著者
鈴木 雄大 山川 樹 坂本 真士
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2021, (Released:2022-03-16)
参考文献数
12

本研究では,感情的視点取得(i.e., 他者の視点にたって,その人の感情を想像すること)と認知的視点取得(i.e., 他者の視点にたって,その人の考えを想像すること)を区別し,これらを他者にされたと知覚すること(i.e., 被感情的視点取得の知覚と被認知的視点取得の知覚)が被共感の知覚に及ぼす影響を検討した。参加者は自身の意見を述べるエッセイを書くよう求められ,それを読んだ別の参加者(実際には存在しなかった)が感情的視点取得および認知的視点取得をしたかどうかがフィードバックされた。その結果,被感情的視点取得の知覚および被認知的視点取得の知覚は,ともに被共感の知覚を促進することが示された。ただし,被共感の知覚を生じさせるかどうか検討したところ,被感情的視点取得の知覚のみが被共感の知覚を生じさせることが示唆された。他者に感情的視点取得および認知的視点取得をされることの効果について考察した。
著者
渥美 公秀 杉万 俊夫 森 永壽 八ツ塚 一郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.218-231, 1995-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
3
被引用文献数
2 1

本研究は, 1995年1月17日午前5時46分に発生した阪神大震災の被災地・被災者を救援するために組織された2つのボランティア組織-西宮ボランティアネットワークと阪神大震災地元NGO救援連絡会議-について参与観察法を用いて検討したものである。まず, 各組織の成立過程, および, 活動内容の概略を紹介した。次に, ボランティアに関する一般的な考察を行った上で, 両組織を災害救援における広域トライアングルモデルを用いて比較考察した。両組織には, 地元行政との関係, および, 将来への展望において明確な違いが見られた。
著者
岡本 卓也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.26-36, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

本研究は既存集団のもとへ他の集団(参入集団)が参入した時,既存集団成員が内集団の影響力を過小評価することを確認し,この過小評価の発生量の規定要因として内集団アイデンティティ(内集団Id)と共通内集団アイデンティティ(共通集団Id)の効果を明らかにした。実験1では,実験参加者36名から12個の3人集団を構成し,半数を既存集団に,残りを参入集団に割り当てた。集団ごとにある課題について討議・決定させた後,既存-参入集団を組み合わせた6人集団(上位集団)を構成し,再度同一課題について意思決定を求めた。その結果,既存集団は参入集団に比べて再決定時の自分達の影響力を過小評価していた。実験2では参入集団をサクラが演じ,49名の参加者を全て既存集団とし内集団Id(高・低)と共通集団Id(形成・無し)を操作した。その結果内集団Id高群で影響力の過小評価が認められた。共通集団Idの高さは過小評価の発生には影響を与えず,相手集団との対立度を低く認知させた。両実験の結果に基づき,既存集団における影響力の過小評価および対立度の認知と集団Idとの関係について考察した。
著者
宮崎 弦太
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.60-70, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
18
被引用文献数
1

親密関係では共同規範に従った恩恵の授受を行うことが理想とされる。本研究は,我々は親密関係において常に共同規範を遵守するわけではなく,関係相手の応答性に応じて共同規範を柔軟に調節していること,また,そのプロセスが愛着不安によって調整されることを検討した。2つの調査(調査1の参加者は150名,調査2の参加者は188名)の結果,親密関係において相手が自分に対して非応答的であった過去の出来事を想起した人は,想起しなかった人よりも,共同規範を弱めていた。ただし,愛着不安の強い人は,恋人の非応答性を想起すると共同規範を強めていた。これらの結果は,親密関係におけるリスク制御という点から考察された。
著者
八ッ塚 一郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.103-119, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

日本社会における「ボランティア」と「NPO」の普及・興隆という現象を,社会的現実の生成と変容のプロセスとみなし,社会的表象論に依拠してその機制を検討した。各々の語を含む新聞記事の量の経年的変化を検討したところ,いずれの語も記事量を増大させていた。さらに,各々の語について,助詞を付して用いられる比率を算出する「助詞分析」を試みた。ボランティアは,阪神大震災以前には高かった主語としての用法の比率を,震災後には相対的に低下させていた。一方,NPOでは,主語としての使用比率は一貫して高かった。このことから,NPOは,生成の渦中にあるものの,社会的現実としては未だ単調であり,生活世界にとって疎遠であることが示唆された。それに対しボランティアは,震災を契機にその多層性を確立し,豊かな意味をもつ社会的現実として,生活世界の細部へと浸透しつつある。このことは記事内容に関する分析によっても支持された。2つの社会的現実について今後の変容可能性を展望するとともに,新聞記事を活用した分析技法について,社会的表象論に基づく展開の方向性を考察した。
著者
山中 咲耶 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.141-149, 2014 (Released:2014-03-18)
参考文献数
19
被引用文献数
2

本研究では,他者の面前におけるパフォーマンスの抑制メカニズムについて認知的,感情的側面に着目して検討した。本研究で想定したメカニズムは,課題遂行中に目標とする水準を達成できていないと認知することによって,感情体験が上昇する結果,さらなるパフォーマンスの悪化が生じる,というものである。実験の結果,課題遂行時に自己の成績が目標よりも劣っていると認知した遂行者は,認知後の成績が低下し,自己報告による感情得点が高くなった。一方,自己の成績が目標よりも優れていると認知したものは,成績の変化は見られず,感情得点は低下した。以上の結果より,本研究で想定したパフォーマンスの抑制メカニズムは概ね支持された。なお,行動指標と主観的に報告された感情指標の変化傾向が概ね一致した一方で,生理指標は時間推移に沿った変化しか示されなかった。生理指標の変化傾向が,失敗数,感情指標と一致しなかったことより,生理的覚醒が直接的にパフォーマンスを抑制するわけでなく,状況へのネガティブな認知と感情体験の上昇がパフォーマンスに影響する可能性が示唆された。
著者
渡辺 匠 唐沢 かおり 大髙 瑞郁
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.11-20, 2011 (Released:2011-08-30)
参考文献数
30
被引用文献数
4

本研究では,家族介護と公的介護に対する選好度の規定要因および関係性について検討を行った。一般成人331人を対象とした調査研究の結果,家族介護意識が家族介護・公的介護に対する選好度を規定していること,および,両者の選好度の間には背反的な関係があることが明らかになった。具体的には,調査対象者が被介護者の立場に立って回答した際に,家族介護への選好は介護サービス等の公的介護の利用抑制につながり,介護への態度が公的介護導入を制限する要因になることが認められた。一方,家族介護に伴う負担の懸念が高い場合は公的介護利用を志向して,介護サービスに対する税金使用への賛意が高まることが示唆された。しかし,以上の仮説モデルは心理的負債感によって調整されており,心理的負債感が低い人は返報義務を感じにくいために,介護受容における選択的選好や公的介護を利用する上での積極的関与が観察されなかった。以上の結果に基づき,介護選択と介護政策に対する態度の関連性や,介護受容における家族介護意識と心理的負債感の役割について議論した。
著者
矢守 克也 飯尾 能久 城下 英行
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2009, (Released:2020-12-24)
参考文献数
42
被引用文献数
3

巨大災害による被害,新型感染症の世界的蔓延など,科学(サイエンス)と社会の関係の問い直しを迫られる出来事が近年相次いでいる。本研究は,このような現状を踏まえて,地震学をめぐる科学コミュニケーションを事例に,「オープンサイエンス」を鍵概念として科学と社会の関係の再構築を試みようとしたものである。本リサーチでは,大学の付属研究施設である地震観測所を地震学のサイエンスミュージアム(博物館施設)としても機能させることを目指して,10年間にわたって実施してきたアクションリサーチについて報告する。具体的には,「阿武山サポーター」とよばれる市民ボランティアが,ミュージアムの展示内容に関する「解説・観覧」,地震活動の「観測・観察」,および,その結果得られた地震データ等の「解析・解読」,以上3つの側面で地震学に「参加」するための仕組みを作り上げた。以上を踏まえて,「学ぶ」ことを中心とした,従来,「アウトリーチ」と称されてきた科学コミュニケーションだけでなく,科学者と市民が地震学を「(共に)なす」ことを伴う,言いかえれば,「シチズンサイエンス」として行われる科学コミュニケーションを実現することが,地震学を「オープンサイエンス」として社会に定着させるためには必要であることを指摘した。
著者
平川 真 深田 博己 樋口 匡貴
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.15-24, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本研究の目的は,Brown and Levinson(1987)のポライトネス理論に立脚し,要求表現の使い分けに及ぼす社会的距離,社会的地位,要求量の影響について検討することであった。本研究では,要求表現の丁寧度と間接度を区別し3要因の影響を検討するとともに,理論の重要な媒介変数であるフェイスに対する脅威度の認知を取り上げ,理論の検討を試みた。265名の大学生に対して場面想定法による実験を行った結果,3要因の認知が高まると丁寧な表現が使用されることが明らかとなったが,3要因の認知は使用される要求表現の間接度には影響を及ぼさないことが示された。また,その影響過程については,Brown and Levinson(1987)の見解とは異なり,社会的距離,社会的地位の認知に関しては直接影響を及ぼす過程も存在することが示された。本研究で得られた結果は,3要因が要求表現の使い分けに影響を及ぼすというBrown and Levinson(1987)の主張の根幹を支持するものであったが,影響を及ぼす次元やその影響過程については理論の妥当性に疑問を投げかけ,再考を促すものであった。
著者
伊藤 君男
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.137-146, 2002-04-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
20
被引用文献数
4 3 1

本研究の目的は, ヒューリスティック-システマティック・モデル (Chaiken, 1986) に基づき, 説得的メッセージのヒューリスティック処理とシステマティック処理との加算効果と減弱効果に対する関与の程度の影響を検討するものである。実験は関与 (高・中・低) ・論拠の質 (強・弱) ・説得者の信憑性 (高・低) を操作して行った。実験の結果, 話題への関与が高い場合には, 説得効果は論拠の質のみの影響を受けたのに対して, 話題への関与が中程度の場合には, 論拠の質と説得者の信憑性の影響が共に認められた。また, 話題への関与が低い場合には, 説得効果は説得者の信憑性のみの影響を受けていた。これらの結果より, 高関与はヒューリスティック処理の影響を減弱させる効果を導き, 中関与はヒューリスティック処理とシステマティック処理の加算効果を導くことが示唆された。
著者
田端 拓哉 池上 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.75-88, 2015 (Released:2015-03-26)
参考文献数
50

自尊心の研究はさまざまな自尊心調節機制が相互に代替可能であることを示唆している。人はある領域で自尊心が脅かされてもその領域とは関連しない領域でその脅威に対処することができる。このことから,能力次元における自尊心への脅威は,集団成員性の活性化および所属集団の実体性を高く認知することによる所属感の強化を引き起こしうると考えた。この予測を検討するため,大学生を対象に,想起法(研究1)と課題フィードバック法(研究2)を用いて自尊心への脅威の水準を操作する2つの実験を行った。実験1では,能力次元における自己評価が脅威を受けると,脅威を受けない場合に比べて,個人がかかわるあらゆる集団の実体性評価を高めることが,高特性自尊心者についてのみ示された。一方,実験2ではそのような集団実体性評価の高揚が特性自尊心の水準にかかわらず示された。これらの結果から,自尊心維持機制における領域間補償の一般化可能性が論じられた。
著者
相馬 敏彦 浦 光博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-16, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
45
被引用文献数
2 1 2

本研究では,親密な関係における特別観が関係の相手に対する行動にどのような影響を及ぼすのかを検討した。大学生474名を対象とする調査研究を行った。親密な関係での特別観は関係内での協調的な志向性を高め,他方非協調的な志向性を抑制することが示された。さらに,特別観が協調的・非協調的志向性に及ぼす影響は,相互依存諸変数(代替肢の質,満足度,投資量,コミットメント)が志向性に及ぼす影響と独立したものであることも示された。これらの結果より,親密な関係に対して強い特別観をもつ者は非協調的な行動がとれないことが示唆された。親密な関係における特別観がその当事者に不適応を生じさせる可能性について議論した。
著者
坂田 桐子 藤本 光平 高口 央
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.109-121, 2005 (Released:2006-02-18)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

本研究では,リーダーの影響力の「強さ」と「範囲」に及ぼす集団プロトタイプ性の効果について検討した。仮説は次の通りである。(1)集団同一視の高い参加者群において,集団プロトタイプ性の高いリーダーの方が低いリーダーより承認されるであろう。(2)高プロトタイプ・リーダーの影響力が,ある外集団との比較による脱個人化された社会的魅力に由来することを考慮すると,高プロトタイプ・リーダーが低プロトタイプ・リーダーの影響力を上回るのは,その外集団と関連する課題に従事する場合だけであろう。ただし,外集団関連課題における高プロトタイプ・リーダーの影響力は,たとえフォロワーの意向に沿わない指示であっても応諾させるほど強いであろう。実験参加者124名に他集団との対立状況を描いたシナリオを呈示し,質問紙への回答を求めた。その結果,直接的な応諾度指標ではなく,間接的な応諾度指標について,仮説は概ね支持された。本研究の結果の一部は,社会的アイデンティティ理論や自己カテゴリー化理論の視座からの予測とは必ずしも一致しないものであった。最後に,本研究の知見の解釈,本研究の限界,および今後の課題について考察した。
著者
宮本 匠 渥美 公秀 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.35-44, 2012
被引用文献数
1

研究者と研究対象の間に一線を画して,対象を客観的に記述しようとする自然科学に対して,人間科学は研究者と当事者による恊働的実践として進められるが故に,アクションリサーチとしての性格を宿している。本稿は,人間科学のアクションリサーチにおいて研究者がとる独特な視点とその役割を,新潟県中越地震の被災地で継続しているアクションリサーチの事例から理論的に明らかにしたものである。その際,大澤(2005)による,柳田國男の遠野物語拾遺の説話についての解釈を援用し,われわれの経験の社会的構成が「言語の水準」と「身体の水準」による複層的な構成をとっていること,それが当事者の「個人の内的な世界」と当事者の内属する「共同体の社会構造」の両者に存在していることを述べたうえで,当事者の「身体の水準」に留まっている他者性を回復させることでベターメントを図ることが人間科学のアクションリサーチにおける研究者の役割であり,その二重の複層的な構成をみる「巫女の視点」が人間科学のアクションリサーチにおいて研究者がとる視点であることを論じた。最後に,アクションリサーチにおける研究者は,その実践過程を言語によって回顧的に報告し,次の実践やさらなる共同体のベターメントへつなげていくところまでを射程としていることを指摘した。<br>
著者
岩谷 舟真 村本 由紀子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1602, (Released:2017-06-07)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

本研究の目的は,多元的無知の先行因を検討することである。具体的には,「集団メンバーの行動を観察したとき,その行動が彼ら自身の選好と反していると推測する者ほど,却って当該行動の『規範性』を認知し,それに沿って振る舞う」という仮説を検討した。研究1では大学生の時間厳守規範に焦点を当てて通時的調査を行い,仮説に合致する現象を確認した。研究2では,実験室実験によって当該現象の生起プロセスをより精緻に検証した。参加者は5人1組で実験室に入り,2種類の水を試飲して品質の評定を行うという課題をひとりずつ順番に行った。このとき,すべての参加者が,自分は4番目に配置されていると信じており,先行する3人が「不味い」水を「より高品質である」として選択する様子を観察した。結果,「先行の参加者は(前の人に合わせて)個人的選好と反する行動をしている」と推測する者ほど,当該の行動の規範性を知覚しており,それゆえに自らも規範に沿って振る舞う(「不味い」水を選択する)ことが示された。
著者
道家 瑠見子 村田 光二
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.150-158, 2009 (Released:2009-03-26)
参考文献数
28
被引用文献数
3 3

本研究は,僅差の失敗では予期的後悔が経験後悔よりも過大推測され,インパクト・バイアスが見られることを示したGilbert et al.(2004)の研究を追試し,先行研究と同様の結果を追認した。加えて,本研究では失敗の直後と10分後の2時点で後悔を測定し,後悔の持続時間のインパクト・バイアスについても検討した。参加者は,魅力的な賞品の当たるクイズに参加し,僅差,もしくは大差ではずれた場合の後悔の程度を予測,または報告させた。その際,半数の参加者にはクイズにはずれた直後と10分後の後悔の程度を予期させた。残りの半分の参加者には,直後と10分後に実際に経験した後悔の程度を回答させた。その結果,予想していた通り,クイズにはずれた直後も10分後も僅差条件では,経験後悔よりも予期的後悔の方が程度が大きく,インパクト・バイアスが見られた。他方,大差条件では,経験後悔と予期的後悔の間には差が認められず,インパクト・バイアスが見られなかった。時間経過に伴い,予期的後悔も経験後悔もクイズにはずれた10分後には直後よりも強度が弱まっていた。考察では後悔の持続時間のインパクト・バイアスとそれが消失する条件について議論した。
著者
沼崎 誠
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.14-22, 1995
被引用文献数
1

セルフ・ハンディキャッピングが, セルフ・ハンディキャッパーの能力に関連する受け手の知覚と受け手のセルフ・ハンディキャッパーに対する好意とに与える効果を検討するために, 2つの実験室実験を行った。2つの実験とも, 獲得的セルフ・ハンディキャッピングの有無と主張的セルフ・ハンディキャッピングの有無が操作された。獲得的セルフ・ハンディキャッピングはセルフ・ハンディキャッパーの遂行成績を低く知覚させたが, セルフ・ハンディキャッパーの能力やセルフ・ハンディキャッパーに対する好意には影響を与えなかった。遂行成績が低く知覚された結果は, ハンディがあることにより, 受け手が遂行成績が低くなると期待したために生じ, そこから割り引き原理が働いたことにより, 能力知覚には影響しなかったと考えられる。一方, 主張的セルフ・ハンディキャッピングはセルフ・ハンディキャッパーに対する好意を低下させたが, セルフ・ハンディキャッパーの能力に関連する知覚には影響を与えなかった。これらの結果は, 印象操作方略としてのセルフ・ハンディキャッピングが, 受け手に対してはネガティブな効果を持ちやすく, ポジティブな効果が少ないことを示唆するものである。
著者
尾関 美喜 天野 正博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-11, 2017 (Released:2017-09-07)
参考文献数
18

人々の日常会話における噂話は時として風評被害をもたらすことがある。本研究は,友人間における食品に関するこのような噂話の機能を明らかにすることを目的とした。312名の女性が,牛乳から放射能が検出されたという情報を1)ニュースで聞いた 2)知らない人によるTwitterの投稿 3)親しい友人から聞いた,3つの架空のシナリオのいずれかの場合について,その情報についてうわさの機能や属性を評価する尺度(竹中,2013)に回答した。この結果,人々はニュースから得られた情報を信頼性のあるものとして友人との会話に用いていることが示唆された。
著者
仙波 亮一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.105-116, 2018 (Released:2018-03-03)
参考文献数
35

本研究の目的は,どのような要因が労働者の自我脅威の知覚に影響を及ぼし,その後どのような対処方略に結びつくのかを自己愛タイプ別に明らかにすることである。本稿では,まず分析1として,自己本位性脅威モデルに基づいて,どのような要因が労働者の自我脅威の知覚に影響を及ぼし,その後どのような対処方略に結びつくのかを複数のモデルを設定し,共分散構造分析により検討した。その結果,相対的自己評価と自己概念の明確性を要因として含むモデルは,それを含めないモデルよりも適合度が低く,自我脅威が対人恐怖心性および組織機能阻害行動に影響を及ぼすことを仮定したモデルが採用された。次に分析2では,分析1で採用されたモデルについて,労働者を自己愛タイプ(自己主張性タイプ,注目・賞賛欲求タイプ,優越感・有能感タイプ)に分類し,自我脅威がどのような対処方略と結びつくのかを複数の母集団に対して共分散構造分析を用いて検討した。その結果,すべての自己愛タイプにおいて自我脅威は対人恐怖心性へ正の影響を及ぼしており,自己主張性タイプでは,組織機能阻害行動へ正の影響を及ぼしていた。