著者
永田 素彦 吉岡 崇仁 大川 智船
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.170-179, 2010 (Released:2010-02-20)
参考文献数
18

環境開発における住民参加手法の一つとして,シナリオアンケートを開発し実施した。シナリオアンケートは,環境開発がもたらす環境の多様な属性の変化についての自然科学的情報を提供し,かつ,それらの環境の属性の変化に対する人々の選好および複数の環境開発シナリオへの相対的支持率を明らかにすることができるアンケート手法である。シナリオアンケートの開発にあたっては,社会科学者と自然科学者が緊密に連携した。開発したシナリオアンケートは,研究フィールドである北海道幌加内町の朱鞠内湖集水域を対象地域として,幌加内町住民を対象として実施した。コンジョイント分析の結果,森林伐採がもたらす水質悪化や植生の変化が最も懸念されていることが明らかになった。最後に,シナリオアンケートの,環境開発における住民参加への貢献可能性について考察した。
著者
藤本 学
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.79-90, 2011 (Released:2012-03-24)
参考文献数
39

本研究は,会話者の発話行動の独自性を明らかにするために,話者役割説を理論的背景とする発話行動生起プロセスについて検討を行った。コミュニケーション行動の規定因として,コミュニケーション参与スタイルに注目した。さらに調整変数として,対人的状況要因であるソシオメトリック・ステータスと,コミュニケーション参与スタイルの集団内メンバー構成を取り上げた。小集団討議実験を実施し,諸変数の関連性について検討を行った結果,集団内メンバー構成を考慮することによって,コミュニケーション参与スタイルは仮説どおり,実際の発話行動を予測することが確認された。また,ソシオメトリック・ステータスは調整変数ではなく,発言頻度に影響を及ぼす独立変数であることが明らかとなった。これらの知見は話者役割説の立場を支持する一方で,発話行動生起プロセスに関するモデルに対して修正を迫るものであった。
著者
髙尾 堅司 石盛 真徳 金政 祐司 谷口 淳一 岸本 渉
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.1-14, 2005 (Released:2005-08-26)
参考文献数
45

本研究では,社会的状況が人々の状況に対する満足度の規定因に及ぼす影響を検討した。模擬社会ゲーム(SIMSOC)を用いて,大学生を対象に実験を行った。模擬社会においては,2つの富裕地域(緑地域・黄地域)と2つの困窮した地域(青地域・赤地域)がある。参加者は,4つの地域にランダムに振り分けられた。各セッション後,参加者は地域内における決定手続きの公正さ,地域内の分配の均等さ,地域間の保有資源の均等さ,さらに状況に対する満足度についての評定を求められた。その結果,状況への満足度において時期と地域の交互作用が認められ,状況への満足度は状況要因と地域要因によって影響を受けることが明らかになった。この結果は,状況に対する満足度は状況要因と地域要因によって異なっていることを示している。
著者
浅井 千秋
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.174-184, 2004 (Released:2004-04-16)
参考文献数
43

本研究では,専門重要性と専門効力感が専門コミットメントを規定し,組織サポートと組織からの評価が組織コミットメントを規定し,職務複雑性と職場への適応が職務モチベーションを規定するという仮説が設定され,さらに,専門コミットメント,組織コミットメント,職務モチベーションの3つの態度間にも因果関係が設定された。そして,これらの仮説に基づいて構造モデルが構成された。派遣技術者133人に対する質問紙調査のデータを用いた共分散構造分析によって,このモデルの妥当性を検討した結果,専門コミットメントには,専門重要性と職務モチベーションからの正の影響が見られ,組織コミットメントには,組織サポート,組織からの評価,職務モチベーションからの正の影響が見られ,職務モチベーションには,職務複雑性,専門コミットメント,組織コミットメントからの正の影響が見られた。本研究の結果から,派遣技術者が有する専門志向の態度は,彼らの仕事に対する動機づけに強い影響を与えていることが示唆された。
著者
松本 芳之 木島 恒一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.111-123, 2002-04-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
30
被引用文献数
1 2

本研究の目的は, 大学の卒業予定者男子314名, 女子95名の就職活動に関する報告記述を内容分析することで, 自己呈示の戦略目標を同定することにある。予備分析で得た9個のカテゴリー (意欲, 自尊心, 自発的活動, 事前準備, 自己統制, 率直さ, 自己説明, 積極的応答, 運) を用いた内容分析の得点を対応分析で要約した後, 個々の記述をクラスタ分析した。その結果, 3つの異なる自己呈示の戦略目標が存在することが示唆された。すなわち, 応募者は, 採用側の要求に見合うだけの有能さを印象づけるか, 面接場面を巧みに処理できる積極さを印象づけるか, 自らの現状を率直に述べることのできる誠実さを印象づけるかという, 異なる目標に従って自己呈示するのである。応募者は, 面接者にこれらの望ましいイメージを与えるために, 一連の行動を選択し, 実行すると考えられるのである。最後に, それぞれの戦略の意味と今後の検討課題を考察した。
著者
森下 雅子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.162-172, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本稿では,「共振」という概念を用い,フィールドワークが何を意味するのかということを探究する。ここでの「共振」とは,調査者とフィールドとの間に成立していると観察される相互関係を指す。それは必ずしも同調ではなく,むしろ多層・多面的に共同構築される現実の政治的な現れ方であり,葛藤・軋轢を経て相互の変容をもたらしたり,あるいはそれらが背景となり現実をつくったりする。 本稿ではこの概念を利用し,地域の日本語支援現場における筆者自身の体験に基づきながら,(a)フィールドワークの再定義,(b)フィールドワークの過程における自身の変容,(c)フィールドエントリーを通じて見えてきた種々の境界,さらに,(d)フィールドにおける行為者のポジションとその変化に伴う「共振」,について議論する。その上で,フィールドワークというのは集合的な学習経験であり,そのプロセスの中で学習を阻む特定の問題を協働で可視化しているのだということを,事例報告を交えながら示す。
著者
黒川 雅幸 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.45-57, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
35
被引用文献数
3 2

本研究の目的は,小学校5・6年生を対象に,授業の班活動における仲間の効果と個人の集団透過性の効果を明らかにすることであった。個人の集団透過性とは,仲間集団以外の学級成員と相互作用することに対する態度を示す概念である。分散分析の結果,仲間が同じ班にいる場合はいない場合よりも,学習活動は明るく,優しい雰囲気のもとで行われ,さらに班成員から受けるサポートは多いことが示された。女子では,同じ班に仲間がいる場合はいない場合よりも,学習活動は規律ある雰囲気のもとで行われ,授業への集中や活動への意欲的な態度は高いことが示されたのに対して,男子ではそのような結果はみられなかった。個人の集団透過性が高い児童の方が低い児童よりも,明るく,優しい雰囲気のもとで学習活動を行っており,班成員から受けるサポートは多いことが示された。さらに,個人の集団透過性が高い児童の方が低い児童よりも,規律ある雰囲気のもとで学習活動を行っており,授業への集中や授業への意欲的な態度も高いことが示された。
著者
深町 珠由 伊藤 由香 中川 正宣 前川 眞一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.123-139, 2004 (Released:2004-04-16)
参考文献数
22

従来の相互作用論におけるパーソナリティは質問紙法で測定され,動態的相互作用という時系列変化過程を測定していなかった。本研究は,コンピュータ制御による相手との相互作用過程から動態的個人特性を測定し,従来の質問紙法による静態的指標と比較した。課題では,コンピュータ内の相手が反省エネ行動を繰り返し行う中で,被験者に省エネ行動と相手との友好関係維持という二律背反の目標を与えた。対人協調・非協調行動と対人友好感情評定値の時系列変化を測定し,この2変数相関を個人で求めて動態的個人特性とみなし,得点から高・低群に分類し,各群の代表的時系列特徴を主成分分析で求めた。実験条件には,相手が反省エネ行動を反復することを共通として,相手の攻撃的口調条件と非攻撃的口調条件とを設定した。結果として,対人友好感情評定値の時系列変化が動態的特性の高・低群と各実験条件とで変化傾向が異なり,相手の表面上の口調の影響と,口調と反復される反省エネ行動との一致感の認知の影響を受け,それが時間経過で変化する傾向が示された。動態的指標と静態的指標とを比較したところ,実験条件を通じて一貫した相関は確認されず,動態的指標が質問紙法で測定できない独自の個人特性を表現している点が示された。今後も動態的相互作用に基づく個人特性の測定研究が多くなされる必要がある。
著者
岡本 香 高橋 超
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.85-97, 2006 (Released:2006-12-28)
参考文献数
18
被引用文献数
3 1

本研究は,コミュニケーション相手との親密度が高い群と低い群におけるメディア・コミュニケーション観の差異を,3種類のコミュニケーション形態(対面,携帯電話,携帯メール)で比較検討した。実験は,大学生の男女301名を対象に,質問紙を用いて行った。その結果,対人緊張,親和感情,情報伝達という3つのメディア・コミュニケーション観因子が抽出された。また,2(親密度:高群,低群)×3(コミュニケーション形態)の分散分析の結果,親密度高群と低群とのメディア・コミュニケーション観の差は,コミュニケーション形態ごとに異なることが明らかになった。さらに,親密度の違いによって,メディア・コミュニケーション観因子の因果関係が異なることが明らかになった。この結果から,メディア・コミュニケーション評価を測定する際には,コミュニケーション相手を特定することが必要であるといえる。
著者
遠藤 由美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.134-145, 2008 (Released:2008-03-19)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

関係者に対し共通した効果をもたらすような状況を共有状況と呼ぶ。人は時に,そのような共有状況が他者よりも自分に対してより強く影響すると判断する。本研究では,このような判断バイアスが自己中心性に由来するものか,もしそうであるなら,それは比較判断過程においてどのように作用するかを検討した。研究1では,大学生を対象とした試験に関する共有状況についての実験において,直接法による自己の相対順位判断で判断バイアスが認められ,他者にとっての有利・不利よりも自分への影響に注目する傾向がみられた。研究2においては,自己・他者への影響の絶対判断ではどちらも同程度とみなし均衡していたが,直接相対判断では自分により大きく影響するという判断バイアスが認められた。また,自己と他者に対して各状況の影響があると判断した後に直接法により相対順位への影響を判断する場合は,バイアスの大きさは縮小するが,なおも有意な効果が認められた。このような結果に対して,共有状況についての社会的比較判断をおこなう際に,自己中心性がはたしている役割の観点から考察が加えられた。
著者
谷辺 哲史 唐沢 かおり
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.10-21, 2021 (Released:2021-10-16)
参考文献数
28

本研究は自動運転車による交通事故を題材として,人工知能が人間に危害を与えたときの原因と責任の帰属を検討した。自動運転車が歩行者を轢いて死亡させるというシナリオを提示し,自動車のメーカーとユーザーに対する原因帰属と責任帰属の判断を求めた。人工知能への原因帰属はメーカー,ユーザーへの原因帰属と正の関連を示し,さらに,自律的な機械に意図などの心の機能があると知覚する傾向が高い人ほど,メーカーに事故の原因を帰属した。これらの結果から,人工知能が高い自律性を備えたとしても,人間から独立した行為主体として認知されるわけではないことが示された。また,問題責任(問題を発生させたことへの責任)の帰属はメーカー,ユーザーそれぞれへの原因帰属によって規定されたが,メーカーの解決責任(生じた問題を解決する義務)の帰属は人工知能への原因帰属とも関連しており,原因の所在とは別に開発者という立場ゆえに問題に対処する義務があると判断されることが明らかになった。最後に,人工知能の開発・利用に関する制度設計を議論するために,一般の人々の態度について実証的な知見を得ることの意義を議論した。
著者
黒川 雅幸 本庄 勝 三島 浩路
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1907, (Released:2020-03-14)
参考文献数
27
被引用文献数
4

本研究の目的は,高校生・高専生用スマートフォン利用によるインターネット依存傾向尺度を作成することであった。高校生および高専生371名を対象に,オンライン調査を実施した。そのうちの134名は,再検査信頼性を確かめるために,約1か月後に2回目のオンライン調査に回答してもらった。また,1回目のオンライン調査に協力してもらった人のうち,109名に対してスマートフォン利用の実測値の測定を約2週間行った。スマートフォン利用によるインターネット依存傾向尺度は,4因子38項目から構成された。4つの因子は,中毒性のある情緒問題を引き起こす「情緒」,やめようと思ってもできない「統制不全」,実生活を犠牲にしてでもスマートフォンの使用を優先する「スマートフォン誘因」,ソーシャルメディアによって承認を求めようとする「承認欲求」であった。尺度得点は安定しており,再検査信頼性は高いことが示された。また,実測値の測定により,土日における1日あたりの利用が600分以上の人は,200分未満の人よりも「統制不全」や「スマートフォン誘因」が高かった。さらに,いずれの下位尺度も依存の自覚症状や抑うつと正の相関があることも示され,妥当性を備えた尺度であることが示された。
著者
酒井 明子 渥美 公秀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.74-88, 2020 (Released:2020-03-10)
参考文献数
37
被引用文献数
3 1

本研究は,災害という大きな困難に直面した被災者が新たな安定状態を回復する過程に着目した質的研究である。災害時の心理的ストレスは,単線的な心理的回復過程が暗黙のうちに前提とされている。しかし,今日の大規模な災害による被害の甚大さや避難所・応急仮設住宅の設置期間の長期化等は,大切な家族や住み慣れた家を失い生きる意欲を失った人々や自力で生活展望を考えることが困難な高齢者の孤立死や自殺,閉じこもり問題を加速化させており,心理的回復過程も長期化し複雑さを増していると考える。そこで,本研究では,東日本大震災後7年間の心理的回復過程を被災者の語りから分析した。その結果,被災者の心理的変化の特徴は6つのパターンに分類された。また,心理的回復過程には,潜在的な要因及びストレスを慢性化させる要因が影響していた。そして,個々の被災者の心理的変化ラインの時間軸を重ね合わせた結果,1年目,4年目,7年目の回復過程には調査回によって異なる特徴が見出せた。これらの結果を踏まえ,慢性化する可能性のあるストレスを抱えた被災者の長期的な心理的変化と影響要因について論じた。
著者
中山 由紀子 松本 芳之
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.61-68, 2007 (Released:2008-01-10)
参考文献数
13

本研究は,コンピュータの音声ガイドが使用者に及ぼす影響を検証したものである。音声ガイドのあるコンピュータは自律的に作動し,使用者の課題に対する統制感を低下させるため,リアクタンスを経験する。そこで,使用者は統制感を維持するために,コンピュータの評価を低め,課題の失敗を外的要因,特にコンピュータに帰属するであろう。この考え方が実験で検証された。66名の男女大学生からなる被験者は,質問形式の問題を提示され,回答とは無関係に成功,失敗のフィードバックを受けた。文字呈示条件では,テキストは画面上に表示された。音声ガイド条件では,画面表示に加え,テキストは合成音声で読み上げられた。仮説通り,音声ガイド条件の被験者は,コンピュータに対する評価を低下させた。しかしながら,被験者が失敗すると,文字呈示条件では次回は成功すると予測したのに対し,音声ガイド条件では成功を予測しなかった。この結果は,統制感の低下を反映したものであると解釈された。
著者
川西 千弘
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-10, 2011 (Released:2011-08-30)
参考文献数
18

本研究の目的は,好ましい顔と好ましくない顔の認知的表象における構造的特性の相違を探ることであった。92名の女子大学生が実験に参加し,4人の刺激人物(好ましい顔の刺激人物2名と好ましくない顔の刺激人物2名)について,各々15個の行動(好ましい行動5個,好ましくない行動5個及び中立的な行動5個)をする可能性を評定した。その結果,好ましい顔の人物がポジティブ行動をする可能性のほうが,好ましくない顔の人物がネガティブ行動をする可能性より高いというポジティビティ・バイアスが確認された。また,多次元尺度法の分析から,好ましい顔におけるポジティブ行動情報間のほうが好ましくない顔におけるネガティブ情報間より緊密に体制化されていることが示された。
著者
繁桝 江里 村上 史朗
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.52-62, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
22

本研究は,安全行動を促進する要因として,仕事のやり方や態度に対して否定的な評価を示す言語コミュニケーションである「職務遂行に対するネガティブ・フィードバック(以後職務NFと表記)」を受けることの効果に着目し,化学プラントの研究員に対する質問紙調査による検討を行った。第1の目的として,職務NFの安全行動促進効果を職務NFの形態間や安全会話など他のコミュニケーションとの比較において検討した結果,安全職務に対するNF,一般職務に対するNFのアドバイス型,指摘型の順に効果があるが,不満型には効果がないことが示された。また,安全職務に対するNFは,安全会話とは独立の最も強い効果を持っていた。さらに,第2の目的として,職務NFは効用を持つ一方で,受け手への脅威というネガティブな効果を持つという議論に基づき,NFがもたらすフェイス脅威度に着目し職務NFが機能する条件を検討した。その結果,送り手が親しいという関係特性や,送り手の不満は含まれないというメッセージ特性の効果に加え,職場の組織風土が,より強くフェイス脅威度を弱めていた。考察では,安全マネジメントにおいてNFという特定のコミュニケーションに着目する意義や,組織風土の重要性を論じた。
著者
野呂 千鶴子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.125-136, 2013 (Released:2013-03-09)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

本研究では市町村合併を経験した保健師集団を対象に,環境変化とともにその活動システムが変化する過程を追跡することを目的とした。研究方法はインタビュー調査を用い,活動理論を参考に分析を行った。その結果,次の3点が明らかになった。1)合併前は,地域に出向き住民に出会う活動を展開してきた「周辺市町村活動システム」と法で課せられた活動を展開してきた「中心市活動システム」に分類できた。2)合併調整では,全市統一した活動を行う方針となったが,これが既存システムとの間でダブルバインドになった。3)合併後の「合併混乱期活動システム」は,ダブルバインドの突破をめざし「住民」を対象とした活動を模索する中で,保健師の専門能力として求められている「地域診断とそれに基づくビジョンの策定」を改めて意識することになった。以上より,この環境変化は,組織や人口規模に柔軟に対応できる,保健師の専門能力を意識した活動システム創出のための拡張的学習のプロセスだったと言える。