著者
神長 英輔
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.1-14, 2012-04

1950年代,全国各地で若者の合唱サークルが組織された.1940年代末に起こったこの運動はうたごえ運動と呼ばれた.うたごえ運動は文化運動,労働運動,反核平和運動と連携し,1950年代半ばに最盛期を迎えた.しかし,早くも1960年代前半には人気を失った.この運動はどのようにして同時代の若者の心をとらえたのか.またなぜ若者の心はうたごえ運動から離れていったのか.この論文は進化論の観点から文化を理解するミーム学の知見を用いてこの疑問に答える. ミームとは模倣であり,遺伝子に似た「文化の自己複製子」として理解される.うたごえ運動とは「正しく,美しく歌え」などの指示のミーム,「歌の力によって大衆を組織し,世を動かす」という物語のミーム,ミームとしての歌からなるミーム複合体である.うたごえ運動が拡大し,一転して衰えた過程はこれらのミームが複製された(されなくなった)過程として説明できる.
著者
佐々木 香織
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.15-24, 2012-04
被引用文献数
1

本研究は、今後の方言調査のための基礎的データを提供するために、県内で使われている2 チームに分けるためのジャンケンの掛け声を取り上げ、その地理的分布を記述する。全国的に散見できる掌と手甲を使ったウラオモテ系の掛け声の県内の分布状況についても探る。調査データから作成した分布図から、県内の広い範囲で、グートッパー系の掛け声が分布していたところに、新方言として新潟市東部ではグーロ系が、西部ではグーパー( ハー) 系が、そして新潟市をとりまく周辺地域ではグーとチョキを使うグットッチ( ョ) 系などが進出してきたと考えられる。各語形の伝播の経路や時期を明らかにするには、新潟市周辺地域( 出雲崎、燕市、三条市、加茂市、五泉市など) の年代別データが特に重要であることがわかった。また、ウラオモテ系については旧吉田町、上越市で使用例があったが少数だったため、詳細な分布状況や伝播経路などについては今後の課題である。
著者
安藤 潤
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.33-51, 2013-04

本論文ではJGSS-2006 の個票データを用い、外食・中食需要関数と夫と妻ぞれぞれの夕食準備に関する拡張版自治モデルを推定した。その結果、主に明らかにされたのは以下の点である。第1 に、妻が常勤職に就いている場合には夫の所得が外食と弁当の利用と、妻の労働時間が中食の利用と、それぞれ有意な正の関係を持つことである。これに対し、第2 に、妻が非常勤職で働いている場合には妻の所得が中食の利用と、夫と妻の労働時間が外食と弁当の利用と、それぞれ有意な正の相関関係を持つことである。そして、第3 に、外食と弁当の利用は常勤で働く妻の夕食準備のみと有意水準は若干低いが負の相関関係を持つこと、つまり、外食と弁当の利用により夕食準備を軽減されるのは常勤職に就く妻だけということである。
著者
苅部 恒徳
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.9-16, 2007-05-30

古英語叙事詩『ベーオウルフ』は8世紀中ごろイングランドで成立したと見られる、北欧を舞台に英雄ベーオウルフの生涯を物語った、ヨーロッパ語での最初の叙事詩である。前半は、今はなきイェーアタス国の若き英雄ベーオウルフが隣掴デネ(デンマーク)の宮廷を12年間悩まし続ける怪物グレンデル退治に向かい、これを首尾よく退治し、わが子の復讐に来襲し廷臣を連れ去った母親も、その湖底の棲家に赴いて退治する。(後半は50年後、故国の王となったベーオウルフが国土を焼き払う火龍と対決し、若武者の助太刀でこれを退治するも、自らも致命傷を負って死ぬ。)本論の「フロースガール王の説教」は前半のクライマックスをなすもので、怪物の湖底の棲家からグレンデルの首級と、彼らの毒血で刃が熔けてなくなった、巨人の作なる刀の柄を戦勝記念に持ち帰ったベーオウルフに、彼を迎えたデンマークの老賢王のフロースガールが垂れる説教の意図を以下に考察した。重々しい述べ方と内容によって、王としての威厳を保つためのものであったとの結論に達した。
著者
藤田 晴啓
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.27-38, 2014-04

クスコ、ヴィルカノタ川沿いの聖なる谷からマチュ・ピチュ遺跡にかけてのインカ時代遺跡群の調査を行い、遺跡群の地理的特徴、マチュ・ピチュ遺跡の立地、都市建築の歴史的背景、遺跡の劣化状況および保存施策について報告した。マチュ・ピチュ遺跡は、南北に連なるふたつの峰、ワイナ・ピチュ峰からマチュ・ピチュ峰に連なる尾根の鞍部に立地し、急斜面の段々畑およびヴノカルタ川まで落ちる断崖絶壁に囲まれた立地環境にある。建築様式からインカ時代隆盛期に建築されことはほぼ確かと考えられるが、都市建設や存在に関する記録が全く残っていない。最近の考古学調査の物証および大規模な糧食備蓄機能が存在しない事実から、王の保養地とする説が最も合理的と考えられた。遺跡の中で特に神聖な場所とされる太陽神殿大塔部およびインティワタナの劣化状況の調査を実施し、状況を報告した。マチュ・ピチュ遺跡への交通等の観光概況についても報告した。
著者
熊谷 卓
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.65-80, 2013-04

国際テロリズムに対する対応として国際テロリズム自体を規制対象とする条約によるテロ行為者の刑事責任の追求がある。かかる条約の中核的な規定が、犯行後自国領域内でテロ事件の被疑者を発見した国が、被疑者を他国に引き渡さないかぎり、訴追のために事件を権限ある当局に付託することを求める規定(「引渡しまたは訴追(aut dedere,aut judicare)」)である。本稿では結論として、拷問禁止委員会(CAT)および国際司法裁判所(ICJ)における先例をふまえ、かかる規定のありうる解釈として、被疑者所在国は引渡しを求める従前の請求に関係なく権限ある当局に事件を付託することが求められること、その意味で引渡しに優先順位はおかれておらず、引渡しと訴追の関係は独立した関係にあること、また、引渡しの請求を受けた場合、かかる請求を受け入れることで訴追の義務から自己を解放することは許容されること、を導き出している。
著者
吉澤 文寿 太田 修 浅野 豊美 長澤 裕子 李 東俊 金 鉉洙 薦田 真由美 金 慶南 金 恩貞 李 洋秀 山本 興生 ミン ジフン 成田 千尋 李 承宰 李 洸昊 金 崇培
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

この研究では、日韓国交正常化問題資料の整理及び刊行作業を行った。そして、日本、韓国、米国などの公文書館、資料館で収集した資料を用いて、韓国からの研究者の協力を得て、研究会、パネルディスカッション、シンポジウムを開催した。その結果、日韓国交正常化交渉で議論された請求権および歴史認識問題に関する論点について、国交正常化以後の時期を含めた展開を視野に入れつつ、日米韓三国それぞれの立場から、相応の責任が生じているという一定の見通しを提示することができた。
著者
高橋 正平
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は17世紀英国におけるピューリタン説教家による火薬陰謀事件説教である。火薬陰謀事件は1605年11月5日国会開会中にカトリック教の過激派ジェズイットによるジェームズ一世暗殺未遂事件である。従来火薬陰謀事件説教は英国国教会派の説教家によって事件後毎年11月5日に行われていた。英国国教会派説教家による火薬陰謀事件説教については科研費による研究として行ったがその研究過程で私はピューリタン説教家も火薬陰謀事件説教を行っていることを知った。1640年代にピューリタン説教家も11月5日に記念説教を行うことになった。しかし、ピューリタン説教家は英国国教会派説教家とは著しい違いを見せる。英国国教会派説教はジェームズ一世体制擁護のために王賞賛、カトリック教批判に集中する。これに対してピューリタン説教家は新しい社会建設が彼らの目的であるためジェームズ一世及び息子チャールズ一世を批判する。彼らにはもはや王賞賛、体制維持の姿勢は見られない。彼らにとって時の王チャールズ一世打倒による共和国樹立が急務となるが父ジェームズ一世を賞賛することはない。ピューリタン説教家の事件日における説教は事件よりもチャールズ一世体制打破を直接論ずるのである。たとえば彼らは王党派との各地での戦いでの勝利を聴衆に確約し、また勝利をおさめればその記念に戦勝記念説教をも行う。本研究では英国国教会派説教家 William Barlowe, Lancelot Andrewes, John Donne等から始め、その後ピューリタン説教家による説教へと転じ、 Cornerius Burges,John Strickland,William Spurstowe, Mathew Newcomen等の火薬陰謀事件説教を論ずることによって両派の相違、ピューリタン説教家による火薬陰謀事件説教の真の目的の解明にあたった。
著者
石井 忠夫
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.71-84, 2010-04-01

情報化社会においてソフトウェアの迅速で妥当な開発技術が強く求められているが,その要求に答えるにはソフトウェア開発方法の見直しが必要である。その1つの方法として,構成的プログラミングの考えに基づいてソフトウェアの仕様からその妥当性の検証とプログラムの導出を同時に実現し,更に,順次に追加される仕様の要求に対して,ソフトウェアを内部で矛盾を解消しながら拡大・発展させる見方がある。本稿では,このような枠組みの中で必要となる仕様からプログラムを導出するための定理証明プログラムを構成的型理論に基づいてRuby言語を用いて試作した。
著者
Ruddick Michael
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.11-29, 2010-04-01

The textbook is one of the most prevalent educational tool used in the classroom. Because of the high exposure to textbooks that students experience,care should be taken with regards to any kind of bias or possible destructive elements that might be found. One such element is sexism.This paper is a gender study of a text book,used in a senior high school in Japan,which uncovers many aspects of sexism. The paper shows that women in the English Language textbook Reward Starter (Greenall,1997)are less visible than men as characters,and are portrayed in stereotypical roles with regards to occupations and the family. A suggestion is made for a student/class evaluation of the textbook using the methodology provided in this investigation."It should not be assumed that people are aware of the ideological dimensions of their own practice. Ideologies built into conventions may be more or less naturalized and automatized, and people may find it difficult to comprehend that their normal practices could have specific ideological investments"(Fairclough :2006,90).
著者
安藤 潤
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.57-76, 2004-03-22

本稿の目的は、米国経済において防衛部門経済から民生部門経済への外部性効果が存在するのかを、Mueller and Atesogluモデルを用いて実証分析を行って検証すると同時に、同モデルの実用性を評価することである。2000年実質価格の年次データ及び四半期データによる38本の推定結果から、1970〜2003年の年次データで推定した場合を除き、同モデルの推定結果のパフォーマンスは非常に悪く、その有用性には疑問を呈さざるを得ない。
著者
近藤 進
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.105-115, 2013-04

地上波テレビ放送がデジタル化された。この機会に、新潟県での、アナログ放送停波の認知、デジタル機器の買い換えを含む普及状況について調査した。当初デジタルへの変更は鈍かったが、アナログ停波が近づくしたがって急速に普及した。
著者
吉田 博
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.135-142, 2007-05-30
被引用文献数
1

地域経済の振興、地域イメージを向上させていく方法として地域ブランドの確立がある。ここでは、その一例として、岩手県の県都盛岡市で推進している盛岡特産品ブランドの認証制度の導入と、より多くの人々に認証品が認知され、浸透していくための展開方法について考察した。盛岡市には、南部藩の伝統を継承する南部鉄器や南部染の伝統工芸品、庶民に親しまれる南部せんべい、わんこそば等全国的にも広く知れ渡っている特産品があるが、より多くの優れた特産品をブランドとして認証し、個々の商品はもとより、盛岡産品全体の価値・信用を高めていくために盛岡特産品ブランドの確立を目指している。
著者
臼井 陽一郎 市川 顕 小山 晶子 小林 正英 小松崎 利明 武田 健 東野 篤子 福海 さやか 松尾 秀哉 吉沢 晃
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

(1)先行研究のレビューを進めるとともに、海外学会(英国EU学会など)に参加、さらにブリュッセルなどヨーロッパ諸国で実務者および海外研究者にアクセス、インタビューを実施するなかで、本研究課題に関わる研究状況をサーベイし、<EUの規範パワーの持続性>という研究テーマの意義およびアクチュアリティについて再確認できた。規範パワー論はEU政治研究においていまだ<終わった>研究課題ではなかった。(2)研究会を3回実施(関学大・東海大・新潟国際情報大)、理論枠組と役割分担の微調整を行った。また4名の研究協力者に参加してもらい、理論枠組と実証事例の整合性について批判的視点を加えてもらった。この一連の研究会の結果、規範パワーたろうとする加盟国首脳の政治意思と、EUの対外関係にみられる4つの制度的特徴(マルチアクターシップ・シンクロナイゼーション・リーガライゼーション・メインストリーミング)の関係性をどう理論的に突き詰めていくかについて、メンバー間に意見の不一致があることが分かり、今後の理論的討究の課題が浮き彫りとなった。それは大きくは、合理主義アプローチに依拠した因果関係として仮説化していくべきか、それとも構成主義アプローチに依拠した構造化プロセスの把握を目指していくべきなのか、という二つのアプローチの対抗関係であり、次年度の研究会で詰めていくべき課題となった。なお4年後の研究成果発表のため、メンバーそれぞれの研究課題を仮題として章立てを作り、出版社を決め、出版へ向けた交渉に入った。
著者
槻木 公一
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.205-219, 2005-03-22

The spread of the Internet enables an individual to exchange abundant information across between companies or other individuals, and space-time. Now, it is the time when an individual becomes the leading role and asks for individualization of various services. Japanese tour style changes from a party tour to an independent tour, and a tourist also asks for individualized service. In this paper, the virtual tour space model corresponding to each tourist is described, and the Webbase architecture is proposed as structure of a tourism information system, which supports the whole action cycle over each tourist seamlessly.
著者
池田 嘉郎
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-7, 2007-05-30

本稿では、ロバート・サーヴィスの「レーニン」とエレーヌ・カレール=ダンコースの「レーニンとは何だったか」という、近年邦訳の出た二つのレーニン論を素材にして、ソ連期ロシア史研究の今後の可能性についての考察を行なう。サーヴィスの著作が、ロシア史の特殊な文脈を極力離れて議論を展開しようとするのに対して、カレール=ダンコースの著作は、ロシアの政治家としてのレーニンに一貫してこだわっている。本稿の筆者は、後者の姿勢により大きな可能性があると考えるものである。本稿の構成を示すと、史料状況・研究動向を概観した後、1)レーニンのパーソナリティ、2)レーニンとソ連体制の歴史的位置づけ、の2点について、両著作の内容を検討する。
著者
安藤 潤
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.21-32, 2013-04

本論文は、共稼ぎ夫婦の間で家事労働時間分担に関するジェンダー・ディスプレイが発生しているのかを実証的に検証した。通常、このジェンダー・ディスプレイの実証分析は個票データを用いた多変量解析によって行われるのに対し、本論文は、まずジェンダー・ディスプレイを家事生産アプローチから理論的に説明し、かつ、2006 年1月に実施したアンケート調査の結果から得られた理想と現実の家事労働時間分担比率に関するデータを用いた平均値の差の検定によってジェンダー・ディスプレイを実証的に検証したという点で、この分野における分析手法上の貢献が見られる。その実証分析の結果から、夫と妻の間で家事労働時間分担に関してはジェンダー・ディスプレイが発生し、夫が理想の家事労働時間分担比率よりも小さな比率しか担っていないのに対し、妻の家事労働時間分担比率は合理的な時間配分を行った場合よりもはるかに大きくなっており、したがってその効用が大きく低下しているものと考えられる。