著者
浅井 禎吾 塚田 健人 橋元 誠 藤井 勲 五味 勝也 大島 吉輝
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2014

<p> 生物が作り出す二次代謝物、いわゆる天然物は、その化学構造の多様性は言うまでもなく、合成ライブラリーとは異なるケミカルスペースを占有していることから、依然として新規医薬品開発における魅力的な資源である。そのため、天然物をベースとした新しいケミカルスペースの開拓が重要な課題の一つとなっている。例えば、休眠遺伝子を活用した新規二次代謝物の創出に加え<sup>1,2</sup>、コンビナトリアル生合成<sup>3</sup>や天然物を起点とした多様性指向型合成<sup>4,5</sup>によるpseudo-natural productの創生などの研究も盛んに行われている。</p><p> 天然物の構造多様性は、一次代謝から供給される基本構成要素を原料とした骨格構築に始まり、続く多段階の修飾や転位反応を経る分岐的な生合成経路に起因する(図1)。すなわち、生合成上流の中間体が代謝過程で様々な構造へと変化していくことで、分子多様性が生み出されている。例えば、糸状菌のazaphilone類やmeroterpenoid類の生合成において、非還元型ポリケタイド合成酵素 (NR-PKS) が作る単環式の芳香族中間体は、実に様々な化合物へと変化する(図2)<sup>6,7</sup>。しかし、このような中間体 (multi-potent intermediate<sup>8</sup>)の活用は、もともとの生物資源での代謝だけでは、限定的なものにとどまる。そこで、生合成工学および化学反応を用いた人工的な手法により、multi-potent intermediateを多様なpseudo-natural productに変換できれば、新たなケミカルスペースの開拓に繋がると考えた (図1)。</p><p> </p><p> </p><p> </p><p> 本発表では、"Chemical Epigenetics"を利用する天然物探索法を用いて取得した構造多様なchaetophenol類<sup>9</sup>の、生合成における最初の中間体であるPM-1をmulti-potent intermediateとして着目し、Aspergillus oryzaeでの異種発現系や簡便な化学反応を用いた、多様性に富んだ新規pseudo-natural productへの展開について報告する(図3)。</p><p>① Aspergillus oryzae異種発現系を用いたポリケタイドオリゴマーの作成</p><p> これまで、Chaetomium indicumのドラフトゲノム解析およびAspergillus oryzaeでの異種発現により、 pksCH-2がPM-1の生合成NR-PKS遺伝子であることを明らかにしている<sup>9</sup>。A. oryzae−pksCH-2高発現株を各種条件にて培養し、培養液中の生成物を追跡したところ、PM-1からイソクロメン型環化体PM-2への変換が確認された。さらに、いくつかの条件では、二量化したPO-1およびPO-2の蓄積が認められた。PM-1とPM-2の野生型A. oryzae培養液への添加実験の結果、PM-1からPM-2への環化はA. oryzae内因性酵素により、PO-1およびPO-2はPM-2が非酵素的に二量化することで生成することがわかった。一方、ジアセチル化体PM-2aは二量化しなかった。また、PM-2からPO-1</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>
著者
瀬戸 治男 佐藤 勉 米原 弘
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.17, pp.197-204, 1973

An alternative double labeling method which utilizes ^<13>C-^<13>C coupling in structural and biosynthetic studies was applied to the structural elucidation of dihydrolatumcidin. The cmr spectrum of the double labeled and mixed labeled metabolites showing strong ^<13>C-^<13>C coupling gave enough information on carbon sequences and made it possible to determine the total structure of the metabolite. Direct evidence was obtained that acetic acid was incorporated into dihydrolatumcidin without cleavage of the C-C bond of the acetic acid molecule. The detail mechanism of biosynthesis of polyketides, terpenes and steroid can be studied by utilizing ^<13>C-^<13>C coupling.
著者
瀬戸 治男 Tanabe Masato
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.18, pp.264-270, 1974

The biosynthetic pathway of sterigmatocystine, a metabolite of Aspergillus versicolor, was studied by labeling the metabolite with ^<13>CH_3^<13>CO_2Na. The ^<13>C-nmr spectrum revealed that sterigmatocystine is formed from tetraketide through pathway (b) as shown in Fig. 1. The same technique was also applied to investigate the biosynthesis of penicillic acid. The result shown in Fig.3, pathway (a), was completely in agreement with the conclusion obtained by Mosbach.
著者
チャンサカオ スニー 石川 勉 関 宏子 関根 啓子 岡田 峯明 樋口 義洋 チャイチャンティピュース チャイヨー
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.49-54, 2000

"Kwao Keur." which had been identified as Puraria mirifica (Leguminosae), has long been used in Thailand and Burma as a rejuvenating folk medicine and has a fascinating history. A potent estrogenic principle has been known to be an unusual phenol miroestrol (1). Although the possible presence of an alternative active component was suggested, there has been no isolation of any other powerful phytoestrogens. with further studies leading instead to the isolation of isoflavonoids. These situation made us re-investigate the estrogenic principles of P. mirifica. The bioassay-guided separation of the ethyl acetate extract of the tuberous roots of P. mirifica by chromatographic techniques resulted in the successful isolation of a new phytoestrogen. (+)-deoxymiroestrol (4). together with (+)-1 and (+)-isomiroestrol (7). The structure of (+)-1 had been determined by X-ray crystallographic analysis and its enantioselective total synthesis was recently reported. Thus. the structure of (+)-deoxymiroestrol (4) was established by comparison of its NMR data with those of (+)-1. The growth-promoting effect of them on MCF-7 human breast cancer cells showed the strongest activity with 4. Interestingly. 4 was easily converted into 1 and 7 by aerial oxidation. suggesting that 4 may be the actual phytoestrogen of P. mirifica. On the other hand daidzein (2), genistein (3), and coumestrol (6) belong to isoflavonoids were isolated as phytoestrogens with lower activity. In addition, it was found that kwakhurin (5). a characteristic isoflavonoid in this plant. also showed the same activity as 2.
著者
真鍋 良幸 李 昊晟 徳永 健斗 Sianturi Julinton 寺尾 尚子 高松 真二 種村 匡弘 三善 英知 深瀬 浩一
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 58 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.Oral27, 2016 (Released:2019-10-01)

a-galエピトープ(Fig.1)は,多くの哺乳類で広く発現しているものの,ヒトではその合成酵素であるa1,3galactosyltransferse(a1,3GT)が変異を受け,活性を持たず,この糖鎖構造を持たない.代わりにヒトは,抗a-gal抗体(抗Gal抗体)を持ち,その量はヒトの自然抗体の中で最も多い.ブタなどの異種臓器には大量のa-galが発現しており,ブタ‐ヒト間の臓器移植でみられる超急性拒絶反応は,a-galと抗Gal抗体の免疫反応に起因する.我々は,この激しい免疫反応を利用した効果的ながん免疫療法の開発を目指して研究を行った.がんの免疫療法は手術,放射線療法,化学療法の3大療法に続く第4の治療と期待され,副作用が少なく,転移や再発を抑制する効果的な治療となる可能性を秘めているものの,未だ標準的治療としては確立されていない.この要因としては,全身状態不良のがん患者では,免疫機能が低下しているため腫瘍抗原に対する抗原提示能が低いこと,がんの持つ免疫回避機構のために免疫系が十分に機能しないこと,などが考えられる.本研究では,a-galエピトープを化学合成し,これをアジュバント(抗原性補助剤)として利用したがんワクチン療法の開発に取り組んだ.また,がん細胞をa-galで標識し,がん細胞特異的に超急性拒絶反応を引き起こす新しいがん免疫療法の開発も検討した.・a-galエピトープの効率合成 a-galの合成に関しては,通常の化学合成に加え,固相での合成や,酵素を用いた合成など複数の報告がある1.本研究では,a-galの量的供給を目的として新規の合成ルートを検討した.まず,チオ糖1と2を用いたグリコシル化を検討した(Table 1).グリコシル化において電子供与性の保護基で保護したドナー(アームドドナー)は電子吸引性の保護基で保護したドナー(ディスアームドドナー)よりも反応性が高い.そこで,ディスアームドドナー2存在下でアームドドナー1を選択的に活性化して,2糖3を合成し,得られたチオ糖3をそのまま続くグリコシル化に用いることで,効率的な糖鎖骨格の構築が可能となると考えた.種々の活性化剤を検討したところ,NIS,TfOHを用いたときに最も良好な結果を与え(entry 1-4),1を小過剰に用いることで収率が向上し,目的の3を82%の収率で得ることができた(entry 5,6).一方で,本反応はスケールアップにともない収率が低下した(57%, entry 6).そこで,本反応にマイクロフロー系を適用した.マイクロフロー系では,反応溶液をポンプにより流路に送液し,マイクロメートルオーダーの反応場を持つリアクターで混合し,反応を行う.これにより,効率的な混合や精密な温度制御が可能となり,アームドドナーである1の活性化の選択性が向上することに加え,生成した3を系外に取り出すことで,過剰反応を抑制できると考えた.さらに,本系では送液時間を延長することで,完全に同じ条件でのスケールアップが可能である.マイクロフロー系でのグリコシル化はFig. 2に示す装置を用いて行った.マイクロフロー系における反応条件の検討にあたり,基質1,2の消費量を最小限に抑えるために,HPLCで用いられるレオダインインジェクターを系内に(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
大類 洋
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 58 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.Oral31, 2016 (Released:2019-10-01)

HIV感染(エイズ)は作用機序が異なる複数の薬を併用するHAARTが開発され致死から臨床的に処置が可能な長期感染症となっている。しかし、現在のHAARTには依然として耐性HIVの発現や、毎日飲まねばならない複数の薬の副作用などの問題点があり、より優れた薬剤の開発が望まれている。演者は耐性HIVを発現させないヌクレオシド薬の創製を考えている間に、ウイルスが薬剤耐性を獲得する突然変異が抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の鍵であることに気付き “抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の為の基本概念” を提出した。更に、HAARTの問題点を解決出来る修飾ヌクレオシドの分子設計の為に4つの作業仮説を立てその検証する研究を行い非常に優れた抗HIV活性を持つEFdA(4’-ethynyl-2-fluoro-2’-deoxyadenosine、表1)を創製した1)ので報告させて頂く。 抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の為の基本概念2)ウイルスは突然変異して薬剤耐性を獲得するので“ウイルス感染症の治療は難しい!”と考えられている。しかし、演者は“突然変異は優れた抗ウイルス活性を持つ修飾ヌクレオシド薬創製の為にある事象である”と考えている。即ち、“突然変異とはウイルスがA:T,G:Cのペアリングを無視し設計されていないヌクレオシドを取り込んで遺伝子を変えることである。これはウイルスの核酸合成酵素の基質選択性が非常に甘いことを示している。一方、人はその様なことをしない。これは人の核酸合成酵素の基質選択性が非常に厳格であることを示している。この基質選択性の違いを利用すれば、ウイルスの核酸合成酵素の基質となり(ウイルスに活性)、人の核酸合成酵素の基質とならない(人には低毒性)修飾ヌクレオシドの創製が可能である。” HAARTの問題点を解決する為の4つの作業仮説1)① ヌクレオシド薬に耐性HIVを発現させない方法 図1現在臨床に用いられている逆転写酵素(RT)阻害ヌクレオシド薬は全て2’,3’-dideoxynunucleoside(ddN)誘導体であり、“ddN構造はヌクレオシドがRTのチェインーターミネーター(CT)になる為に必須である”と考えられていた。しかし、全てのddN薬に短期間で容易に耐性HIVが発現した。演者は“耐性とはHIVがddNを生理的2’-deoxunucleoside(dN)と識別しddNをRTの活性中心に取り込まない能力を獲得したことである”と考えた。dNとddNの構造の違いは3’-OHを持つか否かであるので “HIVは3’-OHの有無で両者を識別している”と考えた。それ故、耐性HIVを発現させない修飾ヌクレオシドは“HIVによってdNと識別されないように3’-OHを持たなければならない、しかも3’-OHを持ちながらRTのCTと成らなければならない”と考えた。その目的を達成出来るヌクレオシドとして4’-位に置換基を持つ4‘-substituted- 2-deoxynucleoside(4’SdN)を設計した(図1)。その理由は“4’-位に置換基を導入すると3’-OHは反応性が非常に低いネオペンチル型2級水酸基となるのでこのOH基は認識には使えてもRTによるウイルスのDNA鎖延長反応には使えない”と考えた為である。しかし、RTが4’SdNを基質として受け入れて4’SdN(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
通 和夫 十倉 一也 岡部 啓 江幡 光雄 大塚 英夫 松下 和弘 Lukacs G.
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.20, pp.24-31, 1976

Sulfur-containing peptide antibiotics, siomycins (SIM) A, B, and C isolated from Streptomyces sioyaensis are known to have structures quite similar to that of thiostrepton (TST) isolated from S. azureus. The 25-MHz ^<13>C FT NMR and 220-MHz ^1H NMR spectra of TST and SIM's were determined in CDCl_3-CD_3OD (8: 2) at various temperatures to obtain structural relationships between these antibiotics. ^<13>C signals were tentatively assigned by ^1H noise decoupling, single-frequency and noise off-resonance decouplings, and partially-relaxed FT techniques and using known chemical-shift rules, the chemical shifts of amino acids reported, and those observed for thiostreptine and a quinaldic acid derivative. Their ^<13>C spectra quite similar to each other revealed the numbers of carbon atoms and dehydroalanine (Deala) residues. It was found that (1) the signals of the Val-Deala residues in SIM's are changed to those of the Ile-Ala residue in TST, that (2) SIM-B lacks of the terminal Deala-Deala residue in the long side-chain, and that (3) SIM-C has an unknown amino-acid residue instead of the terminal Deala. On the basis of the above spectral and other chemical studies, and a tentative structure (Ia) proposed for TST by an X-ray crystallographic analysis, the structures Ib, II, and III were concluded to be assigned to TST, and SIM-A and -B, respectively.
著者
秋元 隆史 篠原 涼子 岩本 理 山下 まり 山岡 薫 長澤 和夫
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.517-522, 2011

Voltage-gated sodium channels (Na_vCh) are transmembrane proteins that provide inward current carried by sodium ions, and they contribute to the control of membrane excitability, as well as the propagation of action potentials along axons. To date, nine subtypes of sodium channels (NaChs) have been identified, which are closely related to life activity such as a sense of pain, a heartbeat, the muscle expansion and contraction. Since each of these subtypes has unique properties, subtype selective ligand is required for controlling and elucidation of these functions. Saxitoxin (STX) is a naturally occurring NavCh inhibitor, which is believed to bind to the P-loop region of the ion-selective filter in NavCh, and blocks ion influx of Na_vChs in a similar manner to tetrdotoxin (TTX). Recently, a binding model of STX with P-loop domain was proposed based on molecular docking studies by Zhorov. From this model, domain I and STX in C13 and N7 is crucial for the interaction. In this paper, we described the structure-activity relationship studies on STX derivatives with focusing on the C13 and N7 positions. New STX derivatives of 14, 16-18, 23 and 24 modified at C13 and N7 were synthesized from fully protected form of STX of 8 efficiently. Inhibitory activity of these new derivatives against Na_vChs, i.e., Na_v1.2, Na_v1.4 (these are TTX-sensitive) and Na_v1.5 (TTX-resistant), were evaluated by the who'e-cell patch clamp method. As shown in Table 1, these derivatives show moderate inhibitory activities against Na_v1.2, Na_v1.4, but no inhibitory activity was observed to Na_v1.5. Further SAR studies are in progress.
著者
丸田 聡 山岡 薫 大越 夏実 山下 まり
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 49 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.443-448, 2007-08-24 (Released:2017-08-18)

Tetrodotoxin (TTX) and saxitoxin (STX) bind to a single site in the outer pore of the voltage-gated sodium channels (Na_vs), formed by the amino-acid residues in the outer-pore loops (p-loops) located between the S5 and S6 segments of each of the homologous domain (I-IV) of the a-subunit. Since puffer fish and newts accumulate TTX at high concentration in their tissues, they are thought to have special defense systems against their own TTX. We previously obtained a cDNA encoding Na_v from Fugu pardalis skeletal muscle (fMNa1=fNav1.4a). In fNav1.4a protein, the aromatic amino acid in p-loop region of Domain I in TTX-sensitive Nays was replaced by Asn. Also, Kaneko et al. reported that similar mutation was found in Na_v of retinal neuron of the newt, Cynops pyrrhogaster. In this study, we confirmed that these mutations are responsible to TTX-resistance of puffer fish and newts by evaluation of IC_<50>-TTX values of the corresponding mutants of rNav1.2a transiently expressed in HEK293 cells by electrophysiological study.
著者
渡邉 瑞貴 領田 優太 浅野 理沙 Khamb Bilon 薄田 晃佑 飯田 圭介 岩田 淳 佐藤 慎一 酒井 寿郎 長澤 和夫 上杉 志成
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 56 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.Oral15, 2014 (Released:2018-07-19)

1. 背景 現代人を悩ます生活習慣病の一つ、脂質異常症(高脂血症)は肥満など多くの疾病の起因となる。それら多数の疾病の予防・治療のためにも、脂質生合成機構の制御と解析は重要な課題である。 脂質生合成において、転写調節因子SREBP(Sterol regulatory element- binding protein)は中心的な役割を担う(図1)1。小胞体膜貫通型タンパク質として存在する前駆体SREBPは、キャリアータンパク質SCAP(SREBP cleavage-activating protein)と複合体を形成している。この複合体は、脂質レベルが低下すると小胞体からゴルジ体に輸送される。ゴルジ体において前駆体SREBPは酵素による二度の切断を受けて活性型となる。活性型SREBPは核に移行し、転写因子として脂質生合成に関する遺伝子群の発現を亢進する。ステロールや脂肪酸などの脂質類が産生される。 SREBPの活性化は内因性物質であるステロールによって厳密に制御されている。ステロール過多になると、ステロールはSCAPに直接作用し、SREBP/SCAP複合体の小胞体からゴルジ体への輸送を阻害する。脂質生合成は種々の複雑な制御を受けることが知られており、ステロール以外の内因性物質による直接的なSREBP活性化調節機構の存在が予想される。しかし、その詳細は未だ不明な点が残る。 私たちの研究室が化合物ライブラリーから見出した合成小分子ファトスタチン(1, 図2)は、ヒト細胞内でSREBPの活性化を選択的に阻害して脂質生合成を抑制する2,3。ファトスタチンは、SREBP活性化を阻害する初めての非ステロール合成化合物となった。さらに私たちの研究室は、ファトスタチンを誘導体展開し、ファトスタチンよりも10倍阻害活性に優れ、経口投与可能なFGH10019(2)も報告した4。一連のケミカルバイオロジー研究によって、ファトスタチンはステロールと同じSCAPを直接の生体内標的とするが、ステロールとは異なる部位に作用することを示した。この結果は、ファトスタチン様に作用する、ステロール以外の内因性物質の存在の可能性を示唆する。2. 新たなSREBP制御天然化合物の発見 以上をふまえ私たちは、SREBP活性化に関わる新規内因性物質の探索を目的に、280種の脂質化合物を新たにスクリーニングした。その結果、細胞内でSREBPの活性化を阻害する複数の内因性脂質化合物が見出された。これら見出された化合物類は、濃度依存的にSREBPの活性化を阻害することがわかった。さらに、ある一連の内因性天然脂質化合物類は、ステロールと同様にSREBPの小胞体からゴルジ体への輸送段階で活性化を阻害するが、その作用メカニズムはステロールと異なることが示唆された(図3)。CHO-K1細胞をステロールで処理すると活性型SREBPが消失し、前駆体SREBPが蓄積する。一方、内因性天然脂質化合物Aで処理すると、活性型および前駆体両方のSREBPが減少した。これら新たに見出した内因性脂質化合物類とSREBPとの直接的な関係について、現在のところ報告はない。これら脂質化合物はSREBP活性化を制御する新たな内因性物質の可能性がある。3. SREBP制御天然化合物の作用メカニズムの解明研究 スクリーニング(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
野川 俊彦 ジャン ジュンピル 本郷 やよい 清水 猛 岡野 亜紀子 二村 友史 高橋 俊二 アン ジョンセオ 長田 裕之
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2014

<p>放線菌や糸状菌をはじめとする微生物は、多様な構造と活性を有する二次代謝産物を生産することで知られている。それら二次代謝産物は、医薬品や農薬またはそのリード化合物として利用されているものが多い。さらにケミカルバイオロジー研究における生命現象解明のための有用なツール、すなわちバイオプローブとして利用されているものもある。<sup>1</sup>これら代謝産物を効率よく探索・単離するために、我々の研究室ではフラクションライブラリーとスペクトルデータベースを用いる方法を構築し利用している。<sup>2</sup>フラクションライブラリーは、微生物培養液をHPLCや中圧液体クロマトグラフィー(MPLC)により系統的に分画することで作製し、得られたフラクションをPDA-LC/MSにより分析することでデータベースを構築している。データベースは、代謝産物の物性を二次元上の分布として表現したNPPlot(Natural Products Plot)を作成し利用している。今までに、このNPPlotを活用することで特徴的な構造を有する新規化合物を発見・単離してきた。<sup>3</sup>さらに昨年度の本大会において、複数の菌株より作成したNPPlotの分布パターンの比較による新規化合物の探索と単離について報告した。<sup>4</sup>今回、放線菌Streptomyces sp. RK85-270のフラクションライブラリーより作成したNPPlotの分布パターンから菌株特有の化合物群の探索を行い、2種の新規環状デプシペプチド1および2(図1)を見出すことができたので、それらの単離・構造決定について報告する。</p><p>図1.新規環状デプシペプチド1および2の構造</p><p>【微生物代謝産物フラクションライブラリーの作製】</p><p>放線菌Streptomyces. sp. RK85-270の30 L培養液に等量のアセトンを加え撹拌抽出後、吸引ろ過により菌体を除去し含水アセトン抽出液を得た。減圧下でアセトンを留去し、残った水懸濁液を酢酸エチルにより分配することで有機溶媒可溶性画分と水溶性画分を調製した。有機溶媒画分を減圧濃縮することで抽出物37.2 gを得た。このうち28.7 gをシリカゲル順相MPLCにより、クロロホルム/メタノールのステップワイズ溶出を用いて8分画とした。それぞれを逆相HPLCにより移動相にアセトニトリル/0.05%ギ酸水のグラジエント溶出を用いて一定時間で分画することでフラクションを作製した。水溶性画分は、DIAION HP-20によりメタノールに可溶なものを抽出後、得られたメタノール可溶性画分を逆相MPLCによりメタノール/水を移動相として分画することでフラクションを作製した。以上の方法で約400フラクションを作製した。各フラクションをPDA-LC/MSにより分析し、含有成分のUV吸収およびマススペクトルの収集を行い、成分情報の付加したフラクションライブラリーとした。</p><p>図2.放線菌RK85-270のNPPlotと特徴的分布を示した領域の拡大および</p><p>それら化合物のUV吸収スペクトル</p><p>【スペクトルデータベースNPPlot(Natural Products Plot)の作成】</p><p>PDA-LC/MS分析より得られたUV吸収およびマススペクトルデータをもとに化合物探索に利用するためのスペクトルデータベースを作成した。一般的なスペクトルデータベースに加え、研究室オリジナルのデータベースNPPlot</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>
著者
畑中 顯和 梶原 忠彦 関谷 次郎
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 22 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.657-664, 1979-09-20 (Released:2017-08-18)

Endogenous linolenic acid in Thea chloroplasts is cleaved into cis-3-hexenal and 11-formyl-cis-9-undecenoic acid via a very labile intermediate by E_2 of an enzyme system E_2 (E_2 and E'_2+E"_2) bound to the lamellae membranes of chloroplasts under aerobic condition. On the other hand, in external addition of a large amount of linoleic acid to chloroplasts, E'_2 and E"_2 activities newly are induced in addition to E_2 activity, and E'_2 catalyzes the formation of 13-Hydroperoxide and then it was cleaved to n-hexanal by E"_2. The substrate specificity of the enzyme system E_2 in Thea chloroplasts was clarified with an entire series of synthesized positional isomers, in which the position of cis-1,cis-4-pentadiene system varies from C-3 to C-13 in C_<18> fatty acid and geometrical isomers of linoleic acid. The structural requirement for the substrate of E_2 is the presence of cis-1,cis-4-pentadiene system between ω-6 and ω-10. The enantiomeric composition of the 13-Hydroperoxide produced by E'_2 was determined by GLC and NMR analysis: After a large amount of linoleic acid was incubated with tea chloroplasts, a mixture of hydroperoxides (13-hydroperoxy-cis-9,trans-11-/9-hydroperoxy-trans-10,cis-12-octadecadienoic acid=84/16: crude-I) was isolated. The major hydroperoxide of the crude-I was identified as 13-L-hydroperoxy-cis-9,trans-11-octadecadienoic acid (80) containing a small amount of its enantiomer(13-D=20). So, it was demonstrated that E'_2in Tea chloroplasts catalyzes the stereospecific oxygenation of linoleic acid to the 13-L-hydroperoxide.
著者
三島 鮎美 高橋 裕美 奥 尚枝 松野 純男 十万 佐知子 中林 利克 石黒 京子
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 47 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.541-546, 2005-09-15 (Released:2017-08-18)

The petal of Hibiscus mutabilis L. f. versicolor MAKINO shows a white color after the flowering, and it gradually changes in the red. Though it is reported that the color changes are due to the storage of the anthocyanin in the petal vacuole, the mechanism has not been clarified. Thus, the mechanism of the color change was elucidated by expression analysis of mRNA of anthocyanidin synthetase (ANS) in the petal. Extraction and purification of mRNA: petals of white, pink and red organization of freezed fresh H. mutabilis were crushed in the liquid nitrogen and total RNA was extracted using the CTAB method, followed by the refinement of each mRNA by Purification Kit (TaKaRa). The several kinds of primer of actin and ANS were designed from the homology with other plants respectively and then RT-PCR was done using these primers. On cDNA fragment amplified by RT-PCR, the base sequence was analyzed by the conventional mannner. Using the primer which efficiently amplified the cDNA fragment, the expression of mRNA of the ANS with the change of the flower color was examined by RT-PCR. The amplified fragment of about 600bps was assigned to that of actin and the amplified fragment of about 500bps expressed only in the deep red petal was assigned to that of the ANS of H. mutabilis, referring to the sequence of actin and the ANS respectively. The amino acid sequence of mRNA of actin of H. mutabilis showed a homology over 91% with those of the other type plant and that of the ANS showed a homology over 82%. The expression level of mRNA of the ANS was consistent with the increase in the deep red from the white color. Furthermore, the color change was dependent on temperature but not the light.
著者
錦部 健人 鴇田 百栄 滝 直人 西川 慶祐 森本 善樹
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, pp.195-200, 2017

In the past, through enantioselective total synthesis, our laboratory has found that isodehydrothyrsiferol (5), a marine squalene-derived triterpene polyether isolated from the red alga <I>Laurencia viridis</I>, shows partial enantiodivergency in that six asymmetric centers in the ABC ring system (a dioxabicyclo[4.4.0]decane ring system with an attached bromine-containing tetrahydropyranyl ring that forms the core structure of the triterpene polyethers produced from the genus <I>Laurencia</I>) are enantiomeric to those of other members of the thyrsiferol family.<SUP>1)</SUP> In this presentation, our laboratory performed the total syntheis of aplysiol B and 22-hydroxy-15(28)-dehydrovenustatriol whose absolute configurations have never been determined to research the partial enantiodivergency in the thyrsiferol family in depth.Aplysiol B, a member of the thyrsiferol family isolated from the sea hare <I>Aplysia dactylomela</I>, possesses feeding-deterrent and ichthyotoxic properties. However, the proposed structures 6a<SUP>2)</SUP> and 6b<SUP>3)</SUP> were in contradiction to the biogenetic hypothesis. Therefore, we reconsidered the biogenetic pathway of aplysiol B and synthesized the reasonable structure 6c through a key Shi epoxidation<SUP>12)</SUP> followed by a 5-<I>exo</I> cyclization and a subsequent 6-<I>endo</I> bromoetherification using BDSB.<SUP>13)</SUP> The spectral data and the optical rotation of synthetic 6c were in agreement with those reported for the natural sample.<SUP>2)</SUP> As a result, the first total synthesis of aplysiol B was accomplished, and the reported structures 6a and 6b were revised to 6c.The planar structure of 22-hydroxy-15(28)-dehydrovenuatatriol was determined by NMR analysis.<SUP>6)</SUP> The stereostructure of the ABC ring system was elucidated by comparing the NMR data with those of dehydrothyrsiferol (4), whose absolute structure was known. However, the stereochemical relationship between the ABC ring system and D ring due to the intervening methylene chain and the absolute configuration has not been determined to date. Our laboratory synthesized the proposed structure 8a <I>via</I> a key Suzuki-Miyaura cross-coupling between the BC ring system 19 and D ring 20. However, the NMR spectra of synthetic 8a did not match with those of the reported data.<SUP>6)</SUP> We also synthesized 8b, a possible diastereomer of 8a, and the proposed structure 8a was revised to 8b. Moreover, we observed that the ABC ring system of 8b has the same absolute configuration as that of isodehydrothyrsiferol (5).Considering an enantiodivergent phenomenon in the common skeleton of the thyrsiferol family, based on the biogenesis of the squalene-derived thyrsiferol family suggested by the Fernández group,<SUP>4)</SUP> we propose the biogenesis of 6c and 8b <I>via</I> the bromocation-initiated epoxide-opening cascade reaction of squalene pentaepoxide 37.
著者
中村 仁美 ショルツ エリカ バルスカス エミリー
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2016

<p>Nature constructs structurally diverse, bioactive molecules using enzymes. Many enzymes catalyze synthetically challenging reactions under mild, physiological conditions. Consequently, they have long been a source of inspiration for developing biomimetic organic syntheses and methods. In addition, enzymes are increasingly being used as biocatalysts in industry. Therefore, the discovery of enzymes that catalyze chemically intriguing transformations can positively impact synthesis in multiple ways. With the recent advances in next-generation DNA sequencing technologies, we are now able to access enormous amount of genomic sequencing data, which encodes a treasure chest of new enzymatic chemistry. The challenge now is to devise a method to efficiently identify chemically interesting enzymes from this vast pool of information.</p><p>One possible solution to this problem is to study the biosynthetic pathways of structurally unique natural products, which are predicted to involve novel enzymatic reactions. We aimed to discover new enzymes that catalyze intriguing chemical reactions through biosynthetic investigation guided by our knowledge in organic chemistry. The cylindrocyclophanes are a family of natural products that contain an unusual [7.7]paracyclophane core scaffold.<sup>1</sup> Based on the results of the previous feeding studies, cylindrocyclophane biosynthesis is predicted to involve an unusual C–C bond formation (Figure 1).<sup>2</sup> To discover the enzymes responsible for this chemistry, we studied the biosynthesis of the cylindrocyclophanes.</p><p>Figure 1. The structures of the cylindrocyclophanes. The predicted biosynthetic disconnection suggests that an unusual C–C bond formation is involved in their biosynthesis.</p><p>First, the candidate cylindrocyclophane biosynthetic (cyl) gene cluster was identified from the genomic sequence of the cylindrocyclophane producer, Cylindrospermum licheniforme ATCC 29412. We next formulated a biosynthetic hypothesis based on the cyl gene cluster annotation (Figure 2). In our original biosynthetic hypothesis, we predicted that cylindrocyclophane biosynthesis initiates with the activation of decanoic acid by the fatty acid activating enzymes, CylA and CylB, to form decanoyl-CylB. The activated decanoyl-CylB is then processed by the type I polyketide synthase (PKS) machinery, CylD-H. The nascent polyketide is released from the type I PKS assembly line by the type III PKS CylI to form the alkylresorcinol, which is the predicted monomeric unit of the cylindrocyclophanes.</p><p>Figure 2. The initial biosynthetic hypothesis for cylindrocyclophane assembly.</p><p>Based on our initial biosynthetic hypothesis, we biochemically characterized the functions of the fatty acid activating enzymes CylA/CylB and the type III PKS CylI. The in vitro activities of these three enzymes were consistent with our biosynthetic hypothesis, which validated the involvement of the cyl gene cluster in cylindrocyclophane production.<sup>3</sup> In addition, we conducted feeding experiments using deuterium-labeled decanoic acid in the native producer to confirm that decanoic acid is a precursor to the cylindrocyclophanes. The incorporation of deuterium-labeled decanoic acid into the final cylindrocyclophane scaffold also indicated that cylindrocyclophane biosynthesis involves functionalization of the unactivated carbon center.<sup>3</sup></p><p>Following our discovery and validation of the cyl gene cluster, we next focused on the investigation of the key C–C bond formation that results in the construction of the [7.7]paracyclophane scaffold. Through bioinformatics and biochemical characterizations of the enzymes encoded in the cyl gene cluster, we determined that cylindrocyclophane biosynthesis involv</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>
著者
工藤 雄大 山下 瑶子 此木 敬一 長 由扶子 安元 健 山下 まり
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2013

<p>テトロドトキシン (TTX, 1)は電位依存性ナトリウムチャネルを特異的に阻害する強力な神経毒である。TTXはフグから単離されたが、その後、カニや巻貝、ヒョウモンダコ、ヒラムシなどの多様な海洋生物、更には陸棲のイモリ、カエルからも同定された。高度に架橋した構造と強力な生理活性、広範な生物種に分布する特徴から、極めて興味深い化合物である。TTX生産細菌を報告し <sup>1)</sup>、その後も数多くの報告があるが、TTXの生合成に関わる出発物質、遺伝子は未だに同定できていない。我々はTTX天然類縁体が生合成経路解明の手がかりになると考え、フグやイモリから種々のTTX類縁体を単離・構造決定してきた <sup>2-4)</sup>。今回HILIC (Hydrophilic interaction liquid chromatography: 親水性相互作用) -LC-MSを用い <sup>5)</sup>、新規TTX類縁体を探索したところ、オキナワシリケンイモリ (Cynops ensicauda popei) 及びヒガンフグ (Takifugu pardalis)から新規TTX類縁体と推測される化合物が数種検出され、これらの単離・構造決定を行った。さらに、各種TTX含有生物における分布を調査し、TTXの生合成経路の推定を試みた。</p><p>1. イモリから得られた新規TTX類縁体の構造と分布</p><p>TTXの生合成中間体は生理活性を持たない可能性が高く、生理活性を指標としたスクリーニングは適切ではなかった。そこで、TTX類縁体の一斉分析が可能なHILIC-LC-MSを用い、既知のTTX類縁体のフラグメントイオンを指標として新規TTX類縁体を探索した。C. e. popeiを希酢酸加熱抽出し、活性炭カラムで粗精製した後、HILIC-LC-MSに供し、新規TTX類縁体を探索した。2種の新規TTX類縁体 (2, 3) (Fig. 1)が検出されたため、これらを弱酸性陽イオン交換カラムBio-Rex70 (Bio-Rad)、HITACHI GEL #3011-C、HITACHI GEL #3013-Cを用いて精製した。3は更なる精製が必要であったため、TSK-gel Amide-80 (Tosoh)を用いて精製した。2はC. e. popeiの全組織170 gから約250 μg得られた。3は内臓組織を除いた身体組織65 gから約300 μg、4,9-anhydroTTXとの混合物 (約1:1)として得られ、そのまま解析に用いた。2, 3の分子式はそれぞれESI-Q-TOF-MSを用いてC<sub>11</sub>H<sub>15</sub>N<sub>3</sub>O<sub>4</sub>及びC<sub>11</sub>H<sub>15</sub>N<sub>3</sub>O<sub>6</sub>と決定した。2: [M+H]<sup>+</sup> m/z254.1136 (calcd. for C<sub>11</sub>H<sub>16</sub>N<sub>3</sub>O<sub>4</sub>254.1135, error: 0.4 ppm), 3: [M+H]<sup>+</sup> m/z 286.1036 (calcd. for C<sub>11</sub>H<sub>16</sub>N<sub>3</sub>O<sub>6</sub>286.1034, error: 0.7 ppm)。</p><p>2の分子式は、4,9-anhydro-5,6,11-trideoxyTTX (4)と一致した。また、2を各種NMR (600 MHz, CD<sub>3</sub>COOD-D<sub>2</sub>O 4:96, v/v)に供したところ、そのシグナルは4 <sup>6</sup><sup>)</sup>に類似していたが、2ではH5のシグナルが一つしか示されず、かつH9の大きな高磁場シフト (-0.73 ppm)が観測された。C5、C10のケミカルシフト (50.7, 107.6 ppm)、及び、C5/H9, C10/H4a, C10/H6のHMBC相関が観測されたことから、2はこれまで報告例のない、C5とC10が直接結合した10-hemiketal構造を持つと考えられた。2のNOESY 1DではH4a/H6のNOEが観測されたが、H4a/H8, H6/H8のNOEは観測されなかった。このことからC6の立体化学はTTXと同じであり、C8位はイモリに特異的な8-epi体であると考えられた <sup>4)</sup>。以上より、2の構造を4,9-anhydro-10-hemiketal-8-epi- 5,6,11-trideoxyTTXと推定した (Fig. 1)。</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>
著者
田邉 元三 松田 侑也 松本 裕朗 筒井 望 村岡 修
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2018-07-19

<p>インドやスリランカの伝統医学であるアーユルヴェーダでは, 糖尿病の初期の治療薬としてサラキア属植物の抽出物が用いられている. これまでに, その活性寄与成分として, 特異なチオ糖スルホニウム硫酸分子内塩構造をもつ新規化合物 salacinol (1), kotalanol (2), ponkoranol (3) およびその脱硫酸エステル体, neosalacinol (4), neokotalanol (5), neoponkoranol (6) を単離した.<sup>1,2,3). </sup>また, その作用機序が消化管表層に存在する糖質加水分解酵素 (a-glucosidase) の阻害に基づくことを明らかにするとともに, その阻害強度の程度は, いずれも市販糖尿病治療薬のアカルボースやボグリボースに匹敵するほど強いことも明らかにしている.<sup>1)</sup> スルホニウム塩という天然有機化合物として極めて特異な構造であること, また, その a-glucosidase 阻害活性が極めて強いことから活発な構造活性相関研究が国内外において活発に行われている.最近我々は, in silico 計算化学を用いて salacinol (1) の約10~40倍強い活性を示す化合物群 (7) の合成にも成功している (Fig.1).<sup>4)</sup> </p><p>Fig.1</p><p>一方、これまでのスルホニウム塩の合成には Scheme 1 に示すように, もっぱら, チオ糖8と側鎖部となる求電子剤 (9, 10, 11 など) とのS-アルキル化が鍵反応として用いられている. しかし, 本鍵反応では反応時間が著しく長いものが多く (< 7 days), また, 側鎖部に用いる求電子剤あるいは生成物が, 反応中に徐々に分解することも報告されている. さらに, 反応が環状チオ糖のS-アルキル化のため, 生成物のジアステレオ選択性が低くとどまる欠点 (dr, a/b = < 9/1) も有している. このような反応性のために, 目的のαアルキル化体 a-12の収率が中程度にとどまるものがほとんどであり, 本鍵反応は"Salacia"由来スルホニウム塩の簡便大量供給法としていまだ多くの問題を残している.<sup>5)</sup> </p><p>Scheme 1</p><p>そこで, "Salacia" 由来スルホニウム塩の簡便かつ効率的な新規スルホニウム塩骨格構法の開発研究の一環として, 今回, スルフィド (13) の閉環反応によるneosalacinol (4) の合成を検討した. その結果, 13 の環化反応が高いジアステレオ選択性 (dr, a/b = ca. 30/1) で効率よく進み, 短時間で 4 の合成中間体 (a-14) が高収率で得られることを見出した. さらに, a-13 を脱保護に付し, 目的の 4 の全合成を達成したので, その詳細について報告する.</p><p> </p><p>Scheme 2</p><p>1.スルフィド 13 の合成</p><p>鍵化合物となるスルフィド 13 は, neosalacinol (4) の側鎖部となる erythritol 誘導体 (15) と チオ糖部となるxylose誘導体 (16) のカップリング反応により合成した. </p><p> </p><p>Scheme 3</p><p>Erythritol 誘導体 15 は, 文献<sup>6) </sup>の方法に改良を加え, 極めて高い収率で合成した. すなわち, D-isoascorbic acid (18) を, アセトン中, PTSA の存在下に, 2,2-DMP との処理により調製した化合物 (19) のエンジオール部を過酸化水素で酸化的に解裂後, 生成するカルボン酸塩を単離することなくヨウ化エチルとのエステル化に付し, 18より 93% の収率でエステル (20) に導いた. 次に, 20 のLAH 還元により得たジオール (21) を水素化ナトリウムの存在下で臭</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>
著者
大村 智 中川 彰 鈴木 数広 秦 藤樹 Jakubowski Ann Tishler Max
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.17, pp.229-236, 1973

We have been studied the relationship between the structures and the biological activities on 16-membered lactone ring macrolide antibiotics. The aglycone moiety from 16-membered macrolides has not been reported, but in the present series of work, we have chemically obtained the aglycone from leucomycin A_3 (LM A_3) (I). Treatment of (I) with m-chloroperbenzoic acid in CHCl_3 gave the N-oxide (II), which was refluxed with Ac_2O in CHCl_3 to obtaine aglycone, leuconolide-A_3 5,18-hemiacetal (III). In the above reaction, a neutral macrolide, 2'-acetyl 3'-desdimethylamino 3'-oxo LM A_3 (X) which 3'-dimethylamino group on mycaminose moiety was converted to ketone carbonyl was isolated from the same reaction product. Furthermore, (I) was reacted with Al-isopropoxide to give 9-dehydro 18-dihydro leucomycin A_3 (V). (V) was oxidized with m-chloroperbenzoic acid to N-oxide (VII), and(VII)was then treated with Ac_2O in CHCl_3 to obtain 9-dehydro 18-dihydro leuconolide-A_3 (VIII). In order to clarify the correlation between the structure and biological activity of mycaminose moiety, various derivatives were synthesized. The antimicrobial activities of the both glycone, (III) and (VIII) completly disappeared, and it was found that the decreasing of electro-density on dimethylamino group on mycaminose moiety resulted in the decrease of the activity.
著者
大村 智 中川 彰 竹嶋 秀雄 宮沢 淳 渥美 清夫 Piriou F. Lukacs G.
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.19, pp.434-441, 1975

According to previous reports, the aglycone carbons of the 16-membered macrolide antibiotic, magnamycin A, 1 are derived from nine acetates, one propionate and one methionine as shown in Fig. 1. As an application of a recent systematic ^<13>C-NMR study of 16-membered macrolide antibiotic, the validity of these investigation was reexamined on leucomycin A_3 2 which is structurally similar to magnamycin A. It was found that carbons-5, -6, -17 and -18 of leucomycin A_3, 2 were derived from butyrate and carbons-3 and -4 on the aglycone arose from outside of acetate contrary to the proposal in the study on magnamycin biosynthesis. Although the origin of the carbons-3 and -4 is not yet known at present time, this finding let us to investigate the origin for the carbons-3 and -4 of the aglycone of tylosin which has different carbon skeleton from leucomycin or magnamycin (Fig. 3). Consequently, the metabolic origin, acetate, propionate and butyrate was proposed as shown in Fig. 5. The addition of [1-^<13>C]butyrate to a fermentation medium of tylosin showed the enrichment for carbons-3, -7, -11, -13 and -15 of aglycone as like as carbon-5 which is predicted to be enriched by the precursor. On the other hand, carbons-4, -8, -12, -14 and -16 were enriched as like as carbon-19 by [4-^<13>C]2-ethylmalonate. The metabolic pathway is not yet clear, however these precursors are thought to be partially incorporated to the aglycone of tylosin via propionate.
著者
船山 信次 中川 彰 大村 智
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.28, pp.73-80, 1986

During the cource of our screening program for new antibiotics, herbimycin C (1), trienomycins A (6), B (7) and C (8). awamycin (9) and hitachimycin (stubomycin) (10) were isolated and characterized. Each antibiotic except for 10 possesses macrocyclic lactam structure containing benzenoid or naphthalenoid moiety as a chromophore. Structures 1 and 6-9 were elucidated mainly through the comparative NMR analysis with the known ansamycin antibiotics and the structure of 10 was established by the chemical degradations. Further, "Celmer's model" which was applied to the stereochemistry and biogenecis of macrolide antibiotics was applied to those of ansamycin antibiotics such as macbecin I (14). naphthomycin A (15). rifamycin B (16) and streptovaricin C (17) in which the absolute configurartions have been established. Consequently, the absolute configurations of herbimycin A (2) and 9 except for C-6 and C-7 were proposed as shown in Fig. 2. through the model.