著者
清水 裕
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.21-32, 1994-07-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
26
被引用文献数
4 1

From the past studies which have examined the influence of negative mood upon helping behavior, the results are inconsistent and the extent to which the result can explain are not clear.This research has focused upon the decrease of self-esteem after failure experience and examined the functional similarity between failure situateon and a helping scene that is encountered afterwards, assuming that helping depends upon its “instrumentality”in order to recover decreased self-esteem.In the first study, a helping scene was set as to search for a contact lens that a confederate assumed to lose. The recovery of self-esteem after the helping behavior was higher when preceded by a failure experience that has harmed the confederate than after a negative self-evaluation. This suggests the existence of instrumentality of help.In the second study, several helping scenes were set and the influence of failure experience upon “intention of behavior”was examined.Functional similarity between preceding failure situation and helping scene had great influence, but the “instrumentality”affected the “intention of behavior”only when the “instrumentality”was perceived over at a certain level.
著者
松本 芳之 木島 恒一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.111-123, 2002
被引用文献数
2

本研究の目的は, 大学の卒業予定者男子314名, 女子95名の就職活動に関する報告記述を内容分析することで, 自己呈示の戦略目標を同定することにある。予備分析で得た9個のカテゴリー (意欲, 自尊心, 自発的活動, 事前準備, 自己統制, 率直さ, 自己説明, 積極的応答, 運) を用いた内容分析の得点を対応分析で要約した後, 個々の記述をクラスタ分析した。その結果, 3つの異なる自己呈示の戦略目標が存在することが示唆された。すなわち, 応募者は, 採用側の要求に見合うだけの有能さを印象づけるか, 面接場面を巧みに処理できる積極さを印象づけるか, 自らの現状を率直に述べることのできる誠実さを印象づけるかという, 異なる目標に従って自己呈示するのである。応募者は, 面接者にこれらの望ましいイメージを与えるために, 一連の行動を選択し, 実行すると考えられるのである。最後に, それぞれの戦略の意味と今後の検討課題を考察した。
著者
日比野 愛子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.82-93, 2016

<p>本研究は,実験道具の発展とともに歩んだ生命科学実験室の集合体の変化に迫ったものである。AFM(原子間力顕微鏡)という先端装置は,生物学に応用されていく中で,今後の発展の見込みが計算しにくい,テクノロジカル・プラトー(道具-組織のシステムが保っている一時的な均衡状態)にいたっていた。本研究では,このプラトーがいかなる構造によって成り立ちうるのかを明らかにすることをねらいとする。方法として,国内の生命科学実験室を中心とした生命科学集合体へのエスノグラフィ調査を実施した。回顧の語りからAFMと実験室が発展する経緯を分析した結果,手段であった装置が目的となり,さらに手段へと戻るプロセスを通じてプラトーにいたったことが示された。一方,実験室とそれをとりまく関係者を対象とした共時的な観察や聞き取りからは,プラトーの渦中における装置の意味の重なりとアイデンティティのゆらぎが見出された。以上をもとに,考察では,プラトーを下支えする力に注目し,そこに現代生命科学の市場的性質がかかわっていることを論じた。</p>
著者
土屋 耕治
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.70-81, 2016
被引用文献数
1

<p>本論考では,組織開発における組織診断が組織のその後の経過に与える影響について事例を用いて検討し,組織診断という働きかけがどのようなプロセスで組織の「時間」に影響を与えるかを論じた。組織開発における組織診断とは,何が,どのように起こっているのかという組織の行動と現状を組織自身が理解することを目指して行われる。組織診断とフィードバック,その後のフォローアップの事例におけるアンケートから,組織診断が組織のダイナミックスへ与える影響が考察された。具体的には,組織診断とフィードバックにより,組織の「今」をどう捉えるのかという共通認識が生成されたこと,また,フォローアップのインタビューとアンケートの結果から,組織診断後に協力的コミュニケーションの兆しが見られたことが示唆された。最後に,組織診断とその後の組織内の対話を経て,組織の時間的展望が生成され,それがモラールへ影響したという視点で今回の事例が考察された。具体的には,時間的展望の発達が個々人の主体性・能動性に繋がったという視点と,時間的展望が問題意識を共有する成員を結びつける形で協力的コミュニケーションに繋がったという視点から考察された。</p>
著者
藪内 稔
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.57-65, 1986-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
20

Howard (1966) のPDディレンマに対する解の定式化は条件付方略のいくつかのレベルを許す“メタゲーム”の概念に基づくものである。プレヤーBがプレヤーAの方略に対して反応するとき, これはメタゲームBGを形成する。メタゲームBGにおいては結果 (d, d/d) だけが均衡である。ここにAがcを選ぶならばx/y=x, Aがdを選ぶならばx/y=yである。AがAの方略選択に対するBの反応に対処して方略を策定する場合, これはメタゲームABGを形成する。メタゲームABGにおいては (c, c) と (d, d) がメタ均衡であり, これらはGにおいて安定的であり得る。本研究の目的は, 仮定された相手側プレヤー (プレヤーB) の可能な方略選択に対する被験者 (プレヤーA) の反応を検討し, メタゲーム理論による予測を評価することにある。159名の被験者は5つの利得行列のいずれかに無作為に割付けられた。各利得条件において, 被験者の課題は, 質問紙によって表された基本ゲームG場面, 4つのメタゲームAG場面, および4つの拡張されたメタゲームABG場面に対して, cまたはdを選択することである。主な結果は以下のとおりである。(2) 基本ゲームG場面, およびすべてのメタゲームAG場面においては, 利得行列の如何によらず, ほとんどの被験者がdをためらわずに選択した。(2) 拡張されたメタゲームABG場面においては, 利得行列の如何にかかわらず, 仮定された相手側プレヤーBがc/dを選択したとき, かつそのときに限り, 多くの被験者はcを選択し, 結果 (c, c) を安定的であると期待している。これらの結果は, 高次なレベルに至る相互期待として定義される共有期待 (mutual expectation) が, プレヤー相互が互いの行動を調整するうえに重要であることを示唆するものである。
著者
廣兼 孝信 吉田 寿夫
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.117-124, 1984-02-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
14

本研究は, 印象形成における手がかりの優位性の様相が, 推測されるパーソナリティの次元や認知者および刺激人物の性によつてどのように異なるかについて検討することを目的に計画された。手がかりとしては, 顔, 声, 体格, 服装の4つを用い, 1人の評定者にこれら4つの単一手がかり条件と, 4つの手がかりすべてを同時に含んだ全体手がかり条件のもとで, 同一の複数の刺激人物のパーソナリティについて評定させた。そして, 各単一手がかりによる評定結果と全体手がかりによる評定結果のプロフィールの類似度を表わす相関係数をもって各手がかりの優位性の指標とした。このような方法によって得られた主な結果は, 次のようなものである。1. 一般に, 声による手がかりが最も優位であり, 顔や服装による手がかりがそれに続き, 体格による手がかりの優位性が最も低かった。2. 印象を形成する対象の性により手がかりの優位性の様相は異なっており, 相手が男性である場合には顔が, 女性である場合には声が最も優位性が高かった。
著者
浅井 千秋
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.174-184, 2004

本研究では,専門重要性と専門効力感が専門コミットメントを規定し,組織サポートと組織からの評価が組織コミットメントを規定し,職務複雑性と職場への適応が職務モチベーションを規定するという仮説が設定され,さらに,専門コミットメント,組織コミットメント,職務モチベーションの3つの態度間にも因果関係が設定された。そして,これらの仮説に基づいて構造モデルが構成された。派遣技術者133人に対する質問紙調査のデータを用いた共分散構造分析によって,このモデルの妥当性を検討した結果,専門コミットメントには,専門重要性と職務モチベーションからの正の影響が見られ,組織コミットメントには,組織サポート,組織からの評価,職務モチベーションからの正の影響が見られ,職務モチベーションには,職務複雑性,専門コミットメント,組織コミットメントからの正の影響が見られた。本研究の結果から,派遣技術者が有する専門志向の態度は,彼らの仕事に対する動機づけに強い影響を与えていることが示唆された。<br>
著者
相馬 敏彦 山内 隆久 浦 光博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.75-84, 2003
被引用文献数
2

本研究では,恋愛・結婚関係における排他性が,そのパートナーとの葛藤時への対処行動選択に与える影響が検討された。我々は,恋愛・結婚関係における排他性の高さが,関係での葛藤時に,個人にとって適応的な対処行動の選択を抑制すると予測した。調査は,恋愛・結婚パートナーを有する社会人108名を対象に行われた。被験者は,パートナーとそれ以外の9の対象からの知覚されたサポート尺度と,パートナーとの葛藤時の対処行動尺度に回答した。分析の結果,予測通り,パートナー以外のサポート源からもサポートを知覚できた排他性の低い者は,交際期間の長い場合には建設的に対処し,一方排他性の高い者は,交際期間が長い場合に建設的な対処行動を抑制しやすいことが示された。この結果から,排他性がそのメンバーの不適応を導く可能性が論じられた。<br>
著者
野波 寬 土屋 博樹 桜井 国俊
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1211, (Released:2014-03-28)
参考文献数
36
被引用文献数
2 4

正当性とは,公共政策に対する自他の決定権について,人々が何らかの理由・価値をもとに評価する承認可能性と定義される。本研究では沖縄県における在日米軍基地政策を取り上げ,これに深く関わる当事者と関与の浅い非当事者との間で,NIMBY 問題における政策の決定権をめぐる多様なアクターの正当性とその規定因を検討した。正当性の規定因としては信頼性と法規性に焦点を当てた。当事者は精密な情報処理への動機づけが高いため,信頼性から正当性評価への影響は,評価対象のアクターごとに変化すると考えられる。これに対して非当事者は,各アクターの正当性を周辺的手がかりにもとづいて判断するため,一律的に信頼性と法規性が規定因になると仮定された。これらの仮説は支持されたが,その一方で非当事者ではNIMBY 構造に関する情報の獲得により,自己利益の維持を目指して特定アクターの正当性を承認する戦略的思考の発生が指摘された。以上を踏まえ,公共政策をめぐるアクター間の合意形成を権利構造のフレームから検証する理論的視点について論じた。
著者
鹿内 啓子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.37-46, 1984-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
14
被引用文献数
3 4

本研究の目的は, 自分がある課題を遂行して成功または失敗を経験した後に他者の成績情報が与えられた場合, その因果帰属に対して自己の成績およびself-esteemがどのような影響を及ぼすかを検討することである。そして次のような仮説をたてた。自分が失敗した時には, self-esteemの高い者 (高SE群) は高いself-esteemを維持するために相対的に他者を低く評価し, 他者の成功を外的要因に, 失敗を内的要因に帰属するであろう。他方self-esteemの低い者 (低SE群) は失敗によって自己評価を低めるので, 相対的に他者を高く評価し, 他者の成功を内的に, 失敗を外的に帰属するであろう。自分が成功した場合には, それが自己評価に及ぼす影響に関して相反する二つの方向のものが考えられるので, 仮説はたてられなかった。被験者は女子大学生であり, 質問紙によるself-esteemの測定の結果, 高SE群と低SE群各30名を選んだ。まず被験者自身にアナグラム課題を4試行遂行させ, 成功条件では全試行で成功し, 失敗条件では全試行で失敗するよう操作した。各試行および全試行全体の成績に対して能力, 努力, 問題の難しさ, 運および調子のそれぞれがどの程度影響していたかを7点評定させて因果帰属を測定した。その後, 同じ課題での他の大学生の成績であると教示して, 4名の他者の成績を知らせ, 自己の場合と同様に因果帰属を求めた。4名のうち2名は全試行で成功し, 他の2名は全試行で失敗している。最後に実験の目的と成功・失敗の操作について説明した。主な結果は次のようなものであった。1. 自分が失敗した時には, 高SE群よりも低SE群が他者の成功を内的に帰属し, 他者の失敗については逆に高SE群のほうが内的要因により強く帰属した。これは仮説を支持するものであった。2. 自分が成功した時には, 内的要因でも外的要因でもself-esteemの影響はみられなかった。3. 自他の因果帰属の差異に関しては, 自己よりも他者の成功が, また他者より自己の失敗が能力により強く帰属され, 運へは他者の失敗のほうが強く帰属された。これは, 自己の成績については控え目な帰属を, 他者のそれについては望ましい帰属をする傾向を示すものであり, public esteemによって解釈された。