- 著者
-
鹿内 啓子
- 出版者
- 日本グループ・ダイナミックス学会
- 雑誌
- 実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, no.1, pp.37-46, 1984-08-20 (Released:2010-11-26)
- 参考文献数
- 14
- 被引用文献数
-
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本研究の目的は, 自分がある課題を遂行して成功または失敗を経験した後に他者の成績情報が与えられた場合, その因果帰属に対して自己の成績およびself-esteemがどのような影響を及ぼすかを検討することである。そして次のような仮説をたてた。自分が失敗した時には, self-esteemの高い者 (高SE群) は高いself-esteemを維持するために相対的に他者を低く評価し, 他者の成功を外的要因に, 失敗を内的要因に帰属するであろう。他方self-esteemの低い者 (低SE群) は失敗によって自己評価を低めるので, 相対的に他者を高く評価し, 他者の成功を内的に, 失敗を外的に帰属するであろう。自分が成功した場合には, それが自己評価に及ぼす影響に関して相反する二つの方向のものが考えられるので, 仮説はたてられなかった。被験者は女子大学生であり, 質問紙によるself-esteemの測定の結果, 高SE群と低SE群各30名を選んだ。まず被験者自身にアナグラム課題を4試行遂行させ, 成功条件では全試行で成功し, 失敗条件では全試行で失敗するよう操作した。各試行および全試行全体の成績に対して能力, 努力, 問題の難しさ, 運および調子のそれぞれがどの程度影響していたかを7点評定させて因果帰属を測定した。その後, 同じ課題での他の大学生の成績であると教示して, 4名の他者の成績を知らせ, 自己の場合と同様に因果帰属を求めた。4名のうち2名は全試行で成功し, 他の2名は全試行で失敗している。最後に実験の目的と成功・失敗の操作について説明した。主な結果は次のようなものであった。1. 自分が失敗した時には, 高SE群よりも低SE群が他者の成功を内的に帰属し, 他者の失敗については逆に高SE群のほうが内的要因により強く帰属した。これは仮説を支持するものであった。2. 自分が成功した時には, 内的要因でも外的要因でもself-esteemの影響はみられなかった。3. 自他の因果帰属の差異に関しては, 自己よりも他者の成功が, また他者より自己の失敗が能力により強く帰属され, 運へは他者の失敗のほうが強く帰属された。これは, 自己の成績については控え目な帰属を, 他者のそれについては望ましい帰属をする傾向を示すものであり, public esteemによって解釈された。