を武士論ではないとして全否定する内容であるところに問題があると考える。 10世紀の渡辺綱に系譜を引く摂津渡辺党二家(渡辺氏・遠藤氏)は、御厨経営・牧との関係・摂津渡辺津を本貫とする水軍・荘園の荘官、といった四つの特徴が三浦圭一によって指摘されていたが、河音能平の見解によりつつ、海陸にわたる能動的な武士団としての活躍を詳しく分析した。次に、渡辺党と比較されることが多い山城宇治の槙島惣官家を取り上げ、宇治網代・鵜飼等の漁業や交通・流通といった社会的分業を通じて王権や権門に奉仕しつつ、舞楽を家業とする芸能の専門家で、高句麗系の渡来人狛氏に系譜を引くことを明らかにした。狛氏は興福寺領狛野荘を本拠とし、戦国時代には、室町幕府管領家の被官・国人としての武士団を構成するが、南山城3郡における山城国一揆では、国人36人衆として主体となったことを実証した。このような中世武士の多面性を視野に、中世全般を通じた武士論を構築することが、これからの課題になると考える。
著者
上野 矗
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.63-74, 2005-01-31

ここでは、ショッキングな出来事を契機に人間不信に陥ったケースを例示し、援助的理解をはかるT様グループのかかわり合いのプロセスに経験的現象学的方法による意味分析を試みる。そこから感情体験表明としての涙が援助的理解にとってもつ意味と効用に関して検討を加えようとする。 検討結果は、次のようである。 1)感情体験表明としての涙がその意味と効用たらしめるのには、送り手と受け手の反応の仕様が大きくあずかっている。 2)涙は心理的なしこりを溶かす。 3)涙は抑制された情緒的エネルギーを解放し、カタルシスをはかる。 4)涙は心の傷を癒す。 5)涙は気づきや洞察への契機となり、導き手となり、その証明を確認する。 6)涙は援助的理解を確実にし、また深めていく。 7)涙は、人をして生涯時間の時制を"生きられた時間"の展望に向けた再編成をはかり、そこから新しく生産的で健やかな生活世界への道を開らく。すなわち、過去をいまに引き入れ既往化し、新しい意味づけを見い出し、これを足場に、未来を将来化し、新しい展望を拓らくのである。 8)なお、涙は、丁度ステロイド剤がそうであるように、両刃の刃で、その効用と同時に有害ともなりうるとの認識の重要さが指摘される 。

1 0 0 0 OA 葵祭

著者
岸田 知子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
樟蔭国文学 (ISSN:03898792)
巻号頁・発行日
vol.6, 1968-11-20
著者
川野 佐江子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究期間全体を通じて,研究目的①~③は,次のような成果を得ることができた.①力士たちは「相撲美」という様式美に自己を依拠させることで,アイデンティティを確立していたことが分かった.②現代の力士の「稽古」はトレーニングの意図を中心に展開されており,体脂肪率や栄養管理など筋肉を中心とした西欧的身体へとまなざしが移行していることが分かった.③主に横綱柏戸を例に考察した結果,「アイデンティティ確立への要請」や「剛健であること」が近代的男性性と結びつくことが議論できた.本研究では,相撲研究が現代社会の諸問題,とりわけ現代の男性が抱える問題にまで展開できることを示したことが,新たな成果としてあげられる.
著者
高橋 裕子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.95-103, 2005-01-31

アスペルガー障害(Asperger's disorder: ASP)とは、DSM-IVにおいては高機能広汎性発達障害(high-function pervasive developmental disorder; HFPDD)の下位障害に分類されており、1944年にアスペルガーが報告した自閉症の中でも比較的言語発達が良好なタイプを指す。この障害の特徴として「社会的相互作用の質的障害」があるが、高い能力を有しながらも社会適応が困難である点、本人も周囲もこの質的障害を正しく認知し、適切な対応や支援を求めることが難しい点は、社会的な次元の問題であると同時に、障害の個人差を見極めにくいことが関与している。 本稿では、成人後にアスペルガー障害であると診断された女性のロールシャッハ反応に現れる特徴を形式構造解析の観点から検討し、援助の手がかりとした事例を報告する。
著者
小田 乗子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
樟蔭国文学 (ISSN:03898792)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.24-40, 1998-03-20
著者
川上 正浩
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.55-65, 2011-01

本研究では、野菜・果物等の具体的な対象に対して、一般的な大学生が具体的にどのような色のイメージとの連合を持っているのかについて質問紙調査によって明らかにすることを目的とした。まず、"赤"、"橙"、"黄色"、"黄緑"、"緑"、"紫"、"茶色"の7色を基本色とし、野菜・果物等の名称が42個選択された。また、先述の7色を基本色とし、35色の色見本を作成した。調査対象者の課題は、質問紙に記載された野菜・果物等の名称からイメージする色を色見本から選択し、該当する番号を回答欄に記入することであった。大学生201名を対象とした調査の結果が報告され、たとえば"トマト"に対しては、76%の調査対象者が本調査の色番号3番の色と対応するイメージを持っていることが示された。本研究の結果は、概念と色との連合に対する解釈に際し、客観的な指標を与えるデータベースとして活用されることが期待される。
著者
小森 道彦 藤澤 良行
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学学芸学部論集
巻号頁・発行日
vol.41, pp.9-17, 2004-03-06

本論文は四年制女子大学英米文学科2001年度入学生に対して行った自己分析と学習動機についての論文「外国語学習に関する自己分析と動機の研究-学力別観点からの英米文学科新入生の実像」(藤澤・小森(2002))の続編に当たるもので、継続的な追跡調査の報告・検証である。同学生が入学後約2年経過した段階で、英米文学科のカリキュラムを通して英語学力をいかに伸ばしてきたか、そして自分の英語学力に対しての自己分析はどのように変化したかを統計的分析により考察するものである。 結果としては、二回のテスト結果を通して2年経過した段階で上位群・中位群・下位群ともに英語学力に関して伸びが見られた。しかし英語学力に関しての自己分析との相関で言うと、上位群と下位群は学力の伸びに比べて自己分析の数字が伸びていない。他方中位群については自己分析の数字の伸びに比べると学力の伸びが小さいことが明らかになった。
著者
杉浦 隆
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.103-114, 2013-01-31

占領期における様々な改革の中で教育改革は最も大きいものの一つである。この改革にはCIEと教育刷新委員会が大きな役割を果たした。その中で「文化問題」を扱った、第11特別委員会の会議録を通して、戦後の外国語教育政策に関する議論を概観し、いくつかの問題提起を行う。
著者
安藤 真美
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

数種の果実類について氷温貯蔵を実施し,その品質の貯蔵中の変化について検討した。その結果,特定の果実において官能評価の向上,特に甘味の改善効果が認められた。一般的な糖類においては量的な変化が認められないことから,甘味を強調するための相乗効果を有する物質の増加が推察された。
著者
村井 尚子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.203-212, 2013-01-31

親や教師として我々は、なぜ子どもをケアするだろうか。ヴァン=マーネンはそれは非媒介的で直接的な出会いによるとし、その契機をレヴィナスの「顔」の到来という理論によって読み解く。レヴィナスによれば、他者との出会いとは、その人の「顔」を見ること、私を呼ぶその人の声を聞くことである。そのことによって私は、不可避的に応答することを迫られる。つまりケアする責任を感じるのである。しかしデリダによれば我々は、いっときには一つのこと、一人の他者のことしかケア(気にかけることが)できない。他の多くのケアを必要としている他者への責任を担えないという事実は、我々に倫理的痛みをもたらす。しかし、ヴァン=マーネンはその痛みこそを大切にする。教師は特定の生徒の「顔」に向き合っていると感じ、その生徒について気にかけているからこそ、自分が責任を負っている多くの、ときに「顔のない」他の生徒すべてに対して繊細でいられるのである。